inti-solのブログ

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2020.08.08
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テーマ: ニュース(99444)
カテゴリ: 医療・衛生
中国、ペストで死者 内モンゴル、感染警報を発令
中国内モンゴル自治区包頭市当局は同市内の村で死者1人がペストに感染していたと発表、上から3番目の警戒レベルとなるペスト感染3級警報を発令した。
この死者についてはPCR検査などを実施し、6日に腸型ペストと断定。濃厚接触者ら35人を隔離し検査を実施したが、いずれも陰性だった。
内モンゴル自治区では7月、住民1人がリンパ節の異常を引き起こす腺ペストを発症。昨年11月には腺ペストと肺ペストをそれぞれ2人が発症した。
ペストは主にねずみなどのげっ歯類からノミを介して感染するが、肺ペストでは患者の飛沫による「人から人」感染も起きる。適切な治療を受けなければ致死率は30%以上とされる。

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ペストと聞くとぎょっとします。
たまたまつい先日、ペストの歴史の入門書とも言うべき、 「パンデミックを生き抜く」(朝日新書)という本 を読んだところですが、過去3回のペストの大きな流行によって、ペスト菌を保菌するげっ歯類が定着してしまった「ペストの巣」と呼ばれる地域が世界各地に点在しています。中国もその一つで、内モンゴルからウイグル、チベットにかけての西部の広大な地域と、実は福建、広東など南東部にも「ペストの巣」が広がっています。さらに、中央アジアから西アジア、インド、中東、アフリカ、更に南北アメリカ大陸でもブラジル東部、ボリビアの東部熱帯低地と西部高原地帯とペルーの国境、エクアドル、そして北米では米国の中西部、西部の広大な地域に「ペストの巣」が形成されてしまっているというのです。
あまり報道で見た記憶はないのですが、米国でも年に数人はペストの発症があると前掲書にあります。ただし、世界的に見て、圧倒的に患者の発生が多いのは、アフリカのマダガスカル島とのことです。前掲書によると、2013~2018年の6年間に全世界で2800人がペストに感染し500人が亡くなっていますが、感染者のうち2300人をマダガスカルが占めているとのことです。

14世紀にヨーロッパでペスト(当時は「細菌が病気を起こす」という事実は分かっておらず、ペスト菌も未発見であったため、「黒死病」と呼ばれていた)が猛威を振るい、人口の1/3(中でもイタリアとフランスの死亡率が特に高かったらしい)が命を落としたのは有名な話です。
この時代にペストが猛威を振るったのは、根本的には当時のヨーロッパには衛生という概念がほとんどなく、生活状態が猛烈に不潔だったからです。前掲書によれば、ペスト流行のさなか、英国の国王エドワード3世は月に1回しか入浴していなかったと記録されているそうです。時代はそれより200年ほど古くなりますが、1170年に英国国教会カンタベリー大主教(前掲書では大司教と記載)トーマス・ベケットが暗殺された際、検視のために遺体を裸にすると全身がシラミにおおわれていた、といいます。国王とか大主教という高貴な身分ですらそうなのですから、一般大衆は押して知るべし、というものです。また、たとえ入浴しても着替えはしないことが多かったそうです。
当時のヨーロッパの衛生状態は、現在の住所不定者並、あるいはそれ以下だったと言っても過言ではないかもしれません。

14世紀当時においては、ヨーロッパよりもイスラム圏の方が相対的にまだ衛生的な生活をしており、そのためヨーロッパに比べればイスラム圏の方がまだペストの被害は少なかったようです。また、ヨーロッパの中でも当時イスラムの支配下にあったスペインも、比較的ペストの被害は少なかったようです。

引用記事には「ペストは主にねずみなどのげっ歯類からノミを介して感染する」とあります。現在のペストに関してはそれが常識ですが(厳密に言うとクマネズミがもっともペスト菌を媒介しやすいらしい)、前掲書によると、中世ヨーロッパにおいては、最初の引き金としてはともかく、大流行の過程でペスト菌を媒介したのはノミではない可能性がある、とのことです。
というのは、それ以外のペスト流行では記録されているネズミの大量死(ネズミからノミを介して感染するということは、ネズミもペストに感染して死ぬわけです)がほとんど記録されていないこと、ノミを介さずとも飛沫感染する肺ペストもそれほど流行はしていないからです。ノミには、ネズミによくつくネズミノミと人によくつくヒトノミがいますが、ヒトノミはペスト菌を媒介する能力は低いのだそうです。
このことから、筆者が推測しているのは、当時のペストはシラミを介して感染を広げたのではないか、ということです。前述の英国国教会カンタベリー大主教のエピソードからも分かるように、当時のヨーロッパでは生活環境中にシラミは満ちあふれていた訳ですから、それがペスト菌を媒介したら、すさまじい感染状況になることは明らかでしょう。

なお、上記のように感染症拡大の様態が現在のペストと異なることから、このときの病気がペストではなく、似た症状の別の疾病ではないか、という説もかつてはあったそうです。しかし、当時の遺体の発掘調査から、現在のペスト菌と同じ遺伝子の痕跡が発見され、黒死病がペストであったことは明確に証明されているようです。

現在では、たとえ発展途上国といえども、14世紀のヨーロッパほど不潔な環境で生活する人はさすがに少ないこと、公衆衛生に対する理解も進んでいることから、ペストが大流行する事態はまず起こる心配はないようです。
引用記事には、適切な治療をしないと致死率30%とありますが、14世紀ヨーロッパの大流行では、明らかにそれより死亡率は高かったようです。一方、抗生物質というペストに対する特効薬が存在する現在、腺ペストは初期段階で適切な治療を行えばほぼ治る一方、肺ペストは抗生物質を用いてもなお、死亡率が4割に達するそうです。現在でもなお、ベストは怖い病気なのです。

日本では14世紀のペスト大流行の影響は確認されていません。判明している限りでは、日本にベストが入ってきたのは19世紀末で、20世紀前半になんとか根絶され、幸い齧歯類の「ペストの巣」が日本では形成されずに済んだことから、それ以降新たな発症はありません。
しかし、前述のとおり、海外では現在もペストは根絶できていないので、ネズミ等の齧歯類に触れたり、ノミにたかられるような環境は気をつけた方がよさそうです。ネズミだけじゃないですけどね。狂犬病があるから、海外では犬に接するにもそれなりに注意を払う必要があります。





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最終更新日  2020.08.08 10:43:29
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