浜松中納言物語 0
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「次の世代の人々にタスキを渡す」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。蜻蛉日記を書き綴った21年間の最後の日記には道綱の新年を迎える準備に道綱母である作者は多忙を極めていたが静かな夜を迎えると作者の脳裏には過ぎ去った二十一年のことが、鮮明に思い浮かんでは走馬灯のように流れ去っていった。摂政・関白に任ぜられる家柄の摂関家の若い貴公子兼家の求婚にはじまり結婚そして、道綱出産、夫の漁食(次々に女を追い求める)癖に悩んだ青春の日々の事や嘆き、ライバル時姫の子女五人の出産に嫉妬宿願の本邸入りの夢が破れたあとの不安の中年の日々の描写。結婚十七年目元日に兼家邸前素通りや、鳴滝の山寺長期参籠、広幡中川への移居等々思い出しては色々な香りを醸し出し足早に消え去っていった。兼家との関係も書き綴る事もなくなり、次の世代の人々にタスキを渡す今道綱や養女のように新しく迎える年に対する胸のふくらむ思いもなくなった。胸のときめきもなくなったことをしみじみ感慨深く思ったのであろう。外では追儺(ついな)の戸を叩く音が耳にひびき、静かな京のはずれの道綱母の住居の大晦日の夜は次第に更けて行き蜻蛉日記は二度と綴られず道綱母は59歳の長寿を全うし、道綱も大臣を歴任し66歳と長寿の生涯だった。次回より40年の半生を綴った更級(さらしな)日記を研鑽したい。
2019.06.20
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「兼家の和歌を多数収めているので」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。蜻蛉(かげろう)日記は、夫である藤原兼家との結婚生活や兼家のもうひとりの妻である時姫(藤原道長の母)との競争や夫兼家に次々とできる妻妾について書き、また滋賀大津の唐崎祓への神社詣の事柄や滋賀大津の石山詣の事柄、奈良の長谷詣などの旅先での出来事を綴り上流貴族との交際の事柄や、母の死による孤独、息子藤原道綱の成長や結婚兼家の旧妻である源兼忠女の娘を引き取った養女の結婚話とその破談について藤原道綱母の没年より約20年前、39歳の大晦日を最後に筆が途絶えている。歌人との交流についても書いており、蜻蛉日記の和歌は261首書かれており、「なげきつつひとりぬる夜のあくるまはいかに久しきものとかは知る」は百人一首にとられており、女流日記の先駆けとされ、源氏物語はじめ多くの文学に影響を与えられ、自らの心の内や経験を客観的に顧みる文学でもある。兼家に対する恨み言を綴ったものや、復讐のための日記とする人もあるが兼家の和歌を多数収めているので、実の所、兼家の協力を得て書いた貴族への宣伝の書ではないかと理解する文学研究学者もいる。
2019.06.19
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「母の思い出にひたっているうちに」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。今年は天候がひどく荒れる事もなく、雪が二度ほど降っただけである。道綱の元日の装束や、馬寮の白馬を天覧の後、群臣に宴を賜わる儀式の節会に着ていく物など整えているうちに、大晦日になってしまった。明日の元日の引出物にする布地を、折ったり巻いたりするのを侍女たちに任せたりして、考えてみると、このように生き長らえて今日まで過ごしてきたのもあきれるばかりである。御霊祭などを見るにつけても、例年のように尽きる事のない母の思い出にひたっているうちに、今年も終わってしまった。ここは京のはずれなので、夜がすっかり更けてから追儺の人たちが門を叩きながら回って来る音が聞こえる。追儺(ついな)とは、大晦日の日に悪鬼を追い払う行事のこと。
2019.06.18
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「深い嘆きで心が落ち着かず休まらない」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。八橋よりの返事が届いた。千年ふる 松もこそあれ ほどもなく 越えてはかへる ほどや遠かる千年も経った松だってあります まもなく年が越えて春なったら私も帰りますが それがそんなに遠いことでしょうかと書いてある。どういうこと、変な事を言うと思う。風が吹き荒れている時に道綱が ふくかぜに つけてもものを 思ふかな 大海の波の しづこころなく風が吹くにつけても物思いは絶えません。大海の波が立ち騒ぐように心が落ち着かず心が騒いでと書いて八橋へ送った。返文には、返事を申し上げる筈の人は、今日の事に掛かりっきりでと今までとは違う筆跡で、葉が一枚だけついた枝につけてあった。折り返し、あまりにも辛くて、みじめな思いでと思い文を送る。わがおもふ 人は誰そとは みなせども なげきの枝に やすまらぬかな私の思う人は他ならない貴女ですが 今にも散りそうな一枚の木の葉のようにわたしも深い嘆きで心が落ち着かず休まらないのですと送った。
2019.06.17
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「年まで越して待っている人もいる」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。(ももは6月15日で満3歳を迎えた)道綱は、わずか一夜ですから、こちらでお過ごしくださいと書いたようだ。かひなくて 年暮れはつる ものならば 春にもあはぬ 身ともこそなれ待つ甲斐もなく 今年も暮れてしまうなら 春にもあわないで 死んでしまうでしょうなどと懇願にも似た文を綴り送る。(チョコ板のもも3才の文字が少し隠れた)だが、今度も返事がないので、どうしたのだろうと思っているうちにあの女性には、色々言い寄る男が大勢いるそうな噂を聞き文を出す。われならぬ 人待つならば まつといはで いたくな越しそ 沖つ白波わたし以外の人を待っているなら 先日の歌のように、待つなどと思わせぶりなことを言って 私を裏切らないでくださいと送る。(テーブルクロスを引っ張るのでケーキが落ちそうに)女性から返事が来た。越しもせず 越さずもあらず 波寄せの 浜はかけつつ 年をこそふれ裏切るも裏切らないもありません わたしは今までずっと どなたにも同じように心を寄せて過ごしてきたのですと書いてあった。(13キロになったももを抱えていただき撮影した)年がおしつまったころ、道綱は八橋へ手紙を出す。 さもこそは 波の心は つらからめ 年さへ越ゆる まつもありけりあなたの心がそんなに冷たいとは 波だけでなく 年まで越して待っている人もいるのですよと女性へ不満の文を送る。
2019.06.16
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「春が来た事を知らせたが返事はなかった」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。道綱は、女性からの返事がないので、次の日あたりに、使いを行かせた。女性から柧棱(そば)の木につけて、見たとだけ書いてよこした。ソバノキの実の小さいことから、実の無けくにかけた枕詞。道綱はすぐに返事を送った。 わがなかは そばみぬるかと 思ふまで みきとばかりも けしきばむかなわたしたちの仲は疎遠になったかと思うほど 見たとだけ書いて冷たくなさるのですねと虚しい胸の内を女性に告げる。やっと女性から返事が来る。天雲の 山のはるけき 松なれば そばめる色は ときはなりけりわたしは雲のかかる遥か彼方の高い山の松ですから 冷たいのは常磐の松のようにいつものことですと送られて来た。年内に節分をするので、方違えはこちらへと道綱は、使いに言わせていとせめて 思ふ心を 年のうちに はるくることも 知らせてしがなあなたを思っている気持ちを年内にわかっていただき わたしにも春が来たことをお知らせしたいのですと送るが返事はなかった。
2019.06.15
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「長い間独り寝をしてきたけれど」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。女が負けたくないと思っているようなので、道綱が手紙を綴る。おおぞらも 雲のかけはし なくはこそ 通ふはかなき なげきをもせめ 大空に雲の架け橋がないのなら 通うことができないで嘆くでしょうが 大空には雲の架け橋があるのですからと書いて送り返事が届く。ふみみれど 雲のかけはし あやふしと 思ひしらずも 頼むなるかな踏んで通おうとなさっても雲の架け橋は危ないもの お手紙を拝見しましたが通う事ができないのを分からないで 期待していらっしゃるようね。女性よりの文に、また、道綱が文を綴り送る。 なほをらむ こころたのもし あしたづの 雲路おりくる つばさやはなき やはりわたしは、このまま待ち続けます 雲路から舞い降りる翼がないわけではありませんからと女性へ送った。今度は、暗くなったからということで、それきりになり十二月になった。また道綱の方から女性に文を綴り送った。かたしきし 年はふれども さごろもの 涙にしむる 時はなかりき衣の片袖を敷いて長い間独り寝をしてきたけれども 今までこれほど夜着が涙で濡れたことはありませんと送るが、外出中で返事はなかった。
2019.06.14
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「踏み始めた足跡をたどるように」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。かへるさの くもではいづこ 八橋の ふみみてけむと 頼むかひなく お返事は八橋の帰りに蜘蛛手の道で迷っているのでしょうか手紙をごらんになっただろうと期待した甲斐もなく。今度は返事が来た。かよふべき 道にもあらぬ 八橋を ふみみてきとも なに頼むらむ通うことなどできない道なのに わたしが手紙を見たからといってなにを期待していらっしゃるのでしょうと、侍女に書かせてあった。 なにかその 通はむ道の かたからむ ふみはじめたる あとを頼めば どうして通えないことがあるでしょうか 踏み始めた足跡をたどるように手紙を通い始めた二人ですから そのうち通えるようになります。そしてまた、道綱へ返事が返って来た。 たづぬとも かひやなからむ 大空の 雲路は通ふ あとはかもあらじお訪ねくださっても甲斐がないでしょう 私の所へは 蜘蛛手ではなく大空の雲路ですから 足跡など残ってないでしょう。道綱が文を送る。
2019.06.13
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「私の一言で打ち解けてほしいと」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。例年よりは、儀式が早くすんで、上達部(かんだちめ)の車や連れ立って歩いてくる者は、檳榔毛(びろうげ)の車を取り巻く人たちを見て、あの人の車だとわかったのだろう、そこに止まって、同じ場所に車の前をそろえて止めた。わたしの大切な子は、急に舞人に召されて出たわりには、供人などもきらびやかに見えた。上達部が、それぞれ道綱に果物をさし出してはなにか言葉をかけたりなさるので、誇らしい気がした。また、古風な私の父も、例によって身分の違いから上達部の傍にいることは許されないので、山吹をかざした陪従(楽人)たちの中に紛れていたのをあの人が特に連れて来させて、車の後方の家から酒などを運び出してあり父が盃をさされたりするのを見ると、一瞬満たされた気がしたことだろう。道綱がいつまでも独身ではと世話をやく人がいて、道綱に親しい女ができた。八橋のあたりに住んでいる女だろうか、はじめにかつらぎや 神代のしるし ふかからば ただ一言に うちもとけなむ葛城山の悪い事も善い事も一言で言い放つ託宣神とされる一言主神の霊験が今もあらたかなものなら その名のとおり 私の一言で打ち解けてほしいと。だが、この時に返事は、なかったようだ。
2019.06.12
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「見たことがある人たちがいる」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。あの人の手紙には、道綱の事が気にかかるが、あなたが寄せつけてくれないだろうから、どうしたらいいのか、とても心配だと書いてある。今さら来てもらってもどうなるものでもないと色々な思いが込み上げて来るので、道綱へすぐに身支度をしてあちらへ行くように言う。 急がせて行かせたが、自然と涙が溢れる。あの人は、道綱に付き添って舞をひととおり練習させて、参内させた。祭の当日、一目だけでもぜひ見たいと思って出かけた所、道の北側に檳榔毛(びろうげ)の車が後ろも前も簾を下ろして止まっていた。檳榔毛は牛車を覆った車。前の方の簾の下から、きれいな掻練(かいねり)に紫の織物の重なった袖がこぼれ出ているようで、女車だと思って見ていると、車の後ろの方の家の門から、六位の太刀をつけた者が、威儀を正して出て来て車の前の方にひざまづいて、何か言っているので、何だろうと見ていた。 目をとめて見ると、その男が出て来た車の傍には、緋色(ひいろ)の袍の五位や黒の袍の四位以上の人たちが、集まって、数えきれないほど立っている。さらによく見ると、見たことがある人たちがいる事に気づいた。袍(ほう)とは、公家の装束の盤領 (まるえり) の上衣のこと。
2019.06.11
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「宮中に行くわけにもいかないから」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。兼通さまを、こんなにいい加減に思っていたわけではないだろうがひどく投げやりに手紙を綴った。 ささわけば あれこそまさめ 草枯れの 駒なつくべき 森の下かは笹を分けて来られても わたしはますます離れて行くでしょう馬も寄りつかない森の下草のわたしですからと申し上げた。侍女が言うには、この返歌をもう一度というので、大臣さまは半分まで詠まれたそうですが、下の句がまだできないとおっしゃっているそうですと。そう聞いてから随分経つのに、そのままになっており、おかしいと思った。 賀茂の臨時の祭が明後日というのに、道綱が急に舞人に召されてしまった。このことで、あの人から珍しく、支度はどうするなどと手紙が来たので明後日までに揃えられなく、必要なものを伝えるとすべて届けてくれた。試楽の日、あの人からの手紙に、穢(けがれ)に触れて出仕しないで謹慎中なので、宮中に行くわけにもいかないから、そちらへ伺って世話をして送り出そうと思うが、あなたが寄せつけてくれないだろうからどうしたらいいのだろう、とても心配だと書いてある。
2019.06.10
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「考えても考えても不思議でならない」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。霜枯れの 草のゆかりぞ あはれなる こまがへりても なつけてしがな 霜枯れのように老いたわたしですが 妹〈弟の妻〉というご縁にある貴女がすさめぬ草と嘆いていらっしゃるのがお気の毒でなりません 私が若返って貴女と親しくなりたいものですと綴られている。こまがへりとは、年老いた者が再び若い様子になる。若返る。おちかえる。また、草木などが再び芽をだすの意にも用いられる。何とも辛いとも綴られて、私があの人に言った虚しいと思っていた歌の七文字「こまがへりても」なので、不思議でならず、これはどういう事と思う。この手紙はあの人(兼家)の兄の藤原兼通さまではと尋ねると太政大臣さまのお手紙で、護衛をしているある人が、お邸に持って来たので、ご不在ですと言ったのですが、確かにお渡し下さいと置いていったと言う。 どうしてあの歌のことをお聞きになったのだろうと、考えても考えても本当に不思議でならない。そうして、まわりの人たちにこの手紙のことを相談していると、昔気質の父が聞きつけて、誠に恐れ多いことだとすぐにお返事を書いて、護衛に渡さなければならないと恐縮して言う。
2019.06.09
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「世を逃れてしまった年寄りの私」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。車の輪が引っかり立ち往生していたのが大和の女だと思い手紙を送った。どうやら道綱の見間違いのようで、手紙の返事が送られて来たがその手紙の端に、平凡な筆跡で、違います、私ではありませんと素っ気ない返事が返って来て、道綱の肩を落とした後ろ姿を見た。こうして十月になり、二十日過ぎの頃に、忌違えで移った家で聞いたのだがあの私が嫌っているあの人が通う女の所では、子どもを産んだそうだと人が言うが、憎らしいと思う反面、気にもかけないでいた。宵の頃、灯りをともして、食事などをしている時に、兄弟にあたる人が近くに寄って来て、懐から、陸奥紙に書いて結び文にした手紙で枯れた薄に挿してあるのを取り出して、変な手紙ね、どなたのと言うとまあご覧なさいと言ので、手紙を開いて、灯りに照らして見てみた。憎らしいあの人の筆跡にとてもよく似ているが、書いてあることは いまさらに いかなる駒か なつくべき すさめぬ草と のがれにし身を今さらだれが寄りつくでしょう 馬でさえ喜んで食べない枯れ草のように世を逃れてしまった年寄りの私なんかにと心細い事が書かれてある。
2019.06.08
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「道綱が病からはじめて外出した」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。天然痘が猛威をふるい色々な人が倒れたと言う話を聞くにつけても治ったあの子は本当に幸運だった。このように道綱は病気は治ったが別に用事もないので、まだ外出もしないで家にいる。二十日過ぎに、とても珍しいあの人から道綱はどうだと手紙が来る。こちらの人は皆治ったのに、道綱はどうして姿を見せないのだろうと心配でならないとあるが、貴女がわたしをひどく憎んでいるようなので遠ざけている訳ではないが、意地を張っているうちに時が過ぎてしまった。忘れたことはないけれどと、心を込めて書いてあるので、不思議に思う。返事は、尋ねて来たあの子の事ばかり書いて、端に、忘れる事はないと書いてあったのは、本当にそうでしょうねと書いて送った。道綱が病からはじめて外出した日に、道で、手紙を送っていた大和の女とばったり出会ったところ、どうしたのか、車の筒が引っかかり困っていた。年月の めぐりくるまの わになりて 思へばかかる をりもありけり 年月が巡っている間に 昨夜 車の輪が引っかかったように時にはこのようにお会いすることもあるのですねと文を送った。
2019.06.07
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「世の中のなにもかもが心細い感じ」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。八月に入ったものの、世間では、天然痘が流行して大騒ぎである。二十日の頃に、この付近にも広がってきた。道綱が例えようもなく酷く患う。 どうしたらいいのだろうと、音信不通になっているあの人に知らせようと思うほど重体なので、わたしはいっそうどうしていいかわからない。 でも、そんなことは言っていられないと思い、あの人に手紙で知らせると返事はひどくそっけないものだった。そして、口頭で、どんな様子だと使いの者に言わせた。それほど親しくない人でさえ見舞いに来てくれているようなのにと思う気持ちも加わって、腹立たしくてならなかった。長官も決まりが悪そうにしながらも、たびたび見舞ってくださる。九月の初め頃に道綱の病気は治った。八月二十日過ぎから降り始めた雨がこの月もやまないで、あたりが暗くなるほど降って、この中川も賀茂川も一本になってしまいそうなので、この家も流されるのかしらとまで思う。世の中のなにもかもが心細い感じである。門の前には早く稲刈りが行われるはずの田圃もまだ刈り取りをしないで雨の晴れ間に、急いで稲を刈って、それで焼米を作るのがやっとだった。天然痘は猛威をふるい一条の太政大臣のご子息が二人共亡くなり本当にお気の毒でならない。
2019.06.06
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「心にもない事とはどういう事でしょう」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。わたし自身の物思いは、今はすっかりなくなってしまった。七月の二十日頃になって長官がとても馴れ馴れしくするので、私を頼りにしているのだわと思っているうちに、侍女が言うには、長官さまは人の妻を盗み出して、ある所に隠されていらっしゃいますと言う。ひどくばかげたことだと、世間でもしきりに噂しているようですと。それを聞くと私は、この上なくほっとする話を聞いた。七月が過ぎたらどう言おうかしらと、思っていたからとは思うものの結婚が迫っているのに、わけがわからないと、私は思った。そんな時、また長官から手紙が来たので、開けて見ると、まるで私が尋ねたかのように、心にもないことをお聞かせして、とんでもない事です。八月には結婚できないでしょう。こういう事とは別の関係で道綱さんへ申し上げる事がありましたので、幾ら何でもお見限りにはと書いてある。返事は、心にもない事と、おっしゃっているのは、どういうことでしょう。こういう事とは別の関係でとかおっしゃるのは、私たちの事をお忘れにならなかったのだと思えて、とても安心しましたと書いて送った。
2019.06.05
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「娘はやはりとても幼くて」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。紙の色は、昼でも見えにくいと思っていらっしゃるでしょうかと書いてこちらから使いを出した時に、先方では僧侶たちがたくさん来ていて騒がしそうだったので、使いは手紙をそのまま置いて帰って来た。翌朝、朝早くあちらから、姿の変わった僧形の人たち来ていたうえに日も暮れて、使いもお帰りになってしまいました。 なげきつつ 明かし暮らせば ほととぎす みのうのはなの かげになりつつ 嘆きながら毎日を過ごしていますので ほととぎすの隠れる卯の花陰ではないですが 陰のように痩せてしまいましたどうしたらいいのでしょう。昨夜は謹慎していましたとまで言ってくる。返事は、これは昨日の手紙のお返事なのですね。どうして、そんなに謹慎までと、不思議なほどで かげにしも などかなるらむ うの花の 枝にしのばぬ 心とぞ聞く どうしてそんなに嘆いてお痩せになるのでしょう あなたは卯の花陰ではなく枝の上で鳴く朗らかな性格だと聞いていますのにと書いて、その歌を墨で消し端に、謹慎していらっしゃらないと物足りない気がしますと書いた。そのうちに、左京大夫が亡くなられましたと言ってきたようだが、長官は喪中の間慎み深く、度々山寺に籠っては、手紙を寄こし、六月も終わった。七月になり、八月も近い気がするのに、わたしが世話をしている娘はやはりとても幼くて、どうなることだろうと思うことが多く気が紛れた。
2019.06.04
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「いつも返事が来るのに返事が来ない」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。わざわざ殿にお話しして頂くのは難しいでしょうが、何かの折にはよろしくお取り計らいくださるものと頼りにしていながら、儚い身の程をどうなる事かと心細く思っていますと、改まって、いじらしく書いてある。それに対して返事は、手紙のたびにしなくてもと思って、しなかった。次の日、やはり返事をしないのは気の毒だし、大人げないと思って昨日は、人の物忌があった上、日が暮れたのでお返事しなかったのです。たえずゆく 飛鳥の川の よどみなば 心あるとや 人の思はむ絶えず流れ行く飛鳥川が淀んでしまったら わたしに思うところがあるせいだと あなたは思うだろうか(古今集恋四・読人しらず)いつも返事が来るのに 返事が来ないのは 何か考えがあるのだろうか。何かの時にはなんとかして殿にお伝えしたいと思っていますがそのような機会もない身の上になってと辛そうな端書があった。
2019.06.03
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「特別な用でもないだろうと思って」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。殿からの手紙に書いてあった事を、かすかに見たそぶりも見せないで私が気をもんでいた結婚の期日も近づき、身を慎まなければならないと人も言うので、何かと心細く思われてと言い、時々、何を言っているのか聞きとれない程度に、こっそりと歌か何かを口ずさんでいる。 明朝、役所に行かなければならない用があり、道綱にその件を申し上げに役所に行く前にお伺いしますと言って座を立った。 昨夜、長官に見せた手紙が、枕元にあるのを見ると、 私が破って渡したと思ったところは違っていて、ほかに破れたところがある。 これは、おかしいと思って考えてみると、あの人に返事をした時に いかなる駒かと詠んだ歌を、あれこれ考えながら下書きしたところを破って長官に見せてしまったようで、朝早く、長官から道綱に風邪を引いて、昨日申し上げたようには伺うことができません。ここに長官から、正午前後頃にお越しくださいと手紙がある。例によって特別な用でもないだろうと思って、出かけないでいると私宛に手紙が来た。いつもより急いで手紙をさし上げる予定でしたが、結婚を前に身を慎む事がありましてと昨夜のお手紙はひどく読みにくかったですとあった。
2019.06.02
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「紙の色までが墨色と紛らわしく」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。大殿の暦を切り取り、五月が終わるとすぐ八月になるようにしたいものですと言うので、とてもおもしろくて、そして、七月から九月の秋に帰ってくる雁を鳴かせてねてなどと話を合わせると、とても朗らかに笑う。華やかに長官をもてなしていると、あの人が言ってきたことを思い出して本当にまじめな話、わたしだけで決めるわけにはいかなく、かといって殿に催促するのも、難しい感じがしますと言うと、どういうことでしょうとどうか、その理由だけでも承りたいですと言って、何度も責められる。なるほどと思うほどに納得させよう。言葉では言いにくいからと思ってお目にかけるのも、具合が悪い気がしますが、ただ、このことを殿に催促するのが心苦しいことを分かっていただきたくてと言って見られて具合の悪い部分は破り取って、先日あの人から来た手紙をさし出す。長官は簀子に出て、月の光にあてて、長い間見てから部屋に入って来た。月がおぼろなうえに、紙の色までが墨色と紛らわしく、まったく読めませんなどと言い、また昼お伺いして拝見しますと言ってさし入れたがもう破ってしまいましょうと言うと、しばらく破らないで下さいと言う。
2019.06.01
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「指を折らされることになるかも」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。たえずゆく わがなか川の 水まさり をちなる人ぞ 恋しかりける 絶えず行き来しているわたしたちの仲ですが この雨で中川の水かさが増して渡れなく 遠く隔てられたあなたが恋しくてなりません。あはぬせを 恋しと思はば 思ふどち へむなか川に われをすませよ 会うことができない人を 恋しいと思っているなら 思っている同士で 一緒に暮らしましょう 中川で隔てられているあなたの家に わたしを住まわせてくださいなどと返歌した。日が暮れて、雨もやんだので、本人がやって来た。例によって、待ち遠しく思っている結婚の話ばかりするのでそんなにご心配なさらなくても。三つとおっしゃっていた指の一つは折るとすぐに過ぎてしまいそうですのにと話した。 そのお約束もどうなることでしょう。あてにならない事などもありますから、気が滅入ったあげくまた延期になって、指を折らされることになるかもしれませんと言う。
2019.05.31
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「ひどい雨に妨げられて困っています」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。次の日も、長官は朝早く来て、昨日は、詩歌を口ずさんで賑やかなようでしたので、何も申し上げられませんでしたと言う。母上が冷たい態度でいらっしゃるのは、なんとも言いようがありません。それでも、命があるなら、いつかは結婚できるでしょうと言う。さらに、死んでしまったら、姫君をいくら親しく思っていてもなんにもなりません。まあ、これはわたし愚痴で内緒ですと言ってくる。また二日ほどして、朝早く、すぐに申し上げたいことがあります。そちらに伺ってもよろしいでしょうかなどと言ってきた。道綱へ、ここへ来られてもどうしようもないから、早く行きなさいと言い出かけさせるが、なにもありませんでしたと言って帰って来た。それから二日ほどして、ぜひ申し上げたいことがあります。お越しくださいとだけ書いて、朝早く届けてきた。 すぐにお伺いしますと伝えたが、しばらくして、雨がひどく降ってきた。夜になっても止まないので、出かけられなく、申し訳なく思い手紙だけでもと、ひどい雨に妨げられて困っていますと書いた。
2019.05.30
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「騎射の見物へ一緒にと言ってくる」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。端午の節句に、軒に菖蒲を葺くのは、邪気を払い火災を防ぐ習わし。しばらく格子は上げないで、ゆっくり工夫して菖蒲を葺こうと言う。その方がご覧になるにも良いと言うが、みな起きてしまったので、あれこれ指図して菖蒲を葺かせるが、風が吹いているのであやめの香りが、すぐに漂ってきて、とても趣がある。簀子(すのこ)に道綱と二人で座って、ありとあらゆる木や草を集めて珍しい薬玉を作りましょうなどと言って、せっせと手を動かしているとこの頃では珍しくもないけれど、ほととぎすが群れをなして厠の屋根にとまっているなどと、人々が騒いでいる声がする。ほととぎすが、空を飛びながら二声、三声鳴くのが聞こえ心安らぐ感じた。あしひきの 山ほととぎす 今日とてや あやめの草の ねにたててなく山ほととぎすは今日五月五日と決めて 菖蒲草の根にあやかって高く声たて鳴いているのかなどと言わない人がいないほど、歌って遊んでいる。少し日が高くなる頃、長官が、騎射の見物へ一緒にと言ってくる。道綱が、お供しましょうと言ったところ、しきりに、早くなどと言って使いが来るので、道綱は急ぎ出かけて行った。
2019.05.29
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「侍女も起きて格子を上げたりする」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。雛人形の着物を三枚縫い、その着物の下前に、歌を書いて縫い付けた。殿の愛が薄れた嘆きを書き込んだが、神はお知りになったであろうか。しろたへの 衣は神に ゆづりてむ へだてぬ仲に かへしなすべく白妙の羽衣は神様にお返しいたします、そうですから兼家さまと私の仲を昔のように中睦まじくしてくださいませ唐衣 なれにしつまを うちかへし わがしたがひに なすよしもがな 着古した唐衣のようになってしまった我が夫を 衣の褄を返すように我が夫を私の言うままになるような方法がないものでしょうか夏衣 たつやとぞみる ちはやぶる 神をひとへに 頼む身なれば 女神様のために夏衣を裁って参りました、その神様の単衣にすがってひとえに頼む我が身でありますから日が暮れたので急ぎ帰る事にした。夜が明けて、五月五日の夜明け前に、兄の長能(ながよし)がやって来て 今日の菖蒲は、どうしてまだ葺(ふ)いてさし上げないのですかとか夜のうちにしておくのがいいのになどと言うので、召使が目を覚まし菖蒲を葺いているようなので、侍女も起きて、格子を上げたりする。
2019.05.28
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「着物の下前に歌を書いて縫い付けた」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。四月が終わると、長官との結婚は遠い先の事になってしまったので長官はすっかり気落ちしたのか、連絡もなくなり五月になった。四日に、雨がひどく激しく降っている頃に、道綱へ晴れ間があったら申し上げなければならない事がありますので立ち寄ってくださいと。母上には、私の前世の宿縁が思い知らされて、何も申し上げませんとお取り次ぎ下さいと言ってきたので、このように道綱を呼び寄せながら長官は、特に話す事もなくて、とりとめもないことを言って帰す。今日、こんな激しく降る雨にもかかわらず、私と同じ所に住んでいる人がある神社にお参りに出かけたが、差し支える事もないからと思って私も出かけようとしたところ、侍女が、女神さまには、着物を縫って奉納するのがよいそうなので、そうなさったらと、そばに寄って来てささやいてきた。では、試してみようと言って、糸を固くしめて織った無地の絹の雛人形の着物を三枚縫い、なぜか、それぞれの着物の下前に、歌を書いて縫い付けた。しろたへの 衣は神に ゆづりてむ へだてぬ仲に かへしなすべく この白い着物は神さまにお供えします 私たち夫婦の仲を 昔のように隔てのない仲に戻して下さいますようにと言う歌を縫い付け、他の歌も。
2019.05.27
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「立てもふすも飼葉桶を置くという縁語」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。ところで、私が華やかにもてなしているとは、どういう事なのでしょう。 いまさらに いかなる駒か なつくべき すさめぬ草と のがれにし身を今さらだれが寄りつくでしょう 馬でさえ喜んで食べない枯れ草のように世を逃れてしまった年寄りの私なんかに、あぁ、憎らしいと書いて送った。長官は、やはりこの四月のうちに望みをかけて、責める。この頃、例年と違って、ほととぎすが邸宅を突き通すように鋭く鳴くので不吉な前兆だと、世間では騒いでいる。長官への手紙の端に例年とは違ったほととぎすの鳴き声にも、世間では不安に思っているようですと書いた。長官へ、酷く恐縮しているように書いたので、長官も艶っぽい事は書いて来なかったが、道綱が、馬の飼葉桶(かいばおけ)を暫く貸して下さいと言って借りようとしたところ、長官は、例の手紙の端に、道綱に事が成就しなければ、飼葉桶も貸せないと申し上げて下さいと書いてある。こちらからも、飼葉桶(かいばおけ)は、立てたる所があるようですからお貸し頂くと、かえって面倒な事になるでしょうと書いて送ると、折り返し立てたる所があるようにおっしゃっている飼葉桶は、今日明日にも、うちふすべき所がほしそうです。私もそちらで臥すべき所がほしいですと書いてくる。立ても、ふすも飼葉桶を置くという縁語になるが臥すと掛け遊んでいるよう。
2019.05.26
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「たくさん恋文を書いているようだ」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。独り暮らしの男が、手紙を書きかけ始めて途中でやめて、頬杖をついて物思いにふけっている所にささがにの いづこともなく ふく風は かくてあまたに なりぞすらしも 蜘蛛の糸を 風があてもなく吹き散らすように この人はあちこちの女にたくさん恋文を書いているようだと書き道綱が長官の家に持って行った。 こうして、長官からはやはり同じ事ばかりで、殿に結婚を催促して下さいといつも言ってくるので、あの人の返事を見せようと思って、こんなことばかり言ってくるので、こちらでは返事に困っていますと話しておいた。時期は言ってあるのに、どうしてそのようにあせるのだろう。八月になるのを待つ間に、そちらでは華やかにもてなしていらっしゃるとか世間で噂しているようだ。長官の事より貴女の事で、ため息が出るよと返事。 冗談だろうと思っているうちに、何度もそう言ってくるので、不思議に思う。私が結婚を催促しているのではありません。ひどくうるさく言ってくるのですべて、私に頼む事ではありませんと言っていますのに、相変わらず同じことを言ってくるようなので、目に余って相談しているのです。
2019.05.25
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「寝殿造りの釣殿の高欄に寄りかり」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。道綱と長官は同じ牛車に乗り出かけたが、道綱は美しい賜り物の馬をもらって帰って来たが、その日の夕暮れに、また長官がやって来た。 先日の夜に恐縮するほど申し上げた事を思い出すと、一層恐縮するので今は、ただ、殿からお言葉あるまで、待っていますと言いに来ていた。長官は今夜は生まれ変わってお伺いしましたと言い、千年の寿命があってもこの恋の苦しみには耐えられない気がし、指折り数えて、指三本、三ヶ月はなんとか過ごせましたが、考えてみると、随分先が長いので、することもなく寂しく過ごす月日の間、護衛のための宿直だけでも、屋敷の隅でと言う。こちらの考えていることと反対のことをはっきり言うので、仕方なく調子を合わせて返事などしていると、長官は、今夜はとても早く帰って行った。長官は道綱を毎日のように、呼び寄せるので、道綱はいつも出かけて行く。女性たちに喜ばれる描き方の絵が長官の家にあり道綱が持って帰って来た。道綱は懐に入れて持って来たので見ると、寝殿造りの釣殿の高欄に寄りかり池の中島の松をじっと見つめている女が描いてあり、歌を書き貼り付けた。いかにせむ 池の水なみ 騒ぎては 心のうちの まつにかからば どうしよう 池の水波が騒いで中島の松にかかるようなことになったらと。どうしよう あの人がほかの女に心を移し 私を裏切る事になったらとも。
2019.05.24
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「同じ牛車に乗って出かけていった」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。松明をも灯さずに、お帰りの道は、どんなに暗かったことでしょう。使いはその手紙を置いて帰って来たので、あちらから、 とふこえは いつとなけれど ほととぎす あけてくやしき ものをこそ思へ いつということなく いつでもお伺いしたいのですが 道が暗かったことより一夜明けて昨夜の失礼を後悔していますと、とても恐縮してお手紙を受け取りましたとだけ書いてある。そのように恨み言を言っても、次の日、道綱の君、今日はあちこちへ訪問するつもりですが、役所まではご一緒にと門の所まで来た。先日のように長官は硯を要求するので、紙を添えてさし出した。こちらに入れたのを見ると、妙にふるえた筆跡で書かれてあった。前世でどんな罪を犯したせいで、こんなにあなたから妨げられる身になったのでしょうか。ますます変なふうになっていくばかりですが、これでは結婚も、とても難しい。もうこれ以上は何も申し上げません。今は高い峰にでも登るしかありませんなどと、たくさん書いてある。返事は、恐ろしい。どうしてそんなことをおっしゃるのでしょう。お恨みになる人は、わたしではなく別の人ではないですか。峰のことはわかりませんが、谷に下りるご案内ならと書いて差し出すと道綱は長官と同じ牛車に乗って出かけていった。
2019.05.23
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「お帰りの道はどんなに暗かったことでしょう」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。夜に娘に会わせよとおっしゃいましても、やはり無理なご要望です。院や宮中に仕えていらっしゃる昼間のような気持ちになって下さいと言うとそのように表向きの付き合いしかしていただけないのは、耐えられませんと。辛がって答えるので、まったくどうしようもない。わたしが返事に困って最後にはなにも言わないでいると、ご機嫌もすぐれないようで恐縮ですと。あなたからお言葉がない限り、なにも申し上げない事にします。そして、ひどく恐縮していますと言って、爪弾きをして、立ち上がった。出て行く時に、松明をどうぞなどと召使いに言わせたが、受け取らないでお帰りになられたと聞くと、気の毒になって、翌朝早く、あいにくなことに松明をとも言わずお帰りになり、ご無事でしたかと申し上げたくて。ほととぎす またとふべくも 語らはで かへる山路の こぐらかりけむ また訪ねるともおっしゃらないでお帰りになりましたが、お帰りの道は どんなに暗かったことでしょう、それがお気の毒でと書いて届けた。
2019.05.22
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「暦も残り少ないほど日が経ちました」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。姫君に会わせていただきたいとは、どのようなお考えで、そのようにおっしゃるのでしょう。あまりにも遠いお方とおっしゃる間に初めて言葉を交わすことになるかもしれませんと言うといくら幼い子どもでも話ぐらいはしますよと言う。この子は、本当にそうではありません。あいにく人見知りする年頃ですからと言っても、納得がいかないようで、とても気落ちしているように見える。姫君に会えないのは、胸が張り裂けるほどに思われますが、せめてこの御簾(ぎょれん)の中だけでも入れていただけたら退出しましょう。姫君に会わせていただけるか、御簾の中に入れていただけるか、そのどちらか一つでも、叶えていただきたいのです。ご配慮をと言って、簾に手を掛ける。とても薄気味悪いけれども、聞かなかったふりをして、夜も更けたようですがいつもならどこかの女君に逢いたくなるような夜ですねと、そっけなく言う。まったくこれほど薄情だとは思いませんでしたが、思いがけなくこうしてお話ができただけでも、この上もなく嬉しいことだと思います。暦も残り少ないほど日が経ちました。失礼なことを申し上げ、ご機嫌を損ねましてなどと、心から辛く思っているので、親しみをおぼえて話した。
2019.05.21
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「姫君に会わせていただきたいのです」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。長官が、腹立たしい事を申し上げに来ましたとは、一体何ごとでしょう。ひどく興奮していらっしゃるのね。では、こちらへと招く言葉を掛けるとまあ、いいでしょう。こんなに夜も昼も伺っては、うるさく思われてますます先のことになるでしょうと言って、中には入らないでいる。しばらく道綱と話をして、帰る時に、硯と紙を要求したので、出してやると書いて、両端をひねって、こちらにさし入れて帰って行った。文を見るとちぎりおきし 卯月はいかに ほととぎす わがみのうきに かけはなれつつ お約束の四月はどうなったのでしょう ほととぎすが卯の花の木陰を離れる季節で 私も姫君との結婚が遠のくとは なんと辛い身なのでしょう。どうしたらいいのでしょう。ひどく気がふさいで。夕方にまたと書いてある。筆跡もこちらが恥ずかしくなるほど達筆である。返事はすぐに書く。なほしのべ 花たちばなの 枝やなき あふひすぎぬる 四月なれども やはり辛抱してください 卯の花はなくても 花橘の枝があるように逢うという葵祭のある四月が過ぎても また逢う機会があるのですから。 右馬寮の長官は、かねて暦を見て選んでおいた二十二日の夜、訪れて来た。今回は、今までの態度とは違って、とても慎重にしてはいるものの、その責め方は、まったく耐え難く、殿のお許しは、だめになりましたと言い八月までは遠い気がしますので、あなたのご配慮で、なんとか姫君に会わせていただきたいのですと言うので困ってしまった。
2019.05.20
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「とても腹立たしい事を申し上げに」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。道綱が、右馬寮の使者として、賀茂祭に奉仕しなければならないのでそのことばかり思っていたから、長官はその準備の終わるのを待っていた。祭に先立つ斎院御禊の日に、道綱は犬の死んでいるのを見て穢に触れたと残念ながら使者の役は取り止めになってしまった。私の方ではひどく気の早い感じがするので、本気で考えてもいないのに長官が道綱を通して、殿よりのお言葉がありましたと責め立てられ母上に申し上げてくださいとばかり言うので、わずらわしく感じた。あの人に、今までの色々な事柄を文に認めて、使いの者に届けさせた。あの人から、結婚は四月とは思ったが、道綱の支度をしている最中でずいぶん延び延びになってしまったから、もし長官の心が変わらなければ八月頃にしたらと言ってきたので、後になりほっとした気持ちになる。殿は初めから娘を長官の嫁にと考えていたのだろうかと思う。暦で決めるのは、あてにならないし、早過ぎると、だからこそ長官へ申し上げたではありませんかと書いて送ると、返事もなくて、暫くして本人がやって来て、とても腹立たしい事を申し上げに来ましたと言う。
2019.05.19
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「吉日があると責め立てられる」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。道綱が賀茂神社の使者になり、長官はその準備の雑用でも勤めたいと殿のお考えを伺い、また殿のお言葉をご報告に伺いますと言うので長官はここへ泊まらずに帰るようだと思い、間仕切りの几帳の縫い合わせてない帷子(かたびら)をかき分けて外を見てみた。簀子(すのこ)に灯してあった火は、とっくに消えていた。几帳の内には物陰に灯りをともしていたので、明るくて、外の火が消えているのも気づかなかったが、こちらの姿も見えたかもしれないと思うと呆れた。火が消えたともおっしゃらないで意地が悪いのねと言うと、いえ、別に不自由はしなかったのでと、控えている供人も答えて長官は帰って行ったが右馬寮の長官は、一度来始めると、度々やって来て、同じことばかり話す。こちらでは、お許しの出る殿から、話がありましたら、辛くてもそのようにするでしょうと言うと、長官は、その大切なお許しは頂いていますのにと言って、うるさく責め立てる。そして、この四月にと、殿のお言葉もあり二十日過ぎの頃に、吉日があるようですと言って責め立てられる。
2019.05.18
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「ぎこちない話をするうちに夜も更けて」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。長官は暫し何も言わないが、まして私からは声もかけれない。しばらくして不安に感じているかも知れないと思い、私が軽く咳払いをきっかけに先日は、あいにくお留守の時にお伺いしましてと話し出してから娘を思い始めてからのことを、いろいろと話し出す。私は、結婚など不吉に感じるほどですので、そのようにおっしゃいますのも夢のような気がしますし、娘は小さいどころか、世間で言うところの鼠生い生まれたばかりの鼠のように小さく幼いので、とても無理なお話と答えた。 長官の声がひどく取り澄ましたように聞こえるので、なんとも答えづらい。雨が乱れ降っている夕暮れで、蛙の声がとても大きく聞こえて来る。夜がどんどん更けていくので、わたしから、こんな気味の悪い所では家の中にいるものでも気分が落ち着きませんのにと話しかけてみた。 長官は、こちらにお伺いして皆さんが居るので、恐ろしいことはありませんとぎこちない話をしているうちに、夜もすっかり更けて、長官より道綱の君が賀茂神社の使者になるので、その準備も近くなったようですが、その時の雑用でも勤めさせていただきますから、殿にもお伝えくださいなどと言う。
2019.05.17
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「扇のあたる音だけが時々していた」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。長官は何とか娘と結婚したいと通って来るが、私の老けた聞き苦しい声をお聞かせするわけにはと言ったのは、結婚は許さないということなのに道綱に、お話しがしたいと言うついでに、長官は日暮れにやって来た。 私はしかたがないと思って、格子を二間だけ上げて、スノコに灯りをともしヒサシの間に招き入れ、まず道綱が会って、長官は縁に上がって来た。道綱が両開きの妻戸を引き開けて、こちらへの声がして歩いてくる気配がする。まず母上に取り次いで下さいと小声で言い、道綱が私の所に入って来た。 道綱は長官の意向を伝えるので、お望みの所でお話ししなさいと言うと長官は少し笑って、程良く衣擦れの音をさせて廂(ひさし)の間に入って来た。道綱と密やかに話をして、笏(しゃく)に扇のあたる音だけが時々していた。私のいる奥の部屋からは、何も言わないまま、やや時が経ったので長官は道綱に、先日はお訪ねした甲斐もなく帰ったので、なんとなく落ち着かなくてと申し上げて下さいと取り次がせた。道綱が、どうぞと言うと長官は様子を伺いながらにじり寄ってきたが、すぐには何も言わないでいた。
2019.05.16
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「娘はまだ結婚にはふさわしくない年齢」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。風が強く吹く中で、スダレを頼りにしていた侍女たちが、簾を押さえたり引っ張ったりして騒いでいる間に、今更どうしようもないが、侍女たちの見苦しい袖口も長官の目に留まっただろうと思うと、死ぬほど情けなく辛い。道綱は弓の練習場から夜遅く帰って来て、まだ寝ていて起こしている間にこんな事になってしまったが、道綱はやっとのことで起きて出て来てここには誰もいないことを長官に言うが、恥ずかしい所を見られてしまった。風がひどく気分も落ち着かないので、前もって格子を全部下ろしていた時でどう言いつくろってもおかしくなかったが、長官は強引にスノコに上がって今日は吉日なので、座り初めの為、円座をお貸し下さいと話しただけで長官は、今日は全く来た甲斐がないと、ため息をついて帰って行った。二日ほどしてより口頭で、留守の間にお越し下さったとの事で、お詫び申し上げますという挨拶を道綱に申し上げさせたところ、長官は、その後とても不安になって帰ったものの、ぜひお会いしたくてと、言ってくる。娘はまだ結婚にはふさわしくない年齢だから、長官との結婚は許可できない。
2019.05.15
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「裾が丸見えですっかり慌てている」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。長官の手紙を見てみると、いったい誰と結婚させる気なのか分からない。さらに殿は、今月は、日が悪い、来月になってからと暦をごらんになってたった今もおっしゃっていますなどと書いてあるが変な話だ。結婚の日を暦を見て決めるなんて早過ぎて変な話で、どういう事と思う。まさかあの人がこんなこと言うはずがないと思った。おそらく、この手紙を書いた侍女の作り話ではないのだろうかと思う。四月になって、月初めの七日の昼に、右馬頭さまがいらっしゃいましたと侍女が言うが、侍女に結婚の話だろうから、私はいないと言ってと。侍女に言うが早いか右馬頭の長官は入って来て、垣根の前にたたずんでいる。竹などで目を粗く編んで作った垣根なので、私の姿がはっきり見える。いつもさっぱりときれいな人が、艶のある袿に、しなやかな直衣を着て太刀を腰につけ、赤色の扇の要が少しゆるんだのを手でもてあそんでいる。風が強いので、被った冠の纓を吹き上げられながら立っている様子は絵に描いたようであるが、気品のある人がいると侍女が言うと皆が出て来る。侍女たちが、打衣と表着の上に裳など無造作にくつろいだ姿で出て来た所へ風がひどく吹き簾を外へ内へと揺らし、裾が丸見えですっかり慌てている。
2019.05.14
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「長官はひどく遠慮していたように感じた」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。右馬頭の長官への返事は、その日のうちに書いて届けた。この思いがけないお手紙は、今回の除目のおかげかと思いましたのですぐにお返事をさし上げなければならなかったのですが遅くなりました。 殿になどとおっしゃったことが、とても不思議で気になりましたので尋ねていましたところ、唐土に問い合わせたほど時間がかかってしまいでも、やはり納得がいかない事は、なんとも申し上げようがなくと書いた。手紙の端に、武蔵と呼ばれている人のお部屋にとおっしゃる武蔵は 白河の 滝のいと見ま ほしけれど みだりに人は 寄せじものをや白河の滝をとても見たいけれど むやみに人を寄せつけてはいけないと申しているようです。村上天皇の下命によって編纂された勅撰和歌集よりその後も、同じような手紙が何度もくる。返事は、手紙が来るたびに出したわけではないので、長官はひどく遠慮していたように感じた。三月になり、右馬頭は、あの人にも、侍女にも言付けて頼んでいたのでその侍女の返事を見せに使いをよこす。長官の手紙を見てみたところ。
2019.05.13
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「世間では誰も知らないはずなのに」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。私の訳し方が曖昧でしたが、愛おしい人と言うのは道綱の母のことで元々、兼家へ右馬頭が道綱の母の養女へ差出した手紙だと思う。兼家が道綱を介して道綱の母へ右馬頭の思いを託した手紙だと感じた。どういうわけか、愛しい人と書いてある部分は上から墨で消してある。道綱が、どうしたらよいのでしょうと言うので、厄介だわねと思った。途中で使いに会ったということにして、お伺いしなさいと送り出した。道綱は帰って来て、どうして殿にご連絡なさっている合間の時間にでもお返事をいただけなかったのでしょうと恨んでいたようでしたと話した。二、三日ほどして、やっと父上にお手紙をお見せることができましたと。父上がおっしゃるには、なに、かまわない。そのうち考えを決めてからと右馬頭には話しておいたので、返事は、推し量って出しておきなさいと。まだ子どもなのに、誰かが通ってくるのでは、具合が悪いだろう。そちらに娘がいることは、世間では誰も知らないことだ。娘でなく母親に通っているなどと、変な噂を立てられたらまずいと。そんなことを道綱から聞いて、なんともいい気分はしなかった。誰も知らない娘を、長官が知っているのは、あの人が漏らしたのだろう。
2019.05.12
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「雨などに妨げられるものか」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。右馬寮(うめりょう)の長官である右馬頭は心配になったのだろうか道綱のところへ、ぜひ申し上げたいことがと言ってお呼びになる。 すぐにお伺いしますと答えて、とりあえず使いは帰した。そのうちに、にわか雨が降り出し、道綱は、お待たせしたら気の毒だと出て行ったが、途中で使いに出会い、手紙を受け取ってもどって来た。その手紙は、紅色の薄紙を重ねたもので、紅梅の枝につけてある。いそのかみ ふるとも雨に 障らめや 逢はむと妹に いひてしものをたとえ雨が降ったとしても雨などに妨げられるものか 愛しいあの子に逢おうと言ったのだから。古今六帖・第一という歌はご存じでしょうね。石上(いそのかみ)は、奈良の石上神宮周辺から西の方角で万葉集に詠まれる。春雨に ぬれたる花の 枝よりも 人知れぬ身の 袖ぞわりなき 春雨に濡れたこの鮮やかな紅梅よりも 人知れず嘆くわたしの袖のほうが血の涙に染まって真っ赤です。愛しい人、やはりお越し下さいと書いてある。
2019.05.11
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「ごらん頂くことが出来なかった」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。殿はなにかおっしゃいましたかとお尋ねになったので、現状を申し上げると、吉日に、お手紙をさし上げようと話されていた。まだ恋をするには幼すぎるのにと思いながら寝てしまった。長官から手紙が来たが、とても返事を気楽に書けそうもない内容である。手紙の文面は、何か月も前から心に思うことがあって、殿に人を介してお伝えしましたところ、殿はお話の内容だけはお聞きになりました。今は直接お話するようにと承りましたが、身のほどをわきまえない大それた望みを話すと、不審に思われるのではないかと、遠慮していた。それに、良い機会もないと思っていたところ、このたびの司召の結果を拝見すると、道綱の君が同じ役所に来られましたので、伺ってしまいました。そして、手紙の端に、武蔵と呼ばれている人のお部屋に、なんとかして伺いたいのですがと書いてある。武蔵は作者の侍女のこと。返事をさし上げなければならないが、これはどういうことでしょうとあの人に聞いてからにしようと思って連絡をとったところ都合が悪いと、ごらん頂くことが出来なかったと道綱が手紙を持って帰って来たが、それから二十五、六日になった。武蔵の部屋に伺いたいとは、作者に直接対面することを遠慮した言い方。
2019.05.10
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「そちらにいるあの娘はどうなったか」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。急に雨が降り出して、どうしたらいいのだろうと話しているうちに夜がすっかり明けて、供人たちは、ミノだ、笠だと騒いでいる。わたしは帰りを急ぐこともないのでぼんやりあたりを眺めていた。前の谷から雲がしずしずと立ちのぼるので、ひどくもの悲しくなって思ひきや 天つ空なる あまぐもを 袖してわくる 山踏まむとは 思いもしなかった 大空の雨雲を袖でかきわけて登るような山寺に お参りする身になるなんてと、あの時は思ってしまったようだ。雨がどうしようもなく激しく降っているが、じっとしているわけにもいかないのであれこれ雨をしのぐ工夫をして出発した。いじらしい養女が、わたしのそばに寄り添っているのを見るとじぶんの苦しさも忘れてしまうほど愛しく思われた。 やっと家に帰って、次の日、道綱が弓の練習場から夜更けに帰って来てわたしの寝ている所に来て、殿から言われたことを、しきりに話している。 お前の役所の右馬寮(うめりょう)の長官から、しきりに養女の事を聞かれる。そちらにいるあの娘はどうなったか。大きくなったか。女らしくなったかと。
2019.05.09
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「夜が明けたというのを聞く頃」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。なにばかり 深くもあらず 世の常の 比叡を外山と 見るばかりなりどれほど深くもなく ごく普通に 比叡山を人里近い山と見るばかり大和物語・四十三段に詠われているような所だと思った。野焼きなどする季節で、桜はもう咲いてもいいのに遅いのでいつもならきれいに咲いている横川の道なのに、まだ早過ぎた。飛ぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ飛ぶ鳥の鳴き声さえ聞こえない奥山のように深いわたしの心をあのの人に知ってほしいという古今集・恋一の歌のように奥深い山は鳥の声もしないものなので、ウグイスさえ鳴いていない。川の水だけが、見たこともない凄まじさで、ほとばしって流れている。ひどく疲れて苦しいあまり、こんな苦労をしないですむ人もいるのにわたしは辛いこの身をもてあましていると思いながら日暮れ時に寺で鐘をつく時刻に養女と共に寺へ到着した。お灯明などを捧げて、数珠を一つずつ繰りながら立ったり座ったりして巡拝する間に、ますます苦しくなってきたが、夜が明けたというのを聞く頃に、雨が降り出し困った事になったと思いながら、僧坊に行った。
2019.05.08
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「ある所にこっそり出かけよう」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。道綱は、右馬寮(うめりょう)の次官の右馬助で正六位下相当の位階である。道綱はあちこちに任官のお礼まわりをする時に、その役所の長官が叔父にあたり、ご挨拶に伺ったところ、叔父はとても喜んでくれた。道綱は挨拶のついでに、そちらにいらっしゃる姫君は、どんなお方ですか。おいくつですかなどと尋ねた。道綱が帰って来て、出来事を話してくれた。あの子はまだ無邪気で、恋の相手になる年頃でもないのにどうしてお聞きになったのだろうと思っていたが、そのままにしていた。その頃、人々が、院の弓射の技を競う賭弓が行われると騒いでいる。叔父の右馬頭(うまのかみ)も道綱も同じ組で、練習場に出かけていた。叔父は養女のことばかり話すので、道綱は自分が言い出した事を忘れて 叔父は一体どうして養女の事ばかりなのでしょうなどと話していた。そして、二月二十日頃、夢に見たと言う分が書かれていたがそれ以下は脱文しており、次の行まで夢の事が書いてあったのだろう。大和物語に詠う、ある所にこっそり出かけようと決めた。
2019.05.07
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「風をひいて寝込み苦しんでいるうちに」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。参詣した神社の祓殿(はらえどの)などという所に、氷柱(つらら)がなんとも言えないほど見事に垂れ下がっているのを見ると実に面白い。色々と眺めながら帰る時に、大人なのに、子供の装束をつけて髪をきれいに整えて行く人がいるので興味深く見ていた。すると先ほどの氷柱の氷を、単衣の袖に包むように持って食べながら歩いているので、由緒ある人なのかしらと思ったりもした。その時、わたしと一緒にいる人が、話しかけたら、氷をほおばった声で 私におっしゃるのですかと言うのを聞いて、身分の低い者だとわかった。その者は、ここへ来てこれを食べない人は、願い事が叶わないと言う。縁起でもない事を言うが、その者も自分の袖を濡らしてると歌が浮かぶ。わが袖の 氷ははるも 知らなくに 心とけても 人の行くかな わたしの袖の涙の氷は いつ春が来るとも知らないで 張ったままで解けそうもないのに 人は悩みもなくのんびりと歩いていくと詠んだ。家に帰って、三日ばかりして、賀茂神社にお参りに行った。雪と風が言いようもなく激しく、あたりが暗くなって、辛かった上に風をひいて寝込み苦しんでいるうちに、十一月になり、十二月も過ぎた。
2019.05.05
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「誰と知っている人もいない筈なのに」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。大げさなことはできないので、しきたり通りに白い色に調えた籠にお祝いの言葉をいろいろと述べ、梅の枝につけて歌を贈った。冬ごもり 雪にまどひし をり過ぎて 今日ぞ垣根の 梅をたづぬる 雪に閉じ込められた冬が過ぎて お見舞いもできなかったのですが今日やっと、お子さまのお祝いを申し上げることが出来ましたと。帯刀の長(たちはきのおさ)某(なにがし)という人を使いにして夜になってから届けたが、その使いの者は、翌朝になって帰って来た。頭から被って衣服の上を覆う薄紫色の袿(うちき)をもらってきていた。 枝わかみ 雪間に咲ける 初花は いかにととふに にほひますかな 雪間に咲いた梅の初花 若い母親の初めての子は あなたのお祝いをいただいて いっそう美しさを増すことでしょうと万葉集にも歌われる。季節は移り、正月の勤行の時期も過ぎた頃、人目のつかない所へご一緒にと誘う人もあり、一緒に出かけたところ、たくさんの人が参詣に来ていた。わたしを誰と知っている人もいない筈なのに、何ともわたし一人辛く恥ずかしくてならないのは、今まで皆から見られていたからだろうか。
2019.05.04
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「こざっぱりと仕立てることに決めた」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。届けてきた着物は仕立てたものの、使いの者が手紙を落としてしまい何が書いてあったのか分からず、こちらから手紙はつけないで送り返した。 その後は、夢でもあの人を見ることもなく、足早に年が暮れていった。 九月の末にまた、殿が、着物を仕立ててほしいとおっしゃっていますと今度は手紙さえつけないで、下襲(したがさね)を届けてくる。 どうしたらいいかしらと迷って、侍女たちに相談する。 侍女たちは、やはり、今度だけは殿の反応を見るために仕立てた方がよいのではないでしょうか。お断りしては酷く嫌っているようですからなどと言うので、仕立てることに決めて、そのまま受け取りこざっぱりと仕立てて、十月一日に、道綱に持たせて届けた。 道綱が帰宅して、とてもきれいにできたとおっしゃっていましたと いうことだったが、それっきりになってしまい、あきれてしまった。 十一月に、地方官歴任の父の所で出産があったが、見舞いにも行けないで過ごしてしまったので、五十日目の産養になり、お祝いの歌を送った。
2019.05.03
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「手紙になにが書いてあったかわからない」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。東の門の前にある田の稲を刈り取って、束ねた稲が一面に掛けてある。時々でも訪れてくれる人には、青い稲を刈らせて馬の飼葉にしたり焼米(やいごめ)を作らせたりする仕事を、わたし自身熱心にしている。小鷹狩(こたかがり)をする道綱もおり、何羽もの鷹が外に出て遊んでいる。道綱は、相も変わらず例の女に手紙を送って気を引いてみるようだ。さごろもの つまも結ばぬ たまの緒の 絶えみ絶えずみ よをや尽くさむ あなたが恋しくて彷徨い出るわたしの魂は 衣の褄を結んで鎮めてくれる人もいないので 宙に迷い 命も絶え絶えに一生を終わるかもしれませんと詠む。返事は直ぐになく。また、しばらく経ってから つゆふかき 袖にひえつつ 明かすかな 誰ながき夜の かたきなるらむ 涙に濡れた袖に冷え冷えとしながら夜を明かしています誰がこの秋の夜長にあなたの相手をしているのでしょうと返事があった。あの人の方は長い間来ないままだったが、呆れたことに使いの者が来た。殿からこれを仕立ててくれと言って、冬の着物の反物が届いた。使いの者は、お手紙がありましたが、実は落としてしまいましたと言う。手紙になにが書いてあったかはわからないままだが着物を仕立てた。
2019.05.02
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「私たちの仲も冷えきってしまった」 「Dog photography and Essay」では、愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。引っ越した先は、山が近く、邸の一方が中川の河原に面していて川の水を思いのままに引き入れてあるので、とても趣深い住まいと感じられる。二、三日経ったが、あの人はわたしの転居に気づいていない。五、六日ほどして、引っ越したのを知らせないとはとだけ言ってきた。返事に、転居のことはお知らせしたと思いますが、不便な所ですのでお越しになるのは無理かと思って見慣れたあの家で、もう一度お話ししたいと思っていましたがなどと、縁が切れたように書いた。あの人から、そうだろうね大層不便な所だそうだからとあっただけでそれ以来連絡もなければ訪れもなく九月になったが、朝まだ早いときに格子を上げて外を眺めると、邸内の遣水(やりみず)にも外の川にも川霧が立ちこめ、麓も見えなく山が遥かに望まれる情景を見て流れての 床と頼みて こしかども わがなかがはは あせにけらしも 夫婦の仲は絶えないと頼りにしてきたが 中川の水が涸れるように私たちの仲も冷えきってしまったらしいと悲しい気がして口ずさんだ。
2019.05.01
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