近代日本文学史メジャーのマイナー

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2026.06.14
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『神前酔狂宴』古谷田奈月(河出書房新社)

 まず、タイトルがよくわからないではありませんか。そんなことないですかね。
 神社付きの結婚披露宴会場の話ですから「神前」と「宴」は分からないでもありませんが、真ん中の「酔狂」というのはどうなんでしょう。

 ひょっとしたらこれは、例えば「底抜け脱線ゲーム」(大昔のテレビ番組ですねー)みたいなものなのかもしれません。つまり、本作は喜劇小説なんですよ、と。
 そういえばそれらしい展開と言えないわけではありません。
 でも、少なくとも私は、もひとつ、もふたつ、喜劇小説としては本小説を読めませんでした。

 ではどう読んだのか、順を追って書いてみますね。
 上記に触れましたが、これは神社の結婚披露宴会場で非正規で働く裏方職業者(若い主人公たち)のお話であります。
 わりと珍しい舞台設定ですから、私は最初は興味深く読み始めました。専門的な用語や現場場面の描写など「面白く」はありましたが、でも、なかなか「引き込まれる」というところまでいかないんですね。

 アプローチの長いお話だなあなどと思いながら読んでいくと、半分を過ぎてもこれといって引き込まれる展開にならないことに気が付いて、これはアプローチじゃなくて「本編」なんだと気が付きました。

 で、なぜ面白くなってこないのだろうかと考えていると、ひとつ気が付きました。

 例えば、あれだけ冷笑的に見ている結婚披露宴の仕事に一方でなぜそんなに打ち込めるのか。なのに正規採用になることを毛嫌いするのか。
 神社関連の職務であるのになぜ神道関係の実態や思想を嫌うのか(そんな場面には「吐き気」「寒気」「怯え」などの語が出てきます。)
 また、親族へのよくわからない独特の距離の取り方などについても。……。

 つまり、主人公が何を考えているのかよくわからないから感情移入もできず、だから、小説に入り込めないのだなということであります。

 そんなことを気にしつつ、私は、主人公のよくわからない感情が描かれている部分に付箋等を張りながら最後まで読んでいきました。しかし最後まで読んでも、やはりよくわかりませんでした。

 でも、本当にラストシーンというようなところ(終りの10行ほど前)にこんな表現がありました。前後を省略して一文だけ抜いてみます。


 これは、ちょっと気になりました。そこで、この言葉を少し心にとどめながら、戻って付箋をつけた個所を読み直していきました。
 すると、分かったんですね。この主人公の心に何があったかが。
 私は読んでいて、どんどん面白くなっていきました。なるほど、こう読むのか、と。……。

 「浜野」の心にあったものは、徹底した非論理・無意味・空白への志向であります。逆に言えば、現実における合理性や社会性に対する、ほとんど生理的な拒否感であります。
 なんと、本文中の大小のエピソードは、ほぼこれで読み切れるではありませんか。

 浜野が、最大の虚飾である結婚披露宴の仕事になぜ必死になれるのか。親族との付き合いを嫌がり、なかんずく姪を抱くことをヒステリックに嫌がるのか。非正規勤務であることにこだわり抜くのか。
 小さなエピソードでいえば、職場で見た不倫シーンに納得し、母の離婚を応援し、母からのそっけない一言に心開かれ、などなど、実は一貫した心理状態を表現する描写があることに気が付きました。

 なるほどと、わたくしこの度は、読み終えて振り返ってから、初めて面白さに気が付いた、という読書体験でした。
 最後に私は、さらにこんなことも思いました。それは、結局のところ浜野の生き方は何を述べているのか、ということであります。

 以前にも、ひょっとしたら本ブログで触れたようにも思いますが、ある講演会で私はこんな話を聞いて大層感心した覚えがあります。

 明治維新後、日本国家は国民を教育するという名のもと、庶民から三つの自由(武器)を奪ったという話であります。

 一、嘘をつく自由。 二、約束を守らない自由。 三、嫌なことから逃げる自由。

 もちろんこんな自由をことごとく認めていたら、近代国家社会は成立しないことは当たり前ではありますが、はたして、そんな近代国家社会だけが、本当に「正しい」社会なのでしょうか?

 「浜野」が思っていることとは、これだけ大勢の人々がすでにこの社会で生きていけているのだから、別の生き方を望んでいる一人くらいの人間については、なんとか、認めてほしい、ということではないでしょうか。(控え目に言えばこうなります。攻撃的に言えば、アナーキズム、ダダイズム、あたりでしょうか。)

 しかし私としては、本作読後、これは大いに納得・応援のできる願いだと思いました。
 そういえば、本書の最後の言葉は、これでありました。





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Last updated  2026.06.14 10:55:29
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Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  
シマクマ君  さん
 昔、この作品が出たころ読んで面白かった記憶はあります。忘れちゃいましたけど(笑)。 (2026.06.20 09:52:51)

Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  
analog純文 さん
 シマクマさん、コメントありがとうございます。
 本文にも書いていますが、私にとって、主人公の心情がわからない一番の謎は、頑なに姪を抱擁することを拒むという挿話で、まー、それに何とか理屈をつけようという読書報告でありました。お読みいただきありがとうございました。また、連絡させていただきます。 (2026.06.21 08:07:34)

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Comments

analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
シマクマ君 @ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  昔、この作品が出たころ読んで面白かっ…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…

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