Mar 8, 2016
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カテゴリ: 街で遊ぶ
堺コンビナートは戦艦大和だったのか?
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“シャープグリーンフロント 堺”  (この名前まだ公式なんだろうか? シャープが取れたグリーンフロント堺 になるみたいだ。)
(建物の屋根全てに太陽光発電パネルの話はどうなったの?  太陽電池生産工場はやっと建築申請が出た段階みたいです)


巷ではシャープが鴻海(ホンハイ)精密工業資本に買収される件が話題になっていますが、堺コンビナートの主体だったシャープディスプレイプロダクトが鴻海精密工業資本に
なった件はもう忘れ去られているようです。

堺の建設計画は2008年ごろスタートでした、日本には珍しくコンセプチュアルなプロジェクトで、そもそもコンビナートとは ロシア語でしたっけ?
婆裟羅くらいの歳だと小学生のとき習った記憶があります、石油化学コンビナートの例では 工場群の端に原油を入れると 石油製品、化学製品が次々と
連鎖的に作られるという概念で 戦後復興期の日本の臨海工業地帯に次々と作られたのでした。

一方21世紀の堺コンビナートの方は液晶のガラス基板サイズのインフレが続き第十世代(G10)では3m角にもなると 1枚20kg近くあり 運ぶためのコンテナも入れられるのは1枚もしくは数枚止まりになり数多く要るし、クリーン度を維持する為には最低3重梱包になるので輸送の費用もかさみます。
ならばガラス工場ごとTFTとカラーフィルターの工場の隣に持ってきて、ガラスは出来た傍から カラーフィルターやパネルの工場へクリーンコンベアで運べば 輸送問題は解決する、まさにコペルニクス的転回、名案でしょう。


G10_Glass.jpg
シャープ資料より転載。 G10ガラス基板と得意満面の片山元社長

そして ガラス基板サイズを拡大するのはより大型のディスプレイを効率よく作ることを狙っているのです(G10は40型TVなら18台、60型なら8台が一気に出来ます)が、装置を作る技術的困難さや価格は基板サイズに比例どころか二乗比例で増しますが、生産性の高さはG8を超越しています。
技術的な到達点の高さや装置やガラスが巨大なことから、G10を大艦巨砲主義、旧海軍の戦艦大和に例え、G10に手を出したことがシャープ凋落の原因とする人もいます。
一言で戦艦大和といいますが、巨艦で武装も大きいこと、航空機の時代に時代遅れになったことの二つがあると思うのですが、どちらの意味で「大和」なのでしょうか。


業界の外の人にはまるで興味の無い話でしょうが、G10に至るまで液晶業界の技術はどのように進んできたのか、
この20年のガラス基板のサイズをおさらいしてみましょうか。

液晶用マザーガラスサイズの変遷 (mm*mm 以下同)

第1世代   300×400
第2世代   360*465 ~400×500 1994年ごろから
第3世代   550×650 1996年ごろから (シャープ多気はもう少し早いかも)
第4世代   680×880 または、730×920 2000年から
第5世代   1000×1200 または1100×1300 2002年から
第6世代   1500×1800 2003年から (シャープなら 亀山)
第7世代   1900×2200 2005年から
第8世代   2200×2400 2006年から (シャープなら 亀山)
第9世代   2400×2800? 現状計画なし
第10世代   2850×3050 2009年から
第11世代   2017~ 2018年?


まさにチキンレース(度胸試し遅ブレーキレース)です、つまり安全サイドの技術的に冒険するずっと前にブレーキかけて次の世代へは移行しないと宣言して手堅く生産する(チキン、臆病者となり、リングから消える)か、
ぎりぎりのブレーキで最先端に止まり、他社に先駆けて次世代の量産ラインを立ち上げてコスト品質の双方でコンペティターを圧倒、撃破するか、
あるいはブレーキが間に合わなくて埠頭から暗い海へジャンプする(次世代の技術課題を解決できず生産ライン立ち上がらない)か。
最後の例になった会社も知ってますが、それはもう悲惨なものです。


G10の決断を迫られていた G8立ち上がり直前の2005-6年ごろ G10はやらないという決断は難しかったと思います。
G8までは各世代毎に装置メーカーの気の遠くなるような努力といくつかの奇跡はあったにせよ1~2年で世代アップを果たせていましたし。
(各世代の製品開発に2~3年かかっているので 各社相当に無理して次世代とその次の世代の開発を平行して続ける自転車操業でした。)
しかしG10は手がける会社が大幅に減り、頭を出すまででもG8から3年かかりました。
そしてそこから先へは誰も進めていません。
この先 G10.5やG11までは8年かかるか9年かかるか出てくるまでは何とも言えませんが、間違いなく一つ前のG10は技術の曲がり角だったということです。
G10は今思い返しても全ての要素技術、周辺技術に裏切られる毎日、毎月だったと思うしだいです。G8の設計の単純な外挿では破綻すると言うレポートをいくつ書いたことか。
でもG8までの結果オーライ、行け行け基調から抜けられなかったんでしょう、シャープも各装置メーカーも。




さらに大艦巨砲のもう一つの意味合いの、工場の生産計画自体が過大だったと批判する人もいます。
後知恵では何でもいえますが、確かに先のガラス工場を持ってくるアイデア自体が間違いなく大規模生産指向でしょう。
その他にも 高難度で品種や品種変更が多いカラーフィルターは大日本印刷と凸版印刷の2社を入れて競わせるなど、
徹底して損益分岐点の高い 量産指向の工場になっています。

ただそれで どれほど過剰になったかと言うと 例えば既に堺G10が立ち上がっていた2010年の地デジ、エコポイント特需時に液晶パネルは完全に供給不足に陥り、共同出資者のSONYにさえ充分に供給できず自社優先で出荷した為、SONYとの間で遺恨確執を残したんでしょうか、その後SONYとの関係は破局を迎えました。
つまり過大な供給量と言ってもシャープ+SONYのピーク需要さえ満たせない、その程度でしかないと言うことです。
あるいはクリスタルサイクル(液晶の需給変動)の山谷の差が激しすぎるとも言えるでしょう。
隣のある意味良く似た半導体業界のシリコンサイクル比で何倍も激しいのですから、たまりません。




ここでもし堺がG10でなく 亀山や韓国台湾中国に山ほどあるG8工場だったとしたら何が起こったか考えてみましょうか?
定量的なシミュレーションは困難ですが、G10でも吸収できなかった激しいクリスタルサイクルの需要変動のピークで間に合わないのはG10以上ですから、その後のシャープの延命が可能だったのかは、いささか疑問です。
G10建設途上の2008年もリーマンショック等 景気の波は激しく、今作っているG10工場の建設が3ヶ月凍結されるという前代未聞の事態も起きました。
(それでも各サプライヤには追加費用無し 最終納期も延ばさない という無茶をされたものです。)

その中でシャープが手堅くG8工場を国内あるいは海外工場を作って生産投資を海外にシフトしていたら、やはり経営は一時的に安定化できていたかもしれませんが
最終的には設備や労務費の低い海外のG8工場との競争に勝ち残れはしなかったでしょう。

G10に投資した後のシャープの進み方ですが、シャープが液晶業界のテクノロジードライバーで自社TV等で生産量を確保できるうちは良かったのですが、
TVセットメーカーとしてのシャープの技術力はSONYや東芝にちょっと水を空けられており、液晶の新技術は発表できてもTVの画像エンジンで業界を引っ張る力は無かったように思います。
だからこそSONYとの協業は大事だったと思うのですが、、前述のようにいろいろ有り上手くいきませんでした。




時は流れて、2012年にシャープディスプレイプロダクトは鴻海からの資本を受け入れ、凸版印刷、大日本印刷それぞれの子会社から事業を引き継ぎます。両印刷子会社は引き続き株主として事業を続けましたがソニーは手を引き資本も引き上げました。
シャープの株式保有率は鴻海と同じだけ残りましたが会社の名前は「 ディスプレイプロダクト」に変わります。
略号がSDPで変わらないのが紛らわしいですが。
さらに 2015年末からはシャープの残りの株式を鴻海が買い取る交渉が進んでいると言われています。
そうなると名実ともに台湾の会社になってしまうのでしょうね。
SDPの知り合いに工場にはどこの国のを掲揚してるんだ、と冗談で聞いたことがあるのですが、ほんとに赤い旗揚げるようになるんでしょうか。

flag_tai_2_edited-2.jpg

G10ライン、戦艦大和は揚げる旗を変えれば SDPのみなさんの救命ボートになるかな。  でもこれがG8だったら亀山と同じようにつぶされることになると思うよ。


もう一つ確実に言えるのはシャープ、シャープディスプレイプロダクトはG10ライン持っていなかったら 鴻海の資本は入らなかったろうということです。
鴻海のゴウ会長は徹底した合理主義の人と聞きますから、G10の技術ロマンみたいなものには興味はないでしょうが 安く効率良く物が作れるなら評価するのでしょう。
戦艦大和のネームバリューは要らないが戦力は評価すると言う感じでしょうか。
堺G10は巨大である点では戦艦大和かもしれませんが、生産量過大と言うほどではないし、生産技術的には他社に数年のアドバンテージを持っています。
堺G10は大き過ぎないとすると先端技術という意味で 第二次世界大戦の空母機動部隊に相当するのかもしれません。
人類の戦争史上 現在に至るまで空母機動部隊を実現、運用した国は日米二つだけですが、WW2では一方が絶滅するまで凄惨な潰しあいをしましたが、G10は今のところ一つだけで同種の競争相手はいません。


つまり鴻海にとっては これから作るBOE合肥のG10.5や華星光電のG11のような苦労をせずに、既に安定稼動しているG10ライン手に入れられるのは大きな魅力となっているはずです。
しかも堺工場を運営する日本人スタッフは技術がある上に簡単に辞めたりしません。
まあ、待遇、処遇に無茶をしなければ、ですが。
(まあ、処遇は今までもいろいろ問題あったところですから、そう悪くはならんでしょう、むしろ業績の良い時に臨時ボーナスや旅行券が出たりで好評みたいです、ホンハイ。
最近シャープ本体の不景気で本体からSDPへの出向社員は業績ボーナス対象外で、本社子会社の給与逆転が起きているそうな。Ha! )


ところで おそらく日本のみなさん(非技術者)が考えている以上に、シャープや液晶メーカーの技術力というのは実は納入している装置メーカーの技術力、開発力に依存している面が大きく、ラインに並べる装置を作っているメーカーが
海外に販売をすれば海外メーカーも一通りの製品が作れるようになってしまいます。(実際そうなっています)
韓国勢は国策で十数年間、日本から買った装置を「国産化」(韓国化)しようとしましたが 結局一定量は作るものの、韓国政府補助金はもらえなくても新しいお手本はまた日本から買っています。
中国は身の程を知っているようで、日本の装置を買ってきて真似するどころか使いこなすのさえ自分たちではあまりやらず、お雇い外国人の台湾人韓国人にやらせてます。
さらにそれをしているのは台湾資本が多かったりします。


takumi_section2_p_01.jpg
イエロールームに並ぶ装置、SDP社Websiteより転載。
ライン内の写真が世に出ることはめったにないです、その意味では国民には秘密(除く呉市民)に作られ、いつのまにか沈んでしまった戦艦大和に近いかもしれません。

堺ディスプレイプロダクトの社員、技術者にとっても自社の経営が海外企業に握られるのは面白くないことでしょう。
でも装置メーカーから見ると、世界に一つしかない隔絶した能力の物を大変な苦労をして、いくつかは身銭を切って収めたのに、それを使って技術世界の覇権を確立してくれないお客さん(シャープ)は情けなくて悔しくて涙が出ます。
商売ベースでは全ての海外メーカーに装置を売りましたが、やはり日本企業が一番上手く使いこなします。
それなのに何故その人たちがナンバー1になれないのでしょう? 経営が悪かったのですか? 運が悪かったのですか? 努力が足りなかったのですか?

まあ、液晶の製品開発、製造においてずっとナンバー1を走ることの難しさは理解しますが、日本の液晶メーカーが世界のナンバー1になることを期待して苦労を耐えたこともあるんですけど、
そういうサプライヤ、納入メーカーの思いにどう答えてくれますか?
こちら側では世代あたり数人ずつの 心身症を含む病人や離婚者 で多量の退職者を出してたんだけどな。

阿修羅王は婆裟羅と離婚も自殺もしなかったの。(笑) なにしろ婆裟羅は 毎週 死ぬ思いで帰宅 してたし、阿修羅王がシャープのエアコンとTVと冷蔵庫買っても一言も文句言わなかったしね。(泣)

BOE 合肥 のG10.5や華星光電のG11は主要部は全て日本の装置を並べることになるでしょうが、最後の詰めで自分たちの国を高めようといった気概の無い(中国人? あるいはお雇い外国人)の所為で予定通りには出来上がらない、予定通りには性能が出ないような気がします。




このロボットにも苦労させられた。当時はG10のロボットは殆ど選択肢が無かったのよ。
このタイプは仲間うちではエヴァンゲリオンの「使徒」と呼んでました。



堺ディスプレイプロダクト(株)
主要株主 (2016年1月現在、 もうすぐ変わるでしょう)
シャープ 37.61%
SIO International Holdings Limited 37.61%
凸版印刷 9.54%
大日本印刷 9.54%
自己株式 5.70%






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Last updated  Mar 13, 2016 05:14:22 PM
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