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2020年04月20日

国民の恐怖に全く無関心 コロナが暴いた安倍首相のヤバい資質




国民の恐怖に全く無関心

コロナが暴いた安倍首相の ヤバい資質





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野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問

コロナウイルス禍で、様々な事がアカラサマに為った。政治家の資質もそうだ。一方の極に、明確な哲学に基づき感動的な言葉で国民に犠牲と協力を求め、政府が行う事を約束したドイツ首相のメルケル。そして、もう一方の極には・・・国民の恐怖に全く無関心な指導者の存在が在る。

危機に当たって国民の先頭に立ったエリザベス1世

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 国が存亡の危機に直面した時、先頭に立って国民を奮い立たせた指導者は、歴史上何人も居る。1588年7月、イングランド沖にスペイン無敵艦隊が、イングランドに神の鉄槌を下すべくその威容を現した。エリザベス女王は、捕らえられて火炙りにされる事を覚悟したに違い無い。彼女は、鎧に身を固め、捕虜に為る危険を冒して最前線に赴き全軍の先頭に立った。そして、歴史に残る演説(ティルベリー演説)を行なった。

我が愛する民よ(My loving people) 貴方達の中で生き、そして死ぬ為に、戦いの熱気の真っ只中に私は来た。例え塵に為ろうとも・・・我が神、我が王国、我が民、我が名誉、そして我が血の為に!

 これを聞いた兵士達は、例え死んでも悔いは無いと思ったに違い無い。

国民に犠牲を求め、政府の役割を約束したメルケル

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 ドイツ首相のメルケルは、3月18日に、実に感動的でしかも明確な内容の演説を行なった。先ず、

「全ての国民の皆さんが、この課題を自分の任務として理解された為らば、この課題は達成される、私はそう確信して居ます。ですから申し上げます。事態は深刻です。(中略)第2次世界大戦以来、我が国に於いてこれ程迄に一致団結を要する挑戦は無かったのです」 と、問題の深刻さを規定した。そして、継ぎに 「公的な生活を中止すること」 が必要だとした。但し、
「理性と将来を見据えた判断を持って国家が機能し続ける様、供給は引き続き確保され、可能な限り多くの経済活動が維持出来る様にします」 とした。

 更に 「経済的影響を緩和させる為、そして何よりも皆さんの職場が確保される様、連邦政府は出来る限りの事をして好きます。企業と従業員がこの困難な試練を乗越える為に必要なものを支援して行きます。そして安心して頂きたいのは、食糧の供給に着いては心配無用であり、スーパーの棚が1日で空に為ったとしても直ぐに補充される」 と、政府の役割を約束した。
 最後に 「私達がどれ程脆弱であるか、どれ程他者の思い遣り在る行動に依存して居るかと云う事、それと同時に、私達が協力し合う事でいかにお互いを守り、強める事が出来るかと云う事です。状況は深刻で未解決ですが、お互いが規律を遵守し、実行する事で状況は変わって行くでしょう」 とした。

 今国家の指導者が為すべき事は 「この危機と恐怖に耐え抜いて欲しい、私も全力を尽くす」 と自分の言葉で訴える事だ。メルケルのこの演説は、全てのドイツ国民の心を動かすものだった。こうした指導者を持つドイツ国民を、心底羨ましく思う。言葉だけでは無い。ドイツの医療は機能し続けて居り、死亡率は欧米諸国の中で目立って低い。

「私は犬を抱いて自宅で寛いで居るよ」

 それに比べて、我が国の首相は何をしたか? 4月12日「私は犬を抱いて自宅で寛いで居るよ」と云う動画が「うちで踊ろう」と云う音楽と共にSNSに流された。これを見た多くの国民は「コレが本当に首相の投稿で在る筈は無い。悪質なフェイクだ」と思った。「何か月も前に撮影されたものを、首相を中傷する為、誰かが、今そうして居るかの様に投稿したのだ」と思った。
 しかし、これは本当に首相が流したものだった。在り得ない事ではないか? 我々は、今極限の恐怖の中に居る。医療が崩壊しつつ有るので、コロナに感染したらどう扱われるか分から無い。これは、底知れぬ恐怖だ。

 持病が悪化しても、恐くて病院に行け無い。医療関係者他ちは、医療崩壊寸前の現場で必死の努力を続けて居る。在宅勤務せよと政府は言っているが、満員電車で通勤しなくては為ら無い人が沢山居る。収入が激減したので、これから生活を維持出来るかどうか分から無い。メルケルが正しく指摘して居る様に、これは、第2次大戦以降、経験した事が無かった事態だ。
 そうした中で、最高権力者とその周りの人々だけが、この恐怖から逃れて居る。コロナは誰にも平等と云うが、感染した場合の扱われ方は違う。彼等は、熱が出ても保健所に連絡して指示を受ける必要は無いだろう。そうし無くとも手厚く看護される。そして、所得減少は歳費削減2割だけだ。

 国民が極限の恐怖に直面する中で、恐怖を全く感じて居ない人達が居ると云う事が良く分かった。私の友人が2月下旬に言った。「コロナに感染するなら早い方が好い。入院出来るから。医療が崩壊 してからでは放置される」そして、「権力者はこの恐怖は理解出来無いだろう」と言った。余りに恐ろしい予言なので何とか忘れ様として居たが、思い出してしまった。
 「うちで踊ろう」と云うのだが、今の日本で踊りたく為る人が一体何人居るのだろう? 国家が破綻するかも知れないと云う事態に於いて、犬を抱いて寛いで居られる人が居る。それは冷厳たる事実だ。しかし、塗炭の苦しみに喘ぐ国民にその姿をワザワザ見せる必要は無い。

 暴動が起き無いのは、暴動を起こす余裕さえ国民が持って居ないからだ。あのトランプでさえ、戦時大統領だと言って居る。エリザベスやメルケルには比ぶべくも無いが、それでも、寝食を忘れて危機に当たると云うメッセージを国民に送って居るのだ。世界の指導者の中で「私は、今、自宅で優雅に寛いで居ます」と公言した人が居るだろうか?

経済対策 国は国民を見捨てた

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 この首相が率いる政府は、コロナ感染に対して何をして呉れたか? 4月7日に、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が閣議決定された。先ず、布マスクを全家計に配る事とされた。何の為に配るのか? 布マスクは感染拡大を防止があるとは言われて居ないので、これで何が出来るのか? 心理的な安心感か? 
 これに必要な費用は466億円と言われる。遣るべき事は幾らでも有るのに、それに充てる財源が466億円消えて無く為る。こうした政策でも、実行を強いられる現場には大きな負担に為る。そのマイナス効果の方がズッと大きい。

 役所の下っ端で働いた経験から言うと、遣り甲斐の有る仕事なら、ドンなに辛くても耐えられる。しかし、馬鹿気た仕事で深夜2時迄振り回されるのは耐えられ無い。 次に現金給付30万円。これは散々批判を浴びた後、連立与党・公明党の強硬な抗議も在って4月17日に一律10万円給付に異例の変更が行われた。
 ソモソモ、この制度は悪用される危険があった。悪徳経営者なら、先ず所得制限を満たす従業員の給与を減らす。現金給付を受け取らせてその穴埋めをさせる。これだけで巨額の収入!減収証明書の偽造対策を講じると云う。しかし、雇い主が給与を実際に切り下げ、被用者が30万円貰い後で山分けするのは偽造では無い。これにどう対処するのか? 

 現金給付の総額は、3兆円程度と言われる。その多くが、悪賢い人達の懐に入る。困って居る人と損害を受けた人を助けるので無く、悪賢い人達に不当な利益を与える制度に為る。こんな制度が現実に登場し、閣議決定される等信じられ無い。これは、マスク2枚の様にジョークでは済まされ無い問題だ。
 そして、休業要請は自治体に任せるが、政府は範囲拡大には反対した。更に「強制で無く要請だから補償しない」として居る。
 営業自粛しても、家賃、光熱費、維持費は払う必要がある。勿論、従業員の給与もある。関係者まで含めれば、収入減少者の範囲は極めて大きく為る。

 マスクは配ったし、これから30万円配る。営業自粛要請や協力手当は自治体が遣って呉れる。政府は補償金を出さ無い。首相は自宅で寛ぐ。コレが、日本政府が発している明確なメッセージだ。要するに、国民は捨てられたのだ。こうしたメッセージを明確に出して居る国は他に無い。
 繰り返すが、メルケルは「企業と従業員がこの困難な試練を乗越える為に必要なものを支援して好きます」と約束して居るのだ。

首を斬られる時、髭の心配をする政府

 外出減少率は、目標で有る8割には為って居ない。本来であれば、政府は、十分な休業補償金を支出して休業要請をより厳格にし、コロナ感染 の拡大を何としても食い止め無ければ為ら無い。経済を意図的に落ち込ませる一方で、 連鎖倒産防止 の為に全力を尽くさ無ければ為ら無い。今迄経験した事の無かった難しい運営が求められている。これを実行するには、従来とは全く異なる発想が要求される。

 イングランド銀行は、政府の短期国債を直接に引き受ける事に依って、市中にマネーを供給する。巨額の納税猶予や賃金補助を行なうからだ。日本でも、本当は同じ事が必要だ。日本でも、短期国債の日銀引き受け発行は、財政法第5条の下で可能な事だ。何の制度改正も必要無く、政府が決断するだけで出来る。
 だから、休業補償金も、年度内に審査して一部は回収する給付金にすれば、必要なだけ幾らでも給付出来る。それにも関わらず、麻生財務相は「経済対策とプライマリーバランスの関係を考慮する必要がある」とした。
 財政健全化は、平時に於いて重要な目標だ。コレと緊急時の対応を混同しては為ら無い。財政の健全性は、中長期的な観点から必要とされる事だ。現在の様な異常時にそれに拘り、納税猶予や休業補償を中途半端なものにすれば、経済が立ち行か無く為る。

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 今は、全てに優先して感染拡大を防止し無くては為ら無い。黒沢明監督「7人の侍」で、野武士の襲撃から村を守る為、侍を雇おうとする提案を村人達で協議する場面がある。「娘が心配だ」と云う声が上がる。長老は一喝した。「野伏せり来るだぞ! 首が飛ぶつうのに、ヒゲの心配してどうするだ!」今の日本政府の指導者達は、是非、この言葉を思い出して欲しい。

コロナが暴いたもの

 コロナ後の世界(それが実現する事を、何と切望する事だろう)は、今年2月迄の世界の連続では有り得ない。余りに多くの虚構が暴かれてしまったからだ。コロナが去った時、我々は只呆然と立ち竦むだけだろう。コロナ は、様々なものの本当の姿を暴いてしまった。政治家の資質、所得が消滅して行く経済で国が何を無しうるか。権力者が本当は何を考えて居るのか。今年1月の古新聞を見る。アノ頃の世界の、何と平和だった事か。


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野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問



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