PR
Keyword Search
Calendar
Comments
茶の湯を始めて、2月をもって丸2年が経過し、3年目に入った。そして、満を持して、この3月6日、初めてのお点前デビューを果たした。当初3月28日に初デビューする予定だったのが前倒しされ、この日、社中で催された雛祭り茶会でお点前をすることになったのである。
私自身、もてなす立場としての、社中のお茶会は3回目となる。昨年2回経験した茶会では、いずれも半東を担当させられたこともあり、社中において1年以上のキャリアを持つ弟子の中では、私だけがまだお点前をせずに残されていた。今回も、雛祭り茶会ということもあり、当初は女性だけがお点前をすることを伝えられていたのだが、3週間前になって、師匠より、「〇〇さん、お点前しましょうか?」ということになり、実現したわけである。という訳で、初めてのお点前を振り返ってみたい。
そのお点前は、徒然棚(つれづれだな)を使ったもの。それはまさに雛祭りに相応しい雅な棚であるが、菱形になっていて、手前に角がきているのが、通常の棚とは異なる。そして、上段が、袋棚となっていて、左右2枚の戸を、手前の角からまず左、そして右と小さな襖(戸)を開けると、中から棗(薄器)を取り出す。そして、それを左手に持ち替えて右の襖を閉めると、右手に棗を持ち替えて左の襖を閉め、棗を棚の右前に置くのである。
それは、初めてのお点前で使う棚としては、何ともハードルが高い印象であった。実際、この日お点前をする人の中には、入門1年未満で今回デビューするという方もあったので、その方々と比べると、既に2度経験している私の方がアドバンテージがあったとも言えようか。しかし、その棚を見るのも使うのも、2週間前の稽古が初めてであり、さすがに不安もあったので、本来は稽古の無かった前週末にも、お点前担当者のみ特別に稽古が催されたわけである。
しかし、当日のお点前では、しっかり最初から、左右の使い方を間違ってしまっていた。まず、茶碗を持って席に入り、棚の前に座ると、茶碗を点前座の左(勝手付き)に、右左と扱って左手で仮置きする。ここまでは良かったのだが、一呼吸すると、次に袋棚の戸(襖)を右手で左、右と開けてしまったのであった。左の戸は左手で、右の戸は右手で、というのがルールであるのだが、ボーッとなってしまっていた。戸を閉める際に、「さっき間違ったかな」と自分でも認識したのだが、そこは何も無かったかのように進めるだけである。
さて、この日のお点前、難関は棚だけではない。一つには棗の形、そしてもう一つには非常に小さい茶碗であった。棗は、桜の蒔絵が施された、鞠棗(まりなつめ:丸棗とも)。全体が手の平に収まるほどの、まん丸をしたその棗は、握りこむ胴が無いのが、お点前泣かせである。ツルッと滑らせでもしたら大変なことになる。まずは袋棚から取り出す時、そして点前座に置く時、さらには茶杓をその上に載せる時の安定感、この辺りがポイントであった。
最初に棗を点前座に置く時、底をドンピシャで置けなかったようで、少し揺らいだ。そして、それは一旦清めて置く時にもそうであったが、全体が丸いので持った感じとして、水平の位置を認識しにくい。そういうこともあり、そこは焦らず、手の平に包みこんだまま置くと、揺れが治まるのを確認して、ゆっくりと手を離すようにした。また、茶杓をその上に載せる時なども、緊張感から茶杓の先が若干揺れて、すんなりとは載らなかったのであるが、落ち着いて、時間をかけて、揺れが止まる位置を定めたのである。
そして、もう一つのお茶碗であるが、それが驚くほど小さなもの。最後の稽古で初めて、それを見せられた時、湯呑み茶碗じゃないかと思えるほどだったのだが、正真正銘の抹茶椀。小さな筒茶碗と言ってもいいのだろうが、それは湯飲み茶碗を一回り大きくしたようでもあり、また軽い。福岡の高取焼のその茶碗は、どうやら時代物。接いだような跡も見られたので、茶巾で拭くにも撫でるように扱うことが要求されたのである。
さらに、茶碗の小ささゆえに、柄杓でお湯を注ぐ時に中が見えず、それを見ようと柄杓の位置をずらすと、お湯が点前座の畳を濡らしてしまう。また、茶筅を振る時にも中が見えないので、目視で泡立ちの加減を確認できない。そして、茶杓も細くて華奢なものだったので、櫂先(抹茶を掬う部分)が小さく、抹茶を多めに入れないと十分な泡立ちが期待できない。その辺りを、最後の稽古において課題として確認したのである。
本番での対応では、まずは茶杓で多めに掬った抹茶。これがこぼれ落ちずに櫂先に残るので、茶碗の内側でコツンと崩すように落とし、そして本来2杯入れるところを、3杯を入れた。そしてお湯を注ぐにあたっては、茶碗の中を覗き見ることを捨て、柄杓に汲んだお湯の減り具合を見ながら、確実にお湯を注いだ。その結果、点前座を濡らすこともなく、適量注げたようである。
そして、大事な茶筅振りであるが、茶碗を若干に傾けて、徐々に加速すると、一心不乱に攪拌した。傾けることで、明かりが茶碗の中にも差し、部分的ではあるが泡立ちを確認できるのである。気になる出来栄えだが、どうやらうまく点てられたようだった。稽古の時にはきれいに点たなかった抹茶も、本番では、クリーミーに仕上がった。
定座に差し出した茶碗を、亭主の師匠が手にとり、正客の前に差し出されると、いよいよ、緊張の瞬間を迎える。それは、謂わば、審判の時と言ってもよかろうか。正客の方が、ひとくち、口にした直後、「嗚呼、美味しい」と、発された。と、その瞬間、胸をなでおろすと、会釈して応えた。もちろん、嬉しかったことは言うまでもない。
その瞬間が、この日のお茶会での最大のクライマックスだったろうと思う。その後は、一つ一つ確かめるように、二客のお茶を点て、仕舞い茶碗を扱い、棗と茶杓を拝見に出して、道具を下げると、最後に水次(みずつぎ)で水指に水を注ぐ。水指を棚の地板手前いっぱいに引き出し、蓋を右左右と三手で扱って水差しの手前に立てかけるが、その最後の扱いも無事にこなした。
と、振り返ると初めてのお点前、総じて旨くいったと、自分なりには及第点をあげたいところであるが、もちろん反省点も多い。最初の棚戸を開けるところもそうであるが、拝見の申し出があったところで、まず柄杓を取って棚に飾るところを、順番を間違って、茶碗を勝手付きに(左一手で)寄せてしまった。その動きのところで、間違いに気付いたが動いた手を戻す訳にはいかず、そのまま進めたのであった。
しかも、その直前に、建水を下げる際に、勝手付きに立てかけていた水指の蓋が滑って、蓋が畳の上にパタッと平置き状態になってしまったため、建水を下げるつもりが、蓋を避けて逆に前に出る形になってしまった。そのため、勝手付けに寄せる茶碗さえ、今度は建水と近接する位置関係になり、十分に寄せ切れなかったのである。
最も致命的だったのは、最後に拝見を終えた棗と茶杓を持って、茶道口のところで挨拶をするところ。建付き(柱側)に棗と茶杓を置く際に、"ト"の字になるように置くべきところを、逆に置いてしまったことだろうか(*)。最後に、ボーッと飛んでしまったようであった。しかし、当たり前のように、扱って挨拶をすると、無事、役目を終えたのであった。
以上、初めてのお点前デビューは、印象的な徒然棚に、鞠棗、そして小さい茶碗、と滅多にない取り合わせでお点前させて頂いた。ここに漸く、私もお点前の第一歩を記したわけであるが、その余韻に浸っている余裕はない。次は28日、期してその日としたようであるが、千利休の命日である。その日、今度は紹鴎棚が私を待っているのである。
謡の応酬。桐蔭席お茶会の記憶。 2013.11.02 コメント(4)
2013年 亭主役の稽古茶事の記憶 2013.10.18
利休忌の茶婚式 湯気に包まれてのお点前… 2010.03.28