ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

Jan 16, 2005
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カテゴリ: 本を作る
出版業界でメシを食う方法(その九)

さて自分の出版社が出来た頃の話です。資金不足の私は他の出版社の企画・編集請負をやりながら自社の本を作っていました。資金作りの方法は、以前この日記にも書いた俳優さんたち有名人の本や、スキー雑誌の出版社から別冊の丸ごと請負です。自社の企画はスキー書を中心にアウトドアスポーツ全般へと徐々に広げていきました。


私は緩斜面の帝王です

シーズン中はスキー場に入り浸っているのに私のスキーは初心者並です。

理屈だけは頭に入っていても、体が反応してくれません。

杉山進さんのホームゲレンデ、奥志賀高原でいつもゴロゴロしていました。


スイスイじゃないのです。ゴロゴロです。みんなの滑りを見ているだけです。

スキーのインストラクターの人たちやスキー場関係者は挨拶に来ます。

「ご苦労様で~す」「お世話様で~す」「コンニチワー」


誰もが丁寧に挨拶していきます。

「ご苦労様で~す。先生~っ、私のスキーはどうですか?」

「いやー、上達されましたね。いいんじゃないですか」


私に声を掛けてきたのは指揮者の小澤征二さんです。

最初は、てっきり私をスキーの先生と思っておられたようです。

それも他の先生たちが丁寧に挨拶するものだから、大変な人物らしいと……。


「誰も知らなかったよ、そんな人」

子どものスキーの本を作ろうと私の息子をスキー場へ連れていきました。

自分の息子ならモデル代のギャラはかかりません。

息子たち二人は、まだ小学生でした。


私と小澤征二さんや杉山進さんが雑談に花を咲かせていました。

「このオジさんはね。小澤征二っていって凄く有名な音楽家だよ」

息子たち二人も横でジュースを飲んでいました。


一週間ほどして東京へ帰ったときの話です。

「お父さん、ボク、恥かいちゃったよ。小澤征二なんて有名じゃないよ」

「誰も知らないよ、そんな人。友だちに知っている人いなかったよ」


世界の小澤さんも子供たちにかかっては形無しです。

子供たちは喜んではくれなかったものの、いろいろな人と出会いました。

当時、杉山さんのロッジ、スポーツハイムは一流人の溜まり場でした。


一冊の本と武藤さんと小澤さん

小澤征二さんと仲の良かった人に武藤さんという方がおられました。

当時、日本鋼管の取締役・社長室長をやっておられました。

温和な、なかなかの人物です。奥志賀に別荘を持っていました。


日本で始めての高層ビル、霞ヶ関ビルを設計した方の息子さんです。

お父さんは東大名誉教授で大成建設の副社長でした。

私は以前、建築の本を作っていたので、お父さんのことは知っていました。


「ボクが翻訳するから、ゲオルグの本を出版してもらえませんか」

ゲオルグ・ヘルリグレ、オーストリーのデモンストレーターです。

杉山進スキースクールにも客員教師として滞在していたことがあります。


打ち合わせで呼ばれた日本鋼管の役員フロアーに降り立ちました。

「お待ちいたしておりました。ご案内させて頂きます」

半端じゃありません。ホテルなんてもんじゃありません。


さすが超一流企業の役員フロアーです。

秘書の女性も飛びっきりの美人さんたちです。それも一杯。

絨毯はふかふか。これじゃ歩きにくいぐらいです。


役員応接室への電話

私と武藤さんが話をしているときに秘書の女性が電話を取次に来ました。

「小澤先生からお電話が入っておりますが、いかが致しましょうか」

「いいよ、こっちへつないで」


「ヤァー、いま○○さんも一緒なんだよ。小澤さんも来ればいいのに」

「えー、そう。そのメーカーの板は小澤さんには堅過ぎるよ」

「だめだよ、それも。ほかにどのメーカーの板があるの?」


「ダメだね。よければ、ボク行ってあげるよ。選んであげるよ」

「えーっ、ウクライナ。何この電話、ウクライナから」

「じゃーダメだ。適当でいいんじゃない。滑れればいいんだろ」


小澤さん旧ソビエトで演奏の合間にスキーをやろうと思ったみたいです。

「どおりで、電話が遠いと思ったよ。まったくもー」

武藤さんと小澤さん。いつもこんな調子でした。


運転手付き役員専用車で原稿が届く

私の事務所の前に黒塗りの高級車が止まります。役員専用車です。

降りてくるのは日本鋼管の美人秘書さん。

「武藤から言いつかってまいりました」


封筒の中身はミミズが這ったような字で書かれた原稿4、5枚だけ。

こんなラリーを繰り返し、本が出来るまで一年はかかりました。

ゲオルグの本が出来てまもなく、武藤さんは亡くなりました。


まだそれほどの年でもありません。喉頭ガンでした。

たぶん自分で分かっておられたのでしょう。

あとで考えると言葉のすみずみに余命の少なさが滲んでいました。



小澤征二さんが奥志賀高原で森のコンサートを開きました。

私は女房を連れて出かけました。前の日はスポーツハイム泊まりです。

「やりましょうよ、前夜祭」。小澤さんが声を掛けてきました。


ハーブ奏者を中心に同宿の演奏家が集められました。10人ぐらいです。

観客と演奏家の数はほぼ同じです。もちろん小澤さん指揮です。

でもその場にはもう、武藤さんの姿はありませんでした。



つづきます。





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Last updated  Jan 17, 2005 12:13:46 AM
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聖書預言@ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…
KURADON @ Re:ネットを再開するぞーっ! と思ったとたん(04/28) わあっ❗️ いきなり KURADONさん とでた!…
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のりのり@ よかった 久しぶりにのぞいてみたら、ご隠居さん本…
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38万円で本ができた


第一章 もっと手軽に自分の本を作れたら


第二章 協力出版と懸賞募集の甘い罠


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第四章 本にする原稿をまとめよう


第五章 自分の本を売ってみよう


第六章 安く本を作る方法を考えよう


第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表


第八章 昨今の出版業界のお寒い事情


第九章 いまどきの本屋さんと物流事情


第十章 出版業界こぼれ話


【出版後記】


負けてたまるか


その1


その2


その3


その4


その5


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舞台裏からの独白


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第一章 先住民/黒猫の『タンゴ』


第二章 山里「コンタ」発見


第三章 知らないってことは


第四章 竹の子で仲間を釣り上げる


第五章 森の天使の小さな落し物


第六章 小悪魔『チビクロ』参上


第七章 チビクロ砦とチビクロ王国


第八章 まったくもう、田舎暮しってヤツは


第九章 チビクロ、チビコゲへ変身中


第十章 隠れビーチで日向ぼっこ


第十一章 チビクロ、何処へ行こうか


第十二章 何で、お前まで行ってしまうの


第十三章 ムジナに見送られ、街へ帰る


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第九話 原稿は役員専用車で届く


第十話 スパイにされちゃった


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第十二話 閃いた


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第二章 したたか女はイイ女


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