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2007.01.09
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カテゴリ: I write
(四)不吉な予感

救急車は病院に到着した。付き添いの駅員が言った。
「私は検査が終わるまでお待ちしておりますので、
お医者様に症状を忌憚なくお伝え下さり、心行くまで
検査していただきますように」
男はたじろいだ。全身を検査してもらうつもりだったが、
検査の挙げ句、何もなかったことがわかったら、
この駅員は何と言うだろう。さっき見た、鋭い視線を
思い出して背筋が冷たくなった。
「あ、え、あぁ、そうします。済みません」
男は、自分が何気なく発した“済みません”が、この駅員に
どういうふうに受け取られるかを考えながら、病院の
エントランスを救急隊員に促されてスルーした。
『どう言おう。ほかにけが人がいないなら、気分が
悪いというだけで救急車を要請したのは行き過ぎと
取られるのは必至で、ややもすると犯罪絡みの事情がある
のではないかと詮索されて、痛くもない腹を探られかねない。
面倒くさいことにならないようにするには……』

男は必死にストーリーを考えた。会社に言い訳ができ、
病院に疑われず、駅員を納得させるストーリーを。

幾ら考えても、整合性のとれるストーリーは男には
思いつかなかった。知識がなさ過ぎた。けがやその症状、
それに対する傷病としての保障の有無など、それまで
そんなことに関係せずに生活してきた男にとって
すべての用件を満たす言い訳をする自信は全くと言って
いいほどなかった。しかし、言い訳のときが刻々とやって
くる。
男は反芻した。これまでに自分が発した言葉を思い返した。
「気分が悪い」「体をひねった」「首が痛いような気がする」
……。男はひらめいた。
『もしも、物理的、医学的な裏付けが得られないので、
明確な診断が下せない、というような、際どくもあいまいな
判断だったときは、日頃のハードワークを理由にしよう。
事故の衝撃により、不安定な精神状態をさらに不安定にさせ、
常日頃持っていた精神面の不安定を助長させたと。
幸いにというか……、自分に運よく、物理的、医学的な根拠が
見つかったときは、極力浮かれた言動を避け、清廉な雰囲気を
前面に押し出し、医者にも駅員にも悪印象を持たれないように
留意しながら手八丁口八丁で何とか切り抜けよう』と。

男はそれまで、「手八丁口八丁」というのは、誠実さがなく、
嘘をつくことをいとわず、その場その場で言い逃れをする
人間の行為を表した言葉だと思っていた。
しかし、切羽詰まった状況になると、少々理解のベクトルが
変わるものだと思った。自分もこれで逃れなければ
ならない局面に接していることがおぼろけながらわかっていた。

しかし男は、「手八丁口八丁」の本当の意味を
この後知ることになる。

                        〈つづく〉





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Last updated  2007.01.10 09:55:28
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