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ファシズムとロシア
マルレーヌ・ラリュエル著
知的・文化的底流を解明
神奈川大学特別招聘教授 下斗米 伸夫 評
ロシアは欧米の一部で言うようにファシズムで、プーチンはファシストなのか。それともウクライナの方がプーチンの言うように「ネオ・ナチ」なのか?プーチンは昨年 7 月、東スラブ 3 民族を同じナロード〈民〉という論文を書いたが、なぜ主要 TV ・新聞、ウクライナ研究者の多くは意図的か「民族」と誤訳した。それほど民族主義と権威主義の問題は難しい。
ましてやイデオロギーの終焉から 30 年、旧ソ連・東欧地域では、極右や極左、サブカルチャ―、各種の宗教・せくと、またはバイクや柔道愛好団体まで世論形成に表れてきた。これが今のウクライナ戦争を巡る議論の混乱となっている。
とくに 2014 年マイダン革命以降のウクライナではソ連赤軍がファシズムからの「解放者」から、「ロシア帝国主義」の体現者と捉えるような理解が出ている。バルト 3 国や東中欧でも「ヨーロッパの解放」の意味が変わり、赤軍の元帥像が同様の扱いを受けている。
こうした中ロシア学者マルレーヌ・ラリュエルの『ファシズムとロシア』は、この難しい論争に挑戦した。彼女はプーチンをファシストと考えることに反対しているものの、その誤解を与える現代ロシア・ウクライナの知的、そして文化的底流の解明に新しい頁を開いた。
中でもウクライナ戦争を支持し Z 革命を唱えるドゥーギンのような反ウクライナの地政学的極右潮流がプーチン政権の中心にいるという米国の一誌にまである誤解に批判的である。プーチンをファシストや「悪魔」であるという言説の背景になるのは、 NATO 東欧拡大に熱心だった旧中東欧出身の北米ディアスポラ(移民)の世界観からウクライナを中心に浸透したからだ。彼らからみればプーチンはファシストとなる。しかし日本でのソ連ロシア論の見方とは一致しない。実際のプーチンにはそれほど一貫性はない。保守派や軍産複合体、正教会などに取り囲まれているものの、基本的には各派の勢力からバランスをとって権力を運営しているという彼女の見方に賛成だ。これほど米国とロシアとはお互いに誤解した結果ウクライナ戦争に至ったという意味では現在を読み解くための必要書だ。
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マルレーヌ・ラリュエル フランス出身の研究者
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