【夕焼けエッセー】ボタン
2018.11.24
産経 WEST
断捨離が推奨されているが、やっぱり私は捨てられない。人から見れば、えっ何でこんな物とっておくの・・・というなかに、1つの汚い缶がある。
何十年も前、この缶が新しい頃には、天花粉と呼ばれていたベビーパウダーで満たされていた。母は子供たちの肌を、その真っ白な粉をつけたパフでなで、空っぽになった缶にボタンを入れた。不要になった服からはずされたボタンは増えてゆき、缶には私たちの落書きやシール跡が加わり、人形の絵柄もすっかりくすんでへこんでいる。
時々、開けてみる。これはピンクのボレロに付いていた、姉からのお下がりだった、これは父がよく着ていたニットのベスト…小さな存在は思い出を上手に引き出す。母が集めた記憶の断片は、私も共有して手元にある。
先日、一人立ちを始める娘と、荷物の整理をしていた。
「このカーディガン、もう着ないかな」と娘。
「でも、いいボタン付いてるよ」と手にとる私に、娘はさっさとはさみを差し出した。その見事な阿吽(あうん)の呼吸に、お互い吹きだした。娘は、平成の世にしみったれた事をしていた私を見てきたのだ。外されたボタンが役に立ったことはほとんどないが、私には捨てられない。
古色蒼然(そうぜん)、ところどころさびがかってきたが、ふればボタンの音がする。どうしてこれが捨てられようか。
神野榮美 (62) 大阪府松原市
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