りらっくママの日々

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2010年02月06日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ96(歳を重ねて)」




「お!青山さん、元気?
バリバリ働いてるって聞いてたけど、どう?」

「え~?どっからそんなこと聞いてるの?
ま~、でも、すっかりお局様だけどね。
何?もしかして、こっちに戻ってきたの?」

イシタニくんが足を止めたので、
いっしょにいた男性たちは先に行ってしまった。

なのでつい、近況を聞きたくなった。
懐かしいイシタニくんの顔を見たのは、いつ以来だろう。

息子を産んだ私は、
マナと同じように1年半ほど育児休暇を取って、職場に復帰した。
復帰すると、見慣れた顔の女性はほとんど辞めていて、
チームモリタも解散することになった。

私は事業展開で手狭になったチームのスタッフに。
イシタニくんはモリタさんの下の部署にあたるところで、
課長補佐になったと聞いていたけど、
新社屋に移ってしまったので、
全く顔を会わせることさえなくなってしまった。

「いや、今日はこっちと打ち合わせで出張。
青山さん、係長になったって、ヤマベに聞いてたからさ。」

「係長なんて名前ばっかだよ~。
派遣さんやバイトさんに仕事説明したり、
できあがったのまとめてチェックするだけだもん。
前にやってたのと、そんなに変わらないよ。」

あははってイシタニくんが笑った。

「まあ、俺も似たようなもんだよ。
でも、聞いてはいたけど、上の事情知っちゃったり、
下の現場の状況も知ってる立場って、ホントツライね~。
コレが中間管理職ってやつ?」

私もアハハって笑った。

「俺、今日はこの後の打ち合わせが終わったら飲んで帰ろうと思ってたんだけど。
どう?久しぶりに会えたし。
大丈夫なら行かない?」

サラリとイシタニくんが言うので、
ビックリした。
私ももう少しいろいろ話したいな…って思っていたけど。

飲みに行くことなんて、最近は仕事でしかなかった。
誘われるのは、若い女の子の方がいいだろうって思ってたし、
心から酔えない。
家に帰ってやることも多かったから。

でも、最近は状況もちょっと違う。
たまにはイイかな…って思った。

「え?あ、大丈夫だけど。
いいのかなぁ、オバさんが混ざったりして。
邪魔じゃない?」

「無い無い!
それに、オバさんなんて青山さんが言うと、俺もオジさんなんだな~って、ショックだよ。
同じ歳でしょ?」

ごめ~ん!そうだよね!って、お互い笑う。
イシタニくんと会社のロビーに6時過ぎに待ち合わせることにして、
何かあったら連絡してって名刺をもらった。

私は母親に電話をして、
マナとユウトの夕食のお願いをして、
ノボルにメールを入れた。

残業の時や、急な付き合いの時は、いつもこうだった。
やっぱり実家のすぐ近くに家を決めて良かったな…って、
こんな時は、いつも思う。

たまにはイイよね。

私は久しぶりの飲みに、
少しワクワクしていた。

仕事じゃなくて、飲みに誘われたことなんて、
何年ぶりだろう。
それに、ここ数年、飲みに行くような気分でもなかった。

仕事を終わらせて、
少し書類を見直してからロビーに行くと、
もうほとんどの定時の人間は帰ってしまったようで、
人がほとんどいなかった。
6時を過ぎたせいか、明かりも消されて、
ロビーは静かで、うっすらと暗いものになった。

私は腕時計を見て、
もしかして、時間を間違えたのかな…って心配になった。

名刺を取り出して、
携帯に電話しようかどうか迷う。

でも、もしもまだ打ち合わせだったら?

そう思うと躊躇した。
相手は仕事なのに、
急かしてるようだし、催促してるような気もする。

私は誘いに乗ったことを後悔し始めていた。

イシタニくんにとっては、何て事の無い社交辞令だったのかもしれないのに…。

少し悲しい気持ちになった。

ずっと待っているのも何なので、
6時半になってから携帯電話の番号を押した。

何だか、いけない逢引きでもするようでドキドキする。

一度だけ鳴らすと、
やっぱりもういいや。って、電話を切った。

もう帰ろう…。

何だかウキウキしてしまった分、一段と淋しい気持ちになった。

私は一体何をしてるんだろう。

会社のビルを出て駅の方へ向かうと、
携帯電話が鳴ってる音がした。

ドキリとしながら携帯を見ると、
表示は、さっきかけた番号。
イシタニくんだった。

「もしもし…?」

「あ、青山さん?」

「うん。」

「ごめん。もしかして、この番号、そうかな?って思って。
今どこにいる?」

私は今いる場所の辺りを答えた。

「あ、良かった!そこなんだ?
じゃあ、すぐ行くから待ってて!」

イシタニくんがそう言うと、電話がすぐ切れた。

しばらくするとすぐにイシタニくんが走ってやってきた。

遠くから久しぶりに見る姿に、
あ、老けたな…
って、今更実感した。

きっと私もそう思われてるだろう。

「ごめん…。ちょっと…
打ち合わせしたとこの部長につ…
つかまっちゃって…」

よっぽど慌てて来たのか、息を乱しながらイシタニくんが状況を話す。

「良かったのに、そんなに慌てないでも。」

「だ…だって…
連絡しなきゃ…帰っちゃって…たでしょ?
時間来て連絡したくても番号知らなかったし、
俺、かなり焦っちゃって…」

いや、そうじゃなくて、
社交辞令を忘れてたとしても仕方無いって思ったし、
もう帰るつもりだったから、
慌てなくていいと思ったんだけど…

そう言おうとして、
私となんて飲まなくてもいいでしょ?って、
ちょっと嫌味が入ってる気がして、言うのをやめた。

でも、イシタニくんの様子を見ていたら、
今までの落ち込んだ淋しい気持ちが、
スーっと引いていくのがわかった。

そして少し嬉しい気持ちになった。

社交辞令じゃなかったんだと。

「えーっと…
迎えに来させちゃってゴメンネ。
どこで飲んでるの?」

もう大勢で飲む気分じゃなかったけど、
とりあえず行こうと思った。

イシタニくんは息を整えて、私の顔を見た。

「あ…、いや、違うんだけど。」

「…え?」

「二人でだと嫌?」

胸がドキンと鳴った。

「あ…
えっと…、いや、そんなこと無いけど。」

こんなふうに走って来てもらって、
今更、じゃあ行かないも無い…よね?

私は心にそんな言い訳をして、
じゃあ、どこにしようか?って言うイシタニくんの隣に付いて行った。




前の話を読む

続きはまた明日

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最終更新日  2010年02月06日 22時21分22秒
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