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今日の日記( 「猿ロック(最終回)」「マイガール」感想と超ぶるーーーー) 「ある女の話:アヤカ60」 何だかボンヤリしてしまって、支度がはかどらない。二日酔いのせいか食欲が無くて、ココアを作って飲んだ。ココアが胃に重い。今朝はコレだけでいいか…。一人だとどうにもダラけてしまう。テレビを観るけど、ニュースが頭に入って来ない。画像がただ流れて行く。あ~、コレじゃマズいな。顔を洗って、化粧水と乳液をつけた。本当に迎えに来るんだろうか?来たら行く?どうする?頭は二日酔いも手伝って、そればかりをグルグル考える。だけど、体が動こうとしない。現実なのは、確かなんだ。迎えに来るのか、連絡が来るのか、わからないだけ。一応、ジーパンとカットソー系のロンTを着た。昨日ほどオシャレすべきか迷う。でも、連絡が来なかったらバカみたいだし。もうお昼なんだな。洗濯を済ませて、食器を洗っていたら電話が鳴った。ドキッとする。「はい。」「俺です。」思っていた通り赤木くんだった。心臓がドキドキし始めた。「うん…。」「来ますか?」胸がキュンと鳴った。彼の声を聞くと気持ちが引き戻される。会いたい。やっぱり会いたい。どうしよう…ここで断ったら、もう次が無いのはわかってる。断るべきなんだってことは、わかってる。「今どこ?」「タカダさんちの脇の道。」ホントに来てくれたんだ…。家を出れば、すぐそこに赤木くんがいる。やっぱり自分の気持ちから逃げたく無いと思った。「もう少し先、駅と反対方向にコンビニがあるの。わかる?」「うん。」「そこで待っててもらっていい?あと30分かかってもいい?」「うん。」電話を切ってから、急いで化粧を済ませた。アクセサリーをつけて、鏡を見て、バッグを持って、上着を着た。決めた。行く。今日一日。今日一日だけ。何もかも忘れて赤木くんといっしょにいたい。逃げたら後悔する。絶対後悔する。ううん、そうじゃない。行ったって後悔する。自分がすることが悪いことだってわかってる。どっちにしたって後悔する。もう気持ちを止められない。会いたい。赤木くんに会いたい。走ってコンビニに着くと、店内に赤木くんがいなかった。帰っちゃったのかもしれない…。溜息をついて、ガムを買って、店を出る。携帯に電話しようか迷ってると、駐車場の車の中に赤木くんがいるのが見えた。自分の中で、ジンワリ嬉しい気持ちとホッとした気持ちが広がった。こっちに気付かないので、窓を叩いた。ふーん、ずいぶん余裕じゃない?赤木くんが気付いて窓を開ける。「車だったんだね。中入っていい?」赤木くんが頷いたので、助手席に乗った。シートベルトをすると、何だか緊張した。今日の赤木くんもTシャツにジーンズだ。ラフな格好が似合ってる。まだ若いんだな…って、すごく思った。いつもと違う彼を見て、何だか知らない男の人の車に乗っちゃったみたいで、ドキドキする。赤木くんが無言で、車を出した。何を話していいんだか、胸が詰まって言葉が浮かばない。赤木くんも何も話そうとしないし。緊張した空気の中、すごくリズムがいい曲がかかっていた。こういうノリ好き。伸びのある声。どこかで聴いたことがあるような…CMでかかってた?誰の曲だろう?「これ誰の曲?」赤木くんが我に返った感じでアタフタしだした。「ごめん、他のにして!わかる?」慌てた様子で手を動かして、ボタンを押すと、テープが出てきて曲が止まってラジオに変わった。「え?何?何?気になる~!いいじゃん、聴かせてよ!」赤木くんが運転してるのをいいことに、私はテープを押し込んだ。また曲がかかる。赤木くんを見ると、真っ赤になってた。あ!「これ、誰?ねえ、もしかして…」「俺…。聴いたことなかったから聴いてた。ライブの時のテープ。MDに落とさなきゃなって思ってたんだけど、車の中入れてて忘れてたんだ。もういいだろ?」やっぱり!スゴイ。上手い。そっか、それで夢中で聴いてたのね。もっと聴きたいのに、赤木くんはサッとEJECTボタンを押してテープを出してしまう。私はその様子が可笑しくて、もっと聴きたいので、またテープを入れる。「ううん。上手だよ。オリジナルなの?聴いてていい?」「事故るから。やめよーよ。オレ、マジ死ぬ…。」面白い人~。ホントに照れてるのが何だかカワイイ。ライブやってるんでしょ?人に聴かせるんだったら、こんなに照れること無いのに。あ、でも知り合いに聴かせるの慣れないって、恥ずかしいってメールで言ってたっけ。「ふーん。残念。わかった。じゃあ、適当に何か…ね。ねえ、でもこれ聴きたいなぁ。借りてもいい?」「行くまでに返してくれる?」「うん。」「じゃあ、持ってっていいよ。」「ありがと~。」ダメって言われても借りるつもりだったけど。私は赤木くんの気が変わらないうちに、テープを出してバッグにしまった。赤木くんが力が抜けたように息を吐いたのがわかった。こんなに照れるくせに、かけてたの忘れる位、緊張してたってこと?彼も私と同じ?そう思うと、なんだか私も気が抜けた。「音楽の好みって、その人が出るよね~。」私はダッシュボードに置いてあった、赤木くんのテープを見てみた。テープなんて懐かしい。車も新しいものじゃないみたいだし、古い物を大切にする人なのかな…私の心を見透かしたのか、赤木くんが言う。「CDも聴けるけど?」「う~ん、最近あまり音楽聴かないからな…。」私は滅多に見れることが無い赤木くんの字を見ながら、コレは昔好きで聴いてたぞ、って思ったテープを入れた。「後で、赤木くんの好きな曲入れて~。」お、コレは懐かしい。自分が好きな曲を赤木くんも聴いてたなんて、ちょっと嬉しかった。「今日は今日で雰囲気が違うんだね。」赤木くんがポツリと言う。あ、こんな感じ嫌いだったかな。ラフ過ぎた?「よく眠れなくて…。ウトウトしたと思って、起きたら昼前だったの。慌てて支度しちゃったから。ごめんね、変?」ホントは起きてたけど…。赤木くんのこと考えてて、ボーっとしてたら、時間が経ってただけなんだけど。「ううん、そういうのも似合ってる。そういうカッコ、好きだよ。」赤木くんが思ってもなかったことを言い出したので、嬉しくなった。もう、上手だなぁ~。ふーん、こんな格好も好きなんだ?ふーん。そっかぁ~。好き?好きねぇ~。「え?何?もう一回言って?」「だから、そういう格好も好きだって…」ふふ。やったぁ~。「何が面白いの~?」「ううん、赤木くんに”好きだよ”って言わせたかったの。」赤木くんが耳まで真っ赤になったのがわかった。昔マノくんが私に使った手だけど、その気持ちがわかった。好きな人に好きって言わせると気分いい。「ほんっとうに嫌なヤツだね、タカダさんは。」「そうだよ。嫌いになった?」「いや、好きだけど…。」また言った~!きゃー、嬉しい!つい顔が笑ってしまう。くっくっく。信号が赤になった。赤木くんがいきなり手を握ってきた。「こうされるのは好き?」目をジッと見てくる。「え…」胸がキュンと鳴った。ヤダヤダ、反則!赤木くんてどうしてこう反則ワザ使うの?自分も顔が赤くなるのがわかって、恥ずかしくて目を背けた。「…うん。」私の方は好きって言わなかったけど、信号が青になっても、赤木くんは手を握ったままだった。ダメ。こういうの弱い。手を握られてるだけでドキドキしてきた。頭の中が真っ白になってしまう。「どこ行く?飯食った?」言われてみれば、ココアしか飲んでない。あれ?そう言えば、赤木くん、今日ずっとタメ語じゃない?だからかな、今日は気安い感じ。私服ってこともあるかもしれないけど。すごく身近に感じる。「ううん、まだ。赤木くんは?」「オレもまだ…。ハラ減らなくて…。ファミレスでも入る?」「うん、私もなんだけど、そうしようか。」何だかすっかり赤木くんのペースだな。今日は何だか年上って言うか、同じ歳って言うか、すっかり主導権握られてる感じ。これが普段の赤木くんなんだ?私は可笑しくなってつい笑ってしまった。「今度は何がおかしいの~?」「だって、さっきから変だな~って思ってたら、赤木くん、いきなりタメ語なんだもの。」「じゃあ、いつも通りに直しましょうか?」「もういいよ~。」二人で笑った。手のぬくもりが伝わってくる。やっぱり好き。今日会えて良かったと思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年10月17日
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今日の日記( 「救命病棟24時」「恋して悪魔」の感想☆)あとがきのようなもの:ユナ最近、「イギリス人の夫婦はなぜ手をつなぐのか?」って本を読みました。読んでいて、感心したり、頷いてたりしました。例えば、日本はレストランでも街でも若者カップルが中心だけど、イギリスは大人の街らしく、まあ40代前後のカップルが沢山いるらしい。銀座みたいなものなのか?子供が中心じゃなく、夫婦が歳をとっても男と女で、カップルのようなのだそうだ。日本はどうかな?男と女と言うよりは、友達に近い感覚になって行くんでしょうかね?あまりベタベタしてる大人の男女、特に夫婦を見たこと、あまりありません。で、んな話読んでると、感覚だけはイギリス人のようでありたいな!って私はついつい思ってしまう。恋愛至上主義だから、愛がなくなったら離婚しちゃうらしい。もっと好きな人ができたら、別れちゃうんだそうな~。まあでも、シングルだろうが再婚だろうが、子供がいて、やっていける法律を作っちゃうらしいよイギリス人。養育費のとりたて厳しいらしいよイギリス人。カワイイよりもカッコいい、セクシーが好きらしいよイギリス人。パートナーになった人といつもいっしょにいるらしいよイギリス人。まあ説明下手なんで、うまいこと説明できてないかもしれないけど、他人の芝生じゃないけど、歳とってもまだまだこれから!って感じがステキ。イギリス人いいな!って思ったワケですよ~。まず人ありき、男女ありき、って感じで。そんなの読みつつ、結婚って何だろね~なんて、本音で話せる友達数人としたことを思い出しながら、今回の話を書くに至りました。結婚するまで、結婚してから、そんな女の子の話を書きたかったんですね。まあ、以前書いた話と、からめなければいけなかったので、あちこち遠回りした女の子になってしまいましたが。読んだ後は、こんな人生もアリかもって思うかもしれないし、ちょっと相手を淋しくさせてないかなって思うかもしれないし、結婚したからって安泰じゃないなって思うかもしれないし、自分もこんな相手が待ってるかもって思うかもしれないし…とりあえず、いろいろ感じていただければ嬉しいです。書いてる間は、恋しちゃってたかも。(笑)終わっちゃって淋しいです。次回は誰の話を書こうかな。ほぼ一月半のお付き合い、ありがとうございました!コラボ、感想コメント、励みになりました。また次回もヨロシクお願いします。 2007年11月 ハッシー
2009年08月19日
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今日の日記( 「ブザー・ビート」感想と怖い話☆)<ユナ最終>あれから10年経って、ヨシカワシュウジは今若い女に夢中だ。女の名前はミキ。ミキにこの前こう言われた。「ねえ、知ってる?シュウが一番好きなのは私なのよ。」「シュウじゃないでしょ?パパって呼びなさいよ?」うふふ。って笑って、シュウのいる洗面所へ走って行く。「ねーパパぁ!そうだよねー!パパが一番好きなのはミキだよねー!」「へぇ~。よく知ってるじゃん。バレちゃった?」シュウは嬉しそうにミキを抱き上げて、ほっぺたにキスをした。「気持ちいーなぁ、ミキのほっぺ。ママと同じだ~。」ヒゲをこすられて、きゃー!痛い~!って言いながら、ミキは降ろしてもらって、私のとこに走ってくる。「ママのほっぺのがいい~!スリスリして~!」生意気なことばかり言うけど、時々こういうカワイイことを言う。ミキにとって私はママであり、一応ライバルでもあるらしい。8歳になる娘は小学校へ出かけた。パパが見送ると手を振るのね。私の時は「行ってきまーす。」だけなのに。「ふうん、一番はミキなんだ?」私がニヤニヤしながら言うと、「うん。ユナもね~。」と言って、私にもキスした。調子のいいヤツ。ミキがいる時はママって呼ぶくせに。「だってどうせもうすぐアイツは俺なんかランク落ちすんだよ?今一番って言ってるうちに一番って言っておかないとね。」ま~そうかもしれないけどさ。その余裕な態度がミキを惹きつけそうな気がする。世のお父さんは嫌われたらどうしようって感じなのに、テキトーなこと言って育ててるくせに、好かれるなんてムカつく。ミキにはあんまりファザコンにならないでもらいたい。…と、今から心配してる。私は仕事に行く支度を始めた。店を手伝っていたけど、パートに行く方が経済的にいいから。店はまたアルバイトを昼だけ雇うことにした。と言っても、私も家族で過ごす時間を大事にしたいから、ミキの学校に合わせられそうな仕事を探してた。友達がしていた幼稚園の事務の仕事。友達が、急に引越すことになってしまって、私が先月から本格的に入ることになった。何しろ急なことだったから、引継ぎがそこそこしかできてなかった。できるだけ教えてもらったけど、先週で友達は引越してしまったから、アテにできないし、ちょっとツライ。ここの幼稚園は雰囲気もいいし、働くにはとてもいい環境。私は申し訳ないけど、パソコンのソフトでわからないことが出てきてしまったことを、正直に園長先生に話した。丁度、パソコンの買い替えやら、新規ソフトの導入やらを考えていた園長は、その管理ソフトの担当者を呼んでおくから…と言っていた。何にしても早い方がありがたい。もう私では手詰まりだった。いろいろ聞いておかないといけないだろう。園長が昼食後に私に話しかけてきた。「ねえ、アナタ、強いもの持ってるのね。」「は?何がですか?」「芯に強い何かって言うか、何かを呼び寄せちゃうような、変なオーラみたいなのがあるっていうか。」「え?それって霊みたいなやつですか?」私はゾクリとした。「ううん、そうじゃないの。何か、同じようなモノもってる人を呼んじゃうみたい。気をつけてね。しっかりしてないと、思ってもみないこと起こしちゃうみたいだから。」私は身に覚えがあるだけに、ヒヤリとした。他の職員が、予言だ、お告げだ、と笑っていた。この園長は、そういった何かを持ってるって、先生が言っていた。それで、何回か幼稚園のモメごとも納めてしまったことがあったらしい。信頼している先生も多い。でも、言ったことは忘れてしまうそうだ。だから二度と聞けない。そして、そういったその人の印象も、いきなり一度しか言わないそうだ。先生からそんなこと聞いてたけど、まさか今日いきなり言われるとは思ってなかった。「ふうん。でも、独特の価値観持ってるのね。大丈夫…か。」私の顔に何か書いてでもあるのか、園長は私の顔をじっくりと見る。でも、目は私の中にある何かを見ているような感じだった。何が見えてるんだろう?「アナタは独りでいたくないのに独りになっちゃうのね。それが原因ね。」「え…?」そして園長自らがお茶を入れて、私に渡してくれた。「でも、強い人がついてるみたい。良かったわ。」はいどうぞ。って、お茶を渡してくれた。ありがとうございます。ってそのお茶を飲んだ。「大丈夫よ。」最後に肩をポンポンって叩かれた。何がだろう?でも、妙に落ち着いた気持ちになった。とりあえず、今日の入力作業が終わって、一段落したので、例のソフトを活用してみた。なかなかいろいろなことに使えそうだ。私はとりあえず園名簿を使って仮の入力をしてみて、それを隠したり応用できないか試してみた。「入りますね~。」園長の声が聞こえて、私が振り向くと、園長が業者の担当者らしいスーツの男といっしょだった。私はその見覚えのある顔を見て固まる。「こちらヨシカワさん。事務員の補助で入ってもらったの。」私の顔に気付いたらしい男の顔も固まっていたけど、すぐに名刺を取り出して、慣れた営業スマイルで私に渡した。「宜しくお願いします。青山です。」「ヨシカワです。」やっぱりアオくんだ。お互いにお辞儀をした。「いろいろ教えてもらってね。」園長が笑顔で私に言う。「宜しくお願いします。」私も笑顔を作ってアオくんに言った。アオくんもニッコリと営業スマイルを返した。ああ、もう一人前の社会人なんだな。大人の男性になったんだ。そう思った。キチンとした挨拶をする。私の知らない顔。こんなところで会うことになるなんて。アオくんが私に先生のように説明する。教え方が上手。そう言えば家庭教師してたんだよね。懐かしい記憶が蘇った。左手薬指に指輪がある。結婚したんだ。チラっとシャツの袖から時計が覗いた。それは私が贈った時計だった。一通り教え終わると、アオくんは園長といっしょに去って行った。手が少し震えていた。気付かれてないといいけど…。私はフウッと大きく深呼吸をした。大丈夫よ。大丈夫。「ただいま。」カウンターにシュウがいるのが見えたので、店に入る。ミキがカウンター机で宿題をしていた。「お帰り。」シュウがニコリと笑った。「何よ、家でやればいいのに。暗いでしょ?」「だって、パパがいるし、ここイイ匂いがするんだもん。」シュウが仕込みをしていた。コーヒーのいい香りが店いっぱいに広がっている。ミキは黙々と宿題をしている。私は夕飯の支度をしなければいけない。シュウがコーヒーを入れてくれて、今日の職場の話をして、上にある家に上がった。お客さんが来る前には帰ってくるのよ。はーい!ミキは本当にシュウが大好きだ。シュウがカウンターで仕事をしているのを見てるのが好きらしい。私と同じ。一人で夕食の支度をしていると、園長の言葉を思い出した。 アナタは独りでいたくないのに独りになっちゃうのね。最近、シュウと二人で過ごすことなんか無いな~って思った。夜寝る前のわずかな時間だけだ。言われてみれば、仕事もパソコンとにらめっこだし、こうして一人で作業してることが多い。休みの日はミキがいっしょ。そのうち離れるかもしれないけど。淋しい?よくわかんないけど。独りっぽい気がする。最近また。シュウがいるのは店やパチンコ屋なんだから、行けばいるからいっしょにいられるけど、私からじゃなくて、シュウから来てくれないかな~って思うことがある。やっぱり、淋しいのかな。ミキが眠り、私は眠るだけにして、テレビドラマを見て、シュウが帰ってくるのを待った。「ただいま~。」シュウの夕飯を温める。うまい~ってモグモグ食べている。「ねえ、シュウ。」「何?」「結婚って何だと思う?」シュウがちょっと笑った。「子供を守るための法律。」「やっぱり覚えてたんだ?」「ユナは?」「私?私はギャンブル。」「あれ?変わったんだね。雇用契約じゃなくなったんだ?」「そう。当たるんじゃないかな~って夢を持つでしょ?当たることもあるし、ハズレることもある。買ってみなければわかりません。」「俺は当たり?」「うん。当たり。…だと思う。」「だと思うなんだ~?」シュウが笑う。「じゃあもう一つ教えてあげようか?」「何?」「家族になる契約書。」私は笑った。シュウも笑った。「愛を誓う契約書じゃなかったっけ?」「それもある。」シュウが私を抱き寄せる。「何でそんなこと聞くんだ~?オマエ最近淋しいんだろ~?俺がミキばっか構ってるから。」「何言ってんの~?」「もう一人作る?」「バッカじゃないの?」シュウが笑いながらキスする。SOSに敏感な男だな。やっぱりこのギャンブルは当たりだと思う。 強い人がついてるみたい。良かったわ。園長の声が聞こえた。「何?何笑ってんの?」「ううん。何でも無いよ~。シュウは淋しくないの?」「淋しくないよ。淋しくなったらこうできる相手がココにいるじゃん。」私はシュウに抱きついた。シュウは私にキスをして、明日寝不足かもよ?と言った。ま、いっか。週末は昼寝デーな。温かい手が私の髪を撫でていた。人は独りなのかもしれない。それでも、今、私の心の中にちゃんといる。私が想う人はちゃんと存在してるんだと思った。<end> 前の話を読む目次
2009年08月18日
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今日の日記( 「官僚たちの夏」と蟻の巣を観るインテリア☆ )<ユナ40>店にもすっかり慣れて、私はその日、客がもうランチに来ないだろうってことで、先にヨシカワの家に戻った。ちょうど宅急便が届いて受け取る。コーヒー豆だった。ヨシカワが好んで通販で取り寄せている。その豆を売ってる本店がある所へ、旅行したいねって話していた。ちょっとウキウキしてしまう。ヨシカワは、ランチの客がギリギリ入ってしまったのかもしれない。なかなか上に上がって来ない。見に行こうかと思ったけど、私はちょっとイタズラ心が働いて、押入れの中に入ってみた。この前、買い物から帰ってきたらヨシカワがいなくて、まだ戻ってないのかと思ったら、隠れてて、いきなり驚かされたから。今度はこっちが脅かしてやろうと思っていた。下駄箱の靴も隠す。玄関が開く音がした。「あれ?戻ってると思ったんだけど…」ヨシカワの声が聞こえた。よし!脅かそうとワクワクしていたら、聞いたことのある声が聞こえた。「お邪魔します…」サトシだ。何となく、出るに出られなくなってしまった。そこにどうぞ。コレ飲みますか?いえ、いいです、すぐに帰りますから。そうですか。ヨシカワが台所で冷蔵庫を開けたり、お湯を沸かしてる音が聞こえた。二人は何もしゃべらずに、私を待っているようだった。どうしよう…。沈黙を破ったのはサトシだった。「あの…、ヨシカワさんはこう言っちゃ何ですけど、モテそうですよね。どうしてユナなんですか?」コーヒーの香りがした。ヨシカワがコーヒーを入れて、運んできたらしい。机に何か置く音がした。「貴方ならもっといい人いるでしょう?」私は少し隙間から二人を覗いた。「そうでも無いですよ。俺バツ一だし。」ヨシカワがコーヒーを飲む。しばらく考えているようだった。「俺が彼女と初めて会ったのはパチンコ屋なんですけどね、」「え?パチンコ?ユナが?」「そう。初めてだったらしくて、見てて危なっかしかったんですよ。でね、ちょうど忘れ物してったから、渡すついでに声かけたんですよ。俺ちょうどその頃ムシャクシャしてて、付いてくりゃラッキーって感じで。」ああ、そうだったんだ?と私は思った。同時に、そんなこと思ってたんだ…って。「正直言えば、人妻のくせに付いてくるなんて、バカじゃないかと思いましたよ。俺ね、その頃別居してたんですよ。カミサン出てっちゃって。だから、旦那さんには悪いけど、上手いこと言って、やっちゃおうかって思ってた。来る位だから簡単にできるだろうって。」ヨシカワの内心をこんな形で聞くことになるとは思わなかった。鼓動が大きくなっていくのがわかった。「でもね、話してたら、彼女面白くてね。そんな気無くなっちゃった。どうも危なっかしいから、店の名刺渡してね、淋しくなったら、うちの店で飯食べるように言いました。で、仕事の帰り週に一度位かな、食べにきてくれるようになって…」「それで貴方と付き合うようになったんですか?」「いや、ならなかった。正直、妹が、変な方向に走らないようにしたいな~程度な気持ちだったんですよ。でも会ってるうちに、何だかそうでも無いような気になってきてたけど。」サトシがやっぱりコレもらいますって缶ビールを開けた。ヨシカワも開けて、二人で飲み始めた。「彼女の話を聞いているうちに、前のカミサンの気持ちが何となくわかってきたような気がして。あのね、貴方が飲めないくせに、楽しそうに飲んでるのを邪魔したくないから、淋しいって言えないって言ってましたよ。まあ、そんなの聞いてて、そのうち、カミサンと、ちゃんと離婚することになってね。届出したって話したら、ユナがね、バッティングセンターに連れてってくれました。」「バッティングセンター?」「そう。何か、仕事帰りに時々来て、一人で球打ってスカッとして帰るんだって。カラオケで叫んで、楽しそうだったし楽しかった。そんなことして慰めてもらったのが、一番嬉しかったって言うか…。正直ね、誘ってくる女は何人かいて、ほら、女使ってね。まあ、こっちは独り身だから、結構寝たんだけど、そういうの空しくて。そのうち、彼女が飯に来るのだけが楽しみになってて。彼女が笑い話沢山してくれるんですよ。元気になるように~って感じで。食べに来るのだけを楽しみにしてたら、そしたら、引越しちゃった。」「それで、引越してから付き合ったんですか?俺、何となく、誰かと付き合ってるんじゃないかって思ってたけど。」「いや、会ってなかったよ。来たのは年末だった。結構近くに住んでたのも知らなかった。でもさ、そう思ったなら、何で彼女に聞かなかったの?」サトシはビールをグッと飲んだ。何か考えてるみたいだった。サトシは気付いてたんだ…?そのことも私の心を突き刺したけど、それだけじゃなく、アオくんとのことを知ったヨシカワが私から離れるかもしれないと思うと、心臓を鷲づかみにされたようだった。さっきから鼓動も激しい。「ユナは淋しがりってやつだと思います。俺は、最初の頃は、それがカワイイって思ってました。だけど、結婚してくうちにウザったくなってきた。自分で自分の世界を持ってくれって思ってた。正直、飯作って待ってられたりするのも、煩わしくなって。俺が新しい職場に慣れなくて苦労してた時も、呑気にテレビ見て待ってる姿が無性にハラが立ってきて。だんだん、自分のこと話すのが嫌になってきた。会社の人たちと騒いでる方が楽しかった。愚痴言っちゃうと止まらなくなりそうだったし…。アイツが悪いワケじゃないけど、責めちゃいそうで。そういうの、イヤだった。俺の家、両親が離婚してるんですよ。熟年離婚ってやつ。ちゃんと恋愛だったんですけど、だんだんお互いしゃべらないようになって…。親父は好きな女ができて、出て行きました。だから、俺は恋愛はいつか冷めるものだって思ってたんですよ。人は独りなんだって。だから、結婚ってこんなものだろうって。俺そんなだったし、他の男で淋しさ埋めたとしても、最後には俺のとこに戻ってくればいいって思ってました。」「それ、彼女に言えば良かったんじゃない?」「言ったって、わからないと思いましたよ。アイツは淋しがりだから。言ったところで、俺が埋められるワケじゃないし。」「確かに淋しがり屋かもしれないけど、ちゃんと戻ろうとしてたよ。」「でももう、戻ろうとしてないじゃないですか。」二人はその後何も言えないようだった。何か考えてるのか。サトシはヨシカワを睨んでいて、ヨシカワもサトシから目を逸らさなかった。「俺も彼女を忘れようと思ってたよ。何人かの女と寝てみたしね。でも、忘れられなかった。コレってちゃんと付き合わなかったからかな?でもね、もう来たから帰さないと思ったんだよ。正直、彼女がいない生活なんて、もう考えられない。貴方には悪いけど。」ヨシカワはジッとサトシを見ていた。サトシは俯いて、大きくため息をついた。「コレ…」サトシは便箋を机の上に出した。「貴方に頼むのは申し訳ないけど、アイツに渡して下さい。俺は何にもできなかったから。」「自分で渡せばいいじゃない?」「ホントは、会って、連れ戻そうか迷ってました。でも…。」「でも?」サトシは机をジッと見ていた。多分机の上にある便箋を。「もういいや。」サトシは立ち上がった。「お邪魔しました。話したことでスッキリしました。」「ホントにいいの?会わなくて。」「いいです。会うとカッコ悪い事しちゃいそうだし。」「そんなにカッコつけてると、後でくるよ。俺みたいに。しんどくない?」「そうかもしれないですね。でも、最後くらいカッコつけたいんですよ。貴方、イヤな人ですね。さっさと帰してくれればいいのに。」「よく言われるよ。」玄関で、ムカつくけど、美味しいコーヒーでしたって声がした。でしょ?アレグロって店知ってる?ってヨシカワが馴れ馴れしく言う。貴方、変な人ですね。二度と会いたくないです、って言う声は、笑っていたけど、どことなく淋しそうだった。ドアを閉める音が聞こえた。ヨシカワの大きなため息が聞こえた。部屋やトイレをバタバタ開ける音が聞こえる。そして、押入れを開けて「みーつけた。」と言った。「オマエ、バカじゃないの?ずっとここで聞いてたワケ?」「だって…出るに出られなくなっちゃって…」「どうする?追いかけるなら今だけど。」私は首を振った。ヨシカワはティッシュを持ってきて、私の顔を拭った。「あ~あ、べっぴんさんが台無し。」涙が後から後から流れてくる。「いい男じゃないの?ちゃんと愛されてたんだね?ムカつくよ。」ホントにムカついてるのかな。でも、穏やかにそう言ってるのが、本気で怒ってるようで怖い。ヨシカワが私の体をズルズルと押入れから出した。「ほら、これ中見てみろ」私は涙を拭いながら、封筒を開けてみた。中には離婚届が入っていた。 俺が幸せにしてやれなくてゴメン。そう一言だけ手紙が入っていた。「追いかけなくていいの?」私は頷いて、ヨシカワに抱きついた。ヨシカワが私を抱き締めて、私がヨシカワを抱き締め返す。ごめんなさい。ごめんなさい。できれば神様、できることなら、もう誰も傷つけたりしないで済みますように。もう、悲しい想いを誰もしないでに済みますように。離婚届を出した後、私はサトシにショートメールを打った。 ありがとう。 どうか幸せになって下さい。半年待って、私はヨシカワと結婚した。同じ間違いを繰り返すかもしれない。それでも、それはその時考えよう。何もしないよりいいよ。って、ヨシカワが言った。次が最終回です前の話を読む目次
2009年08月17日
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今日の日記( 「乙男(オトメン)」「こち亀」の簡単感想と夏に読んで良かった本☆)<ユナ39>年末にヨシカワの店と部屋の掃除を手伝った。サトシから電話はかかって来ない。そうしてお正月を迎えた。ヨシカワとコタツに入ってテレビを見て、つまんないこと話して、お酒を飲んで、気付くとそのまま眠っていて、起きたらどちらからともなくキスをした。おはよう。今年もどうぞヨロシクって、こんなお正月したこと無かった。もう何年もお正月はサトシの実家で気を使ってきたのに、こんなふうに過ごすことがあるなんて…。ヨシカワは実家には帰らないって言ってた。出戻りは肩身が狭いから丁度いいんだ、とかって笑って。でも、とりあえず、私には親に電話しとけば、って言い出した。私も、何て言っていいのかわからないけど、とりあえず、実家に挨拶だけでもしようと思った。コール音が数回鳴って、電話に出たのはお父さんだった。「お、ユナか?新年の挨拶だな?」「うん、そう。」「はいはい。明けましておめでとう。今年もヨロシク。」「うん。明けましておめでとう。今年もヨロシクお願いします。あ、あのさ、」お母さんは?って聞こうとしたら、お父さんの言葉がいきなり遮った。「ユナさ~、家に帰りたかったら、帰って来ていいぞ。嫌なら、無理してなくていいんじゃない?離婚しちゃってもいいぞ。」「え…。何いきなり…。何でそんなこと言うの?」「いや、もう大人だからさ、お父さん何も言うことないんだけどさ。帰りたかったら、いつでも帰ってきていいから。あ、お母さんに代わるよ。」泣きそうになった。お父さんに大人だなんて言われたら、まだもっと子供のままでいたいって思った。でも守ってくれるって言ってる気がする。そんな迷惑をかけていいのか…自分がヒドイことしてるってわかってるのに。「あ、お父さん!」「んー?」「ごめんね。ごめんなさい。」「何が~?」「いい子供じゃなくて。」「別にいいよ~。」電話がお母さんの声に代わった。「あ、ユナ?何かお父さん変なこと言ってなかった?もう、お父さんはユナに甘いんだから、冗談じゃないわよ!」電話の向こうでお父さんが怒られてるようだった。「お父さんね、アンタのことずっと心配してたのよ。なかなかこっちに帰って来れなくなったじゃない?で、帰ってくる度に痩せた痩せたって。ほら、あんた子供の頃体弱かったから、せっかく太らせて丈夫にしたのに、痩せて大丈夫なのか?って言うのよ。バカよね。」お母さんのつまらない話は脈絡も無く続く。私はうんうんって頷く。最後に、あ、そうそう、明けましておめでとう今年もヨロシクね。って。私は落ち着いたら帰るって言った。涙が出てたので、ヨシカワがコッチを見ていて、ティッシュを渡してくれてた。「大丈夫?」「うん。」ヨシカワが私を抱き締めてくれる。きっと今年は異常なお正月。来年にはこの悩みは無くなってるはず。そして、どんなお正月を私は過ごしているのだろう?会社が始まる頃、私はサトシに電話を入れた。離れたせいか、すごく緊張する。サトシは酔っ払ってるようだった。「あの…明日の昼間、荷物を整理しに行きたいの。引越しそろそろでしょう?」「そうだね…。」「家にいるの?」「いや、仕事行くよ。その方が片付けやすいでしょ。」「そう…。ごめんね。」「タンスとかどうする?」「私はもういらないから…」「わかった。じゃあ勝手に処分しておくから。」「うん。ごめんね。」「…ユナ、ホントに出てくの?」「…うん。」「…そっか。わかった。じゃ。」「あの…離婚届は…?」「まだ考えさせてよ。すぐに出さなきゃダメなの?いきなりハイそうですか。って決められるワケないじゃん。」「そうだね…。」「じゃ。」電話が切れた。翌日ヨシカワの車を借りて一人で荷物を片付けに行った。一応入る前に電話を家に入れる。誰もいない。ホッとした。いたら、怖いと思った。そう思う自分がすごく嫌だった。中に入る。久しぶりの部屋。ビールの缶やコンビニの弁当なんかが乱雑に転がっていた。その状況を見ると、とても申し訳ない気持ちになる。私は飲み残しのビール缶を机から引き剥がして、中身を捨てて、とりあえずゴミを片付けた。自分の荷物をできるだけ車の中に入れる。いらない物はゴミ袋に入れる。手紙を書いた。必要無い物は捨てて下さいって。処分させちゃってごめんなさいって。勝手なことしてごめんなさいって。そして鍵をポストの穴から部屋に落とした。もう結婚なんてしなくていい。こんなつまんない思いする位なら。紙で縛られた関係なんて、もういらない。いらないよ。私はまた実家に電話をした。サトシの家を出たって。ユナ、アンタ今どこにいるの?もういい加減わかってるのよ?誰か男の人がいるんでしょ?もう連絡が取れなくなったらどうしようって気が気じゃないのよ。お願いだからどこにいるか教えて。大丈夫だから。元気にしてるから。住所は年賀状に書いたとこにいるから。ごめんね。本当にごめんね。私がヨシカワの家にいて一ヶ月ちょっと経った。お母さんがマメに連絡をしてくれてた。もう、どうせ遠くにいるんだし、今までとたいして変わらないから…って。観念したって感じだった。「ユナ、サトシさんから電話があったんだけど。」「そうなの?何て?」「アンタがここにいるって思ってたみたいで。ユナは今どこにいるんですか?って。離婚届、そこに送りたいから住所教えて下さいって。アンタのとこ電話行かなかった?お母さん、謝られちゃったよ。こっちが申し訳ない位なのに…。」「そうだよね…。本当にごめんなさい。」「ねえ、今ユナは幸せなの?」「…うん。幸せだよ。」「そう…ならいいか…。」お母さんが力無く笑ったような気がした。落ち着いたら、帰って来て。ヨシカワさん連れて。そう言って電話が切れた。正直、離婚できていない現実は厳しいものがあった。仕事も履歴書に何て書いていいかわからないからできないし…。無職を楽しめば?ってヨシカワは呑気に言うけど。金銭面で、ヨシカワに何だか申し訳なかった。でも、サトシにも、勝手なことをしてるって負い目があるし、できることなら、サトシが納得してからがいいと思ってた。サトシに対しては、それ位しかできない。私は待つしかできない。そこへ、ちょうどあっちゃんが就職活動を始めるとかってことで、私が時々店を手伝うようになった。このまま店にいて、こうして暮らしていても、いいような気になってきた。私は自分の場所をようやくみつけたのかもしれない。サトシからは何の連絡も無い。それが無性に私の心を不安にさせた。このまま永久にこの状態なのかもしれない…。自業自得かもしれないけど。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月16日
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今日の日記(「任侠ヘルパー」「オルトロスの犬」の感想と日焼け止めの効果☆ )<ユナ38>今の電話聞かれた?「人が来ないから早めに閉めちゃった。明日から休みでラッキー。」ヨシカワは笑顔で、重そうに手提げカバンをドサッと置いた。「さて、どうするよ?終電に乗るの?帰る?」あ、聞かれてない。ホッとしたような、聞かれてたらどう思うか聞きたかったような、残念な気持ちと混ざり合って、複雑な気分になった。でも、とりあえず、今日は健康センターに泊まろうと思った。このままここにいると、どんどん気持ちがおかしくなる。ズルズルひきずられて、だらしないヤツになっちゃいそうだ。「じゃあ、服返してくれる?」「あれ?帰るんだ?残念。」でも、ヨシカワはそう言って服を出そうとしない。「この格好のがイイじゃん。そのままでいれば?」「ふざけて無いで返してよ。」「返さないよ。」笑ってたと思ったら真面目な顔になって、強引に押し倒してきた。手首を押さえつけられて、片手で、ボタンをはずして行く。「泊まっていきなよ。最後なんでしょ?」ヨシカワの囁きが悪魔の囁きに聞こえた。返事をしようと思うのに、口を塞がれて、体に触れられると何も考えられなくなってしまう。流される。こういうの、マズイんじゃない…?そう思うのに力が抜けていく。思ってた通り、ヨシカワの虜になってしまった気がする。「ん…帰らない…」ヨシカワが満足そうな顔をしたのが見えた。そのままヨシカワの体に抱かれて、気付くと朝になっていた。起きると何だか妙に不安な気持ちに包まれた。本当に私、独りになれるんだろうか?やっぱり別れたくない。まだ離れたくない。そう思うと、まだキチンとしてないのに、ここに来てしまったことを後悔しないではいられない。かと言って今更、やっぱりヨシカワの側にずっといさせて欲しいって、言って受け入れてもらえるんだろうか?最後だから、あんなことしたんじゃないのかな…そんな気持ちが強い。ヨシカワの気持ちを確かめたいのに、自分で言った言葉で、自分で首を絞めているような状態。訂正したら、どうなるんだろう…。ヨシカワの顔を眺めていたら、眠そうに目を開けた。「ん…今…何時?」「え?えっと10時15分。」「あ~何かイイ抱き枕があったから、良く眠れた。」ヨシカワは私を後ろから抱き締める。「ねえ、今日はいつ帰っちゃうの?」嫌なこと言うなぁ…。そんなことつい思ってしまう。「今日から休みだから送ってってあげるよ。」本気で言ってるんだろうか?「いい。一人で帰れるから。」「そっかぁ。ふーん。」ヨシカワは起きてTシャツを着ると、ハラ減ったぁ~と言ってお湯を沸かし始めた。私はその様子をついボンヤリ見てしまう。朝ご飯にトーストを焼いてもらって、コーヒーも淹れてくれた。「ね、まだいいならバッティングセンター行こうよ!」何となくヨシカワが楽しそうに見えた。服もようやく返してもらえた。着ると、やっぱ実家に帰らなきゃいけないんだよなぁ…って、名残惜しい気持ちになった。まあいいか。今日一日位楽しんでも。以前と同じように遊びまくったら、やっぱり楽しかった。日が落ちるにつれて、離れるのが嫌になる。事情を話せば、置いてくれないかな…。そんなことを思う。久しぶりに外で飲みたいとヨシカワが言うので、初めて会った日に行った居酒屋に行った。すごく懐かしくて、あの頃に戻ったみたいなのに、密着する距離が違う。話してることは似たようなことだったりするのに、楽しくて、時間だけが過ぎて行く。実家に行くなら、もうそろそろ出ないといけない。でも、まだもう少し、もう少しだけヨシカワといたい。そう思うと、今夜も健康センターに泊まって、朝に実家へ行けばいいかな…って思った。「そろそろ行かないと。」私が言った。「そっか。じゃあ駅まで送るよ。」「え?ここでいいよ。」「いや、最後なんでしょ?送るよ。」もう、最後最後ってうるさいなぁ~。やっぱりそう思ってるんだ?だからこんなに優しいの?ヨシカワが駅までついて来る。うあ~。どうしよう。来ないで!いやもう、意地を張らなきゃいいのか。でもでも、何て言ったらいいんだろう?私はちゃんとしてからまた会いたいと思ってる。そう言えば、いいのか?そしたら重たくない?いや、かえって重いか?でもでも、このまま別れていいの?とりあえず言ってみる?そうだよ。それが大事じゃん。「あの…さ。」「ね、やっぱ送ってあげるよ。切符買ってこようか?」ヨシカワが言う。「いや、いい。いいから。ホント。」いや、そうじゃなくて…ああ、もう!言えばいいのよ!「ごめんなさい!ホントは、家を出てきちゃいました。だから、送らなくていいの。ホント。あ、引いたよね?うん、引くよね。いいの、ホントに。私重たいの嫌いだし、でも、シュウさんに軽く付き合われちゃうのも嫌だし、いい思い出にさせてもらいます。だからここで帰って!」ヨシカワがポカンとしている。「あ、でも、私がちゃんとしたら、またここに来るから。その時にちゃんと付き合ってもらえるなら、付き合って下さい。付き合って欲しいです!ああもう、何言ってるんだか…。それじゃあ。それじゃあね。」恥ずかしい。もう逃げたい。私は後ずさりしながら、コインロッカーに行こうと思った。すると、ヨシカワが私の腕を掴んで、笑い出した。「待ってよ…ちょっと…ハラ痛ぇ~!」ヨシカワがオナカを抱えて笑いだした。「ごめん、知ってた。昨日電話聞いちゃった。ドコに帰ろうとしてんのかな~って思って。オマエ何考えてんだか、わかんないんだもん。ずーっと後ついってってやろうと思ってた。そしたら観念するかな~って。」「嘘!信じらんない!何で聞いてないフリなんてするのよ!めちゃくちゃ意地悪じゃない!うっわ、カッコ悪。消えてなくなりたい!!!」私は地面にしゃがみこんだ。「これ位イジワルしないと気が済まないよ。何でも勝手に決めて、勝手にやってきて、勝手に出て行こうとするんだから。で?これからどこに行こうとしてたの?」「健康センター…」ヨシカワがまた爆笑する。「やるねえ。戻ってきたって、今度こそ俺に誰か相手がいたらどうすんだよ?」「その時は…あきらめる。でも、老人ホームにいっしょに行くって言ったじゃない?」「バッカじゃないの~。今決心したんだから、俺のとこいればいいじゃん。大体、そんなに簡単にあきらめが付くなら、今更来んなよ。」「だって、まだちゃんと離婚できてないし、そんなの失礼だし、そういうの、嫌だと思ったし、でも…」「でも…?何?」「あきらめられなかったんだもん。」「早くそう言えばいいのに。」ヨシカワが笑って私を立ち上がらせて、ギュッと抱き締めた。「オマエ真面目過ぎんだよ。バカじゃねぇの。」「もう!バカバカ言わないでよ。だって、そういう女イヤでしょ?嫌いでしょ?真面目だったらココにいないよ。私は悪い女なの!」ヨシカワがまた笑い出した。悪い女だって!悪い女!って、ヒーヒー笑ってる。「イヤな男!ムカツク!」私がヨシカワの腕から逃れようとしたら、痛いだろって更に強く抱き締めた。「オマエってほんとバカ…。」ヨシカワの息遣いが聞こえる。温かい腕の中で、私ももう何も言えなくなって、そのまま涙が出てきた。ヨシカワが帰ろうって言ったので、頷いた。何とかなるよ。何とかするから。ヨシカワがそう呟いた。幸せ過ぎて、めまいがしそうだ。私は思い出して、コインロッカーから荷物を出す。ヨシカワは片手でその荷物を持って、もう片方の手で私と手を繋いだ。この手をもう離さなくていい?明日目が覚めたら、夢じゃないよね?空から雪が降ってきた。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月15日
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今日の日記(西武遊園地に来ました♪)<ユナ37>バカだな、私は。ブレーキなんかかけてなければ、もっと単純なことだったかもしれないのに。「それでまたお別れしに来たんだ?今度は遠いね。簡単には来れないね。」ヨシカワが優しい声で言う。私は返事ができなくて、コーヒーを眺める。「何か…言って?」私があまりにも何も話さないのが不安になったのか、ヨシカワが私の顔をジッと見る。思ってることは沢山ある。引越してから、もう一度夫婦でやっていこうと思ってたこと。でも、自分の中で、もとに戻れない何かがあって、無理だったこと。優しい男の子が自分を好きになってくれたこと。その男の子に支えられて生きてたこと。心の中からサトシがいなくなってしまったこと。ヨシカワが心からいつまでも消えてくれなかったこと。いなかったのに、存在ばかりが大きくなってしまったこと。言葉にしたら、あまりにも陳腐な話。うまく伝えられるのか、伝わるのか、自信がなかった。ヨシカワにもサトシにも、多分私以外、誰にもわからないんじゃないだろうか。心の中はそうだとしても、現実は、夫以外の男を好きになって、忘れるために若い男の子と不倫して、その結果、夫と別れることにした女がいるだけなんだ…。そして、状況はますます悪いことに、そのバカ女はこうして、好きな男に会いに来ている。とろけるようなキスをされてメロメロってやつ。客観的に見れば見るほど、自分に呆れてきた。でも心のどこかに、もうバカでいいやって開き直ってる自分がいて、とことん落ちちゃえって自分がいて、いや、実家に戻って頭を冷やせば?って自分と葛藤していた。ここまで来て何言ってる?ううん、引き返すなら今しかない。でも、そしたらまた同じことを繰り返す。わかってるからここに来たはずだ。もう一度勇気を出せ。出すんだ。受け入れてもらえるかはわからないけど…。「そう。お別れしに来たよ。もう引きずるの嫌だから。いつまでも前に進めそうも無いし…。」口から出たのはそんな言葉だ。いいの?私?本当にそれでいいの?だってやっぱり重たいよ、こんなの。やっぱり拒絶されるのは怖い。ヨシカワのために何もかも捨てたと思われたら、多分…いや、きっと、逃げたくなると思う。ヨシカワといっしょにいられる先のことを期待したくない。「俺と寝れば、俺のこと終わらせられそうなの?」ヨシカワが淋しそうに私を見た。私は言ったことに後悔したけど、頷いた。「淋しいこと要求するね…。」ヨシカワはそう言って、私の顔をジッと見て、キスをした。そのまま手が、私の服を脱がしていった。ずっとずっと、本当に欲しかった男の体だ。ずっと会いたかった。もっと早くこうなりたかった。好き。大好き。お願いだから、ずっと私の側にいて。ずっと私を抱きしてめていて。そう思ってるくせに、バカだ…私は。怖い。拒絶されるのが怖い。また恋が終わって行くのを見たくない。最後だと思うと胸が刺されたみたいに痛いのに、ヨシカワの唇が、指が、体に触れる度に、頭の芯が痺れる。体がとろける。気付くと私は眠っていたらしい。毛布と布団がかけられていて、素肌に男物のパジャマが着せられてた。コタツの上に手紙とカップラーメンがある。 仕事しに行ってきます。 いなくなっちゃうと困るんで、 服隠した。 帰るまで待ってて!!!やるかなぁ、そういうこと…。私がタンスあさって適当な服着て出て行くとか、家捜しするとか考えないんだろうか?でも笑ってしまった。外を見る。真っ暗。繁華街のネオンが近くに見えた。もう10時か…。昨日、よく眠れなかったせいか、どうやらかなり深く眠ってしまったらしい。安心し過ぎだ。私はありがたくカップラーメンを食べた。食べ終わってテレビを見ていると、携帯が鳴ってる音がした。サトシかも…。表示を見たら実家からだった。「ユナ?あんた今どこにいるの?」母が暗い声を出している。「友達の家。」「夜サトシさんから電話来たの。こっちに来てないか?って。気になって眠れなくて…。」「そっか…。ごめんなさい。何て言ってた?」「携帯にかけてみますって。連絡行った?」「うん。言ってあるから大丈夫。」大丈夫じゃないかもしれないけど。「何でこんな時間に友達の家にいるの?早く帰りなさいよ?そう言えば、年明けにはこっちに戻れるんだって?じゃあお正月はどうする?そっちで過ごしてもいいんじゃない?交通費もあるだろうし」お母さんが一息に言いたいことを話す。「ねぇ、お母さん…」「何?」「家に帰ってもいい?」「…どういうこと?まさかアンタ変なこと考えてないわよね?」やっぱり察してたんだ。じゃあ話は早い。「サトシと離婚したいの。」お母さんが大きなため息をつくのが聞こえた。「ダメよ。ちゃんとサトシさんと話し合いなさい。お正月はこっちに来なくていいから。」「どうしてもダメなの?」私は泣きそうになる。「ダメよ。」「サトシには言ったわ。」「…何て言ってるの?」「考えてみるって。」「…ユナ、結婚はそんな簡単なものじゃないのよ。帰ってよく考えなさいよ。」「だってもう帰りたくないのよ。もう嫌なの。どうしても嫌なの。お願いだから家に帰らせて?ね?」「ダメよ。ねぇ、サトシさんが何かしたの?」「何もしてないけど…」「じゃあそんなこと言わないで。アンタが好きで結婚したんでしょ?贅沢よ。じゃあ結婚なんてしなきゃ良かったじゃない?」「離婚しようと思って結婚する人なんていないよ。」「そりゃそうだけど…ちゃんと帰りなさいよ。今帰りたくないなら、お友達が大丈夫なら、気分転換して帰ればいいじゃない?お母さんのこと、あんまり疲れさせないでよ…。それじゃあね。」「うん…。あ、お母さん」「何?」「心配かけちゃってごめんなさい…。」「おやすみ。」電話を切った。ため息をつく。ごめんね、お母さん。でも、昼間にサトシに送っちゃったの。離婚届。人の気配で振り向くと、玄関の方でヨシカワが立ってるのが見えた。「ただいま。」続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月14日
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今日の日記(「となりの芝生」と映画「SEX&THE CITY」の感想☆)<ユナ36>私は街で適当に必要な物を買って、そろそろランチが終わる時間を見計らって、ヨシカワの店に行くことにした。駅前がずいぶん開発されていたことに驚いたので、とても心配になっていた。店は、やってるだろうか?ヨシカワはいるのだろうか?OPENとランチメニューの看板が出ていた。あのままだ。店はそのまま残っている。えいっ!って気持ちでドアを開けた。料理を作っていたヨシカワが、いらっしゃ…で、一瞬止まる。バイトの子がヨシカワを怪訝そうに見た。「こんにちは。」私はカウンターに座る。「久しぶりじゃん。どうしたの?」明らかに狼狽してるけど、自然になるよう話しかけてる気がした。ちょっと痩せたかな…。でも、変わってなかった。私はどう思われているだろう?昨日は健康センターに泊まったし、かなりボロボロかも…。今更そんなことが気になる。「近くまで来たから。」とりあえずそう言っておいた。何てことは無いというように笑顔を作ったけど、ぎこちなかったかもしれない。ランチのAを頼む。客は昼はこの辺のサラリーマンやOLが多いらしく、食べたらすぐに席を立った。2時にはカウンターの私と女の子が二人席にいるだけになった。「あっちゃん、もう大丈夫だよ。後は俺だけで何とかなるから。」ヨシカワが男の子に声をかける。あっちゃんと言われた高校生か大学生位に見える男の子が、じゃあ。ってお辞儀して店から出て行った。看板をcloseにしたらしく、もう店には誰も入ってこない。「お昼にはバイトくんがいるんだ?知らなかったよ。」私はヨシカワに言った。「夜しか来たことなかったもんね?友達の洋服屋で働いてる子。昼だけうちに手伝いに来ることになってんだ。」どんな雇用契約がされてるのか興味深いことを言う。ホントは、まかないをここで食べてから戻るらしいけど、今日は彼に用事があって、ちょうど終わったらすぐ帰ることになっていたらしい。私は食後のコーヒーをゆっくりと一口ずつ飲んだ。最後の女の子たちが会計を払う。なので、ようやくヨシカワと二人きりになれた。「さて…と。まだいれるの?」「うん。」ヨシカワは安心したように、片付けを済ませ、自分の分のピラフを炒めて、私の隣に座って食べる。ようやく一息ついたとばかりに食後はコーヒーを淹れて、私にもお代わりをくれた。「近くに用事って、どこかに行くの?それとも行ってきたのかな?」タバコに火をつけながらヨシカワが口を開いた。「うん、もう行ってきたよ。」何か適当に嘘をつくべきかと思った。ここに来たことは、ヨシカワにはあまりにも重たくて、いきなり過ぎるだろう。でも、もうぶっちゃけるべきなのかもしれない。で、ダメならダメで。そうじゃないと前に進めない気がする。独りになるにしても。「ちょうど良かったよ。明日から店閉めるとこだったから。もうこの辺、会社が仕事納めでね、誰も来ないだろうから年明けまで閉めちゃうとこだったんだ。タイミングいいね。」「ホント…。良かった。」私はこの偶然にホッとしていた。明日だったら、この店は閉まってたんだ。そしたら、私はどうしていたんだろう?顔を上げたら、ヨシカワの顔が近くにあって、唇が触れた。そのままキスされて、ヨシカワに舌を吸われると、気が遠くなりそうになった。彼の腕の中にすっぽりとくるまれると、緊張していた気持ちが和らいでいくのがわかった。ずっとこの腕を想っていた。この腕に抱かれることを待っていた。「どうして来たの?」「会いたかったから。」力が一層こもった気がした。「おいで。」ヨシカワは店を閉めると、店が入ってる雑居ビルの上に私を連れていった。ここの一室がヨシカワの家らしい。心臓がさっきから鳴っていてうるさい。ヨシカワは私をどうする気でいるんだろう?考えてみれば、私はまだヨシカワの生活のことを何も知らないんだ。さっきのバイトの子の話といい、この家のことといい。本当にいいんだろうか?理想が膨らんでるかもしれないのに。部屋の中は雑然としていて、男の一人暮らしって空気が漂っていた。物が少ない。雑誌が転がってる。でも、キレイに片付けてる方だと思った。「あ~、さみぃ。」ヨシカワは暖房を点けた。コタツを指差す。「そこ入ってなよ。どうする?またコーヒー飲む?って言っても、それか冷たい茶かビールしか無いけど。あ、コーラならあるか。ユナ…ちゃん、ビール苦手だったっけ?」しばらく離れていたとは思えないほど、ヨシカワとの空気が変わらなくてホッとする。二人でもう一杯コーヒーを飲むことにした。ヨシカワが手動のコーヒーミルで豆を挽いた。「このコーヒー美味しいね。」「ああ、友達が買ってきてくれたんだよ。アレグロ・ヴィヴァーチェって店知ってる?結構、コーヒーが好きなヤツの間では有名なんだけど。」ヨシカワは、その店やコーヒーの話を楽しそうに語った。豆のこととか、淹れ方とか。ヨシカワがそんなにコーヒーにこだわってる人だなんて知らなかった。店でも常連で知ってる人には出しているらしい。結構、いろいろ話したりしてたはずなのに、私はまだまだヨシカワのことで知らないことが多いだろうと思った。「今日は何時までに帰らなきゃいけないの?」「うん…?適当に…。」何も考えてなかった。夜になったらまた健康ランドに行けばいいかと思ってた。怖いけど。着替えはさっき買ってコインロッカーに入れた。家出少女ならぬ家出女だ。今更この歳でこんなことするようになるなんてね。「今どこに住んでるの?」私は今住んでる所を答えた。正確には、住んでた…か。でも、今度は実家の方へ戻ると話した。嘘はついてない。実家に帰ろうと思う。「そっか…。結構近いとこ住んでたんだな。まあでも、聞かないでいて良かったかも。」「何で?」ヨシカワは一瞬ためらった感じで、コーヒーを飲んで言った。「会いに行っちゃってそうだったから。」続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月13日
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今日の日記(「救命病棟24時(新ドラマ)」と映画「おくりびと」の感想☆)<ユナ35>電車に乗る。終点まで行けば、ヨシカワの住む駅に行く電車に乗り換えができる。終電ギリギリで乗り換えることができた。でも、着くまでは、ヨシカワに会うつもりでいたのに、駅に近づくにしたがって、だんだんそんな勇気が無くなっていった。今更ヨシカワに会ったところで、こういうのって、かなり重いんじゃないかな?大体、何て言ったらいいんだろう…。それとアオくんのことがひっかかっていた。アオくんと体の関係を持ってしまった事実が、ヨシカワに会いに行くことのブレーキになっていた部分もある。それに、そんなことしていた私は、きっと軽蔑されるに違いないだろう…。「スパ健康ランド、最終便でーす!乗るお客様がいらっしゃいましたら、どうぞお早めに御乗車下さい!無料送迎バスですー!」ロータリーで、健康ランドに行く客がバスに乗っていくのが見えた。一度行ったことがある。銭湯がもっと温泉アミューズメントパークみたいになった雰囲気の場所。確か、朝までやっていたはずだ。私はそのバスに乗ることにした。「オマエ今どこにいるんだよ?」健康ランドに着いてすぐに電話を入れると、サトシが不機嫌そうに電話に出た。「友達のとこ。」「友達って誰?男?」「誰か聞いてわかるの?」サトシが黙った。「しばらく帰らないから。」「どういうつもりだよ?」「離婚したいの。」また黙る。私も黙る。「帰ってきて話し合おうよ。」「この前言ったけど。聞いてくれなかったよね。」「アレは出かける前だったから。」「その後も、その話は出さないで避けてたよね。」また黙る。何か考えてくれてるのか…。「本気じゃないと思ったから…」「それって、何もしなければ物事が解決するってことだよね?もう嫌なの。私が勝手に怒ってるみたいなのが。嵐が過ぎるの待ってるみたいで。」「別にそんなこと思ってないけど…。もういいよ、勝手にすれば?」「うん。勝手にするよ。」「正月はどうすんの?」「どうもしないよ。」帰ってくると思ってるのか?この状況で帰ってきて、どうしようって言うんだろう。「俺、実家に行くわ。」「うん。わかった。」しばらくまた沈黙。「離婚して」「勝手に言ってろ。」ガチャっと電話が切れた。思い切り受話器を叩きつけたのだろう。耳が痛い。受付で手続きをして、更衣室に荷物を入れて、美肌効果のある風呂を選んで入った。大きな湯船に入るのは久しぶり。家族連れが楽しそうに湯船に浸かってる。子供が熱いと泣き出した。こんな遅い時間なのに、来てる人がたくさんいるんだな…って思った。温まってから健康センターの中を散策すると、ゲームコーナーがあり、隣の畳の部屋で雑魚寝してる人がいる。シアタールームでは映画なんてやってなくて、沢山の人がリクライニングチェアで寝ていた。私もここで眠ろうと思った。薄い毛布をかけて横になる。最悪の年越しになりそうだと思った。明日からどうしようか…。幸い、年末で銀行が混むだろうし、使えなくなるだろうと思っていたから、お金だけはおろしてあった。カードも使える。明日から駅前のビジネスホテルにでも泊まるか、ここでずっと過ごすか…。私ってこんなことできたんだな。もうそう思うのは、この街でパチンコした時からずっとだったけど。あの時から私の何かは麻痺したままなのかもしれない。何でもいいや。なるようにしかならないし。不安だけど、怖いけど、どうなるかわからないけど。目を無理やりつぶっていたら眠っていたらしい、誰かが私の肩を揺り動かしたので、目が覚めた。「おい!おい!」全く知らない男の顔が目の前にあった。驚きのあまり声が出ない。「あ!すみません!間違えました!」男は自分の妻と間違えでもしたのか、さっさと他の辺りを探し始めた。ようやく妻をみつけたらしく、間違えちゃってさ~と報告して笑っている。心臓がドクドクいってる。怖い。やっぱり何だか怖い。一人でここにいることを誰も知らない。何かあっても、誰も私を助けてくれないんだ。それだけじゃない。私には、こんな怖いことがあったんだって、報告できる人がいないんだ。独りだと思った。これが独りになることなんだって。間違えた男が羨ましかった。失敗したことを報告できる人がいる。それでもサトシのところに帰る気にはならなかった。館内放送が入って、もうすぐ清掃で、一度閉館になると告げていた。出ると朝日が眩しい。ここから出勤するらしいサラリーマンがいた。今日で仕事納めのはず。サトシは会社に行ったんだろうか…。24時間営業のファーストフードに入って朝食にした。何があってもオナカだけは減るんだな。ここに泊まるって手もあるか。でも、寝てる間に貴重品が無くなったらマズいしな。そんなことを考えてたら可笑しくなってきた。やっぱり私は帰る気なんて、さらさら無いんだ。店から出てぼんやり考えていたら、携帯が鳴った。「はい。」「俺だけど。」「うん。」サトシだった。後ろから何も聞こえない。家なのか会社なのか。「本気で言ってるのか?」「うん。」「好きなヤツでもいんの?そいつとやってくワケ?」「そういうワケじゃない。」好きな人がいるって言ったら離婚してくれるんだろうか?だってそんな約束してないし。どうなるかなんてわからない。それに、ヨシカワは確かにきっかけになったかもしれないけど、それが全てってワケじゃない。もしも会ったとしても拒まれるかもしれない。でももういいの。誰もいなくなっても。あの淋しい家に帰らなくて済むなら、私は何だってする。何だってできる気がする。あの家にいたって、私は独りだったんだもの。「我慢しようよ。」サトシが言った。「何で?何で我慢しなきゃいけないの?」「だって結婚ってそういう簡単なものじゃないだろ?」私もそう思ってたよ。だから迷った。でも、こんなこと続けてて、何があるんだろ?もっと早く、あっさりやめちゃえば良かったなんて、今は思っているのに。「ユナの話、ちゃんと聞くから…。」「もう、聞かなくてもいいよ。もう話したいって思うことが無いの。して欲しいって思うことが無いの。」サトシが黙った。「もうサトシといっしょにいても、何も求めるものが無いの。」サトシはため息をついた。「残酷なこと言うね…ユナは。」「ごめんね。」「謝るなよ。女が謝る時にいいことなんか何もねえよ。」以前はサトシがそんなこと言うと、他の女の人の影を感じて、悲しくなったり、ヤキモチ焼いたりしたのにな…。今は何も感じない。サトシの女性遍歴がどうだったかなんて、もうどうでもいい。もうダメなんだと一層感じた。「サトシは幸せなの?」返事が無い。私は返事を待つ。「考えてみる。」電話が切れた。ため息。少なくとも、私は幸せじゃないんだろうな…。そして、もうサトシを幸せにはできないだろう。ごめんね。こんな女で。疲れが襲ってきた。もう後戻りできないと思った。でも、何とかなる。何とかする。どうなるのか、やってみるしかないから。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月12日
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今日の日記(「ブザー・ビート」で男女の友情を考えた☆)<ユナ34>アオくんとの付き合いを続けていたら、サトシが年明けに、本社に戻れると言い出した。ようやく実家のある街に帰れるんだ。ホッとした。でも、それはますますヨシカワの街から離れることを意味していた。最近、だんだんこれが自分の現実なのか、よくわからなくなっていた。家に夜に一人でいると、私はここで何してるんだっけって思う。料理を二人分作って、それを一人で食べて、翌日にまた同じもの食べて…。帰ると真っ暗な部屋が私を待っていて。きっと、実家の近くに住んでも、ずっとこんな生活なんじゃないかな?子供ができても、そこにサトシはいない気がした。サトシには、もうわかってもらえないと思うのはナゼだろう?俺だって忙しいんだからって、そのうちこの仕事も終わるからって。それは私だってわかってるんだよ。だから言わないようにしてたら、こんなにすれ違っちゃった。私もサトシに報告したいことが無いよ。それに、その仕事が終わったら、次の仕事でしょ?もう、一人で食べる二人分のご飯を作りたく無い。家に帰りたく無い。サトシと会いたく無い。車を出して、アオくんが家庭教師が終わった後に会って、抱き合うと、少し気持ちが落ち着く。そんなことを繰り返す。でも、このままだと、もう私はダメになってしまうかもしれない。あることを決めた。市役所に行った。「離婚届下さい。」受付の女の人が、無表情に緑で縁取られた紙を渡してくれた。その足で、デパートに行く。もう街はクリスマスのデコレーションでキラキラしていた。私はアオくんが欲しいって言っていた時計を買った。高価な物を欲しがる子じゃなくて良かった。これじゃあ、貢いでるみたいかな?でも、普段アオくんがいろいろ出してくれてることが嬉しかった。最後にこれ位いいよね?その夜、アオくんに電話をする。アオくんがすぐに出たので驚いた。「今大丈夫?」「うん。大丈夫だよ。」「あのね、クリスマスまでに会える日ってあるかな?と思って。」アオくんに言われた日は、ちょうど仕事が重なっていて、ダメだった。会社の送別会もある。引越しの支度も。うまく調整しないと、アオくんと会えない。「じゃあ、この日会えなければ、ずっと会えないんだね。」アオくんが怒ってるような気がした。それとも自然消滅した方がいいとか?最後にお別れだけ言いたかったな。私は迷う。「そんなこと言わないでよ、アオくん。会いたいからこうして聞いてるんでしょ?ね、会いたい?もう嫌?私は会いたいんだけどな…。」「…うん。」アオくんが頷いたので、会えることになった。結局会える日はクリスマスが過ぎてから。私の仕事最終日の夕方だった。でも、会えるならいつだっていい。この時計を渡して、ちゃんとさようならしよう。アオくんは、クリスマスに友達のライブに行くらしい。うちはどうするんだろう?多分忘年会シーズンだから、サトシはクリスマスはいないだろう。少しホッとした。最近は家に一人でいる方が楽。クリスマスケーキを一人分、美味しそうなのを仕事帰りに買ってきた。ヨシカワからもらったCDをかけて、頬張る。彼は今日も店で仕事してるんだろうか?クリスマススペシャルのドラマを観て、お風呂にバスビーズを入れて、ゆったりと長く浸かって、髪を乾かして、眠る支度をして。私は離婚届に名前を書き込んだ。それをカバンに入れる。ヨシカワのCDも入れる。これは私のお守り。今の毎日を続けるお守り。アオくんにようやく会えた時は、何となく泣きそうになった。多分これで最後。私は年明けには引越す。「今日はピッチ早くない?テンション高いよ。どしたの?」「そう~?だって、会いたかったんだも~ん!」私はわざとアオくんにしなだれかかった。変だと思ったのか、私が誘ってると思ったのか、アオくんが二人きりになろうって言い出した。部屋に入ると、私からアオくんを押し倒した。自分からキスをして、舌をからませて、アオくんのシャツを脱がせた。自分の服も脱ぐ。もうこれが最後かもしれない。そう思うと、アオくんの体を抱き締める手に力が入る。アオくんは私を抱くと、大きなため息をついた。「どうしたの?」「どうしてフジサワさん、こんなことするのかな?って思って。」「どうしてなんだろ?何でこんなことしてるのかな…」自分でも、もうどうにもできないんだよ。でも、もうおしまい。結婚を続けるためにこんなことをする必要は無い。そんなことわかってた。BGMが聴こえた。その曲で私はある映画を思い出した。「昔観た映画で、うんと年上の女の人を少年が好きになるの。夏の話で、女の人は少年に恋を教えるの。」そう言えば、私とアオくんは夏に出会ったんだな。「それで、こんな関係になっちゃうの?」「ううん、ならなかったよ。キスした位かな。そして、少年のキレイな思い出になった…って話。」でも、年上の女は淋しさから薬に溺れて死んじゃうんだけどね。エンドロールの波の音が淋しかった。私はヨシカワを思い出した。少年はアオくんじゃなくて私だ。私はヨシカワに恋をしている。まだ多分…そしてキレイな思い出を引きずって、今私はその女になって、アオくんとキス以上の関係になり、アオくんは私の中で少年じゃなくなっている。「じゃあ、僕たちダメじゃん。」アオくんが呆れた感じで笑う。「ホントだね。」つられて私も笑って、お互いの体を抱きしめ合う。「ホントは、こうなっちゃいけないよね。私が止めれば良かったんだよね。でもさ、私にはいい思い出になったよ。おばあさんになったら思い出すの。自分より、一回り近くも年下の男の子が、自分を好きになってくれたこと。」「おばーさん?まだまだ先じゃない?」「そう?女は男と違って、オバサンからキレイになるってこと無いんだよ。男はオジサンになると渋くなるとかって、モテたりするじゃない?」「う~ん、そっかなぁ。」「そうよ~。あー、あの男の子好きだったのになぁ~、寝ちゃえば良かった。なんて、死に際思いたくないじゃない?」「何だそれ~?最期に思うことがソレなの?」「そうよ、あんなに迫られたこと、人生で無いもん。楽しかったなぁ~。」ホント、楽しかった。ちゃんと言わなきゃね。年明けには引越すこと。もう今日が最後だろうってこと。「転勤が決まったの。」「え…?」「もうすぐ引越すの。今度は黙っていなくなったりしたくなかったから。」「もうすぐ会えなくなるの?」「うん、もうすぐ…ね。」アオくんは私の体を強く抱いて、そのまま私の体の存在を確認するかのようにキスをした。私もアオくんの体のぬくもりを確認した。帰り際、私はアオくんにクリスマスプレゼントを渡した。アオくんは中に入ってた時計を見ると、嬉しそうな顔をしたけど、ちょっと淋しそうだった。「ねぇ、アオくん、誰か好きな人ができたら、今度はちゃんと言葉にして、好きって言ってあげないとダメだよ?」私みたいにね。ダメになっちゃうよ。アオくんは私をジッと見て、ギュッと抱き締めた。ねだったように感じたのかな?それでも、私の全てを欲しがっていないことはわかる。これはお別れの儀式なんだ。「好きだよ。」「うん。」アオくんがいてくれて良かった。アオくんの存在をうまく表現できないけど、アオくんじゃなければ、私はどうなってたか、わからなかったよ。アオくんがいなかったら、私の心はきっと死んでたよ。貴方は私の中で、かけがえのない大切な存在だよ。「好き。」お互いがお互いをキツく抱き締めた。帰りの電車は忘年会帰りのサラリーマンでごった返していた。アオくんが、私の前にいた。混んでるドサクサでアオくんが私の腰を抱き、手を繋いだ。私の駅に着くと、アオくんは名残り惜しそうに閉まる電車のドアの中から手を軽く振った。ホームから電話を家にかけてみる。誰も出ない。ホームには、反対方向の電車に乗る人が数人待っていた。家に帰らなきゃいけない。またあの日常に戻らなければいけない。そう思っていたけど…。私の足は、やってきたホーム反対側の電車に向かった。もう、あの真っ暗な部屋に帰りたくないから。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月11日
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今日の日記(なかなか楽しかった映画☆)<ユナ33>次にアオくんと会った時は、アオくんがいきなり遊園地に行こうと言い出した。「こないだ友達とみんなで行ったんだけど、楽しかったから!」「そうなんだ?飽きない?」「うん。だって、フジサワさん連れてきたら、喜ぶかな~って思って。また違って楽しめそうじゃん。」どうして、この子はさりげなく、人が嬉しくなるようなこと言うんだろう?本人はわかって無いだろうけど。アオくんはジェットコースター系が苦手だった。私は大好き。一回だけ付き合ってくれて、絶叫してるのが可笑しくて、私は大笑いしていた。降りるとフラフラしてたのがカワイイ。「この前の時は乗らなかったの?」「うん。他の友達は乗ったけど、乗らない子と待ってた。」「子ってことは女の子?」アオくんは、しまった!って感じで口ごもった。その表情がカワイくてつい、笑ってしまう。「ダブルデートか何かじゃないの?楽しそうだな~!」「何?フジサワさん?何で笑ってんの?それともイジメてんの?」「何でそう感じるのぉ~?若者たちが楽しそうでいいな~って思っただけなのにぃ。」イジメてると言えば、イジメてるような口調だな。私はそれが楽しくてたまらない。「別にいいけどさ~、ヤキモチとか焼かないワケ?」あ、ちょっと拗ねた。多分その後に続く言葉は、旦那さんがいるから…だろうな。口にしないとこが頭がいい。「焼いてる!焼いてる!そんなとこに私を連れて来るなんて、ヒド~い!」私はそう言って、アオくんの腕に手をからめて腕を組んだ。そしたら、アオくんはちょっとその手の方を見て、照れたような嬉しそうな顔をした。観覧車に乗ると、夜景がとてもキレイだった。向かい合って、ぼんやりアオくんが外を見てる。高校生の交際だって、こんなに健全じゃないんじゃない?つまんないから隣に座ってみた。「何でコッチに来るんですか?」「だって淋しいんだもん。」「しょーがないなぁ。」アオくんが私の肩を抱く。「フジサワさん、淋しん坊?」「うん。そうかもね~。」「僕の友達もそうみたいだよ。よく一人でいられないみたいで、飲みに行ってる。」「そうなんだ?」アオくんは、いっしょに遊園地に行ったらしい男友達の話を、楽しそうに語った。多分、よっぽど仲がいい友達なんだろう。「いい友達がいるんだね。」大切にしてる話を聞けたようで、嬉しくなって言った。「僕もそんな友達が大学でできるなんて思わなかったよ。」アオくんが、とても嬉しそうに言った。もうすぐ観覧車が下に着く。う~ん、健全過ぎてつまんないな。降りる直前に私はサッとアオくんに軽くキスしてみた。アオくんが真っ赤になってた。かわいい!「やった!」「やられた…。」降りても何だか勝った気分で可笑しかった。人も減ってきた。そろそろ帰らなきゃなぁ~。出口に向かう暗い道端で、アオくんが、いきなり肩に手をまわしてきて、キスしてきた。顔を離したら、真面目な顔してたのに、いきなり笑って、「お返し!」と言った。「やった!」って言って走り出したので、私も「やられた!」って言って追いかける。楽しい時間はアッと言う間で、私は学生の頃に戻ったような気持ちになった。コレって不倫ってやつなんだよね?もっとズブズブしたもんかと思ってた。アオくんは、時間があれば電話をかけてきて、自分に何があったかを話してくれた。私も、何でもない、ささやかな職場の日常を話す。ヨシカワとしていたみたいに。ヨシカワほどの手応えは無いけど、すごく楽しかった。次にはドライブに行く約束をする。私は仕事を休みにして、アオくんは学校をサボって。アオくんは、車庫入れが苦手。「早く上手に運転できるようになってね~!」「チェッ!厳しいな~。はいはい。すぐに上手くなりますよ。しょうが無いじゃん。乗ってる年数が違うんだから。」「あ、何か今、歳の差を言われた気がする~。でも、そうよね。同じ年数乗ってたら、アオくんのが絶対上手いよ。」「そっかな?」ちょっと嬉しそうな顔をする。疲れたんじゃないかと思って、アオくんと運転を交代する。アオくんはご機嫌でBGMの音楽に合わせて歌う。もうこの曲も覚えてしまった。自分だけだったら、知らなかった曲。アオくんと私は自分達が子供の頃の話や初恋の話をした。アオくんの初恋は、幼稚園の先生で、もしかすると先生は私よりちょっと上なだけかもしれない…と。こうしてアオくんと付き合っているのは、犯罪なんじゃないか?二人でそんなことを話して笑う。不思議な気持ちになった。サトシといっしょにいても、こんな空気にならない。ヨシカワとも違う。相手によって、付き合い方ってこんなに変わるものなんだと思った。私って狭い世界に生きていたのかもしれない。誰と付き合っても、サトシと同じようになるんだと思ってた。ヨシカワといっしょに、こんなふうに過ごすことは無い。もう絶対無い。それが無性に残念なことに思えた。戻れるなら、戻ってしまいたくなる。あのいつでも顔を見れてた頃に。これって多分、私の中でヨシカワが理想として膨らんでるんだろうな…。そう思った。いっそ、アオくんみたいに、付き合うだけ付き合って、納得して終わらせちゃえば良かった。未練ばかりが残ってる気がした。「あのお店に入ってみたいな~。」ペンションみたいなレストランを指さすと、アオくんは、オッケーと、ちょっと慣れた感じで車を駐車場に入れることができた。やるねぇ~!って、褒めたら、えっへん!って態度を取った。ホント、この子って面白い。食後に聞いてみた。「ねぇ、同じ歳くらいで、好きな子はいないの?」アオくんは、私と会ってない間に、ナンパして、ガンバってみたって話を楽しそうにしていた。その女の子が自分のこと好きかと思ってたら、違ったってことを面白可笑しく話す。私は、何となくその女の子が気になってるんだな?って、ピンと来た。多分、遊園地でいっしょだったのも、その女の子だ。彼が私から全てを奪おうとしないのも、私が彼にのめりこまないのも、そんなところから来てるのかもしれない。「何でそんなこと聞くの?」「アオくん、優しいし、モテそうだから。私とじゃもったいないと思って。友達は、いるんでしょ?」「うん。いるよ。いるけど…」ホントはそっちの子と付き合いたいんだろうな…。そんなこと思った。この強引で、大胆なことするくせに、なかなか行動に移さない男の子は、こっちから何かしかけないと、自分から何かする勇気なんか無さそう。好きな子がいても、あんな偶然は早々起こらないよ?それとも、その女の子に友達以上を求めて、嫌われちゃうのが嫌なのかな?彼なら考えられる。確実に上手く行くってわかってないと、ぶつかるのが怖いのかもしれない。誰でもそうよね。私もそう。「もしもね、アオくんに合う女の子ができたら、それなら、行って。大丈夫だから。私大丈夫だから、言ってね。」もしも私がネックになってるなら、私は練習台で充分だよ、アオくん。私は、貴方の存在でずいぶん慰められたよ。だから、いついなくなっても大丈夫。アオくんは、車に戻る途中、ちょっと淋しそうな顔をして言った。「ごめんね…。」「何が?」「僕が若いこと。」「いいことだよ、若いこと。私も戻りたいもの。謝るのは私の方だよ。」アオくんは、何も言わずに、私をギュッと抱き締める。彼の行動はわかりやすくていい。ワケがわからないのは私の方だ。今は何も考えたくない。だって、今は、淋しくないもの。現実私を抱き締めてくれるのは、アオくんだけだもの。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月10日
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今日の日記(「リミット~刑事の現場~」の感想と修理工事経過☆)<ユナ32>連絡先を教えて別れたものの、イマイチ現実感が無かった。こんなこと続けていいワケが無い。それでもアドレスの中にはアオくんの電話番号が書かれていた。何となく消せない。だけど電話はかけない。サトシが出張から帰ってくると、いつもの毎日が戻った。何だか、やっぱりアレは、非現実なことだと思った。私の現実はコッチ。何かが麻痺してるような気がした。麻痺してるからやっていけるのかもしれない。仕事がようやく決まった。保険会社のデータ入力。これで私の生活もちょっとは落ち着くだろう。それにしても、他の男と寝てこんなに平然としていられるなんて、私って、一体どんなやつなんだろう…。もう自分が信用できなかった。サトシは私の変化に気付かないようだった。いつから私たちは、こんなにお互いに無関心になってしまったのだろう?そのことが淋しいのに、そのお陰で普通に生活できている。でも、コレは私が望んでいた結婚じゃない気がした。「ねえ、サトシ…。」「うん?」朝ごはんのコーヒーを飲みながら、サトシはテレビの方を見て返事をする。「離婚しない?」驚いたようにこっちを見てから、すぐに怒った顔に変化した。そしてため息をつく。「あのさあ…俺疲れてるんだよね。毎日遅くて悪いと思ってるけど、そういうゴネ方やめてくれない?疲れるから。」そうじゃなくて…言おうとしたけど、サトシは時間が無いとばかりに席を立って、不機嫌に歯を磨き、行って来ます、と出て言った。何でゴネて離婚って言葉を使うと思ってんのよ?何で拗ねてると思い込めるのよ?ハラが立ってきた。本気で離婚したいと思ってるワケじゃないと決め付けてる。でも、確かに、この時は、とりあえず口から出してみたって感じだった。本気にしなくてもしょうがない。その夜、サトシは怒っているのか、顔を合わせたくないのか、いつもより更に遅かった。私が翌日仕事があるから、早く眠るのを待ってるかのようだった。そうして日常に紛れて、私が機嫌を直すのを待っているんだろう。機嫌の問題じゃないのに…。「今日は早めに帰るから。」この気まずい空気が嫌で、私が自然に話しかけるようにしてしばらく経つと、何もなかったかのようにサトシが言ってきた。そして会社に行った。またいつもの日常の始まり。でも2、3日すると、また仕事で遅くなるようになった。私はサトシをアテにしないようにした。ヨシカワからもらったCDを出して、かけるようになった。忘れようと思ってたのに。彼が側にいてくれるような気がする。それでも、何か淋しい。どうしてアオくんみたいに、私を強引に自分のものにしてくれなかったの?どうして引き止めてくれなかったの?キレイな思い出になんてしなければ良かった。あの手を、あのぬくもりを、拒まなければ良かった。そう思っても、何だか去年のことが遠い昔のことのように感じる。ヨシカワは私を覚えているだろうか?独りでいるのがつらい。手帳のアオくんの番号を眺めて、彼のひたむきさを思い出すと、あの、真っ直ぐに私を見てくれていた目と、力の強さを思い出すと、涙が出てきた。でも連絡していいのかわからない。一度したら、淋しさを埋めるためにブレーキが利かなくなりそうな予感がする。アオくんなら、会いに出てきてくれそうな気がする。電話が鳴ってる。誰?こんな時間に。サトシじゃないよね?お母さん?「はい…」声がしない。「もしもし?」「ごめん…僕…」「あ…」嘘みたいだ。アオくんの声だった。「ごめんなさい、ダメだよね?切ります。」「ううん、今大丈夫。」私は慌てて引き止めた。驚いたと同時に嬉しくなってきた。涙を拭く。笑っちゃう。アオくんのこと考えてたら、アオくんから電話が来た。テレパシーでも通じたみたいに。「何だか嬉しい。声…聞きたいなって思ってたから…」「じゃあ、かけてくれれば良かったのに。」「うん…。」声が詰まった。心の中が温かくなっていくのがわかった。「かけても良かったの?」「いいよ。かけてよ。」「うん。ありがとう…。」優しい声が今は、とてもありがたかった。また泣きそうになってしまう。「フジサワさん…」「うん…」「会いたい…」本気で言ってるんだろうか?でも、今の私の心を掴むには充分な言葉だった。「私も会いたい。」私の心の中のブレーキは、はずれてしまった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月09日
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今日の日記(「乙男オトメン(新ドラマ)」「猿ロック」「オルトロスの犬」感想とお盆休み開始☆)<ユナ31>まさかこっちからラブホテルを探すことになるとは思わなかった。どこにあったっけ?だいたい、そんなとこに行くこと自体、この前が本当に何年ぶりか?って話だったんだから。沈黙が耐え切れなくて、ラジオをつけた。大通りを走らせていたら、何件か並んでるのをみつけた。じゃあもういいや。ここに入れちゃえ。あ~、何だって、女の私が車運転して、男の子乗っけて、こんなとこ入らなきゃいけないんだろ。どう見たって、私が無理やり連れて来たみたいじゃん。情けない気持ちになってきた。コンビニに戻ったことを後悔する。車を止めると、アオくんが降りようとしない。アオくんだって、怒ってたからあんなこと言っただけなんじゃないだろうか?「降りないの?どうする?」「降ります。」アオくんが入るのをやめるかと思ったけど、そんなことは無かった。肩をグッと引き寄せられて、さっさと中に連れていかれた。もういいや。どうでも。美しい思い出なんて作れるはず無いんだから、せいぜい幻滅するといいよ。寝る気なんてうせるようにしちゃえ。そう思った。「お風呂入る?」「え?それって…」さっきの強引な態度はどこに行ったのか、アオくんが真っ赤になった。「いっしょにじゃないよ。先に入る?って聞いてるの。」そんな態度取られると移る。私まで照れてしまう。いくら何でも、そんなの誘うワケないじゃん。私のこと、どんな女だと思ってるんだろ?お湯をバスタブに入れる。「アオくんが入らないなら、私は入っちゃうよ。夜はお風呂に入りたいの。今日は、ちょっと疲れちゃったし、軽く浴びるなら、先に入っていいよ。」アオくんはどうすべきか考えてるようだった。いなくなるとでも思ってるんだろうか?まさか、そこまで私だって悪いヤツじゃないよ。「大丈夫よ。置いて帰ったりしないから。」「じゃあ、先に入りますよ!」私の態度が悪いからか、アオくんは、まだ怒ってるらしい。さっさとバスルームに消えた。私はテレビをつけた。ホントにまたこんなとこ来ちゃったよ…。イマイチ現実感が無い。本気でまた寝ようって言うんだろうか?私のどこがいいんだろ?それとも女なら誰でもいいとか?この子が女の子と初めてだったのは知ってる。それで、性欲に目覚めちゃったんだろうか?だとしたら、そうさせちゃった私が悪いんだけど…。アオくんが出てきて入れ替わりに私が洗面所に入る。「化粧落としたら、ガッカリすると思うよ。」で、我に返ってやめるかもしれない。うん。青少年は、自分に見合った子と付き合うべきよね。今日は一時期の気の迷いってことで。アオくんが呆気に取られた顔をしていたので、何だか可笑しかった。あ~あ、ホントに化粧取ったらゲンナリってやつなんだろうな…。まあいいか。現実を知るのも悪くないわよね。やっぱりやめておきます~!なんて、冷や汗かいて、逃げるかも。私はだんだん気持ちが楽になってきた。この状況を楽しんでいる自分がいる。お風呂から出たら、アオくんはベッドにバスローブ姿で倒れているかのように寝てた。ふ~ん。酔ってたんだろうな…。ちょっと息が酒臭い。無防備に眠っている。あどけない顔。髪の毛が顔に落ちてる。手ですいてみた。かわいい~。子供みたい。髪を撫でてたら、アオくんの目が開いた。「あ…ごめんね。起こしちゃった。」私の顔をぼんやり、じーっと見ている。あ、ヤバイ。チェックされてる。「そんなに変わってないけど…。」「無理しなくていいよ。」アオくんが寝惚けながらフォローするのが可笑しかった。「一応、僕にも母や姉がいるんだよ、フジサワさん。でも、そんな話、したことなかったよね。」あ、そうなんだ?じゃあ、女が化粧落としても、ちょっとは大丈夫なの?何だか心が楽になる。この子ってどうしてこう、人を和ませるのが上手なんだろう?「そうなの?そっか…。そうだね。何も知らないんだね、私達。」ちょっと肩の荷が下りちゃった気がして、せっかく、戦意喪失させようと思ってたのに、拍子抜けしちゃって、笑ってしまった。「大丈夫。カワイイ…」アオくんの手が、私の頬を撫でる。そんなこと言われると、私もアオくんと同じ歳の女の子になったような気がする。アオくんが私を抱き寄せて、唇に優しくキスをした。そのまま、首筋から下にどんどんキスが下がってくる。体が熱くなってくる。どうしよう。またこんなことに…。抵抗するべきなんだろうけど、もう体は言うことを利かなかった。体が痺れ始めてきて、声がつい漏れてしまう。こんなのマズイ。すっかりこの子のペースになっている。気付くとまたアオくんの腕の中にいた。いつの間にか寝てしまってたらしい。時計を見たら、朝だった。まだ少年って感じのアオくんの寝顔を見ていた。またこんなことしてしまった。どうしよう。にしても、ホントにまだ若いんだな…アオくんの目が覚めた。「おはよう。」「おはよ…」まだ寝惚けてるらしい。「アオくんの寝顔って、子供みたいでカワイイね。」つい思ったことが口に出た。「フジサワさん…連絡先教えて。」え?まだこの関係を続けようって言うの?良くないんじゃないかと思った。この子が傷つくんじゃないかな…。ううん、そうじゃないか。私が空しくなるだけかも。アオくんは、何を考えたのか、いきなり私をくすぐってきて、私の体を弄び始めた。「教えないとやめないよ。」意地悪なことを言い出す。もう耐えられない。「教える。教えるから、もうやめて…。」強引な男の魅力にかなうワケが無い。しかも、彼は私の好きなタイプなんだもの。もう、なるようになれって思った。自分がこんな人間だとは、思わなかった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月08日
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今日の日記( 「任侠ヘルパー」「ダンディ・ダディ?」の感想☆と夏の化粧)<ユナ30>あれ以来、私は家のことをガンバることに決めた。でも、何だか自分の中の何かが無くなっちゃったみたいな気がした。ここにいる私は、一体何がしたくて生きてるんだろう?夫意外の男を好きになり、その人を諦めて、結婚生活を続けるために、その男を忘れるために、他の男と寝てしまいました。…とさ。ため息。バカ女。忘れよう。もう終わったことだから。仕事は探したけどなかなか無くて、そんな時に、この前の仕事場で知り合ったママさんから電話が来た。「仕事みつかった~?」「まだなんですよ~。」「私も。で、ねえ、もし良かったらなんだけど、ちょっと息抜きしたくない?飲み会しない?この前のバイトママメンバーで。」「え?ホント?!いいですねー!行きたい!」「やったぁ~!じゃあ、ダンナに子供預けちゃう!オシャレしちゃおっかな~。ドコに行こうかね~。」電話を切るとウキウキした気分になった。みんなほぼ歳が近いママさんばかりだった。サトシに言ったら、その日は出張だと言う。聞かなかったら直前に言うつもりだったんだろうか?わかってたなら言ってくれればいいのに。まあいいや。私もこれで心おきなく出かけられる。ラッキー!最低最悪な結婚生活をおくってるんじゃないか?と思った。ひどい奥さん。こんなふうになると思わなかった。子供が自然にできたりして、サトシも家にいて、賑やかで楽しい家を作ってくつもりだった。サザエさんちみたいな。何でこんなことになっちゃったんだろ。でも、サトシは満足そうに見えた。自分の時間を持てて、休みの日にはゴロゴロしたりゲームしたり、時々会社の人に誘われてどこかに行ったり。飲み会の夜は、ちょっとオシャレをして、メイクもバッチリしてみた。派手になりすぎない程度に。バイトのお金で、ついワンピースも買ってみた。待ち合わせ場所に着いたら、みんなもウップンがたまってたんだろうか?まるで独身のキレイな女になっていた。やーん、キレイじゃ~ん!これカワイイ~♪子供いないからオメカシしちゃった~♪飲みなんて、何年ぶりだろ~!女4人で褒めあう。ママさんが下調べしてきた、オシャレっぽい飲み屋さんに入る。ちょっと店内が暗くて、洒落た雰囲気の。私はヨシカワの店を思い出した。また思い出してる自分が滑稽に思えた。もういっそ、離婚しちゃえばいいんじゃない?でも、それじゃあヨシカワのためにするみたいじゃない?それはちょっと違う気がした。私とヨシカワはそこまでの仲なんだろうか?私がカクテルを頼むと、詳しいの~?って、みんなが感心してくれた。飲み始めると、みんな家庭のぶっちゃけ話を始める。「うちさ~、もう一人欲しいんだけどさ~、ダンナともうしたくないんだよね。」「あ~、わかるわかる。排卵日だけしかしたくないよね。」「何それ~!子作りマシーンみたいじゃ~ん!」「いいのよ、だって私のこと、お料理マシーンとか、洗濯マシーンだと思ってるんだからさ~。」「ひどいわ~。そこに愛は無いのぉ~?」「あるけど、男と女じゃないわね。」「じゃあ、何?」「情かなぁ~。」「ひゃ~!愛はどこへ~!」みんな言いたい放題でゲラゲラ笑った。「うち、実はさぁ~、旦那が浮気してんの。」「え?嘘!ホント?!」「ホント~。会社の部下だって~。嫌がらせの電話がかかってくるの。」「わぁ~!ドラマみたいじゃんね~。」「離婚は?」「しない。別れてやんない!悔しいし。子供が可哀想だし。」「まだ愛があるのね…。」「愛なのかどうかわかんない。」だんだん、深い話になっていく。どこの家も何かしら問題はあるみたい。私も自分に起こった話しようかな…。一瞬そう思ったけど、引かれること間違い無しなのでやめた。それに上手く説明できそうもない。正直、一度離れた心を戻せるなら、その方法を教えてもらいたいものだと思っていた。みんな、そのダンナさんをどうしたら自分の元へ戻せるか、真剣に話し合った。もしも、この奥さんくらい熱心に取り戻そうとしてたら、旦那さんが引いちゃうんじゃないかな…それとも、反省して戻ってくるかな…なんて、ぼんやり思った。何にしても、この夫婦はまだきっと情熱が残ってそうだ。私の家は何なのだろう?終わり頃には飲まずにお茶に切り替えた。あまり酔って帰ると家の人が心配するからだろう。みんなまた飲みに来たいから、ハメをはずしすぎないようセーブしてるらしい。終電間近になると、お開きにすることにした。みんなホントはもっと飲んでいたいんだろうけど、子供やダンナさんが待ってる。待ってないのは私だけだった。いつかは、うちも子供ができるのかな…。でも、サトシから欲しいような話は聞かない。私も子供なんて欲しくないと思った。今のサトシが全く自由な状況から考えても、私だけで子供のめんどうを見ることになりそう。それが楽しそうなことに思えなかった。電車を降りると、夜なのにまだムッとした熱気が強い。コンビニに入ると涼しくて爽快だった。明日の朝食べるパンと、缶のお酒を買った。飲み直して寝ちゃおう。「フジサワさん…」コンビニを出たところで男の声が聞こえた。声の方を向くと、アオくんが立っていた。どうして?!何でここにいるの?私は咄嗟に家の方に走り出した。あの出来事の時には、自分の駅の手前で、車から降ろしてもらっていた。まさか、私の跡を尾けてたとか?そう思って、とにかく逃げる。ふり返ると、アオくんが追ってくる気配は無い。止まって、落ち着いて考える。さっき、アオくんは、驚いた顔をしていた。だから、多分会ったのは偶然ってことなのかもしれない。アオくんもまさかこの駅とか?それは無いはず。もう少し先の駅だって聞いた覚えがあった。帰ろうかと思ったけど、気になった。私が弄んでしまった男の子ってことになるのかもしれない。さっきの態度だと、かなり傷ついたかもしれない。私は迷って、まだいるかどうかわからないけど、駅前のコンビニに戻ることにした。ちょうどアオくんがコンビニから出てきて、タクシー乗り場の方に向かおうとしているところだった。「アオくん…」声をかけたら、アオくんが振り向いた。驚いていて、目を見開くと、じっと私を悲しそうに見ていた。「ゴメンね…。逃げたりして。」アオくんは、いきなり私を抱き締めた。「フジサワさん…ひどいよ…。」強い力だった。何でこんなこと私にするんだろ?よっぽど傷つけちゃったんじゃないかと思った。逃れられないと思って力を抜いたら、アオくんの力も抜けた。その瞬間に体を離した。「どうしてこの駅にいるの?」「電車で寝ちゃって、間違えて降りちゃって…」アオくんが懸命に状況を説明する。「そっか、そうだよね…。」私ってば、自意識過剰かもしれない。「良かったら送ってあげようか?」酔いも覚めてるし、大丈夫だろうと思った。どうせ帰っても誰もいない。ちょっと位、ドライブして帰ろう。そう思った。頷いて、アオくんも付いてくる。駐車場に着いて、車に乗ると、アオくんもためらいながらも中に入った。「えっと、どこに向かえばいい?」「旦那さんは、大丈夫なんですか?」「出張。」サトシのことを聞かれると、何でもサトシに許しをもらわないと行動しちゃいけないみたいで、少しハラが立ってくる。私がイラついたのが伝わったのか、おびえさせちゃったのか、アオくんは下を向いて、黙ったままだった。感情をぶつけて、悪いことをしてしまった。「アオくん…?」「どうして、バイト終わったって言ってくれなかったんですか?」アオくんはこっちを向かない。怒ってるのかもしれない。私が抱かれてから、何も言わずに逃げたことに。「ごめんね、アオくん…。ホントにごめんね…。」それでもアオくんはこっちを向かずにうつむいていた。参ったな。「ねえ、怒ってるの?こっち向いてよ。」返事もしてくれない。どうしたらいいんだろ。私は途方に暮れた。このままじゃ、家におくることもできない。「アオくん…」アオくんの肩に手を置くと、ようやく顔をあげてくれた。あ、良かった。と、同時に、睨んで、いきなり強く抱き締めてきた。何?何でこんなことするの?頭が混乱してると、今度はいきなりキスをしてきた。怒ってる。本気で怒ってると思った。手に込められた力とキスの強さでわかる。何をされるかわからない感情のイラ立ちを感じた。「ホテル」「え?」「ホテルに行きたい。どこに向かうか聞いたじゃないですか。」バイトしてる時の真面目なアオくんからは考えられない言葉だった。この子、そんな子だったっけ?「アオくんらしくないよ、何でそんなこと言うの…。」「言わせてるの、そっちじゃないか!」アオくんの怒鳴り声なんて、想像もしなかった。すごく怒ってるんだと思った。「それで気が済むの?」「うん…。」寝れば気が済むって言うの?何だかんだ言って、体が目的なんだ?簡単にできると思ったんだろうな。最悪な私に、最悪な付き合い。いいかもしれない。もう、流されてみようか。この子の気が済むように。そう思った。「わかった。」私は車のエンジンをかける。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月07日
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今日の日記(「ブザー・ビート」「となりの芝生」とお迎えの日の報告☆)<ユナ29>そのままアオくんが強く唇を押し付けてきた。カチリと歯が当たる。嘘。あんなに目を逸らしたり避けたりしてた感じがしたのに、男の子ってわからない。いや、もう男の子じゃないんだ。男だったんだと思った。不器用にしてくるキスを受け入れていた。こんなことされるの何年ぶり?頭の中は妙に冷静なのに、体だけは火照ってくるのがわかった。アオくんの手がどんどんエスカレートしてくる。本当は、こんなふうにヨシカワが強引に来ていたら、私は拒めなかったと思う。ヨシカワに抱かれたかった。ずっと、ずっと…。「ダメ…。」アオくんが固まる。この子には申し訳ないけど、私は決めた。忘れさせて欲しい。忘れたい。ヨシカワの存在を。この空虚感を。一瞬だけでもいい。もう、何もかも、壊しちゃいたい。「ここじゃ、やだ…。」「う、うん…。」アオくんが車を出発させた。この子は本気で私を抱くつもりなんだろうか?こんなに歳が違う私を。「アオくん…、いいの?私で?」「うん…。フジサワさんも、ボクでいいんですか…?」アオくんのかすれた声が聞こえる。「うん。」私が頷くと、アオくんは大きな道路沿いのラブホテルに車を入れた。本当に車の初心者らしくて、何度も駐車場に切り替えして入れていた。いっそ私が変わってあげたいくらい慌てていて、可哀想になった。車から出ると、何となくつらそうに見えて、腕をからめてしまった。アオくんの腕がビクッとする。こんなことするの、初めてなのかもしれない。もしも初めてだとしたら、私を選んだのは、年上で経験があるから、早く経験したいからかもしれない。誘った私なら、てっとり早いと思ったのかもしれない。それならそれで、こっちと利害関係が一致してる。アオくんに対する罪悪感が少し薄れた。それでも、いくら好みのタイプの男の子と言っても、こんなに簡単に寝ていいんだろうか?これじゃあまるで、援交だよ。それに、こんなこと本当にしていいのかな?とんでもないことをしてるんだと思うと、心臓の音が早くなった。部屋に入ると、先にシャワーを浴びさせてもらった。私の方が、歩いてたせいか、服もビショ濡れだった。出ると次はアオくんがシャワーを浴びに行った。私は一体何をしてるんだろう。こんなことをしてていいんだろうか?いいワケが無い。でも、ここまで来ちゃったんだし…。濡れたジーパンを干した。バスローブになる。鏡を見ると、自分がだんだん歳をとってきたと実感する。最近化粧のノリってやつも悪い。日焼けの跡が少し残るようになった気がする。コレがシミってやつ?特に、アオくんみたいな若い子見るとそう思う。もしも自分がアオくんより年下ならこんなこと思わないかもしれない…。何だか申し訳ないような気持ちになってきた。アオくんなら、これからまだまだ若くてキレイな女の子と出会えるんだろうし、何も私となんか、しなくていいような気がした。なんで私なんかと?可哀想。ベッドに寝転がる。いいのかな…ホントに。シャワーから出てきたアオくんが、私の隣に座って言った。「やっぱり…、こんなのダメですよ。やめた方がいい。」あ、我に返ったのかな?ちょっと怖がってる気がした。「そうだね…。やめようか。」私は洗面所に行って、服を着ることにした。バカだな、私は。何やってるんだろう。こんな若い子相手に。泣きそうな気持ちになる。この子を利用しようとした自分が嫌になる。「今すぐ出てもお金取られちゃうね。悪いことしちゃった。お金出すね。」今日は現金持ってるし。せめてこれ位は出そうと思った。アオくんは力が抜けたらしく、ベッドに寝転んでいた。「いいですよ。別に。」「そっか。何だか私が出すと、援交みたいだもんね。」本当に若い女の子をお金で抱こうとする男の気持ちはわからないけどね。お金を出すことで良心の呵責を減らすってことなんだろうか。空しい空気が流れていて、申し訳なくて、私は無理やり笑顔を作った。「アオくんも着替えてくれば?」私はアオくんの隣に座って、この空気を壊したくなってテレビをつけた。アニメ映画がやっている。男の子と女の子が手を繋いで、何かから逃げていた。何だろう?ハニワかな?土偶?あ、ヨシカワからもらったビデオに入ってたやつだ。途中で切れてしまってた。「これ今日やってたんだ…。観てみたかったんだよね。」「観てから帰りますか?」アオくんが言う。すぐ帰るかと思ってたのに、いいんだろうか?でも、観れるなら観たい。「うん。」私は夢中になって観ていた。しばらくすると、アオくんがベッドに置いていた私の腕を引いた。え…?どうしたの?アオくんが淋しそうにジッと私の方を見ている。ジッと。まっすぐに…私もアオくんの隣に寝転がった。アオくんが私を引き寄せて、強く腕の中に抱き締めてくる。あ…アオくんが私にキスしてきた。頭の芯が痺れる。こんなに強引なことする子だと思わなかった。強い力で、アッと言う間に服がはだける。あちこちにキスされて、体中がおかしくなりそうだ。もうどうなってもいい。私も彼を求めた。ねえ、どうして?どうして、あの時、ごめんなんて言っちゃったの?私、シュウさんと、もっともっといっしょにいたかったよ。こんなふうに強引に、私のことさらって欲しかった。どうして私、こんなことしてるの?私、まだ女だった。このままおばあさんになっていくんだと思ってたのに。この子が私のこと、まだ女だって、気付かせてしまった…。サトシよりもヨシカワのことばかり考えてしまうのが悲しい。どうしてこんなことになっちゃったんだろう?目の前にいる男の子が、ただ私だけを求めてくれている。まっすぐに私だけを見てくれている。アオくんの腕の中にいると、体中の力が抜けてしまった。サトシ以外の男と寝ることになるなんて、心のどこかで現実感がなかった。こんなふうに、優しく抱き締められるのは、いつ以来なんだろう?義務的じゃなく、ホントに温かく、私のことを抱き締めてくれる腕。体がすごく熱かった。「ごめんね…。こんな、オバサンと…」アオくんの腕の中で、つぶやいた。本当にごめんね。「年齢は関係ないから。それにオバサンなんかじゃないから。」アオくんは、また強く私を抱き締めてキスしてくる。こんなに強く求めてくるのは若いから?ただ、経験したかったからじゃなかったの?どうしよう…。頭の芯がクラクラしてきた。これは夢じゃないだろうか?何か自分に都合のいい夢。「アオくん、熱いね…。私もう、自分は女じゃないと思ってたよ。…ただのオバサン。」本音がポロポロと出てくる。「このまま、おばあちゃんになっちゃうのかな~って思ってた。」「何かあったんですか?」心配そうな顔をアオくんがした。そんな顔をされると泣きそうになってしまう。悪くて。でも、嬉しくて。自分をまだ欲しがってくれる人がいたなんて。「ううん、私の気持ちの問題。」私はアオくんを抱き締めた。アオくんも私を抱き締めてくれて、ずっと二人で抱き合っていた。車に乗ると、私はアオくんの存在が、本当にありがたくて、アオくんの手の上に手を重ねた。一つ前の駅で車を止めてもらった。「アオくん、本当にありがとう。すごく幸せだった…。」今日は夢でも見てるのかもしれない。優しい男の子に抱かれて、慰められる夢。「ボクもです…」アオくんが、私のことを名残り惜しそうに見ていた。ありがとう…。何だか出来過ぎみたいな一日だったよ。私は笑顔で手を振る。コレでヨシカワのこと忘れられるかもしれない。明日から私は目が覚めて、同じように毎日を送るんだ。それでも、この一日があったから、私は大丈夫。きっと大丈夫だと思う。大変なことをしてしまったと思うのに、そのことになぜか罪悪感は無かった。だって、コレは夢なのだから…。私を現実に戻す夢…続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月06日
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今日の日記(静岡県下田旅行記☆(写真アリ))<ユナ28>「どこか行ってみない?」そうアオくんに、声をかけてしまって以来、アオくんとすっかり気まずくなってしまった。あ~あ、失敗したな。私は嫌われてしまったらしい。目が合った時に笑顔を作ってみるけど、アオくんは目を逸らしてしまう。そりゃそうだな。10も歳が違うオバチャンに誘われたら、よっぽどの美人でもなきゃ気持ち悪いだろう。悪い事したな~って思った。ただ、ちょっと、ここじゃないどこかに行きたくなっただけなのに。あの時に時計を戻したくなっただけなのに。この子とどうにかなりたいワケじゃない。ただ、一人でどこかに行くよりも、この子犬みたいな男の子といっしょなら、楽しいんじゃないかと思っただけだ。私は多分このまま歳を取って行き、女じゃなくておばーさんになっちゃうんだろう。それでいいかも。平和だし。それでもそのことが何だか無性に淋しくなった。女としてヨシカワの側にいたかったと思った。老人になってからじゃなくて。彼の胸に抱かれたかった。でも、あの時は、こんなにヨシカワの存在が心の中で大きくなると思わなかった。家に戻るのが当然だと思った。もう遅い。きっと今更どうにもならない。アオくんの素っ気無い態度が悲しくなる。多分、危険人物だと思ってるんだろう。欲求不満だとでも思ってるのかもしれない。それでも、ちゃんと親切に、荷物の上げ下ろしを手伝ってくれる。ぎこちない笑顔をされると、こっちは何だか妙に意識してしまう。「フジサワさ~ん!事務室に集まってって!」ママさんに呼ばれて事務室に行くと、女性のアルバイトが全員集められていた。「すみません、仕事が思ったより早く終わってしまったんで、皆さんは20日までって話だったんですけど、17日で切り上げでお願いします。」淡々と係長が言う。え~って、みんながブーイング。その代わりに、皆さんにはよくやっていただいたので、ボーナスで一万円支給させていただきます。係長がそう言うと、みんなまあそれなら~と納得した。それでも解散後は、男の人たちは最後までなんだよね?とか、生活がかかってるのに…とか、主婦だと小遣い稼ぎだと思ってるんでしょ。とか、子供の講習費用少し足りないな~。とか、そういったことをみんなが言っていた。私は切羽詰ってないけど、主婦ってことでひとくくりにされたら、たまったもんじゃないよね。生活のために来てるワケじゃなかったので、ちょっと申し訳なく思った。でも、そっか、今週までか。ちょっと残念な気持ちになった。アオくんとはこのまま気まずい感じでお別れなんだろう。どうせ短い期間なんだから、楽しく過ごしたかったな。そう思った。最後の日は雨が降っていた。何だか憂鬱。唯一の救いは、最後にアオくんと話せたこと。アオくんの方からやってきて、ダンボールを私に代わって上に乗せてくれた。嬉しくなって、「ありがとう!」って、大きな声で言った。「いえ…。」よそよそしくないように、ちょっと笑顔を作って去って行く。私がバカなことさえ言わなければ、もっと和やかに話せたかもしれないのにな。お給料の清算をして、みんな帰る。私はママさんと連絡先を交換した。そのうちお茶でもしようね!うちに遊びに来てね~!みんな子供を引き取りに行ったりしなきゃいけなくて、慌しく帰って行った。私はせっかくお給料をもらえたので、本屋にでも寄ることにした。現金でもらえたのが何だか嬉しい。本屋で雑誌をめくる。美味しそうな料理が載っていたので、買っていくことにした。たまには手がこんだものでも作ろうかな。雨がひどくなっていた。多分ジーンズは帰るまでにビショ濡れになるだろう。クーラーの利き過ぎた電車に乗ったら冷えるんだろうな。サンダルもひどく濡れていた。あ~、帰ったらサッサとシャワー浴びちゃおう。そう思いながら傘を開こうとして、隣の気配に気付いて、見たらアオくんだった。「あっ!」「レンタルですか?」いつもの笑顔で話しかけてくる。最後の日にこんなところで会えるなんて…。「ううん、本屋に。雨ひどくなっちゃったね。」傘をさして駅に行こうとするとアオくんの声が後ろからした。「あの、僕、車なんです。」「あ、そうなんだ?」なんだ、駅までいっしょかと思ったのに。でも、まあいいか。最後に気まずくなくお別れできた気がする。「それじゃあね。」笑顔で手を振る。「良かったら乗っていきませんか?」え?意外な言葉だったのでビックリした。私のこと嫌がってたんじゃないのかな?違うの?「いいの?」「あ、でも、初心者ですけど。」ちょっと照れたようにアオくんが言う。嬉しかった。最後の日にこんなことがあるなんて。自然に笑顔になってしまう。「怖いなぁ。でも、ありがたいから、お言葉に甘えちゃうね。」アオくんは車のエンジンをかけて、クーラーを入れた。乗ったことに緊張しながら、シートベルトをしようとしたら、引っかかって動かない。「アオくん、シートベルトが変なんだけど、引っ張っても伸びない。」「え?!」私は何とか一度戻してみたり引いてみたりするけど、シートベルトはロックがかかったかのように動かなくなっていた。「ちょっといいですか?」アオくんが慌てて私の上から手を伸ばして、シートベルトを引こうとする。アオくんのシャツから汗の匂いがした。男の匂い。アオくんの左手が私の左肩のシートの上を持っていて、右手がシートベルトを引っ張っていた。目の前にアオくんの肩があった。参ったな。変に意識しちゃいそう。アオくんが懸命にシートベルトをひっぱってもどうにもならないらしい。クーラーがついてるにも関わらず、汗をかいているアオくんの熱気でガラスが曇ってきていた。何だか申し訳ない。「私、降りようか?」「いや、ちょっと待って下さ、うわっ!」アオくんが態勢を立て直そうとして手が滑った。私に抱きつきそうになったのを、かろうじて持ちこたえた。でも、顔が近すぎる。「す、すいません!」アオくんが目を逸らして慌てて言った。「ううん、慌てなくて大丈夫だから。」緊張しないように、笑顔を作ったけど、心臓が音をたてているのがわかった。アオくんが顔を上げて私を見る。私もその顔を見る。何?どうしたの?どうしてそんな目で見るの?アオくんの顔が近づいてきて、私の唇に触れた。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年08月05日
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今日の日記(「オルトロスの犬」感想と息子お迎え~☆ )<ユナ27>職場にもかなり慣れてきて、お茶の時間も和やかなムードになり、みんな軽口をたたくようになった。「フジサワさんは乳癌検診受けたことある~?」さっきから何か考え込んでいた二児のママさんが、私に話をふってくる。「う~ん、まだですね。」「私今度受けるんだけどさ、何となく固いのがココにあるのが気になるんだよね。」「それって心配ですよね。早く受けた方がいいですよね。」「子供の頃からあるんだけどさ、実はそんなの受けるの初めて~。大丈夫だよね?」私たちの会話に、もうおじいちゃんと呼んでもいい位の白髪頭のゲンさんが言う。「ダンナさんにね、もんでもらえばいいんだよ。そしたらわかるから、しこりとか。」「もう~ゲンさんは!セクハラですか!」エロ予備校長を思い出してしまい、そっちの方面に行かないように、ムキになって私が言う。「いやいや、真面目に言っているんだよ。」ココ、ココ、ココがマズイんだってね。ゲンさんは本気で手を振って、身振りを加えて答える。「そんなに簡単にわかるものなんですか?その辺なら大丈夫かな…」平然とママさんも答える。「でも、早く受けるといいよ~。」「私もカミサンが心配だからってね、いつもチェックするように言われるんだよ。」「素人でもわかるようだとちょっとマズいよね~。」みんなが話しに加わると、何だか老人の病院待合室のようだ。ここでは男女が無いらしい。私もその一員なんだな…。そんなことを思う。そんな歳なんだ、もう。でも、いやらしさが無くていいか。私も変に構えるのをやめよ~と思った時、「あ~、もーダメだ!やめて下さい~!」青山くん、通称アオくんが真っ赤になって言い出した。この頃には陰でアオイロ王子とかって呼ばれていた。みんなが一瞬キョトンとして、それから爆笑し始めた。「ああ、ゴメンゴメン。たいした話じゃないと思って~。」「ダメだよ、アオくんには刺激が強すぎるよ。」「オジチャンもオバチャンも無神経だったね~。」それぞれが、アオくんにゴメンネ~と言って、さあさ、仕事仕事。と、持ち場に戻っていく。アオくんは恥ずかしそうだった。かわいいなぁ~と思った。あ、もうこんなこと思うなんて、私もオバサンなんだな~って思った。今日も荷物が重いな~って思いながら、私が運搬車にダンボールを乗せようとすると、アオくんが声をかけてきた。「フジサワさん、持ちますよ~。」「ありがとう~!」助かったと思った。同時にラッキーって思った。アオくんと話ができるなんて嬉しい!自然と声がハズんで高くなってしまう。「今日はアオくんといっしょか~。良かった。」「え?何で僕だといいんですか?」「安心するのよね~。和むと言うか…。実は私のタイプなの。あ~、もっと私が若ければなぁ。」あはは、ちょっと言い過ぎかな?かなり年下だからってナメてる?デビルモリタが拍手してくれそうだ。「アオくんはいつまでなの?この仕事。」「僕は20日までですね。」「そうなんだ?私も同じよ。」荷物を降ろしながら、話ができるのが嬉しい。今日はいい日かも。「ねえ、アオくんって、芸能人に似てるって言われない?」俳優君の名前を私が言った。「う~ん、知らないですね。僕あんまりドラマとかって見ないんですよ。」私達オバちゃんに人気の笑顔で答える。アオくんは普段何してるんだろ?何か聞いてみようかな~と考えてると、アオくんから話をふってきた。「フジサワさんは結婚してるんですよね?」そっちの話になるか。私のテンションが落ちる。どの人も私が結婚して6年にもなるのに、どうして子供がいないかとか、いろいろ聞いてくるから、アオくんまで聞くんだ…ってちょっと思った。「うん、そうなの。6年になるかな。」「きっかけは何ですか?」あ、コレもお決まりの質問。「ええとね~、同級生だったの。同窓会がきっかけで付き合うようになって、結婚したら、子供すぐにできるかな~っと思ったんだけど、できなかったんだよね~。」私は咄嗟にデビルモリタとダンナさんとの馴れ初めを話す。もう会社が同じだったとか言って、どこの会社か聞かれるのはウンザリ。子供の話もとっととしておく。最近の私は、自分の話をするにはこう言うことに決めている。以前は、会社の製品安く買えるの?タダでもらえる?とかって、ずうずうしいことまで言われた。親しくもないのに、断るのがめんどい。アオくんがそんなこと言うことも無さそうだけど、これが誰に聞かれても、一番適当な返事でいい。「何か、ダンナ、子供欲しくないみたい。できたとしても、すぐに子供預けて働いて欲しいとか、母親に仕送りしたいとか、引き取りたいとかって話をするんだよね。」いつもの返答にやけっぱちになって、私はつい構えずに本音をしゃべってしまった。でも、そんな話をしてしまったせいか、アオくんがちょっと黙り込んでしまった。「あ…ごめんね。何か暗い~!ふふ!」いけない、いけない。この子はまだ前途ある若者なんだから。なんだって、つい感情をぶつけるようなこと言っちゃったんだろ…。つい落ち込みそうになる。「そんなことないですよ。その…。もしかしたら、自分の子供ならカワイイと思うかもしれないし、そしたらまた、考えとかも変わってくるかもしれないし…。」本気で心配してるらしい。私は嘘をついたことで胸が痛んだ。こんな慰め方まで、あの俳優君と似てるじゃない?「やだなぁ、アオくんのが大人みたい!アオくんは子供好きなの?」「カワイイと思いますけどね…。」「じゃあ、早く結婚したいんじゃないの?彼女いるの?」「いや…それがいないんですよ~。でも、結婚は、そんなにしたくないんです。」ドキンとした。この子は結婚の嫌な部分を知ってるのかな?「え?なんで?」「何か…気を使いそうで。女の子と毎日いっしょに暮らすのとかって…。」へぇ~、そういうことか。私はつい笑ってしまった。きっと、この子はいろんなことに気を使ってるんだ。「そうなんだ?好きな人なら楽しいと思うけどね!」前途ある若者に暗い話をしてもいけないな。何か前向きに、彼女が欲しくなるような話は無いかと思っていると、アオくんは、サークルの新人歓迎会の話をしだした。アオくんが女の子に声をかけたけど、白けたムードにしかならなくて、一体どうしたら…?男ばかりでため息をつきました。…って話だった。おっかしい!私は悪いけどゲラゲラ笑った。そう言えば、私も合コンの時は、どうしていいかわからなかったっけ。男の人たちが、盛り上げようとガンバってたよなぁ。あの時奔放に生きていれば、今はもっと違ったかもしれない…。頭の片隅にヨシカワと過ごした時間が浮かんだ。「ねえ、アオくんとどっか行ったら楽しそうだね~。」半分冗談で、半分本気な言葉を口にした。「このバイト終わったら、どこか行ってみない?」続きは帰ってからでヨロシクです☆前の話を読む目次
2009年08月01日
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今日の日記(「任侠ヘルパー」「ダンディ・ダディ?」「となりの芝生」感想と修理工事経過 )<ユナ26>ヨシカワと会わなければ、もう二度と会わなければ、いつかは忘れていくだろうと思った。そして、サトシへの愛情も、もしかしたら戻って来るかもしれないと…。なのに、いつまでたってもヨシカワのことが心の奥にあって、離れてくれなかった。どうやって、彼の不在を埋めていけばいいのかわからない。彼のぬくもりが、いつまでたっても消えてくれなくて、むしろ、存在が大きくなっていくような気がした。青色申告ってところに連絡をして、また求職給付金をもらう。その街のハローワークに行った帰り、パチンコ屋の前で足が止まってしまう。彼がここにいるはずも無いのに。帰ってから、テレビをつけるとドラマの再放送がやっていた。私の好きな俳優くんが出ていた。貴方は私が淋しい時に出てきてくれるんだね?何だか可笑しくなって、一人で笑った。GWに、サトシの実家に帰省した。お母さんがもう一日いられないか?と言ってきた。「いいよ。」とサトシがすぐ答える。中日は休めないと言ってたくせに、私が休めないか聞いた時は仕事があるからダメって言ってたのに、お母さんが言うんならいいんだ?私は自分がサトシにとって、優先順位がいつも低いことを知る。会社の人の家に遊びに行った時も、家でなんて料理を当然のように待っているサトシが、自分から進んで料理を作った。男の料理会とかって、マイホームパパさんたちの企画らしい。家で作ろうとしないのは、私になら甘えられると思ってるのかもしれないし…。それでも、サトシがこんなに美味しい料理を作れるなんて、私は知らなかった。一人暮らしをしてる時には作っていたらしいけど、私といっしょの時に自分から作ってくれたことはなかった。私はサトシの嫌な部分ばかりが見えてしまうようになった。片目だけじゃなく、両目をつぶらないといけないかもしれない。それでも離婚ってことは考えつかなかった。何が理由かが、うまく説明できない。お母さんを大事にしてるので…いいことじゃん。料理を私のために作ってくれないので…そんな人たくさんいるよ。他に好きな人ができたから…でも、あの言葉にすがりついていいの?彼は私を引き止めなかった。それだけじゃなく、お互い怖かったのかもしれない。もう一度恋愛を始めること。離婚までして。また同じことを繰り返すんじゃないかな?またこうして冷めていくんじゃないの?心が離れていくことは、離婚の理由になるんだろうか?この人が私に対して、何か特別悪いことをしてるワケじゃないのに…。朝食を食べながら、ふとサトシに聞いてみた。「ねえ、サトシは幸せ?」サトシは殺伐としたニュースを見ながらコーヒーを飲んだ。そして言った。「何?また何かテレビで見たの?ユナはドラマとかの見すぎじゃない?」テレビ見て、のんびりできて、ユナは幸せだねぇ~俺もそうしてたい。ちょっとバカにしたように笑って、そしてまたニュースを見る。そっちの方がサトシにとって重要事項なのだろう。ふうん。そっか。私って、そう思われてるんだ。でも、これが私の現実。私の選んだ道なんだと思った。私はパンをかじる。あの時、私がここにいたいと言ったら、ヨシカワは引き止めてくれただろうか?もし、私がモリタさんみたいに欲望のままに振舞えたら、こんなに心に大きな穴のようなものは、開かなかったのだろうか…。給付金の受け取り期間が終わると、私はまた仕事を探すことにした。派遣会社から単発の仕事があれば、受け入れた。パートでいい条件のものを探した。とにかく家にいたくない。何かに夢中になって、ヨシカワのことを忘れてしまいたかった。モリタさんのように、欲望に忠実に生きてみたくなった。この街ではそうしてみようか…。私はふとそう思った。どうせまた転勤になる。今年の誕生日は、もう外食も近場にした。気取ったところを予約するのもアテにしなかった。あんなにステキな誕生日は、もう二度と来ないだろうと思った。そう思うと、その夜は涙が出た。サトシはグッスリ眠っていたので、気付かれなくて良かった。気付かれてたら、何て言い訳したらいいのかわからない。いくつ単発の仕事をしただろう。今度は商品の仕分けの仕事。荷物を運んだりすることもあって、珍しく肉体労働。こんな暑い時期に、こんな仕事やめれば良かった。でも、時給が高い。それに、仕方無いのかな、年齢が上がってくると。私は、せめて働きやすいように、どこでもニコニコと笑顔を作るように心がけた。それだけで人当たりが違うから不思議だ。私の後から入ってきた男の子を見て嬉しくなった。私が好きな俳優くんに似てる!神様が私に、ちょっと毎日の張り合いでも与えてくれたのかも!私は仕事に行くのが楽しみになった。彼は青山くんと言って、年齢がいった人ばかりのここの職場では、ちょっとしたアイドルみたいになっていた。みんな自分の息子位の歳の男の子ってことで、とても可愛がっていた。19歳。若いなぁ。それだけじゃなくて、彼は優しくて、素直で、邪気が感じられなかった。いつも、みんながかったるそうにやってることを進んでしてくれて、頼めば引き受けてくれた。みんなが気難しくて嫌ってる人がいたのに、彼だけは、その人の相手をした。「青山くん、何で怒らないの?あの人のあの態度見たでしょ?!みんな呆れて無視してたのに~。」「え?!僕すっごい怒ってたじゃないですか~?!はい?!はい?!って言ってたじゃないですか~!」「嘘!アレって怒ってたの?!」「気付かなかったよ~!」みんなが爆笑する。そこで場の空気が一気に和んだ。不思議な男の子。「笑わないで下さいよ~!」本人はムキになって怒ってるらしいのに、周りは気付かないんだ?人を不愉快にさせないなんて、得してるな。あ、本人にとってはツライのかな?私はそんなことを思った。彼を見ていると、私の悪い部分も消えていくような気がした。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月31日
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今日の日記(息子からの暑中見舞い☆)<ユナ25>私は職場に辞めることを伝えた。「ちゃんと引継ぎしてから辞めてね。」エロ予備校長は、あっさりと言った。「フジサワさん、ついて行くんですねぇ~。ホント、エライなぁ。でも、良かったですね。これでダンナさんは例の女とベタベタすることはないしぃ~。やっぱ、最後は妻が強いんですよねぇ~。あ~、私もそんなに一途になれる相手に巡り会いたいですよぉ~。」悪魔モリタがランチを食べながら言う。普通ついて行かないのかなぁ…。ホントにその女とベタベタしてるんだろうか?結局確認しなかった。正直、サトシが外で何してても、もうどうでも良くなっていた。多分聞いても不機嫌になるだけ。でも、私だって他の男に気持ちが行ってる。だから確認できないのかもしれない。お互い別れ話なんて空気も無く、老夫婦かのように平和に暮らしてる。変なんだろうか?「モリタさん、一応結婚してるじゃないですか~。それならいっそ離婚しちゃえば?」もう辞めちゃうからいいかと、私は思ったことを口に出す。「え~。だって、離婚しちゃったりしたら、ダンナ可哀想じゃないですかぁ~。」浮気するのは可哀想じゃないのか?あはは。と私は力無く笑う。「でも、そうなんですよねぇ~。もしも、他に本気になった人ができたら、私そういうの考えちゃうかも。まあ、今のとこ、そこまで思わせる男が現れてないってことですよぉ~。」あはは!と楽しそうにモリタさんが笑う。モリタさんは元彼と合コンで知り合った彼と、3股をかけている。あ、こないだもう一人増えたかもしれない。すごいな…。彼女はこれからどうなって行くんだろう。気になるけど、友達として付き合って行くことは無いだろう。でも、羨ましかった。とても。自分の欲望に素直なこの人が。そんなふうにして生きていても、憎めないこの人が。結局引き継ぎは引越しの直前まですることになった。最後の日、私はヨシカワの店に向かった。「いらっしゃい。あれ?花束なんか持って、どうしたの?」「仕事最終日なの。今、送別会の帰り。週末引越すんだ。」私の言葉にヨシカワが固まる。「え、あ…。そっか。そうなんだ。」これで良かったんだと思う。だって今日、二人きりになったら、私は何を言い出すかわからない。ワザと店がやってる時間に最近行っていたのも、そのせいだった。「ええとね、コレ。」私は、ヨシカワに包みを渡す。「シュウさん、来月、誕生日って言ってたよね?お別れと併せて、ほんの気持ちです。」何を渡したらいいのかわからなくて、サイフにした。ボロボロになってたから。それと、チョコレート。もうすぐバレンタインデーだった。「ありがとう…悪いな。本当は餞別に俺が何か渡したいくらいなのに。」そう言って、袋の中を覗いていた。「じゃあさ、せめて今日はここのモノ奢らせてよ。何飲んでもいいし、ツマミも好きなもの頼んでって。」「いいの?!うん、じゃあそうするね!」私は大袈裟に喜んで、好きなものを頼んで飲んで食べた。ここを離れるのが名残惜しくて、ついゆっくりカクテルを飲むと、次はコレも飲んでみなよ。って、ヨシカワが次々とカクテルを作る。「酔っぱらっちゃうよ。もうストップで!」私がとうとう音をあげた。グラスを下げながら、ヨシカワが顔を近づけて、小声で言った。「今日早くラストオーダーにするから、最後までいて。」他の客のテーブルに、すみません、今日は早目に閉めちゃうんで~そう告げて、ラストオーダーを聞きに行く。そんなことをされると帰るに帰れなくなってしまう。でも、心のどこかで、ヨシカワと二人きりになれることが嬉しかった。やっぱり、ちゃんと二人で話したかった。入口の看板をcloseにして、一人一人会計を済ませると、店に二人だけになった。ヨシカワはタバコを吸った。「なんだよ。もっと早く言ってくれれば良かったのに。」「だって、言ったら、お別れっぽくてイヤじゃない?」「でも不意打ちはないだろ?お陰で仕事が手につかなくなった。」仕事が手につかない?そんなこと言われるなんて思わなかった。このままさよならするだけだと思ってたから。ただ、ヨシカワの顔をもう一度見ておきたかっただけだったから。「ごめんね…」それしか言えない。言葉がみつからない。何か笑えることでも言えればいいのに…。二人きりになってしまったら、心臓が音をたて始めたのがわかった。コレはカクテルの酔いのせいなのか。ヨシカワがカウンターから出てきて、後ろに立つ。振り向けない。顔を見たら、何か言ってしまいそうで。カウンターを眺める。「こんなの無いよ…。」ヨシカワが、私の後ろから、カウンターテーブルに手をついた。耳元に声といっしょに息がかかる。タバコの香りがする。心臓の音がする。本当にこんなの無いよ。私はサトシと結婚しなければこの土地には来てなくて、ヨシカワは奥さんと別居してなければ、私に声をかけることも無かった。皮肉な出会い。そして、出会っちゃいけなかったのに、出会ってしまって、来たらいけなかったのに、来てしまった。どうしても、会いたかった。ヨシカワがギュッと、私を後ろから抱き締めた。私がずっとこらえていた想いを、この人もずっと持っていたの?嬉しいけど、悲しくて、涙が出てきた。抱き締める腕に手を重ねる。私も貴方が好き。ヨシカワの手が私の頬を包んで、唇が触れた。ゆっくり、ゆっくりとキスをする。ダメだと思った。心を持って行かれてるのに、体まで許したら、私はもう戻れなくなってしまう。結婚と言う現実を知ってしまった私に、恋の行方を知ってしまった私に、こんなことが起こるなんて。怖いと思った。なのに、体は動けなくて、彼の舌を受け入れてしまっている。体が痺れて、もっと彼を欲しくなってしまっている。ようやく唇が離れた時には、ヨシカワの腕に強く抱き締められていた。このまま、もうずっとこのままでいたい。そう思うのに、そうしたいのに、口から出たのは全く違う言葉だった。「ごめんね…。」ヨシカワは返事の代わりに、私の髪を撫でていた。ずっと。「もしもさ…」ヨシカワの声が私の頭の上で聞こえる。「もしも、俺がずっとこのまま結婚しなくて、ユナがバーサンになって、独りになったとしたら、そしたら、ここを訪ねて来いよ。そしたら…」そこで言葉が止まった。「そしたら…?」ヨシカワの御伽噺の言葉の続きを促す。「そしたら、いっしょに老人ホームにでも入ろ。」私は悲しくて涙が止まらないのに笑った。ようやく笑ったって顔をして、ホッとしたようにヨシカワも笑顔を見せた。そして、私の涙を拭う。淋しそうな笑顔。私はウン、って頷いた。そしてもう一度抱き合った。これで良かったんだと思った。さよなら…。その週末、私はこの街から引越した。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月30日
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今日の日記(「恋して悪魔」の感想と川村カオリさんの死から思うこと )<ユナ24>私はヨシカワをバッティングセンターに連れて行った。「ここって、スッキリするんだよ!」「女がバッティングセンター行くかなぁ?」そう言いながらもヨシカワは、楽しそうにボールを打った。「いつもこんなとこ来てんの?」「うん。体動かしたくて!帰りに時々ね。」私もバットを振る。当たった!気持ちいい!「ユナちゃんは不健全にバーで飲んでばっかいないんだ?パチンコにも行かないんだ?コンパにも?」「これが一番スッキリしたんだもん。お金も無いから時々ですよ。ヨシカワさんの店でだって、カクテル一杯とご飯だけでしょう?主婦のささやかな楽しみ!」今度は空振り。次は当たる。やるねぇ~。ヨシカワは、私を見て笑う。「じゃあさ、今日は二人でできることしようよ。アレはどう?」ヨシカワは卓球の看板を指した。その日は学生時代に返ったみたいだった。卓球をして、疲れたのに、まだ帰りたくなくてカラオケをした。大きな声を出して、歌ってるんだか叫んでるんだか。ゲラゲラ笑った。いいじゃん、こんなんで。変に体を求めるより、よっぽどいい。性欲はスポーツで発散しろ!先生が男子に職員室で言ってたっけ。健全だな。そう思った。でも可笑しい。それでいいんだと思ったんだから。この男の腕に抱かれたいと思いながらも、ただ、笑ってる顔が見れたらそれでいいなんて、私は嘘つきなのかもしれない。でも、嘘を突き通すしかない。こうしていっしょに笑えるだけで、私は嬉しいんだから。楽しかった。とても。今日だけは、いいよね。もうすぐ終電だった。「ユナちゃん、今日はありがとな。」ヨシカワが私を見ていた。優しい声。穏やかな視線。手を差し出してきた。私も手を出して握手した。温かい手のぬくもりが伝わってきて、胸がしめつけられた。体がジワッと痺れた気がした。「さよなら。また来いよ。」「うん。またね。」駅前の道で手を振って別れる。これでいい。これで良かったんだと思う。ヨシカワの手の感触が私の手に残る。触れた右手を眺めて、左手で包む。これから先も、私のヨシカワへの想いを出しちゃいけない。悟られてはいけない。そう思った。今は側にいたい。私がいられるだけ。気持ちに気付いた日。気持ちに封印した日。次に行った時は、ヨシカワはいつものように元気になっていた。私は彼を笑わせたくて、面白そうな話をなるべく沢山仕入れておいた。私が話す。ヨシカワが笑う。彼の笑顔をずっと見ていたい。そんなこと思っちゃいけないのかな?私の誕生日前の休日。サトシと私はホテルのレストランで夕食を食べることになっていた。予約の電話を入れた時、「どなたのお誕生日ですか?」と聞かれたので、「私です。」と答えた。電話の向こう側で少し苦笑いがあった。「かしこまりました。」そうよね、自分の誕生日を自分で予約…。我ながらちょっと空しくなった。サトシにやってもらえば良かったと後悔した。ホテルに行こうとしたら、道に迷った。もうタクシーで行っちゃおうってことになって、レストランにお詫びの電話をかけると、「さっきから待ってるお客様がいらっしゃるんで、空いてる席を見て文句を言われてるんです。早く来て下さい。」と言われた。道に迷って、すみません…と謝る。自分の誕生日の祝いに、何やってるんだろう私は?と思った。ようやく店に着くと、「ああ良かったです。来ないかと思って、他のお客様に座ってもらうところでした。」と真っ先に言われた。申し訳ありませんでした。と、またお詫びをした。疲れた。もうこの店には来ないだろうと思った。サトシはワインがバースデーサービスでもらえたから、そんなに怒らないでいいじゃん、楽しもうよ。と言っている。道に迷って遅れたのが悪いのかもしれないけど、怒りっぽくて、嫌な女になったように思った。せっかくの誕生日だからと、無理に忘れる努力をした。美味しい。それでも、何だか楽しくなかった。サトシが少しでも、店の言い方にいっしょに怒ってくれていたら、そうじゃなくても、電話をサトシがかけて対応してくれていたら、私の気持ちも少しは和らいだんだけどな。そんなことを思った。本当の誕生日は平日。サトシはすっかり忘れているらしくて、いつも通りに出かけていった。夜に母から電話が来た。今日は私の誕生日だったんだな。母に言われて、自分でも忘れてたことに気がついた。「もう子供じゃないよ~。でも嬉しいな。ありがとう。」「サトシさんいないの?大丈夫?」母が心配そうに言った。「うん、大丈夫よ。忙しいの。」「まあ、仕事があるうちが花だからね。」母と電話を終えると、サトシがしばらくしてから帰ってきた。 そう言えば、今日ユナの誕生日だったね。休みに誕生日したから忘れてたな。そうでしょ?私もなのよ。そしていつも通りに一日が終わった。週末にヨシカワの店に行くと、カクテルといっしょに包み紙が渡された。「誕生日だったでしょ?水曜。」私は驚いていた。雑談に紛れてそんな話をしたかもしれないけど、まさかヨシカワが覚えていたとは…。中を開けると、CDが入っていた。「この曲が好きだって言ってたでしょ?俺からささやかだけど、気持ちだけ。」多分今店でかかっている曲が入ってるらしい。それから食事の最後に、コーヒーとロウソクを立てた小さいケーキを出してくれた。「ありがとう。」参った…。気付くと涙が出てしまったらしい。慌ててハンカチで拭って笑顔を作った。心配したヨシカワが、見なかったフリをして、同じように笑顔を作ってくれた。私は幸せだ。私の誕生日を覚えていてくれた人がいる。心の全てを持っていかれた気がした。この人が好き。一体この気持ちをどうしたらいい…。それでもこのまま、こうして過ごせるといいな…。そう思っていた。いつまでも平和に。でも、数ヶ月して、無常な言葉がサトシの口から出た。「ユナ、来月転勤になった。今度はそんなに遠くないよ。あ~、ようやく慣れたのに、また引越しかよ。めんどうだな。」私の人生はサトシが握っている。それが結婚なんだと私は思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月29日
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今日の日記1(アコースティックギター体験レッスン(2ヶ所目) )今日の日記2(「ブザー・ビート」感想☆と修理工事開始!)<ユナ23>自分がヨシカワの妹だと思うようになって、店に通うことも気が楽になった。でも、それはヨシカワとの関係がはっきりして気が楽になっただけ。サトシは、私が仕事の人と友達になったのだと思って、気が楽になったのかもしれない。何かあったら行けばいいよ、と嬉しそうに言った。そしてサトシも仕事と付き合いに没頭する。自分を信じてもらっていると思うと、そのことに対して後ろめたさを感じた。店に行ってることは話してなかったし、兄のように慕ってる男友達がいるなんて、自分が同じことをされたら、気分は良くないだろう。でも、私はもうサトシに何かを求めないことに、心地良さを感じていた。何かをサトシに求めるから、疲れるんだと思った。だから淋しくなるんだと。だから私は目をつぶる。自分がしてることに目をつぶって、日々をやり過ごす。それで家の中は今日も平和だ。「昨日、予備校長がセクハラしてるの聞いちゃった。」私がいつものようにあったことをヨシカワに話す。「何?セクハラって?」楽しそうにヨシカワが聞いてくる。私が声色を変える。「今度ヤマダさん、誕生日だよねぇ~。何が欲しいかなぁ~?あ、下着なんかどうかなぁ?パンティーなんてどう?パンティー?…だって。気持ちワル…。」ヨシカワが爆笑する。「ウゲ!60歳過ぎてるって言ってなかったっけ?その人。」「うん~、もう引退すればいいのにね。息子も奥さんもいるって聞いてるんだけど。もう職場ではエロ長って呼ばれてるよ。話には聞いてたけど、間近で聞いたのは初めて。ビックリした~!」「まあでも、60になっても、そんなもんってことだよな。ね、ユナちゃんは、セクハラされてないの?」「まだヤマダさんたちほど親しくなってないからね。って、ヤマダさんたちも親しいワケじゃないんだろうけど。」そりゃそうだ!って言ってヨシカワが笑った。ヨシカワといると、どうしてこんなに笑えることばっかなんだろ?どうして話が面白くなってしまうんだろ?「あはは~。変だな。ヨシカワさんと話してると、どんな話でも面白くなっちゃうよ~。結構、職場で話してる時は深刻っぽかったのにな~。ヨシカワさん、聞き上手なんじゃない?」グラスを磨いていたヨシカワの手が一瞬止まる。「はは。そんなこと言われたの初めてだよ。人の話なんか聞かなかったよ。…前はね。」笑った顔がちょっと淋しそうに見えた。あれ?って思った。「自分でいっぱいいっぱいだったから。」時計が6時になったのが見えた。でも、何だか今日のヨシカワは元気が無いように見えた。「ユナちゃんと話してて思うことあるよ。カミさんも、こんなふうに淋しかったのかな…って。何も気付かなかったよ。甘えてたんだなって思った。」ヨシカワが奥さんの話をするのは出会って以来だった。ヨシカワの声が少し低くなる。まるで独り言のように言葉が続いた。「聞かなくても相手のことわかってるって思ってた。俺のことも知ってるだろうって。正直うるさいと思ってた。言わないでもわかってくれって思ってた。アイツが俺のこと何も聞かなくなった時は、俺の考えや、やり方を理解してくれたのかと思ったよ。根拠なんか無いけど、大丈夫だって思ってた。でも、違ったんだよな。都合がいい解釈だった…。」私は何て言っていいのかわからなくて、ただ、ヨシカワを見ていた。ヨシカワはため息をついた。「昨日ようやく離婚届出したよ。」一瞬、どうしていいかわからず、私も固まってしまった。「そうだったんですか…。」それ以上、何も言えなかった。何か気がきいたことを言おうと思うのに、言葉が浮かばない。「大丈夫ですか?」ようやく言えたのがそれだけだった。「ん?うん…。」ヨシカワは自分を落ち着かせたかったのかもしれない。何かアルコールの瓶を出して、ショットグラスに注いだ。一息で飲む。いつもだったら、closeをopenにひっくり返す看板。今日は直しに行かない。だから客も入って来ない。外が暗くなっていく。なのに、ネオンの明かりも点けない。ヨシカワはタバコに火をつけて、私はカクテルをチビチビ飲んだ。無言の中、ジャズの曲だけが流れている。二人だけだ…。できたら、できることなら、この人の背中を抱き締めてしまいたい。泣き出しそうな顔を手で覆って、撫でてあげたい。でも、体が動かなかった。私が男なら良かったのに。そしたら、純粋に男友達になって、何件でもヤケ酒に付き合って、肩を組んであげられるのに。そう思った。でも、私は男では無い。そして、この男を抱き締められる立場でも無く、なのに、そうしたい衝動と戦っている。こんなのは妹じゃない。妹は兄を抱き締めたいとは思わないだろう。それ以上のことを求めないだろう。私が弟が失恋したからと言っても、そんなことをしたいと思わないように。誤魔化しの魔法が解けた。私はこの男を男として見てる。好きだだけど…。今だったら、抱き締めれば、この男は簡単に寝てくれるかもしれない。一瞬そう思った。私から強引に誘えば、それは簡単なことなのかもしれない。でも、拒絶されるかもしれない。弱ってる。どうする…?でも、それは二人の関係を壊すことになると思った。奥さんと同じように、結婚してる私がヨシカワを誘うことは、慰めになるのだろうか?彼は憎むかもしれない。私を。奥さんと同じように他の男性に心を許してしまう私を。軽蔑されたくない。だけど、どうしたらいいのだろう?この男をこのまま放っておきたくない。どうしても、私が彼を慰めたい。「行こう。」私は口を開いた。私は私にできることをする。「今日はお店閉店にできる?」続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月28日
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今日の日記(子供のいない夏休み☆ )<ユナ22>店に着いた時の私は浮き足立っていた。だけど、ガラス戸越しに、カウンターで女性と楽しそうにしゃべっているヨシカワが見えた。一瞬、中に入るのを躊躇する。ガラス戸を通して、こっちを見たヨシカワと目が合ってしまった。入らないのも変かと思って、中に入る。「いらっしゃい!久しぶりだね~。そっちどうぞ。」ヨシカワが笑顔で声をかけてきた。いつものカウンターは空いてないので、私は2人掛けの席に座る。ヨシカワが水を持って来る。「あれ?今日はもう飲んでる?何にしようか?ノンアルコール?」「スクリュードライバー。」私はまたアルコールを飲むことにした。どうせ今日は飲み会って言ってある。りょーかい!と言って、ヨシカワはカウンターに戻る。カクテルを作りながらカウンターの女性と話して笑う。「シュウちゃんってば、バカね~!」女の声が聞こえる。大人っぽい、キレイな人だと思った。私も大人なんだけど、ただ歳が大人になっただけ。彼女は「女」って感じがした。私より年上かな。もしかしたら同じ歳だったりして。でも、ヨシカワに似合うと思った。ヨシカワがカクテルを持って来る。「飲み過ぎないように、水置いておくね。」そう言って、頼んで無いのに枝豆をつけた。「合コン言ってきた。」小声でつぶやいた。「え?」ヨシカワが一瞬止まって、私の顔を見る。「ごめん、聞こえなかった。」「ううん、何でもないです。」私は笑顔を作る。ヨシカワは迷った感じの動作をみせたけど、またカウンターに戻って行った。私って子供っぽい…。見た目がどうこうじゃなくて、中身が。もう27にもなるくせに、あんなこと言って、気を引こうとする自分がバカみたいに思えた。考えてみたら、ヨシカワはモテないわけじゃないだろう。声をかけてきたのは、本当に一人でご飯を食べたくなかったからだったんだ、と思った。「じゃ、行くわ。ガンバらないと。またね。」女は会計をして去って行く。私はチビチビ枝豆をつまみ、カクテルを飲んだ。「おかわりいる?こっち、来る?」ヨシカワが席に来る。私の周りはカップルばかりだった。大テーブルには若者グループが騒いでる。じゃあ…って席を移ると、すぐにカップルが入ってきて、私の席が埋まる。そっか、週末の夜ってこうなんだ。いつも人が来ると帰るから知らなかった。「コンパ行ったんだ?」ヨシカワがいきなり言う。「何だ。聞こえてたんじゃない。」つい思ったことが口から出た。「いや、行かないって言ってたから、意外だと思って。違うこと言ったのかと思った。」「今の人キレイな人ですね。私より年上…ですか?」私は話を逸らした。でも、まだ気になってたからかも。「ああ、うん。俺より少し上かな?いつまでも歳取らない感じで凄いよ。俺もああなりたい感じ。」そう言って笑う。サトシだったら、オバサンが頑張ってるって言うんだろうな。自分より少し上の女性でもそう言ってたから。それとも私にヤキモチを焼かせないように言ったのか。歳をとってからオシャレしたらガンバってることになるのかな?って、ガッカリした覚えがある。「できれば、Tシャツにジーンズの似合うジジイになってみたいもんだよ。」楽しそうにそう言って、ツマミを作ってオーダーされたテーブルに持って行った。この人にとっては、女も一人の人間なのかも。そんなことをちょっと思った。「どうだった?面白かった?」戻ってくると聞いてきた。「うん、まあ、面白かったですよ。みんな大騒ぎしちゃって。電話番号も教えてもらっちゃった!」咄嗟に口から出る。でもそうじゃなくて、本当は、そうじゃなくて…。「そっか~。なら良かったね。楽しめたんだ?」無難な返事が返ってくる。もしかしたら、この人にとっては、私は妹みたいなものなんじゃないかと思った。考えてみたら、女性扱いされたことは無い。そう思ったら、もう私だって妹役に徹した方がいいんじゃないかと思った。そうだよ、私結婚してるんだし。嘘ついたり、気を引く必要なんか無いじゃない?もう、カッコ悪いことするのはやめた。変に意地を張りたくない。「いや、ホントは…実は、そうでもなくて。後ろめたかった。何て言うか、男の人たちに。電話番号も教えてもらったけど、こういうの悪いって思いました。ダメだね~、私。アクマちゃんは楽しそうでしたよ。付き合っちゃおうかな~って言ってました。そんなに楽しめて、正直羨ましかった。」ヨシカワが吹き出して、お客さんの手前笑うのをこらえた動作をした。そして優しそうにこっちを見て、言う。「向いてなかったんだ?そういう遊びに。」「そうなっちゃいますね。あ~、参ったな。」「それがわかっただけでも、行って良かったじゃない?いい経験したんだよ。」なんだかなぁ…ホントに優しいことを言う。こんな兄がいればいいな…って思った。「ヨシカワさん、お兄ちゃんみたい。あ、私、兄はいないんですけど。弟は、いるんだけどね。」ははは。ってヨシカワが笑う。「俺は妹はいないけどね。姉と弟がいるよ。」あ、やっぱり私って、この人にとって妹なのかも。そう思った。でも、それでいいと思った。私は妹。この人は心の兄。それでいい。それでいいんだ。そう思った。そう思っていた。あの日までは…。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月27日
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今日の日記(今年の花火大会☆(昭和記念公園) )<ユナ21>その後ヨシカワの店に行かなかった。風邪をひいてしまったから。それだけじゃないのかもしれない。これ以上関わっていいのか迷ったから。ふらふらしてどうしようも無いので休んだ。予備校はクビになるかもなぁ…。サトシが会社に行ってしまうと、部屋が静かで妙に空気が重い。眠ると熱が下がったのか、かなり楽になった。昼ご飯を食べてテレビを見る。いつの間にかまた眠る。夜もサトシは残業って言ってたから、ついでにご飯も食べてくるように言っておいた。これで自分の分だけ作ればいいから楽。昼に作ったオジヤをまた食べて、何となく眠れなくなって、ヨシカワにもらったビデオを観た。恋人と幸せに過ごす主人公が、いきなりの頭痛で倒れ、目覚めたら浦島太郎みたいに世界が変わっていて、恋人は他の男と結婚、その代わりに男は予知能力を持ってしまう、って話だった。面白かったけど、せつない話だった。こういう話が好きなのかな?って思った。まだ他にも二本あったけど、いつの間にか寝てしまっていた。クビになるかと思っていた仕事は、予備校長も風邪で休んでいたので大丈夫だった。「ねえ、フジサワさん、飲み会の話なんだけど~。どうかしら?」ヤマダさんは、合コンじゃなくて、飲み会って言葉を使った。「あ、でも、ほら、ねえ…。私、結婚してるし…。」「ふふ。まあ、フツーそうだよね。そんなこと言ったらモリタさんもなんですけどね。ほら、モリタさんは、アレだから~。」ヤマダさんはモリタさんと仲がいいから、もちろん事情は知ってるのだろう。「やっぱり、ダメですか?隠して行くの。今回だけ、私を助けると思って。ね?カワイイ子連れて来てって言われてるんですよ~。」「いや、そんな、カワイイだなんて、もう歳だし…。」ああ、こんな時に、何か気の利いた冗談でも言える仲ならいいのに…。そんなことを思う。昔は当然でしょ~!でも行かない。とかって気軽に言えたのに。いつの間にか自分を出せなくなっている。そして、ノリに押される。気付くと今回だけってことで、行くことになっていた。あ~あ、サトシに何て言ったらいいんだか。嘘をつくのは後ろめたい。でもこの前、サトシのスーツやワイシャツを片付けていた時に、スーツのポケットから名刺が出てきた。 また来てね♪どう見ても、オネーチャンのいるお店だった。付き合いで行ったんだろうなぁ…。でも、それがあったから私も行ってもいいかも、って気持ちにもなった。どんな世界か見てみたいって興味もある。週末はどうせサトシも飲み会だ。来たことに後悔した。男の人たちは出会う気満々だったから。騙してるって感じがして、本当に悪いことをしたと思った。だって、私この人たちと、付き合う気ないし…。とっても親切に飲物注いでくれたり、面白いこと話そうとしてくれたり、盛り上げるために飲んでくれたりしてる。自分のことを聞かれても、迂闊に話せないのがつらかった。それで、大人しい人なんだね、ってまた気に入られて…。電話番号を渡された。でも、目の前にいる男の人たちと話していると思ってしまう。ヨシカワだったら、この話にはどう返事をするんだろう?気付いてしまう。私が話したいのはヨシカワなんだって。ヨシカワとしゃべりたいんだって。バカだな。私は。「あれ?二次会は行かないんですか~?カラオケ苦手?」私は丁寧に男性に断る。帰ろうとした私に、モリタさんが近寄ってくる。「うふふ。私あの人と付き合っちゃうかもぉ~。また後で報告しますねぇ~。フジサワさんは、やっぱり一途なんですねぇ~。羨ましいですぅ~。今日は付き合ってもらっちゃって、ありがとうございましたぁ~。ダンナさんにごめんなさい!ヨロシクですぅ~。」私の手を繋いで、小声で酔った感じで囁いてきた。去っていく彼女に、私は笑って手を振った。ホントに無邪気なんだな。夢中になりたい誰かが欲しいけど、今の状況も楽しんでいる。ダンナさんは気の毒だけど、そんなとこが魅力なんだろう。憎めなくて、面白い子だと思った。正直、彼女が羨ましくなった。私は、サトシに悪いから帰ろうと思ったワケじゃない。あの場所が居心地が悪かったから。それだけだ。モリタさんみたいに楽しめたら、どんなに楽だっただろう。そのまま帰るのをやめた。足はヨシカワの店に向かっていた。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月26日
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今日の日記(「オルトロスの犬(新ドラマ)」「猿ロック(新ドラマ)」の感想☆と息子泊まり準備!)<ユナ20>サトシが女と会社でベタベタ…。そんなこと聞かせて、私にどうしろと?何考えてるんだろうこの女は…。「うん、でもまあ…、だとしても何もできないしね…。」私はまたフォークにパスタを巻く。「うん…。あのぉ、だからって言ったら何ですけどぉ~、あのぉ…」まだ何か言おうとしてる。はいはい。私はパスタを口に入れた。「私たちと合コンに行きませんか?」食べたパスタを驚きで出しそうになった。ムセる!マジで!?「だって、悔しいじゃないですかぁ!そんな旦那さんは放っておいて。ね?フジサワさぁ~ん!実はね、ヤマダさんから誘われてるんですよぉ~!」あははははは!ヨシカワがカウンターの中で爆笑する。「すごいね、その悪魔ちゃん!で、行くの?合コン?」ヨシカワは早速モリタさんに悪魔ちゃんとアダナをつけた。「行きませんよ。何だってそんなもんに行かなきゃ行けないんですか?断りましたよ。」「そしたら、悪魔ちゃん何て?」「え~!フジサワさんってダンナさんに一途なんですねぇ~!エラいなぁ!優しい~!私もホントはそうならなきゃいけないんですけどねぇ~。元彼は収入が不安だしぃ~、ダンナは物足りないしぃ~、誘ってもらえると楽しそうだから、つい~。…だって。」私はカクテルをグッと飲む。愛してるんですねぇ~って言ってたことは省略した。またヨシカワが爆笑してる。いいなぁ~ソレ!と言って、ヨシカワがつまみを出す。そう楽しそうに笑われると、私も行ってしまえば良かったんじゃないか?と、つい思ってしまう。「いーじゃない?ぜひ行ってきてよ!それで、どうだったか報告してよ。」楽しそうにヨシカワが言う。そんなとこ行く位なら、ここで飲んでた方がいいですよ。そう言いそうになって、やめる。変な誤解を招きそうな気がする。「そんなとこ行って、変な男と出会っちゃったらどうするんですか?本気になったりしたら、ヤバいじゃないですか。」「だってダンナさん、女とベタベタしてるんだろ?」「そんなのホントかどうかわからないじゃないですか。」「そりゃそうだ。…あのさ、思ってたんだけど、ダンナさんは家にそんなに帰って来ないで遅いことが多いの?」「うん、まあ、残業とか飲み会とか…。」「早く帰ってきてって言えばいーじゃない?」「うん~。でも、仕事じゃしょうがないし、飲むのホントは弱いくせに付き合いで飲んでるワケだから…。」「そんなの、ホントに行きたくなきゃ帰ってくるって。」「うん、でも多分…。」私は本音を言っていいのか迷う。あまりサトシの話をしたくないと思う自分がいる。でも、こうして聞かれてしまうと、答えないのも変な気がして、つい答えてしまう。「楽しいんだと思う。私も昔、そういう飲み会に混ぜてもらえたことがあって、楽しい雰囲気とかわかってるの。だからかな、二人だけでご飯食べるより、飲みに行く方が楽しいだろうな~って思うし。実際そんな感じだし。楽しそうな彼を知ってるから引きとめられない…かな。」愛してるんですね~悪魔モリタの声が聞こえる。そうなのかな?同じようなこと、ヨシカワも言いそうな気がする。「そっか…。でも、そしたらユナちゃんが家で一人でご飯食べることになっちゃうでしょ?淋しいじゃない。それでいいの?」自分の気持ちを言い当てられた気がして戸惑う。ホントはいつも思ってた。私が一人でご飯食べてる間、サトシは楽しくみんなで飲んでていいな~って。でも、結局バーベキューの時もそうだけど、私が混ざる空気じゃない。だから行ってもつまんない。行ってもめんどう。だから一人で食べる。二人だとあの楽しい空気は出せない。淋しい…だけど…「うん。だからここに来てる。で、売り上げに貢献してる。経済効果に貢献!エライね、私~。」重い空気を作ったことが申し訳なくて、私は軽い調子で言った。ヨシカワも軽く笑う。「そうか。じゃあしょうがない。」「うん。しょうがない。」ちょっと淋しい沈黙が流れた。こんな時に限って、お客が来ない。ヨシカワが何となく同情の目で私を見ているような気がした。私は黙々とつまみを食べる。「行っちゃえばいいじゃない、合コン。」考えた末なのか、重い沈黙に耐えられなかったのか、ヨシカワが口を開く。「はは。そうだね。でも行かない。」「何で?悪魔ちゃんの言う通りかもしれないよ?一人でいることないよ。ちょっと位、遊んじゃえば?」「だって、そんなとこ行くより、ヨシカワさんと話してた方が楽しいし…」あ!ヤバイ…。言ってしまった。すぐに返事を返すヨシカワの返事が無い。恐る恐る顔を上げてみる。ヨシカワがちょっと戸惑ったような顔をしていた。酔いが急にまわった気がする。顔が熱くなってきて、心臓が鳴り出した。これじゃあ、何だかこの人を好きだって言ってるようなものじゃない?誘ったと思われた?結婚してるくせに、何て女だと思って呆れてない?ああ…言い訳したい。でも、一体何て?慌てて付け足す。「ヨシカワさん、面白いしね。あ、もうこんな時間。帰らなきゃ。それじゃあ。」私は笑顔で誤魔化して、お金を出す。ヨシカワがお釣りを渡す。何か言いたそうな、ちょっと心配そうな顔をしてるように見えた。でも、目を逸らして、さっさと店を出る。今日の私はどうかしてる。これ以上いたら、これ以上あの店にいたら、何かとんでもないことを口にしそうな気がした。私は足早に家に向かった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月25日
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今日の日記(「任侠ヘルパー」と今日のお仕事 )<ユナ19>パートの生活も軌道に乗ってきた。私は一人で過ごす金曜だけ、ヨシカワのバーレストランに通うようになっていた。いつも仕事帰りに直行するので、店が開く30分前に着いてしまう。ガラスの戸の向こう側から、ヨシカワは私に気付くと、closeにしたまま中に入れてくれた。「いいんですか?」「うん、別にいいよ。6時になったら開けるから。」そう言って、いつも何かしら私が好きそうなカクテルを作ってくれる。時には、まかないも御馳走になった。「でも、今やってる入力の仕事が終わったらクビみたいなの。」私はサトシに言ったことを繰り返してみる。「ふーん。そしたら、ユナちゃんはどうするの?また仕事するの?」ヨシカワは私をユナちゃんと呼ぶようになっていた。「うん、また探そうかと思ってるけど。あるかな~。だんだん歳取ると、雇用条件がね。」「そしたらここで働いてみる?」「夜でしょ?無理だよ~。」「そりゃそうだ。」「ここって人手足りてるんじゃないの?」「うん、そうだね。だからとりあえず言ってみた。」「何?とりあえずって~!」「だって、ホントにするって言うとは思ってないからさ~。」「いい加減だなぁ。」「そう。俺っていい加減なんだよ。わかった?あ、そうだ。コレって観る?もう観てる時間なんて無いか。」ヨシカワはカウンターの奥から袋を出してきた。「何コレ?」「もう観ちゃった映画。良かったらあげるよ。」「エロビデオじゃないよね?」「じゃあ観て確認すればいいじゃない?」ヨシカワはクックと笑った。「いいんですか?」「うん、いいよ。失業したら観れば?」「嫌なこと言うなぁ。」「悔しかったら、次の仕事すぐみつけて飲みに来なよ。」「そうね~。そうする。って、まだクビになってないから!」そんな会話をしてるとすぐ6時になって、OPENの看板を出してしばらくすると客が入ってくる。ヨシカワが仕事をしてるのを眺めてしばらくすると帰る。そのうち、サトシに話す独り言を、ヨシカワに聞いてもらうことの方が多くなった。だって、ヨシカワの方がちゃんと聞いてくれるんだもん。そのことに後ろめたさは無くなっていく。珍しくサトシが週末に旅行に行こうか?と誘ってきてくれた。うん。嬉しい!でも道に迷ってケンカが勃発した。夕飯を食べている時に、あの時、ユナが寝てなければ…とか、サトシが勝手にするって言うからじゃない…とか、そんなつまんないことで。温泉は男女別々の所だったし。ケンカばっかりして、何しに行ったんだろう。もう少しで家に着きそうなところで、私がちょっと眠くなった。運転を変わって欲しいと言ったけど、でも、もうすぐなんだからガンバレよ~とか言って、変わろうとしてくれなかった。危うく居眠り運転しそうになった。慣れた夫婦なんてこんなものなんだろうか?着いてからも険悪なムード。仲直りをようやくしたのは夜中。サトシが抱いてきて、ベッドの中だった。「ねえ、明日って、会社休めないかな?」私は二人の仲がこのまま修復した状態の時間がもっと欲しかった。「う~ん、いきなりは無理だよ。ごめんな。」「そっか。そうだよね。ううん、いいよ。」翌日は眠くなりながらも仕事をしに行った。サトシも眠いだろうな~って思いながら。「フジサワさん眠そうですねぇ~。」モリタさんがランチしながら言う。「うん~。ちょっと昨日出かけて疲れちゃったみたいなの。」「あの…ちょっと話づらいことなんですけどぉ~。」モリタさんがパスタをフォークに巻きながら言う。「何?」「この前、私の友達がフジサワさんと同じ会社って言いましたよね。」「うん。」「友達がね…その…」モリタさんが皿をフォークでいじる。「何?どうかしたの?」「あの…、フジサワさんのダンナさんて、背が高めな感じですかぁ?」「うん、そうね。高い方かな。ちょっと太ったし、体格はいいかも。」モリタさんはそっかぁ~と独り言のように呟いた。「何?どしたの?」「いえ、あの…実は、私の友達が言うには、フジサワさんの旦那さんらしき人がですね…」そこでまた口ごもる。「いいよ~。言って?気持ち悪いじゃない?」「あの…、何か同じ部署の女の人とベタベタしてて、何だか、怪しい感じらしいんですってぇ…。」私のフォークを持つ手が止まった。この人は何を言ってるんだろう?続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月24日
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今日の日記(「となりの芝生」「赤鼻の先生#2(先週)」と夏休み親川柳)<ユナ18>「何だか、私は入力が終わったらクビって感じの繋ぎパートみたいよ。」「ふーん、そうなの?」サトシが味噌汁を飲みながら言った。「うん。行ってみたら、受付の女の子が言ってたの。あ、その女の子、私より2つ年下なんだけどね、結婚してて、ものすっごくカワイイのよ。」「へぇ~。」食べ終わると、クイズ番組を見ながら答える。「受付みんなそんな感じ。どうやら塾長の好みで採用してるみたいなの。そういうのって、どうなのかな?」「いいなぁ、トップになるとそんなことできて。ドラみちゃんの好物~?何だろそれ?」サトシは私に聞いてるんだかテレビに聞いてるんだか、わからないことを言っている。目はテレビだから、テレビに言ってるのかも。「何だかね、前に務めてた主婦の人が、子供が熱だしたとかって、しょっちゅう休んでたんだって。だから子供がいるのかどうかずっと聞かれちゃった。すぐ作らないよね?とか何とか。」「へぇ~。メロンパンなんだ?ふーん。いい迷惑だなぁ。そういう人がいると。」「でもさぁ、子供が熱出したりして、どうしようも無いこともあるんじゃないかなぁ~。やっぱ子供がいると、そういうことで雇ってもらえないんだね。」「うん。」何かもう最後は私の独り言みたいになってきたので、会話をやめた。私もクイズを見る。子供の話を出すと、サトシはめんどくさくなるのかもしれない。会社で、子持ちの人の話を聞いて、ゆっくり眠れなくなったとか、趣味を邪魔されるとかって話を聞いてきてるからかも。とりあえず、クイズを見て、私も笑った。あの人もテレビ見てたらこんな返事なんだろうか?同じこと話したら、違う返答が返ってくるかな?私はふとヨシカワとのやりとりを思い出して、そんなことを考えた。「ねえ、フジサワさんとダンナさんの馴れ初めってどんな感じだったんですかぁ~?」受付で、可愛らしさナンバーワンと思われる、アイドルみたいなモリタさんが私に聞いてきた。顔もカワイイけど、舌足らずで、一見結婚してるとは思えない。歳も私より2つ下なんだけど、小柄なせいか20歳前後にしか見えない。「え?あ、同じ会社の同期だったんですよ~。」私は無難な返事をする。「同じ会社?」モリタさんは目を輝かせて、いきなり私の夫の会社名を言った。「履歴書にそう書いてあったから~。あのね、私の友達がそこに勤めてるんですよぉ~。」受付をしてる彼女が人事的な仕事もしてるのか?!私はその時初めて知った。こういうのって、あまり気分がいいものではなかった。素直と言えば、素直なんだけど、私が履歴書に書いたことが、受付の女の子たちの中ではまるわかりなんだろうな…。自分が教えてないことをいきなり知ってることが気持ち悪かった。「正社員ですか?知り合いかなぁ?」私はとりあえず笑顔で話を合わせる。「パートですよぉ~。知ってたら、旦那さんの会社での様子、教えてもらいましょうかぁ?」「え~、いいですよ~。」正直、そういうの気持ち悪かった。何でいっしょに暮らしてる夫のことを第三者から聞かなきゃいけないんだろう?私は馴れ初めなんか正直に言ったことを後悔した。「モリタさんは?旦那様との馴れ初めは?」私は会話を逸らすことにした。「私は同級生なんですぅ~。同窓会で再会して、結婚したんですよぉ~。」私もモリタさんの旦那さんの会社を聞いてみようかと一瞬思った。でも、正直、自分と関わりの無い人が、どこの会社で、どんなとこで働いてようが、私は興味なかった。彼女が続ける。「でもね…。実はヤケで結婚しちゃったんですぅ~。それまで付き合ってた彼にふられちゃって…。その時たまたま同窓会があって、それでその同級生と結婚しちゃったんです…。」「あ、そうなんだ~?」いきなりそんな話をされて、ちょっとどうしていいのかわからない。まさかサトシもそうなんじゃないよね?一瞬そんなこと思ったりする。彼女が話を続ける。「あのね…、実はまだ、その時の元彼と付き合ってるんですよぉ。」え?!一瞬ビックリしたけど、私はそれを顔に出さなかった。自分が年上ってこともあったから、何となく構えてしまっただけなんだけど。それが彼女にとって意外だったらしい。「フジサワさんは驚かないんですねぇ~?」「うん、まあ…。よくあることなんじゃないかと思って。」実際、最近友達の同僚が、不倫してるって話を電話で聞いたばかりだった。相手の奥さんがお金持ちで、慰謝料いらないから離婚ウンヌン…って。サトシの父親も、お母さんと離婚してしまった。妹が結婚してすぐに。弟は、独り暮らししてるらしい。サトシは母親のことを以来心配していた。仕送りをしたいって言っている。私のその答えをどう取ったのか、モリタさんは更に続ける。「そっかぁ~。そうですよね。フジサワさん、いろいろ知ってそうな感じしたんですよぉ~。大人って言うかぁ~。」へぇ~。私ってそんなふうに見えるんだ?友達に教えてやりたい。「いや、そんなことは無いんだけど、友達とか…、たまたま最近、ね。」ふぅ~ん。って感じで更にモリタさんは調子づいたらしい。話は続く。「元彼がね、結婚したら、やっぱり戻って欲しいって言い出したんですよぉ~。私も、彼のこと、本当に好きだったし、うん。ダンナより好きなタイプなんですね。でも、ダンナも好きって言えば好きなんだけど、物足りなくて…。実はね、今そんな感じだから、妊娠しちゃったらどっちの子供かわからないんですぅ~。元彼は別れて俺のとこ来いって言うしぃ~、でも、ダンナは経済的に稼ぎがいいしぃ~、迷ってるんですよね。」私は呆然とした。面白い話だと笑うことができない。まあ、他人事だから、彼女がどうするのか興味はあるけど…。かなりしたたかなことを言う。私が固まってることに満足したらしい。ね?驚いたでしょ?って感じで、モリタさんは、ニコリと笑った。「まあ、なるようにしかならないんですけどねぇ~。えへへ。」何て無邪気な人なんだろう…。ある意味羨ましくなった。ちょっと呆れもしたけど。でも、これからも仲良くしていかないといけない。いや、すぐにクビになるらしいから、どうでもいいのか…。ああ、すぐにいなくなるから、こんな話をしてくるんだよな。私はあはは…と力無く笑った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月23日
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今日の日記(「救命医・小島楓」「恋して悪魔」感想と初めてのお留守番)<ユナ17>家の明かりは点いてない。でも、パチンコ屋や居酒屋に入ったせいで体がタバコ臭かった。私はすぐにお風呂に入った。何だか現実感が無かった。あの時間は何だったのだろう?サトシは帰ってくると、すぐに眠ってしまった。起きて会ってる時間の長さは、あの男と変わらないのかもしれない。私はサトシの寝顔を見ながら、ぼんやりと考える。サトシは私を必要としてるのだろうか?私がサトシを必要としてるんだろう。でもね、最近思うの。もしも一人で生きていけるとしたら、それはそれでいいかもしれないって。うん。でも、もうパチンコ屋に一人で行くのはやめよう。今日はちょっと冒険をした。ここが私の居場所。男の顔はもう思い出せない。その日は友達にメールをパソコンから出そうと思った。いろいろ書きたいことがあって。うちのパソコンはサトシと共有。立ち上げると、サトシのところに未読メールが3通って出ていた。入ることってできるのかな?ちょっとクリックしてみたら、パスワードが必要らしい。この前午前中の奥様番組で、夫の浮気特集って言うのがやっていた。何となくイタズラ心が働いて、適当にパスワードを打ってみたら開いた!コレってすっごいいけないことだよね?なのに、開いたら見たくなった。未読のは読めないだろうけど、どこから来たのか位は大丈夫?でも、やっぱりやめておこうかな。でも、変なことなんて無いよね?そう思って、ちょっと受信のアドレスとタイトルだけ見ていたら、iidaってアドレスが目についた。途端に心臓が鳴った。ドキドキしながら開いてみる。 こんばんは。 昨日はどうもありがとう。 まさか会えるとは思ってもみなかったよ。 またこっちに戻ってくることはあるのかな? 戻ったらまた飲みに行こうね! キューも誘ってみるからね~! では!日付を見ると、こっちに来る直前の月だった。お別れ会でもあったのかもしれない。でも…私には言わないで会ってたんだ。そのことが私の心を暗くする。多分だけど、言えば私がまたヤキモチを焼くと思ったからだろう。私って、もうそういう女だってサトシは認識してるんだろうな…。見たって問い詰めることはできない。私はまたこんなことをしてしまった。つくづく自分って人間が嫌になった。そして、私をこんな女にするサトシを、また一つ嫌いになる。ふと思う。私がもしもいなければ、この二人は上手くいってたのかもしれない。私は二人の仲を邪魔しただけなのかもしれない。見なかったことにする。そう思うと、心がまた冷えたような気がした。多分何も無いのだろう。きっと何も無いよね?それでも、悲しくてしょうがない。見なければ良かったのに。私はバカだ。私はパソコンの電源を切った。ぼんやりと録画したドラマを見る。私の好きな俳優くんが出ている。ねえ、私のことも抱き締めてくれない?最後のハローワークの日。私はあの男の店に行くことにした。あれから一ヶ月。男は私のことなんて忘れているかもしれない。でも別にいい。私は求人情報を見て、駅に近い予備校に面接の申し込みをした。すぐにでも面接すると言うので、そのまま面接をしてもらうことになった。人手がすぐに欲しいと言うので、私はその場でそこに採用された。仕事は来週の月曜から。ラッキー!その足で、駅の反対側にあるだろうと思われる男の店に向かった。店は本当に小さなビルの一階にあって、クラッシックアメリカンみたいな感じでネオンが点いていた。ドアにはOPENと出ていたので、私は店に入る。カウンターに男がいた。「いらっしゃ…」男がビックリした顔で私を見る。「来ないかと思ったよ。」「うん。でも、今日がハローワーク最後の日だったから、その帰りだったし。パチンコに行くよりいいと思って。」男は少し笑った。「じゃあ、せっかく来てくれたから奢ってあげるよ。ああ、コレもある意味、援交になるのかな?」「援助って歳でもお互い無いんじゃない?」「そう?10年若ければ犯罪なんだけどね。」あははって笑った。人と話して自然に笑うのは久しぶりかもしれない。まだ時間が早いせいか誰もいない。「お店の始まりは6時なの?」「そう。始まったばっかだよ。何にする?」「何が飲みやすい?」「う~ん、ディタかな。グレープフルーツどう?」「じゃあそれにします。」「何か食べてく?」男が気安い感じで声をかけてくる。「う~ん、そうだな。」メニューを見ると、つまみから軽食系まで多彩だった。「じゃあ、このエビドリアにする。もうそれを夕飯にしちゃおう。」「はいよ。」男はカウンターの中で料理を作り始める。Tシャツにジーンズのバーテンダー兼コック。薄暗い店内にジャズが流れてる。この人の趣味とこだわりの店って感じがした。「美味しい~。」夢中で食べてると男が私の方を嬉しそうに見てた。「何?」「いや、美味しそうに食べるな~と思って。」「美味しいよ~。自分で作らないものって、倍美味しく感じる~。」「そうなんだ?まあ、そうかもな。」「すごいね、こんな美味しいもの作れちゃうなんて。このカクテルも美味しいし~。」「そんなに喜んでもらえると作る甲斐があるね~。じゃあ、おかわり飲む?」「ううん。酔っ払うとマズイから。」「じゃあ、ノンアルコールの作ってあげるよ。」男は赤いカクテルを作った。「コレは何?」「サマーディライト。」「ふーん、キレイだね。うっふっふ~。今日はいいことばっかりかも。仕事も決まったし~。」「仕事?何?」「予備校のパート。パソコンの入力と採点と受付だって。」「へぇ~。何だか面白そうだな。」「どうかなぁ~?」「若者に刺激受けそうじゃない?」「そんなもの?受験なんて暗いかもよ?」「いや、あの若いオーラを浴びてるだけで違うんだよ~。この近く?」「うん。」「じゃあ、稼いだらうちの売り上げに貢献してよ。」「そうだね~。いいよ!」私は笑った。「何?何で笑ってんの?」「ううん、オーラとかって信じるの?そんなふうに見えなかったから。」「あれ?感じない?あると思うよ、何となくだけどね。実はさ…あ、いらっしゃいませ、どうぞ!」若いカップルが入ってきた。すると途端に忙しくなってくる。食べるのも飲むのも終わった私は、男の働く姿をじっとみていた。何となく、もう話せるような空気が無くなってしまったので、いよいよ帰ることにする。残念な気がした。もっと話したかったのに。席を立つ。「あ、もう帰る?」「うん。」「また来てよ。待ってるし。」お釣りを渡しながら男が言う。目がジッと私を見ていた。「うん。」ご馳走様と言って店を出る。多分また来ちゃうだろうと思った。待ってるって言葉が妙に嬉しかった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月22日
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今日の日記( ポケモン映画「アルセウス超克の時空へ」感想とドラマ「ブザー・ビート」感想☆ )<ユナ16>口に出してから、しまったと思った。いや、でももういいやって気持ちもあった。誰かとしゃべりたい。自分の本音をしゃべれる誰かと。この男が言ったことが、もしも本当なら、本当なら…本音を話してくれたことになる。男は私を全身眺める。「ホント?ホントにいいの?やめるなら今だけど。」「じゃあ、やめます。」「あ、いや、行こう。ドコがいいかな?って言っても、俺は飲み屋しか知らないんだけど。」「いいですよ。飲み屋で。」「何だかヤケになってない?」「何でそう思うんですか?」「いや、…何か。ううん、何でも無いや。行こう。」私は男の後について行く。自分でも、こんなのバカじゃないかと思う。思ってきた。逃げる?逃げようか?頭はそう思っているのに私の足は逃げ出さなかった。男は個人でやってそうな居酒屋に入った。まだ時間が早いせいか、店はガラ空きだった。男はビールを頼んだ。私はサワーを頼む。美味しそうな感じの和風のつまみをいくつか頼んだ。「じゃあ、はい。お疲れ!」男が私とジョッキを合わせる。美味しそうにビールを飲んだ。あ、何かこの雰囲気って、会社帰りにみんなで飲んだのと似てる。つまみは手作りって感じがして美味しい。「おねーさんさ、どうしてパチンコなんかしてたの?」「え?あ、ちょっと入ってみたかっただけなんだけど…。」「なんかさ、危なっかしいよね。キョロキョロしてたし。あんまりやったこと無いんでしょ?それにさ、一人でパチンコしに来るタイプじゃない気がしたし。何かあったの?」私はお酒を一口飲んだ。「何か無いとパチンコしちゃいけないんですか?」「いや、そんなこと無いけど。結婚してるんでしょ?」薬指の指輪を指す。「うん。」「わかんないな…。どうして一人でパチンコしてたり男についてきたりするのか。」私はちょっとどうしようか考えて、自分のことを話すことにした。どうせ、今だけの相手だ。「実は夫の転勤で仕事を辞めてついて来たんですよ。で、今はハローワークに通って、失業保険をもらってるの。今って毎日、変な感じで…。私はどこにも属して無いっていうか、何か宙ぶらりんで。何て言うのかな…。授業サボって街に出てきた気分。だから、どうせなら悪い事やってみたくなったの。パチンコでもやってやれー!って。で、スるかと思ったら当たったから拍子抜けしちゃって。男の人に声かけられるのも久しぶりだったし。もうとことん落ちてやれ。ってちょっと思ったりしたの。」「ふーん。そうなんだ?じゃあ、俺がホテル行こうって言ったらついてきた?」「ううん。そこまでは度胸無いです。」「度胸でホテルに行くワケ?」私はちょっと考える。そうよね。それは度胸じゃないな。だいたい好きでも無い男とホテルって。お金もらっても行きたくない。「あ、ごめん、冗談。スケベな話すると逃げちゃうよな。え~と、何歳?あ、コレも失礼なのかな?」私が考えているのを、他の意味で取ったらしい。話題を逸らそうとする。「26歳です。」「はは。若いね。結婚して何年?」「3年かな。若いって歳でも無いと思うんですけどね。」私はパチンコ屋で見た女の子たちを思い出す。「そんなこと無いよ。俺から見たら、充分若い。子供は?」「いないです。」「ふーん。なるほどね。」「そっちは何歳なんですか?」「オレ?オレは32。」6つ上か。そんなに上には見えなかったんだけどな。2・3歳上かと思った。「さっきの話は本当なんですか?」「え?何?何の話?」「別居したって話。」「うん、あー。ホントホント。性格が合わないんだってさ~。だから別れて欲しいんだって。いや、多分他に男ができたんだろうけどね。ったく、結婚してからンなこと言うなって言うの。」多分、この人も今だけの相手だから、こんなに自分のこと暴露してるんだろうと思った。「子供は?」「いないよ。だからかね。簡単に別れようなんて言うのは。」「そうなんだ…。奥さん何歳なんですか?」「うん?29歳…」「ホントにホントの話?」「まー、シャレや冗談では言わない話だね。」「今どこにいるんですか?奥さん。」「さあ…。もうどうでもいいし。」顔がフッと暗くなった。あんまり聞かない方がいいのかもしれない。当然かな。土足で心に入ってるようなもんだよね。「私とこうして飲んでても楽しいんですか?」「うん。別に一人で飲んでてもいいんだけどね。ちょっと飽きた。俺さ、ちょっと行ったとこで店やってんの。バーレストランってやつ。たまには自分ちのじゃない酒が飲みたくなるんだよね。」どうもこの人と話してると深い話になっちゃうなぁ~。私はぼんやりと思った。「私もね、同じ感じ。ほとんど一人でご飯食べてるんですよ。二人分のご飯作って一人で食べるの。何だかちょっと最近疲れちゃってね。もういっそ、一人分なら楽なのになぁ~って思っちゃうの。あ、こういうこと言うの悪い奥さんってやつなんだろうね。ここにいるのもだし。」「ん?あ~。まあいいんじゃないの?俺が同じ立場でもそう思うよ。もしそれが悪いことだって思うなら、もう作るのやめちゃえば?」「そしたら、帰ってきた時、何も無くて可哀想じゃないですか。」「そんなの、あるのが当然って思ってるソイツが悪いんだよ。ちょっとは感謝するべきだよ。」「だって、私働いてないから、家の仕事しなきゃ、家にいる意味が無いし。」「でも、アナタさ、メイドじゃないでしょ?奥さんでしょ?そういうのを放棄したら離婚なの?」「じゃあ、奥さんがいる意味って何ですか?」「う~ん。何だろうね~。」男は楽しそうに酒を飲んで考える。「あのさ…、あ、やめた。ちょっとスケベな話かも。」「何ですか?いいですよ、別に。もう女の子ってワケじゃないし。」「いや、つまんないこと。」「予想はつきますよ。でも、そんなの結婚しても性欲のある人だけじゃないんですか?私はある意味、ハウスキーパーって仕事をしてるんじゃないかと思ってるんですけど。」「はは。そう考えると雇用契約みたいだね~。」「契約ですよ。結婚なんて。」「冷めてるね~。」私はちょっと泣きたい気分になる。お酒のせいかもしれない。普段の不満なんて、小さな気持ちだったのに、大きなことになってしまったような気分になる。「だいたい変ですよ。結婚するまでは男と女がHすることはいやらしいなんて言ってたのに、結婚したら、みんなが子供はまだ?って言うんですよ?ある意味、「やってるの?ダンナさんともっとやりなさいよ!」って言ってるようなもんです。親まで率先して言ってるんですよ?Hまで仕事みたいで、ワケわかんないです。結婚なんて。最近思うけど、大っぴらにHしていいですよ。って認められる儀式なんじゃないかな?って思います。」男は面白そうに笑った。「あ~、なるほどね。俺は子供のためにある法律なのかと思ってたよ。ほら、子供って親が必要じゃん。だから別れさせないようにする契約書なんだよ。」「じゃあシングルマザーはどうするんですか?子供がいない夫婦は?」「子供がいない夫婦にとっては、愛の誓いの証明書なんじゃないかな?ずっといっしょにいますってさ。人間弱いから、そういう契約でもしないとダメなんじゃないの?心は縛れないからね。でもせめて見えるモノに頼りたくなるんじゃない?シングルマザーは、人によるんじゃないかな?きっと一人でも親二人分愛してあげるんじゃないの?」男がスラスラと思ったことを口にするのが心地いい。そういえば、サトシとこんな会話したことあったっけ?なるほどね~。と私は頷いてみる。「恋愛の延長が結婚なのかと思ってましたよ。」「まあ、それもある意味正解だとは思うけどね。国語と同じで答えが一つじゃないんじゃないかな?」…と、俺は思うよ。男は酒を飲んで、低い声でボソリとつけ加えた。「私はまだわからないです。そういうの。」わかるような気もしたけど、自分の中でよくわからないことに同意するのも何だと思って、口がそう言っていた。「うん。そうだね。俺も結婚とか、何でするのか、よくわかんないよ。よくわかんなくなった。」「じゃあ、離婚しちゃえばいいじゃないですか。」「他人事だと思ってアッサリ言うね~。」「他人事ですよ。」「明日は我が身かもしれないよ?」「そんなことないです。」「そうかな?俺が帰さなかったらどうなるかな?」男がジッとこっちを見る。「声をかければ、誰でもついて行ったの?」「それは…」私は口篭る。ついて行ったと言えば嘘になるだろうし、ついて行かないと言えば、じゃあ何でって話になる。「ヤケになってたりするんですか?」「そうだね~。ちょっとね。アナタと同じで、宙ブラリンな感じではある。自営業だしね。今日だって、勝手に閉店しちゃったんだよ。初めてだよ、こんなことしたの。あ~あ。どうしようもねーよな…。」最後は独り言みたいに言った。何となく酔ってなさそう…。飲んでも飲んでも酔わないタイプなのかもしれない。私はそうじゃない。ヤバい。何とか帰らないと…。この男は危険だ。本能がそう言ってる。「冗談だよ。家庭壊すなんて簡単だよってこと。もう別に、そういう一時の慰めとか欲しいワケじゃないからさ。」男がクックと笑う。私はちょっとホッとした顔をしてしまったらしい。男は続けた。「だからさ、もし良かったら、こうしてたまに話せないかな?アナタは打てば響くタイプの人みたいだし、話してて飽きないや。」帰れるなら何でもいい。でも、私も同じことを思っていた。この人は面白い。このまま別れるのは、何だかもったいない。「いいですよ。こんな感じでいいんだったら。」「じゃあさ、一人で飯食うの淋しくなったら、ここに連絡して。」男は名刺のようなものをサイフから出してきた。そこには男の店の地図と電話番号が書いてあった。「暇ならおいで。今度はサワーじゃなくて、カクテル作ってあげるよ。」私は頷いた。男の名前は、ヨシカワシュウジと言った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月21日
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今日の日記(「官僚たちの夏」とシェラトン・グランデ・トーキョーベイホテルとお台場旅行記)<ユナ15>この街はパチンコ屋が何だか多い。出来たばかりらしい、キレイな雰囲気だったし、ガラス張りで、女性も数人入っていた。前の職場でも、女の先輩がハマってしまったとかで、とんでもない金額が増えたって言ってた。扉を開けるとタバコの臭いがすごくて、煙かった。どうするんだっけ?子供の頃、父親の友達が好きで、連れて行ってもらったことが何度かある。こんなキレイじゃなかったけど。学生の時の男友達と、みんなを待つために見ていたこともある。できるかな…私は一人でパチンコをするって行為にドキドキしていた。ええと、お札をここに入れればいいんだよね。でもなぁ、千円だとランチが食べられちゃう。どっかでお茶したと思って、500円だけ…変なところで主婦根性が働く。それなら入らなきゃいいんだけど、お金増えないかな~って、つい思ってしまった。銀色の玉がジャラジャラと箱に出てくる。とりあえず、空いている席に座る。隣に座ってる男の人が、すごく勝ってるらしくて、玉が入った箱が、たくさん足元にあった。すごーい!私はそれを横目で眺める。反対隣の茶髪のおにーちゃんが、上手くいかないのか舌打ちをしていた。私は玉を入れて、この真ん中辺りかな?ってところを狙って手元のレバーを動かす。すると、期待してなかったのに、玉がいい場所に入ったらしい!いきなり大きな音がして、玉がバラバラと出てきた。「え?!どうしよう!」私が慌てていると、隣で勝ってた男の人が店員を止める。「ねえ、このオネーチャン当たったよ!」上手に自分のレバーを固定して、私に箱を渡してくれた。店員が何か当たった印のようなものを私の台にして行った。何か光っている。「うわ、スゲェ!」反対隣のおにーちゃんも私のところを覗く。「あ、ダメだよ、まだ手緩めちゃ、このままこの位置にしておくといいから。」隣にいた男の手が、何でも無いことのように、私の手の上から手を握って固定した。「うん、ココ狙うといいんだよ。もうこうしておけば出てくるから。」よくわからないけど、「はい!」って頷いて言う通りにすると、男はすぐに手を離して自分の台に戻った。男のタバコの香りがうっすらとした。手の甲に男の手の感触が残る。箱が一箱満杯になって、その「当たり」ってやつは止まった。どうしよう。続けたら、スッてしまうかもしれない。チャレンジャーになったものの、無くなることが惜しくなった私は、もうその一箱で満足して止めることにした。「おねーさん、この後やっていい?」茶髪のおにーちゃんが嬉しそうに言う。もしかしてまだ出るのかな?ちょっと惜しくなったけど、やっぱりやめた。「あ、うん、どうぞ~。」でも、箱を持って、どうするのか考えてしまう。ええと…。「あっちに持って行けばいーんだよ。」さっきの隣の男が指をさす。「あ、ありがとうございます!」私は勝ったって言う高揚感でいっぱいになり、満面の笑みでお礼を言った。男は無表情に頷いた。玉の入った箱を店員さんに渡すと、店員さんがその玉を、玉数え機みたいな中にジャラジャラ入れる。すると、その玉の個数が出て、何か紙を渡し、あっちで変えるようにと指示された。お金だと5千円だけど、こっちの品物とどうしますか?って聞かれて、私は5千円を選んだ。わぁ~。なるほどね、コレは止められないって先輩が言うのもわかるかも。私はちょっと嬉しくなった。せっかくだからと、私は他の台も見たりしてからトイレに入る。中は、まるでホテルの化粧室のような作りになっていた。派手な感じの女の子たちが化粧をしてる。もしかすると高校生だったりするのかも…?ついこの前まで制服を着ていた気がしたのに、ずいぶん自分が歳をとったような気分になった。化粧を直しながら思う。ふ~ん、すごいなぁ。パチンコ屋さんって儲かるのね。不思議な気持ちになる。私は儲けたけど、更にこの店は儲かっているんだろうな。店を出ると後ろから肩を叩かれた。ひっ!私が後ろを慌てて振り向くと、さっきの男が立っていた。「コレ…。」男が差し出したのは、私が買った本の袋だった。「あ、すみません。ありがとうございます。」「あのさ…」男が何か言おうとしてる。何だろう?「急いでるかな?良かったら、飯いっしょに、どう?」「はあっ?!」私はつい大きな声を出してしまったのが恥ずかしくなって、手で自分の口を塞いだ。「いや、すごい不躾なこと言ってるのはわかってるんだけど、今夜、飯を一人で食いたくなくて…。勝ったから。良かったら奢るから。」新手のナンパ?何これ?さっきは無表情だったのに、男ってわからない。でも私は頭の中で天秤をかける。この男、ルックスは悪くない。むしろ好みのタイプ。私より歳上なんだろうけど、Tシャツにジーンズにブルゾン着てるのが様になってる。家に帰ってもどうせ誰もいないんだし、今日も一人で何か食べるんだし…。でもどうなの?ついて行ったりして大丈夫なの?いや、ご飯食べる程度ならいいんじゃない?サトシだって女の子と食べたり飲んだりしてるみたいだし。オネーチャンのいる店だって行ってる。この人、何かワケ有りっぽいし、本わざわざ渡しに来てくれたし…。でもマズいよ、やっぱ。私結婚してるんだし。どんな人だかわからない男についてくのって…私の迷いが顔に出たのか、男が必死になって言う。「俺別に、変なとこ連れてったりしないから。ホントにホント!って言うとますます怪しいか…」男は一人で言って、困ったように笑った。つられてつい私も苦笑いをしてしまう。「いや、あの…ただ、ホントに一人で夕飯食うのが嫌で…。っていうか、ちょっとカミサンと別居することになっちゃって。一人でいると落ち込んじゃってさ。ほら、キレイなおねーさんとご飯でも食べれば元気になれるかな~って。あ、俺何言ってんだろ…。いや、やっぱいいです。すみません…。困らせちゃってゴメンネ。」諦めが早いのか早口で言うと、男はトボトボと駅に向かって歩き出した。何だか背中に哀愁がただよってるように見える。 一人で夕飯食うのが嫌で…「あの…」男が振り向いた。「いいですよ。私で良ければ。」男の顔が驚いたと同時に、パァっと明るくなるのがわかった。私は何を言ってるんだろう?続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月20日
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今日の日記(「華麗なるスパイ(新ドラマ)」と等身大ガンダム見てきました!)<ユナ14>「すみません、今月いっぱいで会社を辞めたいんですが…」実は、転勤で…と言う前に、課長はニコやかに言った。「あ、そうなんですか。はい、わかりましたよ。今までお疲れ様でした。来月ね。う~ん、手配しなきゃな。ま、今は忙しく無いし何とかなるでしょう。」私はその態度に拍子抜けする。「すみません、急で。転勤が決まったんで。」マヌケだな…と思いながら付け足す。「あ、そうなんだ?いや、もう結婚したからね。いつ辞めてもおかしくないって思ってたから。まあ、気にしないで。こっちは大丈夫だから。いい家庭作って下さい。あと一ヶ月ヨロシク!」そう言って、課長は会議室を後にした。課内会議の終わりに引き止めての、簡単なやりとりだった。もう少しガッカリしてくれたり…ってことは無いんだな。私は自分の存在の必要無さを思い知った気分だった。私の代わりはいくらでもいる。早速仕事引き継ぎの手配がされた。私がいなくなっても大丈夫なのかな?って位、私の仕事の後を継いでくれることになった先輩は、メモも取らずに、適当に話を聞いていた。ま、いいか。この人仕事できるんだろうし、私どうせ辞めちゃうんだし。送別会がされて、「淋しくなりますよ~。」って、後輩の女の子が言ってくれた。「遊びに行ってもいいですか?」「遠いよ~。ホントに来る気があったら連絡してね~。」私は社交辞令と思って軽く流す。「オレ、ファンだったのになぁ~。」ウケ狙いなのか男性社員が言って、他の男性社員に頭を叩かれている。いきなり先輩の男性社員が酔っ払ったのをいいことに抱きついてきた。「うお~!!!」絶叫し、みんながゲラゲラ笑う。突然のことだったのでコーチョクしてしまった…。最後って面白い。いろいろあったけど、楽しい職場だったな…と振り返る。帰るとサトシが珍しく先に帰ってて、お帰りって迎えてくれた。何だか涙が出てきて、それをサトシがぬぐって抱き締めてくれた。送別にもらった花を花瓶に刺して、辞めてからの手続きを済ませる。引越し荷物をまとめる。気付くと花は枯れて、引越しの日。引越後は荷物を片付けたり、役所へ行ったりで、なかなか慌しかったけど、今こうして全てが片付いて、一人で部屋にいると、何だか落ち着かなくて困る。サトシが家を出ると、部屋が広く感じる。シンとした部屋に一人でぼんやりとテレビを見ていると、こんなことしてていいのかな…って気持ちになった。のんびりした空気に溶け込めない。サトシは早速会社に馴染むために、歓迎会やら、残業やらを引き受けて、やっぱり帰りが遅くなることが多かった。酒に強いワケでも無いのに、飲んでくるからか、会社には馴染んできたらしい。私は一人、テレビとお友達になる。もう朝の情報番組も、昼メロも、午後の再放送も、何がいつやるのか知っている。パソコンもゲームもお友達。暇だな~。一日が長いので、困ってしまう。即次の仕事をみつけようと、一応派遣会社に登録したけど、時間的にも、時給的にも、通勤先も、良いと思えるものがなかった。せっかくだから、失業給付金をもらってから働くことに決めた。何となく、今の自分の状況に焦る。正直、今は、あまり楽しみも無い。休日は誰も来ることも無いし、ひたすら疲れてバテてるサトシは家で転がってゲームしてた。時々会社の人に、バーベキュー的なものに呼ばれるけど、みんな子供のいる家族ばかりで、年上ばかりなせいか、疲れる。子供はまだなのか聞かれる。早く作った方がいいわよ~。育児は体力いるわよ~。お洒落して行くと何だか浮く。もう、お洒落する必要は無いんだよって、告げられてる気がした。奥様の会話にはついていけず、小さな子の子守をするフリで自分の居場所を確保。終わると、男達は飲みへ。奥様方は子供と共に家に帰って行く。私は、何となく遠慮して、一人で家に帰ってサトシを待つ。録画した私の好きな俳優が、私を待っていてくれる。「あんなヤツやめろよ。オレにしろよ。」きゃ~!またそんなこと言ってる~!うんうん。私ならキミにする、する~!一人で言って、一人で笑う。そして、友達にドラマを観終わるとメールする。 カッコ良かったよね~!返事が来る。 ふふ。ユナってばあの子好きだよね~! いつか主演になるかね?そんなやりとりをちょっとしてると、友達が側にいるように感じた。この歳になると、近所で友達って無いんだろうな…。せめてもの救いは社宅じゃないことだった。それから、そういった会社の集まりは滅多に無いこと。淋しくなって、何となく、友達へのメールや、手紙を書くことが増えた。メールがこんなにありがたいと思ったことはない。お母さんには、つい電話をしちゃうので、通信費がかさむ。今はとりあえず、次の仕事に就くまでの間お金をもらうために、職業安定所に指定された日にちに行くことになっていた。それ以外、私に用事なんて無い。せっかく賑やかな街まで行くのだからと、私は久しぶりにお洒落をして出かけた。電車も何だか久しぶり。職業安定所、ハローワークは、いろんな歳の人が集まっていた。話を聞いて、手続きを済ませて、どんな仕事を募集してるかを見て、私は街をブラついて帰ることにした。新しい洋服でも買っちゃおうかな。でも、すぐに止めることにした。買ってもどこに着ていくんだろ?そう思ったから。これからは、特にどこかにお洒落して行く場所も無いだろうし、家で過ごすことが多いから、部屋着くらいしか必要無さそうだな…。早く仕事みつけた方がいいかも。でも、また転勤があるだろうから、パートとかのがいいのかな。フルで働けるとこあるのかな…。働いてないから、何だかサトシのお金だと悪い気がして、今は給付金が私のささやかな楽しみ。一度目が出た時は嬉しくなった。働かないのにお金がもらえるなんて、給付金バンザイ!それでもまたハローワークに行くために街に出ると、何かが欲しくなった。本屋に入る。ファッション誌を立ち読みする。あ、もう私には関係無いか…。雑誌を置いて、話題になってる小説を買った。電車で読んでみよう。駅へ向かうとピコピコとうるさい音が聞こえた。パチンコ屋から人が出てきたところだった。ちょっと入ってみようかな。ふとそう思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月19日
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今日の日記(等身大ガンダム見に行って来ました!)<ユナ13>今夜も楽しみにしていたテレビ番組があるので、私は自分の分の夕飯を適当に済ませていた。私の好きな俳優くんが出るのだ。冷蔵庫を覗く。明日は買い物しなくちゃな~。何も無いや。今夜は飲み会ってあらかじめ聞いてあったから、サトシの分は作らない。何て楽なんだろう。お風呂から出るといきなり電話が鳴った。「あ、ユナ?実はさ、後輩がうちに来たいって言うんだよ。連れて帰るけどいい?」「えー!嘘でしょ?!何も無いよ!」「あ、電車来ちゃった!ごめん!じゃあ、あと30分で着くから。」電話は即切れた。人を連れて来るのはいいの。構わない。でもさ、もっと早く言ってよ~!とりあえず、私は服を慌てて着替えて、髪を乾かした。メイクしてない…。何か食べる物あったっけ?泊まるってこと?布団無いけど…。まあ何とかなるか。せめて化粧を軽くしておく。ピンポーン。「お帰りなさい~!どうぞ~!」「いやぁ、すみませんね。」ビックリ!後輩だけじゃなくて、先輩もいるじゃん!何も無いのに…勘弁してよ…って私は思った。でも、これお土産です~って、自分達でつまみとお酒も持ってきてる。一応気は遣ってくれてるんだ。お客さんに罪は無い。もう仕方無いよね。それに何だか二人でいつもいるから新鮮で楽しい。私は、飲めるように準備する。あ~、見たかった番組録画しておくの忘れちゃった!悔しい!でも、しばらく飲みに行ってないし、うちが居酒屋になってもいいか。彼らは週末ってこともあって、夜中まで飲んでいた。結局、独身の二人は泊まっていくことになった。しかも雑魚寝。いいんだろうか?「いーんですよ~。勝手に来ちゃったんだし。」「悪いね~。」申し訳ないけど、仕方が無い。私は風邪をひかないようにエアコンをかけっぱなしにして、とりあえずあった夏用の布団やら、余分な毛布やひざ掛けがあったので渡した。今度来客用買わないとダメかなぁ…。そんなことを思った。ずっと嬉しそうに飲んでいたサトシが、寝る前に言った。「ごめんな、急に連れてきちゃって。」「ううん、いいよ~別に。楽しかったし。」「ありがとう。ユナ、大好き。」軽くキスしてくる。それだけで、まあいいかな~って思えるから不思議だ。あ、でも今度は早く言っておいて欲しい。それだけは釘を差す。男の人のノリに混ぜてもらえたし、楽しかったし、感謝されるし、たいしたことしてないのに、こんなんでもいいんだ?って思った。一人で食べてるより、よっぽど楽しい。私はホントに淋しかったんだ。ちょうどうちもマンネリ化してきたので、ぜひまた来て下さい。本気でそう思った。彼らが帰っちゃうとつまんないな~って思った。そんな感じだったから、うちは誰でもウェルカム状態だった。実家から布団をもらってきた。これでいつ誰か来てもオッケー。そんなことしてたら、誰も来ない二人だけの方が何だかつまんなく感じてきた。週末二人で出かけるけど、新鮮味に欠けるし、お財布もいっしょだから、何となく無駄遣いしてるみたいに感じた。だから家で遊べるようにテレビゲームを買った。そのうちサトシの友達の誰かしら来て、うちでゲームしてったり、飲んで行ったりすることが増えた。そしてサトシは、だんだんこっちから誘わないと私を抱かないようになった。私も弟と暮らしてるような気分になってきた。ときどき弟の友達が遊びに来る。うん。そんな感じ~。だから私の態度もだんだんフテブテしくなってくる。「今日は見たいテレビがあるから、あっち行っちゃうね~。」とか、「眠いから先に寝ます~。」とかって、もう帰ってきたら即メイクも落とす。それを聞いた会社の人たちは、半ば呆れてるみたいだった。何だか、終わってるよ。おもてなししないの~?とかって。そんなこと言われると罪悪感がうずく。悪い嫁。悪い嫁。でも、もういいの。楽しければ、世間の理想の家庭なんてどうでもいい。来るメンツも決まってきていて、勝手にやってる。楽しそう。賑やかでいいじゃん。それでもツマミだけは作ったりした。時々、サトシの友達が台所に手伝いに来るとドキっとする。「ここ寒く無い?大丈夫?」とかって。「うん。慣れてるから平気だよ~。飲んでて。」「いつもありがとうね、ユナちゃん。」そう言って、氷やお酒を持って去って行く。そんな言葉に、優しいな~。嬉しいって思う。そういう日があると何だか怖い。自分の心が揺れちゃったような気がして。そんなこと思う自分が、すごくサトシに悪いことをしたような気がして。あの人は、あんまり連れてこないで欲しいと思ってしまう。でも、連れて来るとちょっとソワソワしたりもする。これはある意味浮気なんだろうか?そういう気持ちって伝わるんだろうか?そんな日に限って、サトシが私を抱いてくる。今日も少し残業をして帰る。窓に明かりが灯っている。あ、嘘!今日は早いんだ?私は少しウキウキした気持ちで、足早に階段を登る。サトシがこたつに入ってゲームをしている。「ごめんね~、今日早かったんだね!今夕飯作るから。」「あ、うん、いいよ、いいよ。今日はさ、外に食べに行こう。」「何?何かあったの?」今日は何か記念日だったっけ?私は自分が何か忘れちゃったんじゃないかと思う。「実はさ、転勤が決まっちゃって、来月には引越さないといけなくなっちゃった。」「え…?」「ユナは仕事どうする?って、変か?結婚してるんだし、来るだろ?」全く知らない土地の名前をサトシが告げる。初めて実家から遠い街で住むことになるんだ。私の心は不安でいっぱいになった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月18日
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今日の日記( 「任侠ヘルパー」と息子の留守番&ヤゴからトンボへ! )<ユナ12>「あれ?残業~?もう帰った方がいいよ。夕飯作らないとマズいでしょ。」優しい声で男性社員が私に声をかけていく。悪気が無いのはわかってるけど、もう少しこの仕事片付けちゃいたいのにな…。でも、そう言われると何となくいづらくて、キリがいいとこで終わらせて帰ることにする。「お先に失礼しま~す。」みんながニコやかに、何作るの~?とか、これから買い物~?とか聞いてくる。何にしましょうね~、って言いながら帰る。各々が、勝手なメニューを言って、私はそれを参考に考えながら、スーパーに寄って、重たい買い物袋を持って、暗い道をテクテクと歩く。見上げて窓を見るとまだ暗い。サトシは帰ってないらしい。鍵を開けて、誰もいない部屋の電気をつける。「ただいま~。」一人で言ってみる。シンとしてるのが何となく嫌で、テレビを点ける。疲れたな~。思いながらも夕飯の支度。魚のハラワタを取って、味噌汁作って。野菜を煮て。8時を過ぎたけど連絡がないので、一人でテレビと共に食べることにする。コレが我が家の暗黙のルール。バラエティ番組を見て笑う。一人でクイズに回答。何となく参加してる気分になるから不思議。サトシの分の夕食にラップをかけておく。食べたらお風呂。テレビをぼんやり見て、サトシが帰るまで待つ。10時を過ぎた。今日は多分飲んでくることになったのだろう。今日は、私の好きなドラマがやる曜日だから、最初からバッチリ見れる。明日、みんなでこの話をするんだ~。みんなは主演の男の子が好きだけど、私は脇役の男の子の方が好き。主人公の女の子が好きで、いろいろ助けてあげるのに報われない。いつも笑顔で、のんびりしてて。私の趣味って、マイナーなのかな。見終わったらウトウトしてきた。11時半。「ただいま~。」サトシが帰って来た。やっぱり飲んでいる。「何か食べる?」サトシはラップのかかった皿をチラッと見た。「いや、今日はもういいや。明日食べるよ。」なるほど、今日の煮物は食べたくないらしい。魚も焼きたてじゃないと不味いもんね。焼いてあげれば良かったんだろうな…。でも、飲んでたら、食べないこともあるし、魚はダメになっちゃうし、これから後片付けもメンドウだし、明日も仕事あるし。私の中で、後悔と罪悪感と言い訳と開き直りが一気に押し寄せる。「ほんと?食べないなら明日コレ私のお弁当にしちゃうけど。魚ダメになっちゃうし。」「んじゃ、そうして。多分、朝は食べられないしさ。」私のそんな気持ちを知らないで、サトシは簡単に言う。「お風呂入る~?」「うん。ごめんな~。」サトシがお風呂に入ってる間に作ったものを冷蔵庫に詰める。明日もコレ食べなきゃいけないんだ…。作らなきゃ良かったな。何か変化させちゃおうかな。あ~、でもめんどい。12時半、サトシが寝る支度を済ませて、いっしょに眠る。何だか長年連れ添った夫婦ってこんな感じなのかな?サトシが私を抱くのは週末って定番化してきた。サトシの寝息が聞こえる。私はさっきウトウトしちゃったせいで、なかなか寝付けない。目覚ましが鳴るともう朝かと思った。サトシはまだ起こすまで寝てる。いいなぁ。私ももう少し寝てたい。飲んだ翌日はコーヒーだけでいいと言うので、毎回そんな感じ。私は紅茶。パンを焼いて食べる。後片付けは帰ってから。どうせ私が先に帰るのだろうから。「今日は定時で帰るの?」「わかんないや~。定時なら電話入れる。」「そっか、わかった~。」お互いの営業所へ。今日も一人でご飯を食べるのかもしれないな。実家で家族と食べてた夕食が懐かしい。二人分作って、一人で食べる生活が週の半分。時々独身の友達と食べる。何だか一人暮らししてるみたい。でも、一人暮らしより融通利かないかも。自分だけならテキトーなもの食べられるけど、一応主婦だから、夫の分を作るのが当然みたいな気がするし、勝手に眠るのも悪いような気がしてる。週末だけが楽しみ。たくさん眠れるし。あ、でもまとめて洗濯しないといけないんだよな。何もしたくないなぁ~。ぼんやりそんなことを考える。テキトーなもの食べて、勝手に寝ちゃいたい。でも、それをするのは、いけないことのような気がした。今日も課長に聞かれた。夕飯何作ってるの?ダンナさん待っててあげてる?え?先に食べちゃうの?新婚でしょ~?ひっどいな~。朝ごはんはコーヒーだけなの?ダメダメ、ちゃんとしたご飯作ってあげないと。朝はご飯だよ。ふーん。そうなんだ。いちいち真面目に返事返しちゃうのがいけないかもしれない。みんな私にいろいろと新婚のノウハウを教えてくれる。でも時々それは、この男性たちの理想を私に押し付けてるように感じる。え~、そんなことやってられないですよ。はあ、がんばります。うるっさいなぁ~って思っちゃうことがある。人によっては言っちゃう。も~、うちのことだからいいじゃん。って。一応笑いながら。だって悪気無いんだろうから。考えてみたら、私ってサトシと過ごすより、この男の人たちといっしょにいる時間の方が長いんだな。いちいちぶつかってたら、私が疲れてしまう。うまくこの生活に慣れなきゃ。ううん、慣れてきちゃったからこんなこと思うのかも。私はパソコンに入力しながらぼんやりと思う。子供ができたら、仕事辞めるんだろうか…。でも、あの部屋で、子供と二人きりの生活になりそう。考えただけで、自分の手に負えないことのような気がした。いっしょに沢山いたくて結婚したはずなのに、いっしょにいる時間は増えたはずなのに、どうしてこんなに淋しいんだろう。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月17日
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今日の日記( 「となりの芝生」と初めてのパソコン講師体験報告☆ )<ユナ11>もうすぐ結婚式だ。私はその報告も兼ねて友達と飲みに行くことが増えた。エンゲージリングをはめて行くと、友達は「キレイね~」とか「いいなぁ~」って褒めてくれた。居酒屋で私達グループに男の人たちが声をかけてきたけど、薬指を見せて、「コレなんですよ~。ごめんなさいね!」って、言うと、「なんだぁ~。残念~!」って、みんな気がいい感じでひっこんでくれた。以前みんなでいた時にナンパされて断った時は、「何だよブスっ!」って言う男もいたから、こういうのってお互い気分がいいものなんだと思った。「水戸黄門の印籠みたいじゃんね~!」って、友達が楽しそうに言った。早く結婚したがっていた友達より、私の方が先に結婚しちゃうなんて変な感じ。キチンと結婚することが会社に公になると、今度は独身最後に飲みに行こうと誘われることが多くなった。意味わかんない。人間は限定品に弱いんだろうか?でも、そうなるとかえって行ったとしても、色気も素っ気もお互いに無い。もちろん男の人と二人きりでってことは避けたけど。大勢の中で男の人と話すことになったとしても、どうして結婚することになったかとか、式場どうして決めたとか、だいたいいくらするものなんだろう?とか、会話が結婚に関する不思議でいっぱいだった。ちょっとした芸能人の記者会見気分を味合わせてもらった感じ。中には所帯持ちの男性が、奥さんの話を出してくるようになった。一気にこっちの世界の仲間入り?今までは話しても、独身の女の子にはわからないだろうと思われてたのかもしれない。家に帰ると母親に言われる。「そんなに飲みに歩いてて大丈夫なの?フジサワくんに怒られない?ダメにならないわよね?」私は水を一息に飲んだ。フジサワくんだって、今頃会社の人たちと飲んだくれてる。人のこととやかく言えないだろう。「いいじゃない。ダメになるなら結婚する前の方が。」「確かに、その通りかも。」弟が笑う。「物騒なこと言わないでよ~。」お母さんは、心配そうな顔をしたけど、そんなこと言える位なら、相手に振り回されてなくて大丈夫なんだろうと判断したらしい。「まあ、それもそっか。」と笑った。「だってさ~。角のお姉ちゃん知ってる~?出戻ってきちゃったのよ…」お母さんの近所ネットワークニュースが始まる。うちもニュースに加わるのが嫌なんだろうな。一応釘を刺してる気がした。指輪を見て思う。ホントにキレイ。私結婚するんだなぁ~。結婚するから大丈夫。そんなの保険に入ったから死なないワケでもないのに、微妙な安定感と幸福感が私を包んでいた。結婚式の当日は快晴だった。フジサワくんの家は、うちの親と会う時も、結婚式の時も、ちゃんと父親が出席して、まあ普通なんだろう…と思う結婚式になった。フジサワくんの上司が自分達の経歴を読み上げる。これが結婚ってものなんだ?って思わされることばかりだった。何だか自分の人生じゃないみたい。架空の物語を作りあげているみたいに、結婚式が進んでいく。まあ、いろいろお互いの親から口をはさまれたけど…。しょうがないよね、わからないことだらけなんだもの。まるで学芸会で、お姫様役をやってるような感覚だった。先生はお互いのお母さん。でも、もう人生でこんなことは無いだろう。なるほど、結婚式は人生の主役になった瞬間なのね。そんなこと思った。みんなが私を中心にしてくれるって、何てステキな気分なんだろう。みんなが酔っ払って、楽しそうにしている中、同期グループの余興が始まる。中心はヤッサンだ。「ボクは、二人がまさか結婚するとは思ってなかったです。今思えば、ボクがバーベキューの帰りの車で寝ている間に、二人の恋が芽生えていたのだと思うと、ボクが寝ていたことも無駄じゃなかったんだな~って思います。」みんながドッと笑う。「考えてみれば、営業実習でボクとフジサワくんがいっしょじゃなければ、あのバーベキューに彼が行くことはなかったんですよね。でも、フジサワくんは、ヤマグチさんが来るって言ったら妙に来たがってたし、連絡先を知ってるなら教えて欲しいって言ってたし、もう実習の前から、こんなにキレイなヤマグチさんを、彼は狙っていたワケです。知らなかったらボクも狙っちゃうとこでした。あ、嘘です。すみません!えっと、きっとどこからか、会うようにしてたと思います。もうなるようにしてなったカップルだったんですよね。フジサワ、ヤマグチさん、ホンっとうにおめでとう!みんなで新居遊びに行かせてくれよ。では、ゲームの説明をします。」私は笑いながら、チラッとフジサワくんを見る。フジサワくんもバツが悪そうに目を合わせると、すぐ逸らせて笑顔で余興の説明を聞いていた。連絡先を教えて欲しい?どういうことなんだろう…?私はフジサワくんと、同期会で電話番号を交換したのに。後で聞いてみようと思った。度重なるハプニングで冷や汗状態と無我夢中の中、結婚式が慌しく終わり、二次会の会場へ。フジサワくんが手を繋いでくれると、とても幸せな気持ちでいっぱいになった。「ね、何だかすっごい幸せ。フジサワくんも幸せ?」移動のタクシーの中で小声で聞いた。「ずっと思ってたんだけどさ、フジサワくんは変じゃない?ユナだってもうフジサワなんだから。」「だって、フジサワくんで慣れちゃったんだもん。何か今更言いづらいよ。」「そう?まあ別にいいけどさ。」「じゃあ、サトシって呼ぶようにする。あ、サトちゃんは?」「サトシがいい…。」うふふ!って笑った。「ねえ、さっきのヤッサンのスピーチなんだけど…」私がサトシの顔を見ると、あ、やっぱりな~って顔をして、言い訳を始めた。「ごめん、実はさ、シャツの中に紙入れてて、洗っちゃったんだ。」「そうなの?サイフにしまってなかったっけ?」「よく覚えてんな、そんなの。一度出して確認してそのまま中に入れちゃったんだよ。まあ、いいじゃん。ちゃんとオレたちは結ばれる運命だったんだよ。」タクシーの運転手さんに聞かれてるんだろうと思うと何だか照れる会話ばっかり。でも、もういいや~って思った。「うん。そうだよね。」手の繋ぎ方は相変わらず指の間に指をからめるものだったけど、もう慣れた。これからはずっといっしょだ。どんな繋ぎ方だっていい。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月16日
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今日の日記(「救命医・小島楓」「恋して悪魔」の感想ともうすぐ夏休み☆ )<ユナ10>私は、フジサワくんとイイダさんのことを今更蒸し返すのが嫌で、結局、フジサワくんに問い質すことができなかった。今更聞いても、多分嫌な気持ちになるだけだろう。結婚式場を見てまわったりしているうちに、もういいかって、忘れようって気持ちになった。サークルでも、あまり二人が話してる様子は無い。 そのうち男性側は、彼女を連れてくる人が出てくるようになったので、私達はその人たちと付き合うようになっていった。フジサワくんの合鍵を使って、部屋の中に入る。今日は残業になるって言ってたけど、明日はお休みだから、家で待ってて、と。私は、フジサワくんが帰ってきた時にすぐ食べられるように、シチューを作っておいた。今日は寝坊したみたいで、ベッドがグチャグチャになってる。ちょっとだけ整えた。あんまりイジるといけない気がして。そしたら、ベッドのマットから、何か紙が出ていた。ひっぱってみたら、雑誌だった。何かヤラシーっぽいやつ。私なんかよりすっごい胸が大きかったり、ウエストがくびれてて、足がキレイな女の子たちが、すっごいポーズとって、これでもか!ってくらいたくさん載ってた。こんなにカワイイ子たちが、どうしてこんなもんに載ってるんだろう?私は不思議になる。あ、でもだからお金になるのかな。でも何だか笑っちゃう!自分の部屋なのに、わざわざ隠してるなんて。あ、私が来るせいか?私は男の子のイタズラをみつけたような気分になって、微笑ましくなる。元通りにしようかな。出しておいちゃおうかな…。どんな反応するだろ?迷っていると電話が鳴った。留守電に切り替わる。フジサワくんかな?ぴーっ。「あの…。イイダです。ちょっと話したいことがあって…」私は咄嗟に受話器を取っていた。「あの。ごめんなさい、私、ヤマグチです。良かったら伝えますけど、どんな御用ですか?」心臓が鳴っていた。でも、もう取ってしまったから仕方ない。イイダさんが戸惑っているのが伝わってきた。でも、もうかけてきて欲しくない。特にこの人にだけは。「あ…ごめんね。うん、結婚するって聞いたから、お祝いを言いたくてかけたの。フジサワくんは残業なの?」「あ、はい。そうなんですよ~。今日は週末だから、待ってるんです。ありがとうございます。伝えますね。何時まで起きてますか?」私はワザと明るい声を出した。何でもないことのように。でも、私が出るってわかったら、多分もうかけてこないだろうと思った。私は嫌な女だ。「ううん、いいのよ。ヤマグチさんに伝えておいてもらえれば。ごめんね、こんな遅くに。」彼女はフジサワくんと同級生だから、年下の私に余裕をみせている感じがした。それでも、申し訳ない気持ちが伝わってきた。何だか悪いことをした気がしてきた。自分がすごく嫌な人間になったことに追い討ちがかかるような…。「いいえ、いいんです。あの…イイダさんは、彼氏と御結婚とかって話は…」私は気になって聞いた。そんな話があれば安心する。「ううん。私は結婚なんてまだまだ…。まだ、やりたいことが沢山あるのよ。最近、二輪に乗りたくて教習所に行き始めたし、かなり楽しくてね…」彼女は二輪の話や、他にも何か習ってる話を聞かせてくれた。そういえば、フジサワくんが同じようなことを言っていた。気になる。「イイダさんは…」もうブッっちゃけ言っちゃえ!「フジサワくんのこと好きなのかと思ってましたよ~。」「ええっ?私がぁ~?」イイダさんが笑い出した。「そんなことないよ。それにね、同級生って興味無いって言うか。子供っぽいって言うか。私ね、付き合ってるってワケじゃないけど、気になる人がいるんだよね、年上で…」それって、私が付き合ってる人は魅力無いってこと?何だかちょっとムカついた。「遊びに来たことあるって、フジサワくんのお母さんが言ってたんで…」つい言ってしまった。「ああ…、アレは…」ちょっとイイダさんが言葉に詰まった。でも、言う決心をしたかのように続ける。「流れでって言うか。お母様に勧められて泊まったっていうか…。だから心配しないで、ね。」私も立ち聞きで聞いた話だから、これ以上つっこむことができない。何、流れでって?お母様?やっぱりかなり親しかったんだ?「あ、ううん、大丈夫です。ごめんなさい、変なこと言っちゃって…。あの…、その人とうまくいくといいですね。」私は自分の声に寒気がした。私は何をしているの?私は何をやっているの?不信感でいっぱいなのに、大人な相手の対応に同じように返している。聴くべき相手はイイダさんじゃない。フジサワくんなのに。私は卑怯だ。「ありがとう。じゃあオヤスミなさい。フジサワくんにヨロシクね。今度良かったら、いっしょに食事でもどう?」食事?何で食事なんかしなきゃいけないの?でも、そうは言えなかった。自分が子供みたいな気がして…。それに社交辞令かもしれない。「はい。宜しくお願いします。」明るく振舞って、電話を切った。抑えた感情が心の中でグルグルと回っている。手が痙攣したみたいに震えてる。Hな雑誌の中の女の子たち。全部が憎らしくなった。彼が好きなのは、こういう女の子なんだ。イイダさんや、こういう女の子なんだきっと。雑誌を投げつけた。スタイルのいいイイダさん。悲しい。私じゃない。きっと。そう思ったら涙が出てきた。ポロポロと。悔しい。悲しい。私が一番好きなはず。だから結婚するはず。以前聞いたことがある。イイダさんはモテそうって言ったら、うん…まあね。って。あの中じゃ一番かな、って。なのに、その女は、私が結婚する相手をバカにしてた。そして、彼が好きなタイプはその女なんだ…。どうして私を選んだの?ますます涙が出てくる。だって、今の私には誰も言い寄ってくる人さえいないんだから。だからお手軽だったんだろうか…。涙をふこうと思ったら、いきなりフジサワくんが帰ってきた。「ただいま…どうしたの?」私の顔を見て驚いたように言う。すぐに雑誌に気付いたらしい。「あ、ゴメン!それはさ、別に、オレじゃなくてさ。先輩がくれたんだよ!後で返せって言われると困るから隠したって言うか…。」なんか勘違いして、懸命に言い訳してる。違う。違うの…。でも、心の中をうまく言えない。留守電聞いたら、私が電話取ったってわかっちゃうだろうけど。「胸、大きい子が好きなの?」フジサワくんが涙をぬぐってくれて、私が冗談みたいに言った。何とか冗談にしてしまいたい。ホントは、笑いながら、こんな会話するはずだったのに…「ううん、そんなことないよ。ユナくらいの大きさが好きだって!」何言ってんだろ。笑ってしまう。口から出たのはやけっぱちな言葉だった。「イイダさんから電話来たよ。結婚おめでとうだって。電話してあげれば?」「何か言われたの?」フジサワくんの顔が緊張した感じに見えた。「ううん、何も。いい人だったよ。今度食事いっしょにしようねって。イイダさんの彼と。」「ああ、そうなんだ。」笑顔を作ってたけど、ちょっと悲しそうに見えた。私の思い込み?「会えたから、もういいや。今日はもう帰るね。」私はバッグを持って玄関で急いで靴を履いた。「ちょっと、待てよ、ユナ!」フジサワくんが私の腕をつかんでくる。「帰っちゃうの?」「うん。帰るよ。」「イイダとは何にも無いよ。」呼び捨てだ。何言ってるんだか。聞きたくない。「実家に遊びに来たのに?!」フジサワくんが驚いた顔をしてた。何で知ってるの?って顔。腕を強く振り払って外に出る。ああ、とうとう言っちゃったんだ。もう、嫌われちゃったのかもしれない。振り返るけど、追いかけて来ない。当然なのかも。アレじゃあ、勝手に電話出て、部屋をあさったみたいだもんね。現実私はそんな子なんだ。そんな子だったんだ。あんな自分は見たくなかった。きっとひどい顔してるに違いない。最悪だ…。駅の方に向かって真っ暗な中を歩いてたら、涙がどんどん出てきた。悔しい。悲しい。早足だった足が遅くなる。このまま帰っていいのかな…。謝った方がいいのかも。でも、何に?やっぱりもう帰るしかない。バカだな、私。でももういい。フジサワくんなんか嫌い。嫌いになる。後ろの方から走ってくる足音が聞こえて振り向く。腕をいきなり掴んだのは、フジサワくんだった。「ゴメン。ホントにゴメン。でも、今はもうホントに何でもないから。オレのこと信じてくれる?結婚するのはユナだからだよ。」涙が出てきて止まらない。別れたいのに、別れたくない。フジサワくんが私を強く抱き締める。ウン。ウン。って頷く。それでも、この日、私の中で、何かが一つ無くなったような気がした。それが何なのかは、わからないけど。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月15日
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今日の日記(好きだわ~!「ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー(新ドラマ)」の感想☆ )<ユナ9>年末になり、私はフジサワくんの実家へ挨拶に行くことになった。話には聞いていたけど、フジサワくんちはお父さんと別居してるらしい。そして、なぜかわからないけど、フジサワくんのお母さんは私によそよそしい感じがした。どこの学校を出たのか、とか、親は何をしてるのか、とかって話をお母さんに聞かれた。テレビドラマみたいだな…って思った。妹がいたけど、友達と約束があるとかって出かけてしまった。弟も玄関で挨拶しただけですぐにいなくなった。気を遣って疲れる。このお母さんと上手く行くんだろうか?穏やかそうな感じで、ぼそりぼそりとしゃべる人だけど。フジサワくんの部屋に当然みたいに私の分まで布団が敷かれていた。まだ結婚してないのに、いいのかな…って思った。何となく、こういうのって恥ずかしいものなんだと思った。変な感じ。「あんな感じで良かったのかな?私何もしなかったけど…。」「いいんじゃん?別に気にしないで。」フジサワくんはマンガの雑誌をめくりながら、気の無いように言った。そんなものなんだろうか?化粧ポーチを洗面所に忘れたと思って、音を立てないように階下に取りに行くと、居間の方からフジサワくんの妹が帰ってきてるのか、お母さんとの話声が聞こえた。「…どう思う?」「何で?カワイイ感じで、イイんじゃないの?」「でもねぇ…。何か、何もできなそうで。大学の時に連れて来た、イイダさんって子いたでしょ?あの子の方が、お母さん何となく好きだわ。しっかりした子の方が、お兄ちゃんには合う気がするのよ。」「別に、お母さんが結婚するんじゃないんだからイイじゃない。」「そうなんだけどねぇ…。」これ以上聞いちゃいけない!私は足音を立てないように、静かに部屋に戻った。心臓がドキドキしている。そう言えば、夏の帰省で電話した時も、何となくお母さんが出た時は嫌な感じがしたっけ。さっき、言われなきゃ何もしなかったのもいけなかったのかも…。「どうしたの?」フジサワくんがマンガから目を離して聞いてくる。「ううん、何でもない。何だか変な感じだね。ここに泊まるのって。」「そうだね。ユナがここにいるのって変な感じ。家が自分ちじゃないみたいだよ。でも、もうそろそろこの部屋もオレの部屋じゃなくするつもりみたいだよ。ちょっと淋しいよな。」「私にとっては、いつも行く部屋の方がフジサワくんの部屋って感じだけどね。」「うん。もう、そうだよな。でもさ、これからは、オレだけの部屋じゃないって言うか、二人の家探さないとな。」「うん…。」「どしたの?緊張してる?」「ううん、そんなことないけど…」「そんな顔してると、心配になっちゃうじゃん。」フジサワくんが抱きしめてきて、キスをする。舌がからんできて、パジャマの中に手が伸びてくる。まさか実家でそんなことはしないでしょ?でも、どんどんエスカレートしてくる。「だ、ダメ…ヤダっ。」フジサワくんの手を払いのける。「あ、ごめん…。」「止まらなくなったら、困るでしょ?」フジサワくんがしょんぼりしてる。何か悪いことしてしまった気分。フジサワくんはまたマンガを読み始めた。私もそこらにあったマンガ本を読む。でも内容が頭に入ってこない。さっきの会話が蘇る。 イイダさん… しっかりした子の方が…イイダさんは、いつものサークルのメンバーの一人だ。まさか、あの女の子がそうなんだろうか?あの子は彼氏がいるって聞いたと思った。もしかして、フジサワくんをフッたって、あの子なんだろうか?それなら女の子たちのあの態度もわかる。でも、だとしたら、何であのサークルにお互いまだ出てるの?いっそ聞いた方がいいんだろうか?ううん、やめよう。昔のこと。今フジサワくんが好きなのは私。だって結婚するから、ここにいるんだし。私は自分に言い聞かせた。オヤスミって言って、マンガを読んでるフジサワくんの頭を撫でてあげたら、その手を掴まれて、強引に布団に押し倒された。どうしよう、もしかすると気付かれちゃう。抵抗すれば音が立つ。強く力を入れられた。「声、出しちゃダメだよ…。」自分の心臓の音がする。こんなのって、マズいと思うのに、心臓の音だけが自分の体が興奮していることを伝えてくる。ねぇ、私が一番好きなんだよね?そうだよね?でも、ここに連れてきたって言ってた。もしかしたら、彼女にもこんなことしたの…?翌日のお母さんは、昨日よりもよそよそしく感じた。私は愛想笑いを無理に作る。お母さんのお雑煮美味しいですね。とか何とか。うちのは澄んでたけど、フジサワくんちのはお味噌汁みたいだった。すすんで机を拭いてみたりした。家でしないことはしなくていいのよ。って、お母さんに言われた。どういう意味だろう…。「何時に寝たの?」お母さんがフジサワくんに言う。「え?すぐ寝たよ。なんで?」フジサワくんがすっトボける。「ううん、寒かったから、すぐ寝れたのかと思って。」何だか笑顔が自然すぎて怖い。「オレたち、夕方には帰るからさ。」「え?もう?明日じゃないの?」お母さんが言った。「うん。ちょっと向こうで用事があるんだ。母さんも仕事あるんでしょ?」私はホッとした。もう帰りたいと思っていたから。部屋に戻るとフジサワくんが言った。「ねぇ、帰ったら、夜の続きさせてくれる?」「え?!何言ってんの~。それで帰ることにしたんじゃないよね?」「だって、あんなのヘビの生殺しみたいだよ。オレもうヤダよ。すげーしたくなっちゃった。今日もなんて勘弁だよ。帰りたい~。じゃなきゃ他泊まろ?」私は笑ってしまった。フジサワくんがスケベな人で良かった。あー拒んで良かった!そう思った。でも、イイダさんのことは頭から離れることはなかった。それからお母さんの言葉も…。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月14日
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今日の日記1(「魔女裁判(最終回)」「官僚たちの夏」の感想と、体験レッスン☆)今日の日記2(初めての無料ギターレッスン体験)<ユナ8>フジサワくんが所属しているサークルは、テニスやスキーをするような、時には飲み会があるような、特に何をするとは決まってないサークルだった。私がフジサワくんに連れられてそこに行くと、転校生のような、後から来た者の疎外感を感じた。女子は女子で元からのサークルメンバーなのか固まっていて、何となく入りにくいし、フジサワくんは、友達としゃべっていて、私は後ろでくっついているだけ。何だか居心地が悪かった。女の子たちがこっちを見てコソコソしゃべっている。何だかヤな感じ。ちょっとテニスもさせてもらえたけど、みんな上手で、下手な私なんて、ここで何してるんだろう?って感じだった。あ~あ、来なきゃ良かったな。そう思った。その後、みんなで飲み会。でも、フジサワくんは、「大丈夫?」とか言うだけで、気付いてないみたいだった。大丈夫じゃないって言ったら帰ってくれんのかな?それとも気付いてるのかな?よくわかんない。楽しそうにしてるフジサワくんを見るのは、ちょっと違う面を見れたようで嬉しかったし、フジサワくんの友達は、気を遣ってくれてるみたいだった。ちょっと申し訳なく思った。来てていいんだろうか?そんな感じでその集まりに、いつの間にかフジサワくんが当然のように誘ってくるようになり、土曜の時はそのままフジサワくんの家に行った。帰ったら、二人でいられるんだし、まあいいか…って思った。本当は行ってもたいして面白く無いんだけど、フジサワくんと会えないとつまらないと思って行く感じだった。私の周りの友達はどんどん彼氏ができていたし、週末遊んでくれる友達が少なくなっていた。都合がいい時だけ友達を呼び出すワケにもいかない。それで、時々フジサワくんの休日出勤なんかが急に決まって家にいると、「あれ?フラれたの~?」なんて、弟にからかわれる。こんなに会えないだけで週末がつまらなくなるなんて思わなかった。そのうち、どこからか、私とフジサワくんが付き合ってることが会社にバレ始めた。そうなると、なぜか私と気安くしゃべってくれていた同期の男子も、私に声をあまりかけないようになった。フジサワくんに悪いからなのか、恋愛対象からハズれたのか、何なのか。私の世界はフジサワくんを中心に回ってるようになっていた。今フジサワくんがいなくなってしまったらどうなるんだろう?こんな私、重くないだろうか?親もしょっちゅう週末に泊まってるので、結婚するのか心配し始めた。気付くと付き合い始めて一年になっている。でも、結婚なんて、まだ早過ぎない?自分の中でも、多分フジサワくんの中にも、まだ無いだろう。そりゃあ、結婚したら、ずっといっしょにいられるだろうから嬉しいけど。親もうるさく言わなくなるだろうし、周りも、結婚しないのか?ってよく聞いてくるから、はい、結婚しますよ、ってハッキリ言えたら、気分いいだろう。そんなある日、私はいよいよ親がうるさいので、今日は少し早めに帰ることにした。早いので、フジサワくんが家まで送ってくれることになった。いつもなら、フジサワくんの駅まででバイバイ。フジサワくんが、電車でうちまで来るのは久しぶりだな~なんて思っていたら、道の前の方から現れた人影は、お父さんだった!嘘!私は焦った。お父さんは何を思ったのかニコやかに、「キミがフジサワくん?良かったら、寄っていけば?」と言った。「え、いいよ、もう帰るとこだし!」私が慌てて言う。「いいじゃないか。ちょっと寄るくらい。まだ大丈夫だろう?電車?車ならここに置いておけばいいじゃない?」お父さんは、強引に家に招き入れようとする。どうしようか…。「あ…、じゃあ、すみません。」フジサワくんが中に入ることを決めたようだ。私は失敗したと思った。どうしよう。とても緊張する。母親も父親としめし合わせたかのようにニコやかにフジサワくんを迎える。「あら、電車?それならビールでもどう?」そして、冷蔵庫から適当にツマミを出してきた。「ごめんなさいね。いきなりのことだったから、たいしたものが無くて。良かったら、また遊びに来てね。今度はもっとちゃんとしたもの出すから。」オホホホホって感じの、母は普段よりワンオクターブ高い上品な笑いをする。こ、怖いよ。二人の魂胆は読めた。どんな人だかわからない男と付き合ってるより、オープンに付き合ってもらうためにイイ顔をしている。どんなつもりなのか、笑顔で探ろうとしている。父親が、フジサワくんに、まあ飲みなさいと言ってグラスにビールを注ぐ。フジサワくんが緊張しながら、すみませんと言って、慌ててお父さんにビールを注ぎ返す。私はこの情景についていけない。するといきなり、フジサワくんが口を開いた。「いつも、本当にすみません。あの…。ユナさんとは、ちゃんと結婚を考えて付き合ってますので、安心していただければと思ってます。」頭を深々と下げた。まるで、営業の商談のようだと、私は驚いて見ていた。あれ?でも今何て言った?え?そうなの?そうなの?結婚?父親もいきなりの言葉に驚いている。でも、娘が遊ばれてる訳じゃないことが嬉しかったらしい、よほど心配させていたんだろうか?顔がニンマリと笑った。「いや、そんな、いいんだよ。フジサワくんは、アレかい?営業なのかい?」お父さんとフジサワくんが仕事の話を始める。もうよくわかんない。経済情勢の話とかしてるし。会社の面接みたい。ああ…穴があったら入りたいって、こういうことなんだ…と思った。ちょっと違うか?普通、お父さんて、難しい顔してたりするものじゃないの?何なの?この和やかな雰囲気。でも、フジサワくんは、親に気を遣ってそう言ってるのかもしれない。私が親にせがんだと思われていたらどうしよう…。心の中には、嬉しさより不安ばかりが増していった。めんどうなことになったと思ってないだろうか…。一時間ほどして、フジサワくんが電車が無くなるので、そろそろ…と言って、帰ることになった。玄関まで送る。「あの…、今日は本当にゴメンネ。」フジサワくんは私をジッと見て、決心したように言った。「オレさ、さっきお父さんに言ったこと、本気だから。」「え?」「ちゃんとしよう。順序が逆になっちゃったけど。」順序?ああ、プロポーズのことかな?でも、今言われてることが、何だか実感が湧かない。「ユナ?どう?」私は我に返って返事をする。「うん。うん!お願いします!」フジサワくんは嬉しそうな顔をして帰って行った。私も多分、同じ顔をしていただろう。お父さん、どうもありがとう!本当にそう思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月13日
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今日の日記(「Mr.BRAIN(ミスター・ブレイン)最終回」と「ごくせんスペシャル」の感想☆とランチ報告)<ユナ7>そんな感じで付き合っていって、また同期のみんなで遊びに行くことになった。紅葉を見に行こうとかって。みんなは私たちが付き合ってることを知らない。フジサワくんは現地で、またマルちゃんとふざけてしゃべっていた。私はそれが気になって、集まりが純粋に楽しめなくなった。もう同期の友達と会う時は、フジサワくんがいない時じゃないと行きたくないと思った。でも、そんなことはもう無いだろう。フジサワくんは確実にメンバーになっていた。私は邪魔かと思ったけど、カッちゃんとミーコの車に移動させてもらった。ヤッサンも便乗してくる。唯一、付き合ってることを知ってるミーコが、何となく気を使ってるのがわかった。何でマルちゃんとばっか話してるんだろね…って、ちょっと同情されてる気がした。それがまた私を悲しい気持ちにさせる。今回もちっとも側に寄ってこなかった。まあいいや、って思い、私もヤッサンとしゃべった。ヤッサンは本当にいいヤツだと思った。どうして自然にいっしょにいる相手が、フジサワくんじゃなくて、ヤッサンなんだろう?でも、帰りになると、フジサワくんは私を車に呼んで、いっしょに帰ることになった。ヤッサンを先に下ろして、何か理由をつけて私を最後にした。フジサワくんの家に入るとすぐに、フジサワくんが抱き締めてきた。そしてキスしてくる。頭を撫でながら、「ごめんな。今日。怒ってる?」って聞いてきた。車の中で、私があまり返事をしなかったからだと思う。ようやくわかったのかな?でも、私も態度悪。自分で自分が嫌になる。何でもっと素直に自分から側に行ったりできないんだろ。ホントは怒ってたって言うか、悲しい気持ちでいたんだけど、抱き締められちゃうと、小さなヤキモチだったことに気付く。それでつい、「ううん…。大丈夫。」って答えてしまう。ちょっと淋しかったけど。そうつぶやいた。ホントはもっと何か言いたいことがあったはずなのに。マルちゃんとばかり話さないで。とか、もっと私のこと見て。とか。でも、何か言ったら、この優しい言葉が壊れちゃうかと思うと、何だか言えなかった。束縛すんなよ。そーいうの嫌なんだよ。ホントは彼女いるんだ…。以前あったことが頭をよぎる。「ユナ…、好きだよ。」優しい声で、そう言われちゃうととても弱い。私も大好き。「今日、泊まっていける?」そう言われて、つい親に電話で嘘をついた。親に怒られるのなんかちっとも怖くない。怖いのはフジサワくんが私に興味が無くなっちゃうこと。泊まったりしたら、翌日別れるのがすごくつらくなる。わかってるけど、もっといっしょにいたかった。「ユナが帰るとすごく淋しいんだ…オレ。」髪を撫でながらフジサワくんが言う。「こうなっちゃうのイヤだったから、家に呼ぶのイヤだったんだよな。」そんなふうに思ってたんだ?意外なことを突然言うので、ちょっと驚く。「誰か他に女の子いるのかと思ってた。」私がそう言うと、ひっでーな。って笑った。「オレ、すごい我慢してたんだけど。すぐ寝たこと嫌がってたでしょ?ユナは。アルコールでも飲んだら、家に連れ込んじゃいそうで、飲んだりもできなかったし。まあ、金もそんなになかったけどね。」何だかナゾが解けたみたいで、私はホッとする。私もずっと帰りたくない…。フジサワくんに抱きつく。「今度さ、サークルの友達にも言ってあるから、集まりに来ない?テニスとか、あんまできないって言ってたから、興味無いかもしれないけど。」嘘!嬉しい!付き合ってから半年ほど経っていたけど、そんなこと言い出すなんて、思ってもみなかった。「うん。大丈夫だよ。あんまりできないけど、行きたい!」ただいっしょにいたいだけで、そう言ったけど、もっと考えれば良かったかな…って思ったのは、行った後だった。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月12日
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今日の日記2(「コールセンターの恋人」感想と「子供と携帯電話」講習に行ってきました☆)今日の日記1(迷う)<ユナ6>それから何となく、どちらからか電話するようになった。電話が来ない日があったら私からかけたし、私がかけなかった日の次の日はフジサワくんから。次のデートの時はフジサワくんが肩を何となく抱くことがあった。ちょっと嬉しかった。映画を見て、夕飯を食べて、送ってもらった。その次のデートでは手を握ってきた。何だか順序踏んでる?でも指と指の間に指を入れる握り方が、実はあんまり好きじゃない。でもまあいいか~って思った。何も無いより嬉しいし。帰り道で、ようやくキスしてくれた。お互いギュッて抱き締めあって、終電ギリギリ頃に帰った。聞いたら、土日のどちらかの休みは、隔週で大学のサークル仲間とテニスしてるらしい。運動不足になるから…って。あとは洗濯とか掃除とかって。一人暮らしは大変なんだ…って思った。でも、家に呼ばれないんだけど。何となく、どうして呼んでくれないの?って聞けない。まだそこまでの付き合いじゃない気がして。次のデートは待ちに待った給料日後だったから、ちょっと車でドライブに行こうかってことになった。助手席に乗ってるのって好き。フジサワくんは車の運転が上手いような気がした。ハンドル片手でクルクルって。バックする時に助手席に手をつけるのも、何だかドキドキした。友達もそんなこと言ってた。ありきたりだけど、そんな仕草、私も好き。そのデートでフジサワくんに抱かれることになった。お互い酔ってなかったのは、何だか恥ずかしかった。こんなふうに段階を踏まれることになるなんて思わなかった。髪を撫でられると猫になった気分になる。「オマエ、ほんとにカワイーね。」フジサワくんがつぶやく。恥ずかしくて、胸に顔をうずめる。そうすると、また髪を撫でてきて、何度もキスされる。もう溶けちゃいそうな気がする。ずっとこのままいっしょにいたい。このあったかい体にずっとくっついてたい。でも、そこはホテルだったから、時間が来たら出ることになった。車の中で、「今度、オレの家に来る?」って言われた。うん。ってうなずいた。そらからフジサワくんの家に行く回数が増えた。時々、二人でいるところを会社の人にみつかりそうになると、フジサワくんは、それを何となく嫌がった。「見られると冷やかされるから~」それは私もそうなんだけど…。花火を見に行った帰り、駅でたまたま同じ会社の人がいたらしい。コソコソ隠れようとする。コレじゃ、また付き合ってないみたい。浴衣褒めてくれたのに、ガックリ。「明日も会える?」私が帰り際に淋しくなって言うと、「ごめん、明日はサークルの友達とのテニスがあるから…。」って言われた。「あ、そっか~。うん、じゃあいいや。またね。」私は笑顔で言ったけど、何だか悲しかった。その日は電話するね、って言わなかった。別れたいワケじゃないけど、私ばっかり好きみたい。私の様子に気がついたのか、それとも気付かなかったのか、翌日の夜は、いつものように電話が来た。暑かったからすぐ飲み会になっちゃった~って。ニブいのかな?それとも、私がこんな気持ちでいるってわからないのかな。「来週はオレの家でゆっくりしない?…泊まりってムリ?」それでも次の約束ができると嬉しくなってしまう。自分と会いたがってるんだってことにホッとする。「ううん。行くね。コロコロしたいな。」ありがとう、ってフジサワくんが嬉しそうに言った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月11日
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今日の日記(「ダンディ・ダディ?」「任侠ヘルパー」感想☆と夏休み前の忙しさ!)<ユナ5>次の日、電話は来なかった。日曜日って何してたっけなぁ~。何だか妙に落ち着かない。だからかもしれない。珍しく母親が料理作るの手伝ったりしてしまった。「明日って雷雨?」母親にイヤミを言われた。寝る前には何となく部屋に子機を持ってきてしまう。電話は、やっぱり鳴らない。飲み会の時、どうして彼女と別れることになったんだっけ?飲んでいたせいか、うろ覚え。もっとちゃんと聞いておけば良かった。友達と遊ぶのに夢中になって連絡してなかったからだっけ?あんまり毎日連絡取るのはめんどうとか言ってなかった?連絡しないと文句言われるんだよな~って。女って、そんなもんなの?とかって。比べてもしょうがないのはわかってるんだけど。電話鳴らなかった。起きて、ガックリして会社の支度。昼休み、いつものように、事務の女子でランチしていると、高卒女がため息を大きくついた。「どしたの~?」先輩が尋ねる。「ん~、なんて言うか~。この前のGWにちょっと同窓会っぽいことがあったんですよ~。で、その時に、ちょっと好きだった人と二人で会う約束できたんですよね。」おおっ!何てタイムリーな話題。私はおかずを頬張りながら、耳がダンボになる。「そしたら、どう思います?蛍光の黄色い靴下はいてたんですよ?ちょっと、それ見ただけでガックリしちゃって。早く帰りたくなっちゃったんですよ~。絶対彼氏には履いてて欲しくないんです!私、どーしても蛍光黄色って許せないんですよね!」「え?そ、それくらいでダメなの…?」おとなしめの先輩がちょっと顔をひきつらせて言った。「どこで靴脱いだのよ~?」とかってツっこみが入る。「居酒屋が座敷だったんですよ~。」高卒女が笑いながら答える。「うん、でもそういうのあるかも。私も蛍光黄色やだな。でも、もっとヤなのは、スパゲティをすする人~」私もついしみじみと言ってしまった。「あ、私もそれダメ!」もう一人の先輩が言った。「えー?私自分がすすっちゃうから大丈夫だけどなぁ。」高卒女が言う。「そのうち、カワイく見えてきたりするんじゃない?」一番年上の先輩が言った。「え?そんなものなんですか?」「結構…ね。我慢できない場合もあるんだろうけど、お互い片目つぶってあげないとね。両目で相手見たらいけないって母親が言ってたわ。でも、私も、靴下がピンクの男って許せないんだけど!」「同じじゃないですか!」「ピンクならいいんじゃな~い?」「捨てちゃえばいいのよ!」「変!って言っちゃえば!」みんなでツっこんで笑った。「男が下着で靴下だけってマヌケだよね~。」「あ、確かに~!」「私もそう思ってた~。」「やめて!笑って食べられない!」「ビキニタイプの水着の男ってヤダ!」「わかるぅ~!自信満々って感じじゃない~?」「え~私好き。」おとなしそうな先輩がそう言ったのでビックリした。それでゲラゲラ笑った。「女の子たちは楽しそうだね~。」おじいちゃんみたいな上司が目を細めて、微笑ましそうに通り過ぎて行った。何言ってるかも知らないで…。オカシー!先輩が何でもないですよって顔で、上品に微笑んでいた。高卒ちゃんが噴出しそうな顔をこらえている。みんないろんな女の顔持ってそう…。もしかしたら、やっぱり、好きな人の前では、今とは違う女の子の顔を見せるんだろうな…家に帰ってからお風呂に入って、寝る支度をして、テレビをぼんやり見ていた。10時をまわった。多分、今日も電話は来ないんだろうな…。そう思ったら、何となく淋しくなってきて、部屋に戻って、フジサワくんの電話番号を押していた。ウザったいと思われたら、どうしよう…。でも、出なくて、代わりに留守電メッセージが聞こえる。あ、まだ帰ってないんだ?どうしよう…「…メッセージをどうぞ」ピーっ。「あ、あの…。ユナです。ヤマグチ…。えっと…」どうしよう!早くなんか言わないと!「声聞きたくなっちゃって…、電話しました。じゃあ、オヤスミなさい。」電話を切る。うわ~!心臓が鳴ってる!変なこと言っちゃったかな?大丈夫?緊張した~!こんな気持ちでかけてくれたのかな…先週。そんなこと思ってベッドに寝転がる。いつの間にか寝てたらしい。耳元で電話音がして、慌てて電話を取る。「もしもし!」「あ、夜分遅くすみません。フジサワと申しますが…。」家の電話だからか、フジサワくんは丁寧だった。一瞬誰かと思った。「あ、私です。」「ごめん、こんな遅くに。起きてた?」時計を見る。11時半。「う、うん。」電話が来たことでホッとしてしまった。「嘘だぁ~。何か声違うじゃん。ゴメンな。何か、メッセージ入ってたから、つい電話しちゃったよ。子機だってこないだ言ってたから。でも、家の人出たらどうしようかって焦った~。」すっごい饒舌じゃない?もしかして飲んでる?「この時間は私か弟しか出ないから大丈夫だよ。弟は寝ちゃうと絶対取らないし。」「そうなんだ?じゃあ良かった。だって、声聞きたいとかってカワイイこと言うんだもん。」顔が真っ赤になるのがわかった。眠気が吹っ飛ぶ!恥ずかしい!「ゴメンね。別に用は無かったんだけど…」「ううん、嬉しいよ…。」うわっ!どうしてそういう優しい声を出すの?この声が好き。ドキドキしてしまう。「フジサワくん、酔ってる?」「うん、ちょっとね。周りが行くと行っちゃうんだけど、オレ酒あんまり強くなくてさ。あ、知ってると思うけど。」「明日早いんじゃないの?何時に出るの?」「うん、でもまあ7時位かな?ユナは?」嘘!呼び捨てにした!絶対酔ってる~!「私は7時半頃だけど。じゃあ、早く寝なきゃいけないよね。ごめんね、ホントに、電話させちゃって。また電話するね。」私はすぐに電話を切ろうと思った。もう声聞けたし、酔っててもかけてきたし、満足。「あ、ねえ。」フジサワくんの慌てた声が聞こえた。「ん?何?」「あのさ…ユナはオレのこと好き?」えーっ!いきなり何てこと聞くの?ヤバい!心臓の音マックス!顔が熱い~!!!「うん。」「ホントに?」「うん、ホント。」ちょっと迷ったけど付け加えた。「好き。」「…オマエほんとにカワイイな。」ヤダヤダヤダ!すっごくすっごく恥ずかしい!どうしてフジサワくんて、酔うとこんなに口説き上手なの~?照れてるのがバレるのが嫌で、聞いてみる。「フジサワくんは?」「オレ?…ないしょ!」「ズル~い!ちゃんと言ってよ~!私も言ったじゃない?」酔ってるよ!ホントにムカつく~!でも、ホント好き。どうしよう。「…好きだよ。じゃあオヤスミ。」照れてるのか、フジサワくんが早口で言う。でも嬉しい。「うん。オヤスミ…。」向こうが切る音がしてから電話を切った。あ~ん、やっぱりまた会いたい~!ここにきて、抱き締めて欲しい~!って、手も繋いでくれないんだけど。でも、スパゲティすする音させても、もしかしたら蛍光黄色の靴下でも、許しちゃう!…って思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月10日
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今日の日記(「赤鼻のセンセイ(新ドラマ)」「となりの芝生」の感想☆)<ユナ4>電話が翌日かかってきて、あの後すぐにかけなくてごめんな、ってまた謝られた。そしたら、こっちこそごめんね、ってすぐに言葉を出すことができた。ほじくり返されるのは嫌だったはずなのに、フジサワくんが、あの後親大丈夫だったの?なんて聞いてくるの、嫌じゃなかった。親が「帰ってたんだ?夜に帰るのかと思った。夕飯あんたの分もいるのね。」なんて、拍子抜けな対応を伝えるのも、そんなに悪くなかった。フジサワくんがホッとしたように笑ったから。ひどいよね、娘なのに。ってちょっとグチったら、信用されてるの?それとも遊びまわってんの?と聞かれた。遊びまわってたら、親に怒られることなんか心配しません~フジサワくんもひどいね、って返したら、そりゃそうだよな。って、また笑った。ホントはちょっとでもそんな子に見られたのが悲しかったんですけど。彼の笑ってる声を聞いたら、私もつられて笑ってしまう。電話がなかなか切れない。「来週、会える?」フジサワくんに言われて、うん…って頷く。好かれるために作りモノって思われてない?でも、本当に女の子になっちゃってるんだよ。私気持ち悪くないかな?誰かにこの気持ちをしゃべりたくなったけど、自分の中に押し込んだ。すっごい幸せな気分。だって好きになった人に会えるんだもん!もん!だって、気持ち悪い~!本当に私?荒んだ気持ちが和らいでしまう。ほっぺたをペシペシ叩く。さあ、仕事仕事!そんな態度は会社でも出るのかもしれない。あんまり高卒女もムカつかなくなった。そのうち、周りにも当然のように私が電話に出るから、「あの子は仕事をちゃんとしていいね~。」って、言われるようになってたんだって。まあ、それは後日談だよ。いいね~、ラブパワーばんざい!水曜。あと三日。好きって気持ちがパワーをくれて、人に親切。自分に親切。洋服屋さんにも、コスメのお店にも、ついつい親切~!そしてお金がどんどん減っていった。いいや、お給料がもうすぐ出るし!木曜。あと二日。だからオヤジのムカつきコメントも笑って流せる。私はホステスじゃないですよ~!(笑)ってなもんか?金曜。あと一日!夜は緊張しまくっていた。そのせいか当日、目覚ましより早く起きてしまった。でも、焦るとブローがうまくいかない。服も、思ったより暑いから変えなきゃ変かも。でも変えたら、見事に全部変えなきゃいけなくなった。最初から遅刻なんてできない!オシャレは我慢よ!ファッションチェックのタレントが言ってた。食べるものもとりあえず、とにかく家を出た。あ~、お給料早く出ないかな!出かけるお金もほとんど無いし、洋服も欲しい~!待ち合わせの駅に着いたら、まだフジサワくんは来てなかった。時間2分過ぎ。あ、良かった…。と、思ったら、柱の反対側にいた!「ご、ごめんね~!待った?」「そうでもないよ。電車、思ったより早く着いちゃってさ。」ヘッドホンをはずしながらフジサワくんが言う。あ、何かコレって私の評価ダウン?ちょっと心配になる。どこ行こっか~?って、結局、水族館に行くことにした。プラネタリウムも映画も、時間が決まってて、それまでどこで潰すかってこともあって。「オレ、プラネタリウムなんて寝ちゃう。」フジサワくんがそう言って笑った。今度ね。って。今度…。何ていい響き。あ、浮かれてるなぁ~私。でもちょっと気になることがあった。フジサワくんて、手も繋いで来ないし、肩も組んで来ないんだ。何だか男友達?って感じ。あ、何だかこう思うのって、私がスケベなのかしら?かと言って、私からいきなり腕を組むのも何だしなぁ…。ただでさえ、遊んでるんじゃないか?って疑われてるみたいなんだもん。そばにいて、何のスキンシップもしない距離。これが今の私たちの距離なんだと思った。どうしたら縮められるのかな…。よくわかんない。私が付き合ってると勘違いした男は、ベタベタ私に肩組んできてたし。私はそうされるのが好きだったし、好きだからそうしてくるんだと思ってたし。でも、触れてこないのが大事に思ってるのか?って言うと、それはよくわかんない。もしそうだとしても、それは、何となく淋しいんだもん。ワガママかなぁ…。魚を眺めていたら、何となくイジワルしたくなってきた。ワザと側に寄ってみたら、フジサワくんはしばらくすると、自然にスッと隣の水槽に移った。「アレすげーキレイじゃない?」バカバカしくなったので、もう側に寄るのはやめた。清く正しい交際なんだ?私って、やっぱりすっごいスケベみたいじゃん。魚を見るのに集中した。海亀が水の中を飛んでいる。優雅に…。何で水の中の生物を見ていると、ぼんやりしちゃうんだろう。「水の中をこうして眺めてると、何だか魚が空飛んでるみたいに見えてこない?ほら、海亀とか。」私がそう言ったら、「ホントだ。何かそう見えてきた。」フジサワくんが新発見みたいに反応してくれた。「ヤマグチさんって面白いこと言うね。」「え?そう?思ったこと言ってるだけなんだけど~。」あ、変なヤツって思われたのかな。でも、フジサワくんが嬉しそうにしてるから、ま、いいか~って思った。つられて私も笑顔になる。水族館は涼しかったのに、出てからのショッピングモールは何だか暑かった。汗が出てくるけど、コレを脱いだらノースリーブだし、誘ってるみたいかも…。そう思うと、脱ぐに脱げなくなってしまった。たいした格好じゃないんだけど。たかが腕を出すくらいなんだけど。暑い…。オシャレは我慢!でも、ハンカチで汗をふいたら、ファンデーションの色がついた。ホントは化粧なんか嫌い。ベタベタして。スッピンでいたいのに、周りがしてるからするようになった。何だか女って我慢ばっかり。足もちょっと痛い。「すごい汗かいてない?」「うん…。」「暑いならソレ脱げば?」「ううん、いいの。日が落ちると寒くなるから。ほら、こんなだし。」私が上着の中をチラッと見せたら、フジサワくんは笑って「あ、そうなんだ。」と言った。私は自分の魅力の無さにガックリきた。それとも、一度でも寝てしまったからたいしたことないのか。お世辞でもいいから、表情がちょっと変われば嬉しかったのにな。同時にこんな真似をする自分が悲しくなってきた。お酒でも飲まないと、私は口説かれない女なのかもしれない。今日は飲んだらまた期待しそうで、フジサワくんが自分を口説いてくれるんじゃないかと期待しそうで、夕食はどうするのかな…って、またドキドキしてきた。でも、また酔ってなんて、嫌だな~って思ってたら、フジサワくんは、普通にデパートの上のレストラン街で食べる提案をしてきた。そういえば、バーベキューでも運転手だからか飲んでなかったな。夕食時にも飲まなかった。フジサワくんはソバのようにスパゲティをすすった。う~ん、その食べ方はあまり好きじゃない。やめるなら今のうちかも…と思った。だって、何だか私ばっかり一喜一憂してない?この人、私のこと好きなのかしら?そう言えば、好きって言われたワケじゃない。そう思うと、すする音が余計大きく聞こえた。フジサワくんはまだ電車がたくさんあるうちに、私を家の近くの駅まで送ってくれた。楽しかったのかな?あんまりしゃべってくれないし。この前の家の近くの通りまできたので、「ここで大丈夫だよ。ありがとう。」って言った。「うん。また電話するね。」フジサワくんがそう言って笑顔を見せた。ホントかなぁ~?私はちょっと信用ならない気分になった。「私もするね。」一応言ってみて、笑顔で手を振る。何か疲れた。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月09日
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今日の日記(恋して悪魔~ヴァンパイア☆ボーイ~感想♪と七夕の月)<ユナ3>結局食べた後、男女がしゃべってる中、あぶれたような私とヤッサンは、いっしょにお酒を飲んで酔っ払っていた。ヤッサンの目は終始ミーコを追っていた。ミーコはカッちゃんと楽しそうに話していた。可哀想に、ヤッサン…。あ、でも向こうもそう思ってたりして。「恋してる~?ヤマちゃん?」哀れみなのかヤッサンが私に声をかける。「いや~。飲んでりゃ楽しいッスよ!ヤッサンは…」恋してる?とか聞いて、協力を求められたらヤバいじゃん!と、思って、慌てて話題を切り替える。「仕事は順調?」サラリーマンかよ?ああ…、もう帰りたい…。それから職場の現状の話になったけど、女が女の悪口を言うと、男は大抵嫌な顔をするので、適当に営業所がどんな感じかってことだけを話した。ああ、もう、叫んでしまいたい!私は今、最悪なんだよっ!変な女が同じ営業所だし、同期の男には遊ばれるし、サイッテー!!!その男はアイツだっ!フジサワくんを目でにらむ。マルちゃんと楽しそう。指指して叫んだらさぞかし楽しいだろう。でも、我慢した。それで我慢する代わりに酒をガブガブ飲んでやった。ヤッサンが楽しそうにしている。女のくせに、すげーなぁ…とかって。あはははは!と、私は気分と裏腹に大笑いをした。そしたら何だか楽しくなってきた。…が、その楽しさは続かなかった。帰り頃になって気持ち悪くなってきた。うう…。もうどうしてこんなことに…。私がシートに横になって眠っていると、そろそろ帰るよ~と声が聞こえた。ミーコがカッちゃんの車で帰っていいか聞いてきたので、大丈夫だと答えた。私は帰りは車で眠らせてもらうだろうから…と。後で報告するね~!とミーコはご機嫌だった。そんなミーコの笑顔に癒される。カワイイ。私もあんな素直な女の子になりたかったな。そんな訳で帰りは私とヤッサンとフジサワくんとで帰ることになった。ヤッサンは後ろの席で爆睡していた。本当は私も眠るつもりでいたのに、目が冴えてしまっていた。それに、私まで寝ちゃったら、フジサワくんが可哀想な気がした。酒臭い車内。ヤッサンの寝息とフジサワくんが好きそうな曲だけが聴こえてくる。沈黙が重い。「大丈夫…?」耐えられず、私はつい声をかけてしまった。「うん。大丈夫だよ。」フジサワくんの声が優しい。ドキリとする。「寝てていいよ。オレ平気だから。」私は何だか平気な顔をしているフジサワくんに、どうしていいのかわからない。「マルちゃんにこっちに乗ってもらえば良かったよね。」あ、ヤバ…。ちょっとイヤミ入ってたかも。ヤキモチ焼いてると思われたかも。「う~ん、方向が全く違うからな。」フジサワくんは何とも思わなかったらしい。え?でもそれって方向がいっしょなら送ってったってこと?「残念だったね。」私はそう言って眠ることにした。ヤバイ!でもこれじゃフテ寝みたいじゃん。誤解招くって。私は何とも思ってないんだからね。私は何とも思ってない。「家ってあの駅なの?」なのにフジサワくんが話しかけてくる。気を遣ってるのか?眠気防止か?私もフジサワくんが眠って事故にでもなったら困るから…そう心に言い訳をして返事を返す。「ううん、違うよ。ミーコがいっしょだったから。」私は自分の家の近くの駅を言った。ああ、あの辺なんだ…とフジサワくんがつぶやいた。「あの子はカッちゃんが好きなの?」「え?何でそんなこと聞くの?」ヤッサンが聞いてたらどうするのよ!私はそう思った。が、ヤッサンはイビキをグーグーかいている。でも、タヌキかもしれない。「そうなのかな~と思って。」「さあ、わかんない。聞いておくね。」「いや別にオレが好きなワケじゃないんだけどさ。」フジサワくんが慌てたように言う。「ふ~ん。」私はどーでもいいので、相槌も投げやりになってしまう。実はミーコが好きだったりするワケ?まあ、誰が好きでも構いませんけど。フジサワくんが指でヤッサンを指す。「うん。それは知ってるけど…。」と私は答えた。「バレバレだよね。かわいい奴!」と、フジサワくんが嬉しそうな顔をして言った。変な意味じゃなくて、男には人気あるんだ~とか何とか。その無邪気な顔がまた憎らしくなった。この男のことで一喜一憂している自分にムカつく。流れる風景を見ながら、フジサワくんチョイスの曲を聴いていた。ヤマグチさんて何聴くの?とか、他愛無い話をされて、気付くと私の駅の近くまで来ていた。「家どの辺?」「え?!」何だか申し訳ない気分になりながら、家の近くの通りで止めてもらう。「ありがとう。」そう言って車を降りると、フジサワくんが運転席から降りてきた。「どしたの?」「あのさ…」フジサワくんはヤッサンが眠っているか確認するように車を見る。「電話、どしてくんないの?」はあっ?!っと私は思った。「いや、ホントはオレからしようと思ったんだけど、でも、何かバツが悪いって言うか、出てくれなかったらどうしよう、とかって。何て言ったらいいか…。」なんだ。それは、私だって同じなんだけど…「その…、酔ってたからってあんなこといきなりしちゃったし…オレが強引だったっていうか…抵抗できない状態だったじゃん?」でも、酔って受け入れちゃった私もバカだったって言うか…思い出したら顔が熱くなったのがわかった。お願いだから、もう思い出させないでよ!突然のことだったので、何て言っていいのか…。顔赤いだろうか?何だか恥ずかしい。もう忘れちゃいたいのに…。「ヤマグチさん、側に寄ってこなかったし、怒ってるんでしょ?」どういうつもりでこんなこと言ってるんだろう?だってマルちゃんがずっと隣にいたじゃない?何だか泣きたくなってきた。「そんなこと無いけど…。」ようやくそれだけ口から出せた。「じゃあ、何で…?」遊ばれたと思ったんで…。そう口にしていいのか迷った。「オレのこと嫌い?」そんなこと今更言うかなぁ~!酔いは覚めたはずなのに、心臓がバクバク言い出した。首を横に振る。「明日電話していい?」うん。と頷くのがやっとだった。何だか顔が見れない。私、何だか女の子みたいじゃない?って思った。いや、性別は女なんだけど、「女の子」ってやつになったって言うか…。ようやく顔を上げてフジサワくんの顔を見たら、すごく嬉しそうな顔をしてるのが見えた。胸がキュンって言ったような気がした。ホントに好きになっちゃったんだ…って思った。車に乗るフジサワくんに軽く手を振る。フジサワくんはクラクションを一回鳴らして去って行った。ウソぉ~!って、私は思った。続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月08日
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今日の日記(映画「デトロイト・メタル・シティ」感想と七夕☆)<ユナ2>配属された営業所で、私はまず電話を受ける仕事をさせられるようになった。始めての電話を取るのは本当に緊張した。同期の高卒の女の子が「やだぁ~!取れないです!ヤマグチさん取って下さいよ!」と言って、何日経っても全く電話を取ろうとしない。キレそうになる。何で二つ違うだけでこんな甘えが通用するんだろう?男性社員が、「イジワルしないで、とってあげなよヤマグチさん。」だって。「はい、第一営業所第一課でございます。」慣れないながらもマニュアル通りに私が電話を取ると、「ウエハラでございますが、イトウ課長お願いしまぁ~す!」と、明らかに私のマネをしてからかう男性先輩社員の声がした。私は何だか恥ずかしくなった。「ございます」って言う必要なんて無いの?と思った。一事が万事その調子で、研修の時に習ったマニュアルなんて、全く役に立たないことがわかった。日本茶の出し方も習ったけど、絵柄が前で~とかってやつ。結局、自販機のホットコーヒー買ってきて出してよ。って課長に言われたし…。スーツ着て会社に行ってたら、「今日は何かあるの?デートぉ?」って、他部署のパートの女性に言われた。会社ってこんなもんなのかな~?お嫁さんにしたいナンバーワンみたいな女の先輩が、「ヤマグチさん、電話の取り方上手になってきたね~。」って褒めてくれたけど、その分、高卒の子の分まで取らなきゃいけなくなってムカついてた。しかも、その高卒女は、先輩を自分の味方にしたいらしくて、あからさまに私を無視してその先輩に媚を売るような態度を取っていた。私は呆れてたし、疲れていた。ここは小学校か?私たち何歳になったんだっけ?バカらしくてやってられない。作り笑いばかりが身についていく気がした。そんなある日、私の営業所に同期の男子が来ていた。自販機の前に一人でいたので声をかける。「やっぱりカッちゃんじゃん!元気にしてた?どう?そっちは?」青年と言うより、まだ少年っていうか、美少年って感じのカッちゃんが、あ!ヤマちゃん!って言って喜んだ感じで笑う。専門卒のカッちゃんは同じ歳の気安さがあった。「あ~、何か慣れなくてさ、もうクタクタだよ。そうだ!今度さ、同期で集まってバーベキューしない?ほら、研修でいっしょだったグループでさ。」「いいね~。じゃあ、決まったら連絡もらえる?」私は研修の頃の賑やかな空気を思い出して嬉しかった。またあのメンツに会えるかと思うと嬉しかった。あのグループには高卒女もいないし、フジサワくんもいない。結局フジサワくんから電話の連絡は来なかった。私も連絡をしなかった。だって、そんなことだろうと思ったから。忘れちゃおう。あんなの悪い夢か何かだったんだ、きっと。私は嬉しそうな顔でもしてたのだろうか、すぐに部署の男性社員から「男に声かけるの早いね~!」と見ていたらしく冷やかされた。「同期ですよ~。同じグループだったんで。」私はニコやかに答える。いちいち腹を立てていたら、ここではやってられない。あの世代は男と女が友達として接するってことは無いんだろうか?男と女が話してたら、すぐデキてるとでも思うんだろうか?営業所では、仕事以外で男性が女性と関わることはほぼ無い。いっしょに昼食を取るなんて、まず有り得ない光景。だからこんなこと言われるのだ。短大の時にいたサークルや、バイト先より不自由かも。同期の男子はまだ営業研修とかってやつで営業所に入ってきていなかった。まあ多分入ってきたところで私とは関係無いんだろうけど。「へぇ~。」男性社員がニヤニヤしていた。あ~。これがずっと続くのかな?うんざりだ、こんな会社。私はパソコンのやり方を覚えるためにスイッチを入れた。同期で仲良しのミーコから電話でバーベキューの連絡が来た。私はその日を楽しみに、戦力にもならない仕事の勉強をしながら会社に行き続けた。「わ~ん!久しぶりぃ~!」久々に会ったミーコが甘ったるい声でハイタッチしてくる。私もテンションが上がる。配属された部署の報告をしながら、車が来るのを指定された駅で二人で待っていると、ロータリーに白い車が止まった。同じグループだったヤッサンが窓から顔を出す。「よう~!久しぶり!ほら、後ろ、乗って!乗って!」「きゃ~!ヤッサン!ますますボーリョク団みたいじゃん、そのサングラス~!」ミーコが楽しそうに言って車に乗る。私も後に続く。車の運転席を見てギョッとした。フジサワじゃん!何で…。私は絶句する。「あ、オレとフジサワ、同じとこで営業研修してんだよ。誘ったら来るって言うから運転手!」無邪気にヤッサンがこっちを振り向きながら言う。もう、最悪だ…。帰りたい…。そう思うのに、ドキドキしていた。自然に振舞え!と自分に言い聞かせる。でも、何をしゃべっていいのか…。頭の中が真っ白になっていた。「ゴメンね~、ボロい車で。中古なんだよ。」フジサワくんが言った。「ううん、広くていいんじゃない?でも…確かにシブいかなぁ~。」みんなが笑う。ミーコがしゃべってくれてる。ああ、良かった。ヤッサンはミーコ狙いなのかもしれない…。二人がずっと楽しそうにしゃべっているので、私はそれに相槌を打ったり、笑ったりしていた。フジサワくんは運転に集中していた。いいや。もう。何もなかった。何もなかった。そう思えば思うほど、あの時の光景が頭をよぎる。ツライ。ツラ過ぎる!車から降りるとすっかりテンションが下がった私は即トイレに逃げた。「どしたの、ヤマグっちゃん?」ミーコが心配して聞いてくる。「うん、ちょっと車に酔っちゃったのかも。ごめんね~。」「そっか。大丈夫~?」「うん。大丈夫だよ~。」ミーコは別の車で来ていたカッちゃんが気になっていた。カッちゃんとお近づきになりたいようなので、私は協力することになっていた。「ねぇ、ヤマグっちゃんは好みのタイプいないのぉ~?」野菜を洗いながらミーコが聞いてくる。私は苦笑いをして、残念ながらいないなぁと答える。優しそうな人が好きなの~。ちょっとトボけてそうな~。ああ、確かにココにはいないかねぇ~。そんなつまんない話をする。芸能人で言うと誰とか。それが意外な人物だったりして面白い。「マルちゃんもカッちゃんのこと気に入ってると思う?」ミーコはそんなことを私に聞いてくる。カッちゃんは、マルちゃんと楽しそうに話していた。マルちゃんは小柄で華奢な子だ。ハキハキしていて頭が良さそう~。そしてその隣にはフジサワくんもいた。マルちゃんとフジサワくんは、何だか肩を叩きあっていて、ふざけていて、楽しそうだった。カッちゃんがこっちに歩いてくる。「何か手伝おうか~?」「あ、じゃあさ、私コレ切っちゃうから、ミーコといっしょに持ってって、焼いてくれる~?」ミーコがカッちゃんの後ろからこっちを見ていて、ちょっと照れたような顔になった。顔がサンキュって言っている。なんの、なんの!と、私は表情で合図する。ザクザクと野菜を切る。マルちゃんとフジサワくんの笑い声が聞こえた。ちっともこっちになんて来ない。やっぱ、アレって酔った上でってことだったんだ。男ってそうなんだきっと。目の前にヤレそうな女の子がいたから、テキトーに口説いて、ヤッたらおしまい。ふん。いいわよ。私だって酔ってたもん。私だって悪かったんだから。なかったことにしてやろうじゃない。あ~、来るんじゃなかった。つまんない。野菜を叩き切りそうになった。やったらきっとスッキリする!続きはまた明日前の話を読む目次
2009年07月07日
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今日の日記(息子とポケモンラムネ作り♪と「官僚たちの夏」感想☆)ユナ1あ~あ、この歳になって思うよ。私ってこんな人生を送ることになってたの?フツーの人生ってやつやろうと思ってたのにさ。昔から未来設計ってやつを立ててなかったのがいけないのかしらね?私の話を聞いてみる?短大を卒業して、何とか就職できた。いわゆる一般職ってやつで、正社員のフォローって仕事。私はあまり仕事が人生ってやつをやりたくなかった。お茶汲みしてニコニコしてコピーを取ってれば、お金がもらえるなんてありがたいじゃない?同期の研修期間があって、いろんな人と知り合った。合宿研修の最後に同期で盛り上がってしまって、帰りの飲み会で隣の席に座ったのがフジサワくんだ。大勢での飲みの中、私はフジサワくんと一対一で話をすることになった。フジサワくんは私の好みではなかったけど、ルックスは悪くなかった。他の同期の女の子も、好みのタイプ。って子がチラホラいた。しばらくの間、どこの学校だったか?って話をしてた時、話の流れでふと言った。「フジサワくん、カッコいいのに彼女いないの?ウソだぁ~?」私は酔ってきていたので、馴れ馴れしくなって言った。同期とはいえ、向こうは大学卒業だから2つは上だろう。でもみんな同期ってことでタメ語だった。「え?オレカッコいいの~?褒めすぎじゃない?ヤマグチさん、酔ってるでしょう?」私は笑った。「うん、酔ってるけど、カッコいいと思うよ。マジで!本当にいないの?彼女?」「いや、ほんっとうにいないんだよなぁ~。見る目無いよね。フラれちゃったんだよ~。」私の隣で酔ってきたフジサワくんがつぶやく。「ふ~ん。私は好きな感じよ~。笑顔がステキじゃ~ん!」酔ってるからテキトーなことを言える。じ~っと顔を見た。うん、やっぱりイイと思う。フジサワくんが照れたような顔になって目を逸らす。あ、嫌われちゃったかも。ま、いっか~!飲んでるしぃ~!じょーだん、じょーだん。私は目の前にある青リンゴサワーをグイッと飲んだ。来週はようやく配属になる。ようやく研修が終わって、開放された気分になっていた。そう。ちょっとハメがはずれてたのだ。「あ、フジサワくん、嫌がってるでしょ~?ゴメンね、変なこと言って~!私オヤジみたいだよね~!」私は席をうつろうかな…と思った。どうせフジサワくんは違う営業所だし、来週からは会うことも無い。席を移ろうと腰を浮かしかけたとこに、フジサワくんが言った。「あれ?どっか行くの?」「え、あ~うん…トイレね!」別にそうじゃなかったけど、トイレに行くことにした。嫌じゃなかったのかな?戻ってきたら、自分の席には違う子が座っていた。私は違う席に移った。フジサワくんがこっちをチラッと見たのがわかった。目が合った。フジサワくんが目を逸らす。私も逸らす。お互い、違うグループと話して盛り上がってしまったので、私がフジサワくんの隣に行くことはもう無かった。みんな道でバラけていた。二次会どうする~?ってボヤボヤしていた。私はそんな時に限って本当にトイレに行きたくなり、仲良くなった同期に言って、店に戻ることにした。トイレから出たとこにフジサワくんが立っていたので驚いた。「みんなもう行っちゃったよ~。」あ、フジサワくん酔ってるな~と、ボンヤリ思った。「うん、ドコ行くの~?」「次?カラオケだってさぁ~。ねぇ、オレもトイレ行きたいから、待っててくれる?」うん、いいよぉ~、と私はトイレの前の通路で待っていた。出てきたフジサワくんは気分良く酔ってる感じだった。「ねぇ、ヤマグチさんさぁ…さっき言ってたことホントかなぁ?」「え?あ…うん。」目が据わってるので、コレはマズいんじゃないかな?って思った。でも、自分も酔ってるから、テキトーに話を合わせておこうと思った。フジサワくんは、私を壁に追い詰めて、ジーっと私の顔を見る。「カッコいいって、フジサワくん!すぐ彼女できちゃうよ!大丈夫~?酔ってない?」私は無言でいると妙な雰囲気になりそうなのが怖くて、慌てて笑いながら言った。「本当に、本当に、そう思ってる?オレのこと好きな感じって言ってたじゃん?本当?」「ホント、ホント!」フジサワくんの酔った息がかかる。どうしたらいいんだ?とりあえず笑顔を作る。フジサワくんもニコリと笑うと、「じゃあさ、電話バンゴー教えてよ。交換しよ~よ。」軽い調子で言ってきた。おいおい、同期だよ。ナンパじゃないんだよ?コイツ、そういうことやってたな?でもまあいいか~って感じだった。酔ってたし。ホントにかけてくるの~?怪しいなぁ。私は手帳を出して、自分の電話番号を書いて渡した。フジサワくんが口頭で番号を言うのを書いた。「サンキュ~。じゃあ行こ~!」欲求が満たされたのか?私はフジサワくんの後に従う。が、もう道には誰もいなかった。「店どこか知ってるの?」ほろ酔い気分で私が言った。「あ~、うん。」フジサワくんがキョロキョロと繁華街を見渡す。どうやらわからなくなったらしい。「ねぇ、もしヤマグチさんがいいならさ、いっしょにどっか他の店行かない?」このまま帰るのも何だしさ~とフジサワくんが言う。それもそうかな~と思って、付いて行ってしまった。どうも私は流されやすい。それにもうちょっと、この気分を楽しみたかった。また居酒屋に入る。今度はカウンター。どうせ終電までに帰れば、親は文句を言わない。明日は休みだしね~。フジサワくんがドコの営業所に行くのか、彼女とどうして別れることになったのか、飲みながら聞いていた。残念ながら、私には披露できるような話がほとんど無い。話しても笑えるような話じゃないし。笑ったり相槌を打ったりしているうちに、次第に酔いがまわってきた。「オレってつまらない?」ボウッとしてたらいきなりそう言われた。「ん?別にそんなこと無いよ~。何でそんなこと言うの?」眠いかもしんない。飲み過ぎちゃったかも。マズいと思った時には手遅れっぽかった。ちょっと机がフワリと揺れている。「いや、さっきの店でも席はずしちゃったしさ…」それはアナタが嫌そうにしたからじゃ?と思ったけど、頭がボ~っとしてきたので、とりあえず、戻る席が無かったから~と言っておいた。「ヤマグチさんは…さ、付き合ってる人いないの?」「うん、いないよ~。」気分良く私が答えた。「ふ~ん。どれくらい?」「一年…かな?」フジサワくんがテーブルにあった私の手を握ってくる。「じゃあさ、連絡していい?オレと付き合わない?」え?何だそれ?展開早過ぎじゃない?フジサワくんの目がジッと私の目を見ていた。私は目を逸らす。心臓がドキドキしてきた。お酒のせいなんだろうか?酔ってるよ。コレって絶対酔ってるって。冷静な私がそう言ってるのに、口は笑いながら答えていた。「うん。いいよ~。」「やったあ!」フジサワくんが笑ってビールを飲み干した。ホントかよ?その店ではフジサワくんが会計を出してくれた。いいよ、オレが出すからって。「ありがと~。」と階段の踊り場の壁に寄りかかったまま私が言うと、フジサワくんは真っ赤な顔で私の肩を抱いてきた。そしていきなり強く抱き締めてきた。え?って思ったらキスされていた。お酒とおつまみの味がした。彼女がいたのは本当だろう。慣れてる感じがした。もう一度強く抱き締めてくる。「ヤバ…。ヤマグチさん…かわいい…。」何?何言ってんの?私がカワイイ?何かの間違いでは?でも体から力は抜けていく。力強い腕。その後はよく覚えていない。いや、覚えてるんだけど、半覚えで。抱き締められた体が気持ちイイなぁ~とか。男って大きいんだな~とか。抱き締められたのは久しぶりだな~とか。体がフワフワしていた。「ホテル行かない?」声が聞こえてきたんだけど、どこか遠くで聞こえた声みたいだった。起きたら朝じゃん!それにコレはどう見てもラブホテルだ。しかも私裸だし。頭が痛い。顔面蒼白…。あ~ヤバい。親に何て言おう…。でももうしょうがない。隣にいるフジサワくんは、かわいい顔して寝ていた。子供みたいだな…とぼんやり思った。私がシャワーを浴びて出てくると、フジサワくんは起きていて、テレビを見ていた。「おはよぉ」バツが悪そうな顔で言う。「おはよ。」なぜか彼はコーヒーを入れてくれていた。ありがとう…。ともらう。あったかくて美味しい。ぼんやり私もテレビを見て、駅まで何もありませんでした。って顔していっしょに歩く。「親大丈夫?」と、言われた。「わかんない…。多分怒られると思う…けど。フジサワくんは?」「オレ一人暮らしだから。…ゴメンな。」このゴメンが何を意味してるのかわからない。でも私の頭の中は親への言い訳でいっぱいだった。一体何て言ったらいいのだろうか?最後に電話して母親に言ったのは、もう会えなくなる同期の子たちもいるから、飲み会。ごめんねー。だったと思う。ため息。そんな感じで、私とフジサワくんはお互いの家への分岐点で別れた。フジサワくんは手さえ繋いでくれなかった。そんなものだろう。帰ると幸い誰も家にいなかった。もう昼だった。部屋のベッドに寝転ぶと、ホッとしたせいか頭が違うことを考える。あ~あ。失敗しちゃったな。何で寝ちゃったりしたんだろう…。他の同期に言われちゃうのかな。あの女はカルイよ…って。よりによって、同じ会社だなんて。また同期会があったら、どんな顔をすればいいんだろう?しかも、ちゃんとしゃべった当日に…だよ?私は期待してなかった。酔った上での勢いってやつは、学生時代に経験していた。その男は、彼女がいないと言っていたくせに、ホントは彼女がいるって言い出した。「あの時はちょっと上手くいってなくてさ…。ごめんな。」そう言っていた。私はそういう関係になったんだから、付き合うもんだと思っていた。付き合ってるもんだと思っていた。私は彼が好きだった。あれ以来、男の言葉には信用を置いていない。だって、寝たのは一度じゃなかったんだから。それなのに付き合ってたワケじゃないって言うんだから。勘違いして何が悪いの?勘違いなの?苦い思い出が蘇る。人の価値観なんてそれぞれだ。続きはまた明日目次
2009年07月06日
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