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2005.12.02
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カテゴリ: その他の映画
木下惠介 DVD-BOX 第1集 所収。

 冒頭に、
「松竹映画」
「昭和十九年十一月完成」
とでる。
「画映竹松」
「成完一十年九十和年」
ではない。「横書き」という概念で書かれている。


 国策映画なのだが、どう見ても反戦映画なのには驚いた。
 遠い昔、この映画を見た、映画に詳しい人から、これを見た軍部は激怒したらしいと聞いたが、さもありなん。

 話は慶応二年の九州小倉から始まる。
 藩士から「大日本史」を預かった一家の息子が中心になって話が進む。
 死を決意した藩士が訪ねてくる場面がある。その藩士は、刀の柄が左肩にくるように背負っている。このころまでは、ちゃんと、そう背負っていたのだ。
 いつから、右肩に柄がくるように背負い始めたのだろう。
吉川英治「宮本武蔵」 の挿絵でも、佐々木小次郎は刀の柄を左肩に出している。
 NHK大河ドラマの「 武蔵 」では、さすがに武術指導がしっかりしていて、松岡昌宏演じる小次郎は、柄を左肩に出していた。

 それはさておき。

 「けいていかきにせめぐ」と読んで、兄弟げんかや味方同士の争いを言うのだそうだ。

 話はすぐに30年後に飛び、日清戦争。
 主人公は、宮城《きゅうじょう》や靖国神社を見学していて父の死に目に会えない。
 そしてすぐに明治37年に。
 日露戦争。


 またとんで10年後。
 小さな荒物屋を妻に任せ、笠智衆はぶらぶらしている様子。折に触れ、「大日本史」を読んでいる。
 この「大日本史」が精神的支柱となっているらしい。
 「大日本史」は、現在の皇室の祖先である持明院統ではなく、大覚寺統(南朝)を正統とした史書である。

 息子が二人。長男には立派な軍人になって欲しいのだが、いくじなしで困る。
 東野英治郎の経営する工場の若者で組織した「奉公団」の講師になる。

 ここでまたとんで10年後。
 いよいよ風雲急を告げ、日中戦争に。
 主人公の息子も、東野英治郎の息子も入隊。それぞれ、前線に出て戦死することを望むような態度を見せているのだが、東野英治郎は前線の話を聞くと息子のことばかり気にする。
 前線に行き遅れた、主人公の息子もいよいよ出征というのがクライマックス。
 行軍の中から息子を見つけ出そうとする田中絹代。
 やっとみつけ、行軍と平行して走りながら息子に話しかける。
 息子は笑顔で答える。
 最後は、群衆の中で、茫然と涙で見送る母、というところで終わる。

 頑固な愛国者という設定の東野英治郎は、「元寇の時、神風が吹かなければ、軍事力で劣っていた日本は負けていただろう」と言ったり、息子の生死を気にすると、「お前の息子一人ぐらい死のうが生きようが関係ない」と言われたり。

 「男の子は天子様からの預かりもの」と口では言いながら、本音は、子を戦地にやるのは嫌だ、死なせたくない、と思っていると言うことを描いているのである。
 こりゃあ、軍部は怒るだろう。
 戦意高揚になんかなりゃしない。
 「戦争ハンターイ」と叫んで満足するような映画ではない。
 制約があっても、良心に恥じない映画を撮ろうという、監督の志が感じられる映画であった。

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Last updated  2005.12.02 05:47:30コメント(0) | コメントを書く


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