サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.25
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 要するに、光源氏が本気で自身に泥をかぶる気がない以上、この「さすがなる御なか」は動きようがないので、既得権益を得ている人物というのは、物語的には魅力的足り得ないのです。はたしてこのあと、この二人の関係はどっちつかずの状態で、完全に停止してしまいます。

 このかん、紫式部はこの物語そのものの中味を、もういっぺん根っこから考え直していたのではないか。a系物語が「槿」の帖で停頓したように、b系物語もまたここへ来て頓挫してしまうというのは、たんに古物語の換骨奪胎のムリということとは別に、共通した原因があるようで、それはどうやら物語が進んで終わりが見えてくるとともに、主人公が成熟してつまらなくなってくる、ということでしょうか。結局、「貴種流離譚」であろうが「求婚譚」であろうが、結末がすべて「めでたし」で終わるような結構だと、人物が動かなくなって来る。
 彼女はむしろ結婚した(古物語なら、そこで「めでたし」で終わった)あとの、女の現(うつつ)の「あわれ」を、さまざまなパターンで見つめて来たわけで、してみれば、この希代の男主人公についても、同じ境遇が表現されてしかるべきではないか?

 というわけでもないのでしょうが、このあと有名な「物語論」が展開されるのです。爾来このb系物語には、いろいろ「~論」が多いので、「雨夜の品定め」の「女性論」をはじめとして、「筆跡論」だの「歌論」だの、とにかくあまり面白いとは言えない講釈がこんなに多い物語も、丸谷さんによればあまりなさそうです。
 その中にあって、ここで語られる光源氏の「物語」講釈は、そのなかに色濃く紫式部の考え方を潜ませているので、取り上げざるを得ません。ただし、これはあくまで物語の文脈の中で、光源氏の話したこととして語られるのですから、その中味だけを取り出して紫式部の考え方とするわけにはいきません。彼女はあくまで、源氏の言葉として、あたかも玉鬘に対する口説きの方便のようにしてしゃべらせているのです。

 五月の長雨が続いて、退屈し切っている六条院の姫君たちは、絵物語などで遊び暮らしているのですが、なかでも玉鬘の新姫は、こうした物語が目新しくてことのほか熱心で、終日読んだり書いたりして時を過ごしているのですが、そこへやって来た源氏が言うには、

― 「あな、むつかし。女こそ、「物うるさがらず、人に欺かれむ」と、生れたるものなれ。こゝらのなかに、誠は、いと少なからむを。かつ知る知る、かゝるすゞろ事に心を移し、はかられ給ひて、あつかはしき五月雨(さみだれ)髪の乱るゝも知らで、書き給ふよ」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「あ~あ、うっとうしい事よ。女というのはまったく、『(よくこれだけ)面倒がらずに、(まるで)人に欺かれよう』と(思って)、生まれてきたみたいだね。これら(物語)のなかに、本当のことなど、まずないだろうに。そのように知りつつ、このようなつまらん事にうつつを抜かし、騙されなさって、暑苦しい五月雨のなか髪の乱れるのも忘れて、書き写してらっしゃるとはね」

― つづく ―





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Last updated  2010.01.25 08:51:53
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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