Nonsense Story

Nonsense Story

2005.07.18
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カテゴリ: 童話もどき



 田んぼの中に蛍のように浮かぶ民家の灯りの間隔が短くなってくると、お姉ちゃんは少し安心したのか、ミツルの手を握る力を弱めた。汗ばんだ手と手の間を、すうっと風が抜けていく。
「ちょっとだけ、あんたが弟で良かったって思っちゃった」
 野上の家へと続く最後の角を曲がった時、お姉ちゃんがミツルにしか聞えないくらいの小さな声でポツリと言った。
 ミツルは目を見開いて、お姉ちゃんを見上げた。
「・・・・・・ぼく、お姉ちゃんは、ぼくと別々に暮らすことになって、喜ぶんじゃないかってちょっと思ってた」
「どうして?」
「ずっと嫌われてると思ってたから」
 男はずっと一メートルほど先を歩いていて、もう家の前まで辿り着いている。お姉ちゃんは歩く速度を少し落として小さな声のまま続けた。
「たしかに、いつもお姉ちゃんでしょって言われるのは嫌だったけどね。上っていうだけで、ゲームの順番も家族旅行の場所も、全部ミツル優先だし。お手伝いだって、あんたはお父さんの背中流しで私は洗濯物たたみ。不公平だってずーっと思ってた。私がミツルだったら良かったのにって」
 ミツルは少なからず驚いた。お姉ちゃんの立場なら良かったのにと思っていたのは、ぼくの方だったのに。
「もちろん、兄弟なんていらないって思ったこともあるよ。でもさ、こんなことになっても、一人じゃきっと家を出てくる勇気なんてなかったと思う。お父さんとお母さんは別々に暮らすことになりましたなんて言われても、一人じゃどうすることもできずに言いなりになるしかなかったと思うんだよね。家出することがいいことか悪いことかは別として、何か行動が起こせたのは一人じゃなかったからだよ、やっぱり。だから、あんたがいて良かった」
「妹じゃなくても?」
 妹だったらもっと仲良くできたかもねというお姉ちゃんの言葉を思い出して、ミツルは訊いた。するとお姉ちゃんは、何故か意外そうにミツルを振り向いた。そしてちょっとだけ微笑むと、呆れたように言った。
「そんなこと気にしてたの。男の子だから助けてくれようとしたんでしょ?」
 ミツルは、野上家の敷地に足を踏み入れながら、喜びに似た大きな安堵が胸の中に広がっていくのを感じていた。それは、無事に野上の家に着いたからだけではないような気がした。


つづく


















ちょっと(かなり?)間が開いてしまいました。
とうとうストックがなくなってしまって・・・・・・。
話が分からなくなっていたらすみませんm(_ _"m)ペコリ






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Last updated  2005.07.18 21:35:51
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ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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