音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年05月08日
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テーマ: 洋楽(3407)




 米国出身のシンガーソングライター、トーリ・エイモス(Tori Amos)が2005年に発表し、ヒットさせたアルバムが本作『ビーキーパー(The Beekeeper)』である。1992年にソロ・アルバム・デビューを果たしてから、スタジオ・アルバムとしては8作目に当たる(ライブ盤を含めると9枚目)。セールス面では、全米チャートでの最高位が5位を記録し、彼女の作品としてはトップ10入りを果たした5作目のアルバムとなった。この結果、5枚以上のアルバムをトップ10に送り込んでいる有名女性シンガーたち(例えばマライア・キャリー、セリーヌ・ディオン、マドンナ、リアン・ライムスなど大物アーティストが名を連ねる)の仲間入りを果たすことになった記念碑的作品である。

 とまあ、セールス面では大きな成功を収めた作品なわけであるが、内容面ではそれまでの諸作とどう違っているのだろうか。筆者の意見では、基本的に大きく変わっていない。幻想的な世界に聴き手を引き込むという、彼女独特の魅力が、1990年代の諸作から変わることなく脈々と続いている。以前の記事で紹介した 『ボーイズ・フォー・ペレイ~炎の女神』 (1996年)との比較で言えば、聴いている時の不安感というものが安心感に変わってきているという印象はある。この印象の違いは、作品ごとのコンセプトの問題というよりは、むしろ、歌の聴かせ方がより丁寧になってきたということのせいであるように思う。以前の彼女の歌い方は、時として自分の世界に深く入り込み、そうすることで聴き手をその世界に引きずりこむという部分があった。それが大きな魅力になっていたことは言うまでもない。だが、これに対し、10年近く後(厳密には『ボーイズ・フォー・ペレイ』の録音は1995年、『ビーキーパー』の録音は2004年なので9年後)の本盤に関しては、自分の世界に入りすぎずに聴き手に歩み寄りながら自分の世界を提示しているという感覚の方が強い。

 とはいえ、そうした変化は枝葉末節と言えるだろう。概して、トーリ・エイモスは、楽曲ごとの仕上がり具合のばらつきが少なく、どれも高いクオリティを維持している。本アルバムはそのクオリティの一定さ(とりわけヴォーカルの安定度)が特に高い水準に出来上がっている。また、彼女のアルバム群は、それぞれのコンセプトを保ちながら、上記のような独特の世界を長時間続けられるところが素晴らしい。すべてのアルバムにもれなく当てはまるというわけではないが、総じて彼女のアルバムは曲数が多く、トータルの収録時間が長いという特徴がある。本作も例外ではなく、収録時間はほぼ80分、曲数にしても19曲という、聴き手にとっては長丁場となり得る収録時間・曲数のはずである。しかし、実際に聴いていると、全然そんな感じがしない。一つの統一された世界が展開されていて、その長さをまったく感じさせないのである。この80分近い『ビーキーパー』も、実際の体感時間としては、60分強のアルバムを聴き終えたような感覚に陥る。

 LP時代からCD時代に移り変わり、アルバム一枚の収録時間が長くなったが、その分、“詰め込み”が目立ち、アルバム制作の密度が薄くなったことが、一般論としてよく指摘される。要するに、40分や50分という収録時間を目途にしていたLP時代ならボツにされた曲も、70分、80分という収録時間の増加によってアルバムに含まれるようになってしまい、結果、アルバムのクオリティ、つまりは楽曲の“厳選度”が下がったという指摘である。一般論としては、確かにそうなのだろうが、トーリ・エイモスはどうも例外のような気がしてならない。既にCD時代となった90年代にソロ・デビューしてきたアーティストというのも一因ではあろうが、根本的に、聴き手を飽きさせない世界を作るのが抜群に上手いということなのだろう。本盤『ビーキーパー』は、単にヒット作というだけでなく、そんな観点からもとりわけ見事な、技ありの一枚だと感じる。




[収録曲]

1. Parasol
2. Sweet the Sting
3. The Power of Orange Knickers (featuring Damien Rice)
4. Jamaica Inn
5. Barons of Suburbia
6. Sleeps with Butterflies
7. General Joy
8. Mother Revolution
9. Ribbons Undone
10. Cars and Guitars
11. Witness
12. Original Sinsuality
13. Ireland
14. The Beekeeper
15. Martha's Foolish Ginger
16. Hoochie Woman
17. Goodbye Pisces
18. Marys of the Sea
19. Toast

2005年リリース。





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Last updated  2010年05月08日 01時17分51秒
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