サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.24
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 はじめの二つは明らかとして、第三の理由とは、もしこれが堅物の髭黒大将であったら、彼はこんな企みはしなかったのではないか。髭黒はおそらくマジで怒っただろうし、世俗の采配をいずれは握るであろう実力者と、気まずくなるのは避けたい。まして内大臣家の中将(柏木)は、玉鬘とは実の姉弟の関係ですから、会わせるなどとんでもない。
 男やもめの長い兵部卿の宮、この一件で「螢兵部卿の宮」と呼ばれることになるのですが、源氏はどうも親王系の人たちに対して、一種見下したようなところがある。趣味の部分で親しそうにしているけれども、決して自分と同格とはみなしていない。ひらたく言えば「お前たちには、臣籍降下した私の気持や、振るまいかたなど、決して分らんだろう」といったような傲岸な態度であって、だから、からかう対象として兵部卿の宮など格好だったのでしょう。同じようなシチュエーションが、かつて兄の朱雀帝に対する仕方に現れていました。また紫の上の実父である式部卿の宮(かつての兵部卿)に対することさらな仕打ちも、一面ではそうした現われだったのかもしれません。

 というわけで、つらつらこのあたりの光源氏の振るまいを見ていると、同じb系の裏話として語られていても、それまでの「帚木」「空蝉」や「夕顔」などに見られた彼と、「玉鬘十帖」における彼は明らかに違っている。何が違っているかといえば、もう気付かれている人も多いと思いますが、主人公の人生に対する真摯さのようなものの違いだと思うのです。
 青春期の彼の振るまいは、今の内大臣(頭の中将)とともに相当悪い。悪いどころか人(夕顔)を死なせても、表向きは知らん振りをしている。しかしそれでも読者が若い彼に着いて行けるのは、相手を傷つけるのと同じレベルで彼自身も傷ついたり、相手の行く末を気にしたりもする、要はムチャクチャをやりながらも、朧月夜の一件がそうであるように、源氏自身も泥をかぶるような一生懸命という可愛気があるのです。このあたりは、それこそ若さの特権というべきものかも知れませんが、太政大臣になってからの彼の振るまいというのは、明らかに権力をほぼ手に入れた者の奢りというか、堕落が露呈してくるので、人に対する仕方としては、姫君にも殿方にも誠実であるとはとても言えませんね。何をやっても彼自身が傷つくということは絶対に無いのです。
 「螢」の帖のこのあたりに、鮮やかに現れた退廃のムードこそ、我々を鼻白みさせる大きな原因でしょう。そのあたりを紫式部は、どのように考えていたのか?

 つづくくだりに、源氏の本心のようなものが語られます。玉鬘が、このままでは世間の笑い者になってしまう、と思い悩んでいるのですが、

― さるは、「まことに、ゆかしげなきさまには、もてなしはてじ」と、おとゞは思しけり。なほ、さる御心癖なれば、中宮なども、いと、うるはしくや、思ひ聞え給へる。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 実際のところは、「(玉鬘を、妾妻のような)本当に、みっともない境遇には、貶めないでおこう」と、源氏の殿は思っていらっしゃる。(とはいえ)やはり、いつものお心癖もあるので、(秋好)中宮などに対しても、たいそう、(今だに)綺麗だなあ、とも想い掛ける気持もおありなのである。

 秋好中宮に対しては、彼女が中宮に立つ前、源氏はさかんに懸想していた前科がありましたね。六条御息所の形見として、彼には重要な位置を占める人だったのです。とはいえ今や高い身分なので、おいそれと手を掛けるわけにはいきません(まして彼女は、我が息子、冷泉帝の后ですよ)。それに較べれば、

 ― この君は、人の御さまも、け近く今めきたるに、おのづから思ひ忍びがたきに、をりをり、人、見たてまつりつけば、うたがひおひぬべき御もてなしなど、うちまじるわざなれど、ありがたく思し返しつゝ、さすがなる御なかなりけり。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 この(玉鬘の)君は、お人柄も、親しげで今ふうなので、どうしても気持がガマンできなくなって、折々、人が、見申し上げたなら、疑いもかけられそうなお振るまいなどに、及びそうにもなるが、(そのたびに)何とか思い返しなさるという、めったとないご関係なのであった。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.24 13:25:52
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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