サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.05
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 こうして今現在、光源氏が関係している姫君たちを整理してみると、実際に彼が閨房をともにしている相手というのは意外に少なくて、厳密には紫の上と明石の方の二人だけということになりますね。この話では語られませんが、彼は六条院各御殿の上臈女房どもには、ほとんど手をつけているとみて間違いないのですが、大事なのはそれらのことは、このお后たち同士の嫉妬や競争心の対象にはなっていないということで、したがってこの長い物語の端にも上がってきません。
 紫式部にしても紫の上にしても、彼が周囲の女房たちにやらかす戯れ事は、まあ(遊びだから)仕方がないと割り切って、重大なのは自身の地位や気分が侵されたと感じられるシチュエーションなのでしょう。その前提で今現在の光源氏の振るまいで明石の方の次に怪しいのは、当然玉鬘ではないかと紫の上は目をつけているわけで、それはこののち図星となって現れてくるのです。

 それにしてもこの六条院の夢のパンテオン、華美と豪奢を尽くした建て前ですが、どこかのハーレムのようなものと同一視すると、ずいぶん貧寒な感じがしないでもない。後宮三千人とかいって、「朕(チン)は成人してから一人で寝たのは、たった十六日だけだった」といった王様のため息とも取れるような述懐は、ここからはとても出て来そうにありませんね。各部族を統合していくためには、差し出された后たちには一人たりと失礼があってはならないわけで、オスのサラブレッドよろしく、毎夜種付けにいそしまなければならなかったのでしょう。もし「源氏物語」がこれらと同断の後宮物語であったり、ドンファン物語であったとすれば、おおいに浮世離れした夢物語として楽しむことはできても、早い話このようにながながと感想を書き綴る必然性は、ここから先もないでしょう。

 となると、この六条院で繰り広げられる男女の心理的なやりとりは、意外と今どきと似たような、わりと狭いドメスティック(家庭的)な印象を与えるので、華美と豪奢の現実離れした道具立てでありながら、少し想像力を働かせれば、驚くほど今どきの男女の心理に近しいやりとりを感じることが出来るのです。
 光源氏の生涯全体を通してみても、彼が戯れ事以外に心底身も心も関係した女性というのは、世に喧伝されているほど多くはなくて、ひょっとすると今どきの普通の男女が、一生涯に深く関係した(するであろう)数に較べても、あまり変わらないのではないか?こんなことを言うと、またまた(主として女性軍から)大ブーイングが巻き起こりそうですが、少なくとも先にみた後宮三千人のような荒唐無稽な話でないことは間違いないでしょう。(それにしても大塚ひかりさんのように、光源氏のセックス日誌をたんねんに年表にしておられる方もいらっしゃいますね。こういう作業は女性でないとやっぱり出来ない、と私は思うのです)

閑話休題
 「初音」の帖が、見るべきくだりもなさそうだ(退屈だ)ということで、よけいな話をしてしまいましたが、まるっきり触れないのもどうかと思うので、おわりのほう、男踏歌のくだりをあげておくと、

― 影すさまじきあかつき月夜に、雪はやうやう降り積む。松風、こだかく吹きおろし、物すさまじくもありぬべき程に、青色のなえばめるに、白襲(しろがさね)の色あひ、何の飾りかは見ゆる。插頭(かざし)の綿は、匂ひもなきものなれど、所からにや、おもしろく心ゆき、命のぶるほどなり。殿の中将の君、内の大殿の君達、そこらにすぐれて、めやすく花やかなり。ほのぼのと明けゆくに、雪やゝ散りて、そゞろ寒きに、竹河謡ひて、かよれる姿、なつかしき声々の、絵にも書きとゞめ難からむこそ、口惜しけれ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

― つづく ―





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Last updated  2010.01.05 11:20:01
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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