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ここ数日、戦前に製作されたベヒシュタインの調整が続いた。そのころの価値観は随分現在とは異なり、こういう楽器に触れる度、誰かから原点を再提示されているような感じを受ける。昔の録音を聴くと「これはマイクや録音技術の問題で今とは違う感じの響きになっているのかな?」と思われる方は多いんではないだろうか。自分も状態のいい古い楽器にしばしば触れるようになるまではそう思っていた。しかし、実際古い楽器から出てくる響きに触れるとその原音が古い録音で耳にする響きと同じ事を知る。1世紀前の人達の価値観を音楽以外の場面でもっと理解してみたくなる。全てが早いサイクルで回る現代社会だが、知恵とは何だ?と、こういう楽器を触る事が多くなったからなのか、最近よく考える。。。ピアノのメカニックは当時から複雑で正確に造られている。と言うか、現在の物よりも更に時間を惜しまない工夫の結晶を見る事ができる。同じような事が他の製品にも言えるのではないだろうか。上の写真は鍵盤とアクションの一番下の部分を連結しているAbstractと呼ばれる部分だが、正確に1本ずつ鍵盤と連結させ、天秤で鍵盤とアクションの隙の距離を調整している。現代は、丸い頭のPilotと呼ばれる螺子に変わった。例えばこのシステム一つをとっても、製作と高いスキルを要求する調整時間を削減する為の変化である事が理解できる。今は高価になってしまったツゲ材からできたハンマーを蹴り上げるJackと呼ばれる部品は、1世紀という年月の経年変化と言う概念は必要ないと言い切れる程の安定を感じる事ができる。我々の祖先のこうした英知を理解できず経済行為だけの為に簡単に破壊してしまう愚とは、我々のジェネレーションで決別しないとならない、と、ここの所感じる事が多い。
2011.08.26
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笑顔に労らわれ、日々の理不尽に疲れた気持ちが癒された。ピアニストSさんがベヒシュタインの購入を決めて下さり昨日が納品だった。Sさんは音楽大学で講師をつともられながらピアニストとして積極的に活動されている。ユーロピアノで行なう工房コンサートにも出演いただいていることもあって、しばしば工房にも遊びにいらっしゃる。お話を聞いていても、演奏を聴いても音楽的に共感できる部分が多く、そして何よりもピアノで遊ぶのが大好きな事が伝わってくる事が嬉しい。悩みに悩んだ末のご購入だった。マンションの4階への搬入だったので、少し大きめのクレーンを使用しての搬入だった。ちょっと大掛かりだったのでご近所のギャラリーも多く、ちょっとしたイベントになった。慎重に窓からバルコニーへ引きずり入れた。「わ~来た来た。嬉しいな」とピアノに抱きつくSさん「今回下取りにしたピアノは、中学の時から使っていらっしゃたピアノで、一生懸命練習した様々な思い出があるんです」と潤んだ目でおっしゃいながら、別れを告げられていた。Sピアニストとベヒシュタインの新しいエピソードが昨日8月6日始まった。
2011.08.07
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自分で針を刺したら音がもこもこになったので。。。という電話を受けた。どんな事になっているのかとびくびくしながらの訪問だった。お客様のピアノはザウター 185 デルタだった。MK 「どんな風になさったんですか?」お客様「アクションを引出し、ラジオペンチで待針を掴み刺しました」MK 「・・・・・・」自分で弦を張ったり、張弦後の酷く狂った音を調律するお客様は何人か知っているが、整音を自分で試みた方は始めてだった。。。音を確かめると、確かにアタックの音が“もわ~”としていたが、フォルテは出ていたのでハンマー交換は免れそうだった。ファイリング(ハンマーのフェルトを一皮むく作業)を施し、再整音すれば何とかなるか。。と一本勝負開始。音色の変化を付けやすくする為に整調のパターンも変更トータルで7時間以上に及んだ作業後、お客様に状態を確認していただいた。「あ~本当だ、こんなに変わるんですね。奇麗な良い響きになりました」とご満足いただけた。作業に時間はかかったが、ハンマー交換にならなかった事が幸いだった。器用な方々へ:ハンマーに針入れは場所と深さと角度で効果が随分変わりますし、針入れが悪い場合はハンマー交換をしなければならなくなる事もあります。非常に経験の必要な作業ですので大切なピアノでのチャレンジは止めた方が良いと思います。
2011.08.04
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