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2016.01.21
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カテゴリ: 小説
底辺家庭で育ってフーリガンとつるんで暴力とセックス三昧のロイが女をレイプして罪悪感で自殺未遂して植物状態になってマラボゥストーク狩りの妄想をして現実逃避していたら女に復讐される話。

●あらすじ
植物状態で病院にいるロイ・ストラングは見舞いに来る人の声や再生されるテープの音をうるさがり、意識の底に深くもぐって、相棒のサンディとアフリカでフラミンゴを食べつくす邪悪なマラボゥストーク(アフリカハゲコウという大型のコウノトリ)を狩る想像に耽る。ロイはスコットランドのエディンバラで飲んだくれの父親のジョンや母親のヴェットに殴られながら異父兄弟がいる複雑な環境で育って、叔父のゴードンがいる南アフリカのヨハネスブルグに一家で移住すると、叔父は白人至上主義者のホモショタ野郎で、ロイは性的虐待に耐えながらも学校ではうまくやっていたものの、父親が暴行事件で逮捕されて、叔父が爆弾で死亡すると、また一家でスコットランドに戻ることになる。ロイは容姿にコンプレックスを持っていてからかわれると反撃して、優等生を気取りつつちょっかいをかけてきた男をナイフで刺したり、女をナイフで脅してわいせつしたり、ホモをいじめたりするうちに童貞を捨てて高校を卒業して保険会社に勤めるものの、周りには平凡な女しかいなくて物足りないのでカジュアルズと呼ばれるフーリガンのグループと付き合って喧嘩とセックスにあけくれて、職場に悪い噂が流れてもむしろ平凡な人を見下して優越感を持つ。しかしカジュアルズのレクソやデンプシーがカースティーを監禁して一晩中レイプするのに付き合わされて罪悪感をもち、町にゼロ・トレランスのZのマークが書かれた「どんな釈明も許されない」という犯罪撲滅のポスターが張ってあるのを見て動揺するものの、裁判ではやってないと言って敏腕弁護士のおかげで麻薬中毒のあばずれ女がレイプ狂言をでっちあげたことになる。ロイは町に居辛くなって仕事を変えることにしてマンチェスターに行って、知り合ったドーリーと婚約するものの、質の悪いドラッグにはまって別れて落ち込み、エディンバラの家に戻ったときにホモのバーナードに昔いじめたことを謝って和解したとき、ゼロ・トレランスのメッセージを思い出して錯乱して、家でビニール袋をかぶって自殺未遂して植物状態になる。病院にカースティーが来て、まずはデンプシーを車で轢いて植物状態にしたと言い、次にロイのティンポコポンを切って口に詰めて去っていく。ロイは自分をマラボゥストークと重ねる。

●感想
一人称。フォントサイズを変えて、病院にロイを見舞いに来た両親の現実の会話の文字を小さくしてロイの意識の中と現実を区別しているというラノベ的工夫をしている。しかし全部を意識の流れの手法で書くわけでもなく、病院にいないはずの相手(読者)に対して説明するように自分の生い立ちを一人称で語っていて、物語論的に語りの形式に矛盾があり、植物状態の患者の意識を書くというアイデアに技術がおいついておらず、一人称の語りのリアリティのなさが全体を台無しにしている。そのうえ誰かが病院に見舞いに来るという物語内の現実世界、マラボゥストーク狩りの想像の世界、生い立ちの回想の世界の3つの場面が入れ替わり展開することで読みにくくなっている。訳者のあとがきによると作者は物語の舞台であるエディンバラのゲットーで育って文学理論も学んだことがないままこういう実験小説を書いているらしいけれど、こういう語りの手法をやりたかったら文学理論を勉強しないと失敗するという見本。工夫のつもりでやっていることが技術的に失敗していて面白さに繋がらないのはもったいない。回想と想像がごっちゃになるあたりは純文学を読んでる人にとっては予想通りの展開で、山場でベタな手法を使うことで作意が見えてしまってむしろ盛り下がる。自慢げに犯罪を繰り返していたロイが急に罪悪感に苦しむのは不自然で、終盤で物語が安易な方向に流れてしまった。レイプの復讐劇としては首謀者のレクソがほったらかしでプロットが回収し切れておらず、勧善懲悪的なオチとしても中途半端な感じ。エンタメとしては映画のアイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ』のほうが復讐にテーマが絞られていて面白い。
作中でやたら日本人をディスっているあたりも意味不明。戦時中に日本人が残虐で捕虜がひどい目にあったから何か事件があると日本人のせいにしたり、日本人野郎と罵ったりしているけれど、作中に日本人の登場人物がいるわけでもなく、プロットに関係あるわけでもない。出版社はスリーエーネットワークという聞いたことのない会社で、調べてみたら日本語の学習教材をメインに売っているらしい。幻冬舎とかが出版するならまだわかるけれど、日本語の学習教材がメインの出版社が日本人をディスるハードボイルド本を出版するというチョイスがよくわからない。
翻訳については、原作のタイトルは『Marabou Stork Nightmares』なのに、Nightmaresを翻訳しないで単なる『マラボゥストーク』にしたのはなぜなのかよくわからない。『エルム街の悪夢』が『エルム街』、『ダーウィンの悪夢』が『ダーウィン』になるようなもんで、禍々しい雰囲気がなくなってしまってよくない。
アーヴィン・ウェルシュはイギリスでの評価は高いようで、イギリスを代表するケミカルジェネレーションの旗手という扱いらしい。 小説の技術云々を抜きにして読みにくさを我慢して読めば、ホモだのレイプだの暴力だのドラッグだの復讐だのといったハードボイルドに興味がある人にはエンタメとしては面白いかもしれない。イギリス版花村萬月みたいなもんだろうかと、 Wikipediaのアーヴィン・ウェルシュのページ を見てみたら見事に禿げていた。

★★★☆☆

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最終更新日  2016.01.23 04:14:02
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