鏡の中の女に気合が入る。
バスルームを出て部屋に戻る。
クローゼットからバックを取り出し、肩にかける。
姿見に踵を返して、玄関に向かう。
佇む紅いピンヒールに、足を滑り込ませる。
脹脛からお尻までの筋肉が目覚め、身体の芯から力が漲る気がする。
部屋を出て、エレヴェータに乗る。
地下の駐車場までおりる。
来客スペースのレンタカー。
乗り込んでエンジンをかける、二度ふかす。
勢いのまま、地上に飛びだす。
気持ちと裏腹に、物憂げな午後の車列に滑り込む。
ノラリクラリと走る車列、縫うようにして走る。
後ろでクラクションが遠ざかる。
記録になりそうな短時間で、彼女の事務所にたどり着く。
車をとめたときに、懐かしいメロディ。
携帯を取り出す。
画面表示を見なくてもわかる、bishop。
「はい、ワタシです」
こんな時にと思いながらも、反面、タイミング良すぎ、とも思う。
「もう聞いているかな」
「なにを?」
「我々は動けないが、協力はしよう、情報がある」
「どういうこと?」
それには取り合わずに、一方的に話し続ける。
「C団体のビルの近く、解体予定のビル、地図を送る」
「なにを隠してるの?」
「手強い相手だ、気をつけろ」
携帯が切れる。
メールの着信を知らせるメッセージが流れる。
メッセージを開く。
写真と地図のgif画像で、場所を確認する。
そんなに遠くない。
いずれにしても、救出は夜になる。
車を降りて、事務所のあるビルに入る。
事務所の扉の前、インタホンのボタンを押す。
「どちらさま…ですか」
どことなく不安げな秘書の声。
「ワタシです」
言い終わらぬうちに、扉が開く。
秘書が、素早くワタシを招じ入れる。
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