まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2020.11.03
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『鬼滅の刃』の世界観は、
日本の記紀神話に関係しており、
山民・山伏などアジールの歴史にも関係するのですが、
それはとりわけ、
禰豆子のキャラ設定のなかに集約されていると思います。



『鬼滅の刃』の世界において、
謎を解く鍵になる最重要キャラは、すくなくとも3人。

まずは、鬼の元祖である鬼舞辻無惨。
さらに、鬼殺隊当主である産屋敷耀哉。
そして、炭治郎の妹である禰豆子です。

なぜ禰豆子は、鬼になっても人を喰わないのか?

このことが、鬼舞辻や産屋敷の出自とともに、
鬼の謎を解くための大きな鍵になっています。



禰豆子の名前の由来は何でしょうか?
眠ってばかりいるのに「寝ず子」?

(=父祖の霊力) (=鬼を払う霊力)

という意味合いを考えれば、
おそらく竈門家の父方が、鬼にも屈しない特別な家系であり、
なかでも禰豆子は、その血をもっとも強力に受け継いだ子なのでしょう。

この漫画の当初のタイトル候補として、
「鬼狩りのカグツチ」「炭のカグツチ」などがあったらしいので、
竈門家の父方は、おそらく日本神話のカグツチに連なるはずなのです。

歴史学者の岡田英弘は、
倭国の最初の王の名が 「禰」 (でい) だったと唱えていますが、
いずれにしても特別な家系であることをうかがわせます。



日本神話でイザナギとイザナミが産んだ三貴神のうち、

アマテラスは皇祖神であり、
鬼を死滅させる太陽の女神でもあります。
スサノオは草薙剣を振るった武力神であり、
桃太郎の鬼退治伝承に重なる部分があります。
ツクヨミは月と仁慈の神であり、
竹取物語のかぐや姫に重なる部分があります。


これに対して、
カグツチは、火の神として産まれ、
そのせいで母のイザナミは焼け死んでしまいました。
ヒルコという神も、異形の子として生まれ、
海に捨てられてしまいました。



わたしの仮説ですが、
カグツチに連なるのが禰豆子の父方の竈門家であり、
ツクヨミに連なるのが禰豆子の母方ではないかと思っています。

というのも、
禰豆子には、 カグツチとツクヨミの両方の要素 を感じるのです。

竈門家は、
アマテラスやスサノオのように、
勧善懲悪的に鬼を退治してきた天皇家や桃太郎とは違います。
むしろヒルコやカグツチのように、
鬼にさえも共感するような不遇な面をもっているのです。
(ヒルコに連なるのが「鬼」なのかもしれません。)

また、
禰豆子の長い髪や、くわえている竹や、
大きくなったり小さくなったりする体、
さらに一般の人間にはない特殊な能力には、
月の住人であるかぐや姫との類似性が感じられるし、
人への慈しみはツクヨミに通じるものに思えるのですよね。



一般には、
アマテラスこそが「太陽神」(日の神)であるとされ、
だからこそ、それに連なる天皇家は鬼を退治してきました。

しかし、『鬼滅の刃』の世界では、
カグツチこそが「火の神」であり「日の神」であるとされます。
そして、それに連なる竈門家の人々は、
たんに鬼を退治するのではなく、
鬼を人に戻すことができると信じるのです。





禰豆子は体を小さくして木箱に収まっています。
この木箱には、3つの由来が考えられます。

1.背負子 (しょいこ)
本来は、炭焼きの薪を背負うための道具で、
木を梯子状に組んで作ったものです。
二宮金次郎の銅像も背負子に薪を積んでいます。

2.笈 (おい)
本来は、修験者が法具などを運ぶためのもので、
背負子 に箱をのせたものを「板笈 いたおい /縁笈 ふちおい 」と呼び、
箱そのものに肩帯を付けたものを「箱笈 はこおい 」と呼びます。
炭治郎や武蔵坊弁慶が背負っているのは箱笈のタイプです。

3.まわり地蔵
江戸時代、日本の各地には、
村の家々に地蔵を巡回させる風習があり、
現在でも、 に地蔵を入れて運ぶ地域が残っています。
疫病退散や子宝祈願などの御利益があったようです。
もともとは旅の修行僧が村にもちこんだものとも言われています。

木箱に小さく収まった禰豆子は、
修験者や炭焼にとっての守り神のような存在なのかもしれません。





最後に、
彼岸花という植物についてまとめておきます。
TVアニメのエンディング「from the edge」のときにも出てきますが、
仏教における曼珠沙華 (まんじゅしゃげ) とも同一視される謎の植物です。
英語でいうと 「red spider lily」(赤い蜘蛛百合) ですね。

柿本人麻呂が、万葉集で、
「路邊 壹師花 灼然(道の辺の 壱師の花の いちしろく)…」
と詠んだのも、赤い彼岸花だったとされるのですが、
これについては賛否が分かれています。


彼岸花=曼珠沙華は、
球根に毒をもち、日本では墓地に生えていることが多く、
「死人花」「地獄花」「幽霊花」などとも呼ばれており、
その「罪」のイメージが山口百恵の曲になったり、
その「諦め」のイメージが小津安二郎の映画になったりしています。
赤い炎のような花の姿は「火」のイメージ にも結びつけられます。

かつて日本の墓地に多くの彼岸花が植えられたのは、
秋のお彼岸のころに花を咲かすからだけでなく、
その球根の毒によって、
土葬された遺体を食害から守るためでもあったようです。



彼岸花=曼珠沙華には、
しばしば不気味で不吉なイメージがつきまとうのですが、
じつは、そこに花の 「色」 の問題が絡んでいます。

仏教における曼珠沙華は、
説法をする釈迦の頭上に天から降った聖なる花であり、
「मञ्जूषक/mañjūṣaka=赤い」 という梵語に由来するのですが、
本来は、一目見ただけで悪業から救われるような 白い花 だった、
ともいわれているのです。

一方、山口百恵の「曼珠沙華 まんじゅしゃか 」の歌詞では、
曼珠沙華 恋する女は 罪作り
白い花さえ 真紅に染める
白い夢さえ 真紅に染める

というように歌われています。

ここでは、曼珠沙華の 赤い色 が罪業の象徴になっていますが、
もともとの仏教では、
むしろ 紅蓮 ぐれん の花 こそが地獄に落ちた者の血のような色だ、
とされていたのです。





『鬼滅の刃』の世界においては、
青い彼岸花 が存在するとされています。

日本原産の青い花といえば、代表的なものは です。
は、マメ(豆)科であるのみならず、強い日光を好む植物でもあるので、
『鬼滅』において、鬼はとりわけ 藤の花 を嫌うとされています。

ちなみに飛鳥時代、中臣鎌足は、
藤の花 のもとで中大兄皇子と謀議をしたことから、
蘇我入鹿を討ったのちに 「藤原」 の姓を賜ることになりました。
その次男の不比等が 藤原姓 を受け継いで、
大宝律令選定や平城京遷都や日本書紀編纂などの事業に影響力をふるうと、
藤原氏 はさらに天皇との結びつきを強めて権勢を誇り、
やがて 佐藤、斎藤、伊藤、後藤、加藤、遠藤… などの姓を派生させていきます。
すなわち、日本史的に見ても、 という植物は最強だったのです。


かりに、
から にではなく、
強い日光を浴びた藤と同じように、
から に変異した彼岸花/曼珠沙華があったなら、
それは、鬼の性質をも変異させるのかもしれません。




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最終更新日  2021.12.06 14:32:36


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