サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.03
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 昨日の話を修正しないといけないのですが、「初音」と「胡蝶」の帖を褒めちぎっているのは「無名草子」の俊成卿女だそうです。Wikipedia によれば、「無名草子」は
― 鎌倉時代初期に書かれた、女性の立場から述べる王朝物語評論。日本の散文作品に対する文芸評論書としては最古のもの ―
ということで、歌論「無明抄」とはまったく別ものですから、いいかげんな記憶でものを書いてはダメ!という見本のようなことになってしまいました。

 とはいえこのあたり話の筋を楽しむというよりも、宮廷社会の雅びなムードに浸りきるという意味では、たしかに光源氏を移動カメラにして、六条院の広大な御殿と姫君の様子を次々と描いていくわけで、ある種の読者にとってははなはだ居心地が好いのかもしれません。この場合、ある種の読者とは、この世に存在しない王朝社会の雅びなムードにひたすら浸っていたい人たちという意味で、同時代ならハードな物語を読むのが苦手で、さしあたって和歌や有職故実の教科書として「源氏物語」を活用したい人、鎌倉時代以降なら失われた貴族社会のムードを、かりそめにも我が身に引き寄せて、自身の矜持を保っていたい人、ということになります。

 しかし今どきの読者なら、こうしたベタな描写よりはドラマの進行と並行して、社会とか時代とかがありありと浮かび上がってくる、といった手法に慣れているので、道具立ての説明のためだけに、話がえんえんと費やされるというのはいかにも疲れるのです(しかしかつての社会主義国には、このようなベタな表現を臆面もなくやる映画がよくありましたな。日本でも撮影の苦労話を本編に紛れ込ませるという、初歩的な編集のミスをやる映画監督は今でもよくいるのです)。
 紫式部はおそらくそのあたりのごく一般的な読者へのサービスとして、これらの帖を書いたのでしょう。これだとそれまでの長い長いこの物語を読んでいなくても、とりあえず王朝物語の中に入った気分にさせてくれるわけです。

 こちらもそのあたりの事情を察することにして、逐一この帖の中味を追いかけることは止めにして、さしあたって今この六条院に住まう姫君たちの御殿を整理してみると、南東の春の御殿には言うまでもなく正妻の位置にある紫の上と、明石の方から預かった新姫君、北東の夏の御殿にはよろず便利屋さんの花散里、ここには以前から源氏の息子である夕霧が寄宿していて、さらに今回玉鬘が別棟に住み始めたのは前の帖で見たとおりです。北西の冬の御殿には明石の方がおり、南西の秋の御殿は六条院の母屋に当たると思うのですが、秋好中宮の里下りの家として構えているわけです。
 さらには、源氏のもとの御殿である二条院には、例の「ヲコ」役の末摘花となぜか尼姿の空蝉が住んでいて、源氏はまめまめしくこちらにも挨拶に出かけているわけですが、そちらでもさしたるドラマもなく、何となく正月の顔見せのような感じがしないでもありません。

 あえてこの帖でドラマを汲み取るとすれば、元旦早々源氏が正妻である紫の上の許でなく、明石の方の御殿でついつい夜を明かしたということ(許せませんね)と、正月の男踏歌の見物で玉鬘が初めて紫の上の許に挨拶に上がった(じかに顔を会わせたわけではなく、たぶん御簾を隔てて言葉を直接交わした)、といったぐらいでしょうか。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.04 11:23:01
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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