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やがて二人は、今一度、互いに視線を戻した。
アンドレスは、込み上げる愛しさから、胸に深くコイユールを抱き寄せる。
そして、コイユールも、また、相手の胸元に頬を寄せたまま、その細い腕でアンドレスを包み込むように抱き締めた。
「コイユール…あのソラータの川辺のとき以来だよね……」
「…――ええ」
「会いたかった」
「私も……」
不意にアンドレスの片手が、コイユールの頬を優しく包んだ。
「!」
コイユールの頬が、サッと上気する。
「コイユール、動かないで」
「!…――」
アンドレスは優しい眼差しでコイユールの頬を手で包んだまま、その長身をゆっくりと屈めて、顔を寄せていく。
コイユールも、そっと目を閉じた。
―――バキッ!!
と、その瞬間、背後で何かが割れるような鈍い音と、人の気配がした。
「!!!」
ビクッとして二人が身を固め、そちらを振り向くと、既に数メートル後方まで後ずさったロレンソの姿――…!
驚いて闇の中で目を凝らすと、ロレンソの少し手前の地面には、彼が慌てて踏んでしまったと思われる小枝が二つに割れて転がっていた。
平素は冷静沈着なロレンソが、今はすっかり慌てふためいて、さらに後方に後ずさっていく。
「すまんっ!
続けてくれ……っ」
「…―――!!」
ガーンとした涙目で「あと少しだったのに…!」と言いたげな眼差しのアンドレスの横では、コイユールも震える瞳を潤ませている。
二人の愕然とした表情に、ロレンソは果てしなく恐縮しながら、彼もまた、深く肩を落とした。
「そなたたちが一緒だとは知らなかったのだ。
アンドレスに急ぎ伝えねばならぬ事情があって、近づいたら…!
まさか、こんなタイミングとは…!
すまん…本当に……!!」
すっかり恐縮しているロレンソの様子に、アンドレスも、コイユールも、「い…いや、そんなに気にせずに…」と言うしかない。
実際、アンドレスにも、コイユールにも、ロレンソを責める気持ちなど毛頭ありはしない。
ただ、体から力が抜けて、いつしか三人共、草の上にへたり込んでいた。
はぁ……と、それぞれの口元から、小さく溜息が漏れる。
若草の夜露が、上気した全身に、ひんやりと服の下から染みてくる。
そんな三人に優しく微笑みかけるように、煌くインカの月が、清らかな光を地表に降り注いでいた。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
隣国ラ・プラタ副王領に遠征していたが、現在、ペルー副王領に帰還の進軍中。
≪コイユール≫
インカ族の貧しくも清らかな農民の少女(18歳)。義勇兵として参戦。
代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。
アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。
『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。
≪ロレンソ≫
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友(18歳)。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
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