うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2010年05月16日
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カテゴリ: 坂本龍馬
坂本龍馬 直柔 なおなり 自筆  姉・岡上 乙女 おとめ 宛書状 全文

文久3年(1863)6月29日付〔中〕

* かなりの長文のため、三つの段落に分けて掲載しています。



先日下され候御文のうちに、ぼふず(坊主)になり、山のをく(奥)へでもはいりたしとの事聞へ、ハイハイヱヘンをもしろき事 兼而 かね て思ひ付おり 申候 まうしさうらう

今時は四方そふぞ(騒々)しく 候得 さうらえ ども、其ぼふずになり 太極ヽヽ はなはだごくごく のくされくされたるけさころも(袈裟衣)をかたにかけ、諸国あんぎや(行脚)にでかけ 候得 さうらえ バ、西はながさき(長崎)より東はまつまへ(松前)よりヱゾ(蝦夷)までもなんでもなく、道中銀ハ一文も用意におよばず。

それをやろふと思へバ まづ つねのシンゴンしう(真言宗)のよむかんをんきよふ(観音経)、イツカヲしう(一向宗)のよむあみだきよふ(阿弥陀経)、これハちとふし(節)がありてむづかしけれど、どこの国ももんと(門徒)がはやり 申候 まうしさうらう あいだ、ぜひよまねバいかんぞよ。おもしろやおもしろや、をかしやをかしや。

それ より、つねにあま(尼)のよむきよふ(経)一部、それでしんごんの所へいけバしんごんのきよふ、いつかふしうへいけバきよふをよみいたし これはとま(泊)るやどの事ニて候 ほふだん(法談)のよふな事も、しんらんしよふにん(親鸞上人)のありがたきおはなしなどする也。

まち(町)をひる(昼)おふらい(往来)すれバ、きよふ(経)よみよみゆけバ、ぜに(銭)は十分とれるなり。これをぜひやれば、しつかり。おもしろかろふと思ひ申候。

なんのうきよ(浮世)は三文五厘よ、ぶんとへ(屁)のなるほど、やつて見よ。
しん だら野べのこつ(骨)は白石、チヽリやチリチリ。

此事 このこと 必々 かならずかならず 一人でおもい 立事 たつこと のけして(決して)相ならず候。
龍ハはやしぬるやらしれんきに、すぐにとりつく。一人でいたりやこそ、それハそれハおそーしいめ(恐ろしい目)を見るぞよ。

これをやろふと思へバよく人の心を見さだめなくてハいかん。おまへもまだわか(若)すぎるかと思ふよ。
又けしてきりよふ(器量)のよき人をつれになりたりいたしたれバならぬ事なり。
ごつごついたしたるがふぢよふばんバ(強情婆)のつよばんバ(強婆)でなけれバいかん。

たんほふ(短砲・拳銃)をバ、さんゑぶくろ(三衣袋)の内にいれ、二人か三人かででかけ、万々一の時ハ、グワンとやいて(やって)、とふぞく(盗賊)の金玉までひきたくり申候。

京都国立博物館蔵



〔現代語訳〕
先日下されたお手紙の中に、世を捨てて坊主になり、どこかの山の奥にでも入りたいとのお気持ちを拝し、ハイハイエヘン、お待たせいたしました、面白いことをかねてから思いついておりましたので申し上げます。

ご存知の通り、今どきは四方八方騒々しい世の中ではありますが、はなはだ極々の腐れ腐れた袈裟衣を肩に掛け、諸国行脚にお出かけになれば、西は長崎から東は北海道・松前より奥地の蝦夷までも何でもなく、道中の路銀は一文たりともご用意に及ばない。

それをやろうと思へば、まず普通の真言宗徒の読む観音経、一向宗の読む阿弥陀経、これはちょっと節があるので難しいが、今はどこの国も門徒が流行っておりますので、ぜひとも読まねばいかんぜよ。・・・おもしろやおもしろや、おかしやおかしや。

それから、普通に尼の読むお経(般若心経など)を一部、それで真言の所へ行けば真言の経、一向宗へ行けばその経を読み──これは泊る宿のことでござる──法説・法談のようなこととか、親鸞上人のありがたいお話などするのである。

町々を昼に往来する時は、お経を読み読み行けば、銭は十分貰えるのである。
これをぜひやれば、しつかり。面白かろうと思うのでございます。

何の浮世は三文五厘よ、ブンと屁の鳴るほどやってみよ。
死んだら野辺の骸骨は白石、チチリやチリチリ♪(三味線の音)

この事は、必ず必ず一人で思い立っては決してなりませぬ。
この龍馬は囃し立てるかも知れんきに、すぐに調子に乗る。
一人で行っては、それはそれは恐ろしい目を見るぜよ。

これをやろうと思えば、よく人の心を見定めなくてはいかん。
お前さまも、(出家するには)まだ若すぎるかと思うよ。
また、決して器量のよい別嬪さんを連れにするようなことがあってはならぬ事である。
ごつごつした強情婆(ごうじょうばんば)の強婆(つよばんば)でなければいかん。

短砲(拳銃)をば、三衣袋(さんえぶくろ、旅支度)の中に入れ、二人か三人かで出かけ、万々が一の危急の時は、グワンと撃って、盗賊のキンタマまで引ったくるのでございます。
(拙訳)


第1段落と打って変わって、実姉・乙女への「人生相談の回答」(?)。
この頃、乙女は婚ぎ先の名家・岡上家での不和で実家に帰っており、世をはかなんで出家したいというような手紙を弟・龍馬に出したものと推測されている。それに龍馬が応じたもの。

勝気だったという姉・乙女の気性・性格を熟知しての上であろうが、姉の苦しい胸のうちを茶化しまくりふざけまくりの、何とも天衣無縫・八方破れの文面で元気づけ、慰めている。
抱腹絶倒、恐れ入る。

・・・今、シコシコ引用しながら、なんか毒ガス時代のビートたけしが喋ってるみたいだと思った(笑)





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最終更新日  2024年07月12日 15時50分17秒
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