突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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2009.08.01
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 マリスの巣穴はひっそりと静まり返っていた。
 中にマリスのいる様子はない。 きっと出かけているのだ。 たぶん、ネズミを捕りに。 あるいは、いたずらをしに。
 足音を忍ばせて巣穴に近づき、真っ暗な巣穴の中をそっとのぞきこむと、思ったとおり、中は空っぽだった。 ほこりっぽくてちょっと生臭い、キツネの匂いがした。
 シリウスは巣穴から離れ、近くの若い樫の木に登って、そこでマリスが帰ってくるのを待ち伏せることにした。 ここならマリスの巣穴も通り道も、よく見渡せる。 
 マリスはまもなく帰ってきた。 金色の体にたくさん苺の花の白い花びらがついている。
 マリスめ! また俺の秘密の苺畑を荒らしてきたんだな! 
 リシャーナ族の食べる苺は村の北東にある広い苺畑で作っていて、みんなはそれを食べるんだけれど、シリウスは、自分のムクの木から少し離れたところで自分専用の苺畑を作っている。 狭い畑だけれど、一人では食べきれないほどたくさんの苺が、一年中いつでもとれるので、シリウスはここを『秘密の苺畑』と名づけて大切にしている。 ところがこの場所は、悪いことに、シリウスのムクの木とマリスの巣穴とのちょうど中間あたりに位置しているので、よくマリスが入り込んできて、穴を掘ったり転げまわって遊んだりして、めちゃくちゃに荒らされてしまうのだ。
 今日も俺の大事な苺畑を踏み荒らしてきたな、と思うと腹が立って、頭がくらくらしてきたたけれど、ぐっとこらえた。 
 まあいいさ。 そういういたずらを楽しんでいられるのも今のうちだけだ。 もうすぐお前は目の前に見えている自分の巣穴にたどり着けなくて泣き出すことになるんだから。

 突然、マリスが足を滑らせてすってんと転んだ。
 あはは! やったやった!
 シリウスは吹き出しそうになるのを懸命にこらえてマリスの様子を見守った。
 さあ、これからが見ものだぞ。
 マリスはびっくりしたような顔つきで起き上がり、それから、ぶるぶると勢いよく体を震わせて、体についた土や草や、苺の花びらもいっしょに振り落とした。 それからもう一度頭を振るとその場に座り込み、、後足を使って耳の掃除を始めた。 目が細くなって、口が横に広がって、なんだか変な顔になった。
 シリウスが、おなかを抱えて笑い出しそうなのを我慢していると、マリスはようやく後足を地面に下ろして立ち上がり、ちょっとあたりを見回してから、巣穴とは逆の方向に向かって歩き出した。
 さあ、いよいよ“めくらまし”ショーの始まりだぞ! マリスのやつ、今巣穴に向かって一生懸命歩いているつもりなんだろうけど、残念でした、そっちは巣穴じゃないんだよーだ! 
 思ったとおり、マリスはちょっと歩いて立ち止まり、不思議そうに首をかしげた。
 シリウスは真っ赤になって笑いをこらえた。 おなかの皮がよじれて痛くなってきた。
 マリスはしばらく首をひねっていたが、やがて、首を回して後ろの巣穴のほうを眺め、もう一度あたりをきょろきょろ見回してから、また、巣穴とは逆のほうに2,3歩進み、また立ち止まった。
 シリウスは、笑い声を立てまいと樫の木にしがみついて、てのひらでぺたぺた幹をたたいた。 おかしくて、苦しくて、息も止まりそうだ。

 涙のにじんできた目で見下ろしていると、マリスは予想通り、巣穴に向かってぱーっと駆け出し、それからまた立ち止まって後ろを振り返り、考え込むような顔をした。
 やっぱりだ。 マリスめ、困ってる困ってる。 もっと困れ! 泣き出しちまえ!
 だが、マリスは泣き出さなかった。 困りもしないみたいだった。 いつもと変わらないとりすましたキツネ顔で、巣穴のほうを眺め、次に巣穴と逆のほうを眺め、距離を測るように見比べて、それから突然、巣穴のほうに向かって軽やかな足どりでとっとこ駆け出し、何事もなかったように巣穴の中へと入っていってしまった。
 あれあれ? と、シリウスはぽかんとして、まだ痛むおなかの皮をさすった。
 マリスのやつ、どうして巣穴に戻れたんだ? マリスには“めくらまし”がきかなかったのか? あのハークのように? それとも、俺が“めくらまし”の魔法に失敗したのか?

 そんなはずはないよな。 だって初めのうちはマリスも、ずいぶんうろたえてた様子だったもの。 たしかに“めくらまし”は成功したはずだぞ。
 どうにも納得がいかなくて、シリウスはそろそろとマリスの巣穴に近づいていった。
 「・・・マリス、マリスいる? お前、今自分の巣穴がちゃんと見えたの?」
 巣穴の中はしんとしていた。 真っ暗で、マリスの金色の頭や耳も見えなかった。
 「ねえ、マリス、聞こえてんだろ? 何とか言えよ。 俺の“めくらまし”に、かかったの? かからなかったの?」
 シリウスは少し足を速めてマリスの巣穴に近づきかけ、不意に足を止めた。
 マリスの巣穴が近づいて来ない!?





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最終更新日  2009.08.01 14:14:14
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