Nonsense Story

Nonsense Story

2004.06.26
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 友人とは、銀行の自動ドアの所で別れた。
「暑いから中入る?」
「ううん。お客さんも少ないみたいだし、すぐ終わるだろうからここで待ってるよ」
 彼女はぼくの自転車を駐輪場に停めてくれながらそう言った。
「じゃあ、すぐ戻るから」
 彼女と自転車をその場に残し、ぼくは某大銀行の支店へと足を踏み入れた。この支店は小さいので、入り口は一つしかない。入ってすぐ左手にATMがあり、入り口からまっすぐ進むと窓口のある広いロビーに続くようになっていた。
 ぼくは順番を待っている間、ぼんやりと自動ドアから外を見ていた。外を見るといっても、透明ガラスの自動ドアには、ちょうど大人の目線あたりに銀行のロゴ大書してあり、かがみこまないと外からは中の、中からは外の様子はよく見えない。仕方がないので、ぼくは下の方に視線をさまよわせていた。
 店内の床はよく磨きこまれており、ドアから入る太陽の光を受けて、てかてかと輝いている。一方、ガラス越しの景色は少し揺らいで見えた。焼けたアスファルトから煙が立ち昇っているかのようだ。
 入り口の向かいにある駐輪場に友人が立っているのが見える。とりたてて太くも細くもない足が、日影を求めて歩き回っている。視界の端には、黒いズボンを穿いた男性のものらしい足もあった。入る時には気付かなかったが、警備員だろうか。こちらは暑いのに、じっと日向に立ったまま動かない。仕事とはいえ、ご苦労様だ。
 ぼくの前でATMを使っていた男性が、象のように重い足取りで機械の前から離れた。図体もデカイので、本当に象が歩いているようだ。彼は沈痛な面持ちで通帳に見入っており、なかなか出ていこうとしなかった。首筋にある大きな黒子までもが、心なしか悲しそうに見える。
 ぼくはネズミのように素早く機械の前に陣取り、画面の『お引き出し』を指で押した。機械アナウンスに従ってカードを入れる。暗証番号に続いて金額を入力し、確認ボタンを押したところで、自動ドアが開いた。
 ぼくは先程の象男が出て行ったのだろうと思っていたが、どうやらここで入ってきたのが、今窓口でがなっている男であるらしい。そういえばあの時、ATMの上に設置してある鏡に、一瞬黒いジャンパーが映ったような気がしたのだ。この暑いのにジャンパーを着込むようなイカレタ人間がいるわけがない、きっと目の錯覚だと思っていたのに。
 あの時、彼女も男と一緒に入ってきていたのか。
 ぼくの口中に苦いものが込み上げてきた。
 悪夢だ。きっとあまりの暑さに頭が湧いて、変な白昼夢を見てるんだ。隣のおばさんの頭を叩けば、目が覚めるかもしれない。
 しかし、たとえ夢でも、善良な一市民であるぼくにそんなことができるはずもなく、この夢は一向に覚める気配を見せない。


つづく





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Last updated  2004.06.26 21:11:48
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ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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