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2020年04月20日

「10万円」だけでは弱い 安倍政権は何故「休業補償」をしないのか




「10万円」だけでは弱い

安倍政権は何故 「休業補償」をしないのか


〜現代ビジネス ??橋 洋一 4/20(月) 6:31配信〜


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「1世帯30万円」は理解不能だった

先週末の4月17日、安倍首相のちゃぶ台返しがあった。「所得制限つき、1世帯あたり30万円の現金給付」が覆り 「所得制限なし、1人一律10万円の現金給付」 と為った。これ迄の本コラムの読者であれば、この政策変更は正しいと考える筈だ。筆者は評価する。
 4月7日に閣議決定された緊急経済対策で、1世帯に30万円を所得制限つきで現金給付すると決定したが、余りに不評だった。本コラムでも指摘したが、国民の所得が行政当局に判るのは後1年先である。そうした状況で、個人の所得が低下した事を申告により客観的に判断するのは先ず無理だ。

 総務省による実施要領をみても「世帯主の月間収入(本年2月〜6月の任意の月)が新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、且つ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準と為る低所得世帯を対象とする」など、元役人の筆者から見ても理解不能だった。
 世帯主の収入だけを見れば好いのか「任意の月」とは2月〜6月の5つの内好きなものを選ぶと云う意味で好いのか「年間ベースに引き直す」とはどの様な作業なのか等疑問は尽き無い。こう為ると「言い値」で申請して呉れ、という事に為り、不正申請も多く為るだろうし誰にも正確にチェック出来無く為るだろう。
 詰り「1世帯に30万円を所得制限付きで給付」と云うのは、こうした非常時には不適切な制度だ。それが撤回されたのは、末端の事務的混乱を避ける意味でも必然だったと筆者は思っている。

「これで終わり」では無い

 報道では、公明党の山口那津男代表が安倍首相に強く働きかけたと云う。その結果、4月7日、緊急経済対策の発表と同日に閣議決定された令和2年度補正予算案は、組み換えられる事と為った。
 新聞では「異例」とか「安倍首相の面子丸つぶれ」とか書かれて居るが、制度的に欠陥の有るものをストップした事は、国民に取って好い選択だった。最も、こうした非常事態では簡素でスピーディな制度の方が望ましいので、初めから「所得制限なし、一律10万円」にした方が好かった。
 もともと、安倍首相や山口代表は「一律10万円」派で在ったが、麻生財務相・岸田政調会長と財務省の「所得制限つき一世帯30万円」案に押されてしまった。何れにせよ正されて好かった。

 財務省が「所得制限つき」を主張したのは、表向きは生活に困って居る世帯への支援と云う名目で有るが、実際の理由は所得制限をする事で 予算総額を抑えられる からだ。所得制限つき一世帯30万円では4兆円の国費が必要だが、所得制限なし一律10万円なら 12兆円 に増える。
 何はともあれ、この安倍首相のちゃぶ台返しにより、所謂「真水」が 25兆円程度 に為った。マクロ経済効果としてはこの方が大きい。コロナショックは、最近のIMFの経済見通しに依れば「大恐慌以来」と云われる程だから、対策としてはこちらが望ましい。但し、これで終わりと云う訳にもいか無い。次の経済対策の手を打つ必要がある。何が考えられるのか。

まずは「休業補償」を急げ

 先ず第一には、 休業補償 だ。前提と為るのは、これ迄の7都府県だけで無く全国の都道府県に拡大された緊急事態宣言である。これも4月17日に発表された。安倍首相は、人との接触率を7〜8割減少する様に国民に訴え掛けて居る。
 これは、複雑な数理モデルから導き出される答えであるが、筆者は諸々の現状を考えると、国民への訴えとして妥当な内容と考えている。これに就いては、筆者に評論家の須田慎一郎氏が質問をして居るので、それに答える事として居る。20日以降に、「ニューソク通信社」 https://www.youtube.com/channel/UCf12PYOjXPjX38TFvPNm37g にアップされる筈だ。

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 但し、これを実行する為には、現在の自粛要請の法的根拠である改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法では心許ない。ソモソモ諸外国と異なり、日本では外出禁止を要請しても罰則が無い。民主党政権時代に作られた法律なので、私権制限の側面は殆ど無い。
 それなのに、恰も政府が十分な私権制限が出来る歌謡に改正法を批判して居た人も居たが、今はダンマリだ。緊急事態宣言を出すと、憲法での非常事態条項まで議論が及ぶから、緊急事態宣言をすべきでないといった本末転倒な議論すらあった。そうした人々は何処に消えたのだろうか。
 そうした議論は、現在の様な非常事態では出来無い。と為ると、国民全員に給付金をバラ撒き、協力して貰うしかない。その意味で、全国への緊急事態宣言と、全国民へ一律10万円給付は時宜を得た政策だ。

未だ「緊縮病」は根強い

 一方、企業や事業者は休業自粛で、最早倒産寸前の処も増えて居る。先週の本コラムで、筆者は磯崎陽輔元参院議員の「休業補償したら財政破綻する」とのツイートを批判した。一般論だが、事業が厳しく為ると、事業主は経費を減らそうとする。この時、人件費迄削減すると休業や解雇に繋がる。
 解雇の場合、労働者には失業保険が手当され、休業の場合には事業主に手当に要した費用が雇用調整助成金として支給される。共に、原資は事業主と労働者が雇用保険としてこれ迄毎月支払って来たカネで、雇用を守る為のセーフティネットだ。
 どちらも不正受給はいけ無いが、これ迄労使が雇用保険料を支払い確りと積み上げて来たものであるので、法律に基づくものは大いに活用して好い。

 尚、雇用調整助成金は、ナカナカ審査が通ら無いと云う話もあるが、それではこれ迄何の為に雇用保険料を支払って来たのか。官僚は自らの天下り先には潤沢に資金を使って来たではないか。国民は、そうした事を好く覚えて居るものだ。
 国は未だ休業補償に及び腰であるが、雇用調整助成金の枠組みの中では、或る程度の対応をしようとして居る。これは、経費の内人件費以外の 固定費等に付いては補償したく無い 人件費 の部分はこれ迄労使が支払って来た 雇用保険料で賄う ・・・と云う意思表示だ。
 結局の処、雇用調整助成金は事業主が払って来たにも関わらず、イザと為ると「恵んで遣る」と云うお上目線で、緊縮病のケチケチ根性丸出しなのだ。

10兆円は捻出出来る

 では休業補償には、一体どれ位の金額が必要なのか。大雑把ではあるが考えてみよう。緊急事態宣言の対象は全都道府県に拡大されたが、全国のGDP合計は500兆円。休業要請するのは、経済活動別分類で云えば、宿泊・飲食サービス業、教育、その他のサービスが中心だ。
 それ等の付加価値額が全体の10%程度として、経費と利益を全て補償したとすれば 年間ベース50兆円 。仮に補償期間を3ヵ月として経費率8割とすれば、経費全てを補償する場合、50×0.25×0.8=10兆円 全額で無く8割補償とすれば、必要金額は 8兆円程度 にしか為ら無い。

 この程度であれば、国債を発行し日銀が買いオペ対象にするだけで、インフレを起こす事も無く簡単に捻出出来る。ソモソモ、本コラムで何度も指摘して来た事だが、筆者は「100兆円基金」で在ってもインフレ無しで用意出来ると云う立場なので、非常時に於いては、この程度のカネを用意して政策に使う事は当然だと思っている。
 一方、地方公共団体には、日銀の通貨発行益と云う奥の手は無い。財政余裕度を示す財政調整基金(2018年度末)に付いてベスト5を書けば、東京都は8,428億円だが、大阪府1,489億円、愛知県1,102億円、神奈川591億円、千葉465億円と云う状況で、1兆円を超す支出を地方公共団体に求める事は到底出来無い。

 財政に余力の有る東京都は、1店舗50万円・2点店舗以上の事業者に100万円と休業要請に応じた事業者に給付金を出せる。大阪府は個人事業者に50万円・中小企業に100万円と頑張って居る。隣の兵庫県は、大阪府に倣った様に見える。しかし、個人事業者に最大50万円・中小企業に最大100万円と、何れも「最大」が付いて居る。財政調整基金29億円(全国44位)の兵庫県では、最大で対応するのは難しいだろう。
 地方自治体は夫々頑張って居るが、此処は国の出番だ。政府は緊急経済対策に於いて、地方創生臨時交付金1兆円として居るが、それを10兆円位に増額し、地方自治体の休業補償を支援したら好い。

奥の手もある

 次の一手としては、消費減税も未だ有る。コロナショックが収まる迄経済活動は縮小するだろうから「10万円給付」は今回だけでは無く次も有効な対策である。中小企業向けの持続化給付金・一般企業向けの雇用調整助成金・失業者向けの雇用保険給付等もあるが、筆者としては、消費を戻す為に、その前に消費減税を主張したい。
 ソモソモ、消費増税を昨年10月に遣ら無ければ、ここ迄経済は低迷しなかった。それに安倍首相は「リーマンショック級の事が起こら無ければ消費増税」すると言ったが、実際にリーマンショック級、それ以上の事がコロナショックで起こったのだ。であれば、消費減税をする大義名分がある。安倍首相には思い切った休業補償と消費減税を、次の「ちゃぶ台返し」で打ち出して欲しい。

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 最後に、感染拡大の状況を見て置こう。4月7日の緊急事態宣言の効果が、今後1週間以内に出て来るだろう。その効果を見極めるには、その後更に1週間を要する。そして5月6日以降、宣言が再延長されるかどうかと云う判断に為る。来週の本コラムではどの様な事が言えるのか、今は未だ判らない。


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??橋 洋一 経済学者 以上














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