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今回BNF氏が売却したのは東京・千代田区の「チョムチョム秋葉原」。今から約10年前、2008年に90億円で購入したとされる地下1階、地上10階建ての商業ビルである。売却先は私募リートの「東京海上プライベートリート投資法人」で、ネット上では登記簿の画像も出回った。
まずは売却先である東京海上プライベートリート投資法人に電話取材を試みた。取材に応じた担当者によると、「(元の所有者がBNF氏であるという)物件の特殊性などについては一切考慮していない。個別の案件についてこれ以上コメントすることは控えたい」とのこと。あくまで同社の投資基準を満たした物件であったことが理由だということのようだ。
では、BNF氏はこの物件をいったいいくらで売却したのだろうか。秋葉原周辺の不動産事情に詳しいある不動産会社は次のように語る。
「売却価格は100億円から130億円ほどではないかと推察します。BNF氏が購入した当時の価格は90億円と言われていますが、その当時、利回りは7%程度(年間賃料約6.3億円程度)だったと思われます。あれから10年が経っていることを踏まえても、あのビルには16店舗のテナントが入居し、延べ床面積は約1512.5坪。また周辺賃料坪単価が平均約3.5万と言われておりますので、現在の年間家賃収入も当時とはさほど変わらないと考えられます」
100億を超える価格であったとしても「利回りが約5%程度あれば現状の物件相場を考えると十分に買い手がつくのでは」と前出の不動産業者は言う。秋葉原駅から徒歩1分で年間6.5億円の賃料収入、しかも角地であることから、少なくとも100億、場合によっては130億円もあり得るというわけだ。
続いて不動産鑑定士にも予想額を聞いてみたところ、「120億円程度」との予想。
「BNF氏が購入した当時の賃料収入は月5000万円、年間6億円程であったと聞いています。表面利回りで換算すれば6.7%であったことになります。現在の賃料収入が当時と同じぐらいだと仮定して、表面利回り5%で売却価格を計算すると120億円です。もちろん、現在の賃料が上記よりも高ければ、120億円よりも高くなる可能性はあります」(西原不動産鑑定・西原崇氏)
この予想が正しければ、BNF氏がこの10年間に「チョムチョム秋葉原」で得た利益は、賃料だけで60億円超。さらに売却益で30億円もの利益を得たことになる。
今回の一報を受け、ネット上では「いよいよ不動産バブル崩壊か?」との声も多く見られる。では、ベテラン不動産投資家たちは今回の件をどう捉えているのか。
東大卒MBAホルダーの投資家で、首都圏を中心に多数の物件を所有する岸登さん(珠さん)は次のように語る。
「彼の投資スタイルから考えても、今回の件は『市況を読んで売却した』という話ではないと思います。単純にそろそろ利確したいと考えていて、そこにちょうどいい話があったから売却した、といったところではないでしょうか」
珠さんは「不動産バブル崩壊が近い」という見方についても懐疑的だ。「個人的には、多少落ち着くことはあっても大きく下げる可能性は低いと見ています。オリンピック後に不動産価格が暴落すると見る人もいるようですが、私はそうは思いません。ロンドンオリンピックでもそのようなことはありませんでしたよね。むしろオリンピック後を待っていてはいつまでたっても買えない、なんてこともあるかもしれませんよ」
一方、不動産投資の市況についてはやや悪化していると珠さんは見ている。
「例の『かぼちゃの馬車』事件が引き金となって、融資は現在、昨年より渋くなっています。私の周りでは、年収700~800万円、自己資金を500~1000万円用意できるようなサラリーマンでも否決されるケースが増えていますね。いま融資が引けているのは、地銀や信金を地道に開拓して、時間をかけて関係を築いてきたような人たち。これから不動産投資を始めたい人からすれば、新規参入のハードルは高い状態と言えるでしょう」
投資家で楽待コラムニストでもある根本伸之さんも、前出の珠さんとほぼ同じ見解だ。
「秋葉原のビル売却の件は、BNF氏本人からすれば、単に収益を上げた(価格が上がった)不動産を売却して利益を確定しただけなのでは。これは同氏が株式等で実践してきたいつも通りの投資行動です」
また不動産バブル崩壊の可能性についても「大幅な下落は考えにくい」と根本さんは言う。
「東京オリンピック以降も、リニア開通に代表されるように公共工事の類はたくさん計画されており、建築価格の下落はしばらく考えにくい状態。それに不動産価格が下落すると逆に買える人が増えることになります」
根本さんはさらにこう続ける。
「日銀による金融緩和以降、資金が余った金融機関は手っ取り早い方法として不動産への融資を増やしてきました。金融緩和は今後も継続すると見られています。この状態で不動産投資に対する融資を抑えているということは、金融機関は今後、他のビジネスや事業(企業)に対して多く融資をするようになると考えられます。この動きは極めて健全ですので、景気に対して良い影響を与えるのではないかと期待しています」
楽待コラムニストでもあり、現在金融機関に勤務する投資家の三浦隆さんも前出の2人と同じ考えだ。
「BNFさんの過去のコメントなどを拝見すると、相場の先を読むというよりは、株価の流れに逆らわずにトレードをするやり方を実践されていたようです。秋葉原のビルを購入した際も、『多額の現金を持っているといろいろとリスクがあるので、そう簡単には資金化できない不動産に代えておきたかった』という主旨のコメントしていることから、不動産投資を熟知していて、底値だったから購入した、というわけではなさそうですね」
今回の売却は、単にライフスタイルの変化、あるいは購入からちょうど10年という節目であったことなど、BNF氏なりの事情によるのではないかとの予想だ。ただし、BNF氏がほかに保有している渋谷センター街の物件も近々に売るようなことがあれば「マーケットを予測しての売却の可能性が高い」と三浦氏は見ている。
「いくつかの象徴的な物件が売買されると、そろそろマーケットの転換点と言われます。リーマンショック前夜も大型アセット売却のニュースが飛び交いました。今後も大型物件が売買されるというニュースが頻繁に出るようですと、マーケットの転換点を意識する必要があるかもしれませんね」(三浦氏)
◇
ネット上でその存在が神格化されつつあるBNF氏の一挙手一投足は、これまで常に投資家たちの注目を集めてきた。さらに足元では不動産価格の高騰が続いていることもあってか、今回の一報が与えたインパクトは大きかったようだが、話を伺った投資家の皆さんは一様に冷静で、今後の市況とすぐに結びつけるのは早計である、との見解を述べている。