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2024.02.21
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​​ 滝田ゆう「寺島町奇譚(全)」(ちくま文庫)
​​​ 最近、久しぶりに 永井荷風 「濹東綺譚」(新潮文庫) を読みました。長年続けてきた 本読みの会 の課題だったのですが、読みながら思い出したのがこのマンガです。​​​
​​​​​​  滝田ゆう「寺島町奇譚(全)」(ちくま文庫) です。
 手元にあるのは 1988年 の新刊ですが、まあ、 35年 も前の本ですから、ご覧のように、しっかり、薄汚れています。
 ご存知の方は、すぐにお分かりになると思うのですが、 永井荷風 が作品の舞台にして 濹東 と呼んでいるのが、いったい、 東京 のどのあたりで、どんな町だったのか、たとえばボクのように関西からほとんど出たことのない人間には皆目見当がつきません。​​​​​​

​​​  隅田川 の川向うといわれても、もちろんわからないわけです。あの小説の中には、あたかも 極私的東京案内 であるかのごとく、詳しい地名が書き連ねられているわけで、繰り返しますが、知っている人には
​ありありとしたリアリティ ​​
​  を作り出しているに違いないにしても、少なくともボクのような読み手には面倒くさい細部でしかないわけです。​​​
​​​​​​ で、思い出したのが 瀧田ゆう です。 1990年 に、58歳の若さで世を去った人です。 永井荷風 濹東 と呼んだこの地域の戦前の町名が 「寺島町」 らしいのですが、そこが 滝田ゆう の故郷、生まれは違うようですが、育った場所だそうです。​​​​​​
​​​​​ 作品名が 「寺島町奇譚」 とあるように、 永井荷風 「濹東綺譚」 と名付けて描いた世界を明らかになぞりながら、そのあたりをうろついていた、ひょっとしたら 荷風 かもしれない中年男の後ろ姿を、家業のお手伝いで庭先を掃きながら見ていた 小学生キヨシ の目から描いたマンガです。​​​​​
​キィ​

よっ

・・・・・・・・・?
えらいな店のそうじかい
まっしっかりべんきょうしてえらい人になるんだぞ
かわいいぼーやっ
​  ​​​​​​​​​​​​ ドン の看板がありますが、 キヨシくん の実家です。 お父さんとお母さん 、それから オバーっちゃん お姉さん ネコ タマ と暮らしています。家業はごらんのとおり スタンドバー で、 お姉さん 女給さん お父さん 板前さん です。​​​​​​​​​​​​ 住んでいる街はこんな感じです。 荷風 が通っていた、通称 「玉ノ井」 の街の風景です。二階が、女性たちの仕事場です。
​​ 「ぬけられます」 ​​
​  この看板が、この街のキーワードのようです。関西のボクでもその名は知っている戦前の有名な私娼の街です。​​​​
​​​​​​​​​​​​​​​​ ふたつの作品を読み比べてみると、 滝田ゆう はこの町で 少年時代 を過ごした人で、その、いわば 思い出の視点 から描かれています。 永井 の作品は、有名な 「断腸亭日乗」(岩波文庫) にも、その 玉ノ井通い を描いていますが、ここに通ってきた よそ者の視点 で書かれていますが、この マンガ 小説 との違いは、もう一つあって、 時間 です。 荷風 が描いているのは 1930年代の終わり、昭和10年代の始め ですが、 滝田 のマンガは 1944年 あたりから始まり、 1945年 、日付も明らかで 3月10日の数日後 までです。​​​​​​​​​​​​​​​​
​ これが、 640ページ の分厚いマンガの最後のページです。​
​​​​  1945年3月10日 この街 でなにがあったのか。そうです、 キヨシの住んでいた街 がすべて燃えて消えてしまう事件、後に 東京大空襲 と呼ばれることになる大惨事があった日です。​​​​
​​​​  永井 の小説に描かれた 大人の世界 も、ここまで、 キヨシ が暮らしてきた世界も、ともにすべて焼尽して消えてしまう、このマンガの結末は、まさに 「奇譚」 と呼ぶべき作品だとボクは思います。
 それは、まっとうな振りで暮らしている人たちが避けて通りそうな下町の私娼窟に、素朴で素直な人間や人情の美しさがあることを​ 綺譚 ​​​​​​​​​と呼んで書きしるした 荷風 にも、さすがに、想像できなかったに違いありません。 一人一人の普通の人 が、普通である証しのように、 家族や、友達や、隣のおじさんや、猫や犬と 一緒に 生きていた街 が、一晩で、
​街ごと消えてなくなってしまったんですよ。 ​​
​  これを
​奇譚! ​​

​  と呼ばずして、どう呼べばいいのでしょうね。 滝田ゆう の記憶の中に、きっと、死ぬまで存在しつづけた 「寺島町」 「奇譚」 として、読者の中に残っていくことを、柄にもなく祈りますね。私たちには忘れてはいけないことがあるのではないでしょうか。​​​​​​​​​​​​
 まあ、今では手に入れることが難しい作品かもしれませんが、いかがでしょうか。傑作ですよ。

​​  追記
 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で 楽天ID をお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​




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最終更新日  2024.04.26 23:46:31
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