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今日の日記(「泣かないと決めた日」感想と女子会☆) <あとがきのようなもの>つい最近のテレビで、あるイイ話のCMのことを紹介していました。シンデレラは継母たちにいじめられたままでした。おしまい。王子はカエルになる魔法をかけられてしまいました。おしまい。みにくいアヒルの子はみにくいままでした。おしまい。こうした童話を読んでいた女の子は、何かに絶望したのか、どうやら学校かどこかの屋上から飛び降りようとします。それをキャラクターたちが止めます。「私はこれから舞踏会に行って王子様と結婚するのよ!」「ボクはこれから人間の王子に戻れるんだ!」「ボクはこれから綺麗な白鳥になれるんだよ!」「イイことは、これからなんだから、死なないで!」そう言って止めます。人生の素敵なことは後から起こる…的なキャッチコピーで締めくくられていたCM。つい涙が出そうになりました。そうなの。そうそう。あなたがいないと、この物語の素敵なところは見れないの。あなたがいなくなってしまったら、この物語の素敵なところが見てもらえないの。そんな話に、この話もなっているのではないか…と。2008年の5月8日から、連載を開始させていただいて、今までで最長の8ヶ月の連載をさせていただきました。途中、何度かくじけそうになりました。だけど、このエンディングをどうしても書きたくて書いた小説。皆さんからのコメントも、とても励みになりました。この話は、紫式部の書いた「源氏物語」のように、一人の人の人生を、私の場合は、女性を主人公に現代版で書きたいなぁ…と。(そのワリには、主人公が好色じゃなかったため、たくさんの男性と関わることもありませんでしたが。)そして、シンデレラのような御伽噺を。大人の童話を描きたいなぁ…と思って書きました。ずいぶん長くなってしまって、なんと100話に!(編集の都合で106話)今まで読んでいただいた読者の方には、ほんとうに長いお付き合いをありがとうございました。また、こうした、自分が納得できるような話を書いていきたいです。本当に、本当に、ありがとうございました☆2009年1月 ハッシー 最終回を読む最初から読む目次*再掲載終了します。長い間ご愛読ありがとうございました。
2010年02月17日
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今日の日記(「コード・ブルー」感想とすっきりしない天気☆ ) 「ある女の話:カリナ最終回(未来へ)」病室には私とノボルだけがいた。私はノボルの手を取った。「ねえ、私ノボルと結婚して、本当に幸せ…」そして、彼の手を私の頬に当てた。「僕も幸せだ。」ノボルは頬に当てた手で、私の頬をなでて、真っ直ぐ目を見て言った。おちゃらけて、いつもなら笑ってそうな言葉なのに、今日は、そう行かないことが淋しかった。しばらくして、病室に人が来る気配がして、私達は手を離した。いつまでも握っていたかったノボルの手。看護士さんといっしょに、マナとユウトが入ってきた。歩けるのに、形式で車椅子に乗ると、いよいよなんだな…と思った。みんなが心配そうな顔をしてるのが見えた。「何だか、たいそうなことになってる感じがするね~?」「一応、たいしたことなんだけどね。」私が言うと、ノボルも同じ調子で、おどけて言った。マナとユウトも、調子を合わせて、お母さんってば、まったくもう~。って言っていた。私は信じることにした。もしも神様が何かを決めていたら、私はまだきっと生きている。そしてダメだったら、それは神様が決めたこと。ノボルが看護士さんに交代をお願いして、車椅子を押してくれて、手術室の前で看護士さんに変わった。「じゃあ、行ってくるね。」私は笑顔を作る。もしも、これが最後だとしたら、最後の顔が泣いてる顔なんて絶対嫌だ。ノボルが大丈夫だからって言うように、笑顔で頷いて、マナとユウトが手を振っているのが見えた。ドアが閉まった。白い空間で、今まで会ってきた人たちが私のもとへやってきた。そこには、私をあざけり、笑っていた人たちがいる。初めて会って、挨拶した時のような笑顔で、私に近付いてくる。差し出された手は、仲直りの握手。コレをずっと待っていたのかもしれない。もう、いいよね…?そう、私の心が言っている。マッシーがスギモト先生の横で笑ってる。良かった。幸せなんだね?ユウ…ミキ…みんな…出会ってきた人たちが笑顔で手を振る。白い空間は一面、温かい色の花に包まれた丘になった。イシタニくんが手を振り、それが赤木くんに変わって、手を振っていた。誰かといっしょだと思った。それはマナのように見えた。そして、赤木くんじゃなくて、キジマくんなのじゃないかと思った。ユウトが小さい頃の姿になって走りまわり、パパー ママー って、振り返って手を振る。私の隣には、ノボルがいた。手を握っていた。「お父さん、何読んでるの?」「え?ああ、コレはお母さんからのラブレター。」「マジ?!見せて!」「ダメだよ。コレはお母さんとのナイショなんだから。」「ケチ~」声が聞こえる。大切な人の声だ。私はゆっくりと目を開ける。ゆっくりゆっくりと。 将来の私へこの手紙をあなたが読む時、あなたは何歳ですか?私は14歳のあなたです。今日、学校で10年後の私へって、手紙を書くように言われて書いたけど、それは本当に出されるかわからないし、先生が読むかもしれないので、私は本当の気持ちを私に書こうと思いました。いつか私がちゃんと見つけてくれてますように。ずっと、お父さんとお母さんがケンカしています。勝手にユウカと私はお母さん側に、トモキはお父さん側に引き取るつもりでいるみたいだけど、そんなのヤダよ。私は姉だから、弱音吐けないことも疲れた。でも誰かに話したかった。未来の私なら、どうなっているのか知ってるよね?離婚してなきゃいいけど…。二人は恋愛結婚だっていうけど、私のせいで結婚したのかな?って思います。だから、私は結婚するのなら、冷静にお見合いで結婚したいなって思うよ。そして、それからその相手に恋をしたいの。お互いに好きになりたいの。そして、歳を取ってからも、手を繋げるくらい、仲の良い夫婦になりたい。できれば、そんな結婚をしていて欲しいです。子供は、産むの痛そうだし、こんなに親のことでハラハラするなんて可哀想だから、どっちでもいいや。でも、仲良し夫婦なら、そんな心配無いよね。バスケットで世界を目指せるような選手になっているとか、そこまでスゴイことしてなくてもいいけど、それだけは、かなっているといいな。あ、でも結婚してるのかな?結婚するなら、そこのところヨロシクね。では、私のためにも幸せになっていて下さい。 14歳のカリナより<end> 前の話を読むあとがきへ目次
2010年02月16日
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今日の日記1(期待を裏切る映画「ターミネーター4」「MW-ムウ-」感想☆)今日の日記2(親として「特上カバチ!!」「龍馬伝」の感想☆) 「ある女の話:カリナ105(私の運命3)」私は目を疑った。コレは夢?「赤木くん…?」いや、そんなはずは無い。似てるけど、違う。それに、若い。そして、隣にいるマッシーは、確かにマッシーだけど、歳を取っていた。みんな、やっぱり驚いた!って言って笑った。「お母さん、え~っと、この人はキジマさん。何て言ったらいいんだろ…。」ユウトにキジマって言われた若者は、真っ直ぐに私を見てお辞儀をした。その姿が、誰かを思い出させた。「キジマさんは、俺のバンドと対バンして知り合ったんだよ。でもって、初めて見た時にすぐ赤木さんソックリだと思って。ほら、赤木さんのライブ録画してたやつ、子供の頃見せてもらってたでしょ?俺、アレで赤木さんに憧れて、ギターやってみたいってきっかけになったから。それで、ねーちゃんがライブ見に来てさ、そしたら、気付いたら二人が付き合っててさ。」そこで、マナはユウトに余計なこと言わないでよ!って、ユウトの肩を恥ずかしそうにペシっと叩いた。痛っ!ってユウトが笑いながら言った。マナが照れくさそうにキジマくんの隣に並んでいる。私はノボルの顔を見た。信じられる?赤木くんが言ったことの未来が、まるで実現したかのように、二人が並んでいるなんて。ノボルが何を言いたいのか、その表情を見てわかる。キジマくんは、親の前でバツが悪いのか、話を元に戻すように言った。「写真を見せてくれたんです。結婚式の時の。そしたら、それがホントに俺にそっくりだったから驚いちゃって…。」その声が、しゃべり方が、赤木くんソックリだったので、私の方が驚いている。ノボルも多分、かなり驚いていると思う。目がうるんでいるのがわかった。「でも、それより驚いたのは、何て言うか…スギモトさんの若い頃が写ってたから。どうみてもスギモトのオバちゃんだよな~って。」オバちゃんって言ったことに、あ、すいません!って一応キジマくんは謝って続けた。「それをマナ…マナさんに話したら、スギモトさんに会いたいって言うから。俺、事情聞いて、バイトしてたところまで二人を連れて行って…。話したら、来てもらえて…」そこまでキジマくんが説明している間、マッシーはずっと私を見ていた。そして、泣いていた。「マッシー、来てよ…」マッシーは頷いて、私の方へ来た。私は手を差し出して、おずおずと出されたマッシーの手を握った。「今、スギモトさんなの…?」泣きながら、マッシーは頷いた。「イケダ先生に会ったよ…。」その言葉に、マッシーの顔色が少し変わったような気がした。私は大丈夫という意味も籠めて、手を握りしめた。「偶然デパートでね。この子が小さい頃に。3歳くらいだったかな…先生ね、もう許すって言ってたよ。幸せになっていいって…、言ってたよ…。」マッシーは、更に涙を流して、ハンカチで抑えながら頷いた。私も泣いていた。「私に会えたら…イケダ先生が幸せだってこと、伝えて欲しいって…だからもう…いいって…だから、ずっと、私、マッシーに…会い…たくて、伝えたくて…」私とマッシーはお互い抱き合っていた。落ち着いたら、少し恥ずかしかったけど、みんなもちょっと、もらい泣きしてるのが見えた。たまたま同室の人たちが、退院や一時外泊で、誰もいなくて良かったと思った。それでも私は恥ずかしくなってきてしまった。「何だか感動の御対面みたいになっちゃったね~」私が言うと、もらい泣きしていたみんなが、笑い出した。「マッシー、話したいことが沢山あるの。私、ここを出たら温泉に行きたいな。マッシー、いっしょに行こうよ?」行って、いい?って、ノボルの顔を見たら、ノボルがうなずいていた。「うん。カリナ。行こう!絶対に!約束だからね。話したいことが沢山あるの。キジマくん…赤木くんにソックリでしょ?彼を見た時、すぐにカリナに話したいって思った…思ってたよ…でも、もう会っちゃいけないって、許されちゃいけないって…思ってたんだけどね…」マッシーはまた泣き出してしまっていた。私はマナとユウトを見た。いつの間に、こんなに二人は大きくなったんだろう。私の代わりに、私がしたかったことをする…。保育園に預けてしまったせいで、私はオムツはずしの大変さを知らない。保育園の先生やユウがとても感動していたけど、その感動を私は知らない。きっと初めて言葉を話してくれた時のように、感動するんだろう…と、推測するしかなかった。小学校に入った時には、専業主婦のお母さんたちのように、学校へお手伝いに行けることが無く、そのせいで情報にも疎かった。何度、マナやユウトのことを、自分の子供なのに他の人から報告されただろう。それらのことがどんなに悔しかったか。それでも、私は育児で、いろんな人に助けられてるって、ありがたく思いながら働いてきた。会社で嫌なことが起こる度に、マナとユウトの笑顔に疲れを癒されて、この子たちを犠牲にしてまで働く意味って何だろう?って、思うことも度々あった。仕事にやりがいや楽しさを感じつつも、いつも、頭の片隅にはマナとユウトへの心配があった。子供を育てるにも生活のためにも、働かなければならないって自分に言い聞かせても、本当にこれで良かったのかな?って、マナとユウトの気持ちがわからないと思った時には、後悔してしまうことが何度もあった。もっと他の道も選べたんじゃないか?って。けど、こんなにも、ちゃんと彼らは育っていて、成長してくれていた。少なくとも、私が喜ぶようなことを、推し量って行動してくれる子供になっていてくれた。こんなふうにしてもらえるようなことを、私はしてこなかったかもしれないのに…。「ありがとう…」私はマナとユウト、そしてキジマくんに、お礼をした。恥ずかしいけど、泣きながら。ノボルが、ティッシュを渡してくれた。自分も泣きそうになっているくせに。本当は、もっともっと、いろんな言葉を伝えたいけど、これだけ言うのがやっとだった。これから先にだって、いろんなことを伝えたいのよ…。こんな幸せな出来事が起こるなんて、やっぱり人生何が起こるかわからない。良かったと思った。私は生きてきて本当に…良かったと思った。前の話を読む明日は最終回です目次
2010年02月15日
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今日の日記(「ブラッディ・マンデイ」感想とあわや一人のバレンタインデイ♪ ) 「ある女の話:カリナ104(私の運命2)」病院のベッドで、横になっていると眠くなる。薬のせいなのかもしれない。本をずっと読んでいるのも、テレビを観ているのも、何だか飽きた。今日は同室の人が退院して行った。もう一人私よりちょっと年上の人がいたけど、帰宅外泊許可がおりたらしくて今日はいない。もうすぐ心臓の手術をするとかって言っていた。お風呂に入るのだって命懸けよぉ~!家で過ごしてて止まっちゃったりなんかしてね~?まあでも家で死ねた方がイイんだけどね~!…なんて、本音とも言えるブラックジョークをとばしていた。笑っていいんだか悪いんだか。でも、とりあえず本人が笑ってるので笑っておいた。話相手さえいなくて、退屈さと淋しさがこみ上げてくる。今寝ちゃうと、また夜眠れないかもしれないなぁ…そう思ったけど、眠気に勝てそうも無い。きっと誰かが来たら、騒がしくて起きるだろう。そう思って瞼を伏せる。昨日の夜は、いろいろ考えていたら、眠れなくなってしまった。もしも私が、このままここで死んじゃったら、もう二度と、ノボルやマナやユウトに会えないんだな…そう思ったら涙が出てきて、溢れて止まらなくなってしまった。まだ失敗するかもわからないのに。イシタニくんと最後に会って以来、私は自分がいつ死んだとしても、後悔が無いように過ごしてきたつもりだった。それでも、いざこうなってみると、まだ何かしておきたかったような気持ちになる。入院後すぐに死んでしまった赤木くん。あなたもこんな気持ちになったりした?もう手遅れだったことを誰も教えなかったって聞いてるけど、死を感じた?時々フッと、何かが通り過ぎたような気がして、ゾワリと怖くなる。それを考えないようにする。マッシーの顔が浮かんだ。もう会えないんだろうか…。私が伝えなかったら、マッシーは、イケダ先生に許されずにいることになってしまう。幸せになっていいはずなのに…。 そしたら、ざまあみろよ。 それは神様が決めたことなの。イケダ先生が笑う。違う…これは、イケダ先生じゃない…私がそう思うと、その笑いがスギタとB子に変わった。 あんたなんか、誰にも好かれてないのに。 みんなあんたのこと嫌ってるのに。 一生懸命になっちゃって、ご苦労様。 死ぬの? いなくなって嬉しい!ザマアミロ。その隣にミツルがいた。 オマエ、オレのこと忘れられるの? バカだね。オレを捨てたりしたからだよ。やめてよ。忘れていた人間が私をなじる。B子、ミツル、ケンちゃん、スギタ…過去に解決しなかった問題が私を責めているかのように、彼らは私を笑っていた。私は怒りを含んで私を囲むものから耳をふさぐ。やめてよ!私はもうあの頃とは違うんだから!あんたたちが何を言っても、あんたたちの思うようになんかならないんだから!死んでなんかやらない!あんたたちが喜ぶようなこと、絶対してやらないんだから!今度だって、這い上がってやる!絶対に!あんたたちなんか大嫌い!消えて!消えてよっ!私は手をブンブン振って、私をなじる人間たちを消そうとしていた。でも手が思うように動かない。どうして?ヒドイことを言うやつらのことを殴ろうと思ってるのに!どうして?どうして動かないのよ?!私は子供みたいに泣き叫んだ。誰か来て!誰かっ!いるんだから!私を好きだと思ってる人は、いるんだから!私が大事だと思ってる人は、私を愛してくれてるんだから!!!思いきりそう言ってるのに、声が出ない。そして、声も出せずに泣き叫ぶ私の額に何かが触れた。ビクリと目を開けると、そこにノボルの顔があった。「大丈夫…?」私はノボルの顔を見て、ああ、良かった…って思って、息を大きく吐いた。天井の白い壁が見えた。そっか病院…。「うん…。ごめんね。嫌な夢を見ちゃったよ…」「どんな?苦しそうだったよ…。」「ううん。もう大丈夫。」ノボルが私の手をしっかり握っていた。私は子供のような気持ちになって、ノボルに甘えたくなった。ノボルが笑顔を見せて、促すように後ろを見た。私がノボルの視線の先をたどっていくと、マナとユウトの顔が見えた。その側に、マッシーと、赤木くんがいた。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月14日
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今日の日記(映画「フィッシュストーリー」と「木下部長とボク」「ヤマトナデシコ七変化」感想☆ ) 「ある女の話:カリナ103(私の運命1)」医者は、手術の説明を淡々と話した。成功率と、リスク。簡単な絵を書いてみせるけど、まるで数学の問題を先生が解いていって、わかったような気分になる感覚に似ていた。わかるのは、この手術が完璧に上手くいく保障って言うのは無くて、場合によっては、かなり難しいものになるだろうってことで、それは手術してみなくちゃ、わからなくて、難しいってこと=死に近いってことを意味しているだけだった。聞いた時は実感が沸かなかった。何か、ドラマを観ているみたいだな~って思った。そういったものと違うのは、医者が思ったよりも優しい口調だと言うこと。それから、説明を受けるには明るい場所だなぁ…とか。他人事みたいに思っていた。私、本当に死ぬのかなぁ?そんな感じだった。何か、私の中で感情が麻痺してるのかもしれないけど。これが防衛本能ってヤツなんだろうか?私はアルバムを出した。いつかキチンと整理しようと思ってたけど、整理してあるのは、結婚式の時と、新婚旅行。それと、マナが赤ちゃんから幼稚園の頃と、かろうじてユウトの赤ちゃんの頃が少し。私は結婚式の頃のアルバムをパラパラとめくった。この頃の私の顔って本当に若くて、自分で言うのも何だけど、幸せそうで綺麗に見える。赤木くんとマッシーが司会をしてくれた二次会は、本当に楽しくて、みんながオナカを抱えて笑ってたっけ。写真を見ることで、自分たちがどんなに幸福だったかも蘇ってきた。私は気に入った写真を数枚、病院に持って行こうと思っていた。自分が幸福だと思った瞬間の写真を数枚。そこで、あれ?って思った。何枚か写真が抜かれた跡がある。「ねえ、ノボル~!」私はリビングでテレビを見ているノボルに声をかけた。「ほら、このアルバム、ここ、ぬけてるみたいなの。取った?」「え?あ、ホントだね。ううん、取ってないけど…どんな写真だ~?」ノボルはパラパラとアルバムを見た。「ねえ、何か懐かしいよね?この時、赤木くんが弾き語りしてくれたよね~」「そうそう。カリナはウットリしてた。」「え~?そんなことないよ~!そうだった?そう見えた?」「ウソウソ!それに僕は結構飲まされて、そこまで見てる余裕無かったよ。それに、まぁ~、アイツはカッコ良かったしな。僕の自慢だった。」私はフフって笑った。「でも、私はアナタが好き~!」そうして抱きついてみる。ノボルも笑って、私を抱きしめる。何だろう、このノリは?新婚の夫婦みたいじゃない?ずいぶん歳をとった新婚夫婦。「ん~、何が抜けてるのかな?どうしたっけ?」ノボルは抜けた箇所を見て考え込んでいた。「まあ、いいかな。私、コレを病院に持って行っておこうと思って。もらってくね?」「うん。いいよ。」ノボルは、ちょっと淋しそうに、でも何でも無さそうに頷いた。「あ、あとコレあげる。」「何~?何コレ?」「ラブレター!」「うっそ?!」ノボルが大袈裟に驚いた顔をしてみせた。私はそれを楽しみながら言う。「うん。嘘~!昔の私から届いた手紙。さっき、引き出し片付けてたら出てきたの。他の手紙と混ざって。」「へぇ~、面白いね。僕も昔出したような気がしたけど、あれ、どうなっちゃったんだろうなぁ~。」ノボルはそう言いながら昔の私が読んだ手紙を読んでいた。私もノボルの横から、いっしょになって、もう一度読む。「ね、面白いよね、こういうのって。捨てちゃっていいよ。」「いや…せっかくくれたんだから、持ってるよ。」ノボルはそれを折りたたんで、ポケットにしまった。「結構、思った通りになってるから、少し嬉しくなっちゃった。」ノボルはすぐにそれを手紙の内容だとわかったみたいだった。「そうなの?全然違うんじゃない?」「ううん。最後が。終わり良ければ全て良し。」ノボルは落ち着いた声で真っ直ぐ私を見て言った。「まだ終わりじゃないよ。」そして私の手を取って、ギュっと握った。「そうね…。」私は何かを誤魔化したくて、軽く笑った。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月13日
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今日の日記(映画「ヤッターマン」と「まっすぐな男」(不毛地帯)感想☆) 「ある女の話:カリナ102(私の家族2)」ただいま~って帰ってきたノボルは、今日も何だか疲れた顔をしていた。私もこんな顔をいつもしているのかな?お互い、そうして相手に対して、家族なのに遠慮してたんだろうか。ううん。遠慮なんかじゃなかったと思う。私は夕食を食べるノボルの顔をジッと眺めた。私の顔と同じように、歳をとってきてるな…って、しみじみ感じた。「何?そんなに見て?それに珍しいよね。いつもはテレビ見たり、風呂入ってたり、バタバタしてない?」「ん~。そうかも。」いつもなら、向かい合って座っていたけど、こんなふうに顔なんて、じっくり見てなかったような気がした。「何?何か変。どうしたの?」少しノボルが照れたような、訝しそうな顔をした。私は、マナがお風呂に入ってることと、ユウトが部屋からこっちに来ないだろうと思って、ノボルに今日のマナとユウトの夕飯での会話のことを話した。ノボルは楽しそうに笑った。「で?仕事を辞めたいの?やっていけそうなら、それでもいいと思うけど、何かいきなりだね?」「そう?そんなことも無いのよ。ずっと考えていたけど、無理だって決め付けてたの。でも、子供が望んでもいないのに、家にいてもね。それに、やっぱり仕事辞めると、家計が苦しいもん。蓄えも欲しいし、欲しい物も買いにくくなっちゃうしね。」ノボルが笑った。食べ終わったのを見て、私はノボルの隣の、いつもならユウトが座っている席に座り直した。ノボルの腕に腕をからめて、肩に頭を乗せた。「どしたの?子供たち来ちゃうよ?見られちゃうよ?」ノボルはそっちにヒヤヒヤしているらしい。「いいじゃない。別に。私達夫婦なんだから。ねえ、ノボル今幸せ…?」ノボルはちょっと不思議そうな顔をしてから、「うん…」って、頷いた。「カリナは?幸せ?」「うん、幸せだよ。」そうして頭をしばらくノボルの肩に乗せていたけど、「やっぱ変ね。」って、笑って誤魔化して、ノボルから離れようとした。その途端に、お風呂から上がったマナがドアを開けて、声をかけた。「お父さん、お帰り~。お風呂空いたよ~。あれ?何してるの?」「ううん。お父さん、目にゴミが入ったって言うから見てたの。」「ふぅ~ん。」マナはそのままテレビをつけて、見ながら髪を拭いていた。すると、ノボルから手を握ってきた。マナに気付かれ無いように。私はドキリとした。今度はこっちがマナに気付かれて何か言われるんじゃないか?ってヒヤヒヤする。ノボルの顔を見ると、「後でね。」ニコリと笑って、耳元で小声で言った。「違うってば!そういうことじゃないってば!」私は、も~っ!って思って肩をたたく。うるさいなぁ~、お母さんたち!何やってるの~?あやしい!って、マナが振り返る。何にも~。って、平気な顔をしたノボルの手は、私の手を机の下で握ったままだった。ま…いっか…。って、私は思う。愛する人は手を握るとわかるんだよ。マッシーに教えてもらった言葉が、心の中で蘇った。「さっきはあんなこと言ったけど、やっぱり帰れる家があるっていいよね。おかえりって、言ってくれる人がいるって…いいよね。」タクシーの中で、イシタニくんが、そう言っていた言葉を思い出した。本当にそうだね。イシタニくん。あなたも、ちゃんと家族に言えた?ノボルの手。私の大好きな、温かい大きな手。ずっとずっと、そうやって手を握ってきた。私たちは、あれからずっと…。さて、これでノートも全部やぶいたし、手帳も全部中身をやぶいた。少しずつ、少しずつ、破いていった。終わったことで、嫌いだと思ってた自分と、少しさよならできたような気がした。今まで、こうして歩いてきたこと、これで良かったんだ…って、少し思うことができた。自分の痛みは、どんなに近い人でもわからない。何を見ても、きっと私の片鱗しか、わからないだろう。でも、側にいて、寄り添ってくれるだけで、私は良かったんだと思う。破いた物を眺めた後、その上から、いらなくなった書類やら資料もやぶいて、ダイレクトメールを混ぜてゴミ袋に入れた。もう着ないだろうと思う洋服。この際一気に処分した。もしも帰って来ることができたら、新しいのを買えばいいと思った。それがきっといい。他にも使わないだろうと思う物を、全部ゴミ袋に入れた。いらない物の処分ってめんどくさい。でも、これでもう、この家に戻れなかったとしても、きっと安心していられる。帰れればいいけど…私はそう思った。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月12日
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今日の日記(「曲げられない女」「泣かないと決めた日」と足小指骨折の経過☆ ) 「ある女の話:カリナ101(私の家族1)」あの時、イシタニくんに会っていなかったら、私達夫婦は、私達家族は、どうなっていたんだろう?イシタニくんの話を聞いて、手を握られた時、仲良しの友達と日暮れまで遊んでいた時のことを思い出した。もっと、まだ遊んでいたいって思った時の。だけど、このままどこかへ行ってしまったら、もう戻れないよ…って、あの人の目が言っていた。あの時に、ノボルやマナやユウトの顔が浮かんだ。最近じっくり話したりしてないはずなのに、みんなの笑顔が浮かんだ。帰らなきゃ…帰りたい。強く、そう思った。あの日から、少し何かが私の中で変わったような気がする。もしも、ノボルがいきなり死ぬことになったら、死んでしまったら…?私は今のままでいいのかな…。「ねえ…お母さん、やっぱり家にいた方がいいのかな?」ご飯を盛りながら、私はマナとユウトに聞いた。「え?仕事やめるってこと?」「どしたの急に~。そんなのことできるの?」食べ盛りのマナとユウトは、先におかずをパクついていた。ノボルがいない時は、先に食べさせていたもんだから、みんなが揃ってから食べるって言う、学校等の集団生活では当たり前のことが、うちには無い。私も急かされるより楽だから、そうすることが普通だと思っていた。「ん~。やっぱり家にいて、こうして二人がご飯食べたりするところ、もっとちゃんと見てようかな~って思って。おばあちゃんに用事がある時とか、淋しいでしょ?二人が淋しいの、お母さん嫌だし。」それに、ノボルの食事もちゃんと見ててあげたいし。…って言葉は、とりあえず省く。「ん~、そんなこと無いよ~。」マナが言う。「お母さんいなくてもいいってこと?」「ううん。いたら嬉しいけど、いたらいたで、うるさそうじゃん。勉強しろとか~。」ユウトが愉快そうに言った。「ほら、俺、結構忙しいしさ、お母さんのこと構ってやれないじゃん?俺らのことばっか見出すと困るんだよね。父さんが仕事やめる時にやめれば?」お味噌汁を吹き出しそうになった。生意気なことを言う。「バカじゃん、ユウト~!そしたら、誰が家族を食べさせていくのよ~!」マナはそのことに対しては、同じ意見なのか、注目したのは食べていくことのようらしい。なかなか現実的だと思った。「え、おじーちゃんになったら、仕事ってやめられるもんじゃないの?」今度は、なかなか小学生らしい子供的なことを言う。「ってことは、お母さんは、おばあさんになるまで働いて、二人を食べさせてって欲しいってことね?」「まあ、そういうこと~!俺、やりたいこと沢山あるしさぁ~。頼むよ~!」ちゃっかりしてるなぁ、って、私は笑った。マナも、そうそう、って同意して、いっしょに笑った。お皿を洗っていると、いつもは当然みたいに自分の部屋へ行ってしまう二人だけど、今日はマナが近寄ってきた。「ねえ、お母さん…こないだのこと、もしかして、気にしてる?」「え?何のこと?」私は知らん顔で言った。本当はマナが言ってることは、何のことかわかってる。「ほら…お母さんたちが私達のこと、育てていくのがフツーみたいなぁ…」マナがモジモジしながら言った。ああ、それで、さっきの話にあんまり自分の意見を言わなかったんだなぁ~、って、思った。「え?ああ、ううん。それはマナが言ってることが正しいと思ってるよ~。でも、さっきの話とは関係ないんだよね。」私は何でも無さそうに言った。結構気にしてた”あんた”って言われたことさえ、イシタニくんに打ち明けたからなのか、イシタニくんの話を聞いたからなのか、心から流れてしまっていた。彼女も大人になったってことだと、思える自分がいた。でも、今回のことは、それがきっかけになっていても、誰かのためじゃなくて、私の気持ちの問題だと思ったので、そう言った。「お母さん、ホントに関係無い?…私、あの後やっぱり思ったの。そりゃあ、家にいる時間が少ないから、話すことも少ないけど…もうお母さんが家にいて安心したいって歳でも無いし、お母さんに何かして欲しいワケでも無いし、でも、私はスゴイって思ってるよ。こうして、家のことをしながら働いて。だから、私達安心して、塾とか習い事とか、お小遣いを安心してもらえたりしてるんだよね。それも育ててるってことなんだと思うし…」いつもなら、どうせ、お小遣いアップ目当てなんでしょ?とかって、ワザと茶化しちゃうところだと思った。私はフフ…って笑った。少し泣きそうになってた。「そっか。ありがとう。」マナは慣れたように、お皿を戸棚にしまった。いつの間に、そんなことが自然でできるようになったんだろう?自分が働いてることで、子供に何かさせたくなくて、何もさせなかったけど、私が何も言わずに勝手にツライ気持ちになっていただけで、言えば少しずつ何かが変わってきていたのかもしれない。「え~っと、とにかくゴメンね、お母さん。いつもありがとう!」サッサと照れくさそうに言って、マナは部屋へ行ってしまった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月11日
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今日の日記(足の小指骨折☆) 「ある女の話:カリナ100(彼の手)」私はイシタニくんの真剣な目から、目が逸らせないでいた。イシタニくんも目を逸らさない。手が強く握られていた。私は、イシタニくんの目を見たまま、首を横に振っていた。「なんで…」私は、イシタニくんから目を逸らした。そして、首を横に何度も振った。あの、呪いにかけられた時の、手の感触が蘇っていた。イシタニくんは手を強く握ったまま、ため息をついて言った。「なんで泣くの…?」そして、軽く私を抱きしめた。泣き出した私の体を、なだめるように言った。「大丈夫だよ。なにもしない…」私はコクンと軽く頷いた。それしかできなかった。イシタニくんが、おしぼりを渡してくれた。そして、抱き寄せた私の髪を撫でながら言った。「さっき、お父さんがいきなり死んじゃったって言ってたよね…?心の準備ができてなかったから、いまだにひきずってるって…。」私はまたコクンと頷いた。涙は引いていた。イシタニくんから、煙草の香りがする。お父さんに子供の頃、こうしてダッコしてもらっていた記憶が蘇った。お父さんに甘えていた頃。「俺、癌なんだってさ…」私は驚いて、顔を上げて、イシタニくんを見た。「嘘…?」「ホント。結構いっちゃってるらしいよ。嘘ならいいんだけど…」イシタニくんは、無理やり笑った顔をした。「家族に話すように医者にも言われたんだけど、何だか言えなくてさ。言わなければ、嘘みたいに平和だし、なかったことになるような気がして…。話したら、一気に変わるだろ?もしかしたら、俺の見たいニュース番組とか、低俗で子供に悪いようなHな番組とか見せてくれるかもしれないけど、絶対俺に気を遣うんだろうな…って。今までと違うようになるんだろうな…って。きっと、俺がいなくなったことを想定して、泣いたりするんだろうな…って。自分でいっぱいいっぱいだと思うのに、そんなのフォローできるのか…俺…自信…無い…よ…」最後はかすれ声になって、イシタニくんは静かに泣いていた。私を抱きしめながら。「怖いんだよ…怖いんだ…」私はイシタニくんの体を抱きしめた。強く。強く抱きしめた。こんなに温かいのに。こんなにガッシリとしていて、ちゃんと鼓動が聞こえるのに。それと同じような速さで、病気が進行してるって言うの…?「ねえ、俺ちょっと羨ましいよ、お父さんのこと。何も考えずにポックリ逝けたら良かったのに…って、最近思うんだよ…」しばらく、イシタニくんは静かに私を抱きしめていて、それから、ようやく落ち着いたようだった。「お父さんと何を最後に話したか…覚えてる?」イシタニくんがつぶやくように聞いた。「最後は…確か、私と子供たちを家に送ってくれた時で…私たちの家をジッと見て、カリナたちは偉いな~って。ちゃんと自分達でこんな家を持って、ガンバってるんだな…って。そう言ってた…。だから私が、お父さんたちが助けてくれるからだよ…って言ったの。」そうだ…そう言った。お父さん、もっと楽できるのに、私達がいるせいで、こういう負担かけちゃってごめんねって。めんどくさいでしょ?って。「そしたら、お父さんが…子供がいるから、今までガンバれてこれたんだって。子供がいるのが生きがいだから…って言ってた。そう言ってたよ…。」イシタニくんは私の髪をすいて、そっか…って、つぶやいた。抱きしめられた体から、お父さんの匂いがしたような気がした。「もう…こんなことは無いと思ってた…」そのイシタニくんの言葉に、私の心のどこか、緊張の糸ががキンと張った。「これは…俺だけが思ったことなのかもしれないけど…」イシタニくんの声がスローモーションのように、躊躇した心が、私の心に届いてくる。頷かないで、ジッとしていると、決心したようにイシタニくんが続けた。「もしも、魂のもう半分が異性であるとしたら、俺は、ミゾグチさんが、そうなんじゃないか?って思ってた…」イシタニくんの温かい手が、私の体を抱き、私の髪をすくう。そんな…こんなことが起こるなんて…私が感じた何かをイシタニくんも感じてたって言うの?自分の意思ではどうにもできなかった何かを、イシタニくんも感じてたって言うの?「俺は…、怖くなった。もしも、ミゾグチさんが同じことを思っていてくれてたら、もしも、ミゾグチさんと付き合うようなことがあったら、俺はきっと、あの頃のミチルと同じように、嫉妬に苦しむと思った。手帳をさぐってみたり、行動を怪しんでみたり、不安で仕方なくなると思った。そう思ったら、ミチルのことが愛しく思えてきた。これで良かったんだと思う。だけど…ミゾグチさんが側にいると心が揺れてたことは確かで…」イシタニくんの言葉はそこで止った。私の目から涙がまた出てきたからだと思う。その涙をイシタニくんの指がぬぐった。「言葉にすると安っぽいな…」イシタニくんのつぶやきに、私は首を横に振る。何かが、私の中で解けていく。イシタニくんは私の目を見て、私はイシタニくんの目を見ていた。イシタニくんの腕が私を抱いて、強く力が入ったのがわかった。あれがイシタニくんとの最後だったんだな。私は手帳を破り捨てながら思う。帰りのタクシーで、イシタニくんが、ずっと手を握っていた。その手にはもう、呪いはかかってなかった。呪いじゃなくて、何かの魔法がかかっていたんだと、その時に思った。私とイシタニくんを引き寄せる魔法。家族に話すよ…イシタニくんが、私につぶやくように言った。うん…私が頷いて、ギュッとお互い手を握った。もうこんなことをするの、コレが最後だって、お互いわかっていた。私の家の近くで、タクシーを止める。じゃあ、元気で…今日会えて良かったよ。嬉しかった…ありがとう。イシタニくんが淋しそうな笑顔で言って、私も…うん。ありがとう…。って、手を振る。同じ表情を、私もしてるんじゃないか…って思った。イシタニくんを乗せたタクシーが、どんどん遠くなって、角を曲がっていくまで、私は道に立っていた。嘘だよね…嘘…嘘。実感が沸かないまま、家の中に入る。もうみんな寝ちゃってるみたいだったけど、心配している証拠に、玄関に小さく明かりが灯っていた。ただいま…温かい心になって、心の中でつぶやいた。そして、追い炊きをした温かいお風呂に入って、私は家族に気付かれないように、イシタニくんを思って、泣いた。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月10日
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今日の日記(ブログ管理画面の不具合と「コード・ブルー」感想☆ ) 「ある女の話:カリナ99(私は母親、彼は父親)」何か飲む?って言われて、適当に美味しそうに見えたお酒を頼む。電子ボードみたいなメニュー表をイシタニくんがタッチペンで入力した。「子供って、自分との相性があったりするからね。小さいうちは、どの子もカワイイけど、俺もやっぱり、その時その時で違ったりするよ。なついてくれる子は可愛く感じるし、なつかなくても気になったりするしね。自分に似てるところが疎ましく感じたり、ガンバって欲しかったりさ。」私は少し言ったことに安心して、ふふって笑う。「父もそう思ってたのかしらね?うちは男の子と女の子だから、全く別なものとして思ってた。」「そういうの…あるかもしれないね。」イシタニくんは視線をビールに移した。私はその時に何かイシタニくんから違和感を感じたけど、気のせいだと思った。私は酔ってるんだろうと…。だから思ってることが口から次々にこぼれる。誰にも言ってなかった、言えなかった、私の気持ち。「一番驚いたのは母親のこと。父が死んだら、家の中を自分の好きな感じに一気に変えちゃったの。その時は、もう自分の知ってる実家じゃなくなっちゃって、それが淋しく感じちゃった。そしたら、お父さんのこと、愛してたから我慢してたんでしょうに。って、当たり前って顔して言うのよ~?可笑しくなっちゃって、お正月に集まった妹と弟と笑っちゃったわ。」イシタニくんもアハハって笑った。「この前、娘に…おじいちゃんとおばあちゃんが家の側にいてくれたから、子供だけで夜過ごさなくて済んだんだよ。感謝しなくちゃね。って、言ったら…子供を産んだのは、あんたたちの勝手なのに、何で私達が感謝しなくちゃいけないの?確かに、おじいちゃんたちがいてくれて良かったけど、感謝するのはお母さんたちでしょ?育てるのはおじいちゃんたちじゃなくて、お母さんたちでしょ?って、怒りながら言うのよ…結構ショックだったな。その通りだと思ったけど、娘に”あんた”なんて言われるようになるなんてね。娘は言い過ぎたと思ったみたいで、無理やり話題変えちゃってたけど。」ああ、参ったな。グチってるな…って思った。でも、イシタニくんは嫌な気持ちになった様子は無くて、何か考えてるようだった。「確かに、そんなこと言われるとキツイね。…旦那さんは、どう言ってた?」私は氷をカラカラまわした。「うん。何だか娘の悪口言うみたいな気持ちになっちゃってね。このことは、話して無いの。夫は娘が恋人みたいなものだから。娘も夫のこと大好きだし。私も娘はつい自分の分身みたいに感じちゃって。私だって、息子は恋人みたいに思ってるところあるしね。何となく言えないのよ。それに今はお互い仕事が忙しくて、わざわざ話すようなことでも無いかなぁ…ってね。うちは二人でいるような時間もあまり無くて。彼…疲れきってるし…」「そっか…共稼ぎってそうかもなぁ。大変だよな…」イシタニくんは頷いて、ビールを飲み干した。お代わりに焼酎に切り替えていたらしく、ちょうど、頼んだものが運ばれてきた。私は、何だか泣きたいような気持ちになって、トイレに行ってくるね。って、席をはずした。イシタニくんが漏らした言葉に同情を感じて、本音を話したことを後悔していた。誰にも話してなかった。誰にも話せなかった。専業主婦のユウなら、だから共稼ぎって、子供が可哀想…って、言わないにしても思われそうだと思っていたし、年下の彼と同棲中のミキなら、結婚も子供も、大変でめんどうね…って言いかねない。私は、いつの間にか、本音を誰にも話せなくなっていたことに気付いていた。マッシーなら…どう言ってただろう?どう言ってくれるだろう?今いない彼女のことを考えても仕方ないけど、時々そんなことを思ってしまう…。きっと誰もわかってくれない。もしかしたら、私と同じ立場の誰かなら、わかってくれる人がいるのかもしれないけど、それは傷の舐めあいにしかならないかもしれなくて、それはそれで心が慰められるかもしれないけど、誰でも良かったワケじゃなくて…私は…イシタニくんならわかってくれるんじゃないかと、心の中で思っていたのかもしれない。そうじゃなくても、何か違った言葉を…バカだったと思った。夫にも話せないようなことをなぜ言ってしまったんだろう…って。帰ろうと思った。戻ると、うっすらと、煙草の匂いがした。私がいない間に吸ったらしい。さっき感じた違和感がわかった。今日、イシタニくんは煙草を全く吸っていなかったんだと思った。「この前さ…」私が座り直すと、イシタニくんは焼酎を飲んでから、つぶやくように言った。「俺が久しぶりに家に早く帰ったら、俺が知らないテレビドラマをみんながテレビの前で観てんだよ。真剣に。でもって、俺はそれを観たがってるカミサンに、適当に作られた飯を電子レンジで急いで出されてさ、横目でワケもわからないドラマを観ながら、台所で飯を食ってさ。話しかけたら、ちょっとイイとこなんだから黙ってて!って怒られてさ、みんなで、やった!とか、何でだよ!とかって、そのドラマの仲間って言うの?それがやられちゃう!って騒いでるんだよ。俺は、いきなり観させられても、それがどういう過程でそうなったかもわからなくてさ、何だか、のけ者にでもなったように感じて、食べ終わった皿をさっさと片付けて、風呂に入ってさ。出たら子供たちは自分の部屋に行っちゃってるし、俺が観たいニュースはもう終わっちゃってるし。カミさんは、ようやく風呂に入れるなんて言ってさ。俺の居場所はどこだよ?な~んて、思っちゃったね。」イシタニくんはアハハって笑った。私もフフって笑う。幸せなんだけど、少し淋しい何かが、その笑いにあった気がした。それともその逆?「俺は母親がもう死んでていないってこと、前に話したよね?俺ら子供が社会人になったら、親父は肩の荷が下りたみたいにすぐに再婚しちゃったんだよ。だから俺は戻るところが無いの。でも俺は休みの日に家族みんなで団欒って言うの?まあ、さっきのも団欒かもしれないけど、ささいなことをテレビ観ながら話したりとか、息子がちょっと母親には相談できないようなこととか聞いてきたりすると、ああ、俺ってば親父してんじゃん。…とか思うんだよね。親父も俺らがいなくなって、そんな団欒できる家族がいなくなって、淋しかったのかな…なんて、そんな時…最近ふと思うよ。」私は、イシタニくんの話を聞いていて、私の家もそうだな…なんて、思った。私の家の休みもそんな感じ。私もささやかにそんな感じ。家の歯車に感じることもあれば、頼られてることに安心して、自分の存在に安心して…。「でも俺さ…時々、その休みが終わろうとしてる時とか、眠れない時に自分だけ目が覚めてると、ふと思うんだよ。」イシタニくんは、煙草に火をつけようとして、やめて、煙草を机の上に戻した。「父親とか夫とか、そういうの無くなって、何も考えない自分になって…何だかどこかに行きたいな~って。どっか行っちゃいたいな~って。別に家が嫌なワケじゃないよ?俺、幸せなんだけどね。かなり。」イシタニくんの目が私の目をジッと見ていた。私はその目から目が逸らせなくて、イシタニくんの手が、私の手を急に握ってきたことに驚いた。「だけど、このままどこかに行きたくなるんだ。どこでもいい、どこか遠くに…」イシタニくんの手の力がこもる。私の体は魔法にかかったように動かない。「ねえ、このまま俺と、どこかへ行かない…?」前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月09日
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今日の日記( 「龍馬伝」「特上カバチ!!」の感想とバレンタインデーの買出し☆ ) 「ある女の話:カリナ98(母であること娘であること)」いけないな。最近はどうも心が後ろ向きになる。いつからこんなふうに思うようになったんだろう?若い頃は、「歳なんて関係無いですよ」なんて平気で言っていたのに。あれは、若さから出た余裕が言わせてたんだろうか?こんなふうに思う私、どうかしてる。やっぱりやめておけば良かったのかもしれない。「今日…つい誘っちゃったけど、大丈夫だった?その…家の方は?お子さんとか…」聞きにくそうにイシタニくんが言った。「うん。母に頼んだから。仕事が遅いといつもそうなの。今日も娘と息子のことを見てくれてると思うわ。」つい余計なことを話しそうになって、私は無難な言葉を選ぶ。「そうなの?旦那さんは?」「仕事が忙しくて、滅多に早く帰れないから。週末だけかな。いるのって。」「あ、それなら、やっぱ悪いことしちゃったかな…」「ううん。そんなこと無いよ。最近娘も息子も部活と塾で夜時間が合わなかったりするから。ほら、食べるとすぐに出かけたり、部屋に行っちゃったりするしね。親なんてもういらない年齢なのかもね。」何でも無いことのようにワザと言う。本当は最近気になってることなのに。「それはあるよね。昔モリタさんが言ってたけど。俺のところもそうだよ。何だか淋しいもんだね。女の子がいれば違ったのかな?息子たちは勝手に友達同士で出かけちゃうし、カミサンは近所の主婦仲間と集まってるしね。二人でいると、どうしてたっけ?って、戸惑うこともある。」イシタニくんが同調してくれたことで少しホッとして、サワーを一口飲んだ。イシタニくんは相変わらず心を隠さないんだな…。私は取り繕ってばっかりだと思う。彼の言葉で、うちだけじゃないってことに、つい安心してしまう。「今からそんなこと言ってると、老後が大変じゃない?」私も思ったことをそのまま聞いてみた。昔みたいに。「心配してること言うね~。わかんないよ?過労死でサッサと死んじゃうかもしれないし…。」死と言う言葉を聞いて、私はまた、最近の私に戻ってしまった。さっき事情を話すことを省略した事。母親が子供たちのめんどうを進んで引き受けてくれる理由。お父さん…つい無言になってしまった私を、イシタニくんは不安そうに見ていた。「ごめん…ちょっと最近その話題に弱くて…。」つい暗くなった空気に、話していいのか迷うけど、イシタニくんは、私の言葉の意味を待っているようだった。「去年、父親が頭を打って、突然亡くなったの…。雪の日に…滑ってね。いきなりだったから、心の準備ができてなくて、今でも少し引きずってる…」イシタニくんは私の顔を、どう言っていいかわからない感じで見ていた。「そうだったんだ。ごめん…」私は首を振った。「うちって、妹は自由奔放って感じで生きてるし、弟は…さっきイシタニくんが言ってた息子さんみたいな感じだったから。お父さん、肉体労働系だったの。だからかな…お父さん、私が家で真面目にしてるのすごく喜んでくれて、勉強してると褒めてくれて…。だから、私も真面目にしてれば、親の愛情がもらえるような気がして。でも、お父さんの心配事は、いつも妹と弟だったような気がして…」余計なことを話してる気がしたけど、イシタニくんが遮ることも無くて、私はつい思っていた言葉を出してしまう。「実家の近所に住んでいるのは私の方なのにね。私のこと、カリナはイイ子だなって褒めてくれるのに、心配してたのは妹と弟。バカね。もう大きな子供が二人もいるくせに、こんなことにずっとこだわってるなんて。もう死んじゃったから、お父さんがどう思ってるのかなんて、わからないのにね…」私はサワーを全部飲んでしまった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月08日
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今日の日記1(パソコン講習会報告☆)今日の日記2(「宿命1969-2010」「ブラッディ・マンデイ」「君たちに明日は無い」の感想☆) 「ある女の話:カリナ97(夫以外の異性)」イシタニくんと少し歩いた途端に、居酒屋の割引のビラをちょうどもらったことから、ここに行ってみようか?ってことになった。ノボル以外の男性と二人で飲みに行くなんて、本当に何年ぶりなんだろう…。つい緊張してしまう。今時の女子高生でも、こんなに緊張したり、しないんじゃないかな?何となく、イシタニくんの態度もぎこちなく思えた。こんな気持ちになるなんて、ついてきて良かったんだろうか?雑居ビルのエレベーターを下りて、店内の入口引き戸を開けると、割烹着のような制服を着た店員が、笑顔で迎えて来た。靴を脱いで上がるしくみになっているらしい。下駄箱に靴を入れると、長い廊下がガラスになっていて、下に玉砂利が敷いてあるのがわかった。もしかして、結構高級なところだったりして…よく政治家がドラマで使うような、密会の場所みたいに、案内されたところは個室だった。でも狭い。机は掘り炬燵のように足が伸ばせる作りになっていて、私とイシタニくんは隣同士に座らざるをえなかった。飲み物の注文を先に済ませると、店員は引き戸を閉めて行った。三味線のような和風の音楽が、心を和ませるどころか緊張を誘った。「なんか…すごいね。ここ。」おしぼりで手を拭きながらイシタニくんが言った。「うん。何か、政治家が密会してるみたい。」「色気無いな~。せめて逢引きしてるみたいって言ってよ。それに政治家が使うにしては狭過ぎるでしょ。」イシタニくんが笑いながらそう言ったので、緊張が少しほぐれた。自分って、すごいバカなんじゃない?何、生娘みたいに緊張してんの?もう女とかって意識されるような歳じゃないわよね…って、私は自分を少し恥じた。だってもう、娘は中学生、息子は小学5年生になる。子供を見てから鏡を見ると、歳だな~って思うようになったし、写真を撮られるのも、見るのも嫌になってきた。自分の体が衰えていくのを実感するようになっていくなんて、若い頃は恐怖だったけど、なってみるとこんなものかと思った。そして、なったことが淋しくもあり、悲しくもあり、やんなっちゃうな~と苦笑いする。同じ歳の女優や芸能人を見て、まだガンバれるかも?と老いを諦められず、いや、アレは芸能人だから…って、自分を納得させたりもする。何て微妙な歳になってしまったんだろう、と思う。ノボルとも、子供の成長と共に、男と女じゃなくて、「家族」って気持ちになっていた。歳を取るって、こういうことなのかもしれない。そんなことを最近ぼんやりと思っていた。世の中には、不倫だの何だのって、現役バリバリの男女してる人も周りにいたりするけど、私とは縁遠い世界のことだと思っていた。でも、実際、こうして夫以外の男性と、二人きりで密室にいたりすると、急に気持ちが女になったりするから不思議なもんだと思った。昔イシタニくんとは、お酒で失敗してる。どういうつもりで二人での飲みを誘われたんだろう…変に意識して、色気づいたババアって思われたくないと思う自分がいて、そのことについて、聞きたいのに聞けなかった。言ったら変な空気になりそうな気がした。とりあえず頼んだビールとサワーが運ばれてきたので、適当にツマミをたのんで乾杯した。「青山さんは、相変わらずビールダメなんだ?」「うん。付き合いでは飲むよ。一口目は美味しいって感じる。でもやっぱり苦くてずっと飲めないんだよね。」「俺は少し弱くなったな。前より飲めなくなったよ。腹も出てきちゃったしなぁ~。さっきも走ったら、息が上がるし。運動しようと思っても、なかなか続かないんだよね。」イシタニくんは飲みながら笑う。あ、この空気…懐かしいな、って、しみじみと思った。少しドキドキしてる自分がいて、平常心。平常心。って、言い聞かせる。ノボルは、女の人と二人で飲みに行く事ってあるんだろうか?あったんだろうか?あまりにも、家の中で男じゃなくてお父さんと言うポジションが板についてしまったため、そんな心配をしなくなった自分が、何だか鈍感だったような気がした。こうして、B子の旦那さんになって、息子さんがいるはずのイシタニくんのことを、私だって男性として、いまだにこうして意識してるんだから…。それでも、イシタニくんが私のことを女として意識してるとは思えなかった。私もその空気を感じてホッとしてる。私はもう、女じゃなくて、お母さんなんだと思う。女のカテゴリーから、はじかれてると思う。子供たちを見て、最近は特にそう思っていた。ピチピチで滑らかな肌。化粧をしなくても長い睫毛。何も塗らなくてもピンクの唇。無駄な肉のついて無い、スラリとした体。ふう…って、ため息をつく。オバさんは誘いやすいと思われたかな。「どうしたの?酔った?」「ううん。この空気、懐かしいなぁって思って。」つい出たため息を誤魔化したくて、私はそう言った。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月07日
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今日の日記(いよいよ本番☆ ) 「ある女の話:カリナ96(歳を重ねて)」「あ!イシタニくん!」「お!青山さん、元気?バリバリ働いてるって聞いてたけど、どう?」「え~?どっからそんなこと聞いてるの?ま~、でも、すっかりお局様だけどね。何?もしかして、こっちに戻ってきたの?」イシタニくんが足を止めたので、いっしょにいた男性たちは先に行ってしまった。なのでつい、近況を聞きたくなった。懐かしいイシタニくんの顔を見たのは、いつ以来だろう。息子を産んだ私は、マナと同じように1年半ほど育児休暇を取って、職場に復帰した。復帰すると、見慣れた顔の女性はほとんど辞めていて、チームモリタも解散することになった。私は事業展開で手狭になったチームのスタッフに。イシタニくんはモリタさんの下の部署にあたるところで、課長補佐になったと聞いていたけど、新社屋に移ってしまったので、全く顔を会わせることさえなくなってしまった。「いや、今日はこっちと打ち合わせで出張。青山さん、係長になったって、ヤマベに聞いてたからさ。」「係長なんて名前ばっかだよ~。派遣さんやバイトさんに仕事説明したり、できあがったのまとめてチェックするだけだもん。前にやってたのと、そんなに変わらないよ。」あははってイシタニくんが笑った。「まあ、俺も似たようなもんだよ。でも、聞いてはいたけど、上の事情知っちゃったり、下の現場の状況も知ってる立場って、ホントツライね~。コレが中間管理職ってやつ?」私もアハハって笑った。「俺、今日はこの後の打ち合わせが終わったら飲んで帰ろうと思ってたんだけど。どう?久しぶりに会えたし。大丈夫なら行かない?」サラリとイシタニくんが言うので、ビックリした。私ももう少しいろいろ話したいな…って思っていたけど。飲みに行くことなんて、最近は仕事でしかなかった。誘われるのは、若い女の子の方がいいだろうって思ってたし、心から酔えない。家に帰ってやることも多かったから。でも、最近は状況もちょっと違う。たまにはイイかな…って思った。「え?あ、大丈夫だけど。いいのかなぁ、オバさんが混ざったりして。邪魔じゃない?」「無い無い!それに、オバさんなんて青山さんが言うと、俺もオジさんなんだな~って、ショックだよ。同じ歳でしょ?」ごめ~ん!そうだよね!って、お互い笑う。イシタニくんと会社のロビーに6時過ぎに待ち合わせることにして、何かあったら連絡してって名刺をもらった。私は母親に電話をして、マナとユウトの夕食のお願いをして、ノボルにメールを入れた。残業の時や、急な付き合いの時は、いつもこうだった。やっぱり実家のすぐ近くに家を決めて良かったな…って、こんな時は、いつも思う。たまにはイイよね。私は久しぶりの飲みに、少しワクワクしていた。仕事じゃなくて、飲みに誘われたことなんて、何年ぶりだろう。それに、ここ数年、飲みに行くような気分でもなかった。仕事を終わらせて、少し書類を見直してからロビーに行くと、もうほとんどの定時の人間は帰ってしまったようで、人がほとんどいなかった。6時を過ぎたせいか、明かりも消されて、ロビーは静かで、うっすらと暗いものになった。私は腕時計を見て、もしかして、時間を間違えたのかな…って心配になった。名刺を取り出して、携帯に電話しようかどうか迷う。でも、もしもまだ打ち合わせだったら?そう思うと躊躇した。相手は仕事なのに、急かしてるようだし、催促してるような気もする。私は誘いに乗ったことを後悔し始めていた。イシタニくんにとっては、何て事の無い社交辞令だったのかもしれないのに…。少し悲しい気持ちになった。ずっと待っているのも何なので、6時半になってから携帯電話の番号を押した。何だか、いけない逢引きでもするようでドキドキする。一度だけ鳴らすと、やっぱりもういいや。って、電話を切った。もう帰ろう…。何だかウキウキしてしまった分、一段と淋しい気持ちになった。私は一体何をしてるんだろう。会社のビルを出て駅の方へ向かうと、携帯電話が鳴ってる音がした。ドキリとしながら携帯を見ると、表示は、さっきかけた番号。イシタニくんだった。「もしもし…?」「あ、青山さん?」「うん。」「ごめん。もしかして、この番号、そうかな?って思って。今どこにいる?」私は今いる場所の辺りを答えた。「あ、良かった!そこなんだ?じゃあ、すぐ行くから待ってて!」イシタニくんがそう言うと、電話がすぐ切れた。しばらくするとすぐにイシタニくんが走ってやってきた。遠くから久しぶりに見る姿に、あ、老けたな…って、今更実感した。きっと私もそう思われてるだろう。「ごめん…。ちょっと…打ち合わせしたとこの部長につ…つかまっちゃって…」よっぽど慌てて来たのか、息を乱しながらイシタニくんが状況を話す。「良かったのに、そんなに慌てないでも。」「だ…だって…連絡しなきゃ…帰っちゃって…たでしょ?時間来て連絡したくても番号知らなかったし、俺、かなり焦っちゃって…」いや、そうじゃなくて、社交辞令を忘れてたとしても仕方無いって思ったし、もう帰るつもりだったから、慌てなくていいと思ったんだけど…そう言おうとして、私となんて飲まなくてもいいでしょ?って、ちょっと嫌味が入ってる気がして、言うのをやめた。でも、イシタニくんの様子を見ていたら、今までの落ち込んだ淋しい気持ちが、スーっと引いていくのがわかった。そして少し嬉しい気持ちになった。社交辞令じゃなかったんだと。「えーっと…迎えに来させちゃってゴメンネ。どこで飲んでるの?」もう大勢で飲む気分じゃなかったけど、とりあえず行こうと思った。イシタニくんは息を整えて、私の顔を見た。「あ…、いや、違うんだけど。」「…え?」「二人でだと嫌?」胸がドキンと鳴った。「あ…えっと…、いや、そんなこと無いけど。」こんなふうに走って来てもらって、今更、じゃあ行かないも無い…よね?私は心にそんな言い訳をして、じゃあ、どこにしようか?って言うイシタニくんの隣に付いて行った。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月06日
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今日の日記(「エンゼルバンク」「不毛地帯」で長く会社にいる思いを考えた☆ )昨日の日記2( 「曲げられない女」感想と授業参観に節分☆ ) 「ある女の話:カリナ95(先生の女の顔)」「あなたにここで会えたのも、神様が、もう許してやれって言ってるのかもね…。」イケダ先生がつぶやいた。私は紅茶を飲もうとしてカップに口をつけた。でも、もう紅茶は無かった。ケーキも食べてしまった。この時、この言葉の意味を、私は聞かなければいけないような気がした。マッシーの代わりに。なぜそう強くそう思ったのか、わからないけど。「あの…それはどういう…」「ママ、あそこ行っていい?ほら、あの、風船とボールが沢山あるところの。」「え?ああ、ワクワクランド?いいわよ。」「行く?」じゃあ、さよならね、って顔を先生がした。「イケダ先生も見に行きませんか?あそこは大人は入れないし、見てるだけだと結構退屈なんです。」私はダメもとで聞いてみた。もし断られたとしたら、マナにはもう少し何かを注文してでも、ここにいさせようと。ここで「何か」を聞かなくちゃいけないと思った。先生はコーヒーを飲み終えた。「いいの?じゃあ、行きましょうか。懐かしいわ。」先生は穏やかに微笑んだ。私はホッとした。ガラス越しに3人の同じ歳ほどの女の子に混ざって、マナが先生らしきお姉さんの説明を頷きながら聞いていた。クッキーを作るコースにしたので、コレで30分は時間が稼げると思った。「息子は工作のコースをやってたわね。」イケダ先生は懐かしそうに工作コースに集まっている男の子達を見た。「その時はスギモトもいっしょだったわ。」イケダ先生は独り言のように言った。「今日、離婚届を出したの。」私はイケダ先生の顔を見た。イケダ先生は少し人から離れたところにあるベンチに座って、私に隣に座るよう、目で促した。「今日は、その帰り。一息ついて帰ろうと思ったら、あなたがいたからビックリしたわ。」「そうだったんですか…」私は力無く言った。「ごめんなさいね。暗くならないで?私、今付き合ってる人がいるのよ。その人に、今息子も懐いてるの。だって、離婚届を置いて、いなくなってから3年も経つのよ?受け入れるのに時間がかかったけど、そんなにずっと不幸でなんていられないわ。だからそんな同情的な目で見ないで?」言われて私は自分が恥ずかしくなった。そんなつもりは無かったけど、そういう顔をしていたのかもしれない。謝ったり、目を逸らしてしまうと認めたことになってしまう。それは、イケダ先生に対して失礼なことだと私は思った。「いえ…」そんなつもりじゃないって言おうとした言葉を、イケダ先生がさえぎった。「マツシマさんと何年会ってないの…?」「3年です。」今度はスラリと答えることができた。そう…。イケダ先生はそう言って自嘲気味に笑った。「この3年間、そんな目で見られることが多かった気がして。被害妄想なのかしらね。私達、あの人がいなくなってから、そんなふうにずっと過ごしてきたのよ。周りに何となく気を遣われているような気がして…。私達も、何でもないフリをするのが上手になったと思うわ。でも、そんな私達のことを、ずっと見守ってくれてた人がいて…。私達のこと、必要としてるって言ってくれたのよ。驚いたわ。同情とかじゃなくて、私達といっしょにいると、心が安らぐんですって。今更スギモトが現れて、私達がいなくなっちゃうと困るんですって。私もそうなのよ。だから今、私たち幸せなの。だからもう…、たち切ることにしたの。」予想もしなかったことに少し安堵しながら、そうなんですか。…って、私は頷いた。「その人、いい人なんですね。」「ん?どうかな?一般的にはダメな人なのかもよ?でも、私たちにとっては最高の人。私も、今はスギモトがいなくなってくれたから、この人に会えたんじゃないか?って思うと、少し感謝してるわ。でも…」イケダ先生は、足元を見た。そして黙った。まるで私なんて最初からいなかったみたいに。私はイケダ先生を見たまま、その沈黙に付き合った。そして、イケダ先生が、私の方を向いて、ゆっくりと言った。「私たちが幸せにしてること、あの人たちは、ずっと知らないでいるといいって思ったわ。」平坦に、スラッと出た言葉に、寒気を覚えた。また、私の目を見てるのに、私じゃない何かを見ている目をした。ジッと、怒っているのでも無い、悲しんでいるのでも無い、そこにある「物」を見ているかのような、表情の無い顔で、イケダ先生は私の目を見ていた。私もイケダ先生の目を見た。何も映って無い目。先生は目を逸らして、ため息をついた。「あなたとマツシマさんは親友だって、あの人から聞いたことがある…」私はコクリと頷いた。「あなたも…大事な人を無くしてたのね。そんなこと無いのかしら…?」イケダ先生はバッグからポケットティッシュを出して、私に差し出した。私の目からは、涙が落ちていた。「ねえ?もしもあの人たちに、あなたが会えたら、私が幸せなこと伝えてくれない?私はもう、あの人たちと関わり合いになりたくないから。会っても絶対、何も言ってなんかやらない。」私はイケダ先生の顔を見た。さっき見た顔からは思いもつかないような、優しい笑顔だった。目が逸らせないのに、涙が溢れて止まらない。「会えなかったら…?」「その時はザマアミロね。ずっと悲劇の人をやってればいいのよ。神様がそう決めたの。」イケダ先生はイジワルなイタズラっ子みたいに笑った。「あなたが会えたら、幸せになっていいって、言っていいわよ。」ああ…こういう人だから、男性が心を許しちゃうんだ。スギモト先生も甘えたんだ…そして甘えすぎたんだ…私もつられて、涙を拭きながら笑った。先生は、言うことは全部話したって感じで立ち上がった。「イケダ先生…」「ん?」「ごめんなさい。」「あなたが謝ること…」先生はそこまで言って口を止めた。「会えるといいわね。」私は頷いた。イイ子を産んでね、って、イケダ先生は手を軽く上げて去って行った。幸せになれる人だ。なって欲しい。私がそう思うと、オナカの赤ちゃんが、ポクリと私の中で動いた。 ママ、がんばれ!そう言った気がする。私はオナカに手を当てて頷いた。涙を拭いて、落ち着いて鏡を出して顔を確認する。立ち上がって見に行くと、ガラス越しに、マナが私の視線に気付いて、嬉しそうに手を振った。私も手を振る。幸せだ。ささやかに。マッシー、あなたも幸せになっていいんだよ…イケダ先生が再婚したって聞いたのは、その数年後だ。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月05日
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今日の日記(息子の発熱 ) 「ある女の話:カリナ94(先生の妻の顔)」やっぱりマナは保育園に預けておくべきだった…と、人混みのデパートに来て後悔した。もうすぐ二人目の子供が生まれる。産休を再び取ったことで、私が家にいるのが嬉しいのか、マナは保育園に行くよりママといっしょにいたいと、この頃かなり甘えてくるようになった。たまにはいいかと、保育園を休ませて、ちょっと気晴らしのつもりでデパートにマナを連れてきたものの、あまりの人にうんざりしていた。いつもなら入らないような、ちょっとオシャレな喫茶店に入って、マナは最近母に教えてもらったクリームソーダを嬉しそうに飲んだ。まだ甘いものやジュースは、そんなに覚えて欲しくなかったのに…でも、私も紅茶を飲んで一息つく。そしてイチゴタルトを頬張った。赤木くんが亡くなって、マッシーがいなくなってから、少しずつ二人で立ち直ってきてる。マナの成長に助けられて、助け合って、仕事を抱えて、日常に紛れて、再び新しい命を得て…。でも、時々マッシーに報告したくなる。ささやかな私のことを。ねえマッシー、今日、ノボルに話しかけても、返事が上の空だったの。マナの保育園の様子を話してるのに、相槌を打ちながら、時間を気にしてるみたいで、腕時計を眺めていた。そうかと思うと、最近の幼稚園って、パートの人が結構来てるみたいだよね。マナのところも来てたりする?って、今までの話を無視して言い出した。私にわかるワケないじゃない?外回りの園に綺麗な女の人でもいたの?そう冗談を言ったら、まさか~。オバチャンばっかだよ。って。そんなワケないじゃない?幼稚園や保育園の先生って、私達より若い人が、どこもいるはずなんだから。ふうん。じゃあ何で?って、私も適当に話を合わせたけど、不景気だから、奥さんがみんな働くのかな?って。いつもなら多分仕事に忙しくて聞き流してたと思う。でも何だか変だと思わない?それとも私が仕事してた時もこんな感じだったんだっけ?忙しかったので、よく覚えてない。休みだから、ささいなことが見えるようになったのかな…私はクリームソーダのアイス部分をいじるマナを見ながら、ぼんやりと考える。そして、私の前に誰かが立ち止まっていることに気付いた。目を上げると、それはイケダ先生だった。「やっぱり…。ミゾグチ…さん、よね?」「あ…はい。」思わず返事を返してしまった。「お子さん?」「はい。」「何歳?」イケダ先生はニッコリ笑って、マナに向かって言ったけど、マナは知らない人で、いきなりのことに反応できないのか、私の顔色を見た。「3歳です。」いつもなら、ゆっくりマナに返事を促すけど、私は、つい答えてしまっていた。「そう。ね、ここいいかしら?私一人なの。」一瞬どうしようかと思ったけど、イケダ先生の笑顔には有無を言わせないところがあった。飲み物も飲み始めたばかりだし、すぐに席を立つのも不自然だ。「あ…、どうぞ。」どうしてそんなことを言ってしまったのだろう。気まずいだけなのに。そんなことを思ったけど、もう仕方が無い。それに、イケダ先生がどういうつもりで私と同席したいのか、何となく何かあるような予感がした。マナのクリームソーダを私の隣に置いて、マナにこっちにおいでって、私の隣に来るように言った。「ありがとう。」イケダ先生はニッコリと笑って、通りかかったウェイトレスにコーヒーを頼んだ。「タルト、美味しそうね。」歳を取ってからも綺麗な人だな…私はボンヤリとそんなことを思った。しゃべり方のせいかもしれない。「何だかクリームとかイチゴが無性に食べたくて。妊娠前にはイチゴタルトなんて自分から頼んだこと無かったんですけど。」私も働いているので、その場の社交辞令的返事がスンナリ出てくる。「そう…。いいわね。私の時は、本当に子供がオナカにいるだけで苦しくて、何も食べる気にならなかったわ。」ウェイトレスがコーヒーを運んできて、イケダ先生の前に置いた。食べるのを見られるのが落ち着かなくて、紅茶をポットからカップに注ぐ。イケダ先生がコーヒーを飲むのと同時にタルトを頬張る。美味しいけど、何だか落ち着かない。この、イケダ先生の、落ち着いた感じの雰囲気が、私は昔から苦手だった。「ママ、さっきの塗り絵していい?」クリームソーダをさっさと飲み終わったマナは、ここにいることに飽きたらしい。私はさっき買った小さな塗り絵と色鉛筆セットを、カワイイキャラクターの袋から出してやった。与えるとマナは黙々と色を塗り始めた。マナのこんなところは、外食慣れしていてありがたい。「上手ね。」イケダ先生は穏やかに微笑んで言った。「うちの息子は、ゲームばかりしてるわ。」「あ、そうなんですか?」スギモト先生とイケダ先生はデキちゃった結婚って聞いていたけど、やっぱり本当に子供がいるんだ、って実感した。男の子だったんだ…と思った。「ええ。持ち歩けるやつ。」これ以上聞かない方がいいと思いながらも、黙るのも変な気がして無難な言葉が口から出る。私は怖いのだと気付いた。沈黙が、当たり障りの無い会話以外のことを引き出しそうで。「何年生なんですか?」「一年生。」マナは気に入って持ち歩いているピンクのバッグから、ウサギと綺麗なガラスの宝飾がついた指輪を出してはめた。いつの間に持ってきていたんだろう…と私は思った。さり気なく、イケダ先生に褒めて欲しいらしい。「女の子らしいのね。」「そうですね。ホントに女の子チックなカワイイものが好きみたいで…」このままありきたりなことを話して席を立ちたい。私は急激にそう思った。これ以上、イケダ先生がどうしているのか、聞きたくないような気がしたから。「あなた、スギモトと私のこと聞いてる?」いきなりイケダ先生が言った。「ええ…まあ…」「そう…。」先生はコーヒーを飲んだ。「ミゾグチさんは、マツシマさんと仲が良かったわよね?今でもそう?」私は紅茶を一口飲んだ。すぐに返事をしない私を、イケダ先生はどう思っただろう。「今でもマツシマさんと会ってる?」「今は会ってないです。」「そう…。いつから会ってないの?」心臓が音をたて始めた。マズイと思った。もっと早く席を立てば良かった。イケダ先生は、どこまでスギモト先生とマッシーのことを知ってるんだろう?「ごめんなさいね。探るような言い方して。でも、いっしょなんでしょう?スギモトと。」「わかりません…」私がそう言うと、イケダ先生はぼんやりと空中を見てるのか、私を見ているのか、わからない目をした。「私…知ってるの。」私に言ったのか、独り言ともとれるように、イケダ先生がつぶやいた。そして、軽く笑顔を作った。その笑顔に、ついゾクリとした。背筋に鳥肌がたったのがわかった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月04日
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今日の日記(「まっすぐな男」と今日は授業参観☆ ) 「ある女の話:カリナ93(残された想い)」「青山さん…」「え…?」「どした?最近元気無い?何かあった?」イシタニくんの言葉に、私はちょっと変な気持ちになった。ずっといっしょに暮らしているノボルは気付かなかったのにな…そう思って。今日は開発部との打ち合わせの帰りだった。昼間の電車はすいていて、私たちは隣り合わせで座っていた。「…友達が、ね、連絡取れなくなっちゃって。」「あ、こないだの?」「うん。なかなか返事が来ないから、元気?って。心配してるよ、って。そしたら、アンノウンって、リターンメールが戻って来たの。携帯に電話したら、この電話番号は現在使われてないって…」「それって、携帯が解約されてるってこと?」「うん。そうだと思う…。それで、実家に電話を入れてみたんだけど…お父さんみたいな人が出て、連絡のつかないところにいるからって。電話があったことを伝えて欲しいって言ったら、わかりました、ってすぐに切られたの。それから連絡がずっと取れなくて…」「親友…だよね?」「うん…。」「そっか…そんなことあるんだな…」イシタニくんは軽くため息をついた。「なんかさ…、俺の友達もいろいろあるよ。そういう歳になったのかもしれない。」「イシタニくんも?」「うん。自殺しちゃったやつもいるしね…。」「そっか…。」私はその話を聞いて、少し不吉な気持ちになった。嫌な予感がする…。苦しい…マズイと思った。イシタニくんに、つい、まだある不安を話したくなった。どうしてこう、イシタニくんは、スルリと私の中に入ってきてしまうんだろう。どうして、いろいろ話してしまいたくなってしまうんだろう。でも、私は我慢した。「でもさ、俺思うんだけど、今だって、会おうと思ってもすぐに会えないじゃん?いつか、いつか…って。だから、その死んじゃったヤツと同様、連絡取れなくなって会えなくなったヤツもいて、今はどうしてるかわからない。お互い、自分の生活があるから。」「うん。そうだよね…。」「もう絶対会えないかと思うと、何か…心にぽっかり穴が空いちゃったような気分になるけど、どこかで生きてると思うと、いつか会えるんじゃないか?って、希望があるよ。連絡、そのうち来ると思うな。」「そっか…、そうだね。ありがとう。」イシタニくんの慰めの言葉に、心が温かくなるのと同時に、どうして聞いてくれたのがノボルじゃないんだろう?って思った。昔は何でもノボルに自分から報告していたし、何でも聞いてもらいたいと思っていたのに。でも、今はいっしょに過ごしてるから、何も話さなくても変な安心感があるし、心配かけたくなくて、話さなかったりする。けど、いっしょにいるんだから、気付いてくれないかな?って思うこともある。そのことに、ちょっとため息が出た。「おかえりなさい。」「ごめん、遅くなって。起きてたんだ?」帰ってきたノボルは赤い顔をしていた。週末の飲み会。ノボルは、ゆっくりと上着を脱いで、ダイニングの椅子にドサリと座った。私はテレビ画面をジッと眺めていたけど決心する。多分、待っていても、ノボルは何も気付かないだろう。ここは疲れて帰ってくるところで、何も言わなくても気付いて欲しいって期待してたら、いつか、いっしょに暮らしていても、心が離れてしまうような気がした。それが、とても怖いことのように感じた。「…マッシーが、ね、連絡取れなくなったってこと、言ってたよね?」「うん…」ノボルは思い出したように頷いた。「実は、ユウから電話がかかってきて…子供をお受験させるとかで、友達に情報をもらうために聞いた話らしいんだけど、イケダ先生って、うちの学校の女の先生なんだけど…別居してるって噂があるって…」それがマッシーとどういう繋がりがあるのかわからない、って表情をノボルはして、私の話の続きを待った。私は、ここまで言っても、まだ話すのをためらっていた。コレはマッシーの秘密のことだから。でも、私一人でかかえているのは、あまりにも重たかったので、決心した。嫌な予感がする。苦しい…。どうして私がこんなに苦しいのか、ノボルにわかって欲しかった。それに、ノボルにしか、わからないような気がした。昔から、私とマッシーのことを知ってるノボルにしか…。「そのイケダ先生の結婚相手は、マッシーの付き合ってた人なの。スギモト先生って、私がいた部活の先生なの…。スギモト先生、学校辞めちゃったって…。多分、二人が付き合ってたこと、私以外、誰も知らない…。」ノボルは少し驚いた表情になった。「そうなの?」「…うん。スギモト先生は、マッシーじゃなくて、イケダ先生を選んだの。でも、そのことを後悔してるって…私に言ってたことがあって…」「関係があるのかな?マッシーちゃんがいなくなったことと。」「…ある気がする。」「そっか…」「…もう、マッシーに会えないのかな…」「どうして、そんなこと思うの?」「何だか、そんな気がするの…。もう二度と会えないような…。」「会えるよ…。マッシーちゃんにとっても、カリナは親友だろ?」ノボルは、私の目を見て言った。「生きてれば…また会える可能性がある。」私が心配していることを、ノボルはズバリと口にした。ノボルは私から目を逸らして、テーブルを見て考えたように言った。「…ねえ、カリナ。人が生きていることって、何か意味があるのかな…」いきなりのノボルの独り言とも思える問いかけに、私は何て返事をしていいのか、わからなくなった。「時々思うんだよ。何も無いんじゃないか?って。赤木くんは…アイツは…ボクなんかと違って、ずばぬけた才能を持ってた。これから、いろんなことを出来るはずだった。だけど…もう、いなくて、何もできないだろ?何でボクじゃなくて、アイツが死ななくちゃいけなかったんだろう?って。ボクが生きてることに、何か意味があるのかな?アイツに会えたことは、何か意味があるのかな?僕達が作ってきた時間は一体何だったんだろう?って…時々思うんだ。」ノボルは、まだ酔ってるのかもしれない。疲れたように見えた。「ノボルは、マナのお父さんだよ。私の大事な旦那さんで。それだけで、充分じゃない?赤木くんが手に入れたかったものだよ。」「そうだね。そうなんだけど…」ノボルは私が出した水をゴクゴク飲んで、息を吐いた。ノボルが何を言いたいのか、歯痒い気持ち伝わってきた。私も今、同じことを思っていた。私とマッシーの作ってきた時間は何だったんだろう?って。でも…「赤木くんがいなかったら、私はあなたと海で会っても、その場で終わりだったし、年賀状を出すことも無くて、再会することも無かったと思うよ。彼がいたことでマナが生まれたとも思う。それから、あなたがいなければ、マナはここにいないでしょ?あの人が生きていた意味は、沢山ある。あなたがいることも。だから…マッシーと、もしかして、もう会えなくても、私にはマッシーと会えたことに何か意味があると思うの。そう信じたいの。ただ…私にも私の生活があるし、マッシーにはマッシーの人生があって、そんなことわかってるけど、もう会えないかと思うと、淋しくて悲しいの…」「うん…」私は座っているノボルを後ろから軽く抱きしめた。言葉では、心をうまく伝えられない。ノボルは私の腕の上に手を置いた。「また会えるよ、きっと…。僕はそんな気がする。だって、さ…赤木くんの死んだ姿を見たんだから。自分が生きてることを実感してるはずだから。大丈夫だよ。きっと…何か…しておきたかったのかもしれない。」「うん…。」死ぬ気になれば、何でもできるって思ったのかもしれない。だから…マッシーはきっとどこかで生きてる。大丈夫だ。目から涙が出ていた。ノボルは私の涙を指で拭って、私の体を抱きしめた。そして、優しく、深いキスをした。私たちは生きている。ノボルの肌の温かさ。柔らかい舌。心臓の音。その日は一段と強く感じた。私達がここにいるのは、一瞬の奇跡の積み重ねなんだ。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月03日
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今日の日記(「コード・ブルー」と雪の影響☆ ) 「ある女の話:カリナ92(ラストメッセージ)」その日は突然やってきた。ノボルは、赤木くんが亡くなってからも、普段と変わりなく過ごしていたけど、時々、何かの拍子にふと思い出すようで、涙ぐむことがあった。それは、ドラマや映画の葬式のシーンを観ている時って言うこともあったし、休みの日にテレビゲームをしてる時ってこともあった。大切な人が死んでも、生きていく日常がある。けれど、思い出す刹那がある。流れて行く日常の中で、ぽっかりと空いてしまった穴を、普段は気付かずに過ごしていられるのに、時々ストンと落ちてしまうような…そんな危うさを、私はノボルから感じていた。ねえ、ノボル。私はここにいるよ。一人じゃないよ。私はノボルの淋しそうな背中につぶやく。それでも、異性だとわからない部分があるのかもしれない。私には、赤木くんがノボルに与えていた何かを、与えることはできないだろうと思った。そうして、そんなノボルを心配しつつも、お互いに育児に紛れる穏やかな日々が続いて、私は職場復帰をすることになった。ようやく仕事と育児の両立に慣れ始めた、あれは、そんな平凡に、失われた日だった。「おはよ~。青山さん。朝っぱらから疲れてるね。」「おはよ~。なんだか、職場で青山さんって、まだ慣れないな~。それがね、今朝、保育園に娘を連れてったら、泣き出すようになっちゃって~。もう、この頃毎朝だから、それがすごく辛いの。」「あ!わかる、わかる!それは俺もだったよ。ちょうど後追いする時期なんじゃないの?」「あ、モリタさんちもそうでした?」「うん。俺が保育園に送ってたからね。結構つらかった~。毎日、もうこれで会えないような泣かれ方されてさ。毎日が今生の別れ!今なんて、オヤジ、勝手に部屋に入ってくんなよ!キモッ!…だもんなぁ~。せっかく起こしに行ってやったのにさあ。」「へえ~、そんなもんですか?覚悟しておこう…。」「そうだぞ、イシタニだって、奥さん専業主婦になったからって、子育ては任せきりじゃダメだぞ~。親父なんてものはなぁ、必要とされて子育てに参加しておけるのは、小さいうちだけなんだから…」モリタさんの実感のこもった言葉を聞いて、私は頷いて笑う。ああ、職場の空気はイイな~って、私は身軽になった気持ちで思う。大人の雑談が何だか嬉しい。まだ1歳半にしかならないマナを保育園に預けて、職場に復帰することにかなり迷ったけど、今はこうして会社に出てこれて良かったと思う。マナは、すごくカワイイんだけど、こうして職場にいると、何となく本来の自分って言うか、一人で勝手に動き回れることがありがたい。マナとずっといっしょにいた1年半は、必ず、自分以外のマナの存在を常に気にして、自分のペースで動けず、いつも心がマナにあった。彼女の身の回りの世話が私の仕事だったので、24時間、つきっきりで働いてるような気分だったのかもしれない。それが職場で解放されたような気持ちに、ついなってしまう。保育園でみてもらってると思うと、安心して、帰りに気軽に夕飯の買物にも行けるし、この仕事をすれば、自分の自由になるお金も稼げるかと思うと、あんなに大変なのに無料奉仕しているよりも、目に見える賃金をもらえる仕事って、ありがたいと思った。私って、主婦向きじゃないのかも?でも、帰る頃は必ず、マナは今日、保育園で無事に過ごせたかな?って、心配になって、すぐに会いたくなる。側にいれば大変だけど、いないと何だか物足りない。すごく矛盾した感情が、私の中にあった。さて…と、頭を切り替えて、派遣社員さんのデータ入力のミスが無いかチェックした。間違ってるところのデータを私は入力し直して、そのデータを使って、資料を作る。あまりにもミスが多いと仕事が増える。最近、B子が寿退社をした代わりに、支社からやってきた女性とランチをするようになった。お互い同じような仕事をしているので、話も合う。「コレって注意した方がいいのかな?しにくいよね?」なんて、お互い職場の問題を言い合う。パートの女性たちは年上ばかりで、子供の相談事がしやすい。会社の居心地も、それでかなり違うものになった。長く続けてみると、状況って、少しずつ変わるから不思議だと思った。私より先に、B子がイシタニくんと寿結婚で辞めちゃうなんてね。ランチを済ませてから席に着くと、携帯のELDが点滅していた。きっとマッシーだ!私はそう思った。昨日がマッシーの誕生日だったから、私はマッシーへ誕生日のプレゼントを日付指定で送っていた。届いたことのお礼メールかも…と。でも違った。変なダイレクトメール。私はガックリした。「何?誰かからメール待ってるの?」顔を上げると、隣の席のイシタニくんが私を見ていた。「え?あ、うん。友達。」「な~んだ、不倫相手かと思っちゃったよ。」「何言ってんの~?子供のことばっかで、そんなこと考えもしないよ~!」「あはは。嘘嘘。冗談。旦那さんかと思ったんだよ。すごいガッカリした顔してたから。」「え?そんな顔してた?」「うん。」「友達がね、昨日誕生日だったの。プレゼント送ったから、そのことで連絡来るかな~って。学生の時からの付き合いでね、遠いとこに仕事で行っちゃったんだけど、子供と家で二人で過ごしてた時に、メールでいろいろ相談に乗ってくれたり、雑談したりしてくれてたから。感謝してるんだ。でも、最近仕事始めたことで忙しくて、なかなか連絡もできなくて。」「そっか。やっぱり子育てって大変?」「うん、まあね。カワイイけど、自分の思う通りにならないとすぐに泣き叫ぶし。あっちのペースに合わせないといけないから、振り回されてる感じで毎日クタクタ。怒ったりすると自己嫌悪になっちゃうし、会社にいる方が楽。」「なるほどね~。」イシタニくんは、自分の知らない世界だな、って感じで腕を組んで相槌を打った。「でもね、それでもやっぱりカワイイの。ママって抱きついてきたり、一途に私のこと見てたりすると、あ~、もうしょうがないなぁ~!って気持ちになるんだよ~。」「へぇ~、そうなんだぁ~?」イシタニくんは、いいね、って感じで笑った。そこで携帯が震えた。イシタニくんも気付いて、パソコンの方に目をやったのを確認しつつ、携帯画面を見る。今度はマッシーからだった。 誕生日プレゼント届いたよ! どうもありがとう。 覚えててくれたんだね? ビックリしちゃった。嬉しい! カリナ、大好き! ずっとずっと友達だからね。 私は、プレゼントくらいで何言ってんの、マッシーってば!って、ニヤけた。 どういたしまして~♪ 気に入ってくれると嬉しい! 誕生日プレゼントくらいで何よ~? うん。ずっと友達だよ!当然! 私も大好き!ちゅっ!ハートマークの絵文字をつけて、即、とり急ぎのメールを出した。マナを迎えに行ったら、メールする余裕なんて無いかもしれないから。もう小さな子供もいるのに、おバカなメール~!「やっぱり彼とか男なんじゃないの?すっごい嬉しそうなんだけど?」いつの間にかイシタニくんがこっちを見ていたらしくて、そう言った。「やーね!女ですぅ~!でも、そうね。彼氏みたいなもんだよ、彼女は。」「ふーん。」マッシーからの返事は、それから来ることが無かった。考えてみれば、アレはマッシーの29歳の誕生日だったよね。私はマッシーの30歳以降の誕生日をお祝いしたことが無い。あれが、あの日が、最後のマッシーとのやりとりだった。マッシーは、スギモト先生とどこかへ消えてしまった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月02日
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今日の日記(「特上カバチ!!」「君たちに明日は無い」「龍馬伝」感想と今日はダメダメ☆) 「ある女の話:カリナ91(葬式2)」結局、告別式の精進落としまで行くことになった。赤木くんは、倒れた日に実家に帰ってきていて、「オレの嫁さんはアオヤンちの子供にしたから~」って、報告していたらしい。病室でも、ノボルが持ってきたマナの写真を、「この子、オレの嫁さんにするって約束してるんだ。」って、嬉しそうに見せていたそうだ。赤木くんの家族が、そんなことを話しながら、マナのことを眺めたり、ダッコしたりした。赤ちゃんって言うのは、そこにいるだけで、何でこんなに人の心を和ませるんだろう…。そう思わせるような空気が、お葬式の間、ずっと流れていた。焼き場から、精進落としの会場へ。まるで、結婚式かのような、音楽葬って感じの雰囲気に、赤木くんが死んでしまったなんて、まだ焼いた骨まで見ても信じられない。遺体だって、まるで蝋人形みたいだったもの。ノボルは、ずっとマッシーが言うように、笑って、懐かしそうに、楽しかった思い出ばかりをみんなに話していた。でも、体が焼かれる時に、「置いてくなよっ!」って叫んだ。言った自分にビックリしてるみたいに、躊躇した表情をしていた。こんなノボルを初めて見る。赤木くんは、彼にとって、本当に特別な存在だったんだって、わかる。ノボルをイグチくんたち友達といっしょに飲みに行かせて、久しぶりに会った、ユウやミキと別れて、私はマッシーといっしょに家に戻った。「ねえ…人の死って、あっけないよね…。」マッシーが紅茶を飲みながら言う。「うん…。」マナに母乳をあげながら、私は頷いた。「こんなふうに、みんな赤ちゃんの時を過ごして大きくなってきたんだよね。大変な思いをして育てた子供が先に逝っちゃうのって、どんなにつらいだろうね…。」懸命に母乳を飲むマナを見ていると、この子が今亡くなってしまったら、私は一体どうなってしまうだろう…って思った。もう、日常にいないことなんて、考えられない。「カリナはもう親目線で死を感じてるんだね。」マッシーは呟くと、紅茶を一口飲んだ。言われてみれば、そうかと思った。マッシーが言葉を続けた。「私は…赤木くんが幸せだったのかな…って気になって。実はね、病院に最後のお見舞いに行った日に、赤木くんの病室から女の人が泣きながら出てきたんだよね。もしかしたら、赤木くんの彼女かな…って思った。」「どんな人?」私は、もしかしたら、赤木くんが言っていた、好きになって、後悔してないって言っていた女性じゃないかと、ふと思った。好きになっちゃいけない人。「ん~と、カワイイ系かな?キレイっぽいけど、カワイイの。歳は、私達と同じ位かなぁ~?小柄で。昔赤木くんが付き合ってた、サキちゃんとは違う感じだったよ。サキちゃんもキレイだったけど、見た目からして気が強そうな感じだったよねぇ?」「へぇ~。いいな。見たかった!」マッシーは笑った。「結構、忘れられなかったんだよね。赤木くんって愛されてるんだなぁ~って思って。あんなふうに泣く位、好きだと思われる人がいたくせに、何だって結婚しなかったんだろうね?」「ん~、もしかして、前に聞いた、好きになっちゃいけない人なのかも?あのね、倒れる前に言ってたの。アオヤンがいろんな物を持ってて羨ましいって。オレには何も無いって。今まで付き合った人に後悔してないけど、好きになった人が手に入れば、もっと良かったんだけどって。」「ふ~ん。」マッシーは何か考え込んでいるようだった。マナが母乳を飲み終わったので、ゲップをさせると、そのまま腕の中ですやすや眠ってしまった。「死んじゃうくらいなら…」「え?」「ううん。何でもないよ。」「何よ、マッシー、言いかけだと気持ち悪いじゃない?」「ん…ああ…、あのさ…。」マッシーは言いにくそうにして、紅茶をまた一口飲んだ。「死んじゃうくらいなら、強引に自分のものにしちゃえば良かったんじゃない?って、一瞬そう思ったの。だって、あの人、ホントに苦しそうだった。周りのことなんて、目に入ってない感じで、こう…ぼんやりした感じで出て行った。」私は、その様子を想像した。赤木くんが言ってた人だとして、どんな人だったんだろう?って。でも、想像がつかなかった。わかったのは、赤木くんのことをかなり好きだったんだろうな…ってことだけ。ノボルなら知ってるかもしれない。話してみようかと思った。「人間なんて、いつ死んじゃうかなんて、わかんないんだから…さ。」マッシーが独り言みたいにつぶやいた。「うん…。」私はマナを揺りかごラックに乗せて、揺らしながら紅茶を飲んだ。「でも…さ、取られちゃった人が悲しむんじゃない?友達の彼女だったり、もしも、こんなふうに子供がいる人だったりしたらさ…」私はマナを眺めながら言う。「赤木くん、多分取れないと思うよ。あの人、人を楽しませたり、喜ばせるの好きだったじゃない?それに、すっごい子供好きみたいだし、家族もかなり欲しがってたから。家族取り上げるようなこと、きっとできないと思うよ。」「そうだね…。」マッシーもマナを見ながら言った。「ノボル…マッシーが言った通り、すごく辛そうだった。私、思いきって、行ってみて良かったよ。マナを赤木くんちの人たちに見せることもできたし。マッシー、ありがとうね。」「うん。…ね、カリナ。私達さ、ずっと友達だよね?友達でいてくれる?」マッシーが、泣きそうな顔で言った。「うん。もちろんだよ!当たり前じゃん?」私はマッシーの手を握った。「私、カリナが体育館で一人でバスケットのシュートを決めた時から、ずっと友達になろうって決めてたんだ。」「え?そうなの?」「うん。あんな遠くからキレイに…すっごくカッコ良かった。だからね、こうして、こんなにすごく友達になれたこと、私今でも嬉しいんだよ。ホントに。」マッシーも私の手を握り返してきた。「ふふ。何だか恋愛みたいだね~。」「そうだね。」お互い、ちょっと目がウルウルしてるのがわかった。赤木くんは、もういない。でも、まだどこかで生きてるような気持ちでいる。変なの。変なの。私達、赤木くんの死で、心が弱くなってるのかもしれない。でも、あの時のマッシーの表情が、違うことを考えてたんじゃないか?って、今は、つい思い返してしまう。ねえマッシー、私は今でも友達だと思ってるよ。どんな気持ちで私の言葉を聞いていたの?教えてよ、マッシー…私、あなたに伝えなくちゃいけないことがあるの。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年02月01日
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今日の日記(「ブラッディ・マンデイ」「左目探偵EYE」感想☆と最近気になる嵐くん♪ ) 「ある女の話:カリナ90(葬式1)」赤木くんのお通夜は、冷たい雨が降った。帰って来たノボルの黒いスーツに塩をかける。「ネクタイが白なら結婚式なのにな…」はずした黒いネクタイを見ながら、ノボルがつぶやいた。明日の告別式で、ノボルは弔辞を述べることになっていた。お風呂から出ると、手帳に原稿らしき文を書いていた。私も、お通夜に行きたかったけど、まだ一ヶ月のマナを連れて、雨の中の葬式は難しいだろうと言うことで、行くことができなかった。話を何となく聞くこともできない。多分、ノボルが一番悲しんでいるのだろうから。テレビドラマを観ながら母乳を飲ませてゲップをさせると、マナは満足したのか、スウスウ眠り始めた。私は頃合を見て、マナを布団の上に置いた。コレに失敗すると、またマナが起きて泣き出し、あやすのに時間がかかることがわかっていたので、かなり慎重に。ノボルは書いていたペンを止めて立ち上がった。ティッシュを取ると、目を拭いて、鼻をかんだ。私が見ていたのに気付くと、「ごめん…」って、軽く笑いながら言った。私は、ううん、って、首を振った。「大丈夫?」「うん…。何を話していいのか、何から話せばいいのか、わからなくてね。こんなこと、あるんだな…って思って。こんな大事な役目をするなんて思わなかったし…。何か、書いても書いても、アイツのこと、うまく話せないような気がして…。こんなんでいいのかもわからないし…。」「うん…。」「書いてるとさ…いろいろ思い出すんだよ。ついこの前まで、いっしょに遊んでたじゃん?僕はさ…バカだったと思って…。ウザったがられても、もう少し顔を見に行けば良かったって。今でも頭に残ってるんだよ…。アイツが…来てくれたんだ?、って言ったこと。僕のこと気にしててくれたんだよ…。なのに…」私がノボルの手を取ると、ノボルは私にもたれるように、ゆるく抱きしめてきた。まるで、何かにすがらないと立ってられないようだった。「アイツさ、苦しそうだったんだ。チューブで繋がれてて、もう、意識なんか、あるんだか無いんだか、目を開けてもすぐに眠るような感じで。だからさ、死んだって聞いた時には、もうあんなに苦しまなくていいんだって、僕はホッとしたんだよ。あんなに苦しそうにしてたから…やっと楽になれたんだ、って…。でも、でも…治るって…思ってたんだ…死ぬなんて…信じたくなかったんだ…今だって、死んだなんて思えないんだよ…。」ノボルが肩越しに泣いているのがわかる。私もノボルの腰に手を回して、壊れないように抱きしめた。しばらくそうして抱きしめていると、ノボルが体を離した。ティッシュを数枚取って、私に渡して、自分の涙も拭った。私も泣いてた。お通夜にも行きたかった。病院にも行きたかった。写真じゃなくて、マナのこと見せてあげたかった。治らないなんて、思わなかった。人の死がこんなに突然だなんて、思ったことも無かった。死は年功序列なんじゃないかって、心のどこかで思ってた。どんなにニュースで毎日、人が亡くなったって聞いても、親が誰かが亡くなったって言っていても、それはどこか遠くのことで、自分に近い人のことじゃ無いと思っていた。心のどこかでそう思っていた。だから…現実感が無いの。ノボルから聞いた赤木くんの死が。全く現実感が無いの。どこかで生きてるような気がするの。ノボルは生きてる。温かい体温のぬくもりを感じる。それが当たり前のことじゃなく感じる。その時、私の携帯が鳴った。ノボルが、取っていいよ、って表情をしたので、私は慌てて電話に出た。「カリナ、夜遅くにごめんね。今大丈夫?」「あ、マッシー?うん。」「お通夜、アオヤン帰ってきてる?」「うん。」「それなら良かった。何か心配になっちゃって。」「え?どして?」「何て言うか…アオヤン、変にテンションが高かったって言うか、楽しかった話を懸命にして、みんなを笑わせてたって言うか…。でも、目が遠くを見てるような。現実を受け入れてないような気がして、ちょっと心配だったんだよね。」マッシーの話に頷きながら、私は何となく怖くなった。ノボルがマナの側に行ったので、聞こえないように、部屋を移動した。「ねえ、マッシー…私、告別式出ようと思う。マッシー行く?」「え?あ、うん。私は一人でも行くつもりでいたけど…大丈夫?」「うん。ノボルのことも気になるし。でも、ノボルが悲しむの、邪魔になっちゃいけないし、マナが気になるから、ちょっとだけお焼香して帰るね。車で行く。」「わかった。いっしょにいよう。私もすぐ帰るつもりでいたから。」「うん。」死んでしまった赤木くんよりも、生まれたばかりのマナのことを考えるべきなんだろうか?赤木くんは、夫の親友で、私の友達じゃないのかもしれない。でも、私にとっても、彼はいっしょに自分達と今までを過ごしてきた、大切な人だったことに間違い無い。だから、もうこれが最期だと思うと、無茶をせずには、いられなかった…。でも、人との別れは死だけじゃないのかもしれない。いつだって、人との別れは突然なんだと思う。後になって初めて、あれが最後に会った時だったんだな…って思う。ずっと、ずっと会えると思っていたのに。ねえ、マッシー、そう思わない?「いっしょにいようね。」私もそう言って、電話を切った。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月31日
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今日の日記(面白いゾ!「宿命1969-2010」(「ヤマトナデシコ七変化」感想)と最近の食べ物写真☆) 「ある女の話:カリナ89(生と死)」退院すると、慌しい育児の日々が私を待っていた。2、3時間おきに起きるマナのせいで、すっかり寝不足になってしまった。2週間は実家に戻って過ごした。上げ膳据え膳。仕事が終わるのが早い日は、ノボルがマナの顔を見に寄って、夕飯をご馳走になって帰って行く。ラクチンだけど、何だか落ち着かない。親のペースに合わせないといけないので、そろそろ自分の家に帰りたいな…って思った。以前までは、ココが自分の家だったのに。そう思う自分に少し笑った。ようやく家に戻ると、家事をしながら、マナの世話をするのが、いかに大変かわかった。ノボルが残業の時は、自分でマナをお風呂に入れないといけないし、マナが寝ている間にお風呂を済ませておかないといけないし、マナのペースとノボルの都合に合わせて家事をしなくちゃいけないし、夕飯を作るのに何か材料が足りないことがわかっても、いきなり買出しにちょっと出るにも一苦労だった。この前は、野菜と肉を炒めてる間に寝ていたマナが泣き出してしまったので、慌てて、揺りかごのようになっている赤ちゃんラックを揺らして、作りながらあやした。オンブをずっとしているのも肩が凝るし、とにかく眠い…。まとめて眠りたい…と毎日思っていた。少し怒りっぽくなった気がする。母乳もよく眠れていないせいか、そうすると、あまり出が良くないらしくて、少しずつミルクも足すようになった。そうすることで人に預けやすくなるよ。って、母親は嬉しそうに言ってたけど、自分は母親として、ダメな人間なような気がして、少し悲しかった。誰かと話したい時は、ノボルやマッシーや友達にメールした。電話だと、いきなりマナが泣き出した時に困るから。それでもマナの寝顔を見ていると幸せだった。マナが自分の母乳を飲んでいる姿を見ると、この子もいつか自分が今感じてる思いを味わうことになるのかな…と思った。自分が人の食料になっている感じ。自分の体の養分を吸い取って生きている存在の不思議さ。産む時は女に生まれたことは痛いことばかりだって、損した気分になったけど、この感覚は男には味わえないだろうと思うと、ちょっと女に生まれて良かったと思った。初めてそう思った。マナと寝転んでいると、自分も赤ちゃんになれたような気がする。自分が守ってるんじゃなくて、この子がいることで、幸せな心をもらってる気がする…。そんなある日、ノボルの携帯が夕食後に鳴った。ノボルの話す様子から、イグチくんかな…と思った。赤木くんが病院を移ってすぐに、何だか、なかなか治らないことに赤木くんがイラついているらしくて、ノボルは、お見舞いに行きづらくなったらしい。気になってはいても、神経を逆撫でするだけだから…と、行くタイミングを逃しているようだった。多分イグチくんから病院に行った報告をしてもらってるのだろう。でも、携帯を持ったノボルの顔が、表情が、笑っていたと思った顔から、一気に驚きの顔に変化した。様子を見ていた私と目が合った。そしてまた無理に笑おうとして、それから、その笑いがうまく行かなくて、何?え…、ウソ…と。呟きとも、問いかけとも聞こえるような声を出した。「明日、病院に行くよ…」電話を切ったノボルは、目の焦点が合ってなくて、顔を覆った。涙が出ていた。私は恐る恐る聞いた。まさか…ね。「どしたの…?」ノボルを落ち着かせたくて、片手でマナを抱きながら、ノボルの肩に手を置いた。「赤木くんが…ガンだって…」すがるように、ノボルが、私とマナを抱き締めた。強く。力をこめて。その力の強さから、ノボルの涙から、その事態が取り返しのつかない現実なんだと思い知った。 「まだまだ若いし、赤木くんはカッコいいんだから! これからイイ子、たくさん出てくるって。」 「は~やく会いたいなぁ~。 そんな子に。 会って、俺のこと、ギューって、抱きしめてくんねぇかなぁ~。」 「お~い!オレの嫁さんになってよ!」 「この子が女の子で、赤木くんのことすごく好きになったらいいわよ。」 ここで、この部屋で、そんな話をしたのは、ついこの前のことなのに… マナは、何も知らずに眠っていた。私の腕の中で。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月30日
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今日の日記(「エンゼルバンク」で転職を考える☆ ) 「ある女の話:カリナ88(出産)」赤木くんはまた腸閉塞になってしまったらしい。またすぐに退院できるだろうと思うとホッとしたけど、倒れたと聞いた時は、オナカの中で赤ちゃんがドクドクと熱くなっていくのを感じた。もうすぐ予定日だけど、ノボルといっしょに赤木くんのお見舞いに行った。総合病院だから、いきなり産気づいてもココで産んで大丈夫じゃない?以前お見舞いに行った時のように、赤木くんはちょっとつらそうだったけど、そんな冗談を言って笑った。もしも、そこで産んでたら、赤木くんはどんなに喜んだだろう。今はそんなことを思う。その翌週、私の陣痛が始まった。陣痛は、夜中にだんだん強くなっていった。産むのにノボルは間に合わないかもしれないな…そう思っていると、朝方になって、その痛みが弱くなっていった。次の日の夜はもっと痛くなっていって、ノボルがずっと私の側についていてくれた。赤ちゃんにストレスがかかると聞いて、私は叫びたい気持ちをかなり我慢して、言われた通りに息をコントロールしていた。ノボルはまだまだ生まれないと思っていたらしい。何度もナースコールをしては、まだだと言われていたせいで、ナースコールをためらっていた。「もう、絶対無理だから…。とりあえず呼んで…。」「え?ホント?」看護士さんを呼んでもらうと、少し頭が出ていたようだ。これには私よりノボルが驚いていた。私は3日目の朝に、ようやく子供を産んだ。女の子だった。「隣の人が、死ぬ~!とか叫んで分娩室に行くから、絶対まだだと思ってたのになぁ~。」ノボルはノンキなもので、そんな話をお見舞いに来てくれたマッシーに話した。「もう、絶対無理だからナースコールして!って言ってたのに、ヒドイでしょ?」「だってさ~。ホントにすっごい叫び声とか上げると思ってたんだよ~。」私達の言い合いに、マッシーが笑う。「でも、本当に無事に生まれて良かったよぉ~。すっごいカワイイよね~!柔らかくて、ちょっと抱くの怖い~!」マッシーはそう言って、恐る恐るマナを抱いた。「はい、撮るよ~!」ノボルが写真を何枚か撮った。「あ~、ほにゃほにゃしてて、カワイイなぁ~。カリナのオナカにいたのが、何か信じられない~!変な感じ~!そう言えば、この子、もう赤木くんと結婚することに決まってるんだって?」マッシーが私から聞いたことをノボルに言う。「あ!嫌なこと思い出させるなぁ~。残念だけど、約束しちゃったからね。まーでも、嫌ならやめていいんだからなぁ~、マナ?ずーっと結婚しなくていいんだよぉ~?」マナを抱きながら、ノボルが嬉しそうに言った。「あ~あ、アオヤンってば、すっかり親バカになっちゃって~!でも無理も無いか。」そんなノボルの姿を見て、マッシーが笑っていた。私も笑う。ノボルが売店に行ってくるねって、気を利かせてくれた。「今日はありがとうね~!」マッシーを見送りながら言う。「帰り、赤木くんの顔見ていくわ~。実家に帰るから、楽できちゃう~。」「ホント、実家ってありがたいよね。」「うん。」「ねえ、マッシー、こないだメールで言ってたさ…、あのお見合いさん…、えっと、ヌマタさんだっけ?あの人にプロポーズされてるのって、どうなったの…?」「うん…受けようかな~って思う。」「え?ホントに?!」「ん~。今日マナちゃんの顔を見たら、尚更そう思った。私も子供欲しいし、ヌマタさんは…男として尊敬できるし、きっとイイ家庭を作れると思うんだ。私にとって、それって大事なことなんじゃないかな?って思ったよ。タッチャンのことは、多分もうずっとこのままだろうしね。どうにもならない…。」「そっか…」淋しそうに笑うマッシーの顔を見たら、私も何となく淋しくなって、自分の指を何となく眺めた。薬指にはめたてたマリッジリングの跡が白い。出産のためにはずしてるけど、それがどんなに心強く感じるモノなのか…「や~ねぇ、暗くならないでよ!私ね、幸せになりたいの。彼ならそうなれる気がする…。もしかしたら、いっしょに暮らしたらタッチャンより好きになれるかもしれない。最近、そんなふうに感じるの。キチンと決まったら、カリナに紹介するね。」「うん。うん、そうだね!楽しみにしてるからね!」マッシーと私は笑顔で手を振って別れた。マナがマッシーの人生を変えてくれるかもしれない…そんな希望が胸に浮かんだ。イグチくんがお見舞いに来た日には、イグチくんがノボルをちょっとの間、病院の外に連れて行った。どうしたのかと思ったら、病室では通話できないだろうから、お祝いの電話を時間が来たら、赤木くんがイグチくんの携帯にかけることにしていたらしい。ノボルは、赤木くんがマナを見れないことを、とても残念に思っているようだった。私もそれは同じ。体の一体感が無くなってしまったことで、マナが私と別の人間になってしまったことが、何だか不思議な気がする。私は心のどこかで、マナを私の臓器みたいに、体の一部のように思っていたんだろうか?私と別の意思を持ってるはずなのに、マナも同じように思ってるような気がした。赤木くんに会いに来て欲しいと。私の思い込み?って、少し笑っちゃうけど。イグチくんと戻ってきたノボルから、赤木くんからのメッセージを聞いた。俺の嫁さんに会うのが楽しみだ、って。本当に無事に産めて良かったよ、って。お疲れ様、おめでとう、って。お大事にゆっくり過ごして…あ、俺もか!って言ってたことも。ノボルは、かなり感動したんだろうな。すごく嬉しそうに、楽しそうに話してくれた。かなり感動しちゃったらしくて、目が少し潤んでた。彼らは粋なことをする。友達って、人生の宝物なんだな…。私の分まで、赤木くんのお見舞いをしてきてね!って言って、私はノボルとイグチくんを病院の入口まで見送った。幸せだと思った。私もノボルもマナも。こんなに沢山の人たちに祝福されて、子供を産んで…。カワイイキャラクターの、そのままぬいぐるみで使えるような電報が、モリタさんとイシタニくんから連名で届いていた。家を買ってしまったこともあって、私は復職することに決めていたけど、その電報が、私に帰る社会があることを告げていて、少しめんどうなような、ありがたいような、複雑な気持ちを私に与えていた。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月29日
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今日の日記(「曲げられない女」感想と今日の職場☆ ) 「ある女の話:カリナ87(夫の親友)」会社が産休に入って、最初のうちは何て楽なんだろう~って、ゴロゴロしていたけど、オナカが大きくて寝返りもうてなくなってきたし、ずっと歩くのも辛いし、もう秋だって言うのに、まだまだ残暑も厳しいし、早く出てきて~!って感じだった。ノボルが帰るのを楽しみに、夕食を作って、週末は二人で夕涼みがてら、レイトショーを観に行った。駅前の夜は若い男の子が女の子をナンパしていて、私たちの子供もこんなことをするようになるのかな~、なんて、私が言ったら、まだまだ早いよ。って、ノボルが返してきて、二人で笑った。幸せだな…って思った。珍しくノボルが赤木くんを家に呼んでくれた。結婚して、妊娠してから、赤木くんは、何となく来なくなっていたので、賑やかな空気が、とても嬉しかった。ようやく整理できた結婚式の写真や映像を3人で見て、大騒ぎして笑った。3人でカラオケに行って、ノリノリで歌うと、ノボルも赤木くんも、そんな大きな声出してたら、生まれてきちゃうんじゃないか?って心配していた。男二人もいれば心強いじゃない?って、言ったら、ノボルは一瞬、本気でホッとした顔をして笑った。オナカにいない分、ノボルの方が親になる心配は大きいのかもしれないなぁ。そんなこと、ふと思った。その日は赤木くんが泊まっていくことになった。私が布団の支度をしようとすると、ノボルが即、手伝いにくる。「オマエ、ほんとにイイ父親になりそうだな~。」赤木くんがその様子を見て、しみじみと言った。ノボルは照れ臭そうに笑った。二人を勝手に飲ませておいて、私は久しぶりにベッドを一人で占領することにした。でも、珍しく一人で眠ったせいなのか、なかなか寝付けない。二人がまだ飲んでるかな~?と見に行くと、ダイニングテーブルで赤木くんが携帯を見ていた。こんな夜中にやり取りする相手がいるんだ?「あれ?どした?」私に気付くと赤木くんは携帯をたたんで、ポケットにしまった。「なかなか眠れなくて、混ぜてもらおうかと思ったんだけど…ノボルは?」「布団に転がってたら、すぐ寝ちゃったよ。仕事ハードなんでしょ?疲れてるんじゃん。」「あ、そうなんだ?」襖の向こうで、ノボルが爆睡してるのが見えた。あどけない顔が子供みたいでカワイイ。私は電気を消してあげた。ダイニングの椅子に、赤木くんと向かい合わせで座ると、何だか変な感じがした。「あ~、二人が結婚してくれて、ホント良かったなぁ~。俺の別宅ができた感じ。」私は、ふふっと笑いながら、冷蔵庫から麦茶を出してコップに注いだ。「そう思ってくれるなら、また遊びに来てね。赤木くんが子供嫌いじゃなければ。」「え?!マジで?イイの?行く!行く!」赤木くんが目を輝かせるので、私も嬉しい気持ちになった。「ずいぶん前に釣りに行った時のこと…カリナちゃん覚えてる?」「うん。覚えてるよ。」「俺さ、ちょっと心配してたんだよね。あの時に、アオヤンとカリナちゃんが別れたりしたら、嫌だな~って。」私は軽く笑った。「そんな心配、しなくてイイって言ったじゃない?」「あ~、まあ…そうなんだけどさ~。」赤木くんはカラカラと氷を鳴らしてから、作ってあげたウーロンハイを一口飲んだ。「どうなるかわかんないじゃん?男と女のことなんてさ。」その言葉が、ふっと私の心の中に沈んでいった。「そうだね。わからないね。」私も麦茶を一口飲んだ。「もしもだけどさ、初めて会った時、俺が先にカリナちゃんに電話番号を聞いてたら、こうして結婚してたのは俺かもしれないよね。」赤木くんが変なことを言うのでドキリとした。「え~?それは無いでしょ~。」「うわっ!失礼だな~!」「だって赤木くんモテそうだし。私、声かけてきても本気にしないと思うな~。」「なんだよ、それ~。遊び専門の男みたいじゃん?だから結婚できないのかな~。」赤木くんがクスクスと笑った。少し淋しそうに見えた。「え~っと、そうじゃなくて、こっちが本気になっても本気で相手してくれなさそう。赤木くんが本気になった相手しか。でも、私はノボル…アオヤンに何かこう、ピピっと来たんだよね。そういうの無い?赤木くんは私の相手じゃないな~って思ったの。直感で。赤木くんだって、そう思ったでしょ?」「ん~、まあ~、って言うか、俺、あの頃、サキのこと気になってて、他の女のこととか、あんまり気がいかなかったんだよね。」「結構一途なんだよね。」「そ。意外と真面目なんだ、俺。」笑いながら、赤木くんはお酒を飲んだ。「いいな~、アオヤンは。結婚して、子供ができて、家もちゃんと手に入れたし。俺は何にも持って無いよ。」ちょっと淋しい気持ちになった。赤木くんが弱音を吐くのなんて、初めて聞いたような気がする。オナカの赤ちゃんがピクリと動いた。「赤木くんが弱音吐くなんて珍しいね。」「ん~。何でだろうね?ちゃんとカリナちゃんみたいな子を選んでれば良かったのかもしんねぇな。何だか、素直に弱音吐けるよ。俺はカッコつけ過ぎなんだな…」「今まで付き合った子のこと、後悔してるの?」赤木くんはちょっと考えたように言った。「ううん。全然。手に入れば、もっと良かったなぁ~って思うけど…」「大丈夫だよ。まだまだ若いし、赤木くんはカッコいいんだから!ライブの時なんてサイコーだよ!あんな才能、私には無いもん。これからイイ子、たくさん出てくるって。あ、もういるのかな?メールしてたでしょ?」「はは…。そうだといいんだけどね。ありがとな~。は~やく会いたいなぁ~。そんな子に。会って、俺のこと、ギューって、抱きしめてくんねぇかなぁ~。」「抱きしめるんじゃなくて?」私は笑いながら言った。「どっちでもいい~!」赤木くんも笑った。翌日も3人でダラダラ過ごして、夕飯にお好み焼きを作って食べることにした。こんな時にはノボルが台所を手伝うから可笑しい。普段は子供みたいにお皿並べる程度しかしないのに。「あ~、飲み過ぎで食いすぎたのかな?腹が痛ぇ~。」食後に赤木くんがオナカをさすりながら言った。「大丈夫かよ?そんなに食った?」「胃薬ならあるよ?飲む?」私が胃薬を渡すと、赤木くんは水でそれを飲んだ。以前赤木くんは腸閉塞をやっているから、私もノボルも、何だか心配な気持ちになる。「ねえ、そのオナカさ、触ってみてもいい?」台所から戻った私に赤木くんが言った。ノボル以外の男の人に、オナカを触られたことは無いかもしれない。セクハラに聞こえないのは、赤木くんだからだろう。「いいわよ。オナカだけならね。」赤木くんがクスクス笑って、ノボルの方を見て、ノボルがいいよ、って感じで頷いた。赤木くんが恐る恐る、私のオナカに手を当てた。「うわ~。ホント卵みたいだな。」そう言った瞬間、オナカの中の赤ちゃんが動いた。「わっ!」「どうした!?」「今、グルグルって動いたぞ!すっげぇ~!」ノボルが初めて、オナカの赤ちゃんが動いた時と同じ反応をしたので、私が笑いながらノボルの顔を見ると、ノボルも笑っていた。あれ…?触ったのが男の人だからなのか、私の鼓動なのか…?体が熱くなったように感じた。ふと、オナカの中の赤ちゃんが喜んでいる気がした。「なぁ、この子女の子?そしたら、オレの嫁さんにしていい?」その時、オナカの子がピクリと動いた。え…?「お~い!オレの嫁さんになってよ!」その瞬間、オナカの子が確かに返事をした。グリグリっと、動いたのだ。いいよ!って感じで。この人がいい!この人がいい!そんな感じで、体がほてってきたのがわかった。「え~、赤木くんがボクの息子になるの?勘弁してよ~。年だって違い過ぎるって!おーい、男でいいぞ~!」それには赤ちゃんは何の反応もしなかった。ずっとオナカに手を当てていた赤木くんには、今の赤ちゃんの反応がわかってるらしい。嬉しそうな、勝ち誇ったような顔をしていた。「この子が女の子で、赤木くんのことすごく好きになったらいいわよ。でも、泣かせないって約束してね。」私が笑いながら言うと、「約束しますよ。お母さん。」と、赤木くんは真面目な顔をして言った。ノボルには言えないけど、体が変だった。欲情してる感じに似てる。抱かれたい…と、私を通して言っているような…。自分がやらしい人間になったような気がした。妊娠してるせいでホルモンが変なのかな?赤木くんが手を離しても、この子が興奮してるような感じだった。でもこの子は、絶対女の子だ…。そんな気がした。赤木くんが倒れたって聞いたのは、その3日後だ。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月28日
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今日の日記( 「泣かないと決めた日(初回)」観た後は「まっすぐな男」必須!) 「ある女の話:カリナ86(送別会)」「とりあえず~、今までお疲れ様でした!」モリタさんがみんなの前でそう言ってくれて、今年の新人ちゃんが、私に大きな花束をくれた。明日から私は産休に入る。「産んだら戻ってくるんでしょ?カワイくなったら、そのまま辞めちゃうかな~。」「そんなものですかね~?わからないです。」「そうそう。休んでる間に気が変わるかもしれないからね。」私の送別会が終わり、ちょっと高級って呼ばれてる和風居酒屋の前の道で、みんなに囲まれて、何となく名残惜しくて、ちょっと話す。「さて、そろそろ行こうか。イシタニ、悪いな!」あ…、やっぱり…。と、私は思う。モリタさんから、良かったら送別会をしたいんだけど、やっぱりオナカが大きいと無理かな?って言われた。迷ったけど、もしも、もう会社に復帰しなかったら…って思うと、何となく送別会の申し出が嬉しくて、やっぱりオッケーしてしまった。「帰りは送るからね。車あるから。」モリタさんが会の終わりにそう言った。え?モリタさん飲んでますよね?予感的中。やっぱりイシタニくんが運転手。道理でアルコールを飲んでなかったワケだ。飲めない私に気を使ってるのかと思っていた。すぐ側まで来てくれたイシタニくんの車に、モリタさんと二人で乗り込んだ。「俺までホント悪いな~、イシタニ。」イシタニくんは返事の代わりに笑った。「いや…さ、イシタニと二人で決めてたんだよ。こんなにオナカが大きいのに、電車で帰すのは可哀想だよな~って。送別会もさ、ホントならマズイかな~って思ったんだけど、今までいっしょにガンバってきたじゃない?できれば、やりたいな~って思ってて。」飲んでいたモリタさんは饒舌に語る。その言葉に、ついジンワリきてしまった。「すみません、ホント…も~、何て言うか…こんなふうにしてもらえるなんて、すごく嬉しいです…。」「あ、ホント?良かったなぁ~。な?イシタニ…」私の方を笑顔で振り返ったモリタさんの顔が固まってた。笑って答えたつもりが、涙がつい出ちゃっていて、指で拭っていたのに気付かれたらしい。「イシタニがさ~、車出すって言い出してくれてさ。 タクシーで一人で帰すのも何だし。で、俺まで甘えちゃったんだよね。イシタニって、ホント、いいやつだな~!」モリタさんは誤魔化すように、サッと隣のイシタニくんの方を向いて話しかけた。イシタニくんとバックミラー越しに目が合った。私は慌てて目を逸らして、取り出したハンカチで涙を拭った。二人は何気なく話してるけど、しんみりした空気が車の中に流れてしまった。そのことに申し訳なく思う。「でも…さ、ホント、会社戻れたら戻っておいでよ。子供カワイイと、このまま辞めちゃうかもしれないけど、ミゾグチさんは戦力だったからさ、何かもったいなくてね。」自分ちを棚に上げてなんだけど~、って、モリタさんは笑った。うちのと違ってツワリとか、そういうの無かったよね?とか、医療費、保険利かないと結構するよね~。とか、いろいろ質問してきた。知ってる子が結婚したり、妊娠してるのって、身内に子供できたくらい、何か変な感じだな~とかって。車は先に近いモリタさんを下ろした。お互い名残り惜しい気持ちで手を振る。この人の信頼もあったから、私は仕事を続けられたんだ。明日から…ううん、もしかしたらもう会えないかもしれないんだな…そう思うと淋しくて、この人が上司で本当に良かったと思った。話題をふっていてくれたモリタさんがいなくなると、車の中が一気に静かになった。かかってる曲が、昔付き合っていたミツルが好きだった曲だってわかって、少し変な気持ちになる。ああ、またミツルだ…。そう思う。この曲をイシタニくんも好きなんだ?そう思うと、やっぱり呪われてる気分になる。会社の最後になんだってこんな…。それでも、イシタニくんが車をわざわざ出してくれたことに、感謝の気持ちはあるけど、どうして…って気持ちになる。そんなことしなくていいのに…だけど、これでもう、もしかしたら会うことも無いかもしれないと思うと、やっぱり、嬉しかった。「ホント…。何か変な感じだな。」イシタニくんが口を開いた。「ミゾグチさんがこうしてオナカが大きくなっていくのって、毎日見てたけど、見慣れない。」「そう?」私は素っ気無く返事を返した。みんな青山さんって言わない。やっぱり何年も呼びなれた旧姓を呼ぶ。それがあだ名みたいだな…って思った。「ミゾグチさんは…彼とどうして付き合うようになったんだっけ?」私は少し考える。「ナイショ。」「あ、なんだよ~!」時間をかけて、元のように戻ったフリをした私達は、フリをしてるうちに、本当に元に戻ったのかもしれない。本当にそう思う。「じゃあ、イシタニくんは?」「俺?俺は~、その時すっごい好きな女がいて~、結婚まで考えてたんだけどふられて~、そんな時にアイツと会って~、すっごい慰められて、いい子だなって思って、だんだん好きになった。…かな。」ちゃんと答えるなんて思ってなかったので、ちょっとビックリした。私のように、はぐらかすかと思っていた。以前、母親が亡くなったことを話してくれたみたいに、イシタニくんは以前と変わらない態度を示した。イシタニくんも、もしかしたら、もう私が戻らないって思ってるのかもしれない。「アイツは彼氏がいたんだけどさ、俺のせいで別れちゃった。正直、俺、そこまで自分のことを求められたこと無いっていうか。それが、すごく嬉しくてさ。」「そっか…。そういうの、あるかもしれないね。」私は自分の話もした方がいいのかな?って、迷った。でも、その話がB子に行かない保障も無いから、やっぱり躊躇する。いくらイシタニくんが話さないって言ってても。私は、ふふ…って笑った。「何?どしたの?」「ううん。ノロけるな~と思って。」「あ、そっか。ごめん。」イシタニくんが照れ臭そうに笑った。ミラー越しに見えた、その顔に、心が何となく緩んだ。「私はね、ずっと夫のことが好きだったの。でも、勇気がなくて、告白とかできなくて、そのうち、自分のこと好きって言ってくれる人の方に流れちゃった。で、その人と別れて、しばらくしてから連絡を取る機会があって、そしたら、夫も私のことを好きだったって言ってくれて、それ以来なの。大学の頃から。」まあいっか~…って、私もぶっちゃけた。変に隠す必要も無い。「そんなに前からなんだ…」イシタニくんが穏やかに言った。「幸せそうだよね。」「うん。幸せだよ。」私はオナカをなでた。私とノボルの赤ちゃんがポコンと動いて、うん!ママ!って返事をした気がした。「すっかり母親の顔するんだね。」バックミラーを見たのか、イシタニくんが言う。「え?そう?」「うん…」しばらく、お互い無言になって、車の中に曲が響いた。こんな形で、またこの曲を聴くなんてね。私は可笑しい気持ちになった。今では、この曲の歌詞の気持ちがわかる。せつない歌詞だと思っていたけど、あの頃は頭でしかわからなかった何かが、心にジンワリ伝わってきた。嫌な過去だと思ってたのに、苦ささえ懐かしく感じるのは、私が今、幸せだからかもしれない。「俺、アイツと結婚するよ…」イシタニくんがボソリと言った。「そうなんだ?おめでとう!」私は笑顔で言った。イヤミとかじゃなくて、本当に心からそう思った。「イシタニくんも幸せになってね。」「うん…ありがとう…。」イシタニくんは真剣な顔でそう言うのが見えた。次の瞬間、照れ臭そうに笑った。「何か…変だな。やっぱ、ちょっとお別れムードだ。でも、ホント、モリタさんが言うように、復帰できたら戻ってきてよ。またいっしょに仕事しよう?」「うん。ありがと。」こんな日が来ることってあるんだな。私はフッとそう思った。学生の頃、何もかもがどうでもいい気分になったこともあるのに。カッターで手首を切ってみようかと思ったこともあるのに。会社なんてどうでもいいって、思ったこともあるのに。イシタニくんの顔なんて、見たくも無いって思ったこともあるのに…。全部、放り投げてたら、今この瞬間は無いんだな…って思った。そして、今まであった、どれが抜けても、この子はオナカの中にいない。家の前まで来て、私は重いオナカを庇いながら、ヨイショって、大きな花束を持って降りる。「旦那さんにヨロシク。本当にお疲れ様。」「うん。本当にどうもありがとう。」イシタニくんは、私をジッと見て頷いた。「さよなら。」イシタニくんの言葉に、私は頷いて手を振る。車が角を曲がって見えなくなった。私は、しみじみとした気持ちで息を吐いて、家の中に入る。「ただいま~!」「おかえり~!大丈夫だった?迎えに行こうと思ってたのに!」夫になったノボルの心配そうな笑顔が、私を迎えてくれる。その顔を見て、私も嬉しくて笑顔になる。「うん。会社の人がね、送ってくれたの。今までずっとありがとう…って。みんな、戻れたら戻っておいでって、言ってくれたよ。赤ちゃんがカワイくなったら無理だろうけど、って。大変だったけど、ずっと続けてて良かったよ…。」「そっか…。」花束を置くと、ノボルが私の頭を撫でて、良かったね。お疲れ様、って、抱きしめてくれた。ノボル大好き。あ~、私って幸せだな。私の目からまた涙が出てきてしまった。オナカの赤ちゃんも幸せだね!って、ポコポコ動く。オナカさえ重たくなければ、このまま時を止めていたいくらい、心が満たされていた。もうすぐ私の20代は終わる。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月27日
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今日の日記(「コード・ブルー2」感想☆とアウトレットでお買物♪) 「ある女の話:カリナ85(彼の本音)」「ミゾグチさん、結婚するんだってね。」会議室の片付けをしている時に、イシタニくんの低い声が、静かに響いた。「うん。」多分B子から聞いたんだろうな。そう思いながらプロジェクターの電源コードをまとめた。でももう、そんなことはどうでもいいかな…って。思い直した。二人が私のことを話のネタにしてようが、何だろうが。私には関係ない。青山くんと結婚を決めた日の翌日から、耳に青山くんからもらったピアスをつけるようにした。これは、お守り。もうすぐ指にはエンゲージリングをつける。それが、私の気持ちをかなり穏やかにさせた。ずっと戸惑っていたイシタニくんへの挨拶も、笑顔でできるようになった。それは、ささやかなイシタニくんとB子への抵抗だったと思う。最初のうちは、イシタニくんを見ると、何だか胸が騒いだし、痛んだ。まだ呪いがかかってるみたいに…。でも、ピアスが耳にあることを指で確認する度に、そんな気持ちが薄れていくのがわかった。会社でも青山くんがいっしょにいてくれるような気がする。その空気はイシタニくんにも伝わったと思う。ぎこちなかったイシタニくんの態度が、少しずつ以前のものに戻ってきた気がした。そのことに私はホッとする。もう、大丈夫。そう思っていたのに、イシタニくんから話しかけられると、まだ動揺してしまう、自分の心に呆れてしまった。こんなことが時々起こるから、会社を辞めてしまおうって、何度も思ったけど、その度に、この人たちのせいで辞めたくないって思った。何で、この人たちのせいで、私が辞めなきゃいけないんだろう?って。辞めるなら、自分の状況に何かあった時にしたい。そう思って、学生の頃みたいに堪えた。今回も、うまく流せるはず。私は自分に言い聞かせた。また乗り越えられるはずだ!…って。「モリタさんから聞いた。」私は、そうなの?って目でイシタニくんに答えた。「ベップさんから聞いたのかと思った。」イシタニくんは、ちょっと戸惑った顔をした。イジワルなことを言ってるな…って、自分でも思った。私は、もうこの話はどうでもいいって意思を示したくて、片付けの続きをする。「知ってたんだ…?アイツとのこと…」「うん。イシタニくんは、ベップさんと結婚しないの?」何でも無いことのように聞いてみる。すぐに返事が来ない。何で?「…そのうちにね。」「そう。」何か言葉を続けないと、二人のことを気にしてるって誤解されるような気がして、言葉を探すけど、みつからない。早く片付けて、ここからいなくなりたい、って思った。なのに、慌てるとうまくいかなくて、それが変に私を意識させてる気がした。どうでもいいことなのに…。「俺…別に、アイツからミゾグチさんのこと聞き出したこと無いし、ミゾグチさんと話したりしたことも、アイツに言ったことないから。」いきなりのイシタニくんの言葉に驚いた。「なんで…いきなりそんなこと言うの?」「誤解されてたら嫌だな…って思って。確かに、アイツとは付き合ってるけど、そんなに、何でもかんでもアイツに話してるワケじゃないから。」「別に、言い訳しなくてもいいよ。」「言い訳じゃないんだけど…」何て返事を返したらいいのか、わからなくなった。こんな人に、一時でも惹かれた自分が嫌だ!って思うくらい、イシタニくんの顔さえ見たく無いって思ったこともあったのに、今更そんなことを言い出すなんて…困る。「でも…とにかく、おめでとう、って、俺、言いたかった。ミゾグチさんには、いろいろ相談にのってもらってたし、その…幸せになって欲しいって言うか…」胸がズキズキ痛んできた。この場から逃げたい。「アイツとミゾグチさんが仲悪いって言うのは知ってたけど…俺はミゾグチさんのこと、すごく信頼してるし、どんな人かも知ってる。だから、良くないかもしれないなって思っても、相談してきたんだけど…嫌な気持ちにさせて、すごく悪かったって思ってて…」「もう、いいよ!」つい大きな声が出た。そのことが恥ずかしくなって、声を抑えた。「もう、いいから。気にしないで。ありがとう。気を遣わせちゃってゴメンね。」笑顔を作って、沢山の書類と資料を持って、無理やりドアを開ける。その拍子に書類が落ちた。両手が塞がってる私の代わりに、イシタニくんが書類を拾い集めた。「ありがとう…」私を見てることが、わかる。私はイシタニくんの顔も見ないで書類を受け取って、サッサと会議室を出た。心臓がドキドキ言ってた。今さら…そんな、いい人みたいなこと言い出さないでよ。冗談じゃない。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月26日
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今日の日記(週末ドラマの簡単感想☆ ) 「ある女の話:カリナ84(決意2)」朝、自分の街に戻ってきた私は、思い切り深呼吸をした。ただいま。マッシーのところにいたのが、何だか夢のようだ。竜宮城にでもいたような気分。でも、私はまだ一気に歳をとってない。やることがある。ちゃんと。おばあさんになる前にやらなくちゃ。取り返しがつかなくなる前に…とりあえず、朝からやってるバカ高い料金を取る喫茶店に入って、私は朝食を食べた。青山くんは、ゆっくり眠れただろうか?この週末を、どう過ごしたんだろ?ゆっくり休めてればいいんだけど…。 おはようマッシー! 無事帰ったよ~。 でも、家じゃないけど。 これから、この足で、青山くんのとこに行ってきます! とり急ぎ、連絡しました。マッシーにメールを送るとしばらくして、「健闘を祈る!」って返事が来て、私はその言葉を何度も読んだ。励まされる。胸に温かい気持ちが込み上げる。さて、そろそろ行こう!11時。青山くんの携帯に電話をした。「お…はよ…」青山くんは、まだ寝ていたらしい。よっぽど疲れてたんだな~って思った。「ごめんね。11時ならもう大丈夫かと思っちゃって。」「いや、いいよ。助かった!これ以上寝たら、夜眠れなくなるとこだった。」慌てた青山くんの声。あんな別れ方をしたのに、いつも通りなんだと思った。それが、何だか妙に懐かしくて、ホッとする。「返事をちゃんとしたいと思って…会って話したいんだけど、今日、どう?電話の方がいい?」「会おう。今すぐ支度するから!」私は青山くんの最寄り駅前の喫茶店にいることを伝えた。青山くんは相槌を打って、電話を切った。青山くんの様子から、やっぱり返事を待ってたんだと思った。今更ながら、緊張してきた。席に戻って青山くんを待つ。紅茶が、もうぬるくなってた。心が落ち着かなくて、何か違うことに意識を飛ばしたくて、雑誌をバッグから取り出して、パラパラとめくる。青山くんの会社の近くの喫茶店でも、こんな気持ちで、この雑誌をめくったな…そんなことを思い出したら、可笑しくなった。頭の中に入ってくるような、来ないような。雑誌のモデルが微笑む写真を見る一方で、私、大丈夫かな…って考える。まだ、プロポーズは有効なのかな。青山くんは、ケンカの勢いで言っただけかもしれない。でも、私は、いっしょにいたいと思ってる。そのことは伝えないと…携帯が震えた。青山くんが、近くの道で車で待ってることを伝えてきた。さあ、いよいよだ!私は喫茶店で会計を済ませると、指定された道に、青山くんが乗っている見慣れた車をみつけた。慌てて乗り込むと、青山くんはすぐに車を発進させた。無言の、耳をふさぎたくなるような沈黙。自分が緊張してるのがわかった。こんなこと、初めてのデート以来じゃない?私は落ち着かない気持ちを、外の景色を見ることで誤魔化した。車はどんどん高台に上って行く。街の景色が見下ろせた。そして、高台の人気が無い、駐車場らしきスペースに、青山くんは車を停めた。「ごめん!」私が言葉を発しようと、息を吸い込んだ瞬間、青山くんがガバッと私を強く抱きしめてきた。「あんなこと言って…。やっぱり…僕…ダメだ。カリナがいてくれないと、休まんないんだよ。」青山くんの、真剣な気持ちが、私の中に流れてきた。強い想いが、抱きしめられた力と共に伝わってきた。「カリナが僕に必要なんだよ!結婚なんて、してもしなくてもいいよ!とにかく、僕の側にいてくれれば、もう…どうでもいいんだ!」あ…やられたな…って思った。結婚しなくていいって言葉だけが逆で、私が言おうと思ってたこと、全部青山くんが言っちゃった。途端に拍子抜けした。もう~。何だよ、あんな冷たい、生活の現実だけのために結婚しようみたいなこと言ってたくせに。こっちの決心はどうしたらいいの?「結婚しなくていいの…?」私のつぶやきに、青山くんは体を離して、私の目を見て言った。「しなくてもいいよ。こうして会えさえすれば!」「でも、そしたら、倒れちゃうんでしょ?」私はイジワルな気持ちになっていた。自分の、さっきまで思い詰めてた気持ちが、青山くんの気まぐれで無しになっちゃうなんて、何だか許せない。「倒れたっていいんだ!」ぶっ!何言ってんの~!真面目に真剣に答える青山くんに、心が和らいでいくのがわかった。彼のこんなところが、私をありのままの自分にさせるんだろうな…。私は笑い出したい気持ちを堪えてイジワルを続けることにした。「何か私からも欲しいんでしょ?私、何もアオヤンにあげてないんでしょ?」「側にいてくれれば満足だよ。今まで通りでいいんだ。だからもう、結婚とか、考えなくていいんだよ。」「ふぅん…」まったく、冗談じゃない。私のこの思いは、どうしたらいいのよ?無しにするなんて、あんまりじゃない?そうは、させるもんか!って思って、呟いた。「せっかく、結婚して下さいって、言おうと思ってたのに。」さー、どうなの?青山くんは、本当に呆気に取られた顔ってやつをした。正に、声が出ないってやつ。「どうする?やめておく?」その驚いた顔を見て、私はちょっと満足した。も~。私だって、どっちだっていいのよ。青山くんが側にさえいてくれれば。「いや…やめない!やめないよ!やめないって!」青山くんは、私を強く抱きしめた。やった~!って思った。ふふ。大満足…。「仕事、辞めた方がいい?」青山くんは、抱きしめる力を緩めて、私の顔を見た。「どっちでもいいよ。カリナが好きな方で。」「仕事しちゃうと、疲れてご飯作れないかもしれないよ?」「金があれば弁当でも買えばいいよ。」「無かったらどうするの?」「その時は作るしかない。」「やりくり下手かもしれないよ?」「じゃあ、僕が監視する!…って言っても、僕も自信無いから、いっしょに考えよう。」「料理、あんまり上手じゃないよ?」「これから上手になればいいじゃん。僕も上手じゃないし、作れないけど手伝うから。」「ホント?ホントに手伝うの?」「いや…多分…できれば…なるべく…。」どれも自分が何とかするって言わない青山くんに、私は頼り無いな~と思いつつも、可笑しくなって笑った。「自分で作るとは言わないのね。」私の様子を見て、真面目に答えていた青山くんも笑い出した。「結婚する条件が一つあるの。」青山くんの顔が強張った。もう一つだけイジワルしておこう。これ位は、青山くんにガンバってもらいたい。「もう一回。今度はケンカっぽくない、ステキなプロポーズして。」青山くんは、安心したように息を吐いて、真面目な顔をして言った。「お安い御用です!」ペコリとお辞儀をするので、私は嬉しくて、青山くんに抱きついた。青山くんが私の体を、同じように嬉しい!って気持ちの表れみたいに、強く、強く、抱きしめてきた。もう離さない…こうして私は、青山くんと結婚することになった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月25日
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今日の日記(簡単に内容紹介☆「龍馬伝#2」「ブラッディ・マンデイ2(初回)」「左目探偵EYE(初回)」「君たちに明日は無い」「木下部長とボク」) 「ある女の話:カリナ83(決意)」「会いに来て、ホントに良かったよ。ありがとうね。」「ううん。また来てよ。会社サボりたくなったらさ。」私は、あはは!って笑った。「ってか、私もそっちにまた戻るから、その時は遊んでよ。アオヤンにヨロシクね。」夜のバス停留所から少し離れた所で、私たちは何だか名残惜しい気持ちでいた。あれから昼近くまで眠った私たちは、チンタラ支度をして、街へ出かけた。雑貨屋や洋服を見て、夕食に並ぶようなビュッフェレストランに入って、苦しい!って位食べて、デザートに満足して、お土産を買った。もう二人とも、お互い昨日のことは話さなかった。知らなかったマッシーの顔。知らなかった面。でも、また一つ、彼女のことを知ったんだと思った。マッシーの顔に、私はどう映っているんだろう?「マッシー…」マッシーが顔を上げた。「私…自分からプロポーズしてみようと思う。返事じゃなくて、自分から。アオヤン…青山くんに。」マッシーは嬉しそうに笑った。「大丈夫~?」「大丈夫だよ。決めた!でも、もしかしたら、ふられちゃうかもしれないけどね。ケンカっぽくなってたし、ずっと連絡しなかったし。」「そん時は、私がいるじゃん!」マッシーは、私の胸の前に両手を上向きにして出した。私はその手に両手を上から下ろして叩き、交代してマッシーも上から下へ私の手を叩いて、ハイタッチをした。そして、お互い肩を抱き合った。「ヤバイね~。青春じゃん。」「うん。青春だね。」「うまく行くこと祈ってるから!」「うん。祈っておいて!」お互い少し涙が出てたけど笑っていた。「よっしゃ!ガンバるぞ!ガンバれ!」「うん!帰ったら連絡する!」バスに乗り込み、手を振ると、マッシーも手を振り返した。時間になって、バスが出発する。私の乗ったバスが見えなくなるまで、笑顔で手を振って見送るマッシーが見えた。参ったな。別れがせつない。恋人との別れみたいだよ…。車内が暗くなって、気持ちが落ち着かずに、何となくカーテンをチラっとめくると、バスは海沿いを走っていた。昨日より光を増した月の明かりが、黒い海に照り返していて美しかった。自然の明かりだけでこんなに光るなんて…。スゴイな…スゴイ綺麗だよ…この景色を青山くんに見せたいと思った。青山くんは、この景色を見て何て言うだろう?何で今、隣にいないんだろう?いっしょに観覧車に乗った時のことを思い出した。あの時の夜景。年越しをした日、港からの汽笛。繋いだ手を離さないでいて欲しかったこと。いっしょに初日の出を見に行って、心が穏やかな気持ちになれたこと。動物園に映画館、思ったことを言い合って笑った。車の中では、青山くんの好みの曲を聴いて、それが全部当たり前のことになってて、見えなくなってた。彼の隣にいられること。自分が自分でいられること。それは当たり前のことじゃない。全部全部、いっしょにいて、作り出してきた優しい軌跡だったんだ。ねえ、青山くん…まだ、私と結婚したいって、思ってくれてる?私は、こんなに不完全で、頼りなくて、危なっかしいけど、それでも、これからも側にいてくれる?何度も、何度も思い出すから。あなたを大好きなこと、あなたといっしょにいたいこと、あなたを失くしたくないこと…その気持ちだけは、本当だから。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月24日
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今日の日記(ハマった大人の「宿命」と子供の「ヤマトナデシコ七変化」感想と今日の予定☆) 「ある女の話:カリナ82(親友の後悔)」お皿を洗いながら、さっき、みんなでいっしょに食べた夕食のことを思う。まるで、二人の新居に遊びに来た感覚。ホントにそうだったら良かったのに…そして洗い終わると、お風呂にお湯を溜めた。二人は、このままでいいんだろうか…私は、何となく心配な気持ちになって、ため息が出た。運命とか、出会う順番とかって、一体何なんだろう…どうして大事だと思うのに、そのままでいられないんだろう…お風呂から出て、髪を乾かしていると、先生を車まで送りに行ったマッシーが戻ってきた。「おかえり~。良かった。今お風呂から出たとこだよ~。早く入っちゃえば?」「さんきゅー!そうする~!」マッシーがお風呂に入ってる間に、私は布団と酒盛りの準備をした。携帯の電源を入れて、メールのチェックをするけど、青山くんからのメールは無かった。水曜にケンカしたようなプロポーズをされて別れたきり、連絡は一度も入ってこない。あの言葉は本気なんだろうな…やっぱり、私から連絡しなければ、もうこのまま連絡してくる気は無いのかもしれない。別れるつもりでいるのかもしれない…。変な感じがした。ほぼ毎日のように、短いやりとりがあって、それを当たり前のように感じてた。いつもどこか身近に感じてた。だから、いない時も安心していられた。プッツリ音沙汰が無くなるなんて考えられ無いし、考えたく無い。でも、結婚しないなら、手を離して欲しいって言ってた。疲れてるって、言ってた。私たちも、離れたら、お互いの存在を確認できるんだろうか。離れて、必要だと思った時には、もう遅いってこと、取り返しのつかないことがあるかもしれない。それを運命だって、私は受け入れられるんだろうか…「マッシー。先生帰っちゃったの…?」お風呂から出てきたマッシーは、缶ビールを冷蔵庫から出してきた。「うん。」「それで良かったの?」「だって、タッチャンの家、ここじゃないし…」「そうだけどさ…」マッシーは髪をバサバサっと拭いて、ビールをゴクゴクと飲んだ。そして、ウマイ!って言ってから、ドライヤーで髪を乾かした。私は缶カクテルを飲んだ。コレはハズレだな~とか思いながら。「やめようと思ったんだよ…何度も…」マッシーはビールを飲むと言った。「顔を見ると、これが最後かもしれないって、いつも思う。これで最後にしよう…って。でも、離れるとやっぱり会いたくなって、どうしようもなくなる…。誰かと会えば、その時だけ気が紛れるけど、心のどこかでタッチャンのこと考えてる。サイテーだね。」私はつまみをかじるマッシーを横目で見ながら、マズイ缶カクテルをゴクゴク飲んだ。「そのうち別れるよ。ホントに別れる。だって、こんなこと、続くワケないもん。」マッシーはビールをもう飲んじゃったみたいだ。またワインに切り替えた。私ももらう。「ヤダね~。ヤダヤダ。愛人人生だ~。」「やめなよ、そんなこと言うの…」私が言った。珍しくマッシーはヤケになってる気がした。「だってホントのことじゃない?惨めだよ。会いたくてもすぐに会えない。私のせいで、タッチャンが困ったことになったらどうしよう?って、返事が来ないだけでビクビクしてる。でも何で私がビクビクしなくちゃいけないの?ホントは…もしかしたら、私がいたかもしれないのに。私がタッチャンの横にいたはずなのに!」マッシーは顔を抑えた。涙を堪えてるのがわかった。私はそんなマッシーに耐えられなくなって、言った。「いいじゃん!もう、好きなら愛人だろうが何だろうが!ホントじゃなければ、いつか終わりが来るよ!やれるとこまで、終わりが来るまで、納得するまでやればいいじゃん!」マッシーは、私の勢いに押されて驚いていていた。そして泣きながら笑った。「いつも…カリナが言うようなこと考えてるよ…そうじゃなきゃ、時計の針を戻せないか?って…いつも…」私はマッシーの肩を軽く撫でた。マッシーは、ゴメン…って言って、涙を拭った。こんなふうな夜にするつもりじゃなかったのにね。ゴメンね…って。私は首を横に振った。私の目からも涙が出てた。「相手が好きだと思ってなきゃ、愛人にさえなれないよ。結婚してるのに、それでも想われるなんて、マッシーすごいじゃん!すごい愛されてるじゃん。」マッシーは軽く笑った。私はマッシーの髪を撫でて、バカなこと言ってるな…って、思いながらも、ずっと肩を抱いて泣かせたままでいた。そのうちマッシーは泣き疲れたのか眠ってしまった。もしかすると、初めて爆発したのかもしれない…誰にも打ち明けられなくて…私にさえ…マッシーの疲れたような寝顔を見て、そう思った。電気を消して、私も寝ることにした。携帯を見ると、やっぱり青山くんから連絡は無い。ため息をついた。電気を消したら、月の明かりが空を明るく照らしていた。 私がいたかもしれないのに 私が横にいたはずなのに胸に突き刺さった。青山くんにこのまま連絡をしなかったら、私もいつか、同じことを言うかもしれない。あれは、数年後のもう一人の私だ。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月23日
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今日の日記(意外と面白い「エンゼルバンク」(「不毛地帯」)感想と朝は「はなまる」♪ ) 「ある女の話:カリナ81(親友の秘密2)」ノブがガチャガチャと回される音がして、ドンドン!と、強く扉を叩く音がしたので、私は驚きと恐怖でドアから離れた。「カエデ!いるんだろ?俺が悪かったから、お願いだから開けてくれよ!」私は玄関まで走って行ってしまったことを後悔した。きっと足音が聞こえていたんだと思った。外から明かりも見えてたかもしれない。私はどうしていいのかわからずにいた。それでもしばらく、ドアを叩く音と、スギモト先生の悲しそうな声は執拗に続いた。「頼むから、開けてくれよ。開けるまで、ここにいるから…。許してくれるまで、俺、ここにいるから。」そうして音がしなくなった。ホントにまだいるんだろうか?覗き穴からだとわからない。マッシーに知らせようかと思って、携帯を持った途端にまた声がした。「わかった。もう帰るよ。もう来ないから…でも、都合いいかもしれないけど、ホントに俺、カエデのことが…」これ以上、勘違いして言わせちゃいけない!私がドアを慌てて開けると、驚いたスギモト先生がいた。「ミゾグチ…おまえ…どうして…」「ごめんなさい。私…留守番してて…」スギモト先生はバツが悪そうに私を見ていた。私も同じような顔をしていたと思う。「もうすぐマッシー帰ってくると思うんですけど…どうしますか?上がって待ちますか?」「あ、いや、いいよ。車で来てるから、戻って待つよ。」その言葉で、先生は、よっぽどマッシーに会いたかったんだと言うことがわかった。何がマッシーとあったのかわからないけど、会って、ちゃんと気持ちを伝えたいって言う、先生の誠意が伝わってきた。「先生!ホントに?ホントに待ってる?帰っちゃったりしない?」私は慌てたせいで、タメ語になってしまった。急がないと、先生は背を向けて帰ってしまうような気がした。先生は振り返って、「大丈夫だよ。待ってるから。」と、軽く笑った。私は何となくゾクリとした。もう、戻ってこないような空気を感じた。「待って!先生!私、先生と話したい!そんな余裕無いですか?!私とだって、久しぶりじゃないですか!」私は大急ぎで言って、先生を引き止めた。とにかく帰しちゃいけない気がして。先生は立ち止まって私の方を見て、観念したように、こっちへ来た。それで私はホッとした。ヤカンでお湯をわかして、マッシーが昼間家にいる私のために用意してくれていたカップで、コーヒーを淹れた。その合間にマッシーに、先生が来てるってメールを入れた。「悪いな…」先生はコーヒーを一口飲んだ。お互い、一瞬相手を見たけど、何となく気まずくて、テレビの方を見ていた。先生とマッシーは、まだ続いているのかもしれない…それを聞いていいのかどうか、私は迷った。「最低でしょう…俺…」先生はコーヒーを見ながらつぶやいた。「私…何も知らないんです…」先生は私の顔を見た。「先生とマッシーがまだ会ってるなんて、思ってもみなかったし…」私はモゴモゴと呟いて、言葉を探す。「でも、まだマッシーと付き合ってるとしたら…どうして結婚したりしたんですか?!マッシーのこと大事にしてあげて欲しかったのに…」つい、感情的になって、声を荒らげてしまった自分が恥ずかしくなって黙った。先生は、何か考えてるようだった。目がカップの一点をみつめてる。「…自分で思ってたより、自分が弱かった。」先生は、ゆっくりと、落ち着いた声で、口を開いた。「あの頃はグラグラだった。自殺した子…俺に救い求めてた気がする…でも、俺は、気付いてたのに、何とかなるって思ってたところがあって…ミゾグチの時みたいに。生徒たちも、そんなに子供じゃないだろうって。でも、あの子にとって、カエデのような存在は現れなくて。バカだよな。子供じゃないけど、大人でもない。その溝にハマるのは大人になったって同じなのに…。今思うと、オマエたちは結構大人だったんだよな…。」先生は、コーヒーを一口飲んだ。そして話を続けた。「俺は…カエデに支えて欲しいって自分と、教師としてもだけど、男として、そういう弱い自分をカエデに見せたくないって自分がいた。裏切ろうとか、そう思ったつもりじゃなくて、自分から何か言わなくても、今カミサンになったイケダ先生が、スルっと俺の心の中に入ってきて…」苦いことを先生が言い出したので、私は戸惑ってしまう。この前のユウの結婚式の時に、ミキからスギモト先生の相手がイケダ先生だってことを聞いた。デキちゃった結婚らしいってことも。マッシーは顔色も変えずに、へぇ~って興味無さそうに言っていた。その姿が痛々しく感じたけど、私は見て見ないフリをした。「言い訳だよな…。どうしようも無い。カエデには…結婚したく無いことも、周りに謝ってでも、全部無くしてもいいから、彼女と別れるって言ったんだ…。だけど、カエデが…カエデが、子供を殺すのか?って。もう戻れないって。そう言われたんだ。でも、俺はカエデじゃないとダメなんだって、結婚して尚更そう思って。こんなつもりじゃなかったのに…あの頃からもう自分の人生じゃないみたいで…」「もう、いいです…先生…ごめんなさい…しゃべらせちゃって、ごめんなさい…」苦しそうな先生の表情を見て、私まで悲しい気持ちになってきた。「なんだよ、ミゾグチ…オマエ何で…泣くこと無いだろ…」「だって…私、マッシーと先生のこと知ってるし。先生はバカだ!って責めたいけど、苦しいのは本人たちだって、そういうの伝わるから…。それに、私だって同じ立場になった時に、強くいられるかわからない…。」私は顔を上げて、先生の目を見た。「いつも対等に、子供扱いしないで、本音を話してくれる先生だから、だからずっとついてきたんですよ。私も、マッシーも。だから…だから悔しいけど…どうしようもできないことだったんだろうな、って。思うし…わかったし…。でもやっぱり、こんなのって…」私がボロボロ泣き出してしまったので、先生が困ってるのがわかる。でも止められなかった。マッシーは、自分の本物をみつけちゃったのかもしれない。それが初めての恋でなんて、あんまりだと思った。それとも初めての恋だからなのか…本物なら許せると思うって、でも、わからないって言ってたマッシーの言葉が浮かんだ。どんな気持ちで、あんなこと言ってたんだろう…。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月22日
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今日の日記(「曲げられない女」と「まっすぐな男」の違いを思う☆ ) 「ある女の話:カリナ80(親友の秘密1)」鳴ったのはマッシーの携帯だった。マッシーは、携帯を持って台所の方へ行った。引き戸を閉めたので、あまり聞かれたくないんだろうと思った。それでも声が洩れ聞こえてくる。私はその場にあったリモコンでテレビをつけた。部屋が広いワケじゃないから、それでも声は少し聞こえた。そうじゃないってば…後でメールするから…何だろう?職場の人?親しそうだけど、少し深刻な感じがした。「ごめん、ごめん~!」マッシーは、電話の様子と違って、笑顔で戻ってきた。台所とこっちの世界が違うみたいに、スッと帰ってきた感じだった。「ねえ、この人どう思う~?ひどいんだよ~!」私も何もなかったようにテレビの話題をふる。え?何何?って、マッシーもその話に食いつく。そしてゲラゲラ笑う。「電話誰からだった?大丈夫?」「ん、ちょっとトラブっちゃってね。大丈夫、大丈夫。また明日飲もうか~。明日が休みなら、もっとこうしてたいんだけどな~。」マッシーの言葉から、そのトラブルを話すつもりが無いらしいことがわかった。それがちょっと、いつものマッシーと違う気がして気になったけど、私は聞かないことにした。お風呂どうする?マッシー先に入れば?明日仕事だし。私、後片付けしてあげる。わーい!ホントに奥さんみたい!じゃあお風呂溜めてくる~。そんなことを言って、マッシーは洗面所へ消えた。私は後片付けをすることにした。マッシーがお風呂から出ると、私のために、わざわざもう一度お風呂のお湯が入れてあった。ありがとうね~!って声をかけて入る。明日も泊まらせてもらえるみたいだから、土曜の夜か日曜の午前中に帰ろうかな…。自分の中で結婚の返事が漠然としていた。会ったら、返事をしなくちゃいけない。ちゃんと決めなきゃいけないと思う。グダグダ考えてないで、何も考えないで、結婚しちゃおうかな…そんな気持ちがユラユラ揺れていた。出ると布団が用意されてた。パジャマ代わりのスエットも借りて、私達は寝床についた。「ごめんね、仕事で。」「ううん、こっちこそ、突然来ちゃったから。」「でも嬉しかったよ。急に顔が見たくなることってあるけどさ、なかなか行動ってしないじゃない?だからすごくウレシー。」「誰か泊まりに来たりする?」「ん~?時々あるけどね。飲んだ時とか。雑魚寝だったり。うるさかったから、苦情が来そうで心配~!」あはは!って笑った。オヤスミって言って、目をつぶっていたら、昨夜の深夜バスの疲れが出たらしい。ストンと眠りに落ちてた。マッシーが何か言ってた気がしたけど、眠気がひどくて聞こえなかった。目覚まし時計の音で目が覚めた。「おはよー」「はよ~」私は、ちょっとポーっとしていて、マッシーは即座に起きて身支度を始めた。私は自分の布団を上げて、ベッドの上にとりあえずのっけて、ヤカンでお湯を沸かして、パンを焼いて、朝食の用意をした。「さんきゅー。ホントに奥さんみたい。」身支度を整えて、パンをかじりながらマッシーが言う。「ふふ。ホントだね~。」鍵を渡された。「帰る時電話かメールするから~。何かあったらメール入れてね。」「りょーかい!退屈したら、つまんないことメールするかも。忙しかったらスルーしちゃって。行ってらっしゃーい!」玄関でバイバイって、お互い笑顔で手を振る。新婚か?って感じだった。何となく新鮮な空気が幸せだった。会社の時間になって、また休みますってモリタさんに連絡した。週末まで大事とっちゃいます。スミマセン。って。モリタさんは、無理しないで、お大事に~って返事をくれた。こう簡単に休めちゃうと、普段真面目にしてて良かったな~って思う。もうこのまま会社に行くの、やめちゃおうかな~って思う。今までガンバってきたのって、何だったんだろう?って。朝の番組をボンヤリ眺めながら、思った。お皿を洗って、マッシーが用意してくれたジーパンとTシャツに着替えて、近所を散策した。それからスーパーに入って、今夜の夕食何にしようかな~って、作って待ってよう、って思った。コレが奥さんになることなのかも?そんなことを思った。そして、そんな時間を、悪くないって思った。せっかくだから、どこか観光してくる~?ってマッシーに言われたけど、特にそんな気分にならなかった。考えてみれば、平日は仕事で家にいないし、休日は青山くんと外に出ることばかりだったし、会えない日も、誰かしらと会う約束してたり、ショッピングに行ったり。こんなふうに家でのんびりするのは、いつ以来なんだろ?そんなことを思った。昼間には夜にやってるドラマが再放送されてた。ああ、コレ見逃しちゃってたんだよな~。面白かったんだな。来週も観たいな。そんなことをテレビを見ながら考えていたら、マッシーからメールが来た。 7時半には帰れそうだよ♪ マッシー了解!って送って、ニュース番組が始まると、夕飯の準備を開始することにした。お米を研いで、野菜を切って。スープを作った。あとは、お肉を焼くだけにして、私はまたテレビを見た。仕事を辞めて、専業主婦になったら、こんな感じかな…。青山くんは仕事が遅いから、もっと待つようだよな。それなら働いてる方がいいかも。コレが毎日だと飽きちゃうかも。もっといろいろ料理できるようにならなくちゃなぁ…。青山くん、いろいろ手伝ってくれるかなぁ…。住むとしたらどこがいいんだろ?ふとそう思って笑った。何だ…私、結婚する気、結構マンマンじゃない?ピン ポーンインターホンの音がした。え?マッシー?早いじゃん!私はウキウキした気分で、玄関まで急いで走って行き、一応覗き穴でドアの外を見た。そして「嘘?!」と、思った。ドアの外にいるのは、スギモト先生だった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月21日
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今日の日記( 「ライアー・ゲーム(最終回)」「まっすぐな男」の感想☆) 「ある女の話:カリナ79(側にいて2)」波の音が聴こえる。ガラス越しに。「惹かれる…ね。誰かそういう人がいるの?」マッシーの言葉に、私がイシタニくんのことを話そうかどうしようか迷っていると、お店の女性が近付いてきて、皿を下げた。「タッチャンと付き合ってた時も、いい男だな…って思う人は、いたなぁ。でも、付き合ってる時は理性で止まる。って言うか、止めてた。失くしたくないから。」「そんなことあったんだ?」「タッチャンは止められなかったみたいだけどね…。」マッシーは笑ってお水を飲んだ。「失くすかもしれなくても、それでも止められなかったら仕方ないのかな…って思う。止められたら、そこまでの思いだったんだろうし、止められなかったら、もうそういう運命だったんでしょ。」マッシーの言葉にため息をつきそうになった。「マッシーは、そう思うの?」「うん。何があっても、ホントに自分にとって大事だったら、本物だったら…戻るし、許せるものだと思うんだけどね。…いやどうなんだろ?わかんないな。」デザートが運ばれてきた。「美味しそう!」マッシーは言ったことを消すかのように、嬉しそうな声を出した。「ホントだぁ~!」私も合わせて言った。美味しいねって、お互い幸せな顔になる。「私は…マッシーが言うみたいに許せるかわからないよ。だから、自分がフラフラした気持ちになったら、許してもらえないって思うのかもしれない。」私は紅茶を冷まそうと息を吹きかけて続けた。「結婚ってさ…そこまでの自信が無いから…だから、怖いんだよ。その…本物かどうかって、わからないから、だから結婚とか、していいのかな?って思うんだよ。」一口すすっても、まだ紅茶は熱かった。マッシーは何も言わなくて、言葉を探してるように見えた。私は更に思ったことを言った。「私ね、自分に自信が無いの。青山くんが私のどこがいいのかな?って気持ちになることあるし、ずっと同じ気持ちでいられるのかな…って…」イシタニくんに心をかきまわされて、グラグラになってるような自分を見てしまった…もしも、そんなことがなかったら、私は青山くんとの結婚に、こんなに迷ってないと思う。あんなに言い訳をしてなかったと思う。B子とイシタニくんのメールを見てなかったら、もっとイシタニくんに惹かれてたかもしれない…そう思うと怖い。B子の彼だって知ってたら、惹かれたりしなかったって、否定したい自分がいた。それ位、嫌だった。でも、もう惹かれてたんだと思う。だから相手がB子ってことで、尚更、裏切られたみたいで悔しかった。自分にも青山くんがいるくせに。そんな自分が怖かった。「これから先、もっとお互いイイ人が出てくるかも…って、最近思ったりすることもあって…」こんな私よりも…。青山くんといっしょに笑っていた女の子。あの時の青山くんの笑顔。あんな顔、私は最近、青山くんにさせてあげてたっけ?やっぱり私は自分で、いっぱいいっぱいなのかもしれない。青山くんが言うように、結婚すれば、解決するのかな…いっしょに生活を共にするようになれば、もっと、お互いを見るようになるのかな…マッシーはコーヒーを飲んで、カップを眺めていた。何か考えてるみたいだった。私は外の波を見た。店を出てマッシーの車に乗った。「今日の夕飯、家で鍋にでもしよ~か?」「いいね!賛成~!」マッシーと二人であれこれ食材を見て、何鍋がいい?キムチ鍋にする?あっさりポン酢?とかって、スーパーの中を散策した。「あ、コレ新作だ。食べたい~!」私が今だけ限定とかってチョコスナックを入れる。「カリナ、コレ好きだよね?ワイン飲んでいい?」マッシーが慣れたようにビールやらワインやら杏露酒を入れていく。チーズに生ハムにサラミに枝豆に…マッシーは、かなり飲むようになったかもしれないな。なんて、それを見て思った。それにちゃんと自炊してるみたいで、食材の安さとか、ちゃんといろいろ考えて買ってるみたいだった。何だか母親と買物に来てる子供みたいな気持ちになった。変な安心感。後でワリカンにするべ~って、沢山買った。マッシーが車で良かった。って言った。マッシーの家はちょっと広い1LDKで、この辺は家賃が安いから~って言ってた。かなりこざっぱりとしていた。鍋は土鍋が無いから、ホントの鍋だった。カレーとか作るような。「へぇ~、マッシー上手だね~」マッシーの食材を切る手際に感心する。「しょっちゅう作ってるからね~。でも、ほとんど手抜き。」「そうだよね、一人だと何だか作る気なくなっちゃうもんね。」「カリナ魚触れるんだね?私苦手なんだよね、ヌルヌルした感じが…」「うん。お父さんとよく釣りに行ったりしたからね。慣れちゃった。最近は青山くんともね~。こないだは赤木くんもいっしょだったよ。」「へぇ~、赤木くん元気?」「うん。もう女の子連れてこないよ。何だかね~。でもちょっと怪しかった。」「何?怪しいって?」「何か、好きになっちゃいけない人を好きだったみたいな~」「え?そうなの?」「ううん、よくわかんない。話、逃げられた。」マッシーはアクを取りながら笑った。「いろいろありそうだよね~、彼は。」「そうだよね~、彼は。」二人でクスクスと笑った。鍋敷きに鍋を置いて、ポン酢を用意して、即席鍋が完成した。マッシーがビール、私が杏露酒のロックを持って乾杯する。「結婚のことならさ~、ユウに聞くのがイイんじゃない?それかユウカちゃんは?妹だと聞きにくい?」「あ~、ユウね。うん、前会った時に公園に慣れないって言ってたよ。子供連れて行くと、そこが社会みたいな。いろんなお母さんいるみたい。馴染めなくて、会社辞めなきゃ良かったよ~、なんて。保育園って、仕事続けてるんじゃないと入るの大変みたいでさ。そんなに慌てて結婚しなくても良かったかなぁ~、とかって言ってたよ。ユウカは、甥っ子がヤンチャで大変みたい。同棲してデキちゃった結婚だから迷いとか聞いたこと無いけど、言えないのかな。まあ実家にも、あんまり来れる距離じゃないし。でも、どっちも、やっぱ生活って感じだなぁ~。」フーフー冷ましながら、豆腐を頬張る。「結婚って現実だね~」マッシーがしみじみ言った。「そうだね、現実なんだよね~。」「なんかさぁ、もう結婚したら、恋のモヤモヤって言うか、もう他に誰かを好きになったりとかして、悩んだりしなくて済む気がしない?帰りたくない!って思っても、ずっと離れなくていいよね。自分だけのものって言うか。それにアオヤンって浮気しなそうだよね。」マッシーは魚をポン酢につけて、頬張る。「ん~、私もそう思ってたよ。でも、結構、意外と、何してるか、わかんないものじゃない?」私はニラとキャベツと鶏肉を取って、ポン酢につけた。「え~、何で?」「だって、女の子とイチャイチャしながら会社から出てきたんだもん。」私は杏露酒をゴクリと飲む。体がホカホカしてきた。舌も、かなり滑らか。「うそっ?!アオヤンが?!」「そーだよ~、肩なんか叩かれちゃったりなんかして、喜んでニヤニヤしてたんだから。」「うわ~、想像つかないね。」「でも、会社の同僚と、ちょっとふざけてただけみたいなんだけど。本人もそう言ってたし。そしたら、私がそれ見て怒ってるんだと思って、結婚しようとかって言い出すし。」「え?その流れなんだ?!プロポーズ、その流れなんだ?」あはははは!ってマッシーが爆笑しだした。私も何だか可笑しくなってきて笑った。「そーだよぉ~、色気も素っ気も無い~。このままだと疲れちゃうから、いっしょに暮らしてくれって。同棲できなきゃ結婚しようってさ~。つまんない~!現実過ぎて、つまんない~!」マッシーはオナカを抑えて笑い転げた。アオヤンって、そんなプロポーズなんだ?!何、疲れるからって?意味不明~!で、女は?何ソレ?スゴイ誤魔化し方~!あはは、あは、あははーっ!!!とかって。目には涙まで浮かんでた。何だか自分が悩んでることがバカらしくなってきた。そうだよ~。現実ってこんなもんなのよ~。わかってたけど、だってさ。ちぇーっ、…なんて言いつつ、何だか可笑しい。こうしてマッシーが笑っていると、私の悩みは、ホントに幸せな悩みなんだな…って思った。「いいじゃん、いいじゃん、ドラマチックじゃないかもしれないけど、アオヤンって感じで~。いやでも、何かスゴイね!女の子と誤解されたのが嫌だから結婚とか言い出したのかなぁ?」「えー?そうなのかなぁ?何かトンチンカンだと思ったよ。何いきなり言い出すの~?って。こっちが怒ってるのに、逆ギレっぽかったし。こっちはアオヤンなんか嫌いだって言ったのにさぁ」マッシーは残ってたビールを一気飲みしてしまった。そして冷蔵庫からワインを持ってくる。「はいはい。ごちそーさま。あ、残ったら、これで明日お味噌汁にしちゃおう。美味しいよ~!なんかも~、オナカいっぱいなのに、何かつまみたいなぁ~。サラミ切ってこようかなぁ~。チーズはさんで~。お菓子も食べようかなぁ~。太っちゃうなぁ~。」「何よ、マッシー、聞いてよぉ~!」「聞いてるよ~。ったく、幸せなノロケ話じゃん。まったくねぇ。結婚しちゃえば?ゴチャゴチャ考えて無いで。言われてるうちが花だよ~。」「だって~。えー、そうかなぁ?やっぱ、ゴチャゴチャ考えてる?考え過ぎ?私、結婚しちゃっていいのかなぁ~?」イシタニくんのことを打ち明けちゃおうかと思った。真面目に。マッシーなら、何か答えてくれるような気がした。そして、何でも無いことだって、笑い飛ばしてくれる…。その時、電話の音が部屋に響いた。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月20日
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今日の日記(「コード・ブルー2」感想と今日はクタクタ~☆) 「ある女の話:カリナ78(側にいて1)」私はチケットを買って、指定された席をみつけて座った。平日だけど、結構人が座っていた。私の隣は特に誰も座りそうになかったのでホッとした。席に着くと、送ったメールを確認した。 マッシー元気? いきなりだけど、会いたいです。 明日そっちに行ってもいい?無理かな? 少しでもいいから会う時間無いかな? カリナ ウソ?!こっち来てくれるの? 嬉しい! 予定は? 私も会社休んじゃおうかな~! マッシーバスの行き先のせいで、マッシーの顔をどうしても見たくなってしまった。いきなりだから、無理かと思っていたけど、やっぱり会いたくて。メールの返事がすぐ帰ってきたことで、私は浮かれた。 今バスに乗ったとこ。 ほんと、バスだと安いね! そっちには朝の7時頃着くみたいだよ。 着いたらまた電話するね! カリナ 了解!楽しみ~! マッシーバスの明かりが消えて、私は眠ることにした。今だけでも全てを忘れたい。もう疲れた。時々止まるパーキングや、バスの揺れで眠りが浅かった。それでも、ああ眠ってたんだなぁ~と思ったのは、到着地に着いてからだ。「カリナぁ~!!!」駅のロータリーで車から手を振るマッシーが見えた。その笑顔に、私の顔も自然と笑顔になる。マッシーの車の助手席に座ると、何だか緊張した。久しぶりだからかもしれない。でもマッシーは変わらず、昨日も会ってたかのように言った。「何かあった~?」「ん~。何で?」その調子に私も心がいつものように戻る。「荷物それだけ?会社帰りにブラリと来たって感じにしか見えないけど。」私はマッシーの鋭さに誤魔化すように笑う。「うん。実はそう。こんな簡単に会えると思わなかったから。メールの返事が来たから、すぐバスのチケット買って、出発までに適当に必要な物だけ買ってさ。あ、でもお土産は買ってきたよ!」はい、コレ。って紙袋を掲げる。いつも行くメゾンのお菓子。デパートの閉店ギリギリに買えた。「ふぅ~ん、やるねぇ。でもまあ、貸せるものは貸すから、心配無い無い!泊まれるんでしょ?」「え?いいの?!」マッシーは呆れたように笑った。私も笑う。「会社、カリナが大丈夫ならね。ただ、私が明日はどーしても仕事行かなくちゃなんだよ~。どうする?」「マッシーがいいなら泊まる。泊まりたい!」「じゃあ決まりね。どっか行く?このままうちに行く?」「マッシーが普段行ってるとこに行きたいなぁ。」マッシーの子供になったみたいに、つい口調が甘える。「じゃあ、あそこ寄ってみようかな。海見る?」「いいね~。」途中でコンビニのオニギリを買って、二人で車で食べた。そこでお互いに会社に休みの連絡を入れた。風邪ひいちゃって…とか何とか。携帯の向こう側では、いつもの会社の風景があるんだと思うと、何だか変な感じがした。それからマッシーは、しばらく車を上手に運転して、海沿いのレストランの広い駐車場に車を止めた。レストランのランチ営業までずいぶん時間があったので、私たちは降りて砂浜を歩くことにした。ガラス張りで海が眺められそうな感じの素敵な店で、私はウキウキした。フンパツしちゃおう!ってマッシーが言った意味がわかった。「会社、大丈夫だった~?」「うん。何か電話が遠いとかって言われて焦ったぁ~!」「仮病って勘付いてるかも?」「かもね~。」私達は笑った。私の方は、昨日、私の様子が変だったからか、モリタさんは具合が悪いことをスンナリ受け入れて、大丈夫?って心配そうな声を出した。なので、ちょっと罪悪感で胸がチクチクした。昨夜、母親にかけた電話より、何だかもっと悪いことをした気分になった。親には、休みが急に取れたから、マッシーのとこに行くって言ったけど、想像したよりも簡単に、自由でいいわねぇ~って言われただけだった。妹が同棲した時も、その相手とデキちゃった結婚になった時も、すごい騒ぎだったのに…。親は、意外と免疫がついちゃっていたのかもしれない。考えてみれば、結局妹の時だって、親は最後には味方になってたんだ。私がただイイ子でいたくて、親に甘えていたくて、家に残っていただけで…。青山くんに親のことを言い訳にしたことが蘇って、何だか胸が痛かった。週末にはプロポーズの返事をしなくちゃいけない。連絡をしなければ、それでバイバイ。今までいっしょにいた時間は何だったんだろう?ため息が出た。「こっちの海ってキレイだね~」「でしょ~?」マッシーが笑う。店内のガラス越しに見る景色は、いい天気で、波に日の光がチカチカと反射した。シーズンオフと時間のせいか、人が遠くにカップルと犬の散歩をしているのが見えただけだった。店内も私達の他に二組。「マッシー、お見合いっぽい人とどうなった?」私は自分の話をいきなり話せなくて、マッシーに話をふった。「ん~?」マッシーはお肉を頬張っていたので、しばらくそれを噛んで、飲み込んでから口を開いた。「イイ人だね~。イイヤツって言うのかなぁ~。」マッシーの口調から、その人とかなり仲良くなってる気がした。それからマッシーはお水を飲んで、肉を切りながら話を続ける。「友達みたいになっちゃったって言うか、私がそうしちゃったのかもしれないけど、時々いっしょに出かけたりしてる。まだ男と女の関係になってないから、緊張感があって、時々ときめいたりする。でも…」そこでマッシーは次の肉を頬張った。言葉を選ぶようにお肉を見ながら噛んでいたので、私もお肉をモグモグ噛みながら、次の言葉を待った。波がザンザン言ってるのが見える。話を忘れられちゃいそうな間だったので、続きを促した。「でも?」「もしも、私が…タッチャンと付き合ってなかったら、多分、ん~多分だけど、もっと男としてのめり込んでた相手だと思う。もしかすると、男としてもっと意識してたかも…。けど、タッチャンのことを知ってるから、タッチャンとの付き合いを思い出しちゃうから、何だか一歩が踏み出せない。うまいこと、かわしちゃう。」私は少し驚いた。マッシーの中では、まだスギモト先生が残っていたんだ…って。二人が別れてずいぶん経ってたし、いろんな男性との出会いもあったと思うし、今日までマッシーがスギモト先生のことを口にすることなんてなかった。「まだスギモト先生のこと…好きなの?」マッシーは、泣きそうな顔で笑った。ん…まあ…って、大人みたいな笑顔をしながら、私から目を逸らした。「出会う順番ってあるかもね…」私は言ってパンをちぎった。「最初にイイ出会いしちゃうとダメだね。どうも比べちゃう。」「失くしたから…ってことは無いの?」「カリナはどう?」「ん~、今のとこ無い。でも…」私はパンを一口食べて、考えながら飲み込んで言った。「青山くんを失くしたら、同じように思うかもしれない。」マッシーは、ちょっと笑顔を見せた。「青山くんが結婚しようって言うんだよ。」私が言うと、マッシーが嬉しそうに、感慨深そうに言った。「そっかー、いよいよかぁ~。おめでと~。」私は、言っていいか考える。自分の本音を。「どした…?何でそこで黙るの?」「失くしたく無い人がいるのに、他の人に惹かれることってある?」前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月19日
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今日の日記(「特上カバチ!!(初回)」感想とガス漏れ?) 「ある女の話:カリナ77(プロポーズ)」今青山くんは何を言ったんだろう?突然のことで頭が真っ白になった。結婚?結婚って、どうしてこの状況からそうなるの…?何て言っていいのか、全くわからなくなった。でも青山くんは淡々と話を続ける。「ボクは今仕事でとっても疲れてる。今だって、ようやく仕事に一段落したら、部署の飲み会だ。あの女の子は遅いから呼びに来たんだよ。先輩の婚約者だ。でさ、こんなふうに、カリナが突然来ても、ボクはカリナを追ってしまう。そんなんでいいと思う?どっちも大事だから、今までだって無理してたんだ。本当は、会社の休みは寝ていたい。でも、カリナの側で寝てたいんだよ。わかる?」メチャクチャなことを言ってると思ったけど、言ってることは、とても伝わってきた。無理してた…その言葉が私を打ちのめす。好きだから無理してる。今も無理してる。わかる…わかるけど…わからない。私が無理をさせてたの?そんな要求をしてたって言うの?じゃあ、どうすれば良かったって言うの?こんなことを言い出すからには、青山くんは、かなり我慢していたのかもしれない。だから結婚すれば解決するんだろうか?ますます私の頭がこんがらがって行く。青山くんは続ける。「カリナがボクを嫌いなら嫌いでいいよ。結局ボクがカリナを好きってことなんだ。このままこんなこと続けてたら、ボクはぶっ倒れる。仕事とキミに挟まれて、確実に倒れる。ボクのことが嫌いなら、もう手を離してくれ。でも、ボクが好きなら結婚しろ。ボクのためにいっしょにいて、側で怒ったり泣いたりしてよ。」青山くんは言いたいことは全て言い終わったらしく、一息ついた。プロポーズ…?コレは、キレたからなんだろうか?それとも真剣な話なんだろうか?口調だけは冷静な青山くんの言葉に、真意が計れない。「いますぐ返事しろなんて言わないから、帰ってよく考えてよ。ボクはこれから部の飲み会がある。戻らなきゃいけない。ほら、行くよ。」青山くんは私の手を握った。そして強引に駅方面に歩き出した。私の顔を見て言う。「ちゃんと考えて、週末にでも返事聞かせて。」引っ張られるままに私は歩いた。青山くんの言葉を思い返しながら。答えがすぐに出て来ないのは、私が青山くんを愛して無いからなんだろうか?ううん、そうじゃないと思った。「どうして…?そんな急に焦るの?」こんなにいきなりなことを言うのはどうしてなのか、私には、さっぱりわからなかった。わかるのは、いつもの青山くんじゃないってことだ。だとしたら、コレが本来の青山くんなのかもしれない。もう何年も付き合ってきたのに、青山くんも初めて感情を剥き出しにしたんだと思った。「急でもないし、焦ってもないよ。気付かなかっただけじゃないの?ちょっとはボクのこと考える時間ある?カリナは自分でいっぱいいっぱいでしょ?」「そんなふうに思ってたの?」「違うの?」青山くんが私の目を見る。コレが青山くんの本音なんだ…。私だって、青山くんに無理させてたこと、何となくわかってた。でも、何で今なの?だから、大丈夫なの?って、いつも気遣っていたつもりだったのに。そんなこと、全く青山くんには伝わってなかったんだろうか?悲しい気持ちが広がって行った。ズルイよ、青山くん。今更無理してたなんて。そんなに本音を出したら私が離れて行くと思ってたの?お互い心を剥き出しにしたら、こんなふうに傷つけ合うだけなんじゃないか、って。それが怖くて、思いやりって言葉で蓋をして、本音を押し殺していただけだったなんて…。「じゃあ、ボク行くね。」駅に着くと、突き放したように青山くんが言った。「行っちゃうの…?」こんな気持ちで別れたく無い。なのに青山くんには伝わらない。こんな冷たいプロポーズ、いらないと思った。「連絡待ってるから。」「結婚するか、しないか…しかないの?」「もうそうするしかない。」「脅しみたいだね。」「そう思ってもいいよ。それ位、疲れてるんだ。いっしょに暮らして欲しい。じゃないと、側にいられそうもない。」「結婚って…そんなふうに決めるものなの?」私は悲しかった。結婚って、もっと幸せな気持ちで考えるものだと思ってたから。「結婚は形式じゃないだろ。じゃあ、ただいっしょに暮らす?ボクは家を出たっていいよ。」理想じゃなくて、現実の、生活の話なんだって思った。青山くんは現実を覚悟して言ってるって。だから同棲じゃなくて結婚って言ってるんだって。「それは…無理だと思う。親が許さない。」「だったら手を離せよ。ボクは何のために必要なの?ボクを必要だとしても、側にいるしかできない。でも、ボクにだって何か与えてよ。ギブアンドテイクだ。」「取引みたいだね。」「そうかな?ボクはカリナのこと、ずっと大事にしてきたつもりだよ。伝わらなかった?」青山くんは悲しそうな目をしていた。青山くんの体調より親へのメンツを重んじてる言葉のせいで、傷つけたかもしれない。ホントはそんなこと理由じゃない。そんなことはわかってる。でも、こんな気持ちで承諾できない。できるはずが無い。去って行く青山くんの後姿を眺める。消えてしまってからもずっと。待って!そう思ってるのに、私はその場に何もできずにしばらく立っていた。今、青山くんを追っても同じことだろう。私がどちらかに決めない限り。どうしよう…って考えて、その先にバス停の明かりが見えた。私はフラリと、そのバスにどうしたら乗れるのか乗務員に聞いた。このバスに乗れば、解決できるような気がした。私のこのモヤモヤした気持ちも、全部。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月18日
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今日の日記(阪神・淡路大震災「神戸新聞の7日間」の感想とリアル曲げられない男) 「ある女の話:カリナ76(ケンカ)」女の子は笑いながら、嬉しそうに青山くんの肩を叩いた。カワイイ子。青山くんもそれを笑って受け入れている。とても楽しそうに…鼓動が早くなった。目の前で起こってる光景が何なのかわからなかった。自分だって、青山くんのことを裏切ったくせに、さっきまで、青山くんを自分に縛り付けておいていいのかな…なんて思っていたくせに、いざ、こうして楽しそうに女の子と話している青山くんを見たら、私だけの青山くんじゃないんだ、って。青山くんだって、他の女の子と楽しくできるんだ、って。苦しくて、悔しい気持ちが沸きあがっていた。視線が青山くんと女の子で固まっていると、青山くんが私の方を向いて、目が合った。青山くんが慌てたように、女の子に何か謝るような仕草をして、道路のこちら側へ来ようとしてるのがわかった。嫌だ。何やってるんだろう、私。私はようやく事態に気がついて、青山くんから逃げるように反対側に歩き出した。最悪だと思った。こんな私、みっともない。でも何だか止まれない。ただの、会社の同僚と、しゃべってただけだと思うのに、それでも嫌だと思った。そんな自分が無性に嫌だった。私だって。私だって。私だって。心の中にイシタニくんとB子のメールが蘇る。あんなふうに青山くんが私を思ってくれることなんて、この先あるの?だって私、そんなこと望んじゃいけないんじゃないの?イシタニくんのキス楽しそうに女の子といる青山くん頭の中がグチャグチャになっていた。「待てよ!カリナ!」青山くんが私に追いついた。「どこに行くつもりだよ?」「わかんない。わかんないけど…」「とりあえず止まってよ。」「嫌よ。」「何で?」説明できない思いに、足はどんどん前に進んで行く。青山くんが無言で私の隣を歩いていたけど、いきなり腕を強く掴まれて、引っ張って行かれた。「離してよ!どこ行くのよ!」「どこだっていいだろ別に。道路で言い合いするよりマシだ。」腕を握った力の強さとは逆に、冷静な声で青山くんが言った。それが私をゾッとさせた。本気で怒っているのがわかった。こんな青山くんを見るのは初めてだ。でも、私の感情も止められない。「痛いってば!」公園の中に連れて行かれて、青山くんの手の力が緩んだ隙に、腕を振り払った。「ごめん…。」青山くんに謝られて、バツが悪くて、外灯が照らした足元の影を見ていた。「何だよ、一体。急に来て、何怒ってる訳?」「怒ってないよ。別に。」「怒ってるじゃないか。」青山くんに怒ってるワケじゃない。自分に腹が立つだけ。それを青山くんにぶつけてる自分が、心底嫌になっていた。でもそれを説明できない。「よくわかんないよ。定時だって言うから、私今日、出張で直帰だったから、会社の前で待ってたら出てくるかな…って思っただけ。驚くかなって思っただけ。」「充分驚いたよ。」脱力したように青山くんが言った。困らせてるんだってわかったけど、自分の中にある何かが止まらない。「そしたら、女の子とイチャイチャしながら出てくるじゃない?どうしていいか、わからなくなっちゃったのよ。」口から出た言葉に恥ずかしくなった。イヤミっぽい口調。責められる立場じゃないのに…バカみたい。「そしたら逃げるんだ?」「逃げたんじゃないわ。足が勝手に動いたのよ。」「怒ってるんじゃないの?」「わかんないわよ。何だか、楽しそうにしてるアオヤンたち見たら、イライラしちゃって…。」言いながら、ああもう!って思ってた。青山くんのせいじゃないのに…こんなこと言うつもりじゃなかったのに…そんな私の気持ちを見透かしたように、青山くんの顔から笑みが漏れていた。こっちがこんなにグチャグチャな気持ちなのに、余裕を浮かべる態度に、ついムッとした。「何よ。何が可笑しいワケ?」「そんなにボクが好きなんだ?」カッと頭に血が昇った。「もういいわよ!帰る!」「帰るの?」「そうよ!もうアオヤンなんか嫌い!」私は何をしてるんだろう。元はと言えば、自分が悪いのに、子供みたいな捨て台詞を吐いて、帰ろうとする自分を滑稽だと思った。同時に、青山くんの前で、ここまで感情を高ぶらせてしまったことなんて、今までなかったんじゃないかと思った。心のどこかで本当に、もういいって思う。嫌われたって、もういいって。もう、こんな私、嫌っちゃってよ!って。「そうか。いいよ。わかった。」呆れたような青山くんの声に、私は傷ついたような気持ちになって振り返った。「ボクのこと、嫌いなんだね?」「そうよ。大嫌い。」「ほんと?」「ほんとよ。」青山くんは大きく息を吸って、真っ直ぐに私を見て、言った。「じゃあ、カリナ、ボクと結婚してよ。」前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月17日
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今日の日記(「宿命1969-2010(初回)」と「ヤマトナデシコ七変化(初回)」感想とお正月名残惜しい☆ ) 「ある女の話:カリナ75(知りたく無いこと2)」体がガクガク震えそうになるのがわかった。それを必死で止めた。鼓動がずっと耳元で聞こえて頭の中で響いている。目がずっとメールの文を追う。そんな…嘘だよ。嘘だ…。目の前に書かれていることを信じたくなかった。私が大嫌いなB子とイシタニくんが付き合ってたなんて。よりによってB子だなんて。読めば読むほど、これが本当のメールだってことがわかった。イシタニくんが相談していたことと重なる。そして、何より私を強く打ちのめしていたのは、二人が、かなり強く愛し合っていると、文から感じたことだった。悲しい気持ちと、苦しい気持ちと、悔しい気持ちが一気に私から溢れ出て、私の心を支配してしまった。イシタニくんは何事も無く、これから先も、B子とこんなふうに熱烈に愛し合っていける。だけど、私だけが呪いにかけられて、何かが変わってしまった。私が青山くんとこんなふうに、何も無かったように愛し合っていけることは、もう絶対に無いんだ…メールをもう一度スクロールさせて読んで、メールボックスを閉じた。何も考えたく無くて、仕事のデータファイルを開いて、持っていく資料と見合わせて、チェックした。指がキーを勝手に打って、機械的な作業が終わると、電源を抜いたように力が抜けて、キーボードの上で手が止まった。「ミゾグチさん…?」声で我に返って振り向くと、モリタさんが心配した顔で私を見ていた。「どした~?固まってたよ?何か…顔色悪いなぁ。大丈夫?」「あ…大丈夫です!終わったんで、見てもらえますか?大丈夫なら行ってきます。」私はプリントアウトした資料をモリタさんの席に持って行った。よし、オッケー!って言われて、私は資料を持って会社を出ることにした。モリタさんがヨロシクね~!と手を上げた近くで、黙々と席で仕事をするイシタニくんの背中が見えた。隣の課で、B子が私には使うことの無い甘ったるい声で、電話の応対をしているのが目に入ってきた。気持ちが悪くなって、トイレに入る。吐き気がする。私がイシタニくんに話していたことが、過去付き合っていたミツルのことや、青山くんのことが、もしかしたらイシタニくんの口からB子に話されていたかもしれないと思うと、やりきれない気持ちが襲ってきた。そういえば、私はB子のこと話してしまってなかったっけ?朝、B子に謝りに行って、追い返されたのはイシタニくんなんだ…あの時のイシタニくんの様子が蘇る。私のことも、B子との話題作りのために探っていたのかもしれない。苦しくて、吐きそうになってしまったことで、涙が出た。それを拭って、化粧を軽く直す。顔が泣いた後みたいで嫌だった。泣きたくない。充血した目と、少し赤くなった鼻を見て思う。あんなヤツらのために泣きたくない。だけど…移動中、ずっと彼らのことが頭の中をグルグル回った。取引先に着いて、資料を渡して、細かい指示を伝えて、モリタさんに終わったことの電話を入れた。多分、電話に出たのはイシタニくんだと思う。「あ、お疲れ様でーす。」いつも通りの口調に、腹が立つような、泣き出したいような気持ちになった。保留音の後、声がモリタさんの声に変わった。「体調どう?気分悪そうだったけど、大丈夫?コレで一段落したし、ちょっと早いけど、リフレッシュして帰るといいよ。お疲れ!」その軽快で穏やかな声にホッとして電話を切る。電車に乗って、そのまま近くにある青山くんの会社へ向かった。早く青山くんの顔が見たかった。定時だとしたら、あと1時間くらいで出てくるはず…。本屋でファッション雑誌を手に取るけど、頭に入ってきそうも無い。私はレジでその雑誌の会計を済ませると、青山くんの会社近くの喫茶店に入った。そこで雑誌をペラペラとめくって眺める。現実から逃れたくて、この服いいな~って思ったり、こんな高いバッグやアクセ、ホントにみんな買ってたりするのかな?って、ボンヤリ思いながら、一方で、あることを考えていた。このまま、青山くんと、裏切ったことを無かったことにして、いっしょにいていいのかな…そんなことを。もう元に戻れないかもしれないのに、青山くんを騙すように、何も無かったことにしていいのかな…。自分のエゴで、青山くんを私に縛り付けていいのかな…そう思った。もうすぐ定時の時間だと思って、私は頃合を見て喫茶店を出ると、青山くんの会社に向かった。会社の出入口からは沢山の社員さんが出てくるのが見えた。でも青山くんは出てこない。そのまましばらく待った。誰も出てこなくなって、しばらくして気付いた。もしかしたら定時だとしても、出張先からの直帰だったのかもしれない!?慌てて携帯を取り出そうとした時、出入り口から楽しそうに会話をして出てくる男女が見えた。男の方は、青山くんだった。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月16日
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今日の日記(「エンゼルバンク(初回)」ネタバレ感想☆と朝からイケメンな「はなまるマーケット」♪) 「ある女の話:カリナ74(知りたく無いこと1)」翌朝会社に出ると、出勤してきたイシタニくんと目があった。「おはよーございます。」いつもの笑顔は無くて、何も無かったようにイシタニくんが言った。胸がズキリと痛んだ。「おはよーございます。」私も何もなかったように言って、笑顔まで作って通り過ぎる。今までと何も変わらないようにしようって思っていたけど、忘れようって思っていたけど、イシタニくんの方からそうされたことで、こんなに悲しい気持ちになるなんて、思いもしなかった。それだけじゃなくて、これから先も、あんなふうに笑顔も無い挨拶が続くかもしれないと思うと、ますます気持ちが滅入った。「今日、第一会議室で報告会しちゃうから、朝礼終わったらヨロシク!」モリタさんが大きな声をかけてきた。はい!って返事をした。いつも通りに。朝礼が終わると、私の目の前を会議室に向かうモリタさんとイシタニくんが歩いていた。二人の会話が聞こえてくる。「モリタさん、すみませんホントに…。あの後、奥さん大丈夫でした?」「ホントだよ全く。あ?もしかしてそれでヘコんでんの?嫁さんが、気にしないでまた来てね、って言ってたよ。でもさ~、ヴィトンのバッグよろしくねって言うんだよ。誕生日前だから、ねだりやすくしちゃったよな~。」笑いながらモリタさんが振り向いた。「聞いてよミゾグチさん!コイツ、あの後ベロンベロンに酔っちゃってさ~、終電逃したから、うちに泊めてやったの。大変だったんだよ、ホント!」あ、それであの挨拶だったの?みんなにだったんだ?と思って、私は少しホッとする。でも、イシタニくんが返した一言が、私を一気にどん底に突き落とした。「すみませんホントに…。俺、何も覚えてないんですよ…。」一瞬、目の前が真っ白になって、心臓を掴まれたように、さっきより胸がズキリと痛んだ。同時に、嘘だ!って、叫びだしたくなった。悲しい気持ちと悔しい気持ちが沸いてきた。私だけが今までと違ってしまったんだ…そう思った。せめてイシタニくんにも記憶があって、同じように罪悪感があれば、私も救われたかもしれないのに…。そう思うと、泣きそうになった。でもいっそ、私も何もなかったって、強く忘れようって思った。お互い忘れれば、現実何もなかったんだ。そう思うのに、何でこんなに悲しくて、苦しいんだろう。昨日は、あんなに青山くんのこと、失くしたくないって思っていたのに…。その日は自分の全てから、何かが抜け落ちた気持ちで過ごした。一日が終わると、助かったような気持ちになった。何から?よくわからないけど。その日から時々目がイシタニくんを追っていて、目が合ったことで、追っていたことに気付いて目を逸らした。何をやってるんだろう…って思った。それでも、私がふと視線を感じて目をあげると、イシタニくんと目が合って、逸らされた。こういうの、マズいんじゃないかな…って思った。何がどうマズいんだか、わからないけど。まさか記憶が無いって、嘘じゃないよね?確かめたくなるけど、確かめてどうしようって言うんだろう…あれから二人での仕事が無いことが、せめてもの救いだ。派遣のイトウさんとランチをする機会が増えて、席に戻る前にトイレに寄った。最近、また溜息が多くなった。職場に戻るのが辛い。個室から出ようとした時に、洗面所に誰か入ってきた音が聞こえた。「ダンナの実家、広いんだよね~」それはB子の声だった。B子グループが洗面所にいるんだと思った。「すぐ結婚しちゃうの?」「ううん、まだそこまで話は行ってないけどね。多分結婚したら、仕事やめないといけないかもなぁ~。ダンナ、働かないで家にいて欲しいって人だから~。」「そう~?そんなふうに見えないけどね。」「だって子供好きだもん。二人か三人は欲しいって言ってたし。」「でも、そう考えると、そろそろって思うよね。」そう言いながらB子グループは化粧直しが終わったのか、声と足音が遠ざかって行った。私はホッとして個室を出た。ダンナって言うのは、B子が彼氏のことを言う時に使う呼称だ。もしかしてB子が寿退社してくれるかもしれない。そう思うと少しホッとした。この前の異動で、A先輩もいなくなっていたし、B子だけが、私の居心地を悪くしていたのは確かだった。机に戻ると、私が戻るのを待っていたのか、モリタさんが声をかけてきた。「あ、ミゾグチさ~ん!もう用意できてるかな?チェック終わったら行ってきて大丈夫だから。直帰でいいよ。」「わかりました~!」つい声が明るくなる。私って嫌なヤツだな~って、心で少し思ったけど、気分はハズんでいた。昼休み前に、「今日は早いの?」って、”いつもお世話になってます”ってタイトルをつけて、青山くんにメールを送っていた。お使い出張の帰りに、いっしょに夕飯でも食べられないかな~って思っていた。そしたら、このことも報告したい。私が嫌なヤツだってことの報告になっちゃうかもしれないけど、それでも何でも、嬉しかったことは青山くんに話したかったし、青山くんの顔が見たかった。パソコンを立ち上げると、受信メールボックスに変なメールがきていた。「TEST」って書かれている。アドレスに見覚えは無くて、@マークの下の方を見るとうちの会社名だ。変なウィルスじゃないよね?添付マークも無いし、もしかしたら、誰かがアドレスを変更したのかもしれない。誰からだろう?それを後回しにして、青山くんから返事が来ていたので、まずはソレから開いた。 今日は定時だよ。やったー!ツイてる!帰りに、いきなり行って驚かせようと思った。ウキウキした気分のノリで、私はその変なメールをクリックした。 ******** 会いたい。 早く会いたいよ。 タケシ大好き。 早く会って抱きしめて欲しい。 ・ ・ ・ ******** 俺も。 早く帰ってミチルのこと抱きたい。 待ってて。 ・ ・ ・ ******** この前はごめんね。 私が悪かったよ。 でも、好きだから。 タケシのこと、すごく好きだから。 ・ ・ ・ ******** 俺、ミチルのことばっかり考えてるよ。 どうかしちゃうんじゃないかな。 だから心配しないで… ・ ・ ・ ********鼓動が耳元で響いているのがわかった。何…コレ…?ミチルはB子の名前だ。彼女は、この相手のことがすごく好きなんだ。そしてその相手も、負けないくらいB子が好きなんだ…って、それはすぐにわかった。そしてタケシが、イシタニくんの名前だってことも。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月15日
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今日の日記(「曲げられない女(初回)」感想とイレギュラーな日☆) 「ある女の話:カリナ73(赤木くんとの釣り)」「アイツ弱ってるみたいだよな…」青山くんが餌を買いに行ってる間に、釣り糸の先を見ながら赤木くんが呟いた。「うん…。そうだね。仕事、結構疲れてるみたい。」「アイツ、カリナちゃんに弱音吐いてるんだ?」赤木くんが笑って私の方を見た。「ん~ん。全然吐かないね。だから心配になっちゃうよ。」「そっか~。そうなんだ…。」赤木くんは何か考えてるようだった。「アイツ、自分のことより人のことばっか気遣っちゃうから、気をつけてやってよ。バカ真面目だし。」バカ真面目?アオヤンっぽい表現~!だろ?って、二人で笑う。そこには、青山くんのそんなところを、お互い好きだと思ってることが詰まっていて、親しい人にしかわからない空気があった。でも、青山くんは、赤木くんには、いろいろ本音を吐いてるんだろうな…って思った。私がマッシーにいろいろメールで話してるみたいに。マッシーどうしてるかな…って思った。最近連絡が無い。便りが無いのがいい返事って言うけど。こうして3人でいると、みんなで騒いで過ごした日が、遠いことのように思えた。「なんか…アオヤン、私のことばっかり聞いてくれてるの。もう最近は私も仕事が忙しいし、それなりにやりがいもあるから大丈夫なんだけど。」「あ、何かカリナちゃんも痩せたよね。そんなに忙しいんだ?」私は仕事の話をする。フッと、イシタニくんのことを思い出す。釣り糸を見て消すようにする。今日は当たりが悪い。「赤木くん、彼女作らないの?」話題を会社から逸らしたくて聞いてみた。「え?!ははっ!最近、女連れてこないから?ん~、もういらないね。友達でいいや。友達で。」「赤木くん女友達たくさんいそうだよね?」「たくさん?そーでも無いよ。でもまー、女として見ないから友達になれんだろうけど。」「そういうのって、突然女として見ることって無いの?」私は竿を上げてみた。餌が取られてる。ちぇっ。「あるかもしれないねぇ…。」赤木くんがボソリと答えた。その声が、ちょっとトーンダウンしてたことが気になる。「どんな時?」赤木くんは私と同じように竿を上げて、餌を確認した。「どうなんだろうな~。女だと思っていたんだけど、女だと思わないようにしてたっていうか…。そういう相手…なの…かな?よくわかんねーや。そういうのが一番性質が悪い。」赤木くんは誤魔化すようにアハハって笑った。赤木くんは、何だか経験豊富みたいで、私が今抱えてる気持ちの答えを知ってるような気がした。「好きになっちゃったの?そういう人。」「ん~、あ~、まあ…ね。」赤木くんは自分からは言いたがって無いのがわかった。それでも私は答えが聞きたかった。「それでどうなったの?付き合った?」「びみょ~。」あ、逃げたな。って私は思った。その時に青山くんが戻ってきた。「どう?釣れた?」「ぜんぜ~ん。」二人して言ったので、青山くんが笑った。それでも何匹か釣れたので、塩焼きにして食べることにした。私は釣れた魚の内臓を取っていた。オナカに包丁を刺して、グッと引いて、指で中を引き出して…内臓の柔らかさと血が、手についた。こんなふうに、私の中にある醜いものも取り出せたら…フッと人の気配を感じて振り向いたら、赤木くんが上手いもんだね~って見ていた。「カリナちゃん、好きな人でもできた?」いきなりなことを赤木くんが言うので、一瞬言葉がつまりそうになったけど、慌てて笑って目を逸らして、魚を洗いながら言った。「何言ってんの?まさかぁ~!そしたらココに来てないって!」「そりゃ、そうなんだけどさ…」赤木くんは言いづらそうに間をおいた。手を洗いに来たらしくて、ザブザブ洗いながら言った。「何か…、知ってる人と同じ表情してたから。」私は水ですすいだ魚を置いて、次の魚のオナカに包丁を当てた。赤木くんができた魚に串をブスリと刺した。「その人って、さっき言ってた人?」赤木くんは、その質問が聞こえなかったみたいに、黙々と串を刺す作業をした。私は質問を続けた。「何で女だと思わないようにしてたの?」また返事しないかな~って思ったけど、今度はちゃんと答えが返ってきた。「俺にはサキがいたし、その人も他に相手がいたから。」「それでサキちゃんと別れたの?」「いや、そうじゃないよ。でも、会っちゃったことで、自分が変わっちゃったかもな。」心臓がドキンと痛んだ。今まで何とも思わなかったことをいろいろ考えちゃったり…って、赤木くんが付け加えた。「そういうことって、あるかもしれないね…」私はつい呟いた。赤木くんは、魚を置きながら、聞きにくそうに言った。「何か…そういうこと、あった…?」「何話してんの?」青山くんの声がしたので、ドキッとした。自分のことを話さなくて済んで、ホッとしたけど、赤木くんに打ち明けてしまいたくなっていた自分もいたから。作業の手が止まってしまっていた。「俺の恋バナ~。」何でもないように赤木くんが答える。「何?僕聞いたことある?」「オマエには教えね~。」笑いながら赤木くんが言うと、何だよ~!って、笑いながら青山くんが赤木くんをこずいて、その温かい空気に心が和んで、自然に笑いが漏れる。この空気を大事にしたいって思った。食べ終わって、私がトイレに行って戻ってくると、席には赤木くんしかいなかった。「あれ?アオヤンは?」「あれ?すれ違わなかった?」燃えてる炭を二人でジッと眺めて、青山くんが戻るのを待った。赤木くんの話の先を聞きたかったけど、あまり聞いたら墓穴を掘りそうな気がする。今赤木くんが一人でいるのが、その結果な気がした。さっきの話の続きを聞いていいのか悪いのか…。赤木くんも同じように思っていたらしい。「さっきの話だけど…」「ねえ、さっきの彼女のこと…」お互い同時に言い出したので、一瞬固まって、お互い、ちょっと笑ってから私が言った。「好きになって良かった?」赤木くんは私の顔をぼんやりと見て口を開いた。「答えによっては浮気を勧めることになるのかな?それとも本気?そしたら俺、アオヤンに申し訳ないんだけど。」「何も無いから、心配しなくていーの。」私は笑いながら言った。赤木くんも笑顔で答えた。「好きになって良かったよ。後悔して無い。」 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月14日
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今日の日記(「まっすぐな男(初回)」観ました!) 「ある女の話:カリナ72(浮気の後悔)」映画のスクリーンに流れる字幕を目で追う。読んでるはずなのに頭の中を流れてしまって、内容が入ってこない。浮かんでくるのは、昨日起こったことで、私は話に集中しようと努力する。画面がキスシーンになると、自分がしてしまったことと重なって、胸がズキンと傷んだ。トイレのドアを誰かが開けようとする音がして、サッとイシタニくんが体を離して、入ってくる人と入れ替えに出て行った。私は入ってきた人を優先させて、その後から出る。流れは二次会へ行く人と、帰る人って感じで別れていた。私のことを心配していたモリタさんの顔を見たら、自然に大丈夫って顔で、お疲れ様です…って、言っていた。モリタさんは、ちょっと気遣うように笑って、気をつけてね!って、手を振った。イシタニくんは無表情で、お疲れ様です。ってペコリとお辞儀をして、モリタさんの後をついて行った。私はため息をつきそうになって、それを抑えて、大きく息を吸う。青山くんの提案で、今日はドライビングシアターで映画を観ることになったけど、画面に集中しようって思うのに、どうしてもイシタニくんのことが浮かんでしまうので、必死で消していた。よく眠れなかったし、こうなることは予想がついていたから、青山くんと会っていいのか迷った。でも、青山くんと会わなければ、もっとイシタニくんに支配されてしまいそうで、それが怖くてこうして出てきた。青山くんと待ち合わせた駅のロータリー。車から、「早かったんだね!」って、青山くんが笑顔を見せるので、胸が痛んだ。同時にホッとして、抱きつきたくなった。私の指定席になった青山くんの車の助手席に、いつものように座る。昨日、確かに自分は青山くんを裏切ったんだと思うと、泣きたくなって、叫び出したくなって、どこかへ行ってしまいたくなった。そんな気持ちが怖くて、どこにも行きたくなくて、青山くんの手に手を乗せると、青山くんが、手を繋いできたのでドキンとした。その手は昨日のイシタニくんの手の感触とは違うけど、温かく私を包んでくれて、その手の感触にホッとする。大丈夫。大丈夫だから。そう手が言う度に、胸が痛い。泣き出して、全てを話して許してもらいたくなるけど、一体何を話せるって言うんだろう?私のこの苦しい気持ちを青山くんに吐き出してしまったら、青山くんとは終わりなんだろうな…。青山くんが去っていく状況が、昔付き合ってたケンちゃんと重なった。 アイツとココに行ったことある? こんなことアイツはしたの?ケンちゃんはよくミツルとのことを私に聞いた。嘘をつけなくて頷くと、それが元でケンカになった。 好きだから気になるんだろ! 俺だって、こんなこと気にしたくない。 オマエは正直に話せば楽になれるかもしれないけど、 俺はずっと辛かった。 ずっとずっと、自分が嫌な男になった気がして、 苦しくて、たまんなかった。もう、あんな思いは、したくない。今回は過去のことじゃない。現在のことなんだ。許してもらえることじゃない。今日が映画で良かったって思った。ボンヤリと流れて行く画面を観て、次次と溢れてくる感情もいっしょに流せば、青山くんに手を繋いでいてもらえれば、昨日のことは全て夢なんじゃないかと思えた。それでも、夢にするべきなのか、現実だって認めるべきなのか、私は揺れていた。裏切ったくせに青山くんを失いたく無い。自分のズルさに呆れていた。「二日酔い?ツライ?大丈夫?映画、やめておけば良かったかな?」「ううん。車で観れたから楽だったよ。何だかゴメンね。」「どうする?釣り、やめておく?ご飯だけ食べて帰る?」「ううん。行きたいな。久しぶりだし。せっかく誘ってもらったんだし。大丈夫だよ。」今日はこのままどこかに泊まって、朝早めに赤木くんを迎えに行くことになってた。疲れてるはずなのに、青山くんは、私も赤木くんも大事にしてくれる。二人で行って来てもいいのに、青山くんは、仕事が忙しくて私とあまり会ってないのを気遣ってくれて、赤木くんもその状況がわかってるみたいで、私も誘ってくれたようだった。それでも私がこの調子じゃ、帰った方がいいのかな…って、ふと思ったけど、帰っちゃいけないと思った。青山くんの顔を見れない平日が来るのが怖い。泊まるために入ったホテルの部屋で、青山くんが私にキスをしてくる。その舌を受け入れながら、イシタニくんの舌との違いを感じる。消して青山くんにしがみつきながら、私は思う。私に起こったこと全てを消して全部無かったことにして…ズルイ私はズルイ私を抱いてるのが誰なのか、一瞬わからなくなった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月13日
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今日の日記(「コード・ブルー2(初回)」感想と仕事始め☆) 「ある女の話:カリナ71(酔いの悪夢2)」その瞬間、頭では理解できないことが起こった。イシタニくんの手が私の手を包んだ途端、私の体が一瞬で女に変わった。イシタニくんに抱きしめられたような感覚がして、体の力が抜けたように、いてもたってもいられない欲求が私を満たしていく…そんな私の体をわかってるかのように、イシタニくんの手が力をこめる。ジワリと体が疼いた。体と思考が切り離されたように、私は自分の体の状態と、現実の様子を見ていた。イシタニくんは、私の反対隣にいるヤマベくんと平気な顔で話していて、こっちの方を見ようとさえしないで笑っている。でも手だけは、動かずに握る手だけは、狂おしい位に私を求めていた。どうしてそれが私にわかるのかが、わからない。いけないそう思ってるのに手は動かないし、言葉も出てこない。何よりも信じられないことに、そんなことをされてるのに、モリタさんたちの会話を聞いているフリをしている私がいる。周りに悟られないように、何も起こって無い顔をして、コレが私なの?と、自分を眺める私がいる。大きな鼓動の音がする。頭の中が冷静に、パニックを起こしていることを理解している。私の何もかも、全ての感覚をイシタニくんの手が支配してしまっていて、モリタさんたちの会話の声が届いてこない。誰の声も届いてこない。みんなが笑ってる顔、懸命に話してる顔、グチってる顔だけを視覚が捉えるけど、手の感覚が鋭すぎて、他の感覚が麻痺してるみたいだ。触覚が全てを支配してるみたいだ。この人が欲しいこの人が欲しいこの人が欲しい体が叫び出した。お願いだからやめて!まるで時間が止まったかのように、私の手の感覚が、イシタニくんの手の意思に応じようとする。そして、体だけが彼を求め始めて暴走するのを、心が必死に止めている。モリタさんが私の顔を見て、口を動かしているのがわかった。スローモーションのように見えた。「…さん?どした?ミゾグチさん、どしたの?酔った?」ようやく耳にその言葉が届いた時、スッと金縛りから解けたように、イシタニくんの手がサッと離れた。「…え?あ…」いきなり聴覚が戻ったので、ろれつが回らない。「ホント、酔ったみたいで…。ちょっとトイレ行って来ます。」慌てて笑顔を作って立ち上がりながら、私はイシタニくんの顔をチラリと一瞬見た。その表情に、唾をゴクリと飲み込んだ。足が少しよろけて、イシタニくんが急いで支えようとしたのを、ふらつきながら避けて、私は慌てて座敷から出た。後ろを見ると、モリタさんたちの心配そうな顔が見えたので、大丈夫です、って笑ってお辞儀する。座敷から離れた廊下で、必死で息を整えた。私の手は震えていた。一瞬見た、イシタニくんの表情。うつむいて手を見ていた。驚いてるのがわかった。自分がしたことに驚いているのがわかった。私と同じ感覚をイシタニくんが感じていたとしたら…そう思うとゾクリとする。怖い…何か恐ろしい何かに飲み込まれてしまった気がした。アレは何?確かめたい気持ちと、確かめちゃいけないと思う気持ちが交差する。トイレに入って鏡を見ると、私の顔は目が血走っていて、いかにも酔って赤いのに、肌は、うっすら白く見えた。口紅がとれているのに、唇が妙に赤い。自分なのに、自分じゃない女みたいだ。熱い。鼓動が妙に早い。この体は誰?飲んでるせいだからだって思った。私も。イシタニくんも。特に彼は、ひどく酔っ払ってたから…。そう自分に言い聞かせる。それでも手が、私の手が、まだあの時の感覚を覚えていて、その感覚を思い出すと、更に体がジワリと熱くなった。どうしてこんなことが…握られていた時は思い出さなかった青山くんの顔が浮かんだ。苦しくなって、今あったことを消してしまいたくて、私は石鹸で思いきり手を洗う。それでも手の感覚は取れない。そんなことはわかってる。だけど洗う。ゴシゴシ洗う。何とか落ち着いて、私がトイレから出ると、ちょうど向かいにあった男性用のトイレの扉が開いた。イシタニくんだった。胸がズキリと痛んだ。何か言い出そうとして、声にならないイシタニくんの顔。驚いたせいで通り過ぎようとした私の足がよろけた。支えようとしたのか、引き寄せられたのか、よくわからない。私の体は強くイシタニくんに抱きとめられていた。イシタニくんの目に戸惑いとあきらめが見えて、同じように何かをあきらめた自分がいた。もう逃れられない私の体がフワリと溶けた。イシタニくんの舌の感触がする。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月12日
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今日の日記(「筆談ホステス」「龍馬伝#2」でモテる人って言うのは☆ ) 「ある女の話:カリナ70(酔いの悪夢1)」「どうしたの?何かあった?」心配した声で青山くんから電話が来たのは、12時頃だった。「ううん。たいしたことじゃないんだけど…。ちょっと声が聞きたくなったって言うか…。」携帯の向こう側から軽く笑った声が聞こえる。「ごめんね。今家?」「うん。さっき帰ったところ。これから風呂入って寝るよ。」「ごはんは?」「さっき食べたとこ。ごめんね。夜遅かったから、先に電話しようか迷ったんだけど。食欲に勝てなくてさ。」「ううん、そんなの、いいの!食べて!食べて!」私は申し訳なく思った。 早くアオヤンに会いたいです。こんなメールを寝る前に送ったから、心配したのかもしれない。心のどこかで、イシタニくんといっしょにいた時間を怖いと思う自分がいた。彼といっしょにいたことで、いろんなことが蘇ってしまった。ミツルが言った、初めての男を忘れられるのか?って言葉さえも。ヒドイ言葉と同時に思い出すのは、彼がそんな言葉を口に出すほど私に傷つけられたってことだ。今思い返してみても、あれほど私に執着した男はいまだかつていないと思う。正直、青山くんは私のことをあんなに乞うことは無い。もう付き合って5年も経つけど、甘い気持ちはあっても、お互い激しく感情を揺さぶるようなことは、今までも無かったし、これからも無いような気がした。もう二度と会いたくも無い男なのに、あの不安定さと強引さが私を惹きつけていたのも確かで、それを懐かしく思ってる自分がいることが怖かった。「あのね、土曜なんだけど、金曜に出張が入って、帰りに飲みがあるかもしれないの。上の人が飲むの好きだから、行くことになるかもしれないって言われた~。」「へえ~。珍しいね。じゃあ飲みすぎないようにね。」心配するってことは…無いんだろうな。青山くんは。それは信頼に通じてるんだけど、ちょっと淋しかったりもする。「飲みに行っても心配じゃないの?」「何かあるの?」「何もないけど…。」「行きたいの?」「ううん。全然。」「じゃあ大丈夫でしょ。」いや、そうじゃなくてね…って、私は青山くんに何を言わせたいんだろ?「でも心配しないなら沢山飲んできちゃおうかな~。どうせ奢りだしね~。もっと飲もうって誘われたら行っちゃおうかなぁ~。」つまらないことを言ってみる。「誘われるって誰に?」うん、そうそう。ちょっとは不安に思ってちょうだい~。「わかんないけど~。」「ダメだよ。行っちゃ。仕事じゃなきゃ嫌だよ。」「嫌なの?」「うん。」「たくさん飲むと心配?」「うん。」嬉しくて顔がニヤける。やった~って、ちょっと思う。「じゃあ、誘われても行かない。」「うん。あ、大丈夫かな?映画そんな状態で観れる?そう言えば赤木くんが、カリナもいっしょに釣りにどう?って言ってたんだけど…」あ、せっかく甘かったのに逸らされた。ちぇっ、て思う。電話を切った後、メールして良かった~って思った。安心した。幸せ。私、大丈夫。って思う。「なんか…今日すっげー飲むかも。またケンカした。マジムカついた。」言われていた通り、開発部と飲みに行くことになって、みんなにくっついて飲み屋に向かう道の途中でイシタニくんが呟いた。「え?何何?何で~?」私が聞く。すぐに彼女のことだってわかった。イシタニくんは前や後ろを歩いてる人たちに聞こえないように、ちょっと声をひそめながら言った。「今日の飲み。ホントは楽しいんじゃないの?とかってさ、仕事の延長だって言ってんのに。友達と飲むワケじゃないんだから、それなりに気だって遣う飲みなのにさ…。自分だって行ってるくせに、何だよ一体とかって思ったりして…。」その時のことを思い出したらしくて、イシタニくんの顔が険しくなった。「あ…ゴメン、変なこと言って。」我に返ったらしくてイシタニくんが謝った。私はその様子が何だか可笑しくて笑った。「いいんじゃない?ヤキモチ焼いてくれるうちが花だよ~って私は思う。」「え?彼氏焼かない?」「ん~。あんまりね。付き合い長いし。信用され過ぎるのも淋しい。」「そっか~。寛大だな。俺、結構ヤキモチ焼きだよ。あ、でもあんまり出さないようにしてるけど。心の中では嫉妬メラメラ。」「だから彼女心配しちゃうんじゃない?」「そうかな~。」そんなこと言ってたら、お店に着いた。予約されてたらしくて座敷に通された。開発の女の子が甲斐甲斐しく働くのに私も便乗する。「あ、すみません。」って、年下だろう彼女は嬉しそうな笑顔を見せた。今回、女性は私と彼女だけらしい。私達がせっせと飲物の追加をしたり、お酌をしてまわっている間、男性たちは、すっかり酔っ払っていた。おいでおいで~って、その開発の子が呼ばれたので、私はとりあえずモリタさんたちのいる自分の席に戻った。ふ~っ。「お疲れ~。」モリタさんが瓶ビールを私のコップに注ぎ足す。「あ!ダメですよモリタさん、上司なんですから!私が注ぎますって!」「いいから、いいから!俺そーいうの苦手~。」「じゃあ、俺が~。」足が治った後輩のヤマベくんが、モリタさんのコップにビールを注ぐ。モリタさんに言われて、何杯かウーロンハイを注文して、私もそれに便乗した。「イシタニ、結構飲んでるなぁ~。」開発部の先輩社員とイシタニくんは何かしゃべっていた。頷きながらも、ガブガブ飲んでいて、顔が赤いのがわかる。「飲んでますか~?」しばらくすると、ヘロヘロになった感じでイシタニくんが私の隣の席に戻ってきた。「ダイジョブ~?」私が言うと、イシタニくんは、まーねー。と答えた。目が据わってる。「ウーロン茶頼んでおいたよ。ちょっとお酒ストップして飲んだ方がいいんじゃない?」「え?あ~、ミゾグチさん気が利くなぁ~。ありがとう。」イシタニくんはウーロン茶をガブガブ飲んだ。席の向かい側で開発部の人がモリタさんと何か仕事の話をしてた。この企画で大丈夫なのかな~?とか何とか。私も滅多に聞けない男の人たちの仕事の本音を、笑ったり頷いたりして聞いていた。その時、置いていた右手にイシタニくんの足がぶつかったような気がした。ううん、足じゃない。手の小指…思った途端に私の右手の上に温かい感触が乗った。私はビクリとする。それは、イシタニくんの手だった。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月11日
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今日の日記(嵐スペシャルドラマ「最後の約束」と「龍馬伝(初回)」の感想☆) 「ある女の話:カリナ69(職場と同僚2)」「ヤベ~な。6時には着くつもりでいたのに…。」「会社に電話しておこうか?」「うん。頼む。」その時、会社用の携帯が鳴った。モリタさんからだった。「イシタニくん…」「何?どした?」「取引先が、何か雪のせいだか何だかで、こっちに来るのがどうしても無理なんだって。だからもう今日は大丈夫だって。慌てなくていいから、お疲れ様だって。」「なんだよ~。」イシタニくんは脱力したようにガクンと腰を折った。「あ~、でも良かったかも。何だよ、この道~。何でこんなに動かないかなぁ?」イシタニくんはジレったそうに言った。「もし眠いようなら車の運転代わろうか?昨日遅かったんでしょ?」「え?ううん。大丈夫。それに遊んでた俺のせいだからね~。」「でも、渋滞だと眠くならない?」「ん~。じゃあ眠くならないように何かしゃべってよ。」「何か?何かって…何だろう?しりとりとか?」「あ、ソレますますイライラしそう。そうだな~、彼とドライブしてる時って、こういう渋滞の時どうしてんの?」「ん~。大体何か歌える曲がかかってるから、歌ったりしてる~。後は、眠くなったら交代したり。眠っちゃうこともあるけど。」「ふーん。安心してるんだ。お互いに。いいね。俺はダメだな~。彼女が踏むブレーキのタイミングが怖くて。だからすぐに代わっちゃうよ。彼、そんなこと言わない?」「うん。運転しないと慣れないからガンバれって言うかなぁ。でも怖いとこは変わってくれるけど。」「ふーん。優しいんだね。」イシタニくんの言葉にミツルのことを思い出した。そう言えば、ミツルも同じようなこと言ってたと思って。「イシタニくんは何歳で免許取ったの?」「俺?高三の夏休みかな。でも、結構無免で乗っちゃってたけどね。先輩の車とか。」「え?ウソ?!おっかない!もしかして、走り屋とか?暴走族やってたとか?そーいう系?」「え~?男なんて結構そういうことやってんでしょ?」「そうかなぁ?」青山くんは、やってないような気がした。「ミゾグチさんて、お嬢様?」「そんなワケないでしょ。そしたら働いてないよ~。」「ん~、そういうことじゃないけどさ。なんか、育ちが良さそうな感じがするんだよなぁ。」またミツルが昔言ってた言葉を思い出した。 オマエはお嬢様だから。ああもう。どうしてイシタニくんと話してると、忘れてた過去がチラつくんだろう。彼女とケンカした話や、タバコの香りと車のせいもあるのかもしれない。好きだけど、嫌い。私が捨てた男。「え?今日は私持ち合わせ無いよ。給料日前だし。」私が話を逸らすと、イシタニくんは、またアハハって笑った。「俺んち、母親が高校の時いきなり死んじゃってさ。何だろ、何にもやる気なくなっちゃって。その時に、仲良かった近所のにーちゃんがさ、いなかだからさ、庭が広いんだよ。庭って言うか、そこは空き地って言うか、私有地なんだよね。そこで車の運転教えてくれたりなんかして。まあ、他にも悪さ覚えさせてもらったけど。マージャンもタバコも、いろいろ。」「あ…そうなんだね。」サラリと母親が亡くなったことなんて言うので、何て言っていいのかわからなくなった。少し淋しい空気が流れた。それでも無言でいることで、イシタニくんに気を遣わせるのは嫌だった。もしも私が彼女だったら、何もやる気なくなるかもしれないね…って、肩を抱くことも手を握ることもできるかもしれない。女友達なら、そんな言葉をかけてたかもしれない。でも彼は男だから、だから、何だかしんみりしたくなくて、親のことから少し話を逸らすように言った。「じゃあ、不良って言っても、怖い不良じゃないんだ?人より少し大人になるのが早かったって感じ?」「大人のマネごとだよね。って、怖い不良って何~?でも不良って言い方、今あんまり聞かないよね?」「そうだね。何て言うんだろ?悪いヤツ?」「あはは!悪いヤツ?どんなヤツだよ~!」車の中で悪いヤツのイメージをお互い言い合ってゲラゲラ笑った。イシタニくんの笑顔を見てたら、空気を換えられて良かったって思った。そんなことを言ってるうちに赤いブレーキランプが減ってきて、車が流れ始めた。あ、事故だったみたいだね…って、へこんだ車を通り過ぎながら眺めた。ふと、自分が付き合ってるのは青山くんじゃなくて、イシタニくんみたいな錯覚を起こしそうになる。まるで、ずっと昔からいっしょにいたみたいに、隣にいることが自然に感じた。なんで?それでも、心の中で首を横に振る。青山くんに早く会いたいな…流れて行く景色を見ながら、私はそう思った。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月10日
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今日の日記(私的1月から始まる新ドラマチェック~♪ ) 「ある女の話:カリナ68(職場と同僚1)」「手、繋いでみたけど、いいね、あれ。」イシタニくんがコーヒーを飲みながら言う。「え?ホント?うん。そうでしょ?」「うん。前より落ち着いてくれる気がする。前は、わかってない!とかって、だんだん感情が高ぶってって感じしたけど、今は冷静に話してくれるから、言い分もわかるっていうか…頷くだけでも、向こうが話すだけで満足してるのがわかるって言うか…。」「うん。そうなんだよね。そういうのってあるよね。」私は紅茶に息を吹きかけて冷ましながら言う。そこまで話したところで、モリタさんがパーテーションからコーヒーを持ってやってきた。「お待たせ。じゃあ、ミーティング始めようか。」モリタさんがリーダーって立場に昇進して、私とイシタニくんは下について仕事を続けることになった。そのせいで、こんなふうに、ちょこちょことイシタニくんとプライベートを話すことが多くなった。この前見た映画で何が面白かった…とか。デートでどこに行くか…とか。会議の報告が一通り終わると、モリタさんがイシタニくんを見て言った。「何だ~?イシタニ眠いのか?大きなアクビして。」「昨日つい隣の部署のヤツラとやってたんですよね。」へへって感じで笑って、イシタニくんは親指と人差し指をクルっと曲げるような仕草をした。「あー、マージャンね。」モリタさんがコーヒーをすすりながら言う。「いいな~。俺が参加できるのはまだ先の先。今は赤ん坊の世話で、まだまだ自由になる時間が無いよ。」「え?モリタさん手伝ってるんですか?」「そりゃあね。今は男も子育てできないと。父親とは呼べません。」どっかで聞いたようなキャッチフレーズを、モリタさんはちょっと嬉しそうに言った。「自由にできる時間がそうやってなくなるんですよね、きっと。俺はまだまだ結婚は先でいいな~。」「そうか~?結構やってみると赤ん坊の世話って面白いぞ。それにさ~、あのフニャフニャした小さいのを抱いてるとさ、あ~、俺が守ってやんなきゃな。って気持ちが沸いてくるんだよ。なんてーの?父性本能ってやつかなぁ?肌なんてオマエ、モモみたいなのにマシュマロみたいに柔らかいんだぜ?いいぞ~、子供!」マージャンいいなって言ったくせに、モリタさんはそんなことを言う。「モリタさんは娘さんが可愛くてたまらないんですね。」私は笑いながら言った。「そうなんだよな~。もう、アイツの顔見るのが楽しみで家に帰ってるって感じだよ。俺、嫁さんでもこんなに帰りたい!って思ったことあったっけ?って、感じだよ~!誰にも渡したくないね!いや、渡さないけど!」はいはい。って感じでイシタニくんが笑った。「渡さなかったら、私みたいに家に寄生しますよ。早く出てってくれって言うようになりますよ。」「あれ?ミゾグチさん家でそんなこと言われてるの?」あ、余計なことを言った。と思った。「最近そうですね。結構心配してますね。妹が結婚しちゃってるし。」「えー?妹いくつ?早いね!」会議の空気が一気に居酒屋の空気に変わっていく感じだった。モリタさんに子供が生まれたので、仕事帰りにみんなで飲みに行くこともほとんど無いけど、こうして打ち合わせ中にみんなで軽口をきくことは、私の会社での楽しみになった。「あ、そうそう。来週の金曜、開発部との会議ね。あそこの部長、飲むの好きだから、帰り覚悟しといて。」モリタさんはそう言って、今度は上の人たちの会議に出るので、そのまま足早に去った。「んじゃ、さっさと行っちゃおっか。」私とイシタニくんは午後一で、出来上がったサンプル品をもらいに行くことになっていた。配送の予定に手違いがあったのか、上の人が焦ってるとかって話。こういうことがあると下の私たちは振り回される。社用車を使って行くように言われた。「ヤマベ、労災おりるらしいよ。」「あ、ホントに?良かったね~。」車を運転しながらイシタニくんが言った。後輩のヤマベくんは、こういった時に必ず行く後輩だけど、この前、社内で荷物を運んでいたところ、運悪く、お茶がこぼれていたところで滑ってネンザした。「かなり不便みたいだよ。電車乗りにくいみたいで、車通勤のヤツにいっしょに乗せてもらって来てるって。」「そうなんだ?一人暮らしだっけ?」「まあ、寮だから。何とかなるんじゃないの?」行きはそんな他愛の無い社内の話と、今やってる仕事の話をしていたら下請け会社にすぐに着いた。でも、肝心のサンプル品の用意がまだできていなくて、時間を潰すついでに、クレームが来た商品の話なんかを担当者と話すことになった。現場がどう動いてるかの報告を聞いていたら用意ができたので、荷物を車に運んで、慌しく車に乗り込んだ。「ウソだろ…」イシタニくんは呟いた。帰りの道は、ちょうど帰宅時間と重なって、見事に車が動かない状態になっていた。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月09日
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今日の日記( 映画「ブタがいた教室」と始業式と私がハマったもの☆) 「ある女の話:カリナ67(同僚との飲み2)」「ミゾグチさんは、フォローが上手だよね。」ビールからウーロンハイに切り替えたイシタニくんが言った。「え?そう?どして?」私は炭酸がキツくなってきて、カシスグレープフルーツとかってカクテルに切り替えていた。変にイシタニくんが男性だって意識しないように、落ち着きたくて、一口飲んだ。ジュースのような甘酸っぱさと、酔いで少し体がふんわりと熱くなる。「だってさ、さっきのモリタさんとの話、俺がモリタさんだとしても、少し安心するっていうか…。ミゾグチさんって、そういう空気あるね。」「そんなこと無いよ。いっつもグチばっかり言ってるよ。」「あ、彼氏に?」「うん、そう~。申し訳ないな~って思ってる。」「そうなんだ?彼、そういうの聞いても大丈夫な人?」「大丈夫かどうかはわからないけど、うんうんって聞いてくれるから。だから私もつい話しちゃうんだけど、何だろう…彼の方はグチっぽいこと言わないから悪いな~って。」「ふうん。」「だから違う話するようにしてるの。何だろ…心配かけるより彼が笑ってくれるような話題ないかな~って考えちゃう。って言っても、仕事ばっかりだから難しいんだけどね。でも、最近は仕事も楽しいし。」「そっか。ラブラブだね。」あ、話し過ぎたかな…って思って恥ずかしくなったのに、イシタニくんは、からかうワケじゃなくて、ホントにいいな~って感じで笑顔を見せた。その顔を見たら、少しホッとした。「俺のとこ、そんな話になったら結構ケンカになったりするかな。俺、気が利いたこと言えないから…。結構、彼女のことすぐ怒らせちゃったりする。」イシタニくんが少し暗いトーンで言ったので、私は少し心配になった。「しゃべらなくても手とか握ってあげるのとかは?落ち着くよ。アドバイスが欲しいワケじゃなくて、ただ聞いててもらえればいいんだよね…。」「ミゾグチさんの彼はそうしてくれるの?」私は迷ったけど、自分のことを話すことにした。イシタニくんなら、からかったりしないような気がして。「ううん。自分から繋いでみるよ。そうじゃないと、自分がして欲しいことって相手には伝わらないから。言わないでしてくれたら理想なんだけど、なかなかそうは行かないんだよね~。」ダメダメって感じで私が手を振ると、イシタニくんが笑った。「そうだよね。うん、そっか。ちょっとそうしてみようかな。あ、でも何か…できっかな?」イシタニくんは照れたようにウーロンハイをゴクリと飲んで、吸っちゃっていい?って今更断ってタバコに火をつけた。タバコの煙がふんわりのぼって行くのを、私はボンヤリと眺めた。「いいね…」「え…?」「ミゾグチさんの彼、いいね。羨ましいよ。そんなふうに思われたら嬉しいと思う。」「え?そう…?」私は照れた。誤魔化すように目を逸らして飲んだ。「ケンカとかしないの?」「うん…することもあるけど…」私は昔のことを思い出しながら言った。「前に付き合った人が、しばらく会えないことがあって、心配になったら事故に遭ってたことがあるの。車で、私を送ってくれた帰りに頭フロントガラスに突っ込んだとかで…。それ以来、誰が相手でもケンカしたら、その時に解決したいって思うようになっちゃった。怖くなっちゃって。なるべくケンカしないようにしなきゃな~とも思うし。」「そっか。そういうことあると怖いよね。」「うん…。だからかな、彼とケンカして朝早くに謝りに来ても追い返したなんて聞くと、どうして…って思っちゃうの。もしかしたら、その帰りに何か遭ったりしたら後悔しそうでしょ?いきなり来られても困るって気持ちもわかるんだけどね、それでも彼の気持ちが嬉しくないのかな?って思っちゃう。」コレはベップ=B子が言ってたことだ。彼が朝早く謝りに来てさぁ~、そんなの支度も出来てなくて、いきなり来られても困るんだけど~って感じじゃない?同意しなかったら、まるで私が彼氏みたいに怒り出した。私のそういうとこ、ずっと気に入らなかったんだろうな。また嫌なこと思い出しちゃって、私は消すようにグイっとお酒を飲んだ。「ミゾグチさんなら怒ってても追い返さない?」「車で仲直りできたら…って思っちゃうかな…。」「ふーん…」イシタニくんはタバコの煙を眺めて何か考えてるようだった。私は変なこと言ったんじゃないかって心配になって、何となく沈黙が怖くて付け加える。「でも…それって、追い返しても大丈夫って関係だからだよね、きっと。私はダメなんだ。そんなことして嫌われたらどうしよう…って思っちゃうの。自分なら悲しい気持ちで帰るんだろうな…って思うと、そんなふうに追い返されたら冷めちゃうかな~とかって。だから…そんなことしたり安心してケンカができるって関係に憧れたりもするんだよね。」「そっか…安心してケンカね…。別れてもいいって思ってするんじゃなくてかな?相手のこと、そんなに好きじゃないからそんなことできるんじゃない?」イシタニくんが真面目に返事をしてくれたことでホッとして、私は思ったことを言った。「私はそういうのって、相手が優しいから甘えてるんじゃないかな~って思うよ。そうじゃなきゃ、よっぽど自分達の仲が揺るがないって思わせるようなこと、相手がしてくれてるとか…。でも性格もあるのかな。」イシタニくんは、クックと笑った。ちょっと投げやりっぽいって言うか、少し淋しそうに見えた。いつものイシタニくんじゃないように見えた。「相手の方がたくさん好きってわかってるから、安心して、そういうことするってこと?」「え…?う~ん、わかんないけど、そういうことなのかな?って。わかんないよ~。私はしないから。」私はどう返事したらいいのかわからなくなって飲んだ。「私は、ちゃんと安心してないのかもしれないし…」ポツリと思ったことを付け加えた。「安心させる男って情けなくない?邪魔クサイって言うか。」「そんなこと無いよ。私なら嬉しい。」「そお?」「うん。」そこでお互い話は終わったかな…って感じの沈黙が流れた。「帰ろうか。」イシタニくんがタバコをもみ消してそう言った。私は余計なことを話したような居心地の悪さを感じていた。これだから会社から浮いちゃうのかな~って。もう、飲みに誘われることも無いかな~って。店を出るとイシタニくんが言った。「今日ミゾグチさんと話せて良かった~。何か俺、自分のことベラベラしゃべっちゃった気がするんだけど、大丈夫?」「え?それは私の方なんだけど。大丈夫?」あ、そっか。もちろん大丈夫だよ~。ってイシタニくんが笑う。ああ、良かった~って、私も心からホッとして笑った。安心し過ぎて少し涙が出たけど、そんなことはイシタニくんに悟られちゃいけない。でも、私はこの時、イシタニくんに話したことを後悔することになる。男女でも友達になれることもあるのかな…って、思ってたくらい嬉しかったのにね。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月08日
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今日の日記(映画「マンマ・ミーア」と冬休み最終日☆) 「ある女の話:カリナ66(同僚との飲み1)」最近いっしょに仕事をしているモリタさんとイシタニくんとで、展示会へ出張に行った。モリタさんは私たちより6歳ほど年上で、頼りになる、くだけた先輩って感じの男性だ。このメンバーで仕事を組めたのはラッキーだったかもしれない。私の意見も聞いてくれるので、最近仕事が少し楽しかった。私達は、自分たちの会社のブースを見た後に、いっしょに他のブースを見てまわったり、個別行動をしたりして、自分たちの仕事に役立ちそうな情報や、資料を集めてまわった。いつもの社内にいる仕事と違って、出張の空気が旅行気分になって、モリタさんもイシタニくんも、いつもの社内の顔じゃない、まるで学生のような感覚でいっしょに過ごした。「腹へったな~。飲んでこーか。直行直帰で良かったなぁ~。」翌日が休みってこともあって、会社への報告の電話を済ませた後、当然のようにモリタさんがイシタニくんと私の顔を見て言った。「焼き鳥がいいな~。」すっかりモリタさんの弟感覚で、イシタニくんが言った。「あ!でもスーツじゃ可哀想か。ミゾグチさんは居酒屋とか嫌?ちょっと洒落たとこがいい?」「大丈夫だよね~?居酒屋行ったりするよね?」一日展示会会場を回った疲れと、少し遠くまできた開放感。夕暮れに焼き鳥に飲み。オナカのすいた私には、自然な流れで誘われたことが嬉しかった。「焼き鳥いいですね。なんか、オナカすいてるから、頭が焼き鳥でいっぱいになっちゃいましたよ。」それを聞いた二人は嬉しそうに笑って、よし!飲むぞ~!とか、資料確認してからにして下さいよ。とか言っていた。女同士だと、どうもランチの延長って感じで、どっかのレストランや喫茶店に入ることが多い。飲み屋なんて、マッシーたち仲良しの子としか行かない。いっしょに飲めるような社内の子もいなかったし、私は、こういう出張も、帰りにみんなでどこかに寄って飲むってことも、経験したことが無かったんだな…って思った。だから、仕事帰りに会社の仲間と一杯、って言う状況にワクワクしていた。焼き鳥の焼けるいい匂いがする。まずはビールでしょう!って言って、モリタさんがビールをジョッキで頼んで、それにイシタニくんが続いて、モリタさんが、課の飲み会じゃないから好きなの頼んでいいよ~って言うので、私は青りんごサワーを頼んだ。そんな気遣いも何だか嬉しかった。いつもなら上の人に瓶ビールを注いでまわって、注ぎ返されたら、苦いけど飲まなくちゃいけない空気で、注ぎ方が下手とか何とか笑われて…。ちょっと課の飲み会も居場所が無くて好きじゃなかった。「ミゾグチさん、いつも飲み会の時働いてるよね~。女の人たちは大変だよね~。落ち着いていっしょに飲んだこと無いから、今日は楽しみだなぁ~。」モリタさんは嬉しそうにビールを飲んだ。二人に案内されたお店は、少しワザと古く見せて、くつろげるような、焼き鳥を中心に出す居酒屋だった。値段が安くてメニューも豊富で、週末のせいもあってか、店は満員だった。「いいお店知ってますね~」メニューを見てボソリと呟いたら、嬉しそうにしたモリタさんが、ジャンジャン飲んで!と言った。まずは酔う前に、お互いの集めた資料を出し合って、ココのブース凄かったよな!とか、ココ行ってきたんだ?周り忘れた~!とか、ココってさ、やっぱうちとは違うよね。と、みんなで今日の展示会の感想を言い合った。ミゾグチさん、ちゃんと串から食べるんだ~?とかって、二人が私を見るので、そう言われると、食べるのに少し躊躇した。でも美味しい。いい具合に気持ち良くお酒が回って来た頃、「そう言えば、奥さんもうすぐですよね?こんな飲んでも大丈夫ですか?」と、イシタニくんがモリタさんに言った。社内の情報に疎い私は、あれ?と思った。「まだ大丈夫だからって言ってたよ~。出張のが、いつもより早く帰れて嬉しいよ。いつもならこの時間残業じゃん?ここならうちまで近いし。生まれたら早々行けなくなるだろうから、飲んできていいってさ~。」奥さん優しいですよね、ってイシタニくんは言って、私は、ああって思った。「今9ヶ月なんだ。」モリタさんは照れた感じで、タバコをつけた。そろそろ吸うの止めよっかな~って呟いた。「お父さんになるってどんな感じですか?」私は、つい聞いてみた。「お父さんになる感じね~。」モリタさんはタバコを吸って、ちょっと考えた感じで、フーって、煙を吐いた。「ん~、何だろね~。実感湧かないんだよね~。産むの俺じゃないし、嫁さんの腹だけが膨らんできてて、触るとグリグリって動いたりするから、お~、こん中で生きてるんだな!とかって思うけど。」私は興味津々でモリタさんの顔を見て頷いた。今まで子供のいなかった人の父親感ってどんなんだろうと思って。イシタニくんは、やっぱそんな感じなんだろうな~と頷いていた。「出てきて俺に似てたら、もっと実感湧くのかな~とかって思ったりもするけど。ほら、男なんてさ、子供できたわよ。アナタの子供よ。って言われたら、見に覚えあったら信じるしか無いじゃん?変な話、俺の子供かどうかなんて女にしかわかんないワケで~。」そりゃあ、そうかもな~。なんて私は思った。そう考えると男の人って相手の女性を信じるしか無いんだな~。と。自分が男立場になった場合を、ついいくつか考えてしまった。男が子供を産むって立場なら、どうだろう?ミツルには嘘をいっぱいつかれてたから疑うかもしれない。それにあんまり嬉しく無いかも。現実を見ないで、「産んじゃおうか」とか言いそう。困る。ケンちゃんは純粋でバカ正直な人だったから、疑う気にならない。むしろ疑ったりしたら逆ギレされそう。これまた何でか嬉しく無い気がした。純粋な子供っぽさが、結婚とかけ離れてる人だったから。青山くんは…ナゼだか想像しただけで嬉しかった。変な話、笑顔の青山くんがすぐに頭に浮かんだ。「カリナ、僕らの子供ができたよ。」「えー、ホント?男かなぁ?女かなぁ?」「もー、僕が産むと思うと気が楽なんだろ?」「うん。そう!あー良かった。産むの痛そうなんだもん。協力するから、ガンバってね!」そんな会話さえ簡単に想像できて、何だか可笑しくて、軽く笑った。私の想像など知らずに、イシタニくんが笑いながらモリタさんをこづく。「何すか~モリタさん。デキちゃった結婚じゃないですよね?」「うん、違うよ~!でもさ、しみじみしちゃうワケだよ。この女が俺の子供産むんだな~とかさ。なんか、もうあっちは女じゃなくて母親って顔しててさ、俺は置いてけぼりくらってるような感覚が少しあってさ。」モリタさんは私達が友達かのように同意を求める目で見る。「嫁さんの腹をさすって、心の中で、俺が父親でいいか~?大丈夫か~?って思ったりするんだ。そうすると返事するみたいにポコンって動いたりして。そしたら、ちょっと安心したりして。何だか俺の方が子供に励まされてどーする?とかさ。」ははは…って、ちょっと気弱にモリタさんが笑ったので、私は微笑ましい気持ちになる。こういう気安い本音をしゃべってくれるところが、モリタさんの慕われる理由なんだろうな~って、私は酔った頭でボンヤリ思う。「いいお父さんになりそうですよね~、モリタさん。」私は思ったことを口にした。「え~、どこがぁ?頼りなくない?」「だって、私がモリタさんの子供だったら、お父さんがそんなふうに本音とか言ってくれる人だと嬉しいですよ。お父さんにも弱いとこあるなら、自分の弱い面とか、受け入れてくれそうって言うか、打ち明けやすそうじゃないですか~。」「そう~?ならいっかぁ~。ん~。俺でも大丈夫ってことかな~。俺みたいな父親でもいいかぁ~。」トロンとした目でモリタさんが言う。「はい。だいじょーぶです!」私は片目をつぶって、バッチリって手で表現した。あ、私酔ってるな~って思った。でもってサワーを飲む。美味しい。そうか、バッチリか!って、私と同じポーズをモリタさんもして、イシタニくんが笑った。その時モリタさんの携帯が鳴った。「え?マジ?!嘘!うん。わかった。今すぐ帰るから。そこにいる?8時過ぎかな…。大丈夫?」電話を切ったモリタさんは真剣な顔になっていた。「ごめん!何か嫁さんヤバいかも!陣痛じゃないみたいなんだけど、デパートで少し腹痛くなったとかで。ゆっくり飲んでて!あ!そうだ金!」財布を出したモリタさんを、イシタニくんがいいから早く行って下さい!って追い立てるようにして、あ~、でもそれじゃ俺から誘ったのに悪いし、ってモリタさんが言って、じゃあとりあえずこれだけ!って机に慌ててお札を置いて、ごめん!じゃまた!って去って行った。残された私とイシタニくんは、モリタさんが見えなくなるまで立ち上がっていて、店から出るまで手を振った。ガンバレ!早く行って!みたいな感じで。「律儀な人だな~。あんな慌ててるのに。」イシタニくんがそう言って、机の上にある5千円札を二人で眺めて、脱力したように座ると、イシタニくんは自分のタバコの箱とライターをお札の上に載せて、残ったビールをグッと飲んだ。私もサワーをゴクリと飲んだ。「おかわり頼む?」「うん。」残されたものの、どうしたら?って、酔いから覚めた空気が漂っていた。中心になっていたモリタさんがいなくなったことと、彼氏がいるのに付き合ってない男の人と、二人だけで飲むことになった緊張感が私を包んだ。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月07日
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今日の日記(映画「感染列島」と冬休みあと二日!) 「ある女の話:カリナ65(同僚の噂)」「ねえ、ミゾグチさんとイシタニくんって、付き合ってたりするの?」いきなりそう聞いてきたのは、私の尊敬する派遣女性だった。その日、派遣さんは彼女しか来てなくて、私は彼女、イトウさんと初めてキチンと話をすることができた。彼女は私が思った通りサバサバした女性で、すぐに打ち解けることができた。旦那様が理解のある人で、仕事で遅くなっても大丈夫なこと。休日は家事を二人でいっしょにやること。時には旦那さんがやってくれること。子供たちは大きくなったので、今は正社員で仕事を探そうか考え中なこと。そんな話をざっくばらんに話してくれた。そんな話の延長で、彼女がそんなことを言い出したからビックリした。会社のお昼休み。自然な流れでのランチ。紅茶を噴き出しそうになった。「え?え?ナゼそんなふうに思うんですか?!無いです!無い無い!私は付き合ってる人がいるし、あっちも彼女がいるんですよ!」「え~?そうなの?つまんないなぁ。」イトウさんは楽しそうに笑った。「面白い人だよね~、イシタニくん。実は、こないだイシタニくんがミゾグチさん庇ってたんだよね。」「え?私をですか?」「うん。庇うって言うか、ミゾグチさんて、ぽーっとして見えるけど、ちゃんとやる時はやる人なんですよね。って。あ、失礼!私じゃなくてイシタニくんが言ったんだよ。」イトウさんはコーヒーを一口飲んで続けた。「係長さんがミゾグチさんは真面目にやってるのにって言ったら、その場にいたベップさんたちが、ミゾグチさんは仕事大好き人間なんですよぉ~って、笑いながら言ってたんだよね。私ちょっとムカッときちゃってさ。いっつもアナタに仕事押し付けて、自分たちはサッサと帰るくせにね。まあ、私も時間決まってるから人のこと言えないんだけど。」イトウさんがB子の口調を大袈裟にマネして見せる。その様子は、よっぽど腹がたったってことを物語っていた。私はイトウさんが私を庇ってくれてるようで、そっちの方が何だか嬉しかった。「まあ…さ、あの子たちにしてみれば、あんまりバリバリ仕事されちゃうと、同じペースで仕事しないといけないように感じるから、そんなこと言っちゃうんだろうと思うけど。でも正直、仕事でトラブった時にあの子たちじゃ、適当なことしか言ってもらえないから頼れないのよ。」そうだよなぁ~と頷いた。一般職の子達と仲良くしてるB子たちは、総合職って立場が煩わしいのかもしれない。彼女たちからしてみたら同期の私といつも比較されていて、私さえ手を抜けば、もっと立場は気楽なはずだから。うちの会社は女は使い捨てって部分があって、代えがきく電話業務や入力業務に沢山の女性を雇ってるけど、ほとんどは派遣やパートで安く使ってる。総合職の女性や、デキる一般職の女性だけが、そういった代えの利く仕事を経験してから、企画や営業、事務系の仕事になるから、ある意味、一般職の女性にとっては、エリートの道ってことになってるのかもしれない。(社内のエリート男性を捕まえる道でもあるかもしれないけど。)それに自動的に乗ることになってる総合職の女子は、男性ほど仕事がデキてしまってもいけない雰囲気で、なのに仕事は男性並みにやらなくちゃいけない状況で。やっかみの対象になるか、うまく立場を利用して仲良くなるかのどちらかだ。B子たちは上手にその波に乗ってるように見えるけど、私はどうもその波に上手く乗れない。だから浮いてるのかもしれないし、黙々と働いてしまう。最近少し、企画の仕事が任されるようになったから尚更そうなった。そんな状況を知ってるのか知らないのか、客観的立場にいるイトウさんは話を戻して続ける。「そしたらイシタニくんがそう言ったから。ミゾグチさんのことぽーっとして見えるって言葉を使うことで、ヤンワリと、けなしてる感じもしたけど庇ってるような気もしたの。」イトウさんが言うことに納得して頷きながら聞いているものの、どうもイトウさんは私とイシタニくんをくっつけたいみたいで、その部分だけは否定してるのに、イトウさんは楽しそうに付け加える。「それで何となく何かあるのかな~って。 いいじゃない、イジワルなことする女の子たちから庇ってくれる男性がいるって~!ねえ、イシタニくんってミゾグチさんのこと好きなのかもよ?」最後の言葉に、無い無い!って思いきり否定して、私もイシタニくんも付き合ってる人オンリーですよ!って言ったら、そっか、オンリーか、つまんないなぁ~とイトウさんが笑ったので、私も可笑しくなって笑った。会社の人とこんなに笑ったのは久しぶりだった。イシタニくんに庇われたとしたら嬉しいのは確かだけど、もしそうならイシタニくんも、冷やかされたり女子に攻撃されることで、A先輩の彼みたいによそよそしくなるかもしれない。周りに誤解されないように気をつけなくちゃな…って、私は思いながら紅茶を飲んだ。それに今回イシタニくんは、女子の敵にならないように係長を立てただけなような気がしていた。それが私のために言ったワケじゃないだろうと思うのは、私が歪んでしまったからかもしれない。男と女ってだけで、せっかく仲良くなりそうだった人が離れて行く。女同士でも難しいけど…。係長も、もう余計なこと言わないでいいのになぁ。なんて思った。だけど、嬉しかった。いつもは、女子の言いなりになってる、親切で人畜無害な係長が、自分を見ててくれたこと。イトウさんが私のこと、仕事面で認めてくれていたこと。イトウさんとは、結婚の相談なんかもできて、恋愛観の話なんかもお互いにして、その話で盛り上がって、昼休みがアッと言う間に終わった。楽しかった。ホント。久しぶりに…。いいことありますように、見てる人は見てるよ…って、マッシーがメールで送ってくれた言葉が蘇った。マッシー、いいことあったよ。今日は、あったことをマッシーにメールしようと思った。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月06日
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今日の日記(サンセット・ディナークルーズご報告☆) 「ある女の話:カリナ64(会社生活)」やっぱり青山くんの結婚しようって話は、私をなだめるためのその場しのぎだったらしい。でも、それでも私はそこまで言ってくれた青山くんの気持ちが嬉しかった。今は青山くんに新しい仕事が入ったことで忙しいみたいだけど、毎日ショートメールだけは欠かさずに入れてくれる。そんな律儀なところも青山くんらしい。自分は愛されてるんだな~って。すごく安心できてる。イイ友達もいて、コレで職場まで天国だったら、きっと私の人生はうまく行きすぎなんだ。そう思って、B子に無視され続けて、B子の周りにいる女の子たちが私のことを煙たがっても、私はもういいや…って思った。A先輩は相変わらずだ。多分伝票が無くなるのは、この二人のうちどちらかの仕業なんだろうな…。私は大事な伝票や資料は、ちょっと席を離れる時でも机に鍵を閉めるようにした。残業も増えた。誰も手伝ってくれないから。意地を張って、やりとげちゃう私ってバカなのかもしれない。唯一、派遣の女性の一人が、黙々と手伝ってくれてるけど、彼女は時間になると帰ってしまうので、「ありがとうございます。」としか話したことがない。彼女はニッコリ微笑んで、「じゃあまた明日お願いします。」と帰って行く。ホントは心の中で拝んでる位だ。年上の既婚者。きっと年下の私からの仕事なんて、やりにくいと思うのに。私もあんな女性になりたい。男の人たちはマイペースだ。関わり合いになると自分に火の粉が降ってくるといけないと思ってるらしく、遠くで火事をやじ馬する人たちみたいだ。ちょっと面白がってるような気がする。まあ、いいけど。最近の救いはイシタニくんだ。課の統合のお陰で、私が挨拶をするとイシタニくんが笑顔で挨拶を返してくれる。イシタニくんは誰にでもそうなんだけど、そのお陰で、あっさりと挨拶する人が増えた。誰もが笑顔で挨拶しなきゃな~って思ってるのかもしれない。彼の笑顔を見てると、何だか元気がもらえる。彼には元気無く挨拶したく無いな、って気持ちになる。強くならなきゃ!って思う。B子は、私が挨拶しても返してこない。私から挨拶するのが当然って態度を取る。ガンバれば、いつかは通じるのかな…でもちょっと疲れた。青山くんは仕事が忙しくて疲れてるみたい。残業も目いっぱい。なのに青山くんは自分の仕事のグチは一切言わない。私ばかり話してて、何だか申し訳なくなる。「アオヤンは仕事で大変なことは無いの?何だか私の話ばかりで悪いみたい…。」私はそう聞いてみた。「ん~、そりゃ疲れるけど、それは自分の力不足って言うか、言い出せばキリが無いって言うか…。でも、解決したり、ちょっと信頼もらえたりすると、何か力出てくるし。明日はココを何とかしようって思うんだよね。」「そっかぁ~。今の仕事、アオヤンにきっと合ってるんだね。私も…今は後輩も入ってきてるし、人間関係よりも仕事に集中しなくちゃね。」そんな話をしていると、何だか自分のことが更に情けなくなってくる。心のどこかで、いざとなったら青山くんとの結婚に逃げればって思ってるのかもしれない。でも、マッシーも言ってくれてた。それは逃げじゃなくて、人生の岐路っていうか、選択肢の一つじゃないか…って。マッシーと話してると、素敵なものの見方をいっしょに探してくれるみたいで嬉しくなる。あ~、でも結婚。今は仕事をいろいろ任されるようになったせいか、お互い実家で生活してるのがありがたいと思ってしまう。お金を少し家に入れることで、家事を親がしてくれている生活。最近は残業のせいで簡単なサンドウィッチやオニギリが増えた。お陰で体重が入社より7キロも減った。親が心配するくらい。お母さんがガンガン洗うと服がすぐダメになるから、休みに洗濯は自分でしてるけど、今青山くんと結婚しても、青山くんは眠りに帰るだけな気がした。泊まりでのデート。青山くんは私を抱くと、いつの間にか眠ってることが多い。疲れてるんだな…。私は子供みたいな寝顔のほっぺたにキスをして、髪をなでる。結婚したら安心した分、今よりも会話が減ったりするかもしれない。そして自分の分と青山くんの分の家事を、一気に引き受けることになるのかもしれない。働きながら?それとも会社を辞めて、もっと楽なところに勤めてみる?家事って言う仕事が増えるだけで、こんなに忙しい人といっしょに暮らせる?フッとそんなことが頭をかすめる。仕事を辞めて、青山くんを待つだけの生活が何だか怖かった。私の生活が青山くんだけになってしまいそうで。負担になりそうで。だから結婚の話も蒸し返したりしなかった。今は何も考えずに会社に行ってた方がいいんだ。マッシーと話していない時の私の気持ちは、またもや何だか後ろ向き。自分の仕事が決まってきて、やり方が決まってきて、それをキッチリとこなす毎日。何だか機械みたいだな。ちょっと手抜きすることも覚えた。泣いてた日々が嘘みたいに空虚。今は何も感じなくなってる。B子とは挨拶さえしないのが普通になった。マッシー、コレが強くなったってことかなぁ?なかなか会えないマッシーに、私は心の中で話しかける。そして心の中で整理できたことを、マッシーから返ってきたメールに返事を書く。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月05日
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今日の日記(「救命病棟24時スペシャル」観ました! ) 「ある女の話:カリナ63(マッシーの返事メール)」送信者:マツシマカエデ件名:大丈夫? 結婚かぁ~。結婚ね~。 青山くんてば、ずいぶん強力な武器を出してきたなぁ~! 吹っ飛びそうだぜぇ~! でもさ、でもさ、結婚って言葉さえ言うってことは、 それってケンカの時だけじゃなくて、 一応いつも考えてるってことなんじゃないかな~? なんて思っちゃいました! 深読み? 普通なだめてるだけで会社やめて結婚すればいいなんて、 冗談で言わないからね~。 私が男でも同じこと言っちゃうと思うよ。 だって、カリナの周りの女、最悪過ぎるよ! B子なんて、ホント、子供って言うか、何ていうか…。 A先輩のヤキモチも正直度を越してるって思うし。 たかが彼氏がカリナのこと仕事で褒めたくらいで変な人~! でもさ、カリナはさ、 何ていうか女の子って感じのオーラみたいなのがくっついてて、 それがある種の女の嫉妬心を煽ってるのかもしれないよ? だから、男の人たちが褒めたり庇ったりすると、 余計にその女たちが怒り出してる気がする。 しかもカリナは自分ではわかってなくて、 天然にそのオーラを出してるからね。 マジでカリナはカワイイっすよ~! 私が奥さんにしたい位だけど、私は女だからなぁ~。 あ!今度帰る時に奢りなんて、そんなことオネダリしてませんから。 ええ、ホントに。 いやでも、そんなに奢りたかったら、メゾンのケーキをヨロシク! いっしょに食べに行こうよ! それから、逃げってカリナは言うけど、 逆に考えて、結婚っていう道もあるんだって思っておけばいいと思う。 ひとつの家庭を作ることって、その二人にしかできないことだし、 誰も代用が利かないものを二人で作ってくことのはずだし、 会社よりもやりがいあるかもしれないよ。 (やりがい?変か?) だからそれは逃げなんかじゃない。 人生の岐路の時期にかかってるだけだと思うよ。 …あ、何か偉そう? まだ結婚さえしてないのに説教くさい? オヤジっぽい?(笑) あ~っと、オヤジで思い出した! 話はそうそう、後輩君の話~! ん~、それがさ~、カワイーんだよ~。 カワイーんだけど… でもそれだけ~!!! 何だろ?手応え無いって言うか、話してて疲れるっつーか。 ほら、話題を合わせて気疲れしちゃうんだよね…。 いや、そんなの求められてないってわかってるんだけど、 「え?それ何ですか?」 とか言われるとジェネレーションギャップ感じるんだよね。 当然かな~。 あと、 「あ~、そういえば流行ってましたよね。 楽しそうだな~って思ってましたよ。 その時小学生だったから、蚊帳の外って感じだったっていうか… 流行ってると何でもできるもんなんだな~ って子供心に思ったりしましたね。」 なんて言われるとキツイわ。 自分が一気に歳とったような気分になる… まだ20代なのに!!! んなワケでダメダメ~! 彼が悪いワケじゃなくて(むしろすっごいイイ子!)、 惹かれる何かさえ感じれば、歳なんて関係無い気がするんだけどね…。 あ~! せっかくチャンスだったのに、 んなこと言ってるから、なかなか付き合えないんだろなぁ~。 でも、今度取引先のオジサンに気に入られて、 見合いっぽいことセッティングされそう… どうしよ… でも、今私は気楽なフリーなんで、会ってきまーす! でもってまた報告するね♪ 最近、もうそういうのがネタになってるなぁ~。 そうだ!カリナこないだのメール、「ごめんね」がいっぱい! こんなふうにカリナのことをしたB子が憎い!!! B子みたいなヤツに気に入られる必要なんかないから。 カリナはカリナのままでいいから。 私には気を遣ったりしないでいいからね~。 見てる人はちゃんと見てるよ。 世の中そんなバカばっかじゃないって信じたい! カリナに沢山いいことがありますように~!(私にも!) いや、きっとある! 私たちに明日はある! 愛をこめて マッシー♪前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月04日
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今日の日記(去年観て面白かった映画☆) 「ある女の話:カリナ62(男性の同僚)」きっかけは私がイシタニくんと資料整理をしていたことだったと思う。イシタニくんは隣の課にいて私の二年先輩にあたるけど、童顔と専門卒で周りの同期と同じ歳か年下なことから、みんなに「くん」づけで呼ばれていた。それを知ったのは最近私の課と合併してから。話をしてたら同じ歳だってことがわかった。同級生って聞いてから、私たちの仲で少し打ち解けた気分があった。いっしょにする仕事が時々あって、ポツリポツリと当たり障りの無い世間話をする。だからかもしれない。今日はいきなりこんなことを聞いてきた。「ミゾグチさんてさ~、彼氏いるんだよね?」いつもの穏やかな何でも無い世間話の延長のようだった。「うん。いるけど。」いつも通り愛想が悪く無く、あたり障りない程度の短い返事をした。イシタニくんは、誰にでも人当たりが良くて、ちょっと青山くんと似た雰囲気をもっていたから、別に隠すことも無いだろうと、その時は思った。職場で変な噂を立てられたこともあって、私は職場の人たちに警戒心が強くなっていた。今までイシタニくんがプライベートを聞いてきた事は無い。私は何か聞かれれば、それが明日には職場に広がっているような、そんな疑心暗鬼にかられていた。でも、それよりも、自分に何かを話しかけてきてくれる人がいることの方が嬉しかったりした。末期かもしれない。私は淋しかったんだと思う。「そっか~、付き合ってどれくらい?長いの?」でも何でこんなこと聞いてくるんだろう?正直この前いいたい放題なことを言ってきた同期のベップのことを思い出した。ベップ=B子。あんたなんかと付き合う男いるの?だの、友達いるの?って言ってきた女。いるって答えたから、それがイシタニくんに伝わったとか?人って不思議だ。どうして自分に味方がいるって思うと、あんなに強くなれるんだろ。どうして誰かが誰かを嫌いになると、その人の短所をほじくり出して、自分も嫌っていいって思えるんだろ。何だか学生時代の繰り返しをしている気がした。今度は外堀を埋める無視に加えて攻撃系。コレが私が思ってた大人なの?まるで子供返りだよ。大人は子供より性質が悪い。問題があるような人間とは、わざわざ関わりたくないから、いっしょにいる人と無難に合わせておく。一人で行動すると攻撃を受けることがあまりにも多いから、みんな集団で行動するんだろう。これが社会的協調性。大人になったのに一人でいられないなんて変。でも大人になったからなのか。自分と波長が合う人なんて早々いないことがわかる。でもとりあえず、今回のことで私はベップのことが嫌いになった。まるで全員彼女の仲間かのように、みんなを連呼する彼女。みんなって誰?ちゃんと個人名を言って。あなたは、みんなにそんなに好かれてるの?みんなが私を嫌いって言うなら、私は、そんなこと言うアンタが大嫌い。そうキチンと言える自分になりたい。…ため息。またベップのことを思い出して、そんな自分にゲンナリして、つい聞かれたことに返事が遅れたのを、イシタニくんは私が不愉快に感じたと思ったらしい。「あ、ゴメン。いや、俺さ、今付き合ってる子がいるんだけどさ、何て言うか、最近彼女、俺の携帯勝手に見たり、手帳見たりするんだよね。彼女だからってさ、そこまでするのどうなんだろ…って、最近思ってて…」「え?そんなことするの?」意外な話に、つい思ったままの声が出た。「うん…。ミゾグチさんは彼氏にそういうことしたことある?」「ううん…。無いなぁ。でも、どうしてそんなことするの?イシタニくん何か隠し事でもあるの?」「別に無いけどさ、そりゃあ男だから、それなりにいろいろ彼女に言えない付き合いもあるけど…。彼女、俺の行動が気になるんだって。見たって付き合ってるんだから当たり前みたいに言われると強気に出れなくてさ。」確かにイシタニくんは真面目でムキになるし、童顔だからか、よく女の子にからかわれていた。男女問わず可愛がられるタイプだと思ってたけど、彼女は、かなり独占欲が強い人なのかもしれない。「好きだからするんじゃないかな。」何でそんな話をされたからわからなくて、彼女に愛されてるノロケかと思って適当に答えた。「好きだとそういう行動するの?じゃあミゾグチさんは彼にそんなことする?」「ううん…しないけど。」「好きじゃないからってワケじゃないよね?」「うん…だって、そんなの知っても仕方無いじゃない。疑ってるワケじゃないけど、知らぬが仏って言うし。」「俺もそう思う。」それからお互い黙々と作業を進めた。手を動かしながら、私は過去の自分を思い出した。束縛される自分、する自分。知りたくも無いことを沢山知ってしまった時の嫌な感じ。でも、知らないのが良しとも思わないけど。今青山くんとの穏やかで優しい付き合いとはエライ違いだ。そう思うとイシタニくんが何だか気の毒に思える。カタログのファイリングが一冊終わったらしくて、ドサッと一冊、机の上に置いたイシタニくんは、ちょっと疲れたように見えた。会議室の向こう側にみんなが働いてるのが少し離れて見えた。だからなのか、イシタニくんは警戒心無くこんな話をしてきたようだった。何でそんな話をするのに私を選んだんだろう?って思ったけど、すぐに、私なら誰にも話さないだろうからだと思った。話さないじゃなくて、話せない。私には会社で話す相手がいない。私がいつも一人でいるから。そういう立場の自分が何だか悲しかったけど、それでこういったプライベートを打ち明けてもらえるのも悪くないかな…と思った。多分、イシタニくんは誰にも話されたくないから私を選んだ。彼女の悪口を言ってるみたいなのが嫌だから、困ったり疲れたりしてても誰にも言えなかったから、私を選んだのかもしれない。「イシタニくんは優しいんだね。」私はイシタニくんが分けてくれたカタログに穴を開けながら言う。「そう?何か情けなくない?もっとキッパリ言えばいいんだけどさ…。」「言いたいこと言うと相手を傷つけちゃうから…って思ってるんじゃないの?」「…」イシタニくんは何か考えてるみたいに、その返事をしなかった。「ミゾグチさんはそうなの?」「え?」いきなり話が自分の方にふられたので、咄嗟に何て言っていいのかわからなくなった。今の質問は会社での私のことを指してるんじゃないかと思って。「ミゾグチさんて、聞いてた感じと違うな~。俺が思ってた通りの人な気がする…」「聞いてたって何を?」イシタニくんはそこで言っていいのかどうか迷った顔をした。「あ、ううん、いいや別に。聞きたくないし。もう誰にどう思われてたって別にいいし。」投げやりに言って、私はイシタニくんから目を逸らした。悲しい気持ちでいっぱいになってた。イシタニくんが、どうフォローしようか戸惑ってる空気がわかる。別にイシタニくんが悪いワケじゃない。気を遣わせてしまうようなことを言った私がいけないのかもしれない。泣きそうな気持ちを抑えて、無理に笑顔を作った。「ずいぶん沢山カタログがあるんだね。私、あっちから付箋取ってくるね。それとデータの取り込みが必要だよね?」私が席を立って行こうとすると、ずっと黙ってたイシタニくんの声がした。「あ!あのさ…」何?って私が振り返ると、席に座ったままイシタニくんは申し訳無さそうな顔をしていた。「いや、何でもないよ。ゴメン…」そのゴメンがどこにかかるのか、何となく、わかったような気がして、私はおどけて言った。「えっと…別に大丈夫だよ。では、行ってくるであります!」イシタニくんは、一瞬ホッとしたような顔になって、私に調子を合わせてくれて、同じように敬礼してくれた。「ヨロシクお願いしますであります!」お互い何だか可笑しくて笑った。泣いたりしなくて良かったと思った。こうして少しずつ話せる人が増えるといいな。まだガンバろう…私。前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月03日
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今日の日記(サンセットディナークルーズ) 「ある女の話:カリナ61(カリナのメール)」送信者:ミゾグチ カリナ件名:ちょっと相談ごと マッシーあのさ… 今日の私はすごく落ち込んでるよ。メチャメチャ自己嫌悪…。 聞いてもらっていいかな。 って、聞いて欲しくてメールしてるんだけどね。 長いの覚悟してね…。 最近ね、青山くんの態度がすごく変だったの。 今日はご飯食べてる時も上の空って感じで。 仕事のことでも考えてるのかな…って思ってたんだけど、 最近いつもだったんだけど、何か言いたそうなのに、 全く私と目を合わせようとしてくれなかったんだ。 それは気のせいだと思いたかったから、 ずっと笑って流してたんだよ。 でもホントは、ずっと思ってたの。 もう、こんな私のこと、うっとおしくなっちゃったんだって。 青山くんが優しいから、つい甘え過ぎたし、グチり過ぎたな…って。 嫌われたくなかったから、言わないように気をつけてたんだけど、 そういう気の遣い方とか、抑えてる態度って、 言葉にしなくても伝わっちゃうっていうか、重荷になっちゃうんだろうな…って。 だからね、今日は、ちゃんと覚悟して会いに行ったんだ。 もしも別れたいなら、キッパリそう言ってもらおうって。 青山くんは優しいから、 言えないのかな…って思って。 そしたら爆発しちゃったんだよ…。 最後なんだから、もういいや!って。 溜め込んでたこと全部話しちゃったの。 この前話したB子に言われたこととか。 私ずっと引きずってたみたい。 A先輩とのことなんて、B子は何もわかってないのに。 なんで私と付き合える人がいるワケないとか、友達いないに決まってるとか、 ズケズケ言われなきゃなんなかったんだろう?って、 私の心にずっと突き刺さってたんだよ。 バカみたいに泣き出しちゃって、 青山くん、ビックリして呆然としてたよ。 私投げやりだったの… メチャクチャ投げやりだったの… このままじゃB子の思うツボだな…って、 わかってればわかってるほど止められなくなっちゃった。 多分私が不幸になれば、みんな面白くて嬉しいんだって、 こんなヤツラのために、こんなに悩んでる自分が何だか悔しい。 そんなふうに思ったりする自分がもう嫌になっちゃったし、 自分でも自分をどうにもできなくなっちゃったよ…。 そしたら青山くんが仕事辞めちまえ!って、 あの穏やかな青山くんがね、 怒った顔してたの。。 今まで聞いたことが無い位、大きな声出してたよ。 今から思うと、私と同じ位腹を立ててくれてたんだよね…。 でもその時は、そんなこと思う余裕無くて、 人前でバカみたいに大喧嘩だよ。 喧嘩って言うのかな…。 青山くんは別れる気なんか無かったらしくて。 で… その時に、青山くんに結婚しようって言われたんだけど、 それって喧嘩の流れで言ったんだと思ったんだけど、 正直それも悪くないかな…って思っちゃう自分がいたよ。 でもこんな気持ちで、 こんな投げやりみたいに、逃げみたいに、結婚しちゃっていいのかな…。 ゴメンネ、こんなメール。 まださっき帰ってきたばかりで、 お風呂でもグルグル考えちゃってて、 落ち着かなくてメールしちゃった。 みんなどんなふうにして、結婚を決めてるんだろ。 私にはまだまだ遠いことだと思ってたんだよ。 妹が親なんか全く関係無しで彼氏と同棲しちゃってることで、 結婚しちゃうのかな~って思うけど、 親は私にも警戒心バリバリだよ。 でも家でもイイ子でいようとする私って何なんだろって思うよ。 ホントはね、結婚とか考えずに仕事辞めちゃいたいの。 誰にも何にも責められない場所で、 ずっと頭のスイッチをオフしてたいの。 でも、そんなことしたら、親にも迷惑かけるし、 辞めてどうするんだろ…って思うし。 こんな私、どこに行ってもこうなんじゃないかと思うし…。 青山くんは好きだけど、 どこかフワフワしていて掴みどころが無いって言うか…。 優しいから、自分の意思を表に出して無いって言うか、 だから今回お互い爆発しちゃったのかもしれないなぁ…。 なのに、こんなに青山くんに心配ばっかりかけてたら、 そのうちホントにウンザリされちゃうよね。 マッシーにもゴメンね。 そうそう、この前会うことにしたって言ってた後輩くんはどうなった? 好きになれそう? 話を聞いてるとイイ人そうなので、報告楽しみにしてるんだけど~♪ 書き出したら長くなっちゃった~。 ホントにゴメンね! ミゾグチ カリナPC 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月02日
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今日の日記( 元旦は福袋に映画の日♪「AVATAR(アバター)」「カールじいさんの空飛ぶ家」) 「ある女の話:カリナ60(マッシーのメール)」送信者:マツシマ カエデ件名:こんばんは! よお~!飲んできたよ。 周り飲む人ばっかりで、明日休みかと思うとついつい…ね。 こっちはとってものんびりしててイイです。 今日は行った先で野菜をもらってしまったよ。 一人暮らしだともらっても料理がおっくうなんだけどね~! パソコンはいいね。 携帯と違って長い文が簡単に打てて。 実はさ~、タッチャンからメール来てた。 結婚することとかさ、いろいろ~ 私さ、今どうしてこんなことになってるのかアレコレ考えちゃうよ。 タッチャンのクラスの女の子が自殺しちゃった時に、 どうして大丈夫だって思っちゃったんだろう…って。 どうしてもっと側にいてあげなかったんだろう…って。 あの頃はそんなに簡単にダメになるなんて思っても見なかったんだよね。 私は仕事に慣れなきゃいけなくて、 とてもじゃないけど休んでまでタッチャンの側にいてあげられなかったし、 休んだところで何もできないって思ってた。 でも、今思うとそうじゃなくて、 そういうのを理由にして、タッチャンのこと大人だと思って、 何にもしなかったのかもしれない。 でももしもあの時、 仕事を放り出してタッチャンの側にいても、 本当に何もできなかったと思うし、 もうきっとダメだったんだろうね。 タッチャンのお父さんが事故で亡くなってから、 お母さんが心臓悪いのが悪化して入院してたし、 精神的にも辛かったのかもしれないけど、 タッチャンのお母さんが私の親に対して嫌な態度取ることも多過ぎた。 仲が良かった分、そうなっちゃったのかもしれない。 付き合ってるなんて、 お互い多分ずっと言えなかったと思う。 ダメになる要素は沢山あったんだな… なんて、一人になるとホントいっぱい頭に浮かぶよ。 でもさ、 本当にタッチャンといると楽しくてさ。 タッチャンが実家に戻るまで一人暮らししてたアパートで、 二人で過ごしてたことばっか思い出しちゃってさ、 今こうして一人で暮らしてみると、 彼以外何もいらなかったのになぁ~なんて思う。 でも彼がいなくなってみて、 仕事してて良かったなぁ~とも思う。 じゃなきゃホントに何も無くなってたよ私。 ここはちょっと行くと海が見れる。 みんなのんびりしてるよ。 だけど何だろうね。 そっちのゴミゴミした空気が懐かしいよ。 あ~、暗くなった。ごめんね! ユウの結婚式の日は、久しぶりにハジけたいな! もう友達が結婚しちゃうなんてね。 ついこないだまで学生だと思ってたのにね。 次は誰かな? カリナだったりして~! カリナはどう? 大丈夫? 青山くんがいるから、私の出番は無いだろうと思ってるけど~。 もしも青山くんに言えないようなことがあったら、 私のことを思い出してね。 カリナは一人じゃないよ。 長くなっちゃった! 洗濯物がたくさん溜まっててウンザリ。 私が奥さん欲しいです! 男はいいな~! ではでは~。マッシーから届いたメールを読んでたら、涙が出てきた。こんなメール、スギモト先生に出せば良かったのに!って。そうすれば、先生、結婚しなかったかもしれないのに!って。自分の方が一人暮らしして独りなくせに、彼がいる私の方を心配してくれる。私が一番欲しかった言葉。どうしてわかるの? カリナは一人じゃないよ。コレは、もしかしてマッシーが欲しい言葉なのかもしれない。私は何もできない。マッシーが欲しいものを与えられない。私がもしも男だったら、いや、マッシーがもしも男だったら、マッシーのところにすぐに行く。すぐに行って、私がついてるからね!って言って、沢山の洗濯物を片付けて、仕事が終わる頃にはマッシーの好きな物を作って用意してあげるんだ。そんなようなこと書いたら、それは青山くんにいつかやってあげなさいって返事が来た。無力だ…人は人に何ができるんだろう?私の方の会社生活は悪化をたどっていた。私がお客さんから受けた伝票が紛失した。どうやら私と組んでいた男性社員と先輩女性が付き合ってたらしい。その男性が私のことを、よくやってくれてるとか何とか、褒めたのが気に入らなかったらしくて、その先輩の嫌がらせだってことはわかってる。神経性の胃炎になって、トイレで気持ち悪くなって吐きそうになってたのを、妊娠してるって噂を流された。たまたま行った総合病院で、私を見かけた人がいたらしくて、中絶したらしいって噂まで流れたようだった。そこまで言われることが、更にショックだった。ホントなの?って影で確認してくる同僚もウザったかった。なのに私もマッシーと同じで仕事を辞めなかった。何も無くなってしまった時に、きっと仕事は私の味方になる。私はそう信じていた。だって、あれだけ仲の良かったマッシーたちだって別れたんだもの。青山くんが、いつ私からいなくなってもおかしくない。青山くんと会う度に不安になる。この手がいつかいなくなってしまうかもしれない…。「そんな顔されすると帰れなくなるんだけど…。」会社の愚痴をついこぼしてしまったデートの帰り、青山くんが心配そうな顔をして私の頬を撫でる。妊娠の噂を流されたことまで青山くんには言えなくて、それでも、つい泣き出してしまったことで、青山くんがかなり心配してるのがわかった。それだけで、中途半端な愚痴をこぼしたことを後悔していた。そんなに心配されるような顔をしてた?頬に触れられた青山くんの手を握って、自分の頬にピタリとつける。ずっと側にいてくれる…?その本気で心配してくれた刹那が、何だかとても嬉しくて、でも心配させたくなくて、心の中で呟いて、笑顔を作った。好きな人がここにいてくれるのは奇跡だ。その一瞬を大事にしたいと思った。 前の話を読む続きはまた明日目次
2010年01月01日
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今日の日記(年末のご挨拶と「40女と90日間で結婚する方法」感想☆) 「ある女の話:カリナ59(友の恋の行方)」秋には赤木くんがサキちゃんを、イグチくんも彼女のミドリちゃんを連れてきてくれて、バーベキューをした。ミドリちゃんは地元から遅い夏休みを取ってこっちに出てきたらしい。小柄でのんびりした話し方をして、ニコニコしてる、安心感のある女の子だった。イグチくんがベタ惚れらしい。わかるような気がするけど、シャイなイグチくんは見え見えなのに、それを出してないフリをするのが可笑しかった。サキちゃんが気が強そうで、ハキハキ物を話す子だったので、すごく対照的だと思った。そこがまた女3人でいても妙にしっくり馴染むなぁ~と思った。もしもこのままみんな付き合っていられたら、この二人とは長い付き合いになるんだろうな。それがとても楽しみになりそうな出会いだった。なのに…赤木くんはサキちゃんと別れてしまったと言う。これは後々まで尾を引く。当時、私はこんなに男の人って引きずるものなんだ…って、彼を見て初めて知ったような気がする。ようやく内勤になれたとかで、新しい仕事を覚えなきゃ大変、って楽しそうに話してくれていたサキちゃん。「女同士でこんなに楽しいのってあんまり無いかも!これからもずっとヨロシクね!結婚してもさ、いろいろ相談してもいい?」アレが最後の会話だったなんて信じられない。どうして別れることになっちゃったんだろ?それはきっと当人同士にしかわからない何かなんだろうけど…冬になって、赤木くんは腸閉塞で入院した。別れたこともあったのか、お見舞いに行った時の赤木くんの笑顔が何だか淋しそうだった。マッシーは仕事であちこち出張で行くことが多くて、その日は、たまたま時間があって、私達といっしょに赤木くんのお見舞いに行くことができた。「赤木さん、ちーっす!」「マッシーさん、ちーっす!ひっさびさだなぁ!ちょっと痩せたんじゃね?化粧のせいなのかな~大人の女って感じ?変わるもんだなぁ~」休日でも仕事帰りなので、マッシーはスーツだった。ショートの髪は学生の時は少年のようだったけど、今はマッシーの化粧をした顔に映えて、性格の潔さを滲み出していた。マッシーの仕事時の顔を赤木くんは初めて見たらしい。社会人になる時に、私が整えてあげた眉。私から見ても、マッシーはサバサバした美しさを放っていて、とてもキレイで誇らしかった。「何スか、褒めたとこで何も出ないッスよ!それとも私を口説いてる?」「あはははは!そうそう!入院したら気弱になっちゃってさ~見舞いなんか来てもらえるとホロリときちゃうんだよ~」「目の手術までしたのかと思いましたよ。どんな女もキレイに見えるような」「あ~、そんな手術ができたら幸せなんだけどねぇ~。ついでにモテるようにして欲しいね~。」「今でも赤木さん充分モテそうですよ。」「何スか?褒めたとこで何も出ないッスよ!それとも俺を口説いてる?」社会人ですからね。何だよ営業トークかよ。って、久しぶりにマッシーと赤木くんの掛け合いを聞いた。二人の会話でゲラゲラ笑った。たまたま病室に人がいなくて良かった。それ位、二人の会話はいつも面白過ぎた。退院したら、二人にホワイトデーも兼ねてお礼するから~って、赤木くんは元気そうに言って、青山くんを病室に残して、私とマッシーは久しぶりにゆっくりとお茶にした。「タッチャンと別れることになりそうなんだ」マッシーはケーキを一口食べて、紅茶を一口飲むとサラリと言った。私は一瞬何を言ってるのかわからなくなって、一口切り分けたケーキが、口に運ぶ前にフォークからポトリと落ちた。「え…?」「うん…」「うそ?」「ほんと。」マッシーはフォークでケーキを切って頬張った。「ここのところ学校でトラブルがあるって言ってたんだけど、会おうとしてくれない。私もしょっちゅう仕事で忙しかったし。女いるかもしんない。マズいかもしんない。」「女?先生が?…まさかぁ…」「そのまさかかも…。そういうの、何となくわかる。もう長い付き合いだし。」「確認したの?証拠とか?」「いてもいなくても私関係ないと思ってたから。私が好きなんだから、私が嫌いになんなければどっちでも同じだしって。でも…」マッシーはそこで紅茶を飲んだ。私は次の言葉を待った。「タッチャンはバカに真面目な男だから、フタマタしてることに苦しむだろうと思う。そういうのはどちらに対しても誠実じゃないって考えそう。だから、私を切るだろうね。」「なんで?!なんでマッシーなの?」「新しい女は裏切って無いけど、私のことは裏切ったって思うだろうから。その罪悪感に耐え切れないと思う。」そんな…バカな…私は力が抜けそうになった。って言うか、気持ちはガックリときていた。マッシーはそういうことを確信も無く簡単に言うタイプじゃなかったし、決めたことの直前か事後報告が多い。そこに現実感があった。「もっとズルく要領良く生きればいいのに。私は見ないフリだって何だってできるんだから。」マッシーは独り言みたいに紅茶を見ながら吐き捨てるように言った。「思ったことちゃんと伝えれば?」私の方がすがるように言った。「向こうが言ってきたら、別れようと思う。苦しめたくないし。自分はその程度の女だったんだって思うことにしようと思う。」自分に言い聞かせているのか、キッパリとマッシーは、そう言った。「そんなに割り切れるもの…?」「わかんない。理想論かも。実際きりだされたら泣いてすがるかも…」何とも言えない沈黙が訪れた。カラオケ行きたいな…ってマッシーが言った。行こう!行こう!って私が言った。二人で思い切り歌って、飲んで、その日は久しぶりにマッシーの家に泊まった。聞いた話が嘘だといいのに、って思った。でも、隣で眠っているマッシーが、声を立てずに泣いてるのがわかった。肩がふるえていて、ティッシュで静かに涙を拭っている音が聞こえた。私にできるのは、それに気付かないフリをしてあげることだけだった。マッシーが私にしてくれたように、何もできなかったことが歯痒かった。春になって、マッシーは家を出た。異動を申し出たらしい。思っていた形と違う家の出方だった。マッシーは先生と別れた。 前の話を読む続きはまた明日?目次
2009年12月31日
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今日の日記( 映画:ガリレオvs特命係長!) 「ある女の話:カリナ58(社会人の休日)」何となく、職場では正社員の女の子たちより、派遣の女性やパートの女性と話してる方がホッとした。だから同期とお昼を食べる休み時間は憂鬱。話してても何か微妙に価値観に違和感を感じたのは、単に同期の女の子たちが、会社の愚痴が多かったり、人の噂ばかりを私にしてくるからだろうか…。何だか笑えない話ばかりで、聞いても、あの人がそんな人なの?と感じるばかりで、疑心暗鬼な気持ちばかりが広がった。お陰で仕事がやりにくくて困った。そんな微妙な空気を感じていたけど、私は週末に青山くんと会えたり、時々マッシーや大勢の友達と集まったりすることで、何となく会社のこともやり過ごせていた。夏になって、赤木くんの彼女のサキちゃんと初めて会って、いっしょに遊園地でプールを楽しんだし、花火大会では春休みに集まってたメンバーが珍しく集まれて、これにサキちゃんも加わって、大きな飲み会になったりした。会社での愚痴は、いろんな会社の話や雰囲気が聞けて面白かったし、最後にはどれだけ変な人がいるかって自慢みたいになって、箸が転がっても笑うんじゃないか?って騒ぎになった。私は隣に青山くんさえいれば、何だかとても楽しかったし、青山くんのボケぶりと赤木くんのツッコミぶり、イグチくんが時々発する一言もまた絶妙に面白かった。ただ、マッシーがスギモト先生を連れてこないことが、少し気になっていた。仕事が忙しいらしくてね。って言ってたけど、やっぱり一人だけかなり年上だし、来にくいのかな…?程度に思っていた。いつか連れてきたら、さぞかしみんなビックリするだろうな。私はそんな未来の光景を頭に思い描いてワクワクする。でも、スギモト先生がみんなに紹介されることは無かった。先生がマッシーと付き合ってたことがみんなに知られるのは、もっと後のことになる。それよりも、その当時は私の方とは逆に、マッシーは仕事が楽しくて仕方がないようだった。マッシーの話から、マッシーが仕事で活き活きしてて良かったって思うのに、私が知らないマッシーの世界が広がっていくことが、少し淋しいような、取り残されたような、複雑な気持ちが沸いた。そんなマッシーの状況を、私がすんなり受け入れられたのは、青山くんと付き合っていたからだと思う。もし青山くんがいなかったら、自分の会社の状況が悪いことばかりに心が奪われてただろうし、自分とマッシーの状況を比較して、落ち込んだり、会うのがつらくなっていたかもしれない。ある意味、マッシーとの付き合いは、男性と付き合ってる感覚に少し似ていたことが、当時の私達の間に良い方向に働いたんだと思う。マッシーとはしょっちゅう会って、お互いの状況を話していたせいなのか、離れても特別な友達って気持ちが一層強まってる気がした。ホントに家族みたいだな…。そう思った。家族でも本音をこんなに深く話せたりしない。もう、簡単にいなくなる友達じゃない何かが、ずっとそう思っていた何かが、いっしょにいた長い年月から確かなものになっていた。彼女が男じゃなくて本当に良かったと思った。もしも男だったら、私は青山くんとマッシー、きっとどっちを選んでいいのかわからなくなる。それ位、私にとってマッシーはかけがえのない友達だった。何かあった時に心に浮かぶのは、青山くんじゃなくてマッシーだった。青山くんは男だから、好きだからこそ打ち明けられない部分もあったし、やっぱりコレはわからないだろうな…とか、コレは話しにくいな…って、まだ躊躇してる部分もあった。誰にも話せないって思っていたことでも、マッシーにならスンナリ話せた。そして、意見が食い違うことがあっても、いつも話して良かったって思ったし、マッシーも話してくれて良かったって…そんな空気がいつも私達の間にあった。でも、そんなことを言ってられなくなった。私たちを取り巻く状況が微妙に変化していること。花火を見て飲みながら笑っていた私たちは、まだ何も知らなかった。前の話を読む続きはまた明日目次
2009年12月30日
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