突然ですが、ファンタジー小説、始めちゃいました

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 玄関の戸を細く開けて、もうすっかり夜の帳が下りた外の様子をうかがってから、ミラはこっそりケヤキの木の家をすべり出た。
 晴れ上がった夜空の真ん中に、白い大きな月がぽっかりと浮かんで、冷たくミラを見下ろしている。

 足音を立てないように、ケヤキの木の下に降り立ち、あたりを見回すと、たった今家を出て行ったばかりのヴェガが、白い月明かりに照らされながら、街へ続く小径のほうに入って行くところだった。
 その後姿に目を凝らしながら、ミラはぎゅっと両手のこぶしを握り締めた。

 今夜こそ、ヴェガが街でどんな仕事をしているのか確かめてやる、ミラは、固くそう心に決めていた。
 大好きな先輩の後をこっそり尾行するなんて、少し気がとがめる。
 いや、かなりの罪悪感に胸が痛む。
 だけど、このごろのヴェガの様子は、どう見ても変なのだ。

 街で新しい仕事をするようになった―――それは、まあ、いいかなと思う。

 魔法の練習に精を出すようになった―――これはものすごくいい変化だ。 ミラも嬉しい。

 でも、夜遅い時間に人目を忍ぶようにして出かけて行って、そのまま明け方まで帰って来ないようなことがちょくちょくある仕事って、どうなんだろう。
 それだけじゃない。 あちこちに怪我をして帰って来たり、帰ってきたと思うと疲れ果てたようにベッドに倒れこんで、そのまま何日も熱を出して寝込んでしまったり、夜中、苦しそうにうなされていたり、なんだかものすごく危ない仕事をしているみたいなのだ。 
 以前のようにミラに、仕事の話や街の話、森の様子、あれこれ話を聞かせてくれなくなったのも気にかかる。

 さらに心配なのが、このごろ、ヴェガが持ち帰ってくる『今日の稼ぎ』と称するものだ。 たくさんのお金、見たこともないほどきれいな、だけどなんだか不気味な宝飾品、古くて汚いガラクタ ・・・ これがなんとも胡散臭げで怪しげで、とても黙って見過ごせるようなものじゃないのだ。
 これは何? なぜこんな物をヴェガが持っているの? こんなにたくさんのお金、どうしたの? ミラが聞いても、ヴェガは決してちゃんと説明してくれない。 いつもはぐらかされてしまう。 絶対、何か後ろ暗いことがあるのだ。

 しかも最近では、その新しい仕事に熱中するあまり、森の見回りという、ヴェガにとって一番大切な仕事までおろそかにしている様子までうかがえる。 季節外れの花が咲いたとか、見たこともない変種の虫が現れたとか、かつてないほど森の奥深くまで迷い込んでくる他種族の数が増えているようだとか、村の大人たちのいろいろな苦情が、ミラの耳にまで入ってくるようになった。

 これは由々しいことかもしれない、とミラは思う。
 パンセに事の次第をあらいざらい話して、どう対処したらいいか聞くべきだ、と、冷静なミラの頭は判断する。
 でも、それじゃなんだか告げ口みたいでいやだ、と、ヴェガ大好きのミラが反論する。

 実はミラ、こういうヴェガの変化は全部、アルクトゥールスとかいう悪友のせいにちがいない、と、ひそかに睨んでいる。 ヴェガの口ぶりでは、そいつは、平気でひとをだましたり泥棒をしたりするような悪人で、しかも欲張りで、自分勝手で、思いやりのかけらもなく、ヴェガを家来のようにあごでこき使うんだそうだ。 そんなろくでもないパピト族とつきあうから、ヴェガもそいつに感化されて、リシャーナ族としてのたしなみを忘れてしまうのだ。



 今度ヴェガが街に仕事に出かけるとき、こっそり後をつけて行こう。 
 その、アルクトゥールスというパピトが、ヴェガの友達として本当にふさわしいやつなのかどうか、この目で確かめてやろう。 そして、たぶんそいつと組んで始めたにちがいない、街でのヴェガの仕事。 これも、リシャーナの厳しい規則に反するようなものでないかどうか、しっかり見届けなければならない。
 パンセに何もかも打ち明けるかどうかは、その後で決めよう、と。

 そしてとうとう今夜、真実を確かめるときが来た。

 さわさわと木の枝を鳴らして渡っていく風の音にちょっと首をすくめ、ミラは、自分の気配を注意深く消してから、ヴェガの歩き去っていった小径のほうへと駆け出した。





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最終更新日  2010.09.21 06:25:19
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