中山祐次郎の「切って縫うニュース」
腹痛患者への「反跳痛」は?
2018/8/9 中山祐次郎(総合南東北病院外科)
外科医・中山の意見
まず基本的に、腹痛患者が来たら「パッと見」で、汎発性腹膜炎かどうか当たりがつきます。
汎発性腹膜炎、外科医は英語のpanperitonitisからパンペリと呼びますが、多くの外科医はちょっと患者さんを見たらパンペリかどうかすぐにわかるのではないかと思います。
言語化すると、
・ぐったりしている
・ベッドで同じ体位のまま動かない
・顔をしかめ目が閉じかけている
という具合です。
これ、感度はそれほどでもないでしょうが特異度は高いと思います。特異度が高いとrule inできるのでしたね。9割方まず外しません。
そしてここだけの話、こんな顔を見た瞬間に「うーん助手or執刀医に誰呼ぼう」「今日の麻酔科の当番の先生怖くなかったかなあ」「ICUベッド空いてたかなあ」と1秒くらいで思うわけです。
それからファーストコンタクトをした医師のプレゼンをパパーっと聞き、問診をして腹を触ります。
病歴と問診で、私の頭ではほぼ決着がついています。そして、ダメ押しとして腹を触るのです。
パンペリの人は、腹を出すために仰臥位になって服をめくる、その動きができないことも多く、そこでさらにパンペリを疑います。
そしてパッと聴診をしたのちに、「どこが痛いですか?」と聞き、痛くないところからみていきます。
まずは打診ですが、ここで「イタっ!」となることがあります。外科医は打診で腹膜が痛いのか腸管が張って痛いのかほぼわかるので、これだけでパンペリだな、と思うこともあります。
その場合は、もう1カ所くらい打診痛でみたら反跳痛まではやりません。
打診痛を広くやり、炎症を起こしている腹膜の範囲をみるのです。
上腹部だけか、右下だけか、全体か。ただ、これは腹部外科医以外は真似しないほうがいいでしょう。
打診痛がはっきりしないと、今度は圧痛をみます。
これでたいして深く押し込まずに「イタっ!」となったら、やはり腹膜炎だなと思いますね。
ただ、このくらいの痛みのときは反跳痛もきっちり2カ所くらいではやっています。
筋性防御は、基本的に反跳痛より時間的に後から出てきます。
ですから、筋性防御がある患者での、腹部の反跳痛のチェックは無意味です。
圧痛だけでめちゃくちゃ痛いので、反跳痛はむしろわかりにくくなることがあるからです。
ここで注意が必要なのは、100人にひとりくらい、すごく痛みの表現が大きい人がいるということ。
そういう人のときは間違えやすいので注意が必要です。
時間をあけて診察したり、痛み止めを使ってから診たり、他の外科医にも診てもらうなどします。
まとめ
以上、いろんな角度から反跳痛を見てきました。私の現時点での結論は、
腹部の専門家以外は、腹痛を見たら反跳痛をほぼルーチンで行うべき
です。
そしてもう1つ重要な点を。
我々外科医は、常に診察→CT→オペでお腹の中を見る、で答え合わせをし続けています。ですから臨床経験が10年くらいになれば、腹部診察はかなりの精度になります。偉そうで恐縮なのですが、重要なことなので書いておきます。
触診や打診などの腹部診察は、外科医が行う場合とそれ以外の医師の場合で、まったく違う検査である
まあ、そういうことはすべての診療科にあるわけですので、「餅は餅屋」ということです。繰り返しますが、これは外科医と他の科の医師の触診という行為の「違い」を示したもので、「優劣」を話しているわけではありません。
著者プロフィール
2006年鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院外科で初期・後期研修後、同病院で大腸外科医師(非常勤)として勤務。2017年4月から総合南東北病院外科に勤務。消化器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医、マンモグラフィー読影認定医。
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2018年09月05日
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