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長田育恵が、岩井圭也の小説「われは熊楠」をエラく買ってるらしい。直木賞候補だそうです。朝ドラ「らんまん」のときから、いずれ長田育恵は熊楠のことを劇化・ドラマ化するかも!…みたいな予測はありましたけど、ちょっと現実味を帯びてきた感じ?「熊楠役を演じるとしたら誰だろう…」とか。藤丸くん(前原瑞樹)も、ちょっと熊楠っぽかったんだけどね。劇作家の長田育恵さんが、けさの読売新聞に『われは熊楠』の書評を書いてくださいました。こちらのポストにある「この小説は、決して偉人伝じゃない」という言葉に救われます。 https://t.co/pWsCuG1Swg— 岩井圭也 (@keiya_iwai) August 18, 2024波多野が洋装になったというのに、藤丸はいつのまにか上裸になっていました。倉木さんのような体を目指していたのに、少しだけ間に合いませんでした。朝からお見苦しい姿を失礼いたしました。もうお昼なので、サービスショットです😉昼らんまんよろしくお願いいたします。#朝ドラらんまん pic.twitter.com/VIROQO7yWU— 前原瑞樹 (@mizukim4rny) August 15, 2023 📗知の巨人の内奥に迫る📗8/18読売で岩井圭也『われは熊楠』評(長田育恵さん)。南方熊楠の半生を「内奥世界から誠実に描写」、キャリアに隠された苦悩と近しい人達との断絶、軋轢と、森羅万象の真理に肉薄しようとする意思。強烈な熱量を放つ力作にして直木賞候補作です。https://t.co/wnDMD8JCYC pic.twitter.com/KvfatZl67g— 文藝春秋プロモーション部 (@bunshun_senden) August 18, 2024われは熊楠 [ 岩井 圭也 ] 楽天で購入
2024.08.21
まだまだ「らんまん」ネタが!前回は、時代考証担当者のインタビューを取り上げましたが、それ以外にもネタバレ的な記事がネットにあがってる。◇まずは、スエコザサについての万太郎のセリフのこと。万太郎は、スエコザサの美しさを竹雄にこう説明しました。> 葉が波打って、おかげで光によう映える。> 葉の表面には白い毛が生えちゅうけんど、> その細い毛が光に透けてきれいじゃった。これ聞いたときに、なんだかエロティックな表現だなあと思ったのよねwじつは、その伏線らしきものが第70話(14週)にあったらしい。https://encount.press/archives/520117/つまり、万太郎は、寿恵子の寝顔を見てこう言ったのです。> 寿恵ちゃんはまつ毛が長いのう。> 生え際もかわいいし、うぶ毛が朝日に透けちゅう。すると、寿恵子は目を覚まして、> 人のことを草花みたいに観察しないで!!と叫びます。…たしかに、そんなような場面がありましたねえ。 「寿恵ちゃんはまつ毛が長いのう…生え際もかわいいし、うぶ毛が朝日に透けちゅう」寿恵子が目覚めると、目の前には万太郎の顔が…#朝ドラらんまん#神木隆之介 #浜辺美波 pic.twitter.com/djVOKy6qt8— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) July 7, 2023 ◇つぎに、綾と竹雄のつくった新酒について。2人は「峰の月」の伝統を継承しつつ、藤丸の科学の力を借りて「輝峰」を開発したわけですが、土佐の酒蔵の名が「峰屋」だったのに対して、2人が沼津に建てた酒蔵の名は「綾乃竹」だったらしい。https://mdpr.jp/drama/detail/3975021…細かいところまで作ってますね。…長田育恵は、最終週のテーマが「継承」だと言ってたけど、それは、万太郎が植物図鑑を後世に残すことだけでなく、綾と竹雄による「酒造りの継承」でもあり、丈之助による「演劇文化の継承」でもあり、佑一郎から教え子への「土木技術の継承」でもあり、千鶴と紀子による「標本資料の継承」でもあった…ってことですよねえ。https://mantan-web.jp/article/20230929dog00m200062000c.html◇つぎは、牧野富太郎と池野成一郎の親交の話。前回の記事にも書きましたが、波多野のモデルは染谷徳五郎と池野成一郎の2人です。牧野と染谷は、もともと植物学教室で仲良しだったと思いますが、それ以上に、牧野は池野とも親しかったらしい。たしかに自叙伝にも「親友の間柄」とあります。https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/55789_52788.htmlそう考えると、染谷と池野を1人のキャラに融合させたのは、必然性があったといえますね。なお、池野の妻は、松村任三の妹だったらしい。ドラマでいうならば、波多野くんの義兄が徳永教授だったってこと!また、池野成一郎の孫は、映画音楽の世界でも活躍した池野成だそうです。ゴジラでは伊福部昭のアシスタントだったとな。なお、今回は伊福部昭ではなく佐藤直紀です。◇つぎに、田邊教授の奥さま=聡子について。モデルになったのは矢田部順しゅんです。彼女は未亡人になってしまったわけですが、その後も長生きされて、昭和34年(1959)までご存命だったとのこと。明治2年(1869)生まれなので、90才です!米寿のお祝いのときには、旦那さんの思い出も話されたらしい。なお、彼女の旧姓は「柳田」なのですが、妹の婿養子になったのが柳田国男なんだって!!つまり、矢田部良吉と柳田国男は相婿の関係だったってこと。すごい学者一族です。https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/77182◇つぎに、牧野富太郎と南方熊楠の関係について。前回の時代考証担当者のインタビューでも、「牧野は熊楠を植物学者と見なしていなかった」との話がありましたが…実際、牧野は熊楠の死後にこんなことを書いたらしい。> 南方くんは、往々新聞などでは、> 世界の植物学界に巨大な足跡を印した大植物学者だと書かれ、> また世人の多くもそう信じているようだが、> 実は同君は大なる文学者でこそあったが、> 決して大なる植物学者ではなかった。…けっこう失礼な言い草ですwこの口ぶりから察するに、牧野は熊楠のことを嫌ってたようにも思えるし、自分の名声を脅かす巨人ぶりに警戒してたようにも思えます。https://gendai.media/articles/-/116705◇そして、牧野富太郎と東大との関係について。前にも書いた通り、松村任三は、いったん助手の牧野富太郎を非職にしたものの、まもなく牧野は講師として復帰したので、結果的には78才まで東大で仕事をしています。しかし、東大とは最後も喧嘩別れだったらしい…。https://gendai.media/articles/-/113033?imp=0◇◇さて、ここからは長田育恵についての話。じつは10年以上も前に、彼女の劇団で美術を担当している杉山至から、「牧野富太郎のことを書いてみたら?」と言われていたのだそうです!NHKから朝ドラの話があったのは、一昨年のドラマ「流行感冒」が出来た後だそうですが。https://realsound.jp/movie/2023/09/post-1444794.html下の記事にも書いたとおり、https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/202308120000/朝井まかても、2016年の「落陽」を書く前に、「牧野富太郎のことを書かないか?」と打診されてたようだけど、長田育恵には、それよりも前に話があったんですねえ。牧野富太郎にかんしては、戯曲化や、小説化や、ドラマ化の話が、いろんなところで立て続けに持ち上がっていたのだな。◇ところで、長田育恵は、もともと小説家志望だったそうです。そのきっかけは、湯本香樹実の小説「夏の庭 The Friends」を読んだこと。相米慎二が三國連太郎主演で映画化しています。長田育恵の母親は、今回の朝ドラを見ることなく亡くなったらしいのだけど、亡くなる前に「小説は書き上げられた?」と彼女に言ったそうです。そのことを考えると、長田育恵は今後、小説を書くのかもしれませんね。https://dot.asahi.com/articles/-/202389
2023.10.04
朝ドラ「らんまん」。読売新聞のweb版に、時代考証を担当した門松秀樹のインタビューが掲載されてます。https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20230925-OYT8T50114/https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20230925-OYT8T50113/◇いろいろと答え合わせが出来ました!1.虎鉄のキャラは3人の人物の掛け合わせだった!土佐の中学校の教師で、生徒が見つけたヤッコソウを牧野に送った山本一 、高知高等学校の教授を務め、キレンゲショウマを発見した吉永虎馬、そして11歳から富太郎の弟子となった植物学者の小山鉄夫さんがいます。そうかあ。「山本」+「虎馬」+「鉄夫」=山元虎鉄だったのね(笑)。2.竹雄のキャラも2人の人物の掛け合わせだった!猶は岸屋の番頭だった井上和之助と“再婚”しています。なお、富太郎が初めて上京した時に同行したのは井上の前に岸屋の番頭を務めていた佐枝竹蔵の息子、熊吉でした。…なるほど。上京に付き添った番頭の息子は佐枝熊吉で、次代の番頭になって牧野猶と結婚したのが井上和之助なのね。3.波多野のキャラも2人の人物の掛け合わせだった!波多野泰久のモデルは染谷徳五郎と池野成一郎。これは見落としていた…というか、ちょっと混同してました。牧野富太郎と仲良しで、一緒に植物学雑誌を創刊した2人が市川延次郎(藤丸のモデル)と染谷徳五郎。平瀬作五郎のイチョウ精子発見に協力して昭和2年に帝国学士院会員になったのは池野成一郎。ちなみに池野はソテツの精子も発見している。4.酒屋が潰れた最大の原因は牧野富太郎の浪費!岸屋の経営が傾いたのは造石税による酒蔵への増税だけでなく、富太郎への巨額の仕送りも原因だったといわれています。ドラマ全体を通じて、富太郎の欠点はマイルドに描かれています。…これはそうだろうと思ってましたが、むしろ造石税のことをドラマを見てはじめて知りました。5.坂本龍馬と会っていた可能性もなくはない!龍馬の行動を詳しく調べ直したところ、慶応3年(1867年)の初め頃に下関で「風邪をひいた」と言って誰とも会っていない「空白の3日間」があるのを見つけました。前後に1日ずつ加えて5日あれば、船を使って土佐まで往復できます。そこで、迎えに来た侍に「下関にいることになっているんだから、目立つ行動はしないでくれ」というセリフを加え、万太郎が龍馬と会った可能性がゼロではないことを示すことにしました。…逆にいうと、坂本龍馬の行動履歴って1日単位で解明されてるんですね。すごいなあ。6.早川逸馬のモデルはやっぱり植木枝盛?土佐は板垣退助が自由民権運動の中心にいたことで、中江兆民や植木枝盛など、著名な民権運動家を多く輩出しました。こうした多くの民権家たちの行動を重ね合わせて早川という人物が生まれたといえます。植木は造石税への転換による大増税で苦しんでいた全国の酒蔵に呼びかけて、酒税軽減を訴える「酒屋会議」を大阪で開いているので、民権家の中でも酒屋とは縁が深い人物ですね。ネットでも植木枝盛の名前は上がってましたが「酒屋会議」のことは知りませんでした。7.高藤雅修は薩摩の実業家ではなく華族だった!(笑)最初の台本では高藤は華族、具体的には父は公爵で跡継ぎ息子の高藤は子爵、とされ、名前も「雅也」でした。子爵という設定をやめると、なぜ高藤が政府高官と顔なじみなのか説明できなくなってしまいます。制作側と相談の結果、幕末の海外留学生たちの経歴を借りることにしました。長州(山口県)から留学した「長州ファイブ」は5人しかいないから架空の人物を加えるのは難しいけれど、「薩摩スチューデント」は20人ぐらいいるから何とかなる、ということで、高藤は薩摩出身になったわけです。そうだったのか~。結果的に、このドラマは薩摩人の悪者が多かったよね(笑)。台湾に「ピストルを持っていけ」と言った軍人も薩摩訛りだったし。8.田邊教授の東大追放は森有礼の暗殺が原因ではない?富太郎をかばい、時に叱ってくれたのは動物学者の箕作佳吉でした。ドラマでは美作秀吉という人物が登場しています。出世欲が強く、田邊と廊下ですれ違うたびに敵対心をむき出しにした嫌味を言っていましたが、それは、同じ時期に帝国大学にいた箕作の実兄、数学者の菊池大麓のキャラクターを美作に加えているからで、実際の箕作はそんな人ではありません。一方で、菊池は矢田部と非常に仲が悪く、互いに派閥を作って帝国大学理科大学の学長の座を激しく争っています。ドラマでは初代文部大臣の森有礼が明治22年(1889年)に暗殺され、森の片腕と目されていた田邊が後ろ盾を失ったことを非職の一因のように描いていました。史実では矢田部も菊池も森の開明的な教育方針を支持していましたから、矢田部が非職になったのは森の暗殺より、菊池との派閥争いに原因があったと考えられます。さまざまなポストを解任された矢田部が、植物学の研究に戻っていくのは事実です。へ~。これも知らなかった。矢田部良吉と菊池大麓は同じ森有礼派だったのに対立してたのね。9.ドイツでの日本人差別はなかった?黄色人種やアジア人に対する差別はあったかもしれませんが、明治時代の留学生の報告書を見ても、「日本人は同じ学校に通うな」「同じ授業に出るな」といった差別を受けた記録はありません。西欧で差別を受けた話があるのは、むしろ南方熊楠ですよね。Wikipediaには「大英博物館の図書館で閲覧者に人種差別発言を受けた熊楠は大勢の前で頭突きを喰らわせ3か月の入館禁止となった」とあります。10.むしろ差別的なのは牧野富太郎だった?南方が富太郎にハチクを送って交流しようとしたのは史実ですが、富太郎は南方に会おうとしませんでした。これは東京帝大に迷惑をかけないためではなく、民俗学などにも手を出す南方を植物学者と見ていなかったからだと思います。…これはひどい!牧野こそが「植物学会の権威主義者だった」ってこと?(笑)でも、中学教師や高校教師とは交流するのに、民俗学者とは交流しないってのも不可解です。博物学者の鳥羽源蔵と交流してる事実にも矛盾すると思う。11.神社合祀令の目的は国家神道体制の確立ではなく税収UP?合祀令は地方改良運動の一環として行われました。合祀によって神社が立つ土地の権利関係を整理して課税不能な土地を減らし、税収増につなげる狙いがあったのですが、期待された効果が上がらないまま中止されています。…これもどうなんでしょうねえ?読売新聞の記事でもあるし、ちょっと鵜呑みにはできません。植物監修は田中伸幸。4月からNHKで放映中の #朝ドラらんまん の制作には,現役の植物分類学者たちが「植物監修」として関わっています。植物学と時代考証に基づくきめ細やかな監修から生まれる 『らんまん』のもう一つのドラマに迫ります。日経サイエンス2023年7月号【特集:進化する植物愛】https://t.co/A23XCWGl3H— 日経サイエンス (@NikkeiScience) June 11, 2023
2023.10.01
朝ドラ「らんまん」が終わっちゃった!終盤の内容はあまりにも濃密で、内容をフォローするのはなかなか大変でした。過去のエピソードを回収するだけでなく、史実をアレンジしながらも、さまざまな《歴史の諸相》を回収していたからです。そういう意味では大河ドラマに近かった。大森美香は、朝ドラ「あさが来た」のあとに、大河「青天を衝け」を書きましたけれど、今後、NHKは、長田育恵にも同じことを期待するでしょうね。◇今回の物語は、「妻に苦労を強いた牧野富太郎」という従来の説を覆し、「みずから苦労を買って出た牧野寿衛」のイメージを確立しました。どっちが実情に近いのかは分かりませんが。でも、牧野富太郎が「スエコザサ」の学名を与えたという史実が、物語の結末に力を与えて、その説を補強する形になったと思う。わたし自身、「Sasa Suwekoana Makino」という学名を見たら、それだけでなんか泣けてきます。なお、当初は「Sasa Suwekoana Makino」と発表したものの、のちに鈴木貞夫がアズマザサ(Sasaella ramosa)の変種に分類し直したので、現在では、Sasaella ramosa (Makino) Makino var. suwekoana (Makino) Sad.Suzuki という複雑な学名になっているようです。http://ikimono8000.blog36.fc2.com/blog-entry-3000.html◇最終回は、じんわりとしたエンディングでした。佐川の分家の人たちとの再会も、根津の長屋の人たちとの再会も、母のまつや叔母のみえや聡子との再会も、神戸の小林一三との邂逅もなかったけれど、安易な視聴者におもねって、これ見よがしの大団円にしないところが、劇作家である長田育恵の、趣味でもあろうし、矜恃でもあるのでしょうね。その代わり、図鑑の「謝辞」に登場人物の名を連ねるという演出。…渋い!!(笑)◇ちなみに、ドラマの万太郎は、在野の立場で理学博士号を授与されてましたが、これはすこし史実と違います。たしかに松村任三(徳永教授のモデル)は、いったん助手の牧野富太郎を非職にしたけれど、すぐに牧野は東大の講師として復帰したので、まったくの在野から理学博士になったのではありません。でも、そのように描いたほうが、たしかに牧野富太郎っぽい感じはする。植物図鑑の完成も、東大の人脈ではなく、日本各地の在野のネットワークを総動員して実現させた。そのことが最後の「謝辞」へと繋がるわけですね。◇東北からムロツヨシと一緒にやってきた鳥羽源蔵も、そんな在野人脈のひとりだったと思う。 #らんまん 主人公のモデル 牧野富太郎の手紙✉ 22日から展示宛先は、陸前高田出身の博物学者、鳥羽源藏。鳥羽から植物標本の提供を受けた牧野は手紙に…「これまでの功績に対し 何かあなたの名前で命名したいと思っていた」とも書いています。#朝ドラらんまんhttps://t.co/cG1DiQBnNA— NHK盛岡放送局 (@nhk_morioka) April 21, 2023追記1:ドラマに出てきた鳥羽さんは熊本の理科教師だったようです。たしかにムロツヨシは東北訛りで、鳥羽さんは九州訛りでしたね。万太郎の文通相手の中から、高度な専門知識を持つ理科教師たちも駆けつけました!岩手からきた小畠(#ムロツヨシ)と、熊本からきた鳥羽(#杉本凌士)。心強い助っ人です!#朝ドラらんまん pic.twitter.com/18dGvy34jE— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) September 27, 2023追記2:熊本の理科教師のモデルは前原勘次郎かもしれません。NHK「らんまん」のモデル 植物学者・牧野富太郎の手紙、宇城市で展示 熊本・人吉高校教諭宛て 標本のお礼や依頼記述|熊本日日新聞 https://t.co/U2Fh8dTqIG #熊本のニュース #熊本日日新聞 #熊日 #熊本— 熊本日日新聞社 (@KUMANICHIs) September 15, 2023 また、長屋のメンバーとしては、早稲田教授に出世していた丈之助も参戦しました。かつて寿恵子から喰らった、「生涯をかけて作品を完結させよ!」との言葉どおりに、独力でシェイクスピア全集を完結させていました。さらには、「早稲田に演劇博物館を作らせる!」と豪語してましたが、これは早稲田演劇出身の長田育恵にも関係する話。崖っぷちを生き抜く人間力を描く/長田育恵2007年から派遣社員として早稲田の演劇博物館(エンパク)で広報の仕事をしながら、セミナーに通う二重生活を始めました。実はこの演博での経験が私にとってとても面白いものでした。学芸員の方たちが、もう亡くなっている歌舞伎俳優や浅草軽演劇の人たちについて、今も交流がある知人のように話題にするんです(笑)。作品に関してより、どれだけ女好きだったかとか、ダメなところや魅力的なところなど芸術家の人間としての見方に触れる機会になった。私がものを書くとき、人間のどこに惹かれ、何を愛おしく感じ、書くためのモチベーションにするかというベースは、この演博時代に培われたのだと思います。https://performingarts.jpf.go.jp/J/art_interview/1401/1.html丈之助のモデルは坪内逍遥ですが、ちょうど昭和2年に早稲田の教授職を辞して、翌年にシェークスピア全集を完結させたのですね。◇ところで、長田育恵は、植物図鑑の完成を「寿恵子の生前」に間に合わせました。そこが最終回の大きな焦点だった。なぜなら、史実では間に合っていないから。実際の牧野富太郎の図鑑完成はもっと遅い。…牧野寿衛は、大泉に引っ越してわずか3年後、夫が理学博士になった翌年に亡くなりました。坪内逍遥がシェークスピア全集を完結させ、早稲田がそれを記念して「エンパク」を建てたのも、寿恵子が亡くなったのと同じ昭和3年です。しかし、牧野富太郎の植物図鑑は、それまでには完成しなかったし、じつはスエコザサの発表でさえも、ぎりぎりのところで間に合わなかったらしい。つまり、長田育恵は、あえて図鑑の完成とスエコザサの発表を史実より早めて、この物語の結末をデザインしたわけです。実在した牧野寿衛が、図鑑の完成をどれほど待ち望んだかは分からないけど、せめて夫が「牧野博士」と呼ばれるようになっただけで、それなりには報われたでしょうか?◇牧野寿衛が亡くなったのは昭和3年。夫の図鑑が完成したのは昭和15年。図鑑の完成が遅れた理由は大きく2つ。ひとつは矢田部良吉の妨害であり、もうひとつは松村任三の妨害です。1890年(明治23年)、矢田部教授により植物学教室の出入りを禁じられ、研究の道を断たれてしまい、『日本植物志図篇』の刊行も6巻で中断してしまう。1900年(明治33年)から、未完に終わった『日本植物志図篇』の代わりに新しく『大日本植物志』を刊行する。今回は自費ではなく帝大から費用が捻出され、東京の大手書店・出版社であった丸善から刊行されたが、これも松村の妨害により4巻で中断してしまった。https://ja.wikipedia.org/wiki/牧野富太郎しかし、ドラマでは、田邊教授や徳永教授をそこまでの悪者にはしませんでした。その代わりに焦点を当てたのが「関東大震災」です。つまり、大正12年の震災で原稿が焼けた…という設定に作り変えた。明治から昭和にいたる近代を舞台とする朝ドラは、通例なら太平洋戦争の悲劇を描くわけですが、今年は関東大震災から100年という節目なので、震災を描くのは必須の前提だったし、それこそが、このドラマの主題だったといえます。過去の朝ドラの偉人譚にも言えますが、たんなるサクセスストーリーにするだけが狙いではなかろうし、そんな安っぽい話で朝ドラが成立するとも思えない。なので、今回の脚本は、そこから逆算する形で構成されている。◇長田育恵は、関東大震災を描いた第25週で、過去のエピソードを回収しただけでなく、いわば《震災の諸相》を回収したのだといえます。家族の住居を「根津」の長屋に置いたまま、妻の貸座敷だけを「渋谷」と設定したのは、東京市内と東京市外の被害の差を描き出すためでした。※実際は住居も貸座敷も渋谷にあったので、あまり被害を受けていません。次女を上野のデパガに設定したのは、大きな被害のあった上野周辺の状況を伝えさせるため。虎鉄を神田の印刷所に勤めさせ、印刷所の主人を「江戸の火消し」に設定したのは、神田の住民が火災を食い止めた史実を伝えるためでした。…さらに、次男を新聞記者と設定したのは、自警団や陸軍憲兵隊の残虐行為を告発するためでしょう。ジョン万次郎や、早川逸馬や、クララローレンスや、旧友の佑一郎をとおして、争いのない社会と人間の融和を希求したドラマにとって、この「人災」を告発することも大きな目的だったはず。◇そして、第25週のサブタイトルは「ムラサキカタバミ」でした。東日本大震災では、岩井俊二と菅野よう子によって、復興ソングの「花は咲く」が作られましたが、おそらく、そのことを念頭に置いたものですよね。一般の人間でさえ、「災害の中でも花が咲く」という事実には心打たれるけど、長田育恵は、それを植物学者の視点で語らせました。> 株がひとつでも残っちょったら子株を増やせる。> 何があったっち、かならず季節はめぐる。> 生きて根を張っちゅうかぎり、花はまた咲く。この言葉が、復興への希望になると同時に、万太郎が困難をこえて図鑑を完成させる決意になり、視力を失ってなお「八犬伝」を完成させた馬琴にも重なってくる。すべてフィクションですが、物語によって《震災の諸相》を描き出す仕掛けだったと思います。◇最終話では、綾の酒造りもついに完成しました!峰の月を受け継いで「輝峰きほう」としたのですね…。もちろん、これもフィクションですが。わたしはちょっと混同してたのだけど、井上和之助と牧野猶がブリ漁の網元を営んだのは焼津。それに対して、竹雄と綾が酒造りをしたのは沼津です。おなじ静岡ではありますが、焼津から沼津への設定変更にどんな意味があったのか、考えみても、よく分かりませんでした。焼津よりも沼津のほうが酒造りが盛んなのかしら?それから、新酒の名前はもしや「らんまん」か?!…とも思ったのですが、ハズレでした。調べてみたら、秋田に「美酒爛漫」が実在するのですね(笑)。最後のシーンで万太郎が見つけたのは、山中にひっそりと咲くオオキツネノカミソリ。すると寿恵子の幻が!キツネだけに?!故郷でキツネノカミソリを見つけたときには、祖母がこう言いました。> 何かを選ぶことは何かを捨てることじゃ。> ほんなら振りかえりな。それは祖母のメッセージであると同時に、牢に見捨ててきた逸馬からのメッセージでもありました。寿恵子も同じことを伝えようとしたのかもしれません。朝ドラ、らんまん。主題歌を担当させて頂いたこと、心から誇りに思います。私にとっての朝ドラは、死ぬまで一生らんまんです!らんまんで良かった。素敵な大冒険でした。寂しいっ!らんまん、だいすき!半年間 本当に、本当にありがとうございました🎋— あいみょん 🦭 (@aimyonGtter) September 28, 2023 2階の牧野富太郎フェアを広げました。売れ筋は、全3巻合計で税込15,532円の『原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版』。細密なカラー図版がたまりません。佐々木 香菜子さんの『まきのまきのレター』絵本と関連グッズも販売中。6月下旬までは同じ場所です。#らんまん #牧野富太郎 #まきのまきのレター pic.twitter.com/5ZYCT7wRJg— 丸善 日本橋店 (@mznihonbashi) May 29, 2023Amazonでも牧野の植物図鑑がベストセラーになってる!普及版でも、けっこう高いのに…(笑)APG体系版は1巻33000円。
2023.09.30
いまさらながら、裕一郎のモデルになった広井勇(廣井勇)のことを調べてみて、ほんとうに凄い人だったんだなあ…と驚いてます。社会への貢献度でいったら、牧野富太郎よりもっと重要な仕事をした人じゃないか!…とさえ思ってしまう。牧野富太郎と広井勇は同郷の同い年ですが、わたしは当初、さすがに「同窓」という設定は、ドラマ上の作り話なのだろうと思ってました。でも、ほんとうに同窓だったのですね!◇牧野富太郎は「植物学の父」と呼ばれ、広井勇は「港湾工学の父」と呼ばれている。そんな歴史に残る2人の偉人が、幼いころ一緒に学んでいたのは凄いことだし、それをドラマで取り上げるのは必然だったのでしょう。結果的に、ドラマに描かれた広井勇はほぼ史実に沿っていて、あまりフィクションの要素が見当たりません。・土佐の佐川に産まれて名教館に学び、・札幌農学校ではウィリアム・ホイーラーに学び、・幌内鉄道の工事や鉄道橋梁の建設に携わり、・米国でミシシッピ川とミズーリ川の治水工事に携わり、・函館港の築堤や小樽港の設計に携わり、・火山灰を利用した「広井公式」による工法を確立し、・工学博士号を得て東京帝国大学教授になり、・大陸に渡って満鉄を視察。…すべて史実どおりです。追記:関東大震災の後には帝都復興院(のちの復興局)評議員になっています。第129話で「教え子たちが永代橋と清洲橋を手掛けている」との話が出ましたが、これは大学の教え子にあたる太田圓三らのことですね。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E7%94%B0%E5%9C%93%E4%B8%89◇また、牧野と広井の先生にあたる池田蘭光のモデルは、名教館教授だった伊藤蘭林なのですが、彼についてもフィクションの要素は少なく、これも、ほとんど史実どおりだったと言っていい。ここまで史実どおりなら、ジョン万次郎や坂本龍馬や小林一三のように、役名じゃなく実名にすればよかったんじゃないの?…と思うくらいです。◇伊藤蘭林と広井勇の描写について、かりに「フィクションの要素」があったとすれば、それは名教館の教育にかんする次の部分です。科目は、漢文、和歌、測量など、多岐に渡っていた。『らんまん』では、大勢の生徒に対して1人の先生が教えていましたが、実際には学ぶ科目ごとに、先生の机の前に5人ほどの生徒が集まり講義を聴いていたということです。https://www.nhk.or.jp/kochi/lreport/article/000/89/つまり、ドラマとはちがって少人数教室を実施していた。したがって、牧野と広井の2人は、同窓ではあっても級友とまでは言えなかったかも。たとえ同い年とはいえ、商人の身分の牧野に対して、武士の身分の広井は先輩でもあったはずだから、両者がどれだけ親しくなれたのかも分からない。卒業後は、2人とも東大で仕事をすることになったけれど、どれほどの交流があったのかも、よく分かりません。そこらへんがドラマの創作だったのだと思います。勇と富太郎は、地元・佐川の学校「名教館」の同級生📚土佐を出た勇は札幌農学校へ。のちに小樽港湾事務所の初代所長となり、コンクリートを用いた日本初の本格的な防波堤「小樽港北防波堤」を設計。今も小樽港を守っています✨肖像提供:国土交通省 北海道開発局 小樽開発建設部 小樽港湾事務所 pic.twitter.com/DvESW6u9i8— 高知県建設業協会 (@kouchikenkyo) April 2, 2023 らんまんで広瀬佑一郎さんが語っていた小樽港と防波堤。実際の工事でも、セメントに火山灰を混ぜたコンクリートが使用されました。このとき大量に作られた供試体を使った強度試験は、百年耐久性試験と呼ばれるようになり、現在も継続して行われています。#らんまん #中村蒼 #廣井勇 pic.twitter.com/OiHMtGXKtw— 土木学会note支部 (@JSCE_note) September 19, 2023 広瀬祐一郎モデル廣井勇は、失敗続きだった近代港湾工事を成功させ、小樽港の整備も成功。更に明治32年函館港改修で予算がなくて、函館戦争の要塞弁天島台場を破壊し建築材料とし土木遺産となり現在も残る。弁天台場は土方歳三が戦死の時、五稜郭と分断された仲間救援の為の出撃目標。#朝ドラらんまん pic.twitter.com/5mW7HXzvV9— 一二三 (@nunonofuku123) September 18, 2023 『らんまん』で、めったに登場しないけれど万太郎と熱い友情で結ばれている佑一郎くん(中村蒼さん)。19日の放送で、新工法を開発して小樽の港湾工事を成功させたと話していました。佑一郎のモデルは、港湾工学の父と呼ばれた廣井勇博士。函館漁港「船入澗防波堤」を手掛けたことでも知られます。 pic.twitter.com/6RKv9afrBp— 函館イベント情報局 編集長 (@hakoeve_info) September 20, 2023廣井勇~近代化の扉を開いた、清き技術者~小樽港の北防波堤建設には、先の函館港改良工事で得たコンクリートのデータが生かされたが、廣井はドイツのミハイリスの研究からセメントに火山灰を混ぜると強度が増すとことを知り、費用の大幅な削減も見込めることから比較試験を開始する。そして、大規模な施設としては世界で初めて、火山灰を混入したコンクリートブロックを大量に使用することを決定。https://www.kusanosk.co.jp/trivia/北海道の土木のパイオニア廣井勇1899東京帝国大学工科大学教授(北海道庁技師兼務)、58歳の時に依願退職。東京帝国大学名誉教授、帝国学術研究会議会員、帝都復興院評議員、帝国経済会議員などを歴任。一方、土木工学の最高権威として港湾橋梁の設計施工のため、日本各県、台湾総督府、韓国、上海港改良会議、鬼怒川水力、満鉄などに出張、視察し、重要な指針を与えた。http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/H/hiroi_i.html
2023.09.27
朝ドラ「らんまん」。NHK高知のローカル番組に、阿部海太郎が出演していました。NHKプラスで配信中。もともとNHKの仕事が多かった人だから、「いよいよ朝ドラの音楽をやるんだな」ぐらいに思ってましたが、じつは長田育恵の舞台音楽を何度も手掛けていたとのこと。これは知らなかった。NHKとの繋がりもさることながら、長田育恵との縁がより大きかったようです。◇ちなみに、長田育恵×上白石萌歌「ゲルニカ」の音楽は、国広和毅で、阿部海太郎じゃありませんでした。萌歌は、自分のラジオで阿部海太郎の曲を流したことがあったけど、阿部海太郎は源孝志とのコンビも多くて、中村七之助×上白石萌音の「怪談牡丹燈籠」や、中村勘九郎×上白石萌音の「忠臣蔵狂詩曲」も担当してたから、きっと萌歌は姉と一緒に彼の音楽を聴いてるのだと思っていた。でも、もしかすると長田育恵の舞台がらみで、阿部海太郎の音楽に触れていたのかもしれません。いずれにしても、萌音・萌歌・美波の東宝トリオが、何らかの形で阿部海太郎の音楽に接してるってこと。◇彼の音楽の特徴は、一言でいえば「南欧的な品のよさ」ですね。…とはいえ、さすがに劇伴音楽の場合は、自分の個性ばかり出すわけにいかないだろうし、さっきの源孝志の関連でいうと、「ライジング若冲」の音楽も担当してましたが、正直、それほど強い印象は残ってません。今回の朝ドラ「らんまん」でも、彼の特徴が全面的に出ているとは言いがたい。サントラをざっと試聴すると、一曲目に収録されてる「ヤマトグサ」という曲が、いちばん阿部海太郎っぽいかなとは思う。https://ototoy.jp/_/default/p/1646913バロック風の「マルバマンネングサ」と「ユキモチソウ」も気になる。マーラーのアダージェットみたいな「ヤブツバキ」も印象的。https://ototoy.jp/_/default/p/1766502寿恵子が勝負に挑むときの「オニユリ」はエレキブルース(笑)。阿部海太郎の代名詞的作品といえば、やっぱり「世界で一番美しい瞬間」のテーマであり、「日曜美術館」や「京都人の愉しみ」の曲だと思うけど、そこに今回の「ヤマトグサ」が加わることになるかしら?音楽担当 阿部海太郎さん生出演・こうちいちばんhttps://t.co/ylthoY9z44— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) September 26, 2023 ◇NHK作品との相性のよさでいうと、冨田勲や加古隆に匹敵するような音楽家だと思うけど、いまのところ目立った受賞歴などはない。たとえば、是枝裕和や濱口竜介みたいな映画の音楽を担当したら、いっきに世界的な注目を浴びる可能性はある。…以前から気になってたことだけど、なぜかいまだに彼のWikipediaは存在しないのよね。わたしが長田育恵とのかかわりを知らなかったのも、やっぱりWikipediaがなかったせいです。作成する人がいないのか。それとも本人が拒否してるのか。胸が締めつけられるほど美しい瞬間。天気のよい日曜日に美術館へお出掛けするウキウキ?京都人の密かな愉しみ。萌歌がラジオで流してたのは「Cardigan」というワルツの曲。
2023.09.26
昭和33年。園ちゃんの植物園に、夏の花々がらんまんに咲き誇っている…という最終週のはじまり。そこへやってきたのが宮﨑あおい。昭和20年の東京大空襲のときは17才だったって?ちなみに、当時の桜子は25才でしたけどね!(戦前はジャズピアニストを目指していた)つまり、この女性は桜子より8つ年下。◇なぜ昭和33年なのか?…を調べてみたら、牧野富太郎が昭和32年に亡くなってるのね。そして、昭和33年には、練馬区大泉の牧野記念庭園と、高知の県営牧野植物園が開園している。そこを物語のゴールにしたってこと。◇冒頭のシーンで、寿恵子が「わたし、やり遂げましたよ!」と言った。実際のところ、大泉に土地を買って、家を建てて、園ちゃんの植物園を開いたのも寿恵子でしょう。すべての大冒険を構想したのが彼女なら、これはやっぱり寿恵子の物語なのかもね。標本整理の仕事を辞退しかけた宮﨑あおいは、スエコザサらしき植物からフワッと風が吹いたのを感じ、ふと思いとどまっていましたが、あのときに、彼女を呼び止めたのも寿恵子だなあ、と思う。◇…それにしても!2006年の「純情きらり」といい、2015年の「あさが来た」といい、宮﨑あおいの朝ドラのヒット率のすごさよ。しかも、幾島役の松坂慶子とは「篤姫」共演です。これは完全に長田育恵のネタでしょうが(笑)。わたしは15年前の記事にも書きましたけれど、宮﨑あおいは、どんだけNHKに強いのか!民放には弱いけどw◇そういえば、沼津の酒造りはどうなった?長屋のみんなが一堂に集まって、綾のつくった新しい酒を酌み交わしながら、万太郎の図鑑完成と、丈之助のシェークスピア全集の完成を祝うよね?!アルミ印刷と神田の火消しの話も聞きたいし、新橋の料亭や、母と文太さんのその後も知りたい。小林一三がつくった神戸の高山植物園にも行かないと!◇そして、次女の千歳は、十徳長屋の差配人を引き受けましたが、そちらはどうなったのかしら?関東大震災で建物はめちゃめちゃだろうし、牧野一家は大泉へ引っ越してしまったろうし、あんなボロ長屋を建て直したとも思えないので、震災後は木造アパートにでもなったでしょうか?…なお、ドラマでは、末娘の千鶴が標本や植物園の管理をしてますが…実際にそれをやっていたのは次女の牧野鶴代さん。彼女は「集成牧野植物図鑑」や「牧野植物随筆集」も刊行したようです。※上野のデパガや長屋の差配人をやったかどうかは分からない。
2023.09.25
朝ドラ「らんまん」第24~25週。日露戦争あたりから、関東大震災まで、いっきに20年近くも時代が飛んでしまいました!※虎鉄と千歳の結婚は明治の終わり(1912年)ごろだったようですが。沼津の綾の酒造りはどうなったの??◇大人になった次女の千鶴は、デパガとして上野の百貨店で働いてました。たぶん松坂屋上野店ですね。※デパガって死語?万太郎は、神戸の永守家のところへ原稿を持参して、ついに念願の図鑑発刊か?!という折でしたが…そこに大地震が。今年は震災100年の節目でもあるので、地震の被害を描くことは必須でしたね。そのために、ドラマでは、根津の十徳長屋で被災した設定になっている。印刷屋の親父が「江戸の火消し」だったという設定も、気性の荒いキャラにするためだけでなく、このエピソードのための伏線だったのでしょうか?◇4年前の大河「いだてん」では、浅草十二階の倒壊する様子が描かれましたが、先日のNスぺでは、当時の写真や映像を使って、隅田川の沿岸や上野公園の周囲が、大規模な火災に襲われる様子も再現していました。東大の敷地内でも火災があったらしいし、根津のある文京区は被害が大きかったはずです。◇天災だけではなく、朝鮮人や社会運動家の虐殺に至る人災も描かれました。万太郎が「根津の十徳ねずのじっとく長屋へ」と言って、自警団の検問を通過する場面もありましたが、当時は「十円五十銭じゅうえんごじっせん」などと発音させて、日本人を識別していたという話があります。千葉の福田村では四国(香川)の人も殺害された。毎日更新の「#hellog ~英語史ブログ」 @chariderryu今日の話題は「#5142. 「ペレヒル」と「十五円五十銭」」昨日に続き、言語の排除機能に焦点を当てます。試し言葉のむごさが感じられるはずです。https://t.co/BOdFTkvJuW pic.twitter.com/wRbQc8t5iP— Ryuichi Hotta (@chariderryu) May 25, 2023こうした大震災の混乱が、陸軍憲兵隊や特高警察の台頭をうながして、まもなく治安維持法制定と軍国主義化につながります。これまでにも、早川逸馬、ジョン万次郎、クララローレンス、広瀬裕一郎をとおして、人間の「自由」と「融和」を求めてきた作品ですから、震災を批判的に描くことには集大成としての意味がある。◇とはいえ、この震災がらみのエピソードは、牧野富太郎の史実とはだいぶ違っています。たしかに牧野が植物図鑑を刊行するのは、関東大震災から20年ほど後のことですが、「震災で原稿も標本も焼けてしまったから」ということが原因ではないはず。…というのも、牧野家は、妻の経営する貸座敷のみならず、一家の住まいも渋谷へ移転していたので、地震の被害をほとんど受けませんでした。新宿・渋谷・池袋は、地盤が固くて揺れが小さかったのですね。また、膨大な植物標本も、すでに池長孟(永守徹のモデル)に買い取られて、神戸で保管されていたために無傷でした。※自宅にも標本があったようです。くわしくは下の「追記と訂正」を参照。…牧野富太郎って運がいいのですね。あとから考えてみると、マキシモヴィッチが死んで、ロシアへ行かなかったのも幸運だったのです。そうでなければ、日露戦争の混乱に巻き込まれてたかもしれない。◇牧野富太郎は、自叙伝にこんなことを書いてます。物騒な話であるが、私はもう一度彼の大正十二年九月一日にあったようなこの前の大地震に出逢って見たいと祈っている。この地震の時は私は東京渋谷のわが家にいて、その揺っている間は八畳座敷の中央でどんな具合に揺れるか知らんとそれを味わいつつ坐っていて、ただその仕舞際にチョット庭に出たら地震がすんだのでどうも呆気ない気がした。その震い方を味わいつつあった時、家のギシギシ動く騒がしさに気を取られそれを見ていたので、体に感じた肝腎要めの揺れ方がどうも今はっきり記憶していない。何をいえ地が四五寸もの間左右に急激に揺れたからその揺れ方をしっかと覚えていなければならん筈だのに、それを左程覚えていないのがとても残念でたまらない。それ故もう一度アンナ地震に逢ってその揺れ加減を体験して見たいと思っているが、これは事によるとわが一生のうちにまた出逢わないとも限らないから、そう失望したもんでもあるまい。今頃は相模洋の海底でポツポツその用意に取り掛っているのであろう。また富士山へもどるが、私はこの富士山がどうか一つ大爆発をやってくれないかと期待している次第だ。https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/56695_52793.htmlすごい…。もういちど揺れを経験してみたいとな。よくいえば好奇心旺盛だけど、ふつうに考えたら変人です。やや不謹慎な気もするし。でも、学者とはそういうものかもしれない。◇ただ、主催していた雑誌が印刷所ごと焼けてしまったらしく、その教訓が練馬区の大泉へ引っ越すきっかけとなり、戦時中には山梨へ疎開する判断にもつながった。なので、それなりに災害を恐れる気持ちはあったようです。土佐出身で同郷だった寺田寅彦の記念館の石垣には「天災は忘れられたる頃来る」と彫られた石碑が埋められているが、この字は牧野富太郎の筆によるという。https://shisokuyubi.com/bousai-kakugen/index-939※追記と訂正関東大震災が起こったとき、すべての植物標本が神戸に保管されていたわけではなく、自宅にも保管されていたようです。詳細がわかりにくいので、関連する記事だけ貼っておきます。1916年(大正5年)12月、富太郎は生活苦から収集した植物標本10万点を海外の研究所に売ることを決断する。池長孟は父、池長通の遺産の中から3万円で標本を買い取り、改めて富太郎に寄贈しようと申し出た。感激した富太郎はこの申し出を固辞、標本は通が建てた池長会館に所蔵されることになり、会館は池長植物研究所と改称される。https://ja.wikipedia.org/wiki/牧野富太郎1923年(大正12年)9月1日、関東大震災の当時、30万点に及ぶ牧野の植物標本が神戸に保管されていたが、自宅の書斎にも貴重な植物標本は山積みだった。https://www.kochinews.co.jp/article/detail/682056長田氏はシナリオハンティング中に受けた驚きを明かした。「関東大震災の大火災、さらには第2次世界大戦の東京大空襲の間も、40万点という途方もない数の標本を、富太郎さん、ご家族、周りの方々が守り抜いたのだという事実を知って、本当に衝撃的でした」https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/09/25/kiji/20230925s00041000225000c.html1941年(昭和16年)、池長植物研究所に保存されていた標本は、東京の牧野富太郎のもとへ返されました。https://www.city.kobe.lg.jp/a09222/kosodate/lifelong/toshokan/furusato/kobe_shiru/makino_tomitaro.html1951年(昭和26年)、未整理のまま自宅に山積みされていた植物標本約50万点を整理すべく、朝比奈泰彦科学研究所所長が中心となって「牧野博士標本保存委員会」が組織。文部省から30万円の補助金を得て翌年にかけて標本整理が行われた。https://ja.wikipedia.org/wiki/牧野富太郎牧野富太郎博士没後の1958年、自宅に残された約40万点の未整理状態の植物標本が東京都立大学に寄贈されました。牧野標本館では、20年以上の歳月をかけて整理作業を行い、現在は重複を除く約16万点に加え、新たに収集した標本を合わせて約50万点を所蔵しています。https://www.tmu.ac.jp/news/topics/35779.html◇◇◇話は変わりますが、終盤にきて早川逸馬と再会したこともあり、ドラマの序盤にジョン万次郎が登場した意味を、あらためて思い知らされています。ジョン万次郎に会ったとき、シーボルトの日本植物誌を見せられましたが、万太郎はそれを見て「外国の人には無理じゃ」と思った。再会を果たした早川逸馬は、万太郎のつくった植物雑誌を見て、「シーボルトよりよっぽど立派じゃ!」と言いました。有言実行が果たされた形ですね。◇早川逸馬は、ジョン万次郎のことを「真の自由を知るお方」だと評した。そして、ジョン万次郎は、万太郎に向かって「一生は短い。後悔はせんように」と説いた。このことが、万太郎や綾の背中を押すことになりました。史実によると、こうしたジョン万次郎の思想は、河田小龍から坂本龍馬にも伝わって影響を与えたらしい。幼いころの万太郎は、その坂本龍馬にも出会い、> この世に同じ命らあひとつもない> みんな自分の務めをもって生まれてくるがじゃき> さあ望みや!おまんは何がしたいがぜ?とのメッセージを投げかけられていました。ジョン万次郎⇒河田小龍⇒坂本龍馬⇒早川逸馬という、徹底した土佐人脈によって「自由」の重要性が問われていた。◇もちろん、ここらへんのエピソードは、完全なフィクションだったと思うけれど、最近になって知ったのは、矢田部良吉とジョン万次郎(中浜万次郎)のかかわりです。これにかんしては史実らしい。矢田部は一八五一年九月一九日、静岡県韮山に生まれた。父は江戸後期の蘭学者卿雲。中浜万次郎、大鳥圭介等に英学を学び、一八六九年五月開成学校教授試補となる。 翌年外務省文書大令史となり、森有礼の米国行きに随行する。https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400005423.pdf田邊教授は万太郎に、「君と私は繋がるべくして繋がったのかもしれないな」と言ってましたが、この史実を知ったがゆえに、長田育恵はジョン万次郎を登場させたのかもしれません。
2023.09.22
朝ドラ「らんまん」。第24~25週はかなりフィクションの要素が強く、現代的でオリジナルな物語になっていると思います。そこでクローズアップされたのは、「ツチトリモチ」という不思議な寄生植物でした。◇万太郎は、南方熊楠の考えに触発され、熊野の森を調査してツチトリモチを発見。「ひさしぶりじゃのお!」と言って採集すると、熊楠には会わずに東京へ戻ります。そして、国の神社合祀令に異を唱えるべく、東大を辞める覚悟で、熊野の植物の希少性を世間に訴えました。◇Wikipediaによると、ツチトリモチは、学名が「Balanophora japonica Makino」なので、牧野富太郎がそれを発見して命名したのは事実。おそらく彼は四国の故郷でそれを発見したと思う。牧野が和歌山の熊野を調査したときに、熊楠に会わずに帰ってきたのも史実のようです。しかしながら、熊野でツチトリモチに再会したとか、国の神社合祀令に反対したという話は見当たらない。1910年に、徳永教授のモデルの松村任三が、助手の牧野を非職にしたのは事実ですが、神社合祀の問題がその原因だったという話もない。実際のところ、牧野富太郎は助手としては非職になったものの、すぐに講師として復職していて、結果的には昭和14年まで東大で仕事をしています。◇脚本家の長田育恵は、先日のラジオ番組で、このドラマの主人公を「われらが神木万太郎」と呼んでましたが、今回のエピソードは、まさに《神木万太郎のオリジナルストーリー》だったと思う。しかも、それはかなり現代的な視点で書かれている。ツチトリモチは、四国、九州、南西諸島などに自生する日本固有の絶滅危惧種で、とくに本州の三重や和歌山で絶滅の危険が高いらしい。(三重県:絶滅危惧IA類/和歌山県:絶滅危惧IB類)これは明治時代ではなく、現代の話。第一に、長田育恵は、そのことを訴えたかったのでは?◇また、ドラマのなかで語られた子供たちのセリフも、現代に通じるような考え方でした。…木々がしっかりと根を張ることで山崩れを防いでる。災害の多い日本で木が重要なんだって。それを目先のお金に代えるために切ってくなんて。だいたい払い下げて終わり。あとは知らないって、そういうやり方。…精神の面でもさ、この前の戦争からこっち、国民は「国を愛せ」ってやたらと言われてるだろう。でも、「国への愛」って、もっと身近な故郷への愛着から生まれると思うんだ。故郷のご神木が切られたら悲しいじゃない。鳥もいなくなるね。このなかで、とくにわたしの気に留まったのは、千歳が「故郷のご神木」と言ったこと。万太郎が野宮の手紙を読んで思い出したのも、土佐の神社にあった天狗の棲む巨木だったし、熊野で見つけたツチトリモチは、ご神木に寄生する森の守り神だったわけです。◇わたしが思ったのは、「神木しんぼく」=「神木かみき」ではないかってこと。脚本家の長田育恵は、今回のエピソードで、神木隆之介が本作の主演になった因縁と必然性を示したのかな、…と感じます。その意味でも《神木万太郎の物語》だったのではないかしら?#らんまん虫めがね🔎「#ツチトリモチ」四国、九州に分布している多年生の寄生直物です。根茎をすりつぶして鳥モチを作るから、「ツチトリモチ」と名付けられたそう🐦#朝ドラらんまん pic.twitter.com/j16Uwbnbd4— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) September 15, 2023 NHK朝ドラ #らんまん 今週は #ツチトリモチ実は、行田窯建物内で #牧野富太郎 博士の植物画を長い間保管していました。現在は #練馬区立牧野記念庭園 に展示されています。そんな縁もあり晩年の記念皿があります。緻密な植物画はよく見ていました が、おおらかな線のこの絵もいいなぁ😌 pic.twitter.com/pA4o7Ngi6A— 行田窯(足袋蔵旧行田窯) (@gyodagama) September 15, 2023
2023.09.19
どうやら第24週は、「反権力」ということがテーマになってるようです。これはドラマ序盤からの大きな問題だった。こうした内容について、ただの脱線ととらえてる視聴者もいるようですが、けっしてそうではありません。◇若いころ自由民権運動に関わった万太郎は、早川逸馬に出会い、ジョン万次郎に出会った。その後は、国際的な相互理解をうったえたクララの考えや、人種差別を憂えた佑一郎の考えにも触れてきました。◇いまや「帝国大学のお墨付き」を得た万太郎ですが、台湾・満州の植民地政策や、田邊・大窪・野宮の大学追放や、南方熊楠の神社合祀反対運動や、寿恵子の「水商売蔑視」などに直面する中、…ふいに早川逸馬と再会を果たすという流れです。彼は「誉れ高い土佐の酒蔵も国のせいで潰れた!」と口にする。◇早川は、あらためて万太郎に「身分が大事なのか?」と問います。そもそも「雑草という草はない!」と言ったのは万太郎自身です。田邊教授には「小学校も出とらん虫けら」と言われたけれど、佑一郎は「北海道開拓を支えたのは無学の人たちだ」と言った。早川逸馬という架空の人物を登場させたことが、ようやくここに伏線として生きてくるわけですね。◇ドラマの万太郎は、ひょんなことで民権運動に巻き込まれた感じですが、史実における牧野富太郎は、それなりの意思をもって、そこに身を投じたと思う。そんな牧野の「反権力」の精神性を問う内容でもあります。
2023.09.14
朝ドラ「らんまん」第117~8回。> ほとばしっちゅうのう!> 熱が渦巻いちゅうのう!> 闇夜に恒星が現れたがじゃ!…ってことで、南方熊楠がほとばしっていたwwお得意の巻物みたいな長文の手紙を、いろんな人に送りつけていたようです。南方熊楠が松村任三(朝ドラ「らんまん」徳永政市のモデル)に宛てて書いた1通の手紙です。字数はなんと28,049字。熊楠はこの2日後にも、同じく松村任三宛に13,673字にもなる手紙を書いています。この2通の手紙は、柳田国男の手によって「南方二書」として刊行され、識者に配布されています。 pic.twitter.com/HuLV5J3632— 南方熊楠顕彰会 (@kumagusu30206) September 12, 2023 史実によれば、牧野と熊楠とは手紙のやり取りをしただけで、直接に顔を合わせることはなかったようですが、できることなら本人を登場させてほしい!◇ちなみに、熊楠の最初のネイチャー論文って、動植物じゃなくて「星座」のネタだったんですねえ。それにしても、ハチクの花が咲くと不吉なことが起こるとか…?近年は日本各地でハチクの開花が報告されてるとか…?牧野富太郎に南方熊楠が送った竹 学説通り120年ぶりに地元で開花 https://t.co/bYg3A35elu— 朝日新聞サイエンスニュース (@asahi_science_r) May 11, 2023【お知らせ】【研究成果】ハチク(淡竹)が120年ぶりに開花!?東広島市内で開花後を初めて追跡調査~竹林再生の謎を解明する手掛かりに~ https://t.co/f2qjGlm6hT#広大— 広大生向け情報メディア | Penmark (@penmark_hirodai) June 28, 2023 ◇そして、平瀬作五郎と南方熊楠にも交流があったとは!もちろん野宮のモデルが平瀬作五郎です。意外なほど熊楠ネタが出てくるのね。1912年5月、平瀬はイチョウの精子発見の功績により、帝国学士院から恩賜賞を授与された。池野成一郞もソテツの精子発見の功績により同時受賞となっている。平瀬は翌6月に和歌山の南方熊楠宅を訪問しており、これ以降2人は本格的にマツバランの発生に関する共同研究に取り組むことになった。共同研究は1921(大正10)年まで9年にわたって続いたが、オーストラリア人の研究者が先んじて成果を発表したため、打ち切りとなった。https://www.fukui-educate.jp/museum/files/平瀬作五郎の実像および功績についてそれどころか、神社合祀反対運動の話まで出てきました。熊楠は、柳田国男にこんな手紙を送っているようです。社寺境内にのみ生を聊する銀杏を、軽々看過すべきにあらず。友人平瀬作五郎氏、往年銀杏の精子*が他の高等植物と異にして、反って羊歯等の下等植物に同趣なるを発見し、植物学界をひっくりかえせしは、実に日本にこの一種のみを保存しありし力なり。http://kiebine2007.amearare.com/minakata8.htm*原文は「精子」ではなく「精・液」ですが、楽天ブログではNGワードのようです。簡単にいうと、> 平瀬作五郎がイチョウの精子を発見できたのも、> 日本の寺や神社でイチョウが保全されてきたからだ!ってことですね。熊楠はいわゆるエコロジストだったわけで、当時の神社合祀による森林伐採にブチ切れていた。実際のところ、牧野富太郎は熊楠に対して距離を取ってたようですが、もしかしたら、この合祀問題が絡んでるのかしら?ドラマでどう描かれるかは分からないけど。◇さらに、今日は熊楠以外にもネタが盛りだくさん。寿恵子の店では、「相島圭一」こと五島慶太が、「神戸の永守」こと池長孟から出資を受けるとの話!しかも、代理人として早川逸馬が登場?!これって史実でしょうか?五島慶太と池長孟って接点があったのかしら?たぶん池長孟はまだ学生ですよね。http://www.city.nagasaki.lg.jp/nagazine/hakken/hakken1701/index.html池長孟は、神戸の大地主の息子。2番目の妻になった人は淀川長治の姉だそうです。彼から金銭的支援を受けたことで、牧野富太郎が神戸につながり、小林一三や阪急の六甲植物園にまで結びつくのかも。池長の支援をきっかけに、その後25年にもわたって神戸に通い、研究することになった牧野博士は、県内の植物愛好家とも交流を深めていきます。https://www.nhk.jp/p/ts/JWLK93KGKL/blog/bl/pn5mbKbAEn/bp/pARBZ4GYzA/◇かたや「早川逸馬」のモデルは、いまだに謎。史実によれば、牧野富太郎と池長孟を引き合わせたのが、ジャーナリストで評論家の長谷川如是閑だったらしいので、「長谷川如是閑が早川逸馬のモデル?」…との説もあるようです。しかし、長谷川如是閑は土佐出身じゃないし、東京深川の出身です(しかも坪内逍遥の門下なのよね!)。まあ、長谷川如是閑も「反権力」の人だったから、そういう点で早川逸馬に通じるところはあります。…と同時に、やっぱり早川逸馬のキャラって、どこかしら坂本龍馬を思わせるところがあって、その反権力的な姿勢もさることながら、資産家の代理人を請け負って動いてるところにも、龍馬の「金の力で事を動かす才」を感じさせる。たとえば関義臣は、龍馬についてこう言ってます。坂本は単に志士論客をもって見るべき人物ではない。また頗る経済的手腕に富み、百方金策に従事し、資本を募集して汽船帆船を買い求め、航海術を実地に演習のかたわら、他の商人の荷物を運搬し、その資金によって、ほぼ同志の生活費を産出することが出来た。全く龍馬は才物である◇…ところで、綾の酒造りにも希望が見えてきましたか?峰屋が腐造を出したときには、あまりにも残酷な脚本だったので、「綾への仕打ちじゃないか?」とまで思ったけど、最終的には、藤丸が彼女を救うのね!そういえば、南方熊楠の実家も酒蔵だったから、彼も醸造については詳しかったかも。◇なお、ベルリンで醸造の研究をし、1895年に「清酒酵母」を発見したのは、農科大学の矢部規矩治という人だったらしい。前の記事にも書いたとおり、藤丸のモデルの田中延次郎も、ドイツで醸造の研究をしてるのだけど、その話はドラマには出てこないのかな?
2023.09.13
朝ドラ「らんまん」第116回。…まさかとは思ったけど、ほんとに五島慶太が小林一三を連れてきましたw◇役名は「相島圭一」になってますが、≫ この先、≫ たがいに"鉄道の雄"となるのはどうです?≫ この渋谷には、あなたが降り立てばいい!!※たがいに西の「阪急」と東の「東急」を作ろうぜ!ってこと。という小林のセリフから察するに、相島のモデルは五島慶太と見て間違いない。しかも、この相島圭一は、みえ叔母さんの「巳佐登」の常連客だったんですね。◇とはいえ、これは明らかなフィクション。時代的にはありえない話です。今週の予告によると、この5年後に日露戦争になるらしいので、時代設定は、まだ1899年ごろです。※6年後が日露戦争だったようなので1898年です。前の記事にも書いたとおり、牧野壽衛が店をもったのは1919年ごろだから、史実よりも20年ほど設定を早めたことになります!そして、銀行員時代の小林一三が、すでに五島慶太と面識をもってたのか知らないけど、そもそも1899年といったら、五島はまだ17才ですから(笑)、官僚として料亭に出入りしてるなんてありえない。※1898年なので、五島は16才ですね。小林一三だけを実名にして、五島慶太に役名を与えたのは、彼を表向き《架空の人物》として扱ってるからでしょう。しかし、そこまでして2人を登場させたからには、脚本家にそれなりの思惑があるはずです。◇きっと五島慶太を登場させたのは、寿恵子の活躍をとおして渋谷の発展を描くためでしょう。関東大震災で被害の小さかった渋谷は、五島慶太による東急線の開業とその沿線開発によって、急速な発展を遂げていく。阪急を成功させた小林一三もそれに協力します。ドラマでは描かれないと思うけど、1964年の東京オリンピックの後には、NHKの放送センターも渋谷へ引っ越してくる。◇五島慶太の才能を見抜いた小林一三は、いわば「名プロデューサー」として描かれるはずだけど、寿恵子も負けず劣らずのプロデューサーぶりで、事前のマーケティングリサーチを積み重ね、周辺住民への妄想プレゼンテーションもやってたから、隣に住んでいた汚い酒呑みのオジサンが、じつは一流の板前だったことを見抜いてるようだし、さらには、巳佐登からベテランの仲居を引き抜いたり、弘法湯の下男(武井壮)をウーバーイーツ代わりにしたり、鍋島家の西洋菓子や松濤の高級茶に目をつけたりと、地域のポテンシャルを引き出しながら、五島慶太よりも先に渋谷の発展のため手腕をふるっている。◇小林一三を登場させた意味は、そんな寿恵子との "プロデューサー対決" ってのもあるし、前の記事も書いたとおり、「浜辺美波を小林一三にヴァーチャルで対面させる」という東宝ネタ的な意味合いもあったとは思う。それから、わたしは知らなかったのだけど、1933年に開園した阪急直営の「六甲高山植物園」は、じつは牧野富太郎の指導で作られた、とのこと。https://ja.wikipedia.org/wiki/六甲高山植物園おそらく、そこで牧野と小林の接点も生まれるのですね。追記:余談ですが、丈之助のモデルである坪内逍遥も小林一三との接点があります。逍遥の甥で、のちに養子になった坪内士行は、養父と同様にシェイクスピアなどの演劇研究の道に進み、小林一三に請われて宝塚音楽学校の創立に関わり、タカラジェンヌの雲井浪子と結婚し、長年にわたって小林一三の演劇事業に協力しました。彼の娘は女優の坪内ミキコです。https://www.waseda.jp/inst/weekly/feature/2016/10/10/16049/https://www.hankyu-bunka.or.jp/ichizo/network100/theater/…さらにいうと、つぎの朝ドラ「ブギウギ」にも、やはり小林一三をモデルとした人物が登場するようで、※利重剛が演じる「大林林太郎」です。その伏線を兼ねてる可能性もなくはない。◇◇◇~以下は「ブギウギ」と小林一三の話です~ 次回作の「ブギウギ」では、笠置シヅ子と小林一三の関わりが描かれることになる。笠置シヅ子は松竹に所属するタレントだったのだけど、ほんとうは宝塚に入りたかったようです。でも、試験に落ちたのですね。松竹楽劇団の在籍中には、東宝への移籍を画策したものの、そのときは松竹側に阻止されている。まあ、笠置シヅ子はお世辞にも宝塚や東宝向きのタレントじゃないのよね。やはり庶民派で松竹向きのタレントだったと思う。笠置シヅ子は、わたしが日本でもっとも好きな歌手のひとりだけど、彼女の最大の魅力は、不穏でアンダーグラウンドな妖しさであって(薬物常習者だったとの説もあり)、けっしてハイソで上品なキャラではない。◇とはいえ、松竹楽劇団が解散した後は、笠置シヅ子が東宝の舞台や映画で活躍する機会も多かったので、おそらく小林一三と接点があったのも、その時期だと思う。とくに終戦後の一時期は、東宝のほうもアンダーグラウンドな路線に傾斜して、日劇でエロティックな舞台などもやっていました。それは占領下で進駐軍を後ろ盾にせざるをえなかったことにも無縁ではありません。本来、宝塚や東宝の芸能は、エロティシズムやバイオレンスを嫌う傾向が強いし、現在もそういう社風は変わらないけれど、終戦後にアンダーグラウンドな路線に傾いたり、笠置シヅ子とも関わりがあった頃は、東宝の歴史において特異な時代だったといえます。(「ゴジラ」や「七人の侍」のような名画もそういう時代に生まれている)。笠置シヅ子の最大のヒット曲「東京ブギウギ」は、そんな終戦直後の日劇で生まれている。東宝の舞台から生まれただけあって、彼女の楽曲の中ではわりと明朗な作品だし、アンダーグラウンドな要素はほとんどありませんが。◇松竹楽劇団や新宿ムーランルージュなどが、男性客をターゲットにエロティシズムを押し出したのに対し、宝塚歌劇団はもともと親子連れの客層をターゲットにしていて、エロティシズムを売りにすることはありませんでした。そして、しだいに客層のほとんどが女性になっていった。なぜ宝塚歌劇団がエロティシズムを売りにしなかったかというと、もともと小林一三のつくった芸能が「鉄道の沿線開発」と一体だったからです。小林一三は、鉄道沿線の人々に快適な暮らしを提供するために、街づくりからも、芸能からも、ヤクザを排除しました。小林一三が在日朝鮮人を嫌ったのも、当時の在日朝鮮人にヤクザが多かったからです。創業以来、宝塚や東宝は一貫して、土着のヤクザに依存した芸能と一線を画している。◇戦後に誕生したナべプロやジャニーズも、ヤクザとの関わりが薄い会社だと言われてるけど、それはもともと進駐軍を後ろ盾にしていたからです。進駐軍を相手にする芸能なら、土着のヤクザに依存する必要がない。しかし、だからといって、そうした芸能事務所の倫理観が高いとはかならずしも言えない。周知のとおり、ジャニーズ事務所の創業者には、所属タレントを性的欲求の対象にする下心がありました。宝塚でも、ときおりパワハラやセクハラがニュースになるけれど、すくなくとも創業者の小林一三にそういう下心はなかったと思います。宝塚や東宝は、日本の芸能のなかでは例外的にコンプライアンス意識が高い。それは戦前からの伝統です。いわゆる「清く正しく美しく」ってのは、宝塚女優のモットーであると同時に、運営する側にとっての戒めのスローガンにもなっている。エロティシズムやバイオレンスを嫌う東宝の芸能は、ある意味では「当たり障りがなくて刺激に乏しい」ってことにもなるけれど、そのコンプライアンス意識の高さは、現在の東宝が世界に進出するうえであきらかに有利に働いている。それがジャニーズ事務所との本質的な違いです。体質はちょっと古いですが、芸能界っぽい闇が少なく、良い事務所だと思います〜!特に映像 / 舞台で俳優として活動したい方に向いていますが、わたしのように道から外れても優しく見守ってくれます👀— 池澤あやか / いけあや (@ikeay) April 7, 2022 ところで、日本の主要都市の多くは、江戸以前につくられた城下町などを基礎にしていますが、近代以降に特筆すべき街づくりの例があったとすれば、それは小林一三が手がけたものをおいて他にありません。阪急沿線の芦屋や六甲山麓地域、そして東急沿線の田園調布のような近代高級住宅街は、すべて小林一三が手がけたものだといってよい。もともとは庶民向けに構想されていたと思いますが、その考え抜かれたコンセプトによって、現在では富裕層にしか住めないような付加価値の高い街になっています。そういう街づくりが出来たのは、小林一三が経済人であるのみならず文人でもあったことが大きい(彼の政治性も、その両面を備えたところに成り立っています)。小林一三の開発手法を模倣した鉄道沿線の都市は多くありますが、けっして芦屋や田園調布のような街にはなっていません。それらは結局のところ上っ面の模倣にすぎず、実際のところは営利主義にすぎず、本質的なコンセプトが浅いからです。◇ちなみに、第1回東宝シンデレラの沢口靖子は大阪出身で、それと同期の斉藤由貴は神奈川出身なので、それぞれ阪急と東急のお膝元から誕生したタレントだと言えます。厳密にいうと、沢口靖子は堺市の出身なので、阪急沿線の都市文化と直接の関係はありませんが。斉藤由貴は横浜の出身なので、東急沿線の都市の文化を直接的に吸収している。東急が横浜を作ったとまでは言わないけど、現在の横浜市民にとって、JR東海道線よりも、東急東横線からの影響のほうが、文化的な意味合いは大きいと思う。斉藤由貴は「予感」という美しい曲を作ってますが、これは東横線の情景を描いていて、母親と同じく東宝に所属した娘の水嶋凜もカバーしています。実際、東宝の女優が東横線の曲をつくることには正統性があるわけです。せっかくなら由貴ちゃんの誕生日に書くべきだったけど2日遅れだった…(笑)濱口竜介の世界的評価と相米慎二の再評価が連動するという2年前の話も、またベネチアで証明されました。
2023.09.12
朝ドラ「らんまん」の終盤で、きっとまた丈之助が登場すると思うのだけど、それはやっぱり、シェイクスピア全集を完成させたときでしょうか?◇牧野富太郎と坪内逍遥が同じ長屋に住んでいた、…ってのは、まったくのフィクションだと思うけど、長田育恵がそういう設定にした理由はいくつか考えられる。両者が同時代の人物で、しかも同時期に東大に通ってたし、長田育恵が坪内逍遥に詳しいってこともあるから、《馬琴も絡めて万太郎&寿恵子&丈之助の話を描く》というアイディアが、まずあったのでしょう。…でも、それだけじゃないかもしれない!最近になって知ったのだけど、じつは文学研究者としての坪内逍遥は、矢田部良吉の影響を受けていた可能性があるのよね。だとすれば、…丈之助は、田邊教授とも無関係ではない!ってことです。◇女子教育を批判した小説「くされ玉子」は、坪内逍遥の門下である嵯峨の屋おむろの作品でした。だから、わたしは、坪内が矢田部に批判的だった可能性も否定できない…と思っていたのよね。直接的に矢田部を攻撃したのは、そのあとの須藤南翠の小説「濁世」のほうですが。…ところが!文学者としての坪内逍遥は、むしろ矢田部良吉の後継者に位置づけられると言っていい。◇矢田部良吉は1882年に、外山正一や井上哲次郎とともに「新体詩抄」を発表しました。これが日本で最初の近代詩集とされています。このなかで矢田部は、シェークスピアの「ハムレット」の一節も翻訳している。その3年後に、坪内逍遥は「小説神髄」で次のようなことを書いています。>日本の短歌や長歌はいっときの感情しか表現できない。>それに対して、西洋詩(ポエトリー)は、>むしろ小説に似ていて「人世の情態」まで写すことができる。>だからこそ、矢田部良吉らは『新体詩抄』を著したのだ。実際の文章はこちら(抜粋です)↓小説は美術なりといふ理由我が国の短歌・長歌のたぐひは、いわゆる泰西の詩(ポエトリイ)と比ぶるときは、きはめて単純なるものなるから、わずかに一時の感情をばいひのべたるに止まる。ポエトリイは我が国の詩歌に似たるよりも、むしろ小説に似たるものにて、もっぱら人世の情態をば写しいだすを主とするものなり。我が短歌、長歌のたぐひは、いはゆる未開の世の詩歌といふべく、けっして文化の発暢せる現世の詩歌とはいふべからず。さればこそ過ぎにしころ外山、矢田部、井上の大人たちが、ここに遺憾を抱かれつつ『新体詩抄』一部をあらはし、世に公けにせられたりき。坪内逍遥は、矢田部良吉の導入した近代詩を、自身の小説論の基礎に置いていたといえます。つまり、坪内逍遥の近代小説研究やシェイクスピア研究は、矢田部良吉の先行研究から影響を受けていた。このことを長田育恵が知らないはずがありません。かりに坪内逍遥と矢田部良吉に違いがあるとすれば、それは日本の文化に対する考え方ですね。矢田部良吉の場合は、国字を改良してローマ字に置き代えるとか、ちょっと過激な欧化主義者だった面があるけれど、坪内逍遥の場合は、小説の近代化をはかりつつも、どこかしら「馬琴愛」を捨てきれなかった感がある。長田育恵も、坪内逍遥のことを、「古い日本を抱きしめながら新しい日本へ向かおうとした人」と語っています。(再々掲ですw)かりに牧野富太郎が、「本草学を抱きしめながら近代植物学に取り組んだ人」ならば、さしずめ坪内逍遥は、「馬琴を抱きしめながら近代文学に取り組んだ人」かもしれません。追記:岐阜新聞の記事には、牧野富太郎と坪内逍遥の交流について書かれているようです。https://www.gifu-np.co.jp/articles/-/260259有料記事なので中身は読んでませんが、おそらく記事の写真から察するに、シェークスピアのロミジュリに出てくる「マンドレーク」を、坪内逍遥が「曼陀羅華」と訳したことに対して、牧野がツッコミを入れたんじゃないでしょうか?
2023.09.06
朝ドラ「らんまん」第112話。終盤になって、いっそうフィクションの力が強まってきた感じ。寿恵子が小林一三に会うのもフィクションだろうけど、綾と竹雄が酒造に再挑戦するのもフィクションだと思う。しかも、藤丸に微生物のことを教わるようです。藤丸の実家が酒問屋だったのを忘れてました!(笑)まさかそこに繋がってくるとはね。◇当時の大学では、まだ醸造の研究はされてなかった、とのこと。Wikipediaによれば、藤丸のモデルの田中延次郎は、1897年から一年間、ドイツのミュンヘン大学へ私費留学し、そこで酵母の研究をしたらしい。https://ja.wikipedia.org/wiki/田中延次郎ドイツで酵母の研究…ってことは、おもにビールの醸造について学んだのでしょう。明治時代にビール製法が輸入されたときに、yeast の訳として発酵の源を意味する字が当てられたのが「酵母」の語源。微生物学の発展とともに、その意味するところが拡大していった。https://ja.wikipedia.org/wiki/酵母…とのことです。なお、キリンビールのサイトによれば、すでにビールの醸造は江戸の蘭学者がやっていました。出島のオランダ商館長ヘンドリック・ドゥーフが日本で初めてビールの醸造を実現してから数十年。幕末の動乱期に日本人で初めてビール醸造に挑戦したといわれる男がいた。それが日本の化学の分野に大きく貢献した蘭学者・川本幸民である。https://www.kirin.co.jp/alcohol/beer/daigaku/HST/hst/no143/藤丸の微生物研究は、綾の酒造りにどう繋がるのか。◇万太郎も、藤丸も、アカデミズムの外側で「実学」に取り組もうとしてますね。万太郎の本草学も、藤丸の菌類研究も、それぞれの形で実を結んでいくことになるかしら?かたや、大学を追放された野宮はどうなるのか。…そして、小林一三に遭遇した寿恵子は、万太郎とともに東宝でゴジラに出演??#ゴジラ #沢口靖子 #浜辺美波 https://t.co/0cQNkmyepq— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) September 5, 2023 【『ゴジラ-1.0』最新予告映像公開】生きて、抗え。#ゴジラ 生誕70周年記念作品11月3日(金・祝)公開https://t.co/reqpAky85D#神木隆之介 #浜辺美波#山田裕貴 #青木崇高#吉岡秀隆 #安藤サクラ #佐々木蔵之介#ゴジラマイナスワン#Godzilla pic.twitter.com/XMo1nJi23m— 『ゴジラ-1.0』【2023年11月3日公開】 (@godzilla231103) September 4, 2023
2023.09.05
朝ドラ「らんまん」第22週。かなり難しかったけど、たぶん重要な内容だった。◇森有礼が暗殺されるやいなや、アメリカ帰りの田邊教授が失脚して、ドイツ帰りの徳永教授に入れ替わりましたが、明治の日本って、全般的にドイツ系の勢力が台頭するのよね。明治憲法でも、英米流の立憲政治を目指した岩倉具視や伊藤博文らが抑え込まれ、君主大権を目指すドイツ(プロイセン)型が模範にされる。※森有礼は、その憲法が発布された日に殺されたのです。イギリス帰りの夏目漱石は官職を退くけれど、ドイツ帰りの森鴎外は陸軍軍医総監にまで昇りつめる。徳永教授がドイツ語で講義をする様子からは、そんな時代背景もうかがえます。日本は帝国主義戦争の時代に突入して、清やロシアから台湾だの満州だのを獲得していきます。◇台湾のシーンはほんの少しでしたが、それはたぶん、牧野富太郎自身が、そのことをあまり書き残してないからですね。しかし、ドラマ的にいえば、この台湾の経験が大きな転換点になるのだと思う。…牧野富太郎が、日清戦争の直後に台湾へ行ったのは事実だし、オーギョーチ=愛玉子の学名に、台湾の現地語(awkeotsang)を取り入れたのも史実です。しかし、「ピストルを持たなかった」というのは史実に反する。牧野はピストルを購入して持参していました。実際、明治初期にはピストルの購入が可能だったらしいし、日本の統治下に入った台湾も治安が悪かったからです。※台湾でも乙未戦争や抵抗運動があり、原住民の首狩りの風習もありました。記者が今週の朝ドラ「らんまん」を語る音声コンテンツに、らんまん脚本家の長田育恵さん@tegamizaが出演してくれました!台湾へ渡る万太郎になぜピストルを購入させなかったか?など興味深い話が盛りだくさん。ぜひリンクから全編をお楽しみください。https://t.co/yOGIggJjRt#朝ドラらんまん pic.twitter.com/wRjKC3mADL— 高知新聞 (@Kochi_news) September 1, 2023 一方、牧野富太郎が、事前に台湾語を学ぼうとしたかは分からないし、現地で病気(マラリア?)になったのかも不明。※オーギョーチに解熱作用があるのは事実らしい。また、台湾語の使用について、国や大学と確執があったかどうかも分からないし、そもそも、牧野が、植民地の同化政策に批判的だったのかも分かりません。◇…とはいえ、あえて虚実をまじえて構成したところに、今回の脚本の意図があるのだろうな、とは思う。結論からいうと、万太郎は台湾で《最後の本草学者》になったのです。たしかに植物分類学は時代おくれでしたが、万太郎はそこに民俗学的な意義を見出したのでしょう。そのことが「学名に現地語を使う」という行為に表れている。それは、ある意味で、本草学への回帰です。牧野富太郎博士は「日本の植物学の父」と称せられます。しかし「最後の本草学者」と呼ばれることもあり、博士の業績に対する、やや否定的なニュアンスも含まれています。どういうことでしょう?#朝ドラらんまん #牧野富太郎 https://t.co/swoHXYarXM— 高知新聞 (@Kochi_news) August 28, 2023 中国由来の本草学は、けっして植物だけを研究するものではなく、「人の暮らしとのかかわり」をも含めた学問体系です。なぜなら、本来の目的は薬学だったから。実際、後年の牧野富太郎は、その民俗学的な側面をとても重視していたように見える。一貫して現地名(地域の呼称)にこだわっていたし、安易な漢名に訳したりすることを痛烈に批判していました。『植物一日一題』は牧野が84歳の時に刊行した随筆集であるが、この中でたびたび語られるのは、日本の植物に用いられた漢名が誤用であるという指摘だ。「ジャガイモに馬鈴薯の文字を用うるのは大変な間違いで、ジャガイモは断じて馬鈴薯そのものでないことは明白かつ確乎たる事実である。こんな間違った名を日常平気で使っているのはおろかな話で、これこそ日本文化の恥辱でなくてなんであろう」「サクラは桜桃ではない」「アジサイは紫陽花ではない」「カキツバタは燕子花ではない」。牧野はこの種の漢字表記における間違いを激しく糾弾し、日本の植物の名前はすべてカタカナで表記した。▶ https://brutus.jp/makino-tomitaro_nakao-sasuke/?heading=1◇民俗学に接近した植物学者といえば、まずは南方熊楠が思い浮かぶのですが、じつは牧野富太郎にもそういう面があったかもしれない。しかも、それは、当時の柳田国男が推進していたような、官製の"一国主義的な民俗学"ではなく、もっとユニバーサルなものだったかもしれない。…ってのが、おそらく長田育恵の見立てなのだと思う。◇それが史実かどうかは分からないけれど、すくなくともドラマの万太郎は、この《時代おくれの本草学》を継承すべく、念願の大辞典の完成へ向けて邁進していくはずです。
2023.09.02
朝ドラ「らんまん」第107話。万太郎の植物学はもう古い!!…ってことですね。今週の内容はけっこうシビアです。それは学問の世界の厳しさでもある。わずか数年で、最先端だったはずのものが時代遅れになる。◇いまにして思うと、田邊教授が東大を非職になったのも、けっして政治闘争に敗れたからではなく、彼の時代遅れの学問が不要になり、ドイツで最新潮流を学んだ徳永教授に取って代わったから。という必然の結果だったのかもしれません。かつて田邊は徳永のことを、「旧幕時代の化石」なんて罵っていたけれど、その立場が逆転してしまった…ってこと。万太郎とともにヤマトグサの研究をした大窪も、田邊と同じく時代遅れの研究者と見なされてしまった。◇その点、早くから顕微鏡を使って、ミクロの世界に取り組んでいた波多野や野宮は先見的でした。実際、イチョウの精子を発見するのは、野宮のモデルになった平瀬作五郎だし、テング巣病の病原菌を研究するのは、細田のモデルになった白井光太郎です。かたや万太郎は、波多野とも交流してたし、あたらしい雑誌なども読んでたはずだけど、時代の変化を十分に察知できていなかった。そもそも、万太郎の植物学は、仙石屋の桜を枯らせたテング巣病菌にも、峰屋の酒を腐らせた火落ち菌にも、園子を死なせた麻疹ウイルスにも無力でした。藤丸とはちがって微生物への関心も足りなかった。そのころから、万太郎の学問的な限界は予告されていたといえる。◇万太郎が、このまま植物分類学を続ける意味はあるのでしょうか?八犬伝を完成させた馬琴のように、生涯をかけて植物大図鑑を完成させることが、はたして彼のサクセスストーリーになりうるのかどうか?それ自体が怪しくなってきた気もします。ある意味で、この脚本は、(先妻や後妻を酷使した自己中な人間性もさることながら)牧野富太郎の業績に対する辛辣な批判かもしれません。◇学問の潮流だけではなく、世界情勢もどんどん変化していますね。日清戦争や日露戦争によって、浮かれたバブル景気のような状況になっていく。そして、牧野富太郎は、日清戦争で獲得した台湾にも行ってるし、満州事変で獲得した満州にも行ってます。つまり彼の植物学は、日本の帝国主義に連動しているところがある。先週の放送では、琉球や奄美の植物にも興味を示してましたが、それだって「琉球処分」の結果として、明治政府が獲得した領土だったのに変わりない。こうしたところにも、牧野植物学の「負の側面」があるのかもしれません。◇そういえば…鹿鳴館の舞踏会のときに、高藤は次のように言いましたね。今度はわが国こそが他国へ出ていくのです!西欧諸国がそうしてきたように!しかし、クララはこう言い返しました。そんなことのためにダンスを教えたわけじゃありません!寿恵子もこう言いました。父が西洋になじもうとしたのは、よその国に出ていくためではありません。分かり合うためです!さらに、佑一郎はこう言いました。人が人を差別するらあて…嫌じゃのう!こうした伏線が、どんなふうに効いてくるのでしょう…?万太郎の植物学は何のために存在するのか?そのことが問われる内容になると思います。
2023.08.29
朝ドラ「らんまん」。NHKのサイトに【最終章を彩る人々のお知らせ】が。https://www.nhk.jp/p/ranman/ts/G5PRV72JMR/blog/bl/paV58pv9P1/bp/pEPAV7vzgn/それによると、このあと小林一三が登場するらしい!実業家・小林一三(こばやし・いちぞう)銀行員だが、のちに鉄道事業などを手がける大物実業家となる。寿恵子が開いた店に客として訪れる。演じるのはミュージカル俳優の海宝直人。海宝直人さんコメント「今回、阪急電鉄の創業者で、宝塚歌劇団をはじめ日本の演劇の礎を築いた小林一三さんを演じさせていだきました。日頃、演劇に携わっている人間としてとても光栄に思います」つまり、浜辺美波が小林一三に会うってこと??またまたネタをぶっこんできましたねww小林一三生誕一五〇年展 小林一三は、牧野富太郎より11才年下ですが、ネットで調べてみても、両者に接点があったとの情報は見当たらないし、小林の鉄道事業や都市開発事業に、廣井勇(佑一郎のモデル)が関わったわけでもなさそう。今日の放送では、寿恵子が新橋の料亭「巳佐登みさと」で働きはじめて、そこへ岩崎弥之助が登場しましたが、小林と岩崎の接点もネットには見当たりません。…なので、寿恵子と小林一三が会うのは、たぶんフィクションだろうと思います。◇牧野壽衛は1919年(大正8年)ごろに、母の友人が経営していた待合茶屋「いまむら」を引き継いでます。芸妓を呼ぶ貸座敷ですね。場所は渋谷の荒木山(現在の円山町)。これが、みえ叔母さんの高級料亭のモデルなのですね。そこへ小林一三が客としてやってくるのかしら?五島慶太が東横線沿線の開発をするときに、小林一三から多くを学んだのは事実だから、小林が渋谷の花街へやってくることもあったのでしょうか?下の記事にも書きましたが、震災前の新宿・渋谷・池袋はまだまだ田舎です…。https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/202208240000/はたしてドラマでは、寿恵子と小林一三がどんな会話を交わすのでしょう?たとえば、寿恵子 「こんど東宝という映画会社をお作りになるんですって?」小林一三「ええ。21世紀になると浜辺美波というスターが誕生しますよ」とか?それとも、寿恵子 「東宝で南総里見八犬伝を実写化してくださらないかしら?」小林一三「いや。あれを映画化するのは東映と角川でしょうな」とか?なお、牧野壽衛が亡くなったのは1928年。小林一三が東宝映画を設立したのは1937年。寿恵子を史実よりも長生きさせる可能性はあるけど、さすがに東宝の設立は間に合わないかな…(笑)◇以下が、小林一三の簡単な年譜です。1907年(明治40年)まで三井銀行の東京本店に勤務。1910年(明治43年)「箕面有馬電気軌道(のちの阪急)」を開業。1914年(大正3年)「宝塚唱歌隊(のちの宝塚歌劇団)」を創設。1918年(大正7年)「田園都市株式会社(のちの東急)」の経営に関与。1919年(大正8年)牧野壽衛が「いまむら」の経営を引き継ぐ。1923年(大正12年)関東大震災。1927年(昭和2年)「阪神急行電鉄」の社長に就任。1928年(昭和3年)牧野壽衛が死去。1929年(昭和4年)「阪急百貨店」を開店。1932年(昭和7年)「東京宝塚劇場(のちの東宝)」を開業。1937年(昭和12年)「東宝映画(のちの東宝)」を設立。小林一三がいつ登場するのか分かりませんが、東京の銀行員時代だとすれば1907年よりも前ですね。つまり、東宝はおろか、まだ阪急も宝塚も設立してなかったころだし、もちろん東急の経営に関わるよりも前の話だし、壽衛も待合の経営を引き継ぐ前ってことになる。おそらくドラマでは、史実より早い時期に寿恵子が自分の店をもつのでしょうが、現時点のドラマの設定はまだ1893年なので、これから日清戦争(1894)や日露戦争(1904)もあります。◇それにしても、子沢山なのに貸座敷まで経営するとは、お壽衛さんは、ほんとうにやり手だったのねえ。つーか、ほとんど超人です…。夫に苦労を強いられたのではなく、みずから苦労を買って出たってのも、あながちフィクションじゃないんですね。ここからは実業家=寿恵子の物語になっていくのかな。
2023.08.23
朝ドラ「らんまん」第101話。先日も由比ヶ浜で事故がありましたが、鎌倉の海岸は、意外に水難事故が多い。矢田部良吉も由比ヶ浜で亡くなったらしい。その10年ぐらい後には、七里ヶ浜で逗子開成中のボート事故も起きています。◇湘南は、おしゃれなビーチという印象とは裏腹に、歴史的な悲劇が重ねられた土地でもある。Wikipediaによれば、由比ヶ浜は古代から墓地だったそうです。1953年、由比ガ浜にある鎌倉簡易裁判所用地で大量の人骨が発見され、1955年まで調査が行われ、900体以上の人骨が発見された。また、最近では由比ガ浜地下駐車場を建設する際の調査で3000~4000体の人骨が発見された。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%8C%E5%80%89%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84極楽寺が建てられたのは、現実には死骸が遺棄されたり、行き場を失った者たちが集まったりする「地獄」ともいうべき場所になっていたためとの指摘がある。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%B5%E6%A5%BD%E5%AF%BA_(%E9%8E%8C%E5%80%89%E5%B8%82)大河「鎌倉殿の13人」では、静御前の産んだ義経の幼子が由比ヶ浜で殺されてるし、和田合戦がおこなわれた場所でもあり、和田義盛の一族も、このあたりで処刑されています。由比ヶ浜と七里ヶ浜のあいだの稲村ヶ崎は、新田義貞による鎌倉攻め(北条攻め)の舞台でもあります。◇ちなみに、サザンオールスターズにも、"古戦場の亡霊"について歌った曲がありますよね。そして、それ以外にも、「夏をあきらめて」の"岩影にまぼろし"とか、「シャボン」の"波の彼方に誰かいる"などの歌詞を、わたしは、そういう文脈で聴いてしまう…。そして、何故か、サザンのなかではその2曲がもっとも好きなのです。こういうことを書くと、どこかのネット記事が歌詞解釈を剽窃するかもしれませんね…。中央に稲村ヶ崎。 西に七里ヶ浜。東に由比ヶ浜。 稲村ヶ崎の奥に極楽寺。由比ヶ浜の奥に和田塚。 左端にあるのが江の島。 ◇さて、朝ドラの話に戻りますが、あらためて史実と見比べると、やはり時系列がアレンジされています。1886年坪内逍遥が根津遊廓の加藤セン子と結婚。1887年牧野富太郎の祖母が死去。小澤壽衛と結婚。1888年矢田部良吉が東京高等女学校校長に就任。1889年森有礼が暗殺。須藤南翠「濁世」が改進新聞に連載。1890年東京高等女学校が廃止。牧野が東大資料の使用を禁じられる。1891年矢田部が教授職を非職。1899年矢田部が鎌倉沖で溺死。前の記事にも書きましたが、森有礼の暗殺は、牧野の東大追放や新聞小説の連載より先だし、矢田部が亡くなったのは、彼が教授をやめさせられてから8年ほど後です。しかし、ドラマでは、「森有礼暗殺→東大非職→水難事故」と、田辺教授の受難をたてつづけに描いたわけですね。実際、これらの出来事には、何がしか因果関係があったと言えなくもない。◇それから、坪内逍遥の結婚も、じつは牧野と壽衛の結婚より先なのよね!根津の遊郭で身請けした丈之助の奥さんは、まだドラマには登場していませんが、これから出てくるのかしら…?なお、松本清張の「文豪」という作品に、坪内逍遥の奥さんのことが書かれてるそうです。#朝ドラらんまん 坪内逍遥と妻 加藤セン(大八幡楼の花紫)。 pic.twitter.com/PorKoEguGm— 野田 誠 (@makoto_noda) July 18, 2023
2023.08.21
今回の長田育恵の脚本は、朝井まかての小説「ボタニカ」と競作なのでは?…ってことは前にも書いたけど、それと同時に、大森美香の「あさが来た」や「青天を衝け」に重なる部分もある。女子教育の話とか、鹿鳴館の話とか、彰義隊の話とか。時代設定だけじゃなく、夫を支える妻の物語が明るいタッチで描かれ、視聴者の高い人気を獲得してる点でも、今回の朝ドラは「あさが来た」に通じるところがある。…と思ったら、朝井まかて&大森美香&長田育恵の3人は、北斎の娘を題材にした作品でも、過去に競作してたのよね。2016年に、朝井まかてが小説「眩くらら」を書き、長田育恵が戯曲「燦々さんさん」を書き、翌2017年に、大森美香が「眩くらら」をドラマ化してる。すべて葛飾応為の話です。▶ https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/201709260000/この三角関係は何なんだろう?だれか仕掛け人がいるのかしら?朝井まかてが時代小説家で、大森美香がドラマ脚本家で、長田育恵は舞台戯曲家と、それぞれジャンルは違うけど、当代随一の女性作家が、同様の題材で競作関係になってるのは興味深い。朝井まかては、もともと植物が好きだったらしく、デビュー作の「実さえ花さえ、その葉さえ」(2008)でも、江戸の種苗屋を題材にしているのですね。以下のインタビューによると、▶ https://note.com/booklibrary明治神宮の林苑計画を描いた「落陽」(2016)の執筆前から、編集者に《牧野富太郎のことを書かないか?》と打診されてたらしい。小説NONで「ボタニカ」の連載がはじまるのは2018年です。大森美香は、朝ドラ「あさが来た」を書くまでは歴史ものに無縁で、強いていえば、2006年に滝沢秀明版の「里見八犬伝」を書いてますが、…あれはほとんどSFだしね(笑)。ただ、今回の長田育恵の「らんまん」で、南総里見八犬伝がキーになってるのを見ると、これまた不思議な因縁を感じます。大森美香の場合は、「あさが来た」と「青天を衝け」を書いたことで、幕末から明治の歴史にかなり傾倒したんでしょう。2006年大森美香「里見八犬伝」(TBS)~滝沢馬琴2012年朝井まかて「先生のお庭番」~シーボルト2015年大森美香「あさが来た」(NHK)~広岡浅子長田育恵「当世極楽気質」(ピッコロ劇団)~坪内逍遥2016年朝井まかて「眩くらら」~葛飾応為長田育恵「燦々」(てがみ座)~葛飾応為2017年大森美香「眩〜北斎の娘〜」(NHK)~葛飾応為2021年大森美香「青天を衝け」(NHK)~渋沢栄一2022年朝井まかて「ボタニカ」~牧野富太郎2023年長田育恵「らんまん」(NHK)~牧野富太郎そして現在、大森美香は「花と葉」という小説を書いてて、(読んでないのでドラマ化希望w)これがどうやら三宅花圃の話みたい。…わたしの想像だけど、この人は、さしずめ、大河に出てきた渋沢歌子と、朝ドラの広岡浅子をつなぐような女性かな?って気がする。開国派の旧幕臣の娘で、東京高等女学校(お茶の水女子大)を出て、日本女子大学校の先生になった人です。ある意味では、「らんまん」の聡子(矢田部順)の先輩ともいえるし、「あさが来た」の宜ちゃん(井上秀)の先輩かもしれない。しかも、坪内逍遥の影響で小説を書いてるので、「らんまん」の丈之助の女性版といえなくもない。◇とにかく、今後も3人の作家の動向は、意識してチェックしていこうと思います。
2023.08.12
順序が逆になりますが、あらためて第18週の内容について。◇祖母の代まで、長きにわたって栄えつづけた峰屋は、なぜ綾が当主に代わった途端に、腐造を出して潰れてしまったのでしょうか?竹雄や、従業員や、分家の人々は、けっして「綾のせいじゃない」と言ってくれたので、多くの視聴者も、それで納得しただろうとは思う。◇…けれど、実際には、「綾のせいだ」と言う人もいただろうし、長田育恵の脚本も、そんなに甘くないのよね。むしろ長田育恵は、あえて「綾の責任」を疑わせるような伏線を、いくえにも張り巡らしていた、というほうが正しい。ある意味で、綾への厳しい仕打ちともいえる脚本でした。…綾の責任を疑わせる伏線は、次の2点に集約される。1.女が蔵元になったこと。2.火入れのタイミングをずらしたこと。実際、綾が子供のころに酒蔵に忍び込んだときも、「女が入ると酒の神が怒って腐造を出す」と叱られてましたし、綾が組合の設立を呼び掛けたときも、他の蔵元の男たちから同じことを言われていました。竹雄はそれに対して、「アホばっかりじゃ!」「綾さんこそが酒蔵の女神じゃ!」「あなたの言葉は呪いじゃなくて言祝ぎじゃ!」と言ってみせたのだけれど…結果的には、子供のころから浴びつづけた呪いのほうが、予言のように当たってしまったわけです。もちろん、前代の当主も祖母だったのだから、女性が当主になることに問題はなかったはずです。とはいえ、「女が酒蔵に入ると腐造を出す」というのは、あながち迷信と言い切れないところもあって…当時の女性は、糠床を作ることが多かったため、異質な乳酸菌をもちこむリスクはあったらしい。https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_no-woman-admittedもっとも、綾の場合は、子供のころに叱られて以来、酒蔵には足を踏み入れなかったはずなので、それが腐造の原因になった可能性は低いのですが。◇むしろ、それ以上に疑わしいのは「火入れ」の問題です。綾は、新しい酒を造るために、「火入れ」のタイミングをずらしていました。しかも、試験作だけでなく、主力商品の「峰の月」まで火入れを遅らせていた。もちろん、それが原因かどうかは分からないけれど、結果的には「峰の月」が火落ちして、いっきに廃業へと追い込まれてしまったのです。◇この脚本は、おそらく意図的だと思います。史実ははっきり分かりませんが、一般的に、実家の廃業の原因は、牧野富太郎への金銭的支援といわれてるはず。にもかかわらず、長田育恵は、そのエピソードをあえて作り変え、「女の当主が腐造を出した」という話にしたのです。それは、ひとつには、「主人公の万太郎を悪者にしないため」でもあろうけれど、たんにそれだけだとは思えません。そもそも実家で酒蔵の当主になったのは、綾のモデルにあたる牧野猶ではなく、竹雄のモデルの井上和之助だったわけだから、その史実に沿っていれば、「新しい当主が腐造を出した話」として、ただの不運なエピソードで済んでいたはずです。◇しかし、長田育恵は、あえて綾を当主にすることで、彼女に対する"仕打ち"を与えたといえる。それは綾の人格に対する仕打ちではなく、近代性への安易な信仰を戒めるための仕打ちです。…もちろん綾には何の悪意もありません。彼女の中にあったのは、酒への純粋な愛情であり、家業を支える人々への善意であり、新しい時代へ立ち向かう勇敢な冒険心でした。しかし、残念ながら、たんに愛情と善意と冒険心だけでは、伝統や因習を打ち破ることは出来ません。◇科学的な根拠もないのに、迷信じみた因習を信じることはできません。しかし、だからといって、それをむやみには捨てられないのですよね。なぜなら、そこには、経験値や統計的な必然性があるかもしれないから。むしろ、伝統や因習を乗り越えるためにこそ、はっきりとした科学的根拠が必要になる。たしかに現在では、女性の杜氏もたくさん存在していますが、それは科学的な裏付けがあってこそです。むやみやたらに伝統を否定した結果ではありません。伝統や因習を打ち破ることや、男女差別やジェンダーの観念を打ち破ることが、ただちに近代性に結びつくわけではない。それを打ち破るためには、やっぱり科学的な根拠が必要なのだということ。あるいは、伝統や因習を乗り越えるためには、そのための多くの失敗も要するのであって、その失敗を乗り越えることこそが近代性への一歩だ、…という教訓を示した脚本にも見えます。◇余談ですが…仙石屋の桜を枯らしたのは天狗巣病菌。峰の月を火落ちさせたのは火落ち菌。長女の園子を死なせたのは麻疹ウィルス。いずれも微生物でした。藤丸くんは菌類の研究を志してますが、万太郎は菌類には関心をもたなかったし、彼の植物分類学は微生物の脅威には無力でした。おそらく、長田育恵がこういう物語にしたのは、現代人がいまだ微生物の脅威に勝利しきれず、コロナウイルスにも抗体保有率で上回るしかない、…という現実を意識したからでもあるのでしょう。科学はまだ万全ではないし、その限界を知ることも必要です。場合によっては、伝統的な経験値を尊重しなければならない。なお、朝井まかてと大森美香の話は明日以降にしますw尾瀬あきら「夏子の酒」石川雅之「もやしもん」
2023.08.11
朝ドラ「らんまん」第93話。田邊教授夫妻が、新聞小説のネタにされてしまうスキャンダル!万太郎を追放した田邊教授に天罰がくだった?◇わたしは、万太郎の描いたムジナモの植物画が、ドイツのエングラー博士の本に掲載されて、その世界的快挙が新聞などで報道されれば、万太郎を追放した田邊教授にも世間の批判が集まるのでは?…なーんて考えていたのだけど、ぜんぜん別の角度からの批判でしたね。(批判というより、虚実をまじえた作り話ですが)まあ、鹿鳴館とか、俗曲改良とか、国字改良(ローマ字推進)とか、田邊教授がかかわった欧化主義政策は、国粋主義者や保守層のみならず、一般層からも批判されかねないものだったし、森有礼とつるんで権力を独占していた田邊教授には、さぞかし敵もたくさんいたのでしょう。森有礼も「国語外国語化論」などを唱えてましたが、国粋主義者によって暗殺されています。彰義隊として戦った倉木もそうですが、当時の東京には佐幕派の生き残りがたくさんいたし、とくに薩長の推進する欧化政策は目の敵にされたのでしょう。森有礼も薩摩出身でした。◇ちなみに、史実では、時系列がちょっと違います。つまり、矢田部良吉をネタにした新聞小説「濁世じょくせ」のほうが先で、牧野富太郎の東大追放は、その後です。そして森有礼は、その頃にはすでに暗殺されている。女子教育の腐敗を描いた小説としては、「濁世」よりも先に「くされ玉子」という作品があって、これを書いた嵯峨の屋おむろは、なんと坪内逍遥の門下です!それが女子教育批判の発端になっている。1888年矢田部良吉が東京高等女学校校長に就任。1889年森有礼が暗殺。嵯峨の屋お室が「くされたまご」発表。須藤南翠「濁世」が改進新聞に連載。能勢栄の「国の基」の論文が批判される。1890年東京高等女学校が廃止。矢田部と能勢が免職。矢田部が牧野富太郎の東大資料の使用を禁じる。1891年矢田部が教授職を非職。坪内逍遥は、(堀井丈之助くんのモデルだと思いますが)当時の女子教育について、どう思っていたのでしょう?まあ、女子教育への意見があったかは知りませんが、滝沢馬琴みたいな勧善懲悪の発想を乗り越えようとして、「人間の悪を赤裸々に描くのも小説の役割!」…とは思ってたでしょうね。◇なお、矢田部が校長に就いていた東京高等女学校は、現在のお茶の水女子大のことですが、お茶の水女子大にとっても、このスキャンダルは「黒歴史」になってるっぽい。大学の公式HPの沿革からも、この「東京高等女学校」時代(1886~1890)の記述は、すっぽりと抜け落ちてますし、Wikipediaの歴代校長の一覧にも、矢田部良吉の名前は見当たりません。なんでも、東京高等女学校は、「本校より独立して文部省直属の官立高等女学校になっていた」「その源流は官立女学校」https://ja.wikipedia.org/wiki/東京高等女学校…ってことらしいので、それがお茶大の歴史から分離する理由なのかもしれません。知らんけど。◇女子教育といえば、やっぱり朝ドラ「あさが来た」との関連も気になります。広岡浅子が日本女子大の設立にかかわったのは、1901年なので、これより10年ぐらい後のこと。あれ??日本女子大って、その名のとおり「日本で最初の女子大」じゃなかったの?お茶の水女子大のほうが先にあったの?…と思ってしまうけど、これがなかなか難しいのよね!…結論からいうと、広岡浅子が設立にかかわった日本女子大学校は、その名に反して、分類上は「旧制女子専門学校」であり、最初の女子大でもなければ、最初の女子教育機関でもないのです。創立の順序でいうと…1847年「学習所女子教科」(学習院女子大)1875年「東京女子師範学校」(お茶の水女子大)1875年「フェリス・セミナリー」(フェリス女学院大)1881年「高等女子仏英和学校」(白百合女子大)1886年「私立岡山女学校」(ノートルダム清心女子大)1900年「女子英学塾」(津田塾大)1901年「日本女子大学校」(日本女子大)1908年「奈良女子高等師範学校」(奈良女子大)1916年「聖心女子学院高等専門学校」(聖心女子大)1916年「大妻技芸伝習所」(大妻女子大)1918年「東京女子大学」(東京女子大)1920年「日本女子高等学院」(昭和女子大)…って感じですが、これらが正式に「大学」になるのは、すべて戦後のこと。そのときに「最初の女子大」がいっぺんに沢山誕生したわけです。◇なお、4月20日は「女子大の日」だそうですが、これは日本女子大学校の開校(1901年)に由来してます。かたや、8月21日は「女子大生の日」となってますが、これは東北帝国大学に女性が入学したこと(1913年)に由来してる。つまり、1901年に女子大が誕生してるのに、1913年にならないと女子大生が誕生しないという矛盾が起こるw◇そんなことより、わたしが気になってるのは、朝井まかて&大森美香のことなのだけど、それについては明日にでも書きますw
2023.08.09
朝ドラ「らんまん」第14~15週。◇まさか佑一郎まで、実在の人物をモデルにしてるとは知らなかった…でも、「札幌農学校でアメリカ人の先生に教わった」みたいな話をしてたので、もしや?と思って調べてみたら、廣井勇ひろいいさみという土木工学者がモデルなのね。彼も、牧野富太郎と同じく、高知県出身の1862年生まれ。札幌農学校では、クラーク博士ではなく、ウィリアム・ホイーラーに学び、内村鑑三や新渡戸稲造と同期生だった、とのこと。1883年に、横浜港から米国に渡り、ミシシッピ川とミズーリ川の治水工事に携わった。まったく史実どおりなのですね。なお、佑一郎は、「リオデジャネイロ号で渡米する」と言ってましたが、この船はタイタニックのように沈没したらしく、Twitterなどでは、不穏なフラグじゃないの?と噂になってます。アメリカに留学するという佑一郎。#仁淀川 から #ミシシッピ川 へ。佑一郎も金色の道を進むべく、前を向いていました。そんな佑一郎に触発される万太郎。#朝ドラらんまん#神木隆之介 #浜辺美波 #中村蒼 pic.twitter.com/8Mza1PIJpA— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) July 5, 2023 佑一郎は、北海道開拓の話もしていました。田邊教授は、学歴のない人間を「虫けら」呼ばわりしてましたが、佑一郎の話によれば、北海道の開拓を担っていたのは、そんな無学の人たちなのだと。そして、無学の人といえば…マキシモヴィッチの助手の話も出てきましたね。いわゆる「プラントハンター(植物採集者)」です。これまた 須川長之助という実在の日本人。岩手県出身の百姓ですが、ちゃんと歴史に名を残しています。…万太郎は、須川長之助とはちがい、田邊教授の助手になることを拒みましたが、わたしは、あのやりとりを聞いていて、「万太郎もプラントハンターになればよかったのでは?」…と思ってしまった。そのほうが収入も安定するし、新種の学名にも「マキノイ」と入れてくれるって言うし、それなら教授陣とも対立せずに済んだんじゃないかしら?でも、万太郎の野望とプライドがそれを許さなかったのですね。(プラントハンターの打診が史実だったかどうかは不明)◇それにしても、さすが長田育恵!思ってた以上に、かなり幅広く、同時代の人物や文化を織り込んである。枕のネタも面白かったです。日本髪の寿恵子と、散切り頭の万太郎では、枕が違うのですねwかたや田邊ご夫妻は羽毛のホテル枕を使ってるらしい。どこで売ってたんでしょうか?ちなみに…・田邊教授の奥さまの帯は羊歯紋シダモン(シダは、花も咲かせず種も作らないけれど、地上の植物の始祖にして永遠)・田邊教授の邸宅の庭には蓬莱羊歯ホウライシダ・田邊教授からのお土産は蓬莱豆ホウライマメ(蓬莱とは、神仙思想の「桃源郷」のこと)ここらへんにも何かしら曰くがあるっぽいけど、よくは分かりませんでした。◇ところで、聡子役の中田青渚は、日テレ「しょも恋」のときは女子高生だったのに、今回はいきなり教授夫人だったので驚きました。※日テレ「だが情熱はある」ではニット帽女子。※すでにBS時代劇では主演もしてるらしい。そして、すでに退場したかと思っていた田村芽実も再登場!TBSの「18/40」もシスターフッドの物語ですが、朝ドラ「らんまん」も、(万太郎と竹雄の尊いBL要素がなくなった代わりに)寿恵子をめぐるシスターフッドの話に転換しつつある?◇実際、長田育恵は、ドラマ後半の主役を、万太郎ではなく、寿恵子のほうに移している気もします。あいみょんの主題歌も、じつは万太郎ではなく、寿恵子をイメージして書いてあるらしい。…このバトンリレーではなかったけど。従来の牧野富太郎は、「妻に子供をたくさん産ませて、さんざん浪費した男」と語られてきたきらいがありますが、このドラマでは、むしろ寿恵子のほうが、「子供をたくさん欲しがって、夫のためにどんどん浪費した」みたいに描いてる感じ。石版印刷機を買ったのは史実どおりですが、買おうと言い出したのは、万太郎ではなく寿恵子。子供を作りたがったのも、万太郎ではなく寿恵子ですよね。夫婦のいろんなことを、寿恵子のほうが決めている。その結果、夫が妻に苦労を強いたのではなく、妻がみずから苦労を買って出たのだ、という解釈になってます。どっちが史実なのかは分からないけれど。…なお、牧野の自叙伝によると、石板印刷機は「郷里へ送った」らしいので、長屋を改装したというのはフィクションですね。ちなみに、当時の1000円は、現在の価値で2000万円くらいだそうです。え?マジ?1円が2万円。じゃあ1000円て2000万?いやそれは寿恵子さんは困るわ。#朝ドラらんまん pic.twitter.com/9l1rXWD647— tri(トライ)🌼 (@tri_400x) July 5, 2023
2023.07.15
NHK「らんまん」第13週。まずは万太郎と寿恵子の結婚があり、それと同時に、綾と井上竹雄の結婚も決まり、この2人に峰屋の経営が託されることになりました。また、万太郎は、天狗巣病にかかった千石屋の桜の治療を試みますが、残念ながら治療方法は見つからず、健康な若枝を接ぎ木して、その成長に託すことにします。◇史実でも、牧野富太郎が、(天狗巣病の治療に取り組んだかは不明ですが)ある商家の庭にあった桜の古木を、接ぎ木や挿し木によって広めたのは本当のようです。ドラマでは呉服商の「千石屋」となってましたが、史実では、仙台出身の主人が営んだ商家「仙台屋」の桜。牧野はこれをセンダイヤザクラと名づけたそうです。(そのルーツは宮城県の山桜ではないか、とのこと)一方、当時の東大植物学教室には、桜の天狗巣病について研究した人物が別にいます!それは、白井光太郎です。ドラマに登場する「細田晃助」のモデルです。彼は病原菌の特定には成功したのですが、現在もまだ治療方法は見つかっていないそうです。◇◇◇それはそうと!!わたしが依然として気になってるのは、やはり綾のモデル=牧野猶のこと(笑)。すなわち、牧野富太郎の最初の妻のことです。…ドラマだと、祖母の存命中に、万太郎の結婚と綾の結婚が決まりましたが、史実ではその順序が逆で、富太郎と猶が離婚し、それぞれ再婚したのは、祖母が亡くなった直後だったらしい。祖母が亡くなるまで離婚できなかったんじゃないかしら?◇NHKのサイトにも、↓最初の妻=牧野猶についての記事が載ってますが、https://www.nhk.or.jp/kochi/lreport/article/001/67/資料が少なくて、分からないことが多いみたいです。富太郎は、猶と結婚してすぐに、単身で東京へ行ってしまったし、子供も出来なかったようですから、実質的な結婚生活は皆無だったように思えます。要するに、猶を岸屋(=ドラマでは峰屋)の若女将にするための、形式上の婚姻関係だった可能性が高い。…とはいえ、祖母が亡くなるまで離婚せずにいたところを見ると、祖母のほうは、実質的な結婚を望んでいたのかも。◇小説家の大原富枝も、この婚姻関係には実効性があって、けっして形式的なものではなかったと主張しています。そして、大原富枝の小説『草を褥に』も、朝井まかての小説『ボタニカ』も、富太郎のことを「最初の妻を捨てた男」として描いています。事実、NHKのサイトによれば、牧野自身も、「元の家内は、いとこでいいなずけみたいなもので、どうも面白くなかった」「いとこ同士のは、興味がなんにもなかった」と語っていたようだし、牧野の親族も、「性格が合わないということで、間もなく離婚することになった」と話していたそうです。さらに、渋谷章による評伝には、「牧野富太郎好みの女性ではなかった」「一刻も早くこの結婚を解消しなければならないと決断した」などと書いてあり、大原富枝の小説には、「お猶さんは残念ながら美人ではない」「残念なことに肉体的に骨格がいかめしすぎた」などと書いてあります。(小説なので、これは作者の創作だと思いますが)◇かりに婚姻関係に効力があったとしても、実質上の結婚生活があったかどうかは別の話ですよね。牧野が一方的に「妻を捨てた」のではなく、祖母の死を待ってから、両者が合意のうえで、離婚と、それぞれの再婚をした可能性もある。猶と井上和之助の再婚についても、「牧野が2人を結婚させた」と記述されることが多いのだけど、それがどういう意味なのかは、いまいち分かりません。《その気のない2人を無理やりくっつけた》とも読めるし、《両者に結婚の意思があったので、それを許した》とも読めます。考えようによっては、牧野、猶、井上、寿衛の4人がみんな合意の上で、祖母の死後にそれぞれの再婚をした可能性もあるし、ほんとうに牧野が「妻を捨てた」といえるかどうかは謎です。◇そして双方が再婚した後、牧野は家財を整理して、岸屋を猶と和之助に譲り、岸屋は「井上和之助酒店」と屋号を変えることになります。しかし、結局のところ、酒蔵の経営は上手くいかず、最後は人手に渡ることになる。一説には、「牧野が金を無心しすぎたため」とも言われてますが、酒税が厳しかったせいでもあるだろうし、当主が変わったのも、屋号を変えたのも、やはり商売にとって不利だったのでは?という気もする。◇…今後のドラマがどうなるのか不安ですが、分家との確執もある中、はたして綾は、竹雄とともに、自分の望みどおりの酒を造ることが出来るんでしょうか??
2023.07.06
朝ドラ「らんまん」。先週の最終日に、真っ白なドレス姿の寿恵子が万太郎に抱きついたシーンで、ひとつのクライマックスだったと思いますが…◇それ以上に素晴らしかったのが、今週の月曜日(第56話)でした!丈之助が壁の穴から覗きこむ部屋で、寿恵子が万太郎に添いとげる決心を語ったシーン。今回のドラマのなかでも屈指の名場面。いわゆる神回だったと思います。◇史実どおりなら、今後の寿恵子は、かなり貧しく厳しい生活を強いられるはずなので、あらかじめその覚悟をさせた、ともいえる。…しかし、それだけではなく、寿恵子はこのとき、滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を引き合いにして、《作品を完結させること》の重要性を熱弁したのですが、これこそが、その後の万太郎にとって、そして丈之助にとっても、きわめて重要な意味をもつはず。史実でいうと、坪内逍遥は69才で「シェイクスピア全集」の翻訳を完結させ、牧野富太郎は78才で「牧野日本植物図鑑」を完結させるからです。坪内逍遥が馬琴オタクだったことは、何らかの形でドラマにも反映されるかな、とは思ってましたが、こんなにも見事な形でリンクさせるとは想像以上です。寿恵子と丈之助の「馬琴論争」は、たんなるオタク対決の域を超えて、今後の展開にとっての重要な伏線になったわけです。寿恵子「南総里見八犬伝は最大の友」。#ハリー・ポッター #浜辺美波 #朝ドラらんまん pic.twitter.com/BIvn7RJ1tc— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) June 20, 2023アイルランド民謡「The Last Rose of Summer/夏の名残のバラ」 (庭の千草)◇ちなみに、堀井丈之助を演じている山脇辰哉は、いままで見たことのなかった俳優なのですが、とても演技が光っていますよね。彼の魅力も相まって、このドラマをきっかけに、馬琴ファンや八犬伝ファンだけでなく、坪内逍遥ファンも増えるんじゃないかしら?(笑)◇なお、坪内逍遥のシェイクスピア全集を記念して建てられたのが、早稲田の「演劇博物館」です。脚本家の長田育恵は、そんな早稲田演劇の申し子のような人ですが、2015年には坪内逍遥の一代記「当世極楽気質」も書いてるので、たぶん彼のことは相当に詳しいんだと思います。長田育恵が語る坪内逍遥。(再掲です)◇余談ですが、植物学教室のメンバーが寄稿した論文と、実際に「植物学雑誌」に掲載された論文を突き合わせたら、東大の人たちが誰をモデルにしてるのかも分かりました。大久保三郎(=大窪昭三郎)「本会略史」「マメヅタラン」牧野富太郎(=槙野万太郎)「日本産ヒルムシロ属」白井光太郎(=細田晃助)「苔蘇発生実験記」澤田駒次郎(=柴豊隆)「白花のミソガワソウと猫の関係」染谷徳五郎(=波多野泰久)「花と蝶との関係」田中延次郎(=藤丸次郎)「スッポンタケの成長」三好学(=飯島悟)「採植物於駒岳記」https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jplantres1887/1/1/_contents/-char/ja万太郎の論文が「ヒルムシロ」の話だったのも史実どおりですね。大久保三郎「本會略史」牧野富太郎「日本産ひるむしろ属」白井光太郎「苔蘚發生實檢記」澤田駒次郎「しろばなみそがはさうト猫ノ關係」田中延次郎「すつぽんたけノ生長」大久保三郎「まめづたらん」染谷徳五郎「花ト蝶トノ關係」三好學「採植物於駒岳記」— 上山明博『牧野富太郎』青土社 (@Ueyama_Akihiro) June 7, 2023ついでにいうと、牧野は染谷、田中と相談し、矢田部の了解を得、明治20年(1887)に東京植物学会の機関紙として「植物学雑誌」創刊号を発行した。https://tezukayama.repo.nii.ac.jp/index.php(増田芳雄「日本における植物学の曙」)…ってのも史実どおりだし、牧野富太郎の「自叙伝」には、青年のころ私は本郷の大学へ行く時その店の前を始終通りながらその娘を見染め、そこで人を介して遂に嫁に貰ったわけです。仲人は石版印刷屋の親爺――というと可笑しく聞えるけれど、自分で植物図譜を作る必要上この印刷屋で石版刷の稽古をしていた時だったので、これを幸いと早速そこの主人に仲人をたのんだのです。…と書いてあるので、石版印刷屋のオヤジが仲人だったのも史実どおりです(笑)。
2023.06.21
朝ドラ「らんまん」第11週。視聴者に "ヤバ藤" 呼ばわりされた高藤雅修が、本妻に啖呵を切られて退場してしまいました。しかし、高藤雅修のモデルは、ほかならぬ牧野富太郎だった可能性が高い(笑)。◇ドラマのなかで高藤はこう言いました。弥江は妻です。だが、それだけじゃ。親が決めた話です。もとより恋心を抱いたことはなか。それは弥江も承知してる。しかし、じつは牧野富太郎にとっても、本妻の猶との結婚は「祖母が決めた話」であり、もとより「恋心を抱いたこと」はなく、それは「猶も承知していた」はずなのです。一方、妻の弥江はドラマのなかでこう言いました。男と女が対等と仰るけれど、すぐそばにいる女さえ目に入っていない!この国の行く末を描くのに女の考えは聞こうともしない!どうぞお好きなだけお仲間と踊ってらしたら?しかし、本妻の存在に目もくれず、日本の植物学を世界に並べるために、実家の稼業を本妻に押しつけて、好きなだけ仲間たちと遊び続けたのは、ほかならぬ牧野富太郎でした。つまり、視聴者が "ヤバ藤" を叩けば叩くほど、その批判はブーメランのように、牧野富太郎のところへ飛んでいったのです(笑)。◇ドラマのなかで寿恵子の母は、「妾なんてつまらないよ」と言いましたが、じつは後妻の牧野寿衛も、はじめは妾でした。富太郎と猶の離婚が成立して、ようやく寿衛は本妻の立場を勝ち取ったけれど、それが彼女にとって幸福だったかどうかも分からない。…分かっている史実だけを見れば、その後の牧野寿衛は、稼ぎのない富太郎に13人もの子供を産ませられ、家計と子育てをほぼ一人でやりくりするという、壮絶なワンオペ人生を送ったと言えます。◇それにくらべると、たとえば渋沢栄一のお妾さんのように、妻妾同居の大豪邸のなかで、女中を含む大所帯での生活を営むほうが、はるかに負担が少なくて安定的だったろうと思う。おそらく牧野寿衛の母も、彦根藩士のお妾さんとして、わりに安定的な生活を享受していたでしょう。むろん、嫌な相手の妾にさせられるのは苦痛だし、かりに好意のもてる夫だったとしても、「妾なんてつまらない!」ってのは一定の真実であり、本妻を羨む気持ちがあっても不思議はないけれど、そうはいっても、貧しい中で13人ものワンオペ子育てをする今後の寿恵子の暮らしが、妾だった母の人生より幸福になるという保証はどこにもない。◇わたしにいわせれば、それこそ広末涼子みたいに、一夫一妻制のなかで3人もの子育てをしながら、なおかつ恋愛もするなんてのは、少子化問題にあえぐ国や自治体から表彰されてもいいほどに、ほんとうの意味で「ベストマザー」と言うべきなのだけど、なぜか日本の愚衆のみなさんは、恋愛をせず子育てだけに身を捧げるのが、正しい妻であり、正しい母の姿だと信じて疑わないのよね。そういう考えが、巡り巡って自分の首を絞めることになるとしても(笑)。◇一夫一妻制のもとで、セックスレスに耐えながら、恋愛もできずに、働きながら子育てをしつづけるのが、母としての義務であり、妻としての幸福だというのは、まったくの幻想です。実際に統計をとって調べてみればいいのだけど、「母親が自由に恋愛したら子供が不幸になる」などという実証的なデータはどこにもありませんし、むしろ、性的なフラストレーションを抱えたまま、子供だけに依存してしまう母親のほうが、かえって子供との関係をいびつにこじらせて、ろくでもない「毒親」になっていくのだと思う。そういうパターンこそが、戦後の日本の主婦の現実なのだというべきです。けれど、ほとんどの毒親は、「自分は子供に依存などしておらず、 むしろ自分を犠牲にして子供のために尽くしてきた」と言い張るだけなのですね(↑同じことなんだけど)。そうした自己正当化が集団心理を形成して、妬みや不満の矛先を不倫芸能人にぶつけているのです。◇不倫は犯罪ではないし、それどころか、恋愛の自由は、たとえ既婚者であっても、現行憲法のもとで保障されているのだけれど、愚かな民衆は、愚かな企業組織と同様に、古い固定観念や慣習に縛られたまま、いつまでたっても合理的な判断ができません。芸能界の権力者による少年への性虐待や、ラブレターの暴露みたいなプライバシー侵害や、個人の恋愛の妨害などは黙認する一方で、なぜか不倫だけは執拗にバッシングしつづけるのが、日本の愚かな民衆の現状であり、人権意識や遵法意識があべこべなまま、いまだに前近代的な価値観から抜け出せず、明治憲法下の「姦通罪」の発想を維持しているわけです。◇そして、ありもしない一夫一妻制の幻想にとらわれ、自分たちの非合理な現実を正当化するために、嫉妬心から不倫した芸能人をバッシングするのだけれど、その結果、不用意にも結婚してしまった女性たちは、セックスレスに耐え、恋愛することも禁じられ、働きながらのワンオペ子育てを、ほとんど一生涯にわたって強いられ続けることになる。ほんの一瞬でも恋愛しただけで、社会的な制裁が加えられてしまうのだから、そんな社会のなかでは、だれも結婚したくなくなるのは当たり前です。むしろ、結婚もせず、ワンオペ子育てを強いられもせず、自由に恋愛しつづけられる人生のほうが、はるかに豊かであろうことは明らかなのだから。◇こういう問題は、少子化に拍車をかけてしまうし、本来なら国会でもきちんと取り上げて、天皇や総理大臣の口から、「既婚者であっても恋愛は自由です」と声明を出せば済む話なのだけれど、保守政権もまた、統一教会などの悪しき「家族主義」に毒されているので、合理的な選択ができなくなっているのですね(笑)。こうして日本の一夫一妻制は、ありもしない共同幻想だけに支えられて、完全に出口を見失っています。
2023.06.18
朝ドラ「らんまん」の第10~11週。万太郎は、石版印刷の修行をしてます。竹雄からは、「なんで峰屋のご当主が見習い修行なんかを!」みたいに言われてましたが…実際、牧野富太郎は、神田錦町の印刷所で1年間修行したそうです。◇彼がそこまでした理由は、ドラマとはちょっと違っていて、自叙伝によれば、「郷里に帰り、土佐で出版する考えであった」「その当時、土佐には石版の印刷所がない」「郷里で出版するには自身印刷の技術を心得ていなければいけん」「そこで一年間、石版印刷の稽古をしたのであった」「石版印刷の機械も一台購入し郷里へ送った」…とのことです。機械まで買っちゃうのだから凄い!最新技術で絵を描くことの面白さに魅了されたのでしょう。◇その印刷所には、歌川国芳の弟子だった画工がいます。(↑これは史実かどうか分かりません)先月も同じことを書きましたが、寿恵子の部屋に貼ってある八犬伝のポスターも、歌川国芳の作である可能性が高い。曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』。中でも、犬塚信乃と犬飼現八が戦う芳流閣の場面は大人気で、さまざまな浮世絵師が錦絵に仕立てました。歌川国芳もその一人。先のツイートで紹介した月岡芳年も、こちらの国芳の作品を参考にした可能性が考えられます。※現在は展示しておりません。 pic.twitter.com/R0hLBUgWmS— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) June 29, 2022印刷所の画工は「岩下定春」なる男。国芳の工房では猫を描いていたらしい。実際、歌川国芳は猫好きです。寿恵子と滝沢馬琴は犬好きですが(笑)。国芳の八犬伝の絵にも、化け猫が描かれています!!犬vs猫?▶ 国芳一門の猫絵図鑑◇◇それにしても、万太郎は、だんだん竹雄から自立しつつありますよね。親離れならぬ「番頭離れ」でしょうか。もはや病弱だったころの子供ではありません。竹雄のほうも、子離れならぬ「若離れ」をしつつあります。「若」呼びから「万太郎」呼びになって、お守もりの役割からは解放されつつある。◇祖母が死んだら、竹雄は土佐に戻って、綾のことを支えなければならなくなるはず。史実でも、祖母が亡くなった後に、番頭と猶が結婚しているようですから、きっとそういう流れになるのでしょうね。まあ、万太郎のお金の心配はありますから、土佐から仕送りすることになるのだろうけど、家業も大変な状況ですから、仕送りは容易なことじゃなくなるかもしれません。
2023.06.13
朝ドラ「らんまん」の東京編。いろんな人物が次々に登場しています。土佐にいたときは、坂本龍馬にしろ、池田蘭光にしろ、早川逸馬にしろ、ジョン万次郎にしろ、進歩的な考えの人たちに出会うことが多かったけど、さすがに東京は、かつて幕府のお膝元だっただけに、佐幕派と倒幕派がせめぎあった記憶がまだ生々しい。◇長屋に住む倉木隼人は、佐幕派の人間で、彰義隊の生き残りです。その妻の倉木えいは、彰義隊の行進のときに彼を見初め、上野戦争で血だらけになったところを救ったのだと。江戸城下で育った人たちは、薩長が幅を利かす新政府なんぞより、彰義隊を応援する気持ちが強かったのかもしれません。社会を二分した戦いの傷跡が、当時の東京にはまだ生々しく残っていて、倉木のような敗者のなかには、新しい時代に背を向けている人たちもいたのでしょう。…大東駿介の演じる倉木は、登場したときから異様な存在感を放っていましたね。不穏なやさぐれ感と同時に、ただならぬ色気もあって…。最初は「この俳優誰だっけ?」って感じで、大東駿介の名を思い出すまで、だいぶ時間がかかりました(笑)。妻を演じる成海璃子も、この手の役はとても上手いので、この夫婦だけで1本のドラマになりそうな感じ。なんなら倉木夫婦だけのスピンオフを見てみたい!◇…彰義隊といえば、大河「青天を衝け」の渋沢喜作が率いた部隊です。喜作を高良健吾が、平九郎を岡田健史が演じていました。しかし、渋沢喜作は、結成してまもなく、副長の天野八郎と対立したので、別動隊の「振武軍」を結成しました。結果的には、彰義隊も、振武軍も、新政府軍に敗れて、ほぼ全滅。とくに平九郎は凄惨な死を遂げました。◇このような佐幕派に対して、寿恵子の父は、彦根藩(井伊家)の旧士族。佐幕派と倒幕派の板挟みになりつつも、いちおうは開国派だったろうと思います。しかし、新政府の陸軍に入隊し、落馬事故で死んでしまった。寿恵子の母は、お妾さんだったとはいえ、どこかしら旧士族の誇りを持っているように見えます。…そして、鹿鳴館のオジサンたちは、まったくの開国派。みんな留学帰りなのだと思いますが、いまや文明開化を推進している欧化主義者です。手前が東大の田邊教授。左隣が政府高官の佐伯遼太郎。正面が管弦楽協会理事の名須川正宗。右側が旧薩摩藩の高藤雅修。ピアノを弾いてるのはクララ・ローレンス。みんな既婚者のはずですが、外国人のクララや、若い寿恵子にまで色目を使っている。渋沢栄一も、フランス流の自由恋愛の流儀で、妾や愛人をたくさん作っていましたが、それと同じです。◇田邊教授のモデルは、矢田部良吉。実際、矢田部は、植物学者でありながら、鹿鳴館時代の欧化政策に深くかかわり、音楽についても「俗曲改良」などを提唱していました。詩歌の改良を目指して矢田部らが編集した『新体詩抄』からは、「抜刀隊」(詞:外山正一/曲:シャルル・ルルー) という軍歌が生まれ、1885年に鹿鳴館の大日本音楽会演奏会で発表されました。これが七五調の歌詞を導入した最初期の西洋音楽だったそうです。矢田部がクララ・ホイットニーにつきまとっていた、…みたいな実話もあります。いうまでもなく彼女がクララ・ローレンスのモデルです。政府高官の佐伯遼太郎は、てっきり井上馨がモデルかなと思いましたが、「井上外務卿」の名前はちゃんと出てきたので、ほかに誰かモデルがいるのかもしれません。管弦楽協会の名須川正宗は、音楽取調掛の伊沢修二あたりがモデルでしょうか。…そして問題なのは、薩摩出身の実業家、高藤雅修ですよね!薩摩の実業家といえば、なんといっても五代友厚のことを思い浮かべますが、当時の彼は、おもに関西で活動してましたし、この翌年ぐらいには病死してしまいます。なので、むしろ高藤のモデルは、中井弘じゃないかと思います。彼は、薩摩出身の政治家で「鹿鳴館」の名付け親。ちなみに、中井弘は、大隈邸に出入りしていたころ、柳橋の芸妓だった新田武子に一目惚れして強引に結婚した、との伝説があります(真偽は怪しいですが)。今回のドラマで寿恵子に一目惚れするエピソードは、この伝説を彷彿とさせます。中井弘は4回も結婚しているらしいのです。なお、中井が惚れた新田武子とは、のちの井上馨の妻、すなわち井上武子のことです。大河「青天を衝け」では、愛希れいかが井上武子を演じていました。大河では、渋沢兼子が養育院でバザーを開いていましたが、井上武子も、渋沢の娘の歌子らと鹿鳴館で慈善バザーを開催したそうです。◇ついでに、東京大学の友人たち。彼らにも実在のモデルはいるでしょうか?左から、万太郎、堀井丈之助、波多野泰久、藤丸次郎。ウサギの世話をする藤丸くんは、キノコなどの菌類研究を志しています。彼の実家は酒問屋だそうです。そのモデルと思しき人物が何人かいます。1人目は、白井光太郎(1863年生まれ)2人目は、田中延次郎(1864年生まれ)3人目は、南方熊楠(1867年生まれ)です。みんな菌類学者です。牧野富太郎が1862年生まれなので、年齢も近い。いちばん可能性が高いのは、田中延次郎です。実家が酒屋だということもあるし、牧野の自叙伝にも、市川延次郎(後に田中と改姓)・染谷徳五郎という二人の男が、当時選科の学生で、植物学教室にいたが、私はこの両人とは極めて懇意にしていた。市川の家は、千住大橋にあり、酒店だったが、私はよく市川の家に遊びに行った。…とあります。藤丸くんも「隅田川の手前、千住の南で問屋をしてる」と言ってます。◇南方熊楠も、牧野と同じく、1884年に東大に入っています。熊楠が入ったのは、現在の教養学部で、牧野が通ったのは、現在の理学部だと思います。熊楠は和歌山出身で、実家はもともと金物屋でしたが、ちょうど1884年に父親が「南方酒造」を創業しています。(酒類への税制が厳しい時期に事業をはじめたのですね)現在も「世界一統」という会社が存続しています。熊楠は、菌類の標本採集に明け暮れて、翌年には大学を中退しています。◇メガネをかけた波多野くんは、植物交配による品種改良を志しているようです。誰がモデルなのかは、よく分かりませんが、先の自叙伝に出てくる染谷徳五郎なのかもしれません。ちなみに、明治時代には、「団十郎朝顔」というアサガオの品種が流行しました。…東大の植物学教室には、野宮朔太郎という画工も出入りしていますね。そのモデルは、平瀬作五郎だと思います。彼は、福井や岐阜の中学校で図画を教えたあと、1888年から東大の植物学教室に勤務していました。なお、洋画家の岡不崩らも、東大理学部の付属施設である「小石川植物園」で、1886年から植物を描いていたようです。※1897年には植物学教室が小石川植物園に移転します。◇最後に、おなじ長屋で文士を目指す堀井くんのモデルは、まちがいなく坪内逍遥でしょう!!東大の落第生だったところも堀井くんと同じだし、TOKYO FM「yes」のサイトには、≫ ハムレットの登場人物論を滝沢馬琴的観点で論文にしたが、酷評を受け試験に落ちたとのエピソードが載っています。これも、堀井くんの話とまったく同じです。堀井くんは文学雑誌の創刊を目指してるようですが、坪内逍遥は、1891年に『早稲田文学』を創刊しています。長田育恵が語る坪内逍遥。なお、南方熊楠も、坪内逍遥も、寿恵子と同じように「滝沢馬琴マニア」のオタクでした。なので、藤丸くんや堀井くんも「馬琴マニア」の可能性があります。万太郎がうかうかしていると、馬琴マニアどうしが仲良くなってしまうかもしれません(笑)。牧野富太郎に南方熊楠が送った竹 学説通り120年ぶりに地元で開花 https://t.co/bYg3A35elu— 朝日新聞サイエンスニュース (@asahi_science_r) May 11, 2023
2023.06.03
朝ドラ「らんまん」。浜辺美波が演じる寿恵子の部屋には、いわゆる"八犬伝グッズ"があふれています。…まずはこちらのカット。左がワンちゃんの置物。右は八徳の霊玉セット。こうしたワンちゃんが、いわば八犬伝のイメージキャラなのですよね。2匹の犬がじゃれ合っているのは、やっぱり現八と信乃のイメージでしょうか?寿恵子が読んでいる八犬伝の冊子にも、やはりワンちゃんのデザインが施してあります。国立国会図書館デジタルコレクションそして、八徳の霊玉セット。8つの玉は木製ですが、中央には大きな水晶玉が。江戸時代には、安価な「とんぼ玉」のアクセサリーが庶民の間で流行したそうですが、明治時代の水晶玉やガラス玉って、いったい、どのぐらいのお値段だったんでしょう?現在でも、大きさによって1000円~10000円までさまざまです。なお、八徳の霊玉セットは、現在でも売っています。里見八犬伝の舞台にあたる「南総」の館山市では、これが、ふるさと納税の返礼品になってるようです(笑)。https://www.furusato-tax.jp/product/detail/12205/44640731個1万円。8万円の寄付でコンプリート出来るらしい。Amazonでは1個1500円!8個12000円でコンプリート?!◇…次に、寿恵子の後ろに貼られている縦長のポスター!これと似た浮世絵がWikipediaにも載っています。月岡芳年の「芳涼閣両雄動」です。めちゃカッコいい!信乃と現八が戦った《芳流閣屋根上》の場面。上から信乃が覗き込み、下で現八が待ち構えている構図です。やはり信乃は、色白の美少年として描かれています。芳流閣ってのは高層の物見櫓です。その屋根の上で2人は戦ったのですね。「放龍閣」「教竜閣」「芳涼閣」など色々な字が当てられるらしい。寿恵子が貼っているポスターは、よく見ると、芳年の絵とはちょっと違いますが、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の八字をあしらった満月がデザインされてるっぽい。…オシャレ!!追記:寿恵子が貼っていたのは、月岡芳年ではなく、↓歌川国芳のこちらの絵に近いですね。https://www.city.tateyama.chiba.jpなお、Amazonには、歌川国芳版の別バージョンの絵のマグカップも売ってます。◇その右側の壁にも2枚のポスターが貼られてます。やはり、いずれも《芳流閣屋根上》の場面。調べてみたら、左は歌川豊国、右は豊原国周の浮世絵でした。ちなみに、豊国のポスターには信乃しか描かれていません。これは三枚続の絵の右端部分なのですが、源八は、左端部分に描かれているためです。きっと寿恵子は、美少年の信乃推しなのでしょうね。http://history.hanaumikaidou.com/archives/8602かたや、豊原国周は同時代に生きていた浮世絵師。貼られているポスターは、明治7年に歌舞伎役者を描いた三枚続の絵に似ています。寿恵子は、10年ぐらい前の役者絵を飾っているわけです。https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/382048◇さて、明日からの第7週は「ボタン」というサブタイトルです。どうやら寿恵子の"牡丹好き"が明かされるらしい。きっと八犬士に牡丹模様の痣があるからですね(笑)。はたして明治の初めに、腐女子のBL文化があったかどうかは謎ですが、大河の「どうする家康」でも、信長による《白兎の耳かじりプレイ》などが描かれています。実際、信長や信玄は美少年が好きだったらしいので、大河ドラマまでBL目線で見てしまいそうですw
2023.05.14
朝ドラ「らんまん」の浜辺美波。日テレ「ウチカレ」の空と同じく、BLオタクの腐女子設定であることが判明?…完全にネタをぶっこんできた形ですねw◇もしかして寿恵子は、滝沢馬琴「南総里見八犬伝」の、現八と信乃のBL的展開に萌えてるのかしら?犬飼現八げんぱちと犬塚信乃しのとは、こちらのお2人。左が現さまで、右が信乃さま。ゲンさまとシノさまは、おたがいの素性を知らぬまま、いったんは芳流閣の屋根上で戦いましたが、じつは同じ八犬士仲間であることを知り、一転して、固い絆で結ばれるわけですね。(芳流閣屋根上の場~行徳入江の場)現八は、つくづくと、信乃の「玉」を見つ、「痣」を見つ、出会いが遅かったことを恨むるのみ。ついに、おのおの「玉」を取りて、もろともに跪き、天地を拝し、誓いを立てて、かの「桃園の義」を結びぬ…この「玉」や「痣」とは、八犬士の証となる霊玉や牡丹形の痣のこと。そして「桃園の義」とは、義兄弟の契りを交わすこと。「ももぞの」ではなく「とうえん」と読みます。べつにエロい場面じゃありませんっっ!!(笑)とくに信乃にまつわる話は、妖刀「村雨」が出てくる物語でもあるので、ちょっと鬼滅っぽい要素もあるのですね。寿恵子は刀剣女子という可能性もあります。「信」の霊玉をもち、頬に牡丹の痣がある現八。「孝」の霊玉をもち、腕に牡丹の痣がある信乃。あべ美幸「東方八犬異聞」正直、八犬伝について詳しいわけじゃないですが、昔は、薬師丸ひろ子の映画「里見八犬伝」もあったし、いちおう滝沢秀明版のドラマ「里見八犬伝」も見たし、その脚本を書いていた大森美香は、北斎&応為の「眩」にも滝沢馬琴を登場させてました。↑これは朝井まかての原作通りですが。最近は、「岸辺露伴」の犬のバキンちゃんの件もあり、個人的に、ちょっと馬琴ネタが続いています。上:コミケで大量のBL漫画を買い込んできた浜辺美波。下:部屋中にBL戯作やBL草紙を散らかしている浜辺美波?— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) May 12, 2023明治初期には、まだ「コミケ」もなかったろうし、まだ「尊い」という形容詞の用法もなかったろうけど、男色文化そのものは、武田信玄や織田信長の時代からあるし、いやいや古代からあるらしい。もし寿恵子が腐女子だとすると、「新選組」とか、「弥次さん喜多さん」とか、「熊さん八っつぁん」とかも、BL目線で読んでた可能性が高いかもw◇◇…さて、ドラマのほうですが竹雄が万太郎とともに上京したのは、史実にもとづいてるのかどうか分からないのだけど、今後の展開としては、1.寿恵子が万太郎を献身的に支えるので、竹雄はお役御免(おジャマ虫)になる。2.竹雄が万太郎と寿恵子のキューピッドに。万太郎が竹雄と綾のキューピッドに。…みたいな流れが予想されますね。オタクどうしで惹かれ合う空と光。ウチの娘は、彼氏が出来ない!!
2023.05.12
朝ドラ「らんまん」は、最初の妻=牧野猶の存在を隠蔽して、ひたすら牧野富太郎の人生を美化するのでは?!…との憶測もされてましたが、じつは姉の綾のモデルが牧野猶だったのですね。昨年の朝井まかての小説「ボタニカ」が、この牧野猶のことをクローズアップしてるらしい。ドラマの放送がはじまる直前の3月31日には、朝井まかてがラジオ深夜便に出演して、牧野富太郎について話したようです(聴いてないけど)。朝井まかての小説は、朝ドラ「らんまん」と、どういう関係になってるのでしょう?NHKは、朝井まかての「眩」などもドラマ化しています。しかし、今回の「らんまん」にかんしては、朝井の小説を原作にしてるわけじゃありません…。わたしが思うに、朝ドラ「らんまん」と朝井の小説「ボタニカ」は、まったく無関係ってわけでもないのだろうけど、いわば競作のような関係になってるのかなと思います。追記:じつは脚本の長田育恵は、朝井まかてが「眩」を発表したのと同じ2016年に、戯曲「燦々」を書いていて、どちらも葛飾応為の話だったのです!そこでも競作の関係になっている。≫ https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/201709260000/長田育恵にも《歴史作家》としての面があり、上白石萌歌の「ゲルニカ」みたいな戯曲だけでなく、NHKでは「ルソン島、戦火の約束」のようなドラマも書いてます。今回の朝ドラも、そうした長田のオリジナル作品ってことなのでしょうね。長田育恵と萌歌 — ステージナタリー (@stage_natalie) July 8, 2020 そう考えると、朝井まかての「ボタニカ」、いとうせいこうの「われらの牧野富太郎!」、そして、長田育恵の小説版「らんまん」、…この3作が競作関係と見ることもできそうです。いとうせいこうの本には、朝井まかてと長田育恵も参加しています。◇今回の作品は、序盤を見るかぎり、朝ドラに典型的なサクセスストーリーって感じでしたが、ここにきて、かなり史実を踏まえてる感じがしてきた。そこに長田育恵の「作風」も見えてきた気がします。富太郎の両親が早くに亡くなったのは史実だし、いとこの猶の両親が亡くなっていたのも史実のようです。(猶の両親がコレラで死んだのかは分かりませんが)猶のほうが年下なので、ドラマとは逆になってるけど、富太郎と猶はやはり兄妹のような関係だったらしい。そして、祖母は2人を結婚させましたが、実質的な夫婦生活はほとんどなかったのだろうと思う。ドラマでも描かれているとおり、富太郎は酒も煙草もやらず、家業を祖母や猶や番頭に任せきりだったらしいので、猶に家業を継がせる(養女にする)ための、形式的な結婚をさせた可能性もなくはありません。(事実、結果としては猶が家業を継ぐことになっている)祖母が亡くなって、2人が離婚した後に、富太郎が東京の菓子屋の娘と再婚し、猶が番頭の井上和之助と再婚したのも史実です。ちなみに、若い頃の牧野富太郎は、まるで成田凌みたいな美男子です。ぶっちゃけ、神木くんよりイケメンだったかも(笑)。浜辺美波と成田凌 牧野富太郎の2番目の妻となる小沢壽衛は、井伊家の家臣だった父と、芸妓だった母のあいだに生まれ、幼いころは裕福だったものの、父親の死後は、母が芸妓置屋や菓子屋を営んだそうです。牧瀬里穂と浜辺美波の演じる菓子屋の2人が、商売上手で愛想のよいチャキチャキの美人母娘って設定は、その意味で史実にもとづいているのだと思う。きっと江戸育ちの粋な女性だったのでしょう。◇そういえば、第1週では坂本龍馬も登場しましたが、牧野家と坂本家が遠からぬ関係だった事実もあるとのこと。また、牧野富太郎が、自由民権運動の弁士として演説してたのも事実ですが、ジョン万次郎との関係については不明です(^^;
2023.04.30
先週の朝ドラ「らんまん」に、いとうせいこうが植物学者の役で出演したので、1月に見たNスぺ「超進化論」のことが繋がりました。https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/202301080000/いとうせいこうが演じる「里中芳生」は、博物学者の田中芳男がモデルになってるようです。いとうせいこう×植物×NHKといえば、ドラマ「植物男子ベランダー」とか、原作エッセイ「ボタニカルライフ」とかが、一般的には思い浮かぶわけでしょうけど、そもそも彼の植物愛って、どこから来てるのかしら?わたしは、やっぱり、スティーヴィーワンダーの「シークレットライフ」じゃないかな、…と思ってるのよね。The Secret Life of Plants/植物の神秘生活俺が先生と呼ぶ音楽家は四人だけ。スティービー・ワンダー先生、ボブ・マーリー先生、マービン・ゲイ先生、そしてスライ・ストーン先生だ!— いとうせいこう (@seikoito) June 16, 2015 何年前だったか、アイゴンとのユニットjust a robberで録音したスティービー『power flower』の日本語詩カバーを急に思い出してデータを送ってもらって聴いた。当時俺は鬱病の底にいて、よくぞ歌なんか歌ったなという超弱ボーカル。それがたまらなくいいw!— いとうせいこう (@seikoito) May 12, 2021 スティービーの原曲は植物ドキュメンタリーのサントラアルバムに収録で、三十数年後、西城さんはEテレ「やさいの時間」にレギュラー出演する。筋が通ってるなあと当時つくづく思ったものです。 https://t.co/03vqQi4unW— いとうせいこう (@seikoito) May 19, 2018いとうせいこうの植物関連書籍はたくさんあって、彼が編集した『PLANTED』という植物雑誌もあったし、そこでも牧野富太郎のことを取り上げてるし、今年の3月には「われらの牧野富太郎!」という本も出てるので、もしかしたら、彼が今回の朝ドラの企画・原案・監修をしてるんじゃないの?とまで思えてきます。
2023.04.29
タイトルが「らんまん」ですから、ドラマの要所要所で、花々が爛漫に咲き乱れるシーンが出てくるはずですが、そのなかでも先週のラストシーンはとくに美しかった。満開の桜の花の下を、寿恵子がおみやげを渡しに追いかけてくるところ。淡い夢のような美しさに、思わず胸が絞めつけられて、何度も何度も見返してしまいました。◇寿恵子は、はじめは万太郎のことを忘れていましたが、ふと木から落ちた「カエル様」だと思い出し、遠い四国の田舎へ帰っていくという万太郎に、おみやげを持たせようと追いかけてくるけれど、それ以上の下心は何もありません。牧瀬里穂は九州の人。浜辺美波は北陸の人。2人とも出身は東京じゃありませんが、チャキチャキした東京女の雰囲気とか、愛想がよくて後くされない感じがよく出ています。◇これまでの美波の作品のなかで、いちばん美しいと思ってたのは、日テレの「ウチカレ」のときに、岡田健史が、眠っている美波のメガネを外すシーンだったのだけれど、今回は、それを超える美しさでした。…といっても、それは浜辺美波の美しさというより、なによりも夜店や夜桜の美しさだったのですね。そして、東京の娘への届かぬ片思いを抱きつつ、後ろ髪ひかれながら故郷へ戻らねばならない万太郎の、切なさから来る美しさでした。かるやきが美味しそうに膨らむ カエル様を見つけた寿恵子
2023.04.27
TBSの「初耳学」に豊川悦司が出演していました。矢田亜希子との親交についても話題になっていた。トヨエツと矢田亜希子を繋いだのは、北川悦吏子のドラマ「愛していると言ってくれ」(1995)です。これが矢田亜希子の映像デビューでした。ついでに、トヨエツの映像デビューはというと、斉藤由貴と山田邦子の映画「君は僕をスキになる」(1989)です。◇わたしが思うに、映画「こどわか」の萌歌が、トヨエツと由貴ちゃんの娘だったことと、ドラマ「ウチカレ」の美波が、トヨエツと矢田亜希子の娘だったことには関連性がある。— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) February 8, 2023もともと、上白石萌歌の映画「子供はわかってあげない」と、浜辺美波のドラマ「ウチの娘は彼氏が出来ない」が似てる、…とわたしが思ったのは、漫画オタクの主人公を演じたのが、東宝シンデレラの同期だからというだけじゃなく、どちらもが父親探しの物語であり、しかも、その父親役がトヨエツだったからです。さらにいえば、萌歌の役名は「美波」でした。ドラマ「ウチカレ」の放送開始は2021年1月なので、映画「こどわか」の公開より先でしたが、もともと「こどわか」には原作があったし、じつはドラマより早い時期に映画も完成していました。コロナ禍で公開が延期になっていたのです。なので、北川悦吏子は、きっと「こどわか」をアレンジして「ウチカレ」を書いたのでしょう。— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) July 29, 2021 ◇映画「こどわか」の萌歌は、古舘寛治が育ての父だけれど、ほんとうは《トヨエツと由貴ちゃんの娘》という設定です。監督の沖田修一が意図したのかどうか分かりませんが、この組み合わせは「君は僕をスキになる」に遡る。そこにトヨエツの原点があるからです。一方、ドラマ「ウチカレ」の美波は、菅野美穂が育ての母だけれど、ほんとうは《トヨエツと矢田亜希子の娘》という設定です。これはあきらかに北川悦吏子が意図したもので、その組み合わせは「愛していると言ってくれ」から来ている。そこに矢田亜希子の原点があるからです。— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) August 24, 2021 ◇現在放送中の、「夕暮れに手をつなぐ」や、「しょうもない僕らの恋愛論」も、やはり、わたしには「ウチカレ」の変奏のように見えます。いずれも《両親のいない少女》の物語だからです。TBSの「夕暮れ」は、同じ北川悦吏子の作品だし、《空→空豆》《光→音》《漱石→爽介》などのように、あきらかに日テレ「ウチカレ」との連続性がある。日テレの「しょも恋」は、コミックのドラマ化ではあるけれど、やはり矢田亜希子が出演していることもあって、どこかしら「ウチカレ」の変奏のように見える。「夕暮れ」には「愛している」との連続性も。— まいか (@JQVVpD7nO55fWIT) February 6, 2023◇今回の「しょも恋」の矢田亜希子と眞島秀和は、両親のいない少女(中田青渚)と疑似家族になりそうな雰囲気です。少女には祖母がいて、その祖母を演じてるのは手塚理美。余談ですが、若いころのトヨエツは手塚理美のファンで、彼がいまでもファンレターに返事を書くのは、手塚理美に返事をもらった経験があるからだそうです。…ちなみに、矢田亜希子と眞島秀和は、けっこう由貴ちゃんとの共演経験も多い。矢田亜希子は、「捜査一課長」や「祈りのカルテ」に出ていて、由貴ちゃんのとのツーショット写真も公開されてます。眞島秀和も、「遺留捜査」で由貴ちゃんと共演してるし、映画「蜜蜂と遠雷」では同じシーンの撮影はなかったはずだけど、今回のNHK「大奥」では母と息子の関係ですね。◇それにくわえて、眞島秀和と由貴ちゃんは、2017年の映画「氷菓」の関谷純と糸魚川養子の関係でもある。去年のカンテレ「恋マジ」の、《広瀬アリス×岡山天音×斉藤由貴》の出演も、映画「氷菓」の組み合わせだったのですが、今回のNHK「大奥」の、《眞島秀和×岡山天音×斉藤由貴》の出演も、やっぱり映画「氷菓」の組み合わせなのですよね。もちろん《岡山天音×斉藤由貴》は、au森家でもありますが。
2023.02.08
日テレ「しょうもない僕らの恋愛論」第3話。◇第1話を見たときは、濱田岳と山下美月の「じゃない方の彼女」みたいな、おじさんと少女の恋愛の話なのかと思ったけど、第2~3話を見ると、これってむしろ北川悦吏子の「ウチカレ」に近い気がする。両親がいないという設定は、「しょも恋」の中田青渚も、「ウチカレ」の浜辺美波も同じなのよね。つまり、これは、亡き母が娘に遺したものについての話、…じゃないのかしら?トヨエツは「実の父」でしたが、眞島秀和は「母の恋人」という設定。菅野美穂は「母の親友」でしたが、矢田亜希子は「母のライバル」という設定。最終的に、眞島秀和と矢田亜希子は、女子校生と疑似家族のようになっていくのかもしれない。それがいちばん美しい展開のように思える。◇…すっかり忘れてたけど、それこそ「ウチカレ」で亡き母を演じてたのが矢田亜希子よね!…ちなみに!三角テーブルって、向かい合わない感じが気楽で好き~!▲これは三角テーブルではありません。— SPICE[舞台情報メディア]/e+ (@spice_stage) February 3, 2023 — ドラマ10「大奥」 (@nhk_oooku) February 2, 2023
2023.02.03
日テレの深夜ドラマ。「しょうもない僕らの恋愛論」。原秀則のコミックのドラマ化です。◇眞島秀和×矢田亜希子。…かと思ったら、なにやら高校生の少女が登場しました。いわゆる「おじさんと少女」の物語なのね。中田青渚という女優ははじめて見ましたが、女子高校生と、若き日の彼女の母親を、一人二役で演じてて、それがぜんぜん違う人物に見えるのがなかなかすごい。◇近ごろは、フランス映画みたいに「年増女と年下男子」の設定が多く、深田恭子×横浜流星、有村架純×岡田健史、波瑠×中川大志、栗山千明×小関裕太、吉田羊×磯村勇斗、二階堂ふみ×眞栄田郷敦 etc...今季も、吉高由里子×北村匠海のドラマが放送中。かたや、「おじさんと少女」の設定で思いつくのは、最近だと濱田岳×山下美月の組み合わせでしょうか?◇しかし、これは、はるか昔から繰り返されてきたモチーフで、1980年代にも、薬師丸ひろ子×松田優作 or 世良公則とか、原田知世×渡瀬恒彦 or 林隆三とかがありました。斉藤由貴の相手役も、やっぱり世良公則や林隆三だった。ちなみに、《かつて母が好きだった男性を好きになる》という設定も、原田知世の「早春物語」と同じ。◇ただし、非常に気をつけなければならないのは、こういう設定って、多分に世間のおじさんたちの願望を投影してる面があると思うけど、あまりにおじさんがギラギラしすぎてると、たんなる「淫行」になってしまうから、おじさんはあくまで受け身でなければならない。つまり、少女のほうが主体になって、おじさんを翻弄する話でなければなりません。その点、眞島秀和のキャスティングは妥当なのでしょう。不器用で真面目そうなキャラ。ちょっとトホホな役回りも似合うし、なんならゲイの役が似合う人でもあるから、少女から見てもわりと安心感があって、すこし弄んでみたくなる感じ?◇眞島秀和は、それこそ「おっさんずラブ」にも出演してましたが、わたしが好きだったのは、こちらのオールドパーのCM。https://adv.yomiuri.co.jp/news/newsletter202201_02.html同じザズウ所属の山中聡とのコンビ。「大奥」では稲葉正勝と松平信綱(眞島秀和は由貴ちゃんの息子の役)。大人のゲイをも思わせる作りで、なかなか素敵な雰囲気だなあと思ったし、こういうCMは、日本ではそれまで見たことがなかった。◇さて、ドラマのほうは、最後におじさんと少女が結ばれる…!なんて結末はほぼありえないので、やはり最後は、矢田亜希子が絡んできて、物語の落としどころが探られるのでしょう。いまのところ、眞島秀和と矢田亜希子は、(あれほどのイケオジと美女でありながら)あんまり異性としては意識し合っていないらしき設定。矢田亜希子の役柄も「強めの美女!」って感じなので、眞島秀和は、どちらにも振り回されそうです(笑)。 この部屋どこかで見たことある気がする…
2023.01.22
わたしが今季いちばん期待してるドラマ。これは、「半分、青い」と「ウチカレ」の連続性のなかで、北川悦吏子のファンタジーに没入するためのドラマであり、あくまでもファンタジーだから、どこにもリアリティはない。◇ウチカレとの連続性。つまり、空と光が、空と音になって戻ってきた…ってこと。豆も入ってますが(笑)。そして、漱石が爽介になって、ニューヨークから戻ってきた…ってこと。ついでに、シュガーベイブで踊るってことでもある。ジャニス・イアンで踊ったように。東京のビルに遮られてるので、空は半分くらい青い。◇あくまでファンタジーなので、どこにもリアリティはありません。まず福岡の横断歩道で偶然出会って、約2年後に東京の噴水で偶然再会して、すぐにホテルのレストランでも再会して、橋の上でも再会して、最後は、下宿でまたもや再会する。第一話だけで5回以上の偶然の再会(笑)。これが北川悦吏子のファンタジー。どこにもリアリティはありません。ひたすらそのファンタジーのなかに没入するだけです。◇このドラマで永瀬廉の魅力が輝くのは間違いありません。これはたぶん「silent」の目黒蓮の比ではない。そういう意味での北川悦吏子の手腕は、神懸ってて尋常ではない。永瀬廉の美しさが、かつてないほど引き出されるはずなので、たとえ脚本の内容が叩かれても、たとえ広瀬すずのキャラが激しい反感を買っても、ジャニヲタがこのドラマから脱落する選択肢はほとんどない。◇北川悦吏子と広瀬すずは、たしかにビッグネームの組み合わせだけれど、近年の北川悦吏子のドラマは、かならずしも一般的な支持を得てきたわけではなく、むしろ多くの批判を浴びながら、通好みの作品ばかり作ってきたというほうが正しいし、広瀬すずも、たしかに国民的なタレントではあるけれど、けして民放のドラマで成功してきた人ではないし、ましてラブコメで成功してきたわけでもないし、どちらかといえば社会的な作品で評価されてきた硬派な女優。そう考えると、俗受けの王道ラブコメを連発してきたTBSにとって、これはかえって冒険的なチャレンジだというほうが正しい。たぶん、このドラマも、万人の共感を得られるとは到底思えないし、やっぱり通好みの内容に終わる可能性のほうが高い。◇とはいえ、わたしがこのドラマを見ない選択肢はほとんどない。ピュアで美しすぎるファンタジーと、北川悦吏子だけのユーモアを味わうことが目的です。どこにも現実味がなく、どこにも共感する要素がなく、何の話でどんな話か分からないままに終わっても、なんら問題ない。そしたら、また次のドラマを作ればいいだけのこと。そういう連続性のなかで、この脚本家の世界がずっと続いていく、ということです。◇あとは、北川悦吏子が、TBSに対して妥協しないことを祈るだけですね。そんなことをしても一銭の得にもならないのだから。もしかしたらプロデューサーは、局の上層部をうまく騙したのかもしれないけど、とにかくTBSはやると決めたのだし、たとえ視聴率が1%以下になったとしても、最後までやり通してもらうしかありません。いまの北川悦吏子はこういう作品しか書かないだろうし、広瀬すずもこういう作品にしか出ないのだろうから、そういうもんだと思って覚悟を決めてもらうしかない。
2023.01.18
ふたを開けてみれば、医療ドラマというよりも、通常診療もせずにブラブラしてる勤務医たちのコントを交えた、ごく古典的なクローン人間のSF作品でしたね。美波的にいえば、「無痛」の特殊体質と、「アリバイ崩し」の推理力と、「約ネバ」の人身売買設定と、「シン仮面ライダー」の人造人間展開を、ぜんぶ合体させたような内容でした。途中までは、たんなる眠たそうな可愛い子ちゃんだったのに、最終回で、これほど美波の演技に引き込まれるとは思わなかったし、いちおう主役らしい説得力を見せつけてくれたのは良かったです。◇…まあ、ほんとうのことをいえば、彼女はべつに演技が下手な女優ではないのだし、それでも「浜辺美波を暖かく見守りましょう」的な雰囲気にもちこんだのは、あくまで "下手っぽく見せる" という制作側の策略なのですが(笑)。しかし、そういう戦略が功を奏したとしても、ひたすらツッコミどころを笑うだけのドラマを、十週にもわたって見続けるような温かい視聴者が、どう頑張ったって10%に満たないのは当然のことだし、夕方4時ぐらいに放送する子供向け作品ならともかく、さすがに夜10時台の内容とは言いがたいのだから、これで企画の方向性が正しかったとはお世辞にも言えない。◇ちなみに、終盤は、ほぼ人造人間の話になりましたが、危惧したほどの仮面ライダー的な展開にはならずに済みました。ただし、高森勇気は、秘密組織Doctor Blackとの戦いを続けるらしいので、続編があれば、まちがいなく仮面ライダー化していくでしょう。キスマイ宮田はなかなかの新境地を見せたと思う。けれども、すでに柄本佑と浜辺美波の『シン仮面ライダー』は、来年の劇場公開が決まってるのだから、あえてこのドラマの続編を期待する人は少ないだろうし、幼稚な作品ばかりを連発したあげく、低次元なスタッフばかりが結集するようになっても困るし、まともな脚本家が寄りつかなくなるようでも困るので、フジテレビと東宝は、また別の方向性の企画と脚本家で出直して、日テレの「ウチカレ」を超えるような作品に挑戦してください。
2022.03.29
浜辺美波の「ドクターホワイト」。医療ものなので、7年前の「無痛~診える眼~」みたいに、患者の病気を一目で言い当てる天才医師の話にしたいんでしょ?そこに名探偵コナンくんみたいな推理要素も加えて、一昨年の「アリバイ崩し」や「タリオ」みたいにしたいんでしょ?…などと予想していましたが、ここに来て、急に「約ネバ」っぽくなってきた(笑)。人身売買。血液ビジネス。2000万人に1人の希少血液:ゴールデンブラッド。…とかなんとか。すべての血液型に輸血できる特殊な血液。世界に50人ほど、日本には5、6人しかいないと言われてる。該当者のリストは国が厳重に管理してるはずだから簡単には入手できない。…私はずっと何もない部屋にいました。たぶんどこかの施設。何もない白い空間で、幼い頃からずっと監禁されていた。外に出た記憶はほとんどありません。接していたのは、係の人が何人か。名前はわかりません。私には医療の情報だけが与えられました。文献や映像やあらゆるもの。それが私の日常でした。それは勉強で、娯楽で、世界を知る方法でした。次の誕生日を迎えられない…そう言われてきました。勇気さんは「このままじゃ君は殺される」と言いました。勇気さんの連絡先も知っていた…「番号を覚えておいてくれ」と言われてて。高森勇気は、ミネルヴァさんですか?これはサスペンスというより、SFなのね。ほんとに「シン仮面ライダー」っぽくなってきました(笑)。
2022.03.11
浜辺美波の「ドクターホワイト」。けっして出来の良いドラマとは思わないけど、そのわりに、けっこう楽しんで見れてたりもする。放送当初から、ツッコミどころが多いのは周知の事実でしたが、思ったほどハチャメチャな展開にはなっていない。◇ツッコミどころを挙げたら、色々あってキリがないのだけど、・看過できない誤診が日常茶飯的に起きている。・人間の感情が理解できないのに、心因や精神症状の医療知識はある。・次期院長の座を狙っている外科医が、現院長の娘と敵対している。・通常診療をやっているように見えない。 etc…それをいまさら批判するのも野暮かなぁ…って気分がすでにあるし、 制作者側がそれをあえて狙ってるようにも見える。当初はツッコミどころと思われていた部分が、物語のなかでそれなりに回収されてる面もある。ベタベタなコミカルシーンも、見ているうちにだんだん慣れてきました(笑)。◇ネットの反応を見ると、みんなツッコミどころが多いのを承知のうえで、もっぱら「美波を愛でるドラマ」と割り切ってる様子。そういう視聴者が何割ほどを占めるか分かりませんが、そういう消費のしかたが、もし一般の視聴者のあいだで共有されてるなら、それはそれで、番組コンテンツとしては成功なのかもしれません。…実際、ここで美波が演じてるのは、世間のことを「何も知らない」という設定の美少女で、たぶん原作自体が主人公への《萌え》に重点を置いているのですね。そう考えれば、この役に美波をキャスティングするのは必然性があるし、それがうまくいってるなら、彼女の知名度を高めるゴールデン枠の作品としても、このドラマの選択は正しかったかもしれない。◇同じフジテレビの「朝顔」には遠く及びませんが、1.コミカルな会話パート2.シリアスな医療パート3.謎めいたサスペンスパート…の配合みたいなスタイルは「朝顔」に共通していて、脚本の精度さえ高めれば、このフォーマットと座組みのままで、上野樹里の「朝顔」の水準に引き上げることも、けっして不可能ではないだろうと思います。お茶の間の視聴者が、CDTのメンバーや狩岡家への愛着を抱けば、「彼らのワチャワチャをずっと見ていたい」という需要に応えてシリーズ化もありえなくはない。浜辺美波と柄本佑の関係をいじくりつつ、映画「シン仮面ライダー」の公開へ繋げていく手もあるかとは思います。
2022.02.22
フジテレビのドクターホワイト。医療ドラマの体裁ではあるものの、実際には「恋つづ」や「わたどう」と同じく若年層向けの作品。原作者は「金田一少年の事件簿」を書いた樹林伸です。主人公の浜辺美波は、天才的な推理で問題を解決していく役どころなので、一昨年の「アリバイ崩し」や「タリオ」などと変わらない。要するに、名探偵コナンくんみたいな話なのです。こういう荒唐無稽な勧善懲悪ストーリーは、子供向けであると同時に、じつは高齢者向けでもある。たとえば、「仮面ライダー」と「水戸黄門」は、正義の味方が悪者をやっつける点で同じ構造をしてるし、たとえば「名探偵コナン」くんは、テレ朝の「科捜研」や「ドクターX」と同じように、天才的な主人公が社会の難問を解決していく物語だからです。今回の「ドクターホワイト」が、若年層にも高齢層にも受け入れられるドラマになるのか、それともターゲットを絞りきれないまま失速することになるか、そこが今後の注目点になるのでしょう。ちなみに、浜辺美波と柄本佑は、来年の映画「シン仮面ライダー」でも共演が決まっています。その一連の流れの中で、このドラマは作られている。 ◇TBS の「恋つづ」も、日テレの「わたどう」も、お世辞にも脚本のレベルが高かったとは言えないし、それはテレ朝の「科捜研」や「捜査一課」についても言える。今回は、フジの医療ドラマということで注目したものの、やはり結果は同じで、脚本はごくお粗末なものでしかない。そのことは、多くの視聴者に初回から見抜かれていて、企画の薄さと浅はかさが誰の目にも見え透いています。これは、たぶん制作局の問題というより、東宝の問題なのでしょうね。東宝が関わるドラマは、テレビであれ、映画であれ、総じて脚本の水準が低い。これは構造的な問題だといえる。もちろん、それでも、一定の視聴率や興収が確保できれば結果オーライなのだけど(笑)、せっかくの機会なので、ここで東宝が抱える構造的な問題を考えておきたいと思います。 ◇ ◇◇東宝映画のなかでも、きわめて高い評価を得ている作品があります。たとえば宮崎駿、庵野秀明、新海誠、是枝裕和などの作品です。これらの多くは、演出家が脚本を兼任した、ごく作家主義的な作品であり、もっと言えば、ジブリや ufotable のような外部プロダクションに委託した作品です。その場合、東宝は資金面と配給面で協力しているにすぎず、コンテンツの中身にはほとんど関与していない。実際、優秀な作家やプロダクションに委ねる場合は、とことん丸投げした方がいいし、余計な介入はしない方がいいのですね。◇しかし、自社によるプログラムピクチャーや、ごく一般の制作会社との連携の場合は、そうではありません。凡庸な作家に脚本を丸投げしてしまったら、低次元な作品にしかならないのは目に見えています。その場合は、むしろ東宝側のチームで脚本制作をサポートすべきですが、残念ながら、そのような仕組みや能力は見当たりません。したがって、東宝のプログラムピクチャーには、ほとんど見るべきものがありません。本来なら、若くて優秀なライターの卵を自社で募って、脚本制作のサポートチームを作るべきだし、それができれば、プログラムピクチャーの質も全体的に底上げされるだろうし、連携する制作会社との関係にも良い影響を与えるだろうし、いずれは、チームの中から、優秀な次世代の脚本家が独り立ちするかもしれないのですが、そうした意欲もあまり見えてこない。◇優れた脚本を書ける人はごく一握りです。たんにシナリオが作れるというだけでなく、広範な知識と経験、取材能力と考証能力が必要だからです。それらを個人で出来る人はごく限られているし、ほとんどの職業ライターは、そうした能力をもっていません。しかし、そうはいっても、脚本は作品の根幹なのだし、どんなに優れた演出家や素晴らしい俳優たちを揃えても、脚本が悪ければ、絶対に優れた作品にはなりえない。なぜ東宝は、低次元な脚本で駄作を量産し続ける悪循環に自足していられるのか。この状況を断ち切らなければ、とても国際市場を視野に入れることなど出来ないはずです。各局と連携できるテレビドラマは、さまざまな可能性を試みることのできる機会なのだから、そこでこそ、優れたコンテンツを作るノウハウを磨くべきだし、それが、ひいては映画制作にも活かされるはずです。この機会に、もうちょっとマシなコンテンツ産業を目指してもらいたいと思います。
2022.01.20
うわわわわ…漱石ーーー!!!漱石ーーー!!!漱石ーーー!!!せつないし、報われな~い!しかもニューヨークに島流し~!(ToT)/~~~◇…まーねー。サリーという恋人がありながら、碧のほうへ横恋慕してしまった漱石が悪いのだし、しかも、その想いは最後まで変わらなかったし、彼の自業自得といえば自業自得なのだけど、添い寝したサリーに流した涙とは何だったのか。彼女を愛せなかったことへの贖罪の気持ちだったのかな。まあ、サリーもサリーで、漱石にストーカーはしていたものの、それは愛と呼べる感情ではなかったみたいだし、結局、漱石とサリーのあいだには、ほんとうの愛情はなかったのかもしれません。ここらへんは、非常に解釈の難しいところで、今後、いろいろな考察もされるべきだと思いました。◇碧は、最終的に、漱石でもなく、風雅でもなく、ゴンちゃんでもなく、象印を選んだ。ってことなのだとわたしは思うけれど、ここらへんも視聴者によって解釈が分かれるところかもしれない。…そして、報われなかったといえば、鼻毛先生もまた、なんだか「物分かりのいい咬ませ犬」的な役どころに終わって、ちょっと気の毒な感じがしました。◇碧は、風雅や漱石と別れたけど、かといってゴンちゃんを選んだわけではない。空も、鼻毛先生と別れたけど、かといって光を選んだかどうかは分からない。つまり、この最終回って、一見、まったりと穏やか内容ではあったけど、考えようによっては、美人母娘のお眼鏡に適わなかった男子たちの死体が、累々と転がった感じのラストでもあるのです。その意味でこそ "かぐや姫" 的な物語だったのです。「月を欲する民」とは、かぐや姫を求める若武者のことだった。◇恋とは呼べない気持ち。名前のつけられない関係。それを失くしたくないのなら、守らなければならない。…というのが本作のテーマではあったのだけど、はたから見れば、それは女子のご都合主義的なわがままであって、あくまで女子の側の一方的な意向で、容赦なく男子の取捨選択がおこなわれたようにも見える。出産をしたり、堕胎をしたり、場合によっては一人で子育てしたりする女子には、みずからの幸せを選ぶ権利があるのだし、クズ男に対しては復讐する権利だってある。その権利の行使のドラマだったともいえます。そして、なぜか俊一郎ジイサンだけが、孫ほども若い娘とラブラブに終わるという斬新な結末!(笑)なんだか分からないけど、めちゃ画期的っ?!これは、「恋なき時代」の新しい物語として、かなり論議を呼ぶものではないでしょうか。わたしは、ここに、北川悦吏子の攻撃性さえ感じ取ることができるし、時代に対してナイフ突きつけてる気もするし、場合によっては未来を見捨ててる気もしますね。よくもわるくも問題作ではないかしら?
2021.03.18
ドラマの最初のほうに、ケインズの「月を欲する民」の話が出ていました。人々は、けっして手の届かないものを求めようとする。でも、なぜか空には、月のほうが落っこちてくるように見えるのです。空は、月から舞い降りたかぐや姫なのです。いま思えば、月には鈴ママが住んでるのですよね。風雅の前に現れた鈴ママも、ちょっとかぐや姫みたいでした。昼間の世界では、碧や光が、空のことを見守っている。夜の世界では、鈴ママが、空のことを見守っている。沖縄に行けば、風雅もいます。空は、無敵なのです。さまざまな人たちに見守られている。それが、鈴ママが残していってくれた世界です。◇予告を見ると、碧は、最終回で、沖縄か、ニューヨークか、東京か…という選択を迫られるようです。それは、風雅か、漱石か、ゴンちゃんか…という選択でもあるのですが、それ以前に、それは「彼女にとって象印とは何なのか」という問題なのではないかなあ、と思えます。そして、その問題は、きっと空にも共通するものだろうと思います。◇そもそも象印って何なのか。タワマンの隣に見える象印は、水無瀬母娘にとって心の支えだったかもしれないし、あるいは、バブル以来のセレブの象徴だったのかもしれません。最終回のラストシーンで、碧と空は、象印に別れを告げるのかもしれない。あるいは、ともに生きていく決意を新たにするかもしれない。そのとき、物語の本当のテーマも明らかになるのだろうと思います。◇ちなみに、わたしの個人的な希望をいえば…サリーには漱石のもとへ戻ってほしいです!きっとニューヨークは楽しいよ!魔法の街ですよ!予告を見ると、風雅が碧に魔法をかけていたけれど、ほんものの魔法使いになるべきなのは、どう考えてもサリーのほうでしょ!ニューヨークで魔法使いになって、東京にもステキな魔法をかけにきてほしいです!
2021.03.12
最終回を前にして、空、光、鼻毛先生の3角関係。さらには、碧、風雅、漱石、ゴンちゃんの4角関係。そんな状況になってきました。しかし、そもそも、この物語は、いわゆる恋愛ドラマって感じのものではない。恋愛よりも、もっと大事な "つながり" の物語なのだと思う。というわけで、わたしとしては、いわゆる恋愛ドラマらしい「決着」には期待していません。もっとなにか別の着地のしかたがあるのだろうと思います。ちなみに、象印問題は回収されるのか?これについては、若干、放置される予感もある(笑)。◇ドラマをまともに見ていれば分かることだけど、たとえば、「Mother」以降の坂元裕二がもはや「東京ラブストーリー」の作家ではないように、「半青」以降の北川悦吏子も、もはや「ロングバケーション」の作家ではありません。いまの彼らが取り組んでいるのは、ラブストーリーでもないし、ホームドラマでもないし、自己実現のドラマでもありません。むしろ、恋愛が不可能な時代の物語であり、家族が不可能な時代の物語であり、自己実現が不可能な時代の物語だと言ったほうがいい。それを形にすることの難しさもあるし、それを受け止めることの難しさもあります。◇実際、そういう前提すらまったく理解していない、馬鹿なドラマ評論家がいまだに多い状況もあります。彼らは、今回の作品についても、トンチンカンな思い込みから、やれ「恋愛の価値観が古い」だの、やれ「オタクへの理解が浅い」だの、やれ「オタクだって米津玄師を歌うんだ」だの、ほとんど意味不明な難癖というか、八つ当たり的なルサンチマンをぶつけていました。さらに、途中で自分たちの見込み違いが露呈するやいなや、こんどは「タイトルに偽りあり」などと、ひたすらブーメラン的な空回りを演じていたのでした。哀れというほかありません。◇まあ、坂元裕二の「anone」への酷評や、野木亜紀子の「けもなれ」への無理解ほどじゃなかったけど、いまだにネット界に無能な書き手の多い実情を晒した形です。しかし、逆にいうと、かつての日テレのハイクオリティな路線が、このドラマでふたたび戻ってきた気もする。すぐれた脚本が、演出にまで冴えを与えていたようにも思う。いままでのところ「ウチカレ」は、脚本的にいうと、ほとんど捨て回がない。強いていうなら、第4話が捨て回だったかなあとは思うけど、おおむね、一定のクオリティを持続させながら、飽きのない物語を進展させていました。演出的には、まったく不満がありません。近年の日テレのダメっぷりが嘘のように、ほとんど欠点なく、安定した質を保っていました。最終回は、制作者を全面的に信頼して、ゆっくりと楽しむつもりです。よほどのことがないかぎり、今季のベストドラマは「ウチカレ」になると思う。
2021.03.11
ウチの娘は、彼氏が出来ない!! 第8話。中村雅俊が、そしてトヨエツまでもが、なぜか「Will You Dance?」で踊っている。ジャニス・イアンは2度目です。2度目ともなると、さすがに意味を考えてしまう。歌詞の内容は、ごく簡単に言えば、「いろいろあるけど踊りましょう」ってことです。どんなに世界が理不尽だとしても、どんなに絶望的な状況だとしても、いろいろあるけど踊りましょう。◇かつてトヨエツは、常盤貴子に「愛していると言ってくれ」と伝えました。愛があるのかどうかが大事だった。3年前の永野芽衣は、間宮祥太朗に「死んでくれ」と言いました。清野菜名は、永野芽衣に「生きてくれ」と言いました。生きていけるかどうかが大事だった。しかし、ウチカレの登場人物たちは、「愛してくれ」とも言わないし、「生きてくれ」とも「死んでくれ」とも言いません。これは恋愛成就や生存競争のお話ではない。空は、光に「いてくれ」とだけ言うのです。いてくれ。それだけでいい。たとえ愛がなくてもかまわない。いまは一緒にいてほしい。隣にいてくれるだけで幸せ。そして、できることなら、踊ってくれ…。◇恋愛ができないのは、べつにオタクだからではありません。オタクであろうとなかろうと、愛を求めるのは、もう困難なのだと思う。愛しているかもしれないし、愛していないかもしれない。今日は愛してるかもしれないけど、明日は愛していないかもしれない。それは誰にもわからない。だから、愛を問うことはもうしない。ただ、愛があろうとなかろうと、いまは一緒にいてほしい。一緒にいてくれるだけで幸せ。できることなら踊ってほしい。血が繋がっていなくても構わない。ずっと一緒にいてほしい。できることなら踊ってほしい。別れた恋人でも構わない。いまは一緒にいてほしい。できることなら踊ってほしい。自分を捨てた相手でも構わない。いまは一緒にいてほしい。できることなら踊ってほしい。世界は醜いことだらけ。でも、いろいろあるけど踊りましょう。運命は理不尽なことばかり。でも、いろいろあるけど踊りましょう。ジャニス・イアンの歌は、そういう意味だと思います。
2021.03.05
クズ男、やっぱり何にも覚えてない(笑)。
2021.02.28
ウチカレと半青。鈴さんは鈴女=永野芽郁なのか?!については、前回ちょっと書きました。一方、秋風羽織=トヨエツは、独身だったし、モテただろうし、女を平気で捨てる人物だった可能性もある。ユーコが、そんな秋風をひそかに想っていた可能性もある。空が漫画の才能をもってるのは、秋風とユーコの血を引いてるからではないの?!(鈴女じゃなくて!)でも、あらためて調べてみたら、秋風の本名は「権太」だったことが判明!ゴンちゃんっ!!それから、ユーコの母は毒親でした!サリー!!◇碧が空に「樹海の捨て子」と嘘を言ったのは、空があのクズ男のところへ行っちゃうのが怖かったら?いやいやいや。そんなことはあり得ない。かりに空があの男のところへ行ったとしても、あのクズ男が昔の女の娘なんぞを引き受けるはずがない。 でも、予告編を見ると、空とクズ男は、意外に仲良さげなのです。空もイケメンに弱い?!血は譲れない?!碧はそのことを知っているのでしょうか?そして、あのイケメンクズ男の危険な魅力を怖れている?ちなみに碧はいま、あの男のことをどう思ってるのでしょう?まだ愛してるの? それとも、ただのクズなの? そこが分からない。◇それにしても、こうやって物語がドライブしてくると、演者のみなさんの中にも、役が生き生きとみなぎってきて、演技にリアリティが増しているのを感じます。美波はいい作品に出た!これが代表作!!キミスイを超えた!!
2021.02.26
ウチの娘は、彼氏が出来ない!!第7話。うーん。すごいオリジナリティ。ほかのドラマには見られないオリジナリティです。この第7話だけで、語るべきことがあまりにも多すぎる。◇クズ男に遊ばれ、捨てられ、妊娠し、堕胎したサリー。それに対して、鈴さんは、最初から産むと決めていた。この違いは何か?クズ男への愛の差?◇会ったばかりの他人の子を引き受けようとした碧。会ったばかりの他人に我が子を託した鈴さん。クズ男に遊ばれた女どうしの連帯?これもクズ男への愛がなせる業なの?それとも、捨てられた女どうしの共闘?◇樹海の森の中で、光る竹のなかからかぐや姫を見つけた。この話、あながちフィクションとは思えない。現実をフィクションへと変換する、小説家の想像力って、そういうものだと思う。碧にとって、鈴さんが産み落としたクズ男の子供は、まるで空から舞い降りた天使だったのかもしれません。何故そう思えたのかは分からないけれど。◇空は、自分を無責任に生み捨てて死んだ実母を憎む。さらに、実の母を遊んで捨て、育ての母をも遊んで捨てた、クズすぎる実父を憎みます。この心情は、ごく真っ当なものだし、とても理解できる。「かーちゃんの娘でありたかった!」という心の底からの叫び。でも、空は、そんな実の母と和解し、さらにはクズ男の実父とも和解するようなのです!…それにしても、あのクズ男の実父は、なぜ空ばかり見上げているのでしょうか???◇整体師の鼻毛先生は、先週あたりでお役御免かなあ…と思ってたけど、意外なところでクズ男の実父と繋がりました。気がついてみれば、光も、漱石も、サリーも、鼻毛先生も、すべての登場人物が、母と娘にまつわる一つの物語のなかに、みごとに絡まっている。このあたりの作話技術はさすがです。…それにしても、泣いた後で食べるお汁粉は、めちゃくちゃ優しくて美味しそうだったの!わたしもおだやでお汁粉食べたいよ!!◇◇◇…さすがに清野菜名は登場しませんでした。でも、空の青さを愛でるトヨエツは、どこかしら「半分、青い」の世界を負っているし、鈴さんの本名というのは、もしかしたら鈴女でないとはかぎらないのです。
2021.02.24
ウチの娘は、彼氏が出来ない!!第6話はなぜ神回だったのか?!…については、すでに前回書きましたが。(笑)ここで、あらためて、第6話の中身を整理してみたいと思います。◇碧は、誰かと結婚して子を産んだのではなく、たんに誰かの赤ん坊を引き取っただけです。(だから臍の緒もある)じつは、彼女自身も、それほど恋をしてこなかったのでは?彼氏が出来ないオタク娘と同様に。でも、そんなときも、ちゃんとゴンちゃんはそばにいて、碧と赤ん坊をまるごと引き受けようとしていました。にもかかわらず、碧にスルーされたので、人知れず傷心のゴンちゃんは欧州へ旅立ってしまった。サラッとした回想シーンでしたが、あそこには、とても重要な情報が含まれていました。◇ゴンちゃんと俊一郎さんは、空の実母が誰なのか、のみならず実父が誰なのか、そこまで知っていたのかもしれません。…それにしても、なぜ、碧は、シングルマザーの道を選んだのでしょうか?結婚という発想はまったく頭に無かったのでしょうか?わたしから見ると、碧とゴンちゃんは、たんにニアミスしているだけのように思える。空と光のニアミスも、それと同じことの繰り返しなのかもしれない。究極の似たもの母娘!次回以降の焦点は、まずそこらへんにあります。◇もうひとつの焦点は、やはり「象印」です。あれは、いったい何なのか?碧とゴンちゃんは、二人で空を育てる可能性もあったはずですが、そうはならなかった。もし二人が結婚していたら、あの「象印」は必要なかったのかもしれません。シングルマザーだったからこそ、母と娘には、あの「象印」が必要だったのでは?◇成人した空が、誰かと結ばれて去っていったら、碧はあの高層マンションにひとり残るでしょうか?そして、ひとりぼっちになる碧にとって、あの「象印」は、それでもまだ必要でしょうか?むしろ、そのときにこそ、碧ははじめてゴンちゃんの存在に気づくかもしれません。わたしが思うに、あんな高層マンションにひとりで暮らすより、「おだや」へ嫁入りしたほうが幸せな気がします。そのときこそ、母と娘とが、あの「象印」から旅立つときではないでしょうか?◇…さて、北川悦吏子のツイートによれば、来週以降、新しいキャラが登場するそうです。公式サイトには「謎の男」と書いてある。でも、わたしのなかでは、むしろ、ある女性が頭に浮かんでいます。それは誰かというと…誰かというと…誰かというと…ユーコ。清野菜名。空のほんとうの母親?娘を残して亡くなった友人?そこで半青とつながる?!シロクロの日テレだし!!間違ってるかもしれないけど。それでも、わたしの妄想は止まらない。◇◇◇それはそうと!!おいっ!ザ・テレビジョンとTV LIFEの審査員!あなたたちに猛省をうながしますよ!あなたたちは、『中学聖日記』のときに、岡田健史に助演賞やらなんやらを与えてましたけど、いったい彼のの代表作として、「中学聖日記」と「ウチカレ」、どっちがふさわしいと思ってますか?あきらかに「ウチカレ」でしょうよ!!岡田健史の代表作は、まちがっても「中学聖日記」ではなく、絶対に「ウチカレ」でなければならない。”中学聖日記の岡田健史”として記憶される場合と、”ウチカレの岡田健史”として記憶される場合を比べたら、今後の彼のキャリアにとって、どっちが有利だと思いますか?いまからでも遅くはない。「中学聖日記」のときの賞をみんな無かったことにして、ぜんぶ「ウチカレ」での助演賞に変換したほうがいい。彼の代表作が、死に体演技の「中学聖日記」だと見なされれば、それは、かえって、のちの俳優人生の足枷になってしまう。だから、賞の選定というのは、誠実な審査によらなければならない。いいかげんな審査や判断の誤りがずっとつきまとう。どこかの誰かへの忖度だのゴリ押しだので、不用意にテキトーな賞などを与えるべきではないのです。北川悦吏子/浜辺美波/岡田健史/菅野美穂/沢村一樹/川上洋平/福原遥/中村雅俊
2021.02.20
ウチの娘は、彼氏が出来ない!!第6話。うーん。控えめにいって…神回。◇まず、岡田健史は「助演男優賞」確定。いや~、彼が「中学聖日記」でデビューしたときは、このまま消えていく俳優だなあ、と思うほど、目が死んでましたけど(笑)今作では、まるで別人のように素晴らしいです。こんなにも美しい草むらしゃがみがあるでしょうか……そして眼鏡をはずした美波の美しさ!ああ、美しすぎて胸が苦しい…◇もちろん、この第6話は、母娘の血縁問題が話のメインではあるんだけど、それ以上に、空と光、この二人のあいだにある、恋よりも美しい関係に心奪われたのでした。空と光…そう言葉にするだけでも美しい!なんて名前をつけてくれたんでしょう!◇この物語は、「ラブストーリー」と銘打っているけれど、いったい何の「ラブ」なのか。母と娘のラブなのか。幼馴染のラブなのか。年の差男女のラブなのか。オタク同士のラブなのか。あきらかに、恋よりも尊いラブがあるのです!その美しさが分からない人間は、控えめに言って、バカ。北川悦吏子/浜辺美波/岡田健史/菅野美穂/沢村一樹/川上洋平/福原遥/中村雅俊
2021.02.18
ウチの娘は、彼氏が出来ない!!第5話の内容に、かなり困惑。サリーの毒親問題と対比するかのように、空と碧の血縁問題が発覚!画像にさほどの意味はありません・・・◇え?!ってことは、空は誰の子?もしやアジアの貧困国の孤児?いや、臍の緒が大事に取ってあるんだし、母親は亡くなった碧の友人と見るのが妥当?そこで「半分青い」のことも脳裏によぎる。打ち切りになった「アンビリカルコード」は、じつは空へのメッセージだったってこと?「半分青い」のテーマ性のことも含めて、「空」という名づけの本当の意味がわかってくる?◇空と整体師の無理ゲーなデートを見ていて、オタクに恋ができない理由は分かったけれど、そもそも恋のできないオタクの話なんぞよりも、もっと大事な人間関係の優先順位として、「彼氏」より「親子」、「親子」より「友達」、そして「トモダチみたいな母娘」…、もとい「母娘みたいなトモダチ」最強伝説へ行き着く予感が。◇◇唐突な中島みゆき。サリーは昭和歌謡オタクだった模様。唐突な大沢誉志幸。そして途方に暮れる漱石の交通事故。…爺さんと中島みゆきに惹かれるサリー。…オバサンと大沢誉志幸に揺さぶられる漱石。いわば年の差恋愛のたすきがけです。この混乱しまくったストーリーに、なんらかの整合性がつくのかどうか、いまのところ、まったく見通せない。演者の人たちも、この作品世界に十分ついていけてないのでは?◇それにしても美波は、失礼なぐらいに黒柳徹子の物真似が上手wwあんな特技があったとは!つーか、あの冒頭シーンは、たんなるアレキサンドロスの周知ですか?
2021.02.11
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