Nonsense Story

Nonsense Story

2004.06.28
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「重かったよう。臭かったよう」
 やっと咳が治まってくると、彼女はそんなことを連呼していたのだと分かった。
 重かったのは当然だろう。象男こそ彼女の下敷きになっていたが、上にいた犯人はジュラルミンケースを抱えたままだったのだから。
 赤松の言葉が聞こえたのか、倒れていた象男がさっと立ち上がって身を縮めた。
「す、すいません。ぼ、僕、腋臭なんです!」
「ああ。あなたじゃないと思いますからお気遣いなく」
 ぼくは、未だ苦しげな赤松の代わりに、男に笑いかけた。それから、彼女に被さっていたスカーフを持ち主のおばさんに渡す。
「お嬢ちゃん、大丈夫? 怖い目に遭ったわね」
 おばさんは、赤松を気遣うように身をかがめてきた。すると、赤松はまた咳き込み始める。ぼくはおばさんをやんわりと遠ざけた。
 赤松が咳き込んでいるのは、きっとおばさんの香水のせいなのだ。スカーフにもそのにおいが染み付いていた。一瞬ひっつかんだだけのぼくの手にも、そのにおいはハッキリと残っている。きっと高価な香水なのだろうが、その香りはどう嗅いでも、キンチョールのそれなのだ。つまり今の赤松は、キンチョールを顔に吹き付けられたような状態の中にいるのだった。
「そ、それじゃあ、僕はこれで・・・・・・」
 そう言って立ち去ろうとする象男を、警官の一人が引き止めた。
「すみませんが、まだお聞きしたいことがありますので、いましばらく・・・・・・」
 そこまで言って、警官の表情が変わった。象男を引き止めたまま、他の警官を呼んでいる。二人がこそこそ話し合っていると、キンチョールのおばさんが象男に向かって叫んだ。
「あなた! この前の銀行強盗犯の手配写真の人じゃないの!?」
 ほっと一息ついていた客達も、行員も警官も、みんなぎょっとした。一斉に息を飲む音が聞こえるようだ。
「ほら、体格なんかも指名手配のポスターに書いてあったのとぴったり合うじゃない。特徴として挙げてあった首筋の大きな黒子もあるし」
 おばさんは周りの様子に構わず、得意気に続ける。
「あたくし、ああいう手配ポスターって、ちゃんと細部まで覚えておくようにしてるのよ。だって、犯人逮捕を手伝うのは市民の義務ですものね。今回だって、あたくしのスカーフが・・・・・・」
 悦に入って演説を続けるおばさんを尻目に、警官の一人が象男に言った。
「すみません。ちょっと、お話を聞かせていただけますか?」
 その声音は、優しく、しかし有無を言わせないものを持っていた。
「え、あ、その、あの・・・・・・」
 象男はしどろもどろになりながらも、勢いよく走り出そうとした。しかし、そこらにはまだ紙片が散らばったままで、またもや店内には地響きのような墜落音が鳴り響いたのだった。


つづく




数年前に出た腰痛が再発したので、ひょっとしたら明日の更新はできないかもしれません。
あと二回なのに・・・・・・すみません。
リンクしている方の所も、今日の訪問はお休みさせていただきますm(_ _)m





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Last updated  2004.06.28 19:00:26
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ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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