サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.03.22
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 完全に虚を突かれた内大臣、あの夕顔の娘が、と思わず涙をこぼす。

 ― おとゞ、「いと、あはれに、珍らかなる事にも侍るかな」と、まづ、うち泣き給ひて、
 「そのかみより、「いかになりにけん」と、尋ね思う給へしさまは、何のついでにか侍りけん、憂へに堪へず、もらし聞こし召させし心地なんし侍る。かく、すこし人数にもなり侍るにつけて、はかばかしからぬものどもの、かたがたにつけて、さまよひ侍るを、「かたくなしく、見苦し」と、見侍るにつけても、又、さるさまにて、かずかずに連ねては、あはれに思う給へらるゝ折にそへても、まづなむ、思ひたまへ出でらるゝ」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 内大臣は、「何と、あわれで、珍しいこともございますことで」と、まず、涙を流されて、
 「その当時から、『(夕顔とその娘は)どうなったのだろう』と、探しあぐねておりますことは、何かのついでであったでしょうか、思い余って、(殿に)ふと申し上げたような気が致します。このように、多少は人並み(の身分)になりますと、パッとしない(私の)子供たちが、あちこち(のつて)を頼って、ウロウロしておりますのは、『不体裁で、みっともない』と、思いもし、また、そのような(うらぶれた)者が、数々いるのが、不憫に思われてならない中でも、まず、思い出されるのは(夕顔の娘でありました)」

 というわけで、話はあっという間に、悪童時代の光源氏と内大臣(頭の中将)の思い出話に移っていくわけで、

― かの、いにしへの、雨夜の物語に、色々なりし御睦言の定めを、おぼし出でて、泣きみ笑ひみ、みな、うち乱れ給ひぬ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 例の、昔、雨夜の物語りに、あれこれなさった語らいでの(女の品)定めを、思い出しなさって、泣いたり笑ったり、(互いに)すっかり、打ち解けてしまわれた。

 というわけで、この玉鬘の長い物語が、最初から「帚木」に始まる並びの巻(b系)の物語として、構想されていたことが改めて分かりますね。何度も言うように、今ある順序で読んでいくと、ずいぶん前の話じゃないの、ということになりますが、b系物語が「槿」のあと、まとめて書き継がれていったとすれば(「乙女」の前に(2009年09月03日)、 以下参照して下さい)、読者の頭はそう混乱することはないのです。

 さて今でもそうですが、同窓会などでは、当面の現実の問題(玉鬘)はとりあえず差し置いて、かつてのふざけ合いや競い合いをことさらに演じたりもする。これはそうすることで、今は失われた気安い記憶を蘇らせて、現在の気まずい関係を何となく紛らわす一種の魔法(トリック)なのです。お互いの痛いところも、もうとっくに過ぎ去った昔のことであれば、いくら突き合って笑い飛ばしたり、泣き喚いても、誰も傷つかない。

 こうなれば、後は源氏のペースなのでした。

― つづく ―





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Last updated  2010.03.22 10:54:52
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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