仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2015.02.01
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カテゴリ: 東北
由利地方から庄内にかけてみられる風俗に、ハンコタンナと呼ばれるかぶりものがある。

野外で働く女性が顔を覆う布で、目だけを露出した姿。藩政時代から続くという。現在もなお使われる理由として、夏は汗どめに、また、稲刈りなどの時顔を葉で傷つけないように、虫除けや日焼けを防ぎ、さらには防寒用などと、多彩にわたって実用的な原因が説明される。

俗説として巷間伝えられるには、色好みの殿様に顔を見られるのを防ぐためというのがあるが、付会にほかならない。でなければとうの昔に廃れたはずだ。

なぜ、ハンコタンナという名か。タンナは一般的に帯の類を指す呼称といわれる。例として、

・タナ(タンナ)---(1)子供を負う帯(鹿角郡、津軽地方、新潟県北部)、(2)帯または腰帯(庄内地方)、(3)男の褌(青森県の一部、宮崎県)、(4)女の腰巻(宮崎県)
・コビタンナ、コビタナ---子供を負う帯(庄内地方、伊豆大島の一部)
・ツイダンナ---越中褌(九州薩摩地方)
(『定本柳田国男集』から)

などを挙げることができる。長い年代の経過でタナが手拭いに変わった地方もあるようで、秋田県仙北地方ではタナが手拭い、由利地方では幅の広い手拭いがヒロタナとなり、5尺2寸ほどの長いものはナガタナ(長手拭い)と呼ばれ、ナガタナは秋田を中心とした被り物として知られていたが、生活様式の変化で姿を見る機会は少なくなった。

これらの長いタナを半分くらいの長さ、つまりハンコにして使われるのが、ハンコタンナということになる。よく物事を中途でやめることをハントでやめるなどということがある。ハンコと短いタンナの関わりが推察されるがどうか。

先日も酒田の波止場で若い女性がハンコタンナで顔を覆っていた。女性が黒い覆面をしていれば、よそ者には全くどこの誰か判別がつかなくなってしまう。若い男性には大きな不満もあるだろう。生活テンポの早いこの時代に、何も好んで顔を包んでおくことを真剣に続けていこうなどと考えている人も少ないだろう。

長い伝統あるハンコタンナも近い将来姿を消してしまいそうである。



以上は、田村昭『東北お国ぶり』(宝文堂、1970年)の一説である。(当ジャーナルで若干要約)

初出が昭和41年(電気通信共済会ニュース)の文章なので、昭和40年頃にはまだ酒田で若い女性が着用していた事実が知られる。

私は初めて聞く言葉だ。東北の覆面風俗という項名にハッとして、ナマハゲなどの結社意識など民俗の基底意識との関連があるのか、などと思ってしまった。しかし、祭祀との関連もないようなので、非日常の世界ではなく、まさに日常そのもの、あくまで戸外作業をする際の実用性から生じたものなのだろう。

■関連する過去の記事
秘密結社とナマハゲ (2011年6月4日)
奇祭 鶴岡化けもの祭
秋田ナマハゲは秘密結社か 再論 (2010年5月20日)
なまはげと東北人の記憶を考える (2010年4月27日)
なまはげ事件を考える (08年1月13日)
秋田なまはげは秘密結社か (07年8月13日)





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最終更新日  2015.02.01 12:35:19
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