【不眠症カフェ】　Insomnia Cafe

< 新しい記事

新着記事一覧(全8899件)

過去の記事 >

2008.07.26

ベトナム戦争中のサイゴン　到着初日

(8)

テーマ：考えたこと　想い出したこと　読んだ本(430)

カテゴリ： 🔴 【ベトナム戦争サイゴン駐在時の想い出】

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

サイゴンに到着した夜、すぐに宿舎から出て、夜の散歩をしてみた
その宿舎も、窓際や玄関前には弾丸や砲弾よけのカーキ色に迷彩された土嚢が積み上げられている
戦時色そのものである

ベトナムはフランスの植民地であったから、街並みはフランス風の瀟洒な並木道である
ただし戦時体制下で街灯の点火が制限されていて、道路は薄暗いか、漆黒の闇である
その暗闇の彼方では、米軍が夜間に暗躍するベトコンを威嚇するために、絶えず打ち続けている大砲の響きが「ドーン　ドーン」と腹に響く
そのたびに夜空の底がパッと鈍く輝く

しばらく暗い街路を歩いていると完全武装の兵隊が目についた
近づいてみるとヘルメットに防弾チョッキ、迷彩服、軍靴・・・、それに弾帯を身体にグルグルと巻いている
まるで戦争ゲームのフィギュアみたいなかっこうである
手にはM-16自動ライフルが握られていて、私が近づくと警戒の身振りでライフルを握りなおしている
その兵隊の向こうにはコンクリート製の円筒形の施設が作られていて、ちょうど交番のようなものである
小型トーチカということかもしれない
その中にも兵隊がいて周囲を監視している
その円筒形のトーチカも砂袋で周りを囲まれている
それほどの警戒ぶりなのだ

サイゴンはその前の年、旧暦の正月（語ではテト（テット）と呼ばれる）には、ベトコンと北正規軍が南ベトナム全土で一斉攻勢をかけ、サイゴンにまで進入してきた
激しい市街戦・白兵戦が続き、結局北側は撤退したが、一時はアメリカ大使館まで包囲された
これは後に「テト攻勢」とよばれる

ベトコンと言っても、しょせんは同じベトナム人である
一瞥で区別がつくわけではない
今のイラクならシーア派の居住区とスンニ派の街が分かれている
しかし、ベトコンは普段の生活は一般人の生活をしている
だから、見分けがつかない
そのベトコンが夜間には活発に暗躍して、手に銃をとり、時限プラスティック爆弾をしかけ、時計仕掛けのオレンジ・・・じゃない、ロケット弾をセットしたりする
「昼は南ベトナム政府、夜はベトコンが支配している」
これが実情だったようである
昼と夜とで、白と黒が逆転するオセロゲームの様な世界である
だから、このような厳しい警戒になっている

このチェック・ポイントの前を恐る恐る通る瞬間、私は急に激しい恐怖感に襲われた
一瞬パニックに陥ったのだ
膝がガクガクして，宙を歩くような感覚になった
この時に初めて、あらためて、ここは戦場なのだ・・・という事を思い知った

～～～～～

私たちの宿舎は交差点の角にあって、そこにはチェックポイントがある
警官や兵隊が常駐していて検問するのだ
通りかかるといっても、通る人間はほとんどがホンダに乗っている
ホンダというのはミニバイクの代名詞だ
検問されても止まらないホンダがあると、まず「ピーッ！」と笛が吹かれる
それでも止まらないと、問答無用で「バン　バン　バン」と拳銃またはM-16ライフルで射撃される

はじめは威嚇射撃だが、それでも止まらなければ、本当に打つ
ただ、必ずしも呼び止められているのが自分であるとわからない場合もある

宿舎の自室から、この笛の音と威嚇射撃が一時間に一度ぐらいは聞こえる
自室から１０メートルも離れていない場所である
これにもそのうちに慣れてしまう

～～～～～～～～～

この交差点の向こう側にはパゴダ（仏塔）を持つ仏教寺院があった
ふだんは小乗仏教特有のオレンジ色の衣を羽織った僧侶が出入りする小さな寺院である
この当時、反政府運動に立った仏教界と南ベトナム政府とは、敵対的関係にあった

ある夜、完全武装の部隊がこの寺院を囲んだ
寺院側となんらかのトラブルがあったらしい
夕暮れ近くになるとパゴダに向けて機銃掃射を始めた
数発に一発入っている曳光弾（えいこうだん）が赤いアイスキャンデーのように輝きながらパゴダの中に吸い込まれてゆく
この曳光弾は夜間の射撃の弾道を確認、弾道の修正をはかる機能がある

私は宿舎の前に出て、一連の騒動を興味本位に見物していた
多分それが気にくわなかったのだろう
その部隊の二・三人の兵隊が突然こちらに銃口を向けて撃ち出した
銃弾が路上のコンクリートに当たり、着弾点がパッパッと土煙を上げて直線的に伸びて来た
きわどいところで、私の足下をかすめて宿舎の鉄の門扉に当たった
私もただちに第三者としての立場を反省して、門扉の中に緊急避難した
それでもまだ覗き穴から観戦？した

この戦闘で死者が出たのかどうか？
新聞にも何も報道されなかったから、それはわからないままだった

～～～～～～

開高健のベトナム体験を描いた小説「輝ける闇」
今まで読んでいなかったのだが、取り寄せてみた
なかなか面白そうである
当時のベトナムの臨場感がある
それに開高健と思われる主人公にベトナム人の愛人がいる設定らしい
フィクションかもしれないが、開高健の女性体験を絶えて読んだことがない
興味津々である