サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.03.19
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 このところ、しばらく本文を追いかけて来たというのは、かつての無二の親友、光源氏と内大臣の出自や性格の違いが、このあたりにハッキリと示されていると思うからです。世俗代表としての内大臣、威風をおどろおどろしく周囲に振りまくのは、俗世間に色濃く依拠し、それを管轄している摂関家の手法であり、格式も面持ちもことさらに「きらきらし」く飾りたてるのは、そうすることが実際的な利得に結びついているからです。俗界は常に権力に対して、権威を求めたがるものなのでしょうか。
 対するに光源氏はというと、ごく「しどけなき大君姿」であって、ヘンに格式ばった威風など、ここから先も吹かせることがない(むしろ裏で哂っているようなところがある、というのも文章博士のことで触れました)。彼の理屈では自分はもともと皇孫の直系であって、周囲をことさらに飾りたてなくても、みんな私という存在の意味するところは分かっているだろう、ということでしょう。先に一世源氏として臣籍降下した、光源氏の振るまいかたについて、あれこれ詮索したことがありますが(源氏1000年 乙女 4.2009年09月14日)、彼がこの世を渡り歩いていくについて、唯一の寄る辺というのは、その由って来たる皇孫の血筋だけであって、彼の振るまいかたというのは、ほぼそれによって装われているのです。
 その意識があるからこそ、こうした権威ぶった格式に対して、ことさらにくだけてみせる、光源氏が時々見せるこうした振るまいは、たんに個人的な資質とか性格として無意識に出たもの、とは私は考えません。

 何度も言うように、それは生まれつきの所与のものとしてではなく、多分に源氏自身が意識的に選び取った振るまいかたなのであって、それがたぶん桐壺帝のお側去らずとして育てられたのちの光源氏、とくにそれへの反発の期間として現れたであろう、空白の五年間(十二歳~十七歳)に培われたものであろうということなのです。
 紫式部はその雰囲気を、内大臣とは「なずらへても見え給はざりけり(同列に引き比べて見ることは出来ません)」と、もともとの質の違いを強調していますが、彼女から見ても王家の血筋というのは、それほどに眩かったのです。彼女は、彼がそれを意識的に演出していたかもしれない(想像ですよ)、ということにどこまで気付いていたのでしょうか。

 それにつけて、少したわいない個人的な思い出になりますが、もう半年ほど前のこと、所要で京都駅のコンコースをJR側から近鉄乗り場へ向かっていたところが、何やら急にものものしい雰囲気が漂ってきて、よく見ると私服らしき官憲がうろついている。そのまま近鉄と新幹線の中央通路の方に歩いていくと、そうした官憲と思しき人たち十数人が、あっというまにロープを張り渡して通れなくしてしまう。私のように常に用事ぶって忙しがっている男どもは、一瞬鼻白み渋面を作る。奥様がたは盛大に「何やの!?」という声を上げる、という仕儀になったのですが、やがてどうやら、それが皇族のお出ましらしい、ということが分かってくると、多少険悪なムードになりかかっていた空気が、急に(とくに女の人たちの)歓声やらため息で、何となく華やいだ雰囲気になって、たちまち物見の人の群れと変るのです。
 私はたまたま張られたロープの前でしたので、はからずも現皇太子が、近鉄のホームから新幹線のホームへ向かって、早足で歩いていかれるのを目の当りにしたのですが、お一人だけ真っ白なスーツという、ずいぶんカジュアルな雰囲気で、にこやかに歩かれる姿が、周囲の黒々と緊張したSPたちの様子と著しく対照された記憶として残ったものでした。
 まったく威風払うでもない、しかし自ずと周囲に有りがた味をかもし出すこの颯爽とした感じ、これこそ皇孫の直系だけが持ち得る、生まれつきの所与というムードなのではないか?(もちろんこれは映画スターやアスリートの放つ、いわゆるオーラなどとは別次元のものです)
 私の周囲を取り囲む女性軍は、皇太子が会釈するたびに歓声から悲鳴に近い黄色い声に変って、ロープをまたぎかねない雰囲気。きっと彼女たちはせめて皇太子のお袖だけでも触れられたら、と思っていたのではないか。有りがた味とはまさしくそういう霊験のようなものを指すのだろうなどと、またまた皮肉な眼で見ていたのですが、この間ほとんど二、三分の話なのでした。

― つづく ―





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Last updated  2010.03.19 11:14:57
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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