りらっくママの日々

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2010年02月03日
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今日の日記




「ある女の話:カリナ93(残された想い)」




「え…?」

「どした?最近元気無い?何かあった?」

イシタニくんの言葉に、私はちょっと変な気持ちになった。
ずっといっしょに暮らしているノボルは気付かなかったのにな…
そう思って。

今日は開発部との打ち合わせの帰りだった。
昼間の電車はすいていて、
私たちは隣り合わせで座っていた。

「…友達が、ね、
連絡取れなくなっちゃって。」

「あ、こないだの?」

「うん。なかなか返事が来ないから、
元気?って。
心配してるよ、って。
そしたら、アンノウンって、リターンメールが戻って来たの。
携帯に電話したら、この電話番号は現在使われてないって…」

「それって、
携帯が解約されてるってこと?」

「うん。そうだと思う…。
それで、実家に電話を入れてみたんだけど…
お父さんみたいな人が出て、
連絡のつかないところにいるからって。
電話があったことを伝えて欲しいって言ったら、
わかりました、ってすぐに切られたの。
それから連絡がずっと取れなくて…」

「親友…だよね?」

「うん…。」

「そっか…
そんなことあるんだな…」

イシタニくんは軽くため息をついた。

「なんかさ…、俺の友達もいろいろあるよ。
そういう歳になったのかもしれない。」

「イシタニくんも?」

「うん。自殺しちゃったやつもいるしね…。」

「そっか…。」

私はその話を聞いて、少し不吉な気持ちになった。

嫌な予感がする…。
苦しい…

マズイと思った。
イシタニくんに、つい、まだある不安を話したくなった。

どうしてこう、
イシタニくんは、スルリと私の中に入ってきてしまうんだろう。
どうして、
いろいろ話してしまいたくなってしまうんだろう。

でも、私は我慢した。

「でもさ、俺思うんだけど、今だって、会おうと思ってもすぐに会えないじゃん?
いつか、いつか…って。
だから、その死んじゃったヤツと同様、
連絡取れなくなって会えなくなったヤツもいて、
今はどうしてるかわからない。
お互い、自分の生活があるから。」

「うん。そうだよね…。」

「もう絶対会えないかと思うと、
何か…
心にぽっかり穴が空いちゃったような気分になるけど、
どこかで生きてると思うと、
いつか会えるんじゃないか?って、希望があるよ。
連絡、そのうち来ると思うな。」

「そっか…、そうだね。
ありがとう。」

イシタニくんの慰めの言葉に、心が温かくなるのと同時に、
どうして聞いてくれたのがノボルじゃないんだろう?って思った。

昔は何でもノボルに自分から報告していたし、
何でも聞いてもらいたいと思っていたのに。

でも、今はいっしょに過ごしてるから、
何も話さなくても変な安心感があるし、
心配かけたくなくて、話さなかったりする。
けど、
いっしょにいるんだから、気付いてくれないかな?って思うこともある。

そのことに、ちょっとため息が出た。



「おかえりなさい。」

「ごめん、遅くなって。起きてたんだ?」

帰ってきたノボルは赤い顔をしていた。
週末の飲み会。
ノボルは、ゆっくりと上着を脱いで、ダイニングの椅子にドサリと座った。
私はテレビ画面をジッと眺めていたけど決心する。

多分、待っていても、ノボルは何も気付かないだろう。

ここは疲れて帰ってくるところで、
何も言わなくても気付いて欲しいって期待してたら、
いつか、いっしょに暮らしていても、心が離れてしまうような気がした。

それが、とても怖いことのように感じた。

「…マッシーが、ね、
連絡取れなくなったってこと、言ってたよね?」

「うん…」

ノボルは思い出したように頷いた。

「実は、ユウから電話がかかってきて…
子供をお受験させるとかで、友達に情報をもらうために聞いた話らしいんだけど、
イケダ先生って、うちの学校の女の先生なんだけど…
別居してるって噂があるって…」

それがマッシーとどういう繋がりがあるのかわからない、って表情をノボルはして、
私の話の続きを待った。

私は、ここまで言っても、
まだ話すのをためらっていた。

コレはマッシーの秘密のことだから。

でも、私一人でかかえているのは、
あまりにも重たかったので、決心した。

嫌な予感がする。
苦しい…。

どうして私がこんなに苦しいのか、
ノボルにわかって欲しかった。
それに、ノボルにしか、わからないような気がした。

昔から、私とマッシーのことを知ってるノボルにしか…。

「そのイケダ先生の結婚相手は、マッシーの付き合ってた人なの。
スギモト先生って、私がいた部活の先生なの…。
スギモト先生、学校辞めちゃったって…。
多分、二人が付き合ってたこと、
私以外、誰も知らない…。」

ノボルは少し驚いた表情になった。

「そうなの?」

「…うん。
スギモト先生は、マッシーじゃなくて、イケダ先生を選んだの。
でも、そのことを後悔してるって…
私に言ってたことがあって…」

「関係があるのかな?
マッシーちゃんがいなくなったことと。」

「…ある気がする。」

「そっか…」

「…もう、
マッシーに会えないのかな…」

「どうして、そんなこと思うの?」

「何だか、そんな気がするの…。
もう二度と会えないような…。」

「会えるよ…。
マッシーちゃんにとっても、カリナは親友だろ?」

ノボルは、私の目を見て言った。

「生きてれば…
また会える可能性がある。」

私が心配していることを、
ノボルはズバリと口にした。

ノボルは私から目を逸らして、
テーブルを見て考えたように言った。

「…ねえ、カリナ。
人が生きていることって、何か意味があるのかな…」

いきなりのノボルの独り言とも思える問いかけに、
私は何て返事をしていいのか、わからなくなった。

「時々思うんだよ。
何も無いんじゃないか?って。
赤木くんは…
アイツは…

ボクなんかと違って、ずばぬけた才能を持ってた。
これから、いろんなことを出来るはずだった。

だけど…

もう、いなくて、何もできないだろ?
何でボクじゃなくて、アイツが死ななくちゃいけなかったんだろう?って。
ボクが生きてることに、何か意味があるのかな?
アイツに会えたことは、何か意味があるのかな?
僕達が作ってきた時間は一体何だったんだろう?って…
時々思うんだ。」

ノボルは、まだ酔ってるのかもしれない。
疲れたように見えた。

「ノボルは、マナのお父さんだよ。
私の大事な旦那さんで。
それだけで、充分じゃない?
赤木くんが手に入れたかったものだよ。」

「そうだね。そうなんだけど…」

ノボルは私が出した水をゴクゴク飲んで、
息を吐いた。

ノボルが何を言いたいのか、
歯痒い気持ち伝わってきた。

私も今、同じことを思っていた。
私とマッシーの作ってきた時間は何だったんだろう?って。
でも…

「赤木くんがいなかったら、
私はあなたと海で会っても、その場で終わりだったし、
年賀状を出すことも無くて、再会することも無かったと思うよ。

彼がいたことでマナが生まれたとも思う。
それから、あなたがいなければ、マナはここにいないでしょ?
あの人が生きていた意味は、沢山ある。
あなたがいることも。

だから…

マッシーと、もしかして、もう会えなくても、
私にはマッシーと会えたことに何か意味があると思うの。
そう信じたいの。

ただ…
私にも私の生活があるし、マッシーにはマッシーの人生があって、
そんなことわかってるけど、
もう会えないかと思うと、淋しくて悲しいの…」

「うん…」

私は座っているノボルを後ろから軽く抱きしめた。
言葉では、心をうまく伝えられない。
ノボルは私の腕の上に手を置いた。

「また会えるよ、きっと…。
僕はそんな気がする。
だって、さ…
赤木くんの死んだ姿を見たんだから。
自分が生きてることを実感してるはずだから。
大丈夫だよ。きっと…
何か…しておきたかったのかもしれない。」

「うん…。」

死ぬ気になれば、何でもできるって思ったのかもしれない。

だから…

マッシーはきっとどこかで生きてる。
大丈夫だ。

目から涙が出ていた。

ノボルは私の涙を指で拭って、私の体を抱きしめた。
そして、優しく、深いキスをした。

私たちは生きている。

ノボルの肌の温かさ。
柔らかい舌。
心臓の音。

その日は一段と強く感じた。

私達がここにいるのは、
一瞬の奇跡の積み重ねなんだ。




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続きはまた明日

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最終更新日  2010年02月03日 20時14分30秒
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