秘書に言う。
「順を追って説明してください」
「はい」
こたえて、男性秘書が説明しはじめる。
状況は、いつもの昼の打ち合わせの後、彼女が食事に向かう。
指示内容をいくつか確認して、いつも食事の後にもう一度打ち合わせて、彼女を見送る。
ところが、彼女がいつまで経っても、食事から戻ってこない。
訝しく思って、いつものレストランに尋ねたところ、今日は見えてないと言われる。
慌てて、ホテルのあちこちを探し回ったが、見当たらないし、見かけた話もない。
やむなく、ロビーに伝言を残して、事務所に戻って議会の中継にかじりつく。
彼女の席が、空席になっているのが映し出される。
慌てているところに、電話がかかる。
先生を預かっていると。騒がずに待っていれば、明日の夕方には無事に戻ると。警察に知らせたり、下手に騒ぐと保証はないと。
ワタシは黙って肯き続ける。
話しているうちに興奮している秘書。
落ち着かせるように静かに言う。
「分かりました、あなた達は、明日の準備を進めてください」
「大丈夫でしょうか?」
「ワタシが、必ず連れ戻します、今夜か、遅くとも明日の朝までには」
扉に向かいかけて、もう一度、二人に声をかける。
「携帯と、ここの電話は、繋がるようにしておいてください」
事務所を出ると、そのまま車に乗り込む。
エンジンをかける、二度ふかして発進する。
頭に入れた地図を思い浮かべて、ハンドルをきる。
目的のビルが近づいてくる。
ビルの周りを、しばらく走りながら、手ごろな駐車スペースを探す。
通りを挟んで少し離れたコインパーキングに、車を滑り込ませる。
シートを少し倒して、リアヴューの角度を合わせる。
ビルの出入り口が、リアヴューに映る。
近くに、例の政治屋に関連する団体のビルがある。
目当ての建物は、解体に向けたビルということで、人気はないが、いきなり乗り込むのも不用心過ぎる。
それに、目下のところ、彼女に危害は加えられないはず。
車の中で、しばらく様子を伺うことにする。
と、人影が出てくる。
サングラスに黒いスーツの男が、携帯で話しながら、ビルから離れていく。
見間違いようはない。
今朝、彼女の事務所に来ていた、あの細身の男、リアヴューから消える。
注意して、車の窓から通りを覗く。
男が、路上駐車の車に乗り込む。
車が走り去る。
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