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イタリアのチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」、そのホンモノに初めて出会ったのは、ボローニャだった。「パルミジャーノ・レッジャーノをそのまま食べるなら、赤ワインと一緒だよ。白ワインじゃダメ」イケメンの若い店員のお兄さんにそう念を押された。あれから何年も時が過ぎ、日本でも簡単にパルミジャーノ・レッジャーノが手に入るようになった。だが、それらの多くは、あらかじめ切り分けたものを真空パックにしているから、風味はガクンと落ちている。ホンモノのパルミジャーノ・レッジャーノは、やはりあの大きな、円い塊から切り分けなければいけない。パルミジャーノ・レッジャーノをそうやって売ってくれる店は、東京でもまだまだ少ない。だが、まるの塊から切り分けて売っているパルミジャーノ・レッジャーノを、日本橋三越でたまたま見つけた。試食してみたところ、多少乾いてしまっている感はあるが、イタリアで買ったホンモノに限りなく近い。ちょうど、九州の知人からいただいた安心院の地ワインで、メルローがあったので合わせてみた。やはりワインの味がぐっと引き立つ。チーズの味が引き立つというより、ワインの味が引き立つのがパルミジャーノ・レッジャーノの凄さ。安心院のワインも初めて飲んだが、ベリーの香りにほのかな渋みが交じり、なかなかだった。パルミジャーノ・レッジャーノを口に含んだときの味と、含まないワインそのものの味とのコントラストも十分に楽しめる。問題はワインがすすみすぎることか(笑)。
2011.07.10
アルザスの白ワインが好きだ。いや、実際にはアルザスのワインでなくてもいい。より正確には、アルザスが名産地とされるワインの白用葡萄品種に好きなものが多い。たとえば、「翻弄する不良少女、ゲビュルツトラミネール」。当たり外れの多いワインだが、アルザス・ドイツ・イタリア北部が名産地だ(ただ、アルザス産のゲビュルツトラミネールを日本で買って当たったためしはない・笑)。「花のリースリング」もアルザス・ドイツが名産。これも大好きだ。ゲビュルツトラミネールのように性悪ではなく、ずっと可憐で清々しい。わざわざ「アルザス」と「ドイツ」を分けて書いたのは、アルザスがフランスだからで、ワインの名産地表示の慣例に従ったのだが、本当はアルザスは明らかにドイツ文化圏に属する地域なので、分けて書くほうがおかしいようにも思う。ゲビュルツトラミネールのエントリーでも書いたが、アルザスの中心都市ストラスブールのスペルからして、そもそもドイツ語の地名以外の何ものでもないし、もともと住民が話していたアルザス語もドイツ語の一派だし、この地方の建築様式を見てもドイツだし、食べてるものもドイツなのだ。こんな、どこからどう見てもドイツでしかない地方を、『最後の授業』のような「歴史解釈歪曲小説」で、あたかもフランス固有の領土であり、ドイツ人が無理にアルザスの住人からフランス語を奪おうとしたかのように世界中に言いふらしたフランス人の根性は、実にたいしたものだと思う。もともとドイツ語の方言を話していた人たちに、フランス語を最初に強要したのは誰なわけよ?さて、このどこからどう見てもドイツでしかないフランスの地方アルザスが名産のリースリング種に、シルヴァーナ種(シャスラ種という説もある)をかけあわせたものが、ミュラー・トゥルガウ。日本では北海道で作っている。これは近くのスーパーで見つけた北海道余市産ミュラー・トゥルガウ(2008年)。2008年は日照時間が長く、降雨量が少なく、この10年間では最高のワインの当たり年になったという。お値段も1000円ちょっとと、実にお手ごろ。コルク栓を抜くと、リースリング譲りのフルーティで甘い香りが強く漂ってきた。なんでもこのワイン、ぶどう果皮からの香味成分を引き出すために、果皮と果汁を低温で接触させるスキンコンタクトを行っているのだとか。飲んでみると、口当たりは爽やかだが、かなり甘口。酸味は控えめで、安い白ワインにありがちな、うすっぺらな酸っぱさがない。エチケットに描かれた整列した針葉樹の風景が、実に北海道らしい。冬になると、雪原の向こうの丘に、黒ずんだ針葉樹がくっきりと列になって立つ姿が、あちこちで見られる。グランポレールというブランド名らしいのだが、この値段でこの味を提供してくれるのなら、他のワインもイケそうな予感がある。コルクのデザインも可愛い。星のマークにブランドネーム、その下には葡萄の葉と蔓の意匠化。そして、なぜか・・・製造責任者の名前と写真まで(驚)。しかも、イケメン? なにげにポーズを取っている!? まさかイメージ写真 じゃあ、ないでしょうねっ。マリアージュさせる料理やチーズは、相当限定される甘口ワインだが、何と合うのか、いろいろ試してみるのも、逆に楽しい。クリームシチューと一緒に飲んだら、お互いの味が引き立った。北海道余市産ミュラートゥルガウ種100%。ぶどう品種由来の果実味豊かな香りと酸味と甘さのバランスがとれた、爽やかな味わいが魅力です。『国産ワインを楽しもう!!』グランポレール北海道ミュラートゥルガウ2008長野古里ぶどう園 カベルネ・ソーヴィニヨン [2004] ≪ 銀賞受賞!≫【化粧箱入】【 グランポレール GRANDE POLAIRE 】 サッポロワイン●第5回 国産ワインコンクール[2007]:銀賞受賞!■2004年は極めて天候に恵まれ、熟度が高く凝縮感のある 葡萄が収穫されました。 豊な
2009.11.22
週末は銀座・日本橋界隈に出没すること多々のMizumizu。この都心のド真ん中で静かな(?)ブームになっていると思うのが、地方の物産品を扱うアンテナショップやデパートでの特別催事展。どこも人気で、よく人が入っている。一番人気はやはり、北海道物産展でしょう。東京のデパートではしょっちゅうやっている気がする。以前は夏だけ北海道で過ごすという、東京との二重生活をしたいたMizumizu。そのころは東京で人気の北海道展を横目で見て、「なんか高いモノばっかりじゃん。道民はそんなの買わないよ。それに地元で人気のある店って、案外出てこないじゃない」と思っていたのだが、すっかり東京都民となった今は、北海道物産展と聞くといそいそ出かけていって、道民なら決して買わないような高い特産物をホイホイ買っている。その典型がこれ。まずは左のオホーツクビール。北見という町で作ってる地場産の麦芽を使ったオールモルトビールで、ピルスナーやヴァイツェン、マイルドスタウトといった種類もあるが、写真はエール。デパートの催事場で試飲したら美味しくて、勢いで購入。北海道にいるころも、「オホーツクビール」の存在は知っていた。そのころは、「ゲゲッ、なんて高いの。完全に観光客向けでしょ」「どこで作ってるの? え、北見市山下町? 思いっきり内陸じゃん。オホーツク海まで何十キロあるのさ」と近づきもしなかったのだが、飲んでみたら、すっきりしているのにコクがあって、とてもイイ感じ。それに銀座ではさほど高く感じない(←恐ろしい街だ)。右は「春雪さぶーる」という会社の作っているチーズ入りソーセージ。そんな会社、北海道にいるときはまったく知らなかった。これも試食したら、チーズの濃厚な味がアクセントになっていて、気に入ってしまった。値段も聞かずに購入したのだが、払う段になって、「えっ、そんなにするの」(笑)。しかし、北海道と言えばなんといっても乳製品。札幌のスイーツのレベルというのは、とてつもなく高い。しかも、値段が安い。東京でもなかなかお目にかかれないような上質なお菓子が、街角の何気ない個人店で売っていたりする。それもこれも上質の材料が安く入手できるからだろうと思う。低温殺菌牛乳と飲むヨーグルト。どちらも極上の味だった。牛乳は味が濃いのにさっぱりとあとをひかない爽やかさがあり、ヨーグルトのほうはしっかりした、それでいて自然な酸味があった。低温殺菌牛乳自体は、スーパーにもあることはあるが、これほど美味しくないのはなぜだろう? 北海道物産展には必ずといっていいほど参加してくる小樽のルタオのドゥーブル・フロマージュ。ルタオは北海道の有名店の中では本州進出にもっとも積極的な企業だと思う。北海道を代表するお菓子店・六花亭のほうは、こういう催事に出店はするのだが、マルセイバターサンドという売れ筋のほかは、日持ちのする焼き菓子しか出さない。六花亭の生ケーキは安くて、素直に素材のよさがわかる美味さがあって、あれこそ北海道の豊かさを実感させてくれるスイーツだと思うのだが、残念ながら札幌や帯広といった街の直営喫茶店に行かなければ、味わうことはできない。あ~、六花亭の喫茶店でお茶するためだけにでも北海道に行きたい! 誕生日だと生クリームが最高に美味しいケーキをサービスしてくれた円山店。あのサービスはまだやっているのかなあ。で、ルタオのドゥーブル・フロマージュのほうは・・・ 最近味が淡白になったような気がする。以前はもっと濃厚だったような。気のせいか?北海道物産展はもっぱらデパートの催事場での開催が主なのだが、東北・北陸の地方だと、期間限定でアンテナショップを開き、そこで特産品のPRを兼ねた販売を行うというスタイルが多い。こういう店にも、かなり美味しいものが置かれている。ただ、問題なのは次に行ったときには店がもうないので、また買いたいと思ってもどこで買えるのかわからなくなってしまうこと。というか、東京では売ってる店がないことが多い。1回限りのPRでは、せっかく出店した店の商売繁盛に結びつかない気もするのだが・・・?こちらは、山形のアンテナショップで買った「ずんだん餅」。「ずんだん餅」は、「ずんだ餅」という名称のほうが知られているが、東京ではとても人気がある。実は近所でも恒久的に買える店があるのだが、山形のアンテナショップを見ると、作り手が違えば味が多少違うだろうと、ほぼ毎回必ず買ってしまう。このずんだ餅、東京では浸透してきているが、関西方面ではまださほど知られていない気がするのだが、気のせいですかね? 関西の方も好きですか? この東北の味。アンテナショップではなく、すでにもう全国にチェーン店を出しているのが、沖縄の特産品を扱う「わしたショップ」。沖縄には1度しか行ったことがないのだが、いろいろお土産を買って運んできたのが、東京の「わしたショップ」に全部あった(しかも値段も同じ)のにはショックを受けた(苦笑)。Mizumizu連れ合いが沖縄に行って、ハマってしまったミミガー。豚の耳から作るおつまみ。コリコリした軟骨のような食感が大好きなよう。沖縄の市場では惣菜のように手作りミミガーが売られていたのだが、沖縄では家庭で作るんですか? だとしたら、レシピを知りたいもの(連れ合いが強烈にリクエストしてくる)。こちらは新製品だという石垣の塩をつかったポテトチップス。大人気だという(店頭の)宣伝文句に釣られて購入。お味は・・・「・・・・・・」いや、まずくはないですよ。こういう駄菓子を食べたあとに残る、嫌な油の後味もない。塩も確かに上品でまろやかな味。でも、ま、個人的にはふつうのスーパーやコンビニで買えるこちらの「お手軽プレミアム」で十分かな。
2009.11.01
このところ既存の名店ベーカリーの「大量生産&味落ち」あるいは「単なる味落ち」に腹を立ててるMizumizu。この現象、ちょっと前に起こった小麦価格の急騰に端を発しているような気がする。以前「美味しいパン屋」と拙ブログで紹介した店のほとんどがコレになってしまい、今から過去エントリーを見て期待して行った読者が、高いばっかりでハズれたと密かにがっかりしてるんではないかとやや心配。だが、まぁ、それは仕方ないのだ。うまい物ネタは、世につれ、人につれ。まさか今から過去エントリーに、「この店は味が落ちました」と追記するわけにもいかない。書いたときは、本当に美味しかったのだから。個人的に困るのは、シンプルで美味しいバゲット(フランスパン)が案外ないこと。なんでも「やわらかいもの」が大好きな日本人の嗜好に合わせているのかもしれないが、バゲットの皮までやわらかいとは一体どうしたことだろう。バゲットはバゲットらしく、皮はパリッと、中はあまりもちもちしない程度にしっとりさっくりしていて欲しい。ところが、こういうシンプルなバゲットがなかなか見つからない。Parisの名を冠した有名ベーカリーも、ほとんどダメ。パリがダメならリヨンでしょう。リヨンと言えば、チョコレートのベルナションとフランス料理のポール・ボキューズ。ブラッスリー ポール・ボキューズの東京進出に歩を合わせたのか、いつの間にかベーカリーも出店している。というワケで、東京駅の大丸地下にあるポール・ボキューズ・ベーカリーまで出っ張っていった。まず思ったのは、値段が手ごろだということ。どことは言わないが、バカげた高値で売ってるパリの名店ベーカリーに比べると、ずいぶん良心的。そして好ましいのは、普通の感覚とは逆かもしれないが、それほど品数がないこと。店舗の広さもあるかもしれないが、余計な菓子パン類が少ない。そもそも日本のパン屋は、品数で勝負のところがある。もはやパリには店のないJohan Paris(銀座・日本橋の三越)など、クラクラするような品数で、焼き上がりの時間に合わせて行列ができている。こんなにバリエーションの多いパン屋は、パリでは見たことがない。Parisのベーカリーと言いながら、パリには絶対にない日本人好みのふっくらやわらかな菓子パン満載。とっても違和感がある。ポール・ボキューズ・ベーカリー東京大丸には、あまり日本ではポピュラーではないが、向こうでは人気のあるパンがちゃんと置いてあった。写真左上の濃い色の円いパンが、「カラメル・クロカン」。南仏のパンだというが、これは確かにフランス風だと思うのだ。カリカリのカラメルにたっぷりナッツの硬い歯ごたえ。こういうのがさっぱり普及せず、フランス発祥のベーカリーのはずがいつの間にやら、あんパンだとかチーズパンだとかを売るようになり、その結果日本のパン屋と同じになってしまうのは、ちょっと寂しい。右上がパン・オ・ルヴァン。レーズンから育てた酵母を使ったパン。自家製の酵母を使うパン屋も最近は増えてきた。案外自己満足的な店も多いのだが、そこはさすがにリヨンの誇る名店ポール・ボキューズ。酸味が強すぎず、上品な主張になっている。生地も適度にしっとりとしていて食べやすい。酸味のあるパンに目がないので、これはMizumizuのお気に入りに。手前がお目当てのバゲット。評価は・・・ かなり普通のバゲットです。皮はパリッとしているが薄く、やわらかめ。上品といえば、そう。正直に言うと、期待したほどではなかった(苦笑)。天下のポール・ボキューズがこの程度のバゲットをリヨンのレストランで出しているとは思えないのだが、東京のブラッスリー・ポール・ボキューズが、そもそもそれほど突出して美味しいというワケでもないらしいので、東京のブラッスリーのレベルに合わせたということでしょうかね?とはいいつつ、このバゲット・・・ラベイユで買ったブルゴーニュ産ひまわり(TOURNESOL)の蜂蜜と合わせると、急にお互いの味がグッと引き立つ。このひまわりの蜂蜜は、花粉を多く含んでいるそうで、酸味を含んだクリーミーなコクの中に、ちょっとしたクセがある。それがバゲットに塗ると、野性的なクセが消え、パンの塩味と合わさって不思議なキレになる。これはいい・・・(ホクホク)。蜂蜜は互いを引き立て合うものに合わせると、本来以上に美味しいモノになってくれる。ブルゴーニュ産ひまわりの蜂蜜がリヨンのバゲットに出会って、どんどんなくなった。また買いに行かないと♪♪
2009.10.24
ことさら世間の評価が高くなくても、妙に偏愛してしまうものがある。Mizumizuの場合は、「ゲビュルツトラミネール」がその対象だ。Gewuerztraminer(uはウムラウトがつくので、ウムラウト表記ができない場合は、ueと書く)、Gewuerzとはドイツ語でスパイスのこと。Traminerは「トラミン(地名)の」という意味。つまり「トラミンのスパイス」という名をもつ白ワインだ。名前がドイツ語とはいえ、産地はフランスのアルザス地方が有名。というより、アルザスはもともとドイツ文化圏なのだ。アルフォンス・ドーテの『最後の授業』を覚えている人は、「ドイツ人が強制的にフランス語の授業をやめさせたんじゃないの?」と言うかもしれない。だが、事実は逆で、ドイツ語圏だったアルザス地方にフランス語を持ち込んだのはフランス人のほう。フランス語はアルザスの人々にとってはもともと母語ではなかった。「フランス万歳」で終わるドーテの小説自体は感動的だが、フランス人に都合よく歴史的事実を歪曲(なんて言うと中国人か韓国人みたいだが)した作品であることは間違いない。それはアルザスに行けばわかる。「ストラスブール」という街の名前からしてドイツ語だし、建物も完全にドイツ風。食事もドイツ風だ。こういう街を舞台にして、「フランス語が強制的に禁止された」なんて被害者ヅラしたことをよく書いたもんだ。ついでに「世界一美しいフランス語」などというのもやめてほしい。秋田弁そっくりに聞こえるフランス語が、汚いとはいわないが、ドイツ語だって、イタリア語だって、それぞれに美しさをもっている。子供のころ、単純に感動して、「ドイツ人ってひどいなぁ」「フランス語って、素敵な言葉なんだ」などと思ってしまった自分が情けないや、ちぇっ!。だから、アルザスの白ワインはあくまでドイツ風だ。もっとも有名なのはリースリングかもしれない。もちろん、ゲビュルツトラミネールも多く栽培されている。ゲビュルツトラミネールはなぜか日本ではあまり人気がない。ドイツ語ができない人には名前が覚えにくいというのもあるだろうし、味わいがあまりに個性的だというのもあるかもしれない。ゲビュルツトラミネールは「ライチや薔薇の芳香をもつ」と言われる。本音で言えば、ゲビュルツトラミネールの香りがライチなんだか薔薇なんだか、よくわらかない。だが、甘やかでフルーティな香りであることは間違いない。デザートワインのような香りからは想像できない、スパイシーでぴりっと辛いエキゾチックな味わい。この意外性がゲビュルツトラミネールの魅力だ。ゲビュルツトラミネールの味には「ふくらみ」はない。だが「複雑さ」がある。花と果実の香りで誘いながら、実は甘口のワインではなく、舌先につぶつぶした刺激がくる。それがそのまま消えてしまうものもあるけれど、鼻先に抜けるように尾を引くこともあり、いったん消えたと思ったスパイシーなニュアンスが、また舌のうえに、こんどは刺激を失ってよみがえってくることもある。「花のリースリング」のような高貴さはない。といってその複雑さは、ケバさとも違う。そして、当たり外れが非常に多い。特段高級品種でもない。だから、ゲビュルツトラミネールはチャーミングな「不良少女」なのだ。成熟とは違う若々しいアロマに、多彩で個性的な味。ハズレのゲビュルツトラミネールは、香りも抜けたようになっていて、味も苦さだけが残るような平板なものになっている。こうしたハズレのゲビュルツトラミネールは、それでも、ウィンナーやチーズ、そして不思議なことにエスニックや中華料理と合わせれば、「何とか使える」ワインになる。ハズレを飲むとがっかりするが、そんなとき、「アタシはもともとその程度のワインなの。期待するアナタが悪いのよ」とせせら笑われている気がする。だがときどき、甘くかぐわしい芳香と複雑でスパイシーなエキゾチックな味という、ゲビュルツトラミネールの魅力を十二分にそなえたモノに当たることがある。わりと値段は安いワインなので、こうしたアタリに出会ったときの嬉しさも格別。先日「ザ・ガーデン自由が丘」という高級スーパーで、900円ちょっとのチリ産ゲビュルツトラミネールを買ってみた。これは間違いなく、超アタリのゲビュルツトラミネール。ゲビュルツトラミネールを置いてる店自体が少ない(量販店ではまずほとんど見ない)うえに、アタリはもっと少ないから、「ザ・ガーデン自由が丘」の仕入れはさすがだ。ただ、同時に同店で買ったアルザスのゲビュルツトラミネールは、チリのものより約400円(苦笑)高かったのだが、こちらは完全にアロマも抜けて、ミネラル分だけを強く感じるだけの平板な味だった。イタリアではGewuerztraminerをTraminer Aromatico (トラミネール・アロマティコ)と呼ぶ。「トラミン(村)の芳香」という意味だ。つまり、ドイツ人がスパイシーな味に着目して名前をつけているのに対し、イタリア人はその香りに重きをおいているということだろう。では、Traminはどこにあるかというと、イタリア北東部、スイスとの国境近くのトレンティーノ・アルトアディジェ州にある。ボルツァーノ〈ドイツ語ではボーツェン〉という街の近くで、この地方の人々はドイツ語とイタリア語の両方を話す。Traminはドイツ語での呼び方で、イタリア語ではTermeno(テルメーノ)という。道路標識にもTermeno とTraminが両方併記されている。日本ではフランスのアルザス産が有名なドイツ風の名前をもつGewuerztraminerのルーツが、今はイタリアにあるというのもおもしろい話だ。この「イタリア語とドイツ語を両方話す地方」に行ったとき、土地の人々がいったいどちらの言葉で挨拶するかな、と思って聞いてみたら、だいたいドイツ語で挨拶していた。Mizumizuはドイツ語よりイタリア語のほうが話しやすいので、イタリア語で話しかけたら、もちろん、すぐイタリア語で返事が返ってきた。そのちょっと前までドイツ語で話していた人が、すぐスムーズにイタリア語に切り替えるというのもおもしろい体験だった。ただ、普通の(?)イタリア人に比べると、何となくぎこちない気がしたような、しないような…。で、彼らはイタリア語とドイツ語は話すが、英語はかなりダメだ。日本人からすれば、英語とドイツ語は同じゲルマン系言語でかなり近い。イタリア語はラテン系だからかなり離れている。その離れた2つの言語でしゃべりながら、英語は全然話せないというのも、妙な気がするのだが、そんなことを言ってる自分は、日本語と近いはずの韓国語は全然ダメで、英語、ドイツ語、イタリア語は話せるから、やっぱり教育なんだろう。ゲビュルツトラミネールの由来の地に住むイタリア人は、もちろん、トラミネール・アロマティコをよく飲む。現地ではありふれた手ごろなワインで、日本で飲むよりハズレが少ない気がする。だが、日本でこの個性を愛する人が少ないせいか、ワインショップでもなかなか見ない。だからなおさら店に行くと、無意識のうちにGewuerztraminerを探している自分がいる。そして、運良く見つけると、フラフラと引き寄せられて手にとってしまう。アタリかハズレか買ってみないとわからない。それでもやっぱり飲みたくなる。だからゲビュルツトラミネールは、それを偏愛する人間にとっては、翻弄する永遠の不良少女なのだ。
2008.02.06
西荻に「ほびっと村」というのがある。「村」といっても要は古いビルを総称してそう呼んでいるだけのことなのだが、このビル、実に不思議な異空間なのだ。外観からして独特のムードがある。1Fは一見ふつうの八百屋だが、オーガニック野菜を扱っている店らしい。古いビルにはツタがからまり、入り口にはドアがなく、半円形にくりぬかれた入り口から中へ入る。昼でも薄暗い空間にレトロな照明。くずれかけたような階段がしゅるしゅるとのびている。2Fの窓には緑のオーニング。この店が「バルタザール」というカフェ(??)だ。ちなみにほびっと村は3Fにも続いていて、バルタザールの上は本屋(その名も「役に立つ本屋 ナワプラザード」とほとんど意味不明ww)とちょっとしたカルチャースペース(「ほびっと村学校」。それなりにいろいろな催しがあるようだが、告知を見ても、Mizumizu的にはまったく縁がなさそうな世界だ)になっている。3Fは異空間度がかなり高い。2Fのバルタザールに戻ろう。かなり目に付きにくい場所にあるカフェであるにもかかわらず、週末のランチどきはかなり混んでいる。そしてメニューは「お百姓定食」「田舎膳」といったオーガニックな健康食。「バルタザール」なんて小難しい名前からは想像もつかないというべきか、いやこのミスマッチな感覚が「西荻的に」洒落ているというべきか。客層は圧倒的に女性で、年齢も高め。野菜たっぷりのヘルシーなメニューをいかにも好みそうな人たちだ。こちらが人気ナンバーワン(?)のお百姓定食。で~んと鎮座してるのが秋茄子のフライ。それに野菜中心の小皿が3品つき、玄米(白米も選べる)と味噌汁。900円也。こちらは田舎膳、1200円。メニューは日によって違うが、この日は「サーモンとレンズ豆のパテ」「ズッキーニとパプリカのマリネ」「茄子とエリンギのアンチョビ炒め」「野菜のショウガ和え」「カボスのゼリー」それに玄米(この日は白米にしてみた)。田舎膳のほうは、全部ちょっとずつで、お品書きほどバラエティに富んでる感じはしない。味は… そう、田舎で「自宅の菜園で野菜作ってます」みたいな主婦が作りそうな味だ。東京ではこういうモノもお招きで食べるのではなく、お金を払って食べに行く、ということか。考えてみれば、フレンチ、イタリアン、エスニック、和食… とよりどりみどりの東京だが、案外こうしたオーガニックな家庭料理を食べさせる店は少ない。食べに来ているお客も女性同士で、誰かの家で手料理食べながらお喋りを楽しんでる風の人が多い。田舎膳のカボスゼリーが、果物本来のもつすっぱさがよく効いていて、ナチュラルでおいしかった。それで追加で白ゴマのババロアも頼んでみる。250円とお手頃価格。スペアミントの葉が一部欠けているのは、つい写真を撮るのを忘れて、かじってしまったため(笑)。ねっとりとしたババロアをすくって口に運ぶと、ゴマの風味がいっぱいに広がった。素材をたっぷり使った、自然で贅沢な味だ。しっかりした手作り感が伝わってくる。西荻近辺以外の人に、わざわざ「来てみたら?」と奨めるほどではないかもしれない。だが、近隣の住民が、家で野菜料理を作るかわりに食べに行く店としての存在価値は大いにあるのだろう。都会でもなく、田舎でもない。お金持ちの街ではないが、貧しいわけではない。洗練されているということもなく全体的にユルイが、どこかにコダワリは強くもっている。そんな「ディコンストラクティッドな街」西荻に、ある意味、とても似つかわしい店だ。
2007.09.15
西荻の珈琲職人は直火の自家焙煎にこだわった珈琲豆を売ってくれる店だ。もちろん、珈琲だけを飲むこともできるが、豆を買って、そのサービスとして職人が淹れてくれる珈琲を味わい、珈琲談義に花を咲かせるのが楽しい。珈琲にお湯を注ぎはじめるときの、職人のなんともいえないシアワセそうな表情がイイ。自家焙煎を売りにする店はそれほど珍しくはないが、ここの豆は、一味も二味も違う。ときどき通りかかると、お客がいない間に職人がハンドピックで不良豆を取り除いている姿を見かけることもある(店には「こんなモノ入っていました」の不良豆サンプル?もある)。職人が焙煎を始めると、そのにおいに惹かれてやってくる常連さんもいる。「売り切りご免」の限定品もある。シーズンごとにお奨めの品も変る。ここの豆を使って淹れた珈琲はまず、香りが違う。豆の膨らみ方も他の自家焙煎の店と違うことに気づく。なんというか「普通よりずっと元気よく」膨らむのだ。また、ふつう膨らみのよい豆は、雑味まで出てしまうことが多いが、ここの豆は、やや深炒りであるにもかかわらず、雑味がでにくい。Mizumizuのような素人が淹れても、そうなのだ。ドリップで珈琲を落とす手作業は、実はかなり面倒くさい。だが、ふわぁ~と膨らみ、魅惑的な香りが立ち上ってくるその瞬間があまりに楽しくて、豆を挽き、お湯をわかし、容器を温めてセットし、粉になった豆をいれて、お湯を注ぐという「儀式」の煩雑さも気にならなくなる。開いているときは店の前にスズキのバイクが置いてあるのだが、最近お昼すぎに行っても目指すバイクがない。「時間は適当」というのは、西荻らしい「ゆるさ」で、地元民としてはまったく気にならないのだが、それにしても、あまりにその状態が続くのでおかしいと思い、電話をしてみた。すると身内に病人が出て、そのリハビリを手伝うのでお昼すぎまで店を開けられなくなったとのこと。「よろしければお届けします」と言ってくれたので、エスプレッソ用の豆(挽いてもらったもの)とストレートの普通のドリップ用の豆(自分で挽くので豆のまま)を適当に選んでもってきてくれるようにお願いした。右がドリップ用のストレートの豆。Mizumizuの好みも考えてくれたらしく「ブラジル」。しっかりした苦味がありながら、すっきりと飲める。なぜかあまりブレンドが好きではないので、いつもストレートを頼んでいる。今度一度「職人ブレンド」を頼んでみよう。エスプレッソ用は、今回はブレンドではなく、あえてケニアのストレートを選んでくれた(写真左)。泡立ちはやや弱いものの(泡は立つけれど、わりとすぐに消えてしまう)、深みのある苦さに感動する。高貴な芳香も素晴しい。やはり市販のエスプレッソ用の豆とは「重層感」が違う。ケニアのエスプレッソというと、フランスの超一流レストランを思い出す。ランスにある「レ・クレイエール」では、食後にガラス張りのテラス(ほとんど温室?)で庭を眺めながら、食後のプティフールが供されるが、エスプレッソは何種類かメニューにあり、「ケニア」が一番高価だった。フランスというところは普通のカフェで飲むエスプレッソは最悪だが、それなりの場所だと非常に美味しい。美食の国は実は美食格差のひどい国なのだ。写真は庭から見た夕暮れのレ・クレイエール。雰囲気は文句のつけようがない。右に張り出しているのがガラス張りのテラス。ゆったりとくつろげる。ランスはいわずと知れたシャンパーニュの街。レ・クレイエールで奨められて味わったキュベ・ウィリアム・ドゥーツなら、何度でも飲みたい。日本でではなく、シャンパーニュ地方で、地酒として。ちなみにこのレストラン、Mizumizuがたずねたときはボワイエ氏がすでに引退した後で、食事自体には名声ほどの美味しさはなかった。往々にして津々浦々まで名声が行き渡ったころには、味はピークを過ぎているものだ。だが、食後に選んだケニアのエスプレッソは当然素晴しかった。自宅用にもヨーロッパの一流レストランで味わうエスプレッソと同種のものをさりげなく選んでくれる。もちろんこちらがフランスの話をしたわけではない。常連になることのヨロコビがある店、それが西荻の「珈琲職人」だ。
2007.07.28
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