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2011年10月17日
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「方丈記私記」堀田善衛 ちくま文庫

しかし、方丈記の何が私をしてそんなに何度も読み返させたものであったか。
それは、やはり戦争そのものであり、また戦禍に遭逢しての我々日本人民の処し方、精神的、内面的処し方についての考察に、なにか根源的に資してくれるものがここにある、またその処し方を解き明かすよすがとなるものがある、と感じたからであった。また、現実の戦禍に遭ってみて、ここに、方丈記に記述されている、大風、火災、飢え、地震などの災厄の描写が、実に、読むほうとしては凄然とさせられるほどの的確さを備えていることに深くうたれたからであった。またさらにもうひとつ、この戦禍の先のほうにあるはずのもの、前章および前々章に記した「新たなる日本」についての期待の感及びそのようなものはたぶんありえないのではないかという絶望の感、そのようないわば政治的、社会的変転についても示唆してくれるものがあるように思ったからであった。政治的、社会的変転についての示唆とは、つまりはひとつの歴史感覚、歴史観ということでもある。


堀田善衛は「方丈記」という字数にして9000字あまりの文を、東京大空襲に遭った1945年3月10日から上海に出発する3月24日の間、集中的に読んで過ごしたという。ほとんど暗証できるほどになぜ読んだか。その説明が上記の文章である。ここに書いている「絶望の感」とは、具体的には、堀田が3月18日に出合った光景をさしている。

1945年3月18日、堀田善衛は焦土の東京・深川をあてどもなくさまよい、冨岡八幡宮に出たところで昭和天皇の焦土視察に遭遇するのである。そこで見たのは焼け出された庶民の土下座であり、涙を流しながら「陛下、私たちの努力が足りませんでしたので、むざむざ焼いてしまいました」という小声の呟きだった。堀田は心底驚く。その時の感想が以下の文章だ。

人民の側において、かくまでの災厄をうけ、しかもそれは天災などではまったくなくて、あくまで人災であり、明瞭に支配者の決定に基づいて、たとえ人民の側の同意があったとしても、政治には結果責任というものがあるはずであった。(私は政治学に籍を置いていたことがあった)けれども、人民の側において、かくまでの災厄をうけ、なおかつかくまでの優情があるとすれば、日本国の一切が焼け落ちて平べったくなり、上から下までの全体が難民と、たとえなったとしても、この、といまのことばを援用して言えば、体制は維持されるであろう、と私にしても、何程かはやけくそに考えざるを得なかったのであった。前回に書いた新たなる日本が果たして期待できるものかどうか……。

しかも人々のこの優しさが体制の基礎になっているとしたら、政治においての結果責任もへったくれもないのであって、それは政治であって同時に政治ではないことになるてあろう。政治であって同時に政治ではない政治ほどにも厄介なものはないはずである。(p65-66)

堀田はこれを「無常観の政治化」と呼ぶ。

それは長明の以下の文章に直結するのである。

世にしたがへば、身くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いずれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。

古京はすでに荒れて、新都はいまだならず。ありとしある人は皆浮雲の思ひをなせり。


これ以前の青年堀田は、すこしレーニンを齧り、天皇のいない日本を夢想していた。しかし、焦土の東京でそのような「新都」は夢なのだと悟ったのである。長明から受けた感覚というのは、そういう歴史感覚、「歴史というものがあるからこそ、我々人間が持たなければならぬ不安、というものであった」。

少しわかりにくい。堀田はそこから考えを進めて、戦中戦後の「歴史の転換期」においては、常に「古京はすでに荒れて、云々」でしかない、つまり「歴史はそういう形でしか、人々の眼前に現出することができないのだ」と思い知るのである。

堀田はもちろん、方丈記を戦中戦後の「転換期」のなかで「再読」した。それがゴヤの伝記等に結実したのだろう。我々には、また我々の課題がある。我々に課せられているのは、これまた、震災後の「転換期」のなかで、「方丈記」を「再読」することではないのか。

原発事故があって、「たとえ人民の側の同意があったとしても、政治には結果責任というものがあるはずであった。けれども、人民の側において、かくまでの災厄をうけ、なおかつかくまでの優情があるとすれば、日本国の一切が焼け落ちて平べったくなり、上から下までの全体が難民と、たとえなったとしても、この、といまのことばを援用して言えば、体制は維持されるであろう、」
今のところ、人民はホント「優しい」。

期せずして、来年の大河は「平清盛」である。映像でも我々は平安末期の戦乱と、地震と、火災の災厄を見ることになるだろう。





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最終更新日  2011年10月18日 02時24分52秒
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