突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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 「ミラが赤ん坊のころ、つめ草の野原での出来事だ。 そのころ私は、つめ草の野原で子どもたちの世話をする役目に就いていたが、あるとき、子どもたちの午後の昼寝の時間、眠っている子どもたちを新米の世話係たちに託してちょっと場を離れたことがあった。 若い世話係たちは口うるさい先輩がいなくなったので、つい眠っている子どもたちのことを忘れて自分たちのおしゃべりに熱中してしまった。 そこまではよくあることで、特にとがめだてするほどのことでもないのだが、その日は少し事情が違った。 どういうわけか野原にいたずらなカラスが一羽舞い降りてきて、赤ん坊のミラの顔をつつき始めたのだ。 若い世話係たちは誰もそのことに気がつかなかった。 が、突然、ギャアという悲鳴が聞こえたので、びっくりして子どもたちの寝ているところに駆けつけたのだそうだ。 すると、小さなミラのひざの上に、ぺしゃんこにつぶれたカラスの死体があり、ミラはそのカラスの血に染まりながら、得意げに大人たちを見上げていたのだという。 何が起こったのかわからず若い世話係たちがうろたえていたとき、空にカラスの大群が現れて、突然世話係たちに襲いかかってきた。 カラスたちは彼らを鋭いくちばしでつつきまわし、とがった爪を突き立て、そのあと、自らあたりの木や岩に激突して死んでいったという。 その様子を見ながら、ミラは楽しそうに笑っていたのだそうだ。 ミラは、自分をつついたカラスと、それに気づかずにいた新米世話係の、両方に、いっぺんに仕返しをしたのだ。 
 「騒ぎを聞きつけて私たちが駆けつけた時、あたりは血の海だった。 そこらじゅうにカラスの羽や死体が散乱していた。 引きちぎられたような首や、足や、形もとどめていないほど捻じ曲がった死体もあった。 今まで誰も見たことのない、恐ろしく禍々しい魔法だった。 長老が飛んできてミラを眠らせ、ひとまずパニックは収まったが、この赤ん坊がどんな魔法を使ったのかは、長老にもわからなかった。 カラスの大群は全滅して生き残ったものは一羽もいなかったが、いっぽう世話係のほうは皆、引っかき傷を負った程度で、さしたる被害はなかった。 そこで長老は、ミラが相手によって攻撃力をコントロールしたと判断して、ほんのいたずら心からこんなことをしたのだろうと結論を下した。 だが、いたずらにしては度が過ぎた出来事だった。 まだ魔力も授けられていない赤ん坊が、私たちの誰も知らない強大な魔法を使って、何の罪もないカラスたちを全滅させてしまったのだからね。 老練の世話係たちの中には、ミラをその場で追放せよと言う者もいたが、長老は首を縦に振らなかった。 このような危険な魔力の持ち主は、リシャーナの責任において注意深く見守らなければならないとお考えになったのだ。 さもなければ将来この魔法使いは、魔法使いの森の破壊者になるかもしれないから、と。 こうしてミラは長老の手によってその魔力を封印され、普通のリシャーナの子としてみんなと同じように育てられることになった。 
 「その後私がつめ草の野原を出て若い魔法使いたちの師となった時、長老は私たちにこう言われた。 ミラの魔力は邪悪な目的で利用されないようにしっかりと教育をすること、10歳になったら他の子どもたちと同じように魔力授けを行うが、持って生まれたあの恐ろしい魔力の封印は生涯解いてはならない、と。 ミラの師として選ばれたのはパンセだったが、パンセは実に優秀な師で、ミラの教育には特別気を使い、それでいて他の者と区別しないように、あるときは厳しく、あるときは優しく、心を砕いてミラに接してくれた。 そのかいあってミラは本当に素直な、心の優しい、自制心のある子に育ってくれた。 今では、あの事件を起こした赤ん坊とは信じられないほどだ。 ミラを見ていると、あれほど厳しく魔法を使うことを禁じているのがかわいそうになってしまう。 
 「思えば、何も覚えていないミラにはずいぶんつらい仕打ちだと思えることもあっただろうが、それもこれも、ミラに、怒りにまかせて我を忘れるようなことがないよう、忍耐を学んで欲しかったからなのだ。 決して、このまま一生不自由な規則で縛りつけておくつもりではなかった。 実際、私たちはつい昨日まで、この分ならミラは大人になったらきっと、大きな力と優しさとを併せ持った偉大な魔法使いになってくれるだろう、来年成人式を迎えたら長老の封印をといてやってはどうか、などと話し合っていたところだったのだよ。 ヴェガ、本当のところを教えてくれないか? ミラはなぜ“森の主”に向かって“炎”を投げつけたんだい? 君が何かしたのか? それとも、カラスのときのような怒りから? それとも軽いいたずらだったのか?」
 ヴェガはしばらくの間、声も出せずにサクレの顔を見ていたが、やがて、ゆっくりと首を横に振った。
 「俺は別に何もしていませんよ。 ミラはちょっと俺の真似をして炎を飛ばしてみただけだったし、ミラが何を思ってあんなことをしたのか、それは俺にもよくわかりません。 でも、そういわれてみれば、ミラのやつ、今日はやけに頭に血が上っていたみたいだったなあ。 パンセが自分に魔法らしい魔法をちっとも教えてくれない、そのうえ教えてくれた魔法もほとんど禁じられていて、このままじゃ、もしどこかでバルドーラにでも襲われたら、反撃どころか逃げることもできなくて、きっと殺されてしまう、パンセはそれでもいいと思ってるんだ、って、そんなようなことを言ってたような気がします。 ミラとしちゃたぶん、自分の身は自分で守らなきゃならないと必死だっただけなんじゃないでしょうか。 “森の主”を狙ったのも、もう村の大人たちに頼ってばかりじゃいけない、というような気持ちからだったのでは・・・?」
 それを聞くとサクレは真っ青になって、ヴェガ、ちょっと待っててね、と、部屋から飛び出していった。
 たぶん、長老に相談しに行ったんだな、とヴェガは思った。
 サクレが長老にどんなふうに言うか、ヴェガには手に取るようにわかった。 サクレはきっと今のヴェガの言葉を一言漏らさず長老に伝え、それからこう言うのだ。

 まあ、こんなところだろう。
 ヴェガは思わず一人笑いして、窓の外を眺めた。
 窓の外の、広場の真ん中でミラが座り込んで泣きじゃくっていた。 その周囲を、大人たちが遠巻きに取り囲んで、途方にくれたように立ちすくんでいる。
 あの泣き虫のミラに、そんな大それた力が眠っていたとは驚きだったが、今までミラをかわいがってやっていた自分の、先見の明も大したもんだ、と思った。 この先、ミラのおかげでサクレやパンセはもちろんのこと長老までもが、ヴェガに頭が上がらなくなるかもしれないのだから。 そうなればリシャーナの村はもう、丸ごとヴェガのものだ。 





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最終更新日  2009.08.22 14:29:06
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