突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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 アンタレスがいったいいつのころからゾーハルの酒場に現れるようになったのか、覚えているやつは誰もいない。 そのくらい、アンタレスは、初め、目立たないやつだった。 小柄で、やせこけた、ほんの子どもだとみんな思い込んでいたのだ。 顔色は、日光に当たったことがないんじゃないかと思うくらい真っ白で、いつも丸腰。 あのにぎやかな酒場の隅で、いつも人に背を向けるような格好でたった一人で飲んでいる、変わり者だった。 陰気くさい幽霊みたいなやつだ、とか、きっとだれにも相手にされない腰抜けなのさ、とか、アルゴス組の中で時たまそいつの話題が口に上るようになったころ、アルゴスが、いつもの男気を発揮して、こうして顔見知りになったからにはやっぱりそいつも仲間の輪に加えてやるべきだと考えたのだろう、タヌキというあだ名の、そいつに負けず劣らずチビでやせっぽちの若者に勝負を挑ませた。 チビはチビ同士、けっこう面白い勝負になるものだ。 アルゴスも、いつもの取り巻き連中を引き連れて、そいつとタヌキとの試合を見物に席を立っていった。 タヌキが、アンタレスの前の席に陣取って、試合前のお定まりの口合戦を始めたので、ベベルギアもやっとそのとき、面白そうなことが始まったと気づいて、仲間とのおしゃべりを中断し、そのテーブルに行ってみようと立ち上がった。 ぞろぞろ連れ立ってそのテーブルに向かう途中、ベベルギアは何の気なしにゾーハルに酒のお変わりを注文したのだが、カウンターに置いたベベルギアのグラスにゾーハルが酒を注ぐ間に、ベベルギアがもう一度そのテーブルに目をやった時には、もうすべては終わっていたのだった。
 アンタレスの隣に腰を下ろしていたはずの、コブラという名の、アルゴスの一番の親友は、床に血と脳みそを撒き散らして倒れ、ひくひくと痙攣していた。 正面のタヌキはテーブルに突っ伏したままぴくりとも動かなかった。 タヌキとアンタレスとの間にはアルゴスが審判に立っていたはずだが、そのアルゴスも、血反吐を吐いて床に倒れていた。 一瞬の間の出来事だったのだろう。 酒場の空気は凍りついたように、すべての動きを止めていた。 アルゴスの厚い胸板の上に片足を乗せて、アンタレスが、アルゴスの重量級の剣を両手に支え持つように振り上げていた。 その剣が、コブラ同様アルゴスの脳天にも振り下ろされる場面は、べべルギアは見なかった。 事態を悟っていち早くゾーハルの酒場から逃げ出したからだ。
 そのときのことは今思い出しても身の毛がよだつが、アンタレスが本当の悪夢に変わったのはその後だ。 アルゴスは幸い命だけは取り留めたときいたが、きっと深刻な重傷を負ったのだろう、それ以後二度と人前に姿を現すことはなくなった。 アルゴスを慕う若者たちは当然黙ってはいられない。 アルゴスの無念を晴らさんがため、アルゴス組を復讐組と改名して、アンタレスを血祭りに上げようと立ち上がった。 
 が、アンタレスはその日以降ぱたりと姿を消してしまった。 ゾーハルの酒場はもちろんのこと、街のどこにもアンタレスの姿を見かけたというものはいない。 どうやら自分のした事の重大さに気づいてどこかに隠れてしまったのだろう。 誰もがそう思った。 
 ところが、そうではなかったのだ。 ある日、復讐組の一人が、バルドーラの広場の片隅で、死体となって発見された。 鋭い刀で、首がすぱっと切断されていた。 これが悪夢の始まりだった。 その日から、復讐組の若者が一人ずつ順番に斬殺され始めたのだ。 卑怯にもアンタレスは、どこかにこっそり身を隠したまま、敵が一人きりになる瞬間を狙って背後からいきなり不意打ちをかけるという手段を選んだ。
 初めは50人もいた復讐組が、40人になり、30人になり、だんだん減って、10人になった時、復讐組はとうとう解散した。 いつ襲ってくるかわからない背後からの刃の、絶え間ない緊張と恐怖に、耐え切れなくなったのだ。
 しかし、アンタレスはそれでも執拗な攻撃の手を緩めようとしなかった。 敗北は認めない、死を持ってあがなえというわけだ。 生き残った10人も、一人ずつ、確実に、アンタレスに命を奪われていった。 正直なところ、復讐組の最後の一人が殺された時は、ベベルギアもほっとしないわけにはいかなかった。 昔の仲間が、ぼろぼろに神経をすり減らしたあげく殺されていくのを見ているのは忍びなかった。 もう仲間たちの葬列に連なるのはまっぴらだ。 これでアルゴス組も復讐組もこの世から消えてなくなった。 アンタレスの血の狂宴も終わった、と思ったからだ。
 ところが、それでもなお、悪夢は覚めなかった。 今度は復讐組に加わらなかったものまで、アルゴスと少しでも関わったものが見境なく襲われ始めたのだ。 まるで、人を殺すことを楽しむように、そのいけにえは、戦う手段を知らないパピト族にまで及ぶことがあった。 死神を呼び込んでしまった、そんな気がした。 アルゴスと少しでも関わった者は皆震え上がった。 アンタレスという名を聞いただけで青くなって逃げ出した。 もちろんベベルギアも平静ではいられなかった。 親しげに近づいてきたリュキア軍の人材発掘員だとかいう怪しげなやつの誘いについ乗ったのも、その辺の事情があったからかもしれない。
 ついに俺にもその順番が回ってきたのか、と考えて、あわててその考えを打ち消す。 

 無理やり自分にそう言い聞かせると、ベベルギアは剣をしっかり両手に抱えなおし、自分のキャビン目指して一目散に駆け出した。
 体がずぶぬれで気持ちが悪かったが、今、風呂にのんびりつかる気にはなれなかった。
 たぶん今夜はもう酒も飲まないほうがいい。
 明日の朝起きたら一番に風呂に入ろう。





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最終更新日  2009.05.11 20:02:34
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