やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2005年12月17日
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カテゴリ: 読書感想
瀬戸内海に面した小さな町で家政婦をしている私は、1992年の春にあけぼの家政婦紹介組合から「80分しか記憶がもたない」数学博士のもとに派遣された。

雇い主の義姉、博士本人、私の10歳になる息子との途惑いと驚きの日々。

記憶がとどまらない病気と数学的論理のおもしろい話の取り合わせが、なるほど話題に。どちらに興味を持つかで趣が変る。

読み始め、私は紙と鉛筆を携え、試してみたりしてしまったよ。素数など好きだなーと思ったり。そのうちに本文に引き込まれ、数字の論理はどうでも良くなった、というか解らなくなったが…。

忘れっぽいといっても悲しむことはない。それが突発的な事故によるものであっても、老化現象の一端であったとしても気の毒がることはない。忘れるもの幸いなるかな、もし人間忘れられなかったら悲劇である。

身近に認知症を経験すればわかるけど、尊厳を忘れず、がっかりせずにいれば、何かしら得るものがあるのはほんとうである。報いられない、けれど、逃れられないのも事実だ。義姉が嫉妬しつつあきらめ「私」が手伝いに来たことによって、博士の人生が輝いたのは示唆に富む。

繰り返し作者は述べているが、かたちのないものの存在を愛でているのである。それは文学上の普遍である、常道である。

こんな文学と数字の取り合わせは物珍しく、やっぱり、小川洋子さんの目のつけどころに興趣がわく。

映画化されるという。深津絵里さんはどんな家政婦さんを演じるのかな~。

博士の愛した数式






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最終更新日  2005年12月17日 08時56分44秒
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Re:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
柊♪  さん
学生の頃に読んでいたなら、当時より数学が好きになれていたかな…なんて
想像しながら読みました。
映画公開が楽しみです。
小説に漂ってる雰囲気がそのままだといいなあ…って期待してます(*^^*) (2005年12月17日 09時29分49秒)

Re:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
きいぼ  さん
映画化で、映画の紹介記事の候補にあがり
あわててザザッと資料に目を通し、
これは原作を読みたいなぁと思っていました。
で、このタイミングにびっくり。
映画の前に、原作をやっぱり読んでおきたいな、という想いがますます強くなりました。
(2005年12月17日 14時16分30秒)

柊♪さんへ Re[1]:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
ばあチャル  さん
>映画公開が楽しみです。
>小説に漂ってる雰囲気がそのままだといいなあ…って期待してます(*^^*)

きっと観にいらっしゃるのだろうと思っています。ご感想が楽しみです。

学んでいるころなら数学好きになるかもしれない、興味深いところは本のほうが解かりやすいでしょうね。

文系の嗜好の人でも大人になって面白く書いてある数学書で、それなりに理解し始めると「ああ、数字」ってこんなに面白かったんだとなるのは犬養道子さんがエッセイに書いていらっしゃいました。ああ、なるほどと思いつつこの本を読むまで忘れていました。あくまで縁がないというか(笑) (2005年12月17日 14時43分02秒)

きいぼさんへ Re[1]:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
ばあチャル  さん
数の観念と心の交流をこころ憎いまでに書き上げていますね。映画ではどう描かれるのでしょうね。

また、瀬戸内海の小さな町の物語というのも映画にぴったりでしょう。
(2005年12月17日 14時50分18秒)

Re:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
>小川洋子さんの目のつけどころに興趣がわく。

ホントですよね~。
藤原正彦さんとの共著「世にも美しい数学入門」で、数学と文学の、役に立たなさ比べをされてたのが印象的でした。
(2005年12月17日 17時11分47秒)

くりむーぶ389さんへ Re[1]:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
ばあチャル  さん
>藤原正彦さんとの共著「世にも美しい数学入門」で、数学と文学の、役に立たなさ比べをされてたのが印象的でした。

藤原正彦さんは文庫本の解説を書いてらっしゃいますね。この小説のために小川さんが取材をした方ですから共著はその後の発展でしょう。なにやら縁ですね。 (2005年12月17日 19時33分31秒)

くりむーぶ389さんへ2 Re:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
ばあチャル  さん
>この藤原先生、あの(?)新田次郎&藤原ていご夫妻の息子さんらしい。おおっ~。。

くりむーぶ389さんの2005.05.16「世にも美しい数学入門」藤原正彦&小川洋子
の感想を拝見。この部分覚えていました思い出しました。解説に親が作家とありましたが、うーん、なるほど!! (2005年12月17日 19時42分50秒)

Re:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
tuitel  さん
読みました、読みました。
いい話ですよね。おもしろくて、しかも良い。
やっぱり、小説は素敵ですね。心が動かされる。
映画も見たいなー。
「世にも美しい数学入門」も読みたいなー。
TBもらっていきます。 (2005年12月18日 23時06分29秒)

tuitelさんへ Re[1]:『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)(12/17)  
ばあチャル  さん
本日「丸善」に寄りましたら、小川さんが取材した藤原正彦さんのおもしろそうな数学の物語&エッセイの文庫が数々ありましたよ。にわかに読みたくなります。困った、数学嫌いなのにね(笑)
(2005年12月19日 14時56分23秒)

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