突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.05.10
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 どしゃ降りの雨の厚いヴェールの向こうでまた、青紫色の光が、ふわふわ、と二,三度またたいて消えた。

 ベベルギアは、今にも肩からずり落ちそうなガレのよろいをもう一度引っ張り上げると、本館の灯り目指してだっと駆け出した。 
 足もとの泥水が、ばしゃばしゃと音を立ててベベルギアの足にも、腕にも、胸にも、はねかかる。
 一歩足を踏み出すごとに、ねっとりした不快な泥土がベベルギアの足をくるぶしまで飲み込む。 高く生い茂った雑草が足に絡みつく。
 雨が降るといつにもまして歩きにくい泥地だ。
 踏み込んだ足が不意にずぶりと泥の中に深くめり込んだ。
 足を取られてつんのめり、ついた手が、また柔らかい泥の中にずぶずぶと沈み込む。
 まるで底なし沼だ。

 ベベルギアはびっくりしてあたりを見回した。 こんな、雑草ばかりの荒地の真ん中で、しかもこんな激しい雨の中で、花の香りとは、いかにも突拍子もない感じがしたのだ。
 が、香りはすでに消えていた。 鼻をうごめかしながら、頭をめぐらせてみても、何の匂いも感じられなかった。 あるのはただ、不快な泥の匂いと、雷のもたらすかすかな刺激臭だけだ。
 妙な幻覚もあるものだ、と、ニ、三度頭を振って、また駆け出す。 が、数歩と進まないうちに、ベベルギアの足はまた、ぴたりと止まった。
 何か妙だ。
 どこか、すぐ近くに、生き物の気配がする。
 その視線が、じっと自分に注がれているのが、首筋のあたりにぴりぴりと感じられる。
 ごくり、と生唾を飲み込んで、あたりをおそるおそる見回す。
 頭上でぴかりと金色の稲妻が走った。 青白い光に浮かび上がったのは、しのつく雨のヴェールと、ざわざわと波打つ草ばかり。 木の一本も生えていない荒地に、他に動くものの影はない。
 じりり、と、正体のわからないその生き物が、また一歩、ベベルギアに忍び寄った。
 ベベルギアには、そいつが闇の中で、かっ、と牙をむき出したのまで見えた気がした。
 背中を冷たい汗が、ぬるりと伝い落ちる。

 近くに雷が落ちたらしい。 強い刺激臭があたりに漂う。
 もう一度あたりを見回そうとしたとき、不意に、視界の隅で、闇が、のそりと頭をもたげたような気がした。
 そちらを振り向いたベベルギアの、全身の毛がそそけだった。
 草むらの間で、目が二つ、ぎらりと赤く光ったような気がしたのだ。 ベベルギアの足もとから数メートルと離れていない。 すぐそこだ。 ほんの一回、軽く跳躍しただけで、そいつはベベルギアののどに、その鋭い牙を打ち込むことができるだろう。
 漆黒の闇と、激しい雨に遮られて、確かにそれと見極めることのできない、血の色をした二つの目を凝視しながら、ベベルギアはその場に凍りついたまま動けなかった。

 べろり、と、長い舌を伸ばして舌なめずりしたような気がした。
 それでもベベルギアは、蛇に睨まれたかえるのように、動くことができなかった。

 そのとき、雨の音に混じって、見張り小屋のほうから、ガレのいまいましげな怒鳴り声が近づいてきた。
 「おーい!ベベルギア! ちょっと待てったら! 聞こえねえのか、ちくしょうめ。 よろいの内側だよ! かくしの中に入れたまま、出し忘れてたんだよ! 猫のエサ!」
 ばしゃばしゃとぬかるみを走るガレの足音が近づいてくる。 と、草むらに光る二つの赤い目が、ふっと闇に溶け込んで消えた。 しゃらん、と、耳障りな帯玉の音が、かすかに聞こえたような気がした。 
 それから、呪縛が解けるように、ベベルギアを金縛りにしていた空気がゆるんだ。 雨が、ザァ、と激しくよろいを打つ。
 ガレが、ベベルギアの腕をぐいと乱暴に引っつかんで懐の中に手を突っ込んだ。
 「耳が遠いのか、お前? あんな大声で俺が呼んでるのに、本当に聞こえなかったのか? 見ろ、せっかく着替えたのに、またよろいがびしょぬれになっちまった。 俺はこのびしょぬれよろいを着けたまま、これから6時間も、あの見張り小屋で詰めてなきゃならねえんだぞ!」
 ベベルギアの懐から、異様に生臭い匂いのする包みを取り出して、ガレがぷりぷりしながら見張り小屋へと引き返していく。 その後姿を見送りながら、ベベルギアの全身からいっぺんに力が抜けていった。
 今見たものが確かに現実のものであったのか、それとも稲妻の不気味な光がもたらした幻覚に過ぎなかったのか、判然とはしなかった。 が、凶暴な光を宿したあの血の色の瞳には、はっきり見覚えがあった。
 アンタレスの瞳だ。
 アルゴス組の全盛期、ゾーハルの酒場に現れて突如、アルゴス組の仲間達を恐怖のどん底に突き落とした、あの、悪夢の瞳だ。





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最終更新日  2009.05.10 20:30:28
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