壮年の森 放浪日記
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その日只野は、結婚式への参列のため、ホテル内の教会風建物に着席していた。これを教会と呼ぶのかどうかはわからない。チャペルと言う人が多かったことは記憶している。 小さいパイプオルガンを弾く人がいる。厳かである。そういえば「フランダースの犬」のネロとパトラッシュは、このような場所で昇天したのではなかったかと思い出す。いかんいかん、縁起でもないなどと思い直す。 そのうち、不意に神父さんが横を通り抜ける。そしてその直後に主役が現れる。只野にとってはまったく不意打ちであって、ちょっとビックリすることになった。 儀式が始まる。神父は「賛美歌を一緒に歌ってください」などと言う。パイプオルガンが響く。 「あぁ賛美歌ね…えっ賛美歌?キイテナイゾ」 戸惑うまもなく歌が始まる。ハミングでもしていた方が失礼にならないかなどと思っている。いやしかし下手に歌わない方がいいかなどとも思う。 そうこうしているうちに「アーメン」となり、賛美歌は終了した。只野はちょっとホッとした。「まぁ一度ぐらいは、こんな緊張があってもいいか」 式は滞ることなく進んでいく。儀式もすみやかにとりおこなわれる。只野は他人事ながらホッとすることになる。こういうときに得てして、笑ってしまうようなことが起こるのだが、今回はそういうことはなかった。 次の瞬間、ホッとしている只野の耳に入ってきたのは、神父さんの神聖なセリフであった。 「賛美歌を一緒に歌ってください…」 「勘弁してくれぇ」只野は心の中で叫んだ。
2007年05月14日
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