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April 27, 2025
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みなさんこんばんは。『涙くんさよなら』で知られるシンガーソングライタージョニー・ティロットソンが享年86歳で亡くなりましたね。今日はバルザックの有名な作品を紹介します。

谷間の百合
le Lys Dabs la Vallee
(新潮文庫 ハー1-1 新潮文庫)
オノレ・ド・バルザック

本編は、フェリックス・ド・ヴァンドネス子爵が愛人ナタリー・ド・マネルヴィルにあてて、自分の来し方を語る手記のような書簡と、彼女の返信から成る。彼はなぜ、こんなに赤裸々に、恋の顛末を語るのか。愛人であれば、普通、他の女性の存在は隠しておきたいのでは?

 ナポレオンが倒れ、王党派が幅をきかせていた頃のフランスで、フェリックスは姉二人、兄一人のきょうだいのもと生まれた。
「まるでミサをあげる聖職者が、香の煙でもうけるように、私たちの愛情をうけていた」
 母親は兄シャルルを溺愛し、どんなに愛情を求めても得られない。ある時フェリックスは、舞踏会で見かけた肩に釘付けになり、つい後ろからキスをしてしまう。驚いて振り向いた女性こそ
「この地を淑徳の馥郁たる香りで満たし、天をめざして地上に育ったこの谷間の百合」
アンリエット・モルソフ伯爵夫人だった。

「最初にうけた教育は、大方の名門の子弟たちにほどこされる、浅薄かつ不完全なもので、社交界の教訓や、宮廷のしきたりや、側近としての重責や、顕職にあっての任務の遂行が、のちのちさらにおぎないをつけてくれるべきはずのものでした。モルソフ氏は、まさにこの第二の教育がはじまろうとしていた矢先に亡命し、ついにその機会を失してしまった」
夫は、思うように出世できず鬱々と暮らし、またマルグリットとジャック、二人の子供たちが病弱なことで
「こんな弱い子たちを産んだ母親なら、せめて面倒の見方くらいは自分で心得てもよさそうなものだ」
と、ネチネチ妻を責めていた。

皆が踊っている中で
「母親の胸に身を投げ出す子供のように、その背中の上に背をかがめ、顔をすりつけながら、肩一面に唇をおしあげ」
たフェリックス。
「はじめてあらわにされたことを恥じるかのように、うっすら色を帯び、そこにはつつましやかに魂が息づいて、なめらかな繻子の肌は、絹布のように光を映しています」
 とと、美しさが表現されるが、いきなり知らない人から、それも背中からむき出しの肩にキスされたら、そりゃあ驚くし、怒る!だって唇も半分粘膜だよ粘膜。アンリエットが手の早い女性でなくてよかったよフェリックス。彼のフェチはこの後も登場し、今度はほくろが気になる。それなのに優しいアンリエットは、フェリックスに社交界での処世術を伝授し、自らはプラトニック・ラブで満足。アンリエットの至れり尽くせりの愛情たっぷりレッスンと、彼女の父親の引き立てによって、国王に謁見する栄誉を手にしたフェリックスは、遂に念願の兄貴越えを果たす。ところが、好事魔多し。すっかり人気者になったフェリックスに、イギリス人の人妻ダドリー夫人が猛烈アタックを開始。健康な男子が、いつまでもプラトニックに満足できるはずもなく…。

 最初に読んだ時に、悶死とはどのような死だろう?と思った。常に、清く正しく美しく、自分の気持ちを抑えに抑えてきた人が、悶死するとはすさまじい。フェリックスを息子扱いしていたが、本当はそれほど強い情熱をフェリックスに抱いていた。思いも情熱も、相手に直接ぶつけていれば。しかしそれは彼女の生き方ではなかったのだ。背後から粘膜攻撃やられて、裏切られて、アンリエット、優しすぎるよ(涙)。

  よくよく考えれば、女性の返信もバルザックが書いているわけで、彼の自虐っぷりが炸裂した作品でもある。二人の女性のフェリックスへの痛烈の一発を含めて、本作は名作である。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
(『人間喜劇』より)


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最終更新日  April 27, 2025 12:00:25 AM
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