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人間の業を描くのが相変わらず西村先生はうまいですね。 勧善懲悪な結末にはスカッとしました。
2020年07月31日
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タイトルをみたとき、「博士を愛した数式」のパロディだと思ってしまいましたが、この作品は家族の愛と闇に満ちた作品でした。
2020年07月29日
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※BGMと共にお楽しみください。「土方様!」 突然背後からあいりの声が聞こえたかと思うと、何かが男に向かって飛んで来た。 それは、苦無だった。 男は苦悶の叫びを上げ、苦無が刺さった右目をそのままにして、歳三達の元から去っていった。「大丈夫どすか、お怪我は?」「あぁ、大丈夫だ。あいり、苦無の扱い方を何処で習った?」「兄上からどす。それにしても、あの男は一体何者なんやろうか?」「さぁな・・」 歳三があいりと西本願寺の屯所の前で別れた後、中に入ると大広間の方が騒がしい事に気づいた。「おい、どうしたんだ?」「土方さん、いい所に!お願いだ、あの二人を止めてくれ!」そう言って原田が指したのは、激しい喧嘩をしている総司と斎藤の姿があった。「おいお前ら、やめろ!」「土方さん、止めないで下さい、これは僕とはじめの男同士の戦いなんです!」「男同士の戦いだぁ!?」「副長、手出しは無用です。」 総司と斎藤は互いに睨み合いながら、中庭へと躍り出た。「土方さんに愛されているのは僕だ!」「いや、この俺だ!」 二人の下らない喧嘩を、歳三は何処かさめた目で見ていた。「土方さん、あの二人、止めなくてもいいのか?」「放っておけ。」「そ、そうか・・」「俺は暫く部屋で休んでいるから、二人にはそう伝えておけ。」「わかった・・」「いや、二人には伝えなくていい。」「土方さん、少し顔色悪いぜ?余り無理すんなよ?」「わかった。」(本当にわかっているのかねぇ、土方さんは。) 歳三が副長室で仮眠を取っている頃、彼を襲った総髪姿の男は、あいりに投げつけられた苦無が刺さった右目を町医者に治療して貰っていた。「どうだ?」「幸い、眼球は傷ついていないようですな。暫くこちらで休んで、傷を治しなはれ。」「かたじけない。」 男は目を閉じ、眠り始めた。「ごめん下さい。」「あぁ、ええ所に来てくれはりましたなぁ、お優はん。」「あの子はどこなん?」「奥の部屋で休んではります。」「おおきに・・」 診療所に入って来た女は、そう言って町医者に頭を下げると、総髪姿の男が寝ている奥の部屋へと向かった。「かわいらしい顔で寝てはるなぁ。」女は男と同じ真紅の瞳を細めると、そう言って笑った。「姉・・上・・?」「よう寝てたなぁ、巽。右目の怪我、誰にやられたんや?」「女や、女にやられた。土方をあと少しで殺れると思うてたのに、女が苦無を俺に投げて来た。」「苦無やて?その女は忍なんか?」「いいや、普通の町娘や。姉上、土方は“先生”の事は覚えてた・・」「そうか。後はうちが上手くやるさかい、あんたは休んどき。」「姉上、俺は・・」「あいつは・・土方は、“先生”の仇や。うちらが必ず仇を討たなあかん。それまで体力を蓄えておき。」「はい・・」 女―お優はそう言うと、弟の頭を優しく撫でた。 お優と巽の姉弟は、銀髪紅眼という容姿の所為で生まれてすぐに捨てられ、寺の和尚に育てられた。 だが、優しかった和尚は流行病で亡くなり、二人は廃墟と化した寺の中でただ朽ちるのを待っているだけだった。 そんな中、自分達を救ってくれたのが、“先生”だった。『こんな所に居ないで、わたしの元へおいでなさい。今日からわたしが、あなた達の養い親になってあげますよ。』そう言って優しく自分達に向かって差し伸べた手を、二人はしっかりと握った。 その日から、“先生”は二人にとってかけがえのない存在となっていった。だが―「姉上、大変だ!“先生”が・・」“先生”との別れは、突然やって来た。「嘘や、先生がそんな・・」「姉上、あいつや・・石田村の土方が先生を殺したんや!」「それはほんまか、巽。」「ほんまや、姉上。俺、見たんや。」「何をや?」「土方が、先生を斬ったんや!」「そうか・・」“先生”はもう居ない。 お優と巽は、“先生”を殺した仇である“土方”を探し回った。 そして二人は漸く、土方を見つめたのだ。(必ず、“先生”の仇は討つ!その為にうちはまだ立ち止まる訳にはいかへんのや!)お優は、“先生”から親子の証として渡されたロザリオを握り締めた。「今夜は新月かぁ・・何だかこんな夜には、鬼が出てきそうで嫌だなぁ。」「鬼、ですか?」「あぁ、君は知っているかな、新月の夜に出没する鬼。何でもそいつらの髪は銀色で、瞳は血のように赤いんだって・・て、もう聞いていないか。」総司はそう言うと、隊士を斬り伏せた“鬼”を睨んだ。「へぇ・・本物の鬼って、随分華奢なんだね?」「抜かせ!」そう叫んだ鬼―お優は総司と斬り結んだ。「なかなかやるね。」にほんブログ村
2020年07月28日
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漸く長かったこのシリーズが完結するとは…リアルタイムで読んでいなかったのですが、完結したことを知り図書館で読みはじめ、勝利とかれんの関係が一気に進展して、あの不幸な事故のことも解決して良かったです。 ラストシーンでの海岸の勝利とかれんの会話、抜けるような青空のなかでの美しい2人の姿…完結して嬉しいですが、寂しくもあります。
2020年07月28日
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千代乃は何者かに拉致された後、哈爾浜(ハルビン)へと流れ着き、そこで妓楼の女将をしているという。(千代乃、やっとお前に会える・・) 歳三はそっと、首に提げているロケットを握り締めた。それは、千代乃と二人きりで自分の誕生日を祝った夜に、互いの髪を入れて贈り合ったものだった。『たとえどんなに俺達が離れていても、心は一緒だ。』『はい。』 千代乃は今も、このロケットを持っているのだろうか。「哈爾浜、哈爾浜~」 汽車が哈爾浜駅のホームに停まると、乗客は次々と降りてゆき、残ったのは歳三と武乃だけとなった。「降りないんですか?」「済まねぇ、今から降りる。」 二人は汽車から降りると、それぞれ目的地へと向かって歩き出した。「お客さん、哈爾浜は初めてで?」「あぁ。この町で一番大きな妓楼を知っているか?」「それなら、“満韓楼”ですよ。あそこは料理もサービスも最高なんですよ。前は朝鮮人の女将がやっていたんですが、今は日本人の女将がやっていますよ。」 気前良くお喋りなタクシー運転手は、そう言うと歳三に満韓楼の地図を渡してくれた。「あそこだ・・」タクシーから降りた歳三は、そのまま満韓楼へと向かった。 運転手が描いた地図は、正確だった。 朝鮮風の建物に、立派な“満韓楼”の看板が掲げられていた。 歳三が店の前に行くと、店はまだ準備中のようで、店の前では洋服姿の娘が水撒きをしていた。「すいません、まだお店は開いていないんです。」「女将に用があるんだが、女将は居るか?」「女将さんなら、怪我をして今入院中です。」「そうですか。わたしは、女将の知り合いです。女将に会いたいのだが・・」「あ、お待ちください、今女将さんが入院している病院の住所が書かれたメモをお渡し致します。」娘はそう言うと、慌てて店の中へと引っ込んでいった。 暫く歳三が外で待っていると、先程の娘がメモを持って来た。「お待たせ致しました、これが、女将さんが入院している病院の住所が書かれているメモです!」「ありがとう。」 歳三は娘に礼を言うと、千代乃が入院している病院へと向かった。「すいません、こちらに入院している千代乃さんの面会に来たんですが・・」「千代乃さんなら、204号室に入院していますよ。」「ありがとうございます。」 歳三が、千代乃が入院している病室へと向かうと、千代乃は本を読んでいた。「千代乃・・」「歳三様・・」歳三の姿を見た千代乃は、驚きの余り読んでいた本を落としてしまった」。「どうして、わたしがここに居るとわかったのですか?」「興信所で、お前の事を調べさせた。どうして入院なんかしているんだ?」「実は・・」 千代乃が歳三に入院するまでの経緯を話すと、歳三は渋面を浮かべた。「色々とあったんだな・・」「えぇ。歳三様、お元気そうで何よりです。」「いつ退院できるんだ?」「傷は大した事はないので、あと数日で退院出来ます。」「そうか。お前が留守にしている間、満韓楼の事は俺に任せておけ。」「わかりました。」 千代乃と病院で再会を果たした後、歳三は満韓楼に戻り、妓生達を居間に集めた。『あらぁ、良い男じゃないの。』『色男ねぇ。』妓生達がそんな話をしていると、歳三が突然朝鮮語で挨拶を始めた。『はじめまして、俺は女将の恋人で、女将が留守の間満韓楼の支配人を務める事になった土方歳三だ、よろしくな。』『えぇ、女将さんの恋人!?』『嘘でしょう!?』 ファヨンが思わずそう叫ぶと、彼女と目が合った歳三は、彼女にニッコリと微笑んだ。『トシゾウ様、少しよろしいですか?』『何だ、今忙しいんだが・・』『帳簿を確認しながらでもよろしいので、俺の話を聞いて下さい。トシゾウ様、先程のような事は二度となさらないで下さい。ここは女所帯です、変な揉め事を起こしてはなりませんから・・』『わかった。』『チヨノ様が入院中の間、わたしが僭越ながらトシゾウ様のお手伝いをさせて頂きます。』ユニョクはそう言うと、歳三に向かって頭を下げた。『これからよろしくお願い致します、トシゾウ様。』『あぁ、よろしくな、ユニョク。』『はじめに言っておきますが・・余り勝手な事をされては困ります。』『わかったよ・・』(何だか、口煩い奴だな・・)(本当にこの男に、チヨノ様の代わりが務まるのだろうか?) 歳三とユニョクの互いの第一印象は、最悪なものとなった。 その日の夜、満韓楼の支配人の顔見たさに、沢山の女性客がやって来た。『珍しいわね、こんなに女性客が来るなんて・・』『そうね。』にほんブログ村
2020年07月27日
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病院の廊下で偶然恋人と再会したファヨンは、彼と共に近くの喫茶店へと向かった。「コーヒーを二つ。」「かしこまりました。」 ファヨンはソファの上に腰を下ろすと、漸く恋人―ヨンイルの顔を見た。「まさか、あんな所で貴方に会えるなんて思いもしませんでした。」「俺もだよ。どうして病院なんかに居たんだ?」「わたし、今満韓楼っていう妓楼で働いているの。そこの女将さんが怪我をしてそのお見舞に・・ヨンイル様はどうして病院に?」「母が、あそこに入院しているんだ。」「お母様が・・」 恋人の話を聞きながら、ファヨンは彼の母親と初めて会った日の事を思い出した。 ファヨンは母親と共に恋人・ヨンイルの家で使用人として働いていた。 ある日ファヨンは、空腹の余り厨房に置かれてあったクッキーをつまみ食いしてしまった。 その事を知ったヨンイルの母は、幼いファヨンの身体を容赦なく鞭打った。“この泥棒娘!” ファヨンは、あの時見た彼女の顔が怖くて仕方なかった。「お母様、何処かお悪いのですか?」」「あぁ、母は精神を病んでしまったんだ。」「あの奥様が?」「母は数年前から、自分だけの世界の住人となってしまったんだ。」「そうですか・・」ファヨンはそう言うと、ヨンイルが自分を見つめている事に気づき、頬を赤く染めた。「ファヨン、結婚は?」「いいえ・・ヨンイル様は?」「いいや、まだしていない。出来れば、お前と結婚したいと思っている。」「ヨンイル様・・」「昔から、お前だけだ・・結婚したいと思った女は。」「嬉しい・・」ヨンファはそう言うと、ヨンイルと手を握り合った。 一方上海では、留こと武乃が厳しい修行を終えて“一本”の日を迎えていた。「女将さん、支度出来ました!」「そうかい。」「女将さん、失礼致します。」 女将の部屋に入って来た武乃は、美しい紋付の留袖に、加賀友禅の帯を締めていた。「あぁ、わたしが思った通りだ!武乃、そこへお座り。」「はい。」そう言って女将の前に座った武乃からは、あの粗末な紺の絣を着た貧しい少女の面影はとうに消えていた。「青森からあんたがここに来てからもう二年・・あたしはあんたが立派な芸妓になると信じていたよ。」「ありがとうございます。」「これからが気の引き締め時だよ。あんたはこのまま終わるような子じゃない。」「はい・・」「そこでだ、あんたには哈爾浜(ハルビン)へ行って貰う。そこで置屋を一軒、あんたに任せたいんだよ。」「わかりました。」「大丈夫、あんたなら出来る。」 こうして、武乃は哈爾浜へ行く事になった。「さぁ、気張って行っておいで!」「はい。」 駅で女将と仲間達に見送られながら哈爾浜行きの列車に飛び乗った武乃は、そこで黒髪紫眼の青年と出会った。「ここ、いいですか?」「どうぞ。」(あんれ、えれぇめんこい男だぁ!)武乃がそう思いながらその男に見惚れていると、その男―土方歳三は、興信所からの書類に目を通していた。 それは、千代乃の近況が書かれたものだった。にほんブログ村
2020年07月27日
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シャーロットから拒絶された青年は、無言でその場から立ち去った。『お祖母様、あの人は・・』『彼はお前とは一切関わり合いのない奴よ。』『は、はい・・』 シャーロットが中庭から去った後、千はジョンにあの青年の事を尋ねたが、適当にはぐらかされてしまった。『あぁ、チャールズ様かい?あの方は、とっくにこの家から勘当されたんだよ!』『どうして勘当されてしまったのですか?』『あの方は大の博打好きでねぇ、大奥様はそれにお怒りになってねぇ・・』 料理番のチェイスが菜園で野菜を収穫するのを手伝いながら、千は彼女の話に耳を傾けた。『チヒロ様、こちらにいらっしゃったのですか?』 レイノルズ伯爵家執事・アッシュは、そう言いながら菜園に入って来た。『大奥様がお呼びですよ。』『わかりました。』千がアッシュと共にシャーロットの部屋へと向かうと、彼女は渋面を浮かべながら何かを読んでいた。『お祖母様、失礼致します。』『お入り。』『お話とは何でしょうか、お祖母様?』『チャールズの事だが、あの者はもうこの家の者ではないから、余り関わらない方がいい。』『はい、わかりました。』『あいつの事はチェイスから色々と聞いているだろうから、もうわたしの方からは何も言わないよ。それよりも、今年のクリスマスの事だが・・』 千がレイノルズ伯爵家へやって来てから半年が過ぎ、レイノルズ伯爵家にとって一年で最も賑やかな季節―クリスマスがやって来た。『チヒロ、メリークリスマス。』『お祖母様、メリークリスマス。』『こうして家族揃って食事をするのは久しぶりだね。神に感謝を!』『神に感謝を!』 乾杯の合図と共に、レイノルズ伯爵家の華やかなクリスマスパーティーが始まった。『チヒロ、パリからお前宛に小包みが届いているよ。』『ありがとうございます、お祖母様。』 シャーロットから小包みを受け取った千が自室でそれを解くと、そこには美しい真紅の包装紙に包まれた有名宝飾メーカーの箱があった。 その箱を開けると、そこには美しいアメジストのネックレスが入っていた。『一足早い誕生日プレゼントだと思って受け取ってくれ。メリークリスマス -T-』 そのメッセージカードを読んだ時、千は誰がこのネックレスを自分に贈ったのかがわかった。(土方さん、メリークリスマス。) 一方、パリでは、歳三はブリュネと共にある貴族のパーティーに出席していた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2020年07月26日
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本屋大賞受賞作品。 好きなyoutuberさんの書評を読んで購入してから2ヶ月経ってから手に取り、先ほど読了しました。 世間の「常識・決めつけ」に苦しめられる文と更紗。 読み終わった後の清々しい読後感は、世間のしがらみから解き放たれた二人の姿を見たからでしょうか。
2020年07月24日
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この人の作品はいくつか読みましたが、最後まで気が抜けない医療ミステリーでした。 機会があったら、またこの人の作品を読んでみようと思います。
2020年07月24日
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生まれつき感情を司る脳の器官が小さく、喜怒哀楽の感情がないユンジェ。 祖母と母と三人でつつましい暮らしを送っていたが、通り魔に襲われた祖母が死亡、母親は意識不明の重体に。 そんな中、ユンジェとは対照的に、感情を爆発させる少年・ゴニと出会い…ゴニとユンジェの奇妙な交流は、互いに二人がたらないところを補い合っているかのようでした。 人間を救うのは「愛」だと、作者が読者のわたし達に伝えているような気がしました。
2020年07月24日
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天然塩の生産地として知られる離島で起きた、連続殺人事件。知的障碍者が奴隷のように働かされているという噂を聞き、テレビ記者のヘリは後輩カメラマンと共に離島へと赴いたが・・閉鎖的な離島での力関係、警察との癒着・・衝撃的な結末に息を呑みましたね。連続殺人犯が離島に潜入していたとは・・しかし、事件の真実は明らかにされず、塩田所有者親子が犯人となってしまい、真犯人は野放しに。彼らは死んでいるので、まさに「死人に口なし」ですね。ヘリを犯人扱いするネットの書き込みも酷い・・まさしく誹謗中傷で人を殺す「指殺人」そのものですね。韓国映画はこの作品にも何作か観ていて、どれも後味悪いのですが、韓国社会が抱える闇を見たような気がします。
2020年07月21日
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家出娘・ナオミを家へ連れてゆき、彼女を一流の女へと育てようとする譲治。いつの世も女は男より一枚も二枚も上手でした。まぁ、こういう愛の形があってもいいのかもしれませんね。
2020年07月21日
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突然ですが、あなたには気心が知れた友人が居ますか?と、そういう質問をされてもはっきりと答えられない人が多いのではないでしょうか。私事ですが、幼少期にわたしが住んでいた家の近所には、怖いお爺さんが居ました。ですが、わたしはそのお爺さんが何故か好きでした。横道がそれましたが、今回は「年齢を超えた友情物語」を紹介した二つの作品を紹介したいと思います。まずは、湯本香樹美さんの「夏の庭」。中学受験を控えた小学生四人は、ある日、独り暮らしのお爺さんが死ぬまでを観察しようと言い出し、毎日そのお爺さんの観察をすることにする。ひょんなことからそのお爺さんと親しくなった彼らだったが・・この作品には、「死」という残酷な別れが待っていますが、その先は彼らがお爺さんとの友情を経て成長した姿が描かれます。二つ目は、梨本香歩さんの、「西の魔女は死んだ」中学生になり、人間関係に疲れたまいは、母方の祖母である「西の魔女」の家で暫く暮らすようになる。彼女から魔女修行を受けたまいは、少しずつ成長してゆき・・この作品にも、まいと魔女との別れは、「死」によるものですが、「夏の庭」とは対照的に残酷な描かれ方ではなく、綺麗なものでした。年齢を超えた友人との友情、共に過ごした日々の先には、必ず避けられない「死」があります。しかし、彼らとの別れがあり、彼らの肉体が滅びても、その魂は共にあるのだと思います。
2020年07月21日
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東京ディズニーランドを舞台にした作品。人気テーマパークの裏側って、大変なんだなあと思いました。どんな会社にも階級社会というものがあり、正社員と準社員との軋轢も描かれていて見事だと思いました。
2020年07月21日
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最近コロナウィルスで自粛生活を強いられている時に、県外ナンバーの車に石を投げたり、各自治体のガイドラインに沿って営業している飲食店への嫌がらせをする「自粛警察」、マスクをしない人を一方的に罵倒する「マスク警察」などが注目されていますが、数年前にいじめをテーマにした児童書「Wonder」を読んで、正義とは何なのかを考えてしまいました。この作品の主人公・オーガストは、スターウォーズオタクの、先天性疾患で顔に奇形がある事以外は普通の男の子です。学校に通い出したオーガストは、その見た目ゆえに一部のクラスメイト達からいじめを受けますが、それと比例して彼の内面を理解する友人達も増えてきます。児童書なので後味の悪い結末ではないのですが、いじめの加害者・ジュリアンは、読者から憎まれる存在となってしまいました。彼のしたことを考えれば当然なのですが、現実社会でいじめの加害者に対するネット上でのバッシング行為(加害者の住所氏名、自宅の住所や写真、両親の顔写真や職場の住所や連絡先の暴露)は、正直やりすぎかなと思っています。そういうわたしも、動物虐待犯に対する怒りのツイートや、いじめの加害者に対して口汚く罵るツイートをしてしまいますので、余り偉そうなことは言えませんが。そんな中で一番心に響いたのは、ブレイディみかこさんのエッセー「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の中で、学校でのいじめ問題をこう捉えたブレイディみかこさんの息子の言葉です。人はいじめるのが好きなんじゃない、人を罰するのが好きなんだ。確かに、芸能人の不倫や、母親が我が子を虐待して死なせた事件などを聞くと、皆一斉にバッシングしたくなるのは、人を罰するのが好きなんでしょうね。このエッセーには、ブレイディさんの息子の目から見た、「多様性」の真実を子供ながらの鋭い目線で綴られています。差別や貧困など、多民族国家、階級社会の英国では差別は存在して当たり前。ですが、それと同時に性の多様性を認めるのも当たり前になっています。お前は日本人なのに外国を称賛するのか?と思われてしまうかもしれませんが、日本は未だに同性婚が認められないし、多様性や個性といったものを認めていない。ピアスや金髪、ツーブロックなどの見た目で「不良」と決めつけ、勉強一辺倒で学力や偏差値重視の、日本の学校。個性を認め、かつ自主性を重んじてホームレス支援などの社会福祉活動に取り組む英国の学校。生産性・効率性第一の日本社会では、未だに女性蔑視がまかり通っている。「正義」という名の下に、徹底的に相手を叩くバッシング行為。この二つの作品を読むと、多様性と正義の真実を垣間見たような気がしました。
2020年07月21日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「さぁ有匡様、こちらです。」「わかった・・」雪之丞に連れられ、有匡は約十年振りに土御門本家へと向かった。「誰かと思ったら、有匡殿ではありまへんか?」背後から声を掛けられて有匡が振り向くと、そこには名すら知らぬ親族の男が立っていた。「貴殿とこうして顔を合わせるのは久しいな。どうだ、向こうで茶でも・・」「申し訳ありませんが、先約がありますので。」「何だ、相変わらず愛想のない・・」有匡は雪之丞と共に当主の部屋へと向かった。「有匡様がご到着されました。」「失礼致します。」「おぉ、久しいな、有匡。」有匡が部屋に入ると、そこには亡くなった筈の当主―叔父の姿があった。「これは驚きました、まさか生きていらっしゃるとは・・」「こういう嘘でも吐かぬと、そなたは京(ここ)へは来てくれぬだろう?」有匡の叔父―匡俊はそう言うと、おもむろに有匡の手を握った。「美しい手じゃ、この手を弟に独占されるのは惜しいのう。」「京へとわたしを呼び出した用件はなんですか、叔父上?」「単刀直入に言う。お前を京にまで呼び寄せた理由はお前に家督を継いで貰う為だ。」「父上、我らは認めませぬぞ!」「そうです、こんな奴に家を・・」「黙れ!わたしが実子であるお前達に家督を譲らず、有匡に譲るのはお前達が情けないからだ。」「お言葉ですが叔父上、わたしはこの家を継ぎません。お話が済んだのなら、わたしは江戸へ帰らせて頂きます。」有匡がそう言って立ち上がろうとすると、部屋の外に控えていた男達が部屋の中に雪崩れ込むようにして入って来ると、彼らは一斉に有匡に刃を向けた。「これは一体どういう事なのです、叔父上?」「そなたをこのまま江戸へ帰す訳にはいかぬ。このまま京に居て貰うぞ。」「わかりました・・いつ江戸にわたしは戻れるのですか?」「それはわからぬ。安心しろ、そなたが下手な事をしなければ、すぐにお前を江戸へ戻してやる。」そう言った匡俊は、口端を歪めて笑った。「きゃぁっ!」「お嬢様、大丈夫ですか?」「えぇ・・嗚呼、どうしましょう、旦那様のお茶碗を割ってしまったわ・・」「お嬢様、そんなに心配なさらなくても、有匡様はすぐに京からお戻りになられますわ。」火月の元に毎日のように京に居る有匡から届いていた文が途絶えたのは、彼が江戸を発ってから七日が経った頃だった。有匡が土御門本家の一室に軟禁されてから七日が過ぎた。江戸に居る家族に宛てて文を送れたのは最初の三日だけで、四日目からは土御門家の者達が有匡に文を出す事を禁じた。外との連絡手段を全て遮断され、監視の目が四六時中光っているような生活は、有匡の心を次第に疲弊させていった。「有匡様、朝餉をお持ち致しました。」「要らぬ。」「失礼致します。」雪之丞はそう言うと、有匡の部屋に入った。「勝手に入って来るな!」「申し訳ありません、どうしてもこれをお渡ししたかったので・・」雪之丞はそう言うと、懐から有匡宛の文を取り出した。「奥様からの文です。」「ありがとう。」「・・見張りの者達は、申の刻(午後三時頃)から酉の刻(午後五時頃)まで二度交代があります。抜け出すのなら、二度目の交代が終わってからです。」「そうか。」「では、わたしはこれで。」雪之丞はそう言って頭を下げると、部屋から出て行った。彼は信用できるのだろか―有匡はそう思いながら、雪之丞が運んできた朝餉に手をつけた。一方、江戸の高原家では、火月が夫の安否を確かめる為に京へ行くと言い出し、静馬が慌てて彼女を止めた。「火月、はやまってはいかん!」「ですが兄上、僕は旦那様の事が心配で堪らないのです!せめて、一目無事を確める為にも・・」「ならん。お前がもし命を落とすような事があれば、わたしは有匡殿に顔向けできぬ。」「兄上~!」「火月殿、わたしの倅は新妻であるそなたを悲しませるような男ではない。どうか倅の事を信じてくれないか?」「はい、義父上。」酉の刻、有匡は自分の部屋の見張りが部屋から離れるのを確めた後、夕闇に紛れ土御門本家から抜け出した。春先とはいえ、まだ冬の寒さが残る洛中を有匡が歩いていると、突然彼の前に数人の男達が現れた。「何だ、貴様ら?」「そのほう、土御門有匡殿とお見受け致す。新時代の為、そなたには天誅を下す!」「抜かせ!」有匡はそう叫ぶと、愛刀の鯉口を切った。にほんブログ村
2020年07月21日
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表紙の高杉様にやられました。 小説は相変わらずの面白さでした。
2020年07月20日
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銀魂の原作は未読なんですが、原作を知らなくても小説は楽しめました。 高杉様が格好いいです。 オマケ漫画には吹きましたw
2020年07月20日
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以前はPCで小説を書いていたのですが、最近ここ一年くらいノートに小説を書くようになりました。その理由は、「簡単な漢字を書けなくなった」からです。以前は漢字がちゃんと書けたというのに、PCでの入力に頼り過ぎて、スマホで調べないと簡単な漢字も書けなくなってしまったのです。「このままだと駄目だ!」と思い、ノートに小説を書いては、漢検準一級・一級レベルの漢字を全て書けるようになろうかなと思っています。それに、ノートに小説を書きながらだと構想が浮かぶので、脳の刺激にもなるかな。更新が遅くなるのは仕方ありませんが・・
2020年07月20日
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一週間の自宅謹慎中、歳三は身体が鈍らぬよう、素振りをブリュネ邸で行う事にした。 朝の空気の中で素振りを行っていると、なんだか試衛館の頃に戻ったようだった。『イジカタさん、おはようございます。』『ブリュネさん、おはよう。』歳三が素振りを終えてリビングルームに入ると、ブリュネがそう彼に挨拶した後、一通の手紙を手渡した。『この手紙は、先程あなた宛に届きました。』ブリュネから手紙を受け取ると、差出人の名前は、“チヒロ=レイノルズ”と書かれていた。『ありがとう。』ブリュネから手紙を受け取り、歳三は自室で千の手紙を読んだ。『拝啓土方歳三様、ブリュネさんからあなたが軍で性的嫌がらせを受けた事を知り、あなたが心配で手紙を書きました。僕は毎日が忙しくて目が回りそうですが、何とかやっています。どうか、こんな事で屈しないで下さい。』歳三は微笑んだ後、千からの手紙を大切そうに机の引き出しの中にしまった。「大奥様、失礼致します。」「フランツ、あの子はどう?」「彼は良くやってくれていますよ。日々努力していますし、勉強家です。」「そう‥彼はきっと、良い意味でこの国を変えてくれることでしょう。」「わたしも、そう思っておりますよ。」 シャーロットはフランツと共に窓の外を見ると、そこには庭園でレイノルズ家の猟犬と戯れている千の姿があった。『犬の扱いがお上手でいらっしゃいますね。今まで犬を飼育された事が?』『いいえ、でも動物が好きなんです。』『そうですか。犬は賢いですからね、動物好きな人はすぐにわかるのでしょう。』 レイノルズ伯爵家の猟犬番・ジョンが千とそんな話をしていると、邸の中から背が高い乗馬服姿の青年がこちらにやって来る事に気づき、慌てて彼は目を伏せた。『誰かと思ったら、青い血を汚した女の息子じゃないか。』青年はそう言うと金色の睫毛を揺らしながら、蔑んだような目で千を見た。『初対面だというのに、失礼な方ですね。あなた、お名前は?』『使用人風情が、僕に偉そうな口を利くな。』青年はそう言って千を手に持っていた乗馬鞭で叩こうとしたが、その前に千が彼に足払いを喰らわせた。『ごめんなさい、足が滑ってしまいました。』『貴様、よくも・・』『チャールズ、一体何の騒ぎなの!?』『大奥様、これはご機嫌麗しゅう・・』『お前の顔など見たくもない、さっさとここから出ておゆき!』この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2020年07月20日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「リチャード、待って!」黒谷へと文を届けに行くだけだったのに、リチャードは女装したヘンリーを彼の自宅まで送り届ける羽目になってしまった。「おい、黒谷へ使いはどうする?」「済まないが、お前一人で行ってきてくれないか?」「わかった・・何やら、訳有りのようだしな。」バッキンガムはそう言った後、ちらりと横目でヘンリーを見て雑踏の中へと消えていった。「ねぇ、これから何処行くの?」「お前を家まで送る。」「そんな・・すぐに君と離れるのは嫌だよ。」「そう言われてもな・・」「お願い、一緒に居てよ、リチャード・・」ヘンリーは蒼い瞳を涙で潤ませながら、上目遣いでリチャードを見た。「・・わかった。」「やったぁ~!」先程の涙は何処へやら、ヘンリーは満面の笑みを浮かべていた。(こいつは何をやってもあざとく見える・・そう見せているだけなのか、それとも・・)「リチャード、喉が渇いたよ。」「じゃぁ近くの井戸にでも・・」「あ、あそこの茶店で何か食べようよ!」「こらヘンリー、待て・・」茶店に入ったヘンリーは、嬉しそうな顔をして団子を食べていた。「おいしいね、リチャード!」「ヘンリー、まだ食べるつもりか?」「うん!」「もうそれで五本目だぞ?いい加減食べるのを止めないと太るぞ。」「わかったよ・・」ヘンリーはそう言うと、溜息を吐いた。そんな彼の顔を見ていると、リチャードは思わず団子を一本注文しようとしたが、やめた。「ねぇリチャード、僕の格好、おかしいかな?」「おかしくないぞ?何か言われたのか?」「ううん、ただ通りすがりの人にジロジロと見られるんだ。」「そうか・・」はた目から見れば、ヘンリーは良家の令嬢にしか見えない。そんなヘンリーと、若侍姿のリチャードは、何処からどう見ても幼馴染の男女とお嬢様と使用人にしか見えない。「ねぇ、どうしたのリチャード?さっきから黙ってばかり・・」「いや、何でもない。日が暮れる前にここを出るぞ。」「うん、わかったよ。」リチャードがヘンリーと共に京の町を歩いていると、そこへバッキンガムがやって来た。「何だ、この娘とまだ居たのか?」「リチャード、あの小物屋に入ろうよ!」「おい待てヘンリー、急に引っ張るな!」小物屋へと向かったヘンリーは、簪や櫛を手にとっては蒼い瞳をキラキラと輝かせていた。「わぁ、これ可愛いなぁ。」「そんな事言っても、買わないぞ。」「店主、これは幾らだ?」バッキンガムはそう言うと、ヘンリーが持っていた紅い櫛を買った。「これはあんたに。」そう言って、バッキンガムはリチャードに桜を象った簪を彼女の髪に挿した。「あんたの黒髪によく映える。」「・・そんな物、要らない。」「許嫁からの贈り物だ、受け取れ。」「・・わかった。」リチャードは バッキンガムにそう言うと、照れ臭そうに笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 リチャードの前に突然現れた許嫁と名乗るバッキンガムは、その日からまるで金魚の糞のようにリチャードに付きまとうようになった。「おいバッキンガム、毎日俺につきまとっていても、俺はお前と結婚する気はないぞ。」「そんな事はわかっている。ただ俺は、あんたの傍に居て、あんたがどんな女なのかを観察したいだけだ。」バッキンガムはそう言うと、金色の瞳を光らせながらリチャードを見た。「土方さん、いいんですか、あいつ放っておいても?」「放っておくも何も、藩主の姫君様を無碍にすることは出来ねぇだろうが。」「違いますよ。僕が話しているのは、彼女に最近つきまとっている奴ですよ。」総司が指した方を見て、土方は漸くバッキンガムの存在に気づいた。「リチャード、お前に至急頼みたいことがある。この文を黒谷へ届けてきてくれないか?」「わかりました。」「それならば、俺も共に行こう。」土方はリチャードからバッキンガムを引き離そうとしたのだが、その目論見は無駄に終わった。「リチャード、そいつは誰だ?お前の知り合いか?」「副長、彼は・・」「俺はバッキンガム公ヘンリー=スタフォード、リチャードの許嫁だ。」「許嫁ぇだと?じゃぁお前が家を出た理由がこいつか?」「まぁ、端的に言えばそういう事になります。」「そうか。それでバッキンガム、お前はいつまでここに居るつもりだ?」「さぁな。俺はリチャードが居る限りここに居るつもりだが、何か問題でも?」「別に問題はないが・・」「そうか、ならば俺はこのままここに居る事にしよう。」バッキンガムと土方の会話を聞いていた総司は、少し嬉しそうな顔をしていた。「ねぇ、土方さんがあんなに気圧されるなんて珍しくない?」「そうだな。今日は空から槍が降ってきそうだな。」 結局、リチャードは、バッキンガムと共に黒谷へと文を届けに行くことになった。「お前はいつもそんななりをしているのか?女子でありながら、勿体ないな。」「言っただろう、俺は女子としての幸せは望んでいないと。女子は髪を美しく結って、美しく着飾って夫の帰りを待つ・・そんな平凡で退屈な人生は真っ平御免だ。」「そうか。だからあんたの両手のタコは男になりたい証なのか。」バッキンガムはそう言うと、リチャードの両手に残る竹刀ダコを見た。竹刀ダコの他に、刀傷が白魚のような両手に幾つも残っていた。「お前には関係のない事だ。」リチャードは己の手を握っているバッキンガムの手を邪険に払うと、先を急いだ。あと少しで黒谷に着くという時、娘の甲高い悲鳴が向こうから聞こえてきた。「一体何の騒ぎだ?」リチャードとバッキンガムが、悲鳴が聞こえた方へと向かうと、そこには美しい振袖姿の娘と、その供と思しき女性が不逞浪士と思しき数人の男達に絡まれていた。「弱い者いじめとは感心しないな。」「何だぁ、若造はひっこんじょれ!」「田舎侍がほざくな。」愛刀の鯉口を切ったリチャードを見たバッキンガムは、すかさず彼女に助太刀した。「おい、こんな所で無駄な殺生をするなよ?」「安心しろ、全員峰打ちで片付ける。」バッキンガムはリチャードの言葉を聞くなり、笑った。路上に無様に転がされた浪士達を軽く足蹴にしたリチャードは、恐怖で震えている娘に手を差し伸べた。「もう大丈夫だぞ。」「リチャード、助けてくれてありがとう!」その娘―もとい女装したヘンリーは、そう叫ぶとリチャードに抱き着いた。「ヘンリー、お前その格好はどうした?」「リチャードに会いたくて、少しお洒落したんだ、似合う?」 ヘンリーはそう言った後、嬉しそうに真新しい振袖をリチャードに見せた。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。リチャードが藩邸から姿を消したことを知ったセシリーは半狂乱となった。「あぁ、あの子に何かあったら・・」「母上、リチャードは心配要りませんよ。わたし達よりもリチャードは強く逞しい娘です。」「何を寝ぼけた事を言っているのです、エドワード!」セシリーはそう叫ぶと、家臣達にリチャードの消息を探るよう命じた。「母上はリチャードに対して過保護すぎる。あいつが普通の女子の幸せなど望まないことくらい、俺達でも知っているというのに。」「そう言うな、ジョージ。母上は母上なりにリチャードを心配されているのだ。」エドワードは溜息を吐いてすっかり冷めてしまった茶を飲んだ。同じ頃、新選組隊士となったリチャードは、屯所に隣接する道場で稽古に励んでいた。「次!」自分よりも倍の大きさがありそうな程の大柄の隊士を倒したリチャードは、汗ひとつかいていなかった。「やるねぇ、あの子。まぁ、あれほどの剣術の腕前なら当然か。」リチャードの稽古の様子を遠巻きに見ていた沖田は、そう言うと溜息を吐いた。「それにしても、あの土方さんが良くあの子の入隊を許したよなぁ。」「藩主の姫君様だから、無下にできなかったんだろう。まぁ、向こうは特別扱いしないで欲しいって言っていたからな。」原田と藤堂は道場の隅でそんなことを話しながら、昨夜リチャードが屯所へやって来たことを思い出していた。「ここへ入隊してぇだと?」夜遅くに新選組屯所の門を叩いたリチャードに待っていたものは、驚愕の表情と戸惑いの表情がない交ぜになった土方の顔だった。「何でも、親が望まない縁談を持ってきたから、それで家出したんだそうです。」「家出ねぇ・・仮にも藩主の姫君様が、大胆な事をしやがる。」土方はそう言うと、眉間に皺を寄せ、溜息を吐いた。「まぁいいんじゃないんですか?この子の剣術の腕は確かなものだし、それに身分を隠していれば周りにはバレませんよ。」「それはそうだが・・誰かの小姓にでもしなきゃぁ収まりがつかねぇだろうが。」「それは言い出しっぺの土方さんが面倒を見ればいいでしょう?」「総司、てめぇ・・」こうして、リチャードは土方付の小姓として新選組に入隊を果たしたのだった。稽古の後、リチャードが井戸で額に浮かんだ汗を拭っていると、そこへ一人の青年がやって来た。「もし、ここが新選組の屯所か?」「あぁ、そうだが・・貴殿は?」「自己紹介が遅れた。俺はヘンリー=スタフォードと申す。」青年はそう言って被っていた笠を脱ぐと、金色の瞳でリチャードを見つめた。「新選組に何か用か?」「ここを訪ねたのは、新選組に用があるからじゃない。あんたに用があるからだ、リチャード。」青年はリチャードとの距離を詰めると、彼女の前髪を掻き上げ、その下に隠していた左目を露わにした。「ヨーク藩主が溺愛している一ノ姫は、左右違う色の瞳を持っていると噂に聞いた。なるほど、美しい瞳をしているな。」「貴様、何者だ!?」「まさか、自分の縁談相手の名を忘れたわけではあるまい?」―女の幸せは良い人と結婚し、その人との子を成して育てることです!それが女として生まれたお前の幸せなのよ!「俺は女の幸せなど要らない。悪いが俺の事は諦めてくれ。」「面白い。俺は高貴で扱いにくい女が好きだ。」ヘンリー・スタッフォード、バッキンガム公はそう言うと口端を上げて笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―リチャード・・闇の中から、誰かの優しい声が聞こえてくる。―リチャード・・リチャードが目を覚ますと、そこにはあの日の雪山で出会った、美しい鬼の姿があった。彼女は金色の瞳でリチャードを見つめると、そっと彼女を優しく抱きしめた。―こんなに大きくなったのね。鬼の声は、どこか嬉しそうでいて、切ないものに聞こえた。(貴女は誰?)―また、会いましょう・・「待って!」リチャードが鬼に向かって手を伸ばそうとすると、そこに広がるのは漆黒の闇ばかりだった。(夢か・・)京に来てから、リチャードはよく幼い頃雪山で会った美しい鬼の夢ばかりを見る。夢の中の鬼は、いつも自分に優しかった。まるで彼女は、リチャードを実の子のように優しく接してくれた。母の愛に飢えているリチャードは、夢の中で鬼に甘えていた。(あの人が自分の母親だったらいいのに。)そんな馬鹿な事を考えながら、リチャードは再び目を閉じて眠った。「リチャード様、起きてください。」「どうした、ケイツビー。朝早くから俺のところに来るとは珍しいな?」「セシリー様がいらっしゃいました。」「母上が?父上と共に国元に居るのではなかったのか?」「詳しくはわかりませんが、お支度をなさいませ。」国元に居るはずのセシリーが突然上洛し、訳が分からぬままリチャードはケイツビーと女中達に身支度を手伝って貰い、ケイツビーと共に彼女は兄達が待つ部屋へと向かった。「失礼いたします、兄上。」「リチャード、久しいわね。元気そうで何よりだこと。」上座に座ったセシリーはそう言うと、華やかな着飾ったリチャードを見て嬉しそうに笑った。「母上、何故突然上洛などされたのです?」「母が子に会うことに何か理由でもあるのかしら?それよりもリチャード、お前は相変わらず剣術にうつつを抜かしているそうね?ジョージから聞いたわよ、御前試合で男達を打ち負かしたとか・・」「母上、わたしは・・」「わたしは今までお前を甘やかしてきたわ・・剣術にお前が夢中になっていることを知ったとき、わたしはいずれ飽きるだろうと思っていた・・でもそれは大きな間違いだったわ!」セシリーはそう叫ぶと、苛立ちを紛らわせるかのように脇息を叩いた。「これ以上お前を好きにさせてはいけない。お前を国元へ連れて帰ります。」「母上、それだけはおやめください、俺は・・」「立場をわきまえなさい、リチャード!お前がどれだけ剣術や武術の腕を磨いても、女であるお前が戦場に立つことはできないの!女の幸せは良い人と結婚し、その人との子を成して育てることです!それが女として生まれたお前の幸せなのよ!」「そんな生ぬるい幸せなど俺には不要です、母上!」リチャードはそう叫ぶと、部屋から飛び出した。(女の幸せなどクソ食らえだ!俺は母上のように髪を簪で飾り、美しい衣を着てひたすら夫の帰りを待つ女になどなりたくはない!)乱暴に櫛と簪を抜き取り、結い上げられた髪を崩したリチャードは、鏡台の中に映る己の顔を見た。リチャードは両親や兄達の誰とも似ていない。金髪碧眼の中で、リチャードだけが黒髪で左右違う色の瞳をしている。その所為で母には疎まれ、周囲の者たちからは鬼の子だと畏怖されていた。これ以上ここに居たら、母に無理矢理国元へ連れ戻され、飼い殺される日々が待っているだけだ。女としての幸せなど要らない、自分が欲しているのは戦場で鮮血を浴びながら戦う男としての幸せだ。もうここには居たくない―そう思ったリチャードは、夜明け前に藩邸を飛び出した。彼女が辿り着いた先は、新選組屯所だった。「頼もう!」「何だ、道場破りかと思ったら君か。ここに何の用?」「俺を新選組に入隊させてくれ。」「へぇ・・何だか面白そうだから、話を詳しく聞こうか。」沖田は緑の瞳を閃かせると、そう言ってリチャードを屯所の中へと招き入れた。「“探さないでください”か・・」「リチャードを探さなくてもよろしいのですか、兄上?」「大丈夫だ、あいつの事だからまた何処かで会うこともあるさ。」にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。リチャードが会津藩の御前試合に出場した数日後、彼女宛にセシリーからの文が届いた。「姫様、奥方様は何と?」「読まなくてもわかる。女子ならば武道にうつつを抜かしていないで花嫁修業をしろ、女子らしく生きろと、どうせ小言ばかり長々と書き連ねているのだろう。」「奥方様は奥方様なりに姫様の事を心配してんだなし。」「さぁ、どうだか。」爺やが淹れてくれたお茶を飲みながら、リチャードはあの時自分が助けた金髪の優男・ヘンリーの事を想っていた。自分と同い年くらいだったが、彼は男の癖に頼りなかった。あれでは、一度も刀を振るったことがないのだろう。あんな奴でも男として生まれれば家を継ぐことが出来るのだから、理不尽過ぎる。「姫様?」「少し俺は出かけてくると兄上達に伝えておいてくれ。」そう言ってリチャードは自室に入ると、刀掛けに置かれている大小を腰に帯び、そのまま縁側を通って裏口から外へと出た。以前京見物した時は髪を結い、振袖姿で頭が重くて動きにくかったが、男装姿だと動きやすい。それに、男装していると周囲になめられないで済む。「おこしやす。」「リチャード、また会えたね!」鍵善の中に入ると、ヘンリーがそう言ってリチャードに抱きついた。「また君にここで会えると思ったから待っていたんだ。そしたら、また君に会えた!」「ヘンリー、離れろ、苦しい。」「ごめん、君に会えて嬉しくてつい・・」ヘンリーはそう言うと、慌ててリチャードから離れた。「それにしてもお前、何故店に入ったとき俺だとわかったんだ?お前と初めて会った時、俺は振袖姿だったろう?」「君の瞳を、憶えていたんだ!」「俺の、瞳?」「うん。リチャードの瞳はとっても綺麗だから、姿が変わっても君の瞳を憶えていたから、一目で君だとわかったんだ!」「そ、そうか・・」リチャードは少し恥ずかしそうに俯いた。今まで左右の瞳の色が違うことでセシリーから忌み嫌われたり、女中達から気味悪がられたりしていたが、その瞳を綺麗だと言われたことは初めてだった。「ねぇリチャード、これから何処に行こうか?」「俺は別に行きたいところなんてないから、お前に任せる。」「じゃぁ僕、君と一緒に行きたいところがあるんだ!」そう言ってヘンリーは、躊躇いなくリチャードの手を掴むと、店から出た。彼が向かった先は、八坂神社だった。「まだ桜が咲いてないよ、リチャード。満開の桜を君と一緒に見たかったのに。」「桜が咲くのはまだ先だ。それよりもこんな所に居たら風邪をひく、戻ろう。」「うん・・」ヘンリーが少し落胆した表情を浮かべながら石段を下りようとした時、彼は足を滑らせてバランスを少し崩してしまった。「危ない、ヘンリー!」「リチャード!」リチャードは咄嗟にヘンリーを自分の方へと引き寄せたが、その弾みでリチャードもバランスを崩してしまい、ヘンリーの上に倒れてしまった。「大丈夫か?」「うん・・リチャードも、大丈夫?怪我はない?」「ああ。」リチャードはそう言って頬を羞恥で赤く染めると、慌ててヘンリーの上から退いた。「ねぇリチャード、また会えるよね?」「あぁ。」「もう帰らないと・・また爺やに叱られちゃう!」ヘンリーは急いで立ち上がると、そのまま石段を駆け下りた。「リチャード、じゃあね!」「あぁ、またなヘンリー!」八坂神社の前でヘンリーと別れたリチャードが藩邸の裏口からこっそりと自室へと戻ろうとした時、彼女は運悪くケイツビーに捕まってしまった。「姫様、そのような格好をなされて・・また、男装をして町に行っていたのですね?」「ケイツビー、何故それを知っている?」「貴女の事は幼少の頃から見てきましたから、貴女が日頃何をなさっているのかは大抵把握できます。それよりも姫様、大小を腰に差して出歩くのはおやめください。貴女様に剣の腕があるとは言え、もし貴女の大事なお身体に傷がついたとしたら、わたしは命を代えてお詫びするしかございません。」「わかった、次からは気を付ける。ケイツビー、今から着替えをするから出ていけ。」「わかりました。では姫様が着替えを済ませるまで、外で待っています。」漸くケイツビーの小言から解放され、リチャードは安堵のため息を吐いた。一方、ヘンリーは風邪をひいて寝込んでしまっていた。「若様、お粥を作りましたよ。」「ありがとう。」「若様は体が弱いのですから、無理をしないでくださいよ。若様に何かあったら、奥方様にわしらが叱られてしまいますからね。」にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。京見物で謎の優男とリチャードが出逢ってから数日が経った。いつものようにリチャードは次兄・ジョージと共に武芸の稽古に励んでいた。「参った!」「有難うございました、ジョージ兄上。」「お前は京に来てからますます武芸の腕を上げたな、リチャード。お前が男として生まれていたら、その名を日の本中に轟かせていただろう。」ジョージはそう言って手拭いで額から流れる汗を拭うと、隣に立っている妹を愛おしそうに見つめた。「俺は女ですが、母上や義姉上のように家の中で大人しく夫の帰りを待つような女にはなりたくはありません。ヨーク家の一員として、戦場で敵将の首を討ち取ってみせます。」「頼もしい事を言うようになったな、お前!貴方もそうお思いになるでしょう、兄上?」ジョージに突然話を振られ、長兄・エドワードは少し困ったような顔をした。「リチャード、お前は武芸に優れているが、女子は勇ましさよりも優美さを身に付ける方がいい。」エドワードはそう言うと、リチャードの汗をそっと優しく懐紙で拭った。「二人とも、稽古の後で腹が減っただろう?爺やが握り飯を作ってくれたから、一緒に食おう。」「はい、兄上。」三人は縁側に座り、爺やが作ってくれた握り飯を美味そうに頬張った。「爺やの作る握り飯は絶品だな。俺でもこうは上手く作れない。」「姫様にそう言っていただけると、作り甲斐があります。」爺やはそう言って皺が目立つ顔をまた皺くちゃにして笑った。「爺や、俺の事を姫様と呼ぶな。」「でも、儂らにとっては姫様だぁ。それよりもエドワード様、先程国元から使者の方がお見えになりました。」「そうか、すぐに行こう。」エドワードはそう言ってゆっくりと立ち上がると、国元からの使者・ウォリックを自室で迎えた。「ご機嫌麗しゅうございます、エドワード様。」「ウォリック、遠路はるばる京までの長旅、ご苦労だった。父上や母上は息災か?」「お二人ともお元気にしておられます。今日こちらに参りましたのは、姫様のご縁談の事でお話があるからです。」「リチャードに縁談だと?相手は誰だ?」「スタッフォード家の嫡男・ヘンリー様です。姫様とはお年が近いので、良き縁組だと奥方様が喜んでおられます。」「母上が決めた縁談を、あいつが首を縦に振ると思うか?」エドワードの問いに、ウォリックは静かに首を横に振った。「その縁談、お断りいたします。」「やはりな、お前ならばそう言うと思っていたぞ、リチャード。」「俺は男として生きたいのです、兄上。顔も知らぬ男の元へ嫁ぎ、婚家に尽くすなどまっぴらごめんです。」「リチャード、これは母上がお決めになられた縁談なのだ。もしお前がその縁談を断ったら、母上の顔を潰すことになるのだぞ?」「母上の顔など何度潰れても構いません。」リチャードは縁談に対して頑なに拒絶し、エドワードはどうリチャードを説得しようかどうか迷っていた。「それならば、今度ヨーク藩と新選組で行う武芸大会が金戒光明寺で開かれる。そこでお前がもし彼らに勝ったら、お前の縁談を白紙に戻そう。どうだ、悪い話ではないだろう?」「武士に二言はありませんね、兄上?」「ああ。」その日からリチャードは、ますます武芸の稽古に励んだ。「兄上、あいつは本気ですよ?嘘だとわかったらどうなさるおつもりなのですか?」「それはそうなったら考える。新選組は元々江戸の片田舎の百姓達や町人達で作られた集団だという。相手が田舎侍とはいえ、れっきとした男だ。所詮男の腕力の前では女子が無力だということに、あいつが気付けばいいだけの話だ・・」「策士ですね、兄上。」ヨーク藩主催の武芸大会が金戒光明寺で行われ、そこでは藩士達が新選組隊士と実戦さながらの打ち合いをした。たかが田舎侍の集まりだと新選組を侮っていたエドワードだったが、彼は皆一流の剣の遣い手だった。中でも、沖田と斎藤の剣の腕は目を見張るものがあった。「土方、あの二人もお前達の部下か?」「ええ。あいつら・・総司と斎藤とは、江戸の道場仲間です。それよりもエドワード様、今日は一の姫様のお姿が見えませんが・・」「ああ、妹ならばこの後に出る。ほら、出て来たぞ。」エドワードが扇子で指示した先には、男袴を穿いて襷がけをした姿のリチャードが沖田と対峙している姿だった。「まさか、女が相手なんて、新選組一番隊組長である僕も舐められたものだね。」「女相手だからといって一切の手加減は無用だ。お前のような田舎侍など、俺の相手ではない。」「ふぅん、随分と言ってくれるじゃない。じゃぁ、容赦しないよ!」リチャードの挑発に乗った沖田は鋭い突きでリチャードを押したが、リチャードは難なくそれを躱し、沖田の面を打とうと見せかけ、彼の鳩尾を鋭い一撃を打ちこんだ。「勝負あり!」「兄上、約束通り、わたしの縁談話を白紙に戻してくださるのですよね?」「リチャード、それは・・」「兄上、武士に二言はありませんよ。俺が兄上に代わり、すぐさま母上に文をしたためましょう。」「そうしてくれ、ジョージ。」「有難うございます、兄上!」息を弾ませながらその場から去っていくリチャードの背を見た沖田は、初めて彼女がヨーク藩主の娘だと言う事を知り、驚愕の表情を浮かべながら土方を見た。「土方さん、どうして僕達にあの子がヨーク藩の姫様だと言う事を黙っていたんですか?」「お前達に自分の素性を明かしたら、妙な気遣いをされるから嫌だと、本人が直接俺に言ってきたんだ。」「まぁ、性別と身分が違えば、あの子とは背中合わせで戦えるかもしれないなぁ。」屯所へと帰る道すがら、沖田はそう言うと溜息を吐いた。藩邸へと戻ったリチャードは、汗を井戸の水で流していた。濡れた艶やかな黒髪の隙間から、リチャードの首にある梵字のような痣が、月明かりに照らされた。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「有難う、助かったよ。」金髪の優男はそう言うと、澄んだ蒼い瞳でリチャードを見つめた。「お前、見た所何処かの坊ちゃんのようだが、供を連れずに一人でこんな人気のない通りを歩いていたらどうぞ襲ってくださいと言うようなものだ。」リチャードが呆れた顔で金髪の優男を見ると、彼は蒼い瞳を潤ませながらこう言った。「だって、この近くに美味しいぜんざいのお店があるって聞いたから、探している内に道に迷っちゃって・・」「あいつらに捕まったという訳か。」碁盤の目の様に整っている京の道は、幾つも裏道などがあり、国元から上洛してきた諸藩の藩士達が度々迷子になってしまう事が多かった。二人の兄達と共に上洛してきたリチャードは、京で迷子にならぬよう、京見物をする前に全ての道を把握していた。「お前が行きたかったそのぜんざいの店は何処にあるんだ?」「確かこの近くだったと思うんだけれど・・鍵善良房というお店なんだ。」「その店なら知っている、案内するから俺について来い。」「いいの?」リチャードは金髪の優男を連れて鍵善へ行くと、彼は店員に嬉しそうな顔をしてぜんざいを注文した。「このお店でぜんざいが食べられるのが冬だけで、夏は黒蜜入りのくずきりが美味しいんだ!」「そうか。」「ねぇ君、名前は?僕はヘンリー、君に危ない所を助けて貰ったからお礼がしたいんだ!」「俺はリチャードだ。俺はお前に礼をされるような事はしていない、当然の事をしたまでだ。」リチャードがそう言って金髪の優男・ヘンリーにそっぽを向くと、丁度そこへ二人前のぜんざいがやって来た。「頂きます!」ヘンリーは熱いぜんざいを冷ますことをせず、そのままレンゲを持って口へと運んだので、その熱さに彼は思わず悲鳴を上げてしまった。「大丈夫か?」「ごめん、こんなに熱いなんて知らなかった・・」「口に垂れてるぞ。」リチャードはヘンリーの口端に垂れたぜんざいの食べかすを懐紙で拭うと、彼は恥ずかしそうに俯いた。(何だかこいつと居ると調子が狂うな・・)「お前、家族は?」「僕は父上を早くに亡くして、母上は僕が15の時に死んだから、僕を心配する人は誰も居ないんだ。」そう言ったヘンリーの横顔は、何処か寂しそうに見えた。(俺と同じだ・・)「なぁ、お前がもしよければだが・・もう一度ここで会えないか?」つい、リチャードはそんな言葉が口から突いて出てしまった。「僕と、友達になってくれるの?」「まぁ、そういう事だ。」「有難う、友達になってくれって僕に言って来たのは、君が初めてだよ!」その後、ヘンリーとまた会う約束をしてリチャードは彼と店の前で別れた。(何であんな事を言ったんだ俺は!またあいつに会える保証何てないのに!)そんな事を考えながらリチャードが歩いていると、彼女は人相が悪い男と擦れ違いざまに肩がぶつかってしまった。「おい姉ちゃん、人にぶつかっておいて謝りもせぇへんのかい?」「済まない、周りを見ていなかった。」「それが人に謝る態度か、あぁ!?」リチャードの態度に激昂した男が、彼女の胸倉を掴もうとした時、浅葱色の羽織がリチャードの視線の端に映ったかと思うと、一人の黒髪の美丈夫が、彼女と男との間に割って入った。「てめぇ、天下の往来で女に手ぇだすたぁ感心しねぇなぁ。何処の組の者だ?」「ふん、壬生狼め、早う京から去ね!」男はそう言って黒髪の美丈夫を睨みつけると、そのまま雑踏の中へと消えていった。「嬢ちゃん、怪我はないか?」「助けて貰って礼を言う。」「家はどこだ?送ってやろうか?」「結構だ。」リチャードはそう言って黒髪の美丈夫の申し出を断ったが、結局彼に藩邸まで送って貰う事になった。「そういや、あんたの名前をまだ聞いていなかったな・・俺は新選組副長・土方歳三。」「俺は・・」「姫様、こぢらにいらしていたのですか~!」リチャードが男に自分の名を名乗ろうとした時、彼女の背後に乳母の濁声が響いた。「さぁ姫様、早く中に入ってくなんしょ、これ以上外に居ると凍えちまう!」「待て、“姫様”だと?」リチャードが男の方を見ると、彼は紫紺の瞳を驚きで大きく見開きながら自分の顔を見つめていた。「こんお方は、ヨーク藩主・リチャード様の一ノ姫様、リチャード様だ、控えなんしょ!」「ここまで送ってくれてありがとう、土方。」乳母に半ば強引に邸の中へと入れられそうになったリチャードは、そう土方に礼を言った。「まぁ若、今までどちらに行っちょったとですか?」「ごめん、ちょっと美味しいぜんざいの店に行こうとしたら道に迷っちゃって・・でも、友達に連れて行って貰ったからちゃんと美味しいぜんざいを食べられたよ。」「そんな問題じゃありません!若の身に何かあったらお家の一大事ですよ!」長い金髪を揺らしながらヘンリーが藩邸の中へと入ると、彼の元へそう言いながら蒼褪めた爺やと乳母が駆けつけて来た。「今度出掛ける時はわしらにひと言声を掛けてからにしてくださいませ。若が中々お戻りにならんで、わしゃぁ心の臓が止まりそうになりました。」「わかったよ、心配を掛けてごめんね。」「して若様、そのお友達の名前は何というので?」「リチャード、リチャードっていうんだ。」ヨーク藩主の娘・リチャードと、ランカスター藩の若き藩主・ヘンリー。互いに二人は敵同士である事を知らず、こうして運命の出会いを果たしたのだった―にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。1853(嘉永6)年1月。その日は、何年振りかの大雪に見舞われ、ヨーク藩の城下町は雪で白く染まっていた。「リチャード、お前もこっちに来いよ!」「いいです。わたしは・・」「何遠慮してるんだ、雪合戦は楽しいぞ!」長兄・エドワードと、次兄・ジョージはそう言うと、嫌がるリチャードの腕を無理矢理引っ張り、雪合戦に参戦した。はじめは兄達に遠慮していたリチャードだったが、やがて彼らと雪玉を投げ合う内に笑顔を浮かべるようになった。「何をしているの!」「母上、リチャードと一緒に雪合戦をしているだけですよ。そんなに怒らなくても・・」「リチャードが病弱なのは知っているでしょう?」リチャード達の母・セシリーはそう言うと、リチャードの頬を容赦なく叩いた。「お前が兄達を誑かしたのね、この化け物!」「母上、お願いですからリチャードを苛めないでやってください。」咄嗟にリチャードをエドワードが庇ったが、リチャードは泣きながら森の中へと駆け出していった。“化け物!”―物心ついた頃から、リチャードはセシリーにそう罵られて育った。母親への愛に飢えていた彼は、彼女から言葉の暴力を受ける度に、その小さな心に傷を抱えながら生きて来た。(母上は、わたしがお嫌いなんだ・・だからわたしの事を苛めるんだ・・)「どうしたの?こんな寒い森の中で震えて・・」頭上から突然声が聞こえたので、リチャードが顔を上げると、そこには雪の精と思しき銀髪金眼の女だが立っていた。女の頭部には、六つの角がついていた。「貴方はだぁれ?」「わたしは貴方の味方よ。貴方の名前を教えて?」「リチャード。」「リチャード・・美しい名ね。リチャード、また会いましょう。」そう言うと女はリチャードを優しく抱き締めると、何処かへと消えていった。その後リチャードはエドワード達に森に一人で居るところを見つかり、翌日熱を出して数日間寝込んだ後、リチャードの頭の中からはあの女の事は綺麗さっぱりなくなってしまった。 10年後―1864(元治元)年1月、京。泣き虫で臆病だったリチャードは、美しく成長した。「兄上、お呼びですか?」「おお、来たかリチャード。今度新しい着物を誂えようと思ってな。どうだ、似合うだろう?」「はい。とてもよくお似合いです、兄上。」緋色の地に龍の刺繍が施されている布を見たリチャードは、華やかな兄に良く似合うと思った。「お前もいつも黒ずくめの格好などやめて、少しは着飾れ。」エドワードはそう言うと、白地に黒い蝶と薄紅色の小花を散らせた振袖をリチャードに羽織らせた。「お戯れを、兄上。」「何を言う、お前はこの世の誰よりも美しい。母上に気兼ねする事などないのだぞ。」「兄上・・」リチャードが二人の兄達と共に上洛してから早一年が過ぎようとしていた。セシリーが居る国元から遠く離れ、リチャードは武芸の稽古を欠かさずにし、それに加えて華道や茶道、裁縫などの女子の嗜みも毎日こなしていた。艶やかな黒髪に半ば隠されたその美しい華の顔を一目拝みたいと、リチャードの元には山ほど恋文が届いたが、リチャードはそれらを全て燃やした。(俺は、普通のものなど望めない。俺は化け物なのだから。)幼き頃にセシリーから掛けられた呪いが、未だにリチャードの心を責め苛んでいた。結局完全に乗り気になった女中達に着付けをされ、髪を結われてしまったリチャードは、鏡の前に映った己の姿に絶句した。何処からどう見ても、今の自分の姿は高貴な武家娘か、大店の令嬢にしか見えない。「まだ京見物をしていなかったな、リチャード?俺達に遠慮せずに行ってこい。」「はい・・」長兄の言葉に甘えたリチャードは、供を連れずに京見物をした。白い雪に染まる京の街は何処か幻想的で美しかった。リチャードが真紅の傘を差しながら橋を渡っていると、向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。「さっさと金出しな。そうすれば痛い目に遭わねぇよ。」「やめてください・・」リチャードが人気のない路地裏へと向かうと、そこには恰幅がいい二人の男達が、金髪の優男から金を集ろうとしていた。「男が二人掛かりで弱い者苛めか、情けない。お前達の腰に差しているのは竹光か?」リチャードが口元に嘲笑を閃かせながら男達の前に出てそう言うと、彼らは憤怒で赤くした顔を彼女に向けた。「女は引っ込んでろ!」「待てよ、こいつはぁ上玉だ。痛めつけるよりも、俺達で楽しもうぜ?」男達は下卑た笑いを浮かべながら、じりじりとリチャードとの距離を縮めていった。「俺に気安く触るな、下衆が。」リチャードはそう言って男達の足元を素早く払うと、彼らの喉元に懐剣を突きつけた。「命が惜しくば、去れ。」「畜生!」男達が去った後、リチャードは路上に蹲っている優男に向かって手を差し伸べた。「大丈夫か?」―靡く漆黒の髪の美しさに、僕は目を奪われた。そして僕は、彼女と目が逢った瞬間、彼女と恋に落ちてしまったのだ―にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あ・・」 ヘンリーはそう言いながら、じっとリチャードの白い裸身を見た。「きゃぁっ!」突然ヘンリーが現れ、唖然としていたリチャードだったが、慌てて傍にあった衣で身体を覆い隠した。「ごめん、まさか君が水浴びをしているなんて思わなかったから・・」「あの、暫くあちらの方を向いて頂けませんか?」「わかったよ・・」 ヘンリーがそう言って自分に背を向けた後、リチャードは濡れている髪をそのままにして手早く衣を着て、泉から立ち去った。「主上、天女は見つけられましたか?」「うん・・とても綺麗だったよ。ねぇバッキンガム、もう帰ろう。僕、疲れちゃったよ。」「主上、せっかくここまで来たというのに、何をおっしゃるのです。少し水浴びをした後で戻りましょう。」「・・わかったよ。」 ヘンリーはそう言うと、乳兄弟のバッキンガムに従って彼と共に泉で水浴びをした。 濡れた髪と身体を十分に乾かさぬまま衣を着てしまったリチャードは、その日の夜案の定風邪をひいてしまった。「リチャード様も慌てん坊ですね。まだ髪が乾かない内に泉から出て行かれるなど・・一体何があったのですか?」「ゆっくりと泉で水浴びをしようとしたら、人が来てな・・」「これから薬湯をお持ちいたしますので、ゆっくり休んでくださいませ。」 リチャードの式神・芹はそう言って嘆息して局から出ると、衣擦れの音を立てながら廊下を歩き始めた。 リチャードが時折咳込みながら御帳台の中で寝返りを打っていると、廊下の方から微かな足音が聞えて来た。 芹だろうかと思い、リチャードが微かに顔を上げて廊下の方を見ると、そこには芹ではなく帝の乳兄弟(ちきょうだい)であるバッキンガムの姿があった。「・・ほぅ、先程泉で水浴びをしていた天女は、貴女だったのか。」「・・何の用でございますか、バッキンガム様。」「新しくこの藤壺女御様の女房となられた高貴な女人の顔を是非とも拝見したくて、貴女の女房に代わって薬湯を届けに参った次第です。」 妙にかしこまった口調でそうリチャードに話すバッキンガムは、ゆっくりとリチャードの傍に腰を下ろした。「薬湯を口移しで飲まして差し上げましょう。」「いいえ、結構です。後宮は女人禁制です。人に見つかる前に早くここから立ち去ってはいかが?」「ふふ、貴女がそうおっしゃると思いましたから、先程人払いを命じておきました。ここに居るのはわたしと貴女の二人だけ・・」 バッキンガムはそう言って薬湯を口に含むと、間髪入れずにリチャードの唇を塞いだ。「何をなさいます!」「貴女の唇は柔らかいですね・・まるで天女のようだ。」そう言いながらバッキンガムは、リチャードの衣の中へと手を滑り込ませ、彼女の乳房を軽く揉んだ。「天女との交合は、まるで天にも昇るかのような快感を得られると、ある書物に記されておりました。是非ともそれを天女の貴女と試したいものですね。」「やめて、誰か・・」「人払いを命じたと、先程言ったでしょう?」 バッキンガムはそう言って欲望で金眼を爛々と輝かせながら、リチャードの衣を脱がせた。 その時、さっと二人の前に白い影のようなものが横切ったかと思うと、それはバッキンガムにのしかかり、リチャードの乳房を揉んでいる彼の手に噛みついた。「玻璃(はり)・・」「イテテ、一体何なのですか、この狼は?」 バッキンガムがそう言いながら自分の手を噛んだ白い狼の方を見ると、狼は彼に向かって唸っていた。「わたしが飼っている狼です。これ以上わたしに触れると、この子が貴方の喉仏を食いちぎってしまうかもしれませんよ?」 狼に邪魔されたバッキンガムは、軽く舌打ちしながら局から出て行った。にほんブログ村
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 宴の後、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)・マーガレットは、ヘンリーが何処か上の空である事に気づいた。「主上、どうなされました?何処かお身体の具合が芳しくないのですか?」「藤壺女御様付の女房・・先程の雪見の宴で舞っていた黒髪の・・」「まぁ、そんなにその娘がお気に召したのですね・・」マーガレットはそう言って溜息を吐きながら、ヘンリーの心を虜にした藤壺女御(ふじつぼのにょうご)付の女房・凛の事を調べるよう、自分付の女房に命じた。 一方藤壺では、滅多に後宮にお渡りになられない帝が今夜お渡りになられるという事で、帝をお出迎えする為の準備に慌ただしく追われていた。「ねぇ、何故主上は後宮嫌いになられたのかしら?」「さぁ、詳しい事は知らないけれど、前の帝が早くにお亡くなりになられて、主上の母上が男好きで、色んな男達を誑かしては袖にしていたとか・・」「まぁ・・」「何でも、雷壺の女御様とは犬猿の仲だったと・・あら、喋り過ぎたわね。」そうリチャードに話した女房は、そそくさと向こうへと行ってしまった。(初耳だな、主上の母上と雷壺の女御様とは接点があったとは・・) 今回の騒動の原因は、もっと根が深いところにある―そう思いながら渡殿を歩いていたリチャードは、数人の男達の存在に気づかず、その中の先頭を歩いていた一人の男とぶつかってしまった。「大丈夫、怪我はない?」「わたくしの方こそ、失礼いたしました。」 リチャードがそう言ってぶつかった男に謝罪しようとした時、その男が帝その人である事に気づき、リチャードは慌てて顔を檜扇で隠した。「君は、確か宴で舞っていた子だね?」「はい・・」「君の名前を聞かせて!」「わ、わたくしはこれで失礼いたします!」「待って!」 ヘンリーは慌ててリチャードを追いかけようとしたが、衣擦れの音を立てながらリチャードは局の中へと入り、几帳の陰に隠れた。(危なかった、もう少しで顔を見られるところだった・・) まさかヘンリーが自分に興味を持っている事などつゆ知らず、リチャードは後宮での潜入生活を続けていた。 その潜入生活を始めてから半月が経ち、都はうだるような暑さに連日襲われた。「暑い・・」 御簾越しでありながらも、夏の陽光に容赦なく照らされ、リチャードはその白い肌にうっすらと汗を滲ませていた。 腰下まである髪は先日櫛で梳ったものの、余りの暑さに耐えきれず、リチャードは重ねて着ていた衣を被って顔を隠し、藤壺から出て雷壺の近くにある人気のない泉へと向かった。 衣を脱ぎ捨て裸となったリチャードが泉の中に入ると、ひんやりとした水の感触が爪先に伝わり、思わずリチャードは悲鳴を上げた。 リチャードが肌に纏わりついている汗を水で洗い流していると、遠くから数人分の足音が泉の方へと近づいてきた。「なぁ、ここか?天女が水浴びしたとかいう伝説の泉は?」「ここみたいだよ。」 叢を隔てて聞こえるその声に、リチャードは聞き覚えがあった。(どうして帝が、こんな所に・・) 慌てて泉から上がって衣を着ようとしたリチャードだったが、その前にリチャードはヘンリーに見つかってしまった。にほんブログ村
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「リチャード様、わたしです。」 白銀の髪を靡かせたリチャードは、金色の双眸で己の従者を見つめた。 しかし、その後ケイツビーは強い衝撃を受け、地面に倒れた。ケイツビーが顔を上げると、そこには冷たい表情を浮かべて自分を見つめるリチャードの姿があった。 その額に、梵字のようなものが浮かんでいる事に、ケイツビーは気づいた。「下がれ、ケイツビー!」「お館様、危険です!リチャード様が・・」「リチャード、おいで。」ヨーク公がそう優しくリチャードに話しかけると、憎しみに滾っていたリチャードの金色の双眸が彼の姿を捉えた途端、髪の色が白銀から黒へと戻ってゆき、リチャードの額から梵字が消えていった。「お館様、これは一体・・」「お前にはまだ話していなかったな、リチャードの事を。」気絶したリチャードを抱きかかえたヨーク公は、藤壺へとケイツビーと共に誰にも見られぬように戻り、リチャードを御帳台の中へと寝かせた。「リチャードには、生まれつき見鬼の才がある事は、お前も知っているな?」「はい・・それと、さっきのリチャード様と何の関係があるのですか?」「あいつは昔、鬼に拐かされた事があるのだ。丁度、こんな雪が降る肌寒い季節だった・・」 ヨーク公はそう言葉を切ると、静かにリチャードが鬼に攫(さら)われた事をケイツビーに話し始めた。 その日、リチャードが管狐と遊んでいると、そこへ偶々セシリーが通りかかり、セシリーは幼い我が子に向かって鬼だと罵った上に、その小さな頬を張った。 頬を張られ、母から拒絶された痛みでリチャードは邸を飛び出し、闇の中へと逃げ出した。 道に迷い、リチャードが辿り着いたのは古い祠の前だった。「可哀想に・・わたくしと一緒に暮らしましょう?」そう言って自分に微笑んだ鬼の胸の中に、リチャードは飛び込んだのだった。 リチャードが見つかったのは、かつて隆盛を極めた貴族の邸の荒れ果てた中庭にある、池に浮かんだ小舟の中だった。リチャードが凍えぬよう、彼の小さな身体には綿入れの衣が掛けられてあった。「わたし達はリチャードを攫った鬼の姿を見たことはないが、その鬼はセシリーよりもあの子の身を案じていた。」「お館様、その鬼は一体何者なのですか?」「それはわたし達にも解らない・・だがリチャードは時折己の力を制御できずに暴走してしまった事が何度かあった。それは成長するにつれ少なくなってきたが・・どうやら雷壺の女御とリチャードとの間には、何か深い繋がりがあるのかもしれない。」「そうですか・・」 ケイツビーがリチャードの方を見ると、彼は安らかな寝息を立てて眠っていた。 雷壺で起きた鬼騒ぎは、翌日後宮中を揺るがす大騒動となった。「不吉だわ、また鬼が現れるのかしら?」「そんな・・ああ、恐ろしい・・」 後宮の女達が鬼の影に震えている中、その七日後に弘徽殿女御主催の雪見の宴が開かれ、色とりどりの美しい衣を纏った弘徽殿、麗景殿、桐壺、梅壺、雷壺から選ばれた五人の舞姫達が舞台上に現われた。「まぁ、美しい舞姫達だこと。主上もそうお思いになられるでしょう?」「うん、そうだね・・」 そう言った帝の蒼い瞳は、何も映していなかった。また彼は夢の世界にいるのだ―弘徽殿女御・マーガレットは自分の隣に座る夫の姿を苦々しい表情を浮かべながらそう思っていた時、一人の巫女装束を纏った舞姫が舞台上に現われた。 艶やかな黒髪に金色の挿頭を付けたその舞姫は、ゆっくりと右手に鈴、左手に扇を持ちながら雅楽の調べに乗って舞い始めた。「ねぇ、あの子は誰?」「藤壺に新しく入った女房ですわ、主上。確か彼女の名は、凛とか。」「凛・・」 マーガレットは、初めて夫の目に生気が宿っているのを見た。「女御様、いかがなさいましたか?」「藤壺に主上が今宵お渡りになると、藤壺女御に伝えなさい。」にほんブログ村
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「お前は誰だ?」 リチャードはそう言うと、その美しい鬼を見つめた。「俺は其方を知っている、我が妻よ。」美しい鬼はそっとリチャードの黒髪を優しく梳いた。「産まれた時から其方の事をずっと見て来た。」「もしかしてお前が、雷壺(かんなりつぼ)で鬼騒ぎを起こした鬼か!?」リチャードは美しい鬼を睨みつけ身構えると、鬼と自分とを隔てる結界を素早く張った。「お前は何故、人間どもを守ろうとするのだ、姫よ?」その鬼は、いとも容易くリチャードが作った結界を破った。「な・・」「其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか?」「俺は鬼などではない、俺は父上の子だ!」「其方は俺達の側の人間だ。気が変わったらこちらへ来い、その時は手厚くもてなしてやろう。」 鬼はリチャードに向かって優しく微笑むと、煙のように掻き消えた。「リチャード様!」「ケイツビー、お前どうしてここに・・」「アン様から文を頂いて、こちらに馳せ参じました。」そう言ったリチャードの従者・ケイツビーは、寒さで悴んで赤くなった主の足を見た。「陰湿な事をする輩は誰ですか?わたくしが懲らしめて差し上げましょう。」「気にするな。こんな嫌がらせ、母上から受けた仕打ちに比べるまでもない。」 リチャードはそう言って努めて平静な態度をケイツビーの前では崩さなかったが、御帳台の中にその身を横たえ、目を閉じると、あの鬼の言葉が甦って来た。―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。蛇のような冷たい目をした女が、其方の母親だと思うのか? 母・セシリーが幼い頃から自分を忌み嫌っている事に、リチャードは薄々気づいていた。 両親の容貌を濃く受け継いだ二人の兄達とは違い、リチャードだけが黒髪に黒と銀の瞳といった、異なる容姿を持って生まれた。 そしてその身体も、二人の兄達とは違った。セシリーは鬼であるリチャードをこの世に産み落としてしまったという罪の意識からか、リチャードを疎んじ、憎むようになった。 二人の兄達や父はリチャードを大事にしてくれたが、母から蔑ろにされ、傷ついたリチャードの心は彼らの愛情を以てしても癒される事はなかった。初潮を迎え、子供らしい身体つきから、女性らしい身体つきへと変わりつつあるリチャードの姿を疎んじ、セシリーは彼を別邸へと追いやった。「お前はこの家に災厄を齎(もたら)す!お前の姿を目にするのも疎ましい!」 鬼女の如き表情を浮かべながら自分を面罵したセシリーの顔は、未だに忘れることができなかった。―其方の母親は、お前に愛の代わりに憎悪を与えた。 セシリーが自分に対して話す時は、自分を面罵する時だけだった。自分を罵る言葉を美しい唇から吐き捨てる母の目は、蛇のような底なしに冷たいものだった。―其方は俺達の側の人間だ。 セシリーから疎んじられ、蔑ろにされて来たリチャードの孤独を癒したのは、目に見えぬ妖達だった。 妖達の多くは闇に生き、人に疎んじられて生きて来た者達だった。彼らの姿を幼い頃から見て来たリチャードは、いつしか彼らの友となっていた。 彼らはリチャードの事を、“ひめさま”と呼んでは慕ってくれた。自分は男だと言うのに、何故彼らが自分の事を姫と呼ぶのかが、リチャードには解らなかった。―それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。 藤壺女御が自分に話した、鬼と愛し合い、その鬼の子を身籠り、そしてその子の命と引き換えに死んだ雷壺に居たという女御。 その女御に、自分は瓜二つの顔をしているのだとしたら・・―目覚めよ、姫・・ 闇の中から、自分を誘う誰かの声が聞こえて来た。(違う、俺は鬼なんかじゃない・・俺は、父上の子だ・・)―目覚めよ・・ 汗に滲んだリチャードの額に、梵字のようなものが浮かんだ。―愛しい吾子よ、母の胸にいらっしゃい・・セシリーのものとは違う、優しい女人の声。その声に導かれるようにして、リチャードはフラフラとした足取りで雷壺へと向かった。 雷壺の中庭に植えられている桜の木にリチャードが触れた瞬間、天から轟くような雷鳴が鳴り響き、闇を明るく照らした。「さっきの雷は一体何だ?」「雅人様、大変です!あの稲妻をご覧ください!」 陰陽頭・土御門雅人が上空を見上げると、そこには白銀と紅色の稲光が闇の中で光っていた。「リチャード様?」 息を切らしながらケイツビーが雷壺へと向かうと、そこには白銀の髪を靡(なび)かせた主の姿があった。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「・・大変御無沙汰しております、義姉上。」 リチャードがそう慇懃無礼な口調で挨拶すると、エリザベスは口元に笑みを湛えたままリチャードの女装姿を見た。「その唐紅の衣、貴方の黒髪によく映えて似合っているわ。」「そうでしょう?わたくし達が選んだのですよ!」「まぁ、そうなの。アン、イザベル、二人とも遊びに来てくれたのね。」「ええ。それよりもエリザベス様は弘徽殿女御(こきでんのにょうご)様にお仕えしていらっしゃるのですって?わたくし達近々入内するので、宮仕えがどのようなものなのか知りませんの。」「後宮は華やかだけれど、女達の嫉妬や怨念、愛憎が渦巻く場でもあるわ。そういえば、鬼騒ぎが起きた雷壺では、前に女房が祟り殺されたという噂があるわね。」「祟り殺された?それは本当ですか、義姉上?」「さぁ・・わたしはその噂を人づてに聞いただけだけれど、前に雷壺には帝のご寵愛を受けながらも、鬼との子を産んだ女御が居たと・・でもその女御は産後の肥立ちが悪くてすぐに亡くなり、怒り狂った鬼は帝と朝家に恐ろしい呪詛を掛けたのですって。」 エリザベスの話を聞きながら、リチャードの脳裏に浮かんだのは、夢の中で己の名を呼んだあの女の姿だった。―姫よ・・我が一族の姫よ・・ 急に何処からか自分を呼ぶ声が聞こえて来て、リチャードは辺りを見回した。「どうかなさったの、叔父様?」「いや、何でもない・・」 そう言ったリチャードの姿を、遠くで金髪紅眼の鬼が見つめていた。「あれが、噂の鬼姫か・・美しい顔をしている。」 数日後、リチャードは後宮に入内するアンとイザベルと共に、“入内”した。 三人が仕えるのは、エリザベスが仕える弘徽殿女御と対立している藤壺女御だった。「顔をお上げなさいな。」 リチャードが姉妹に倣って顔を上げると、そこには天女の如き美しい女人が脇息に凭れかかりながら座っていた。「貴女、お名前は?」「凛と申します、女御様。」「珍しい色の瞳をしているわね。それに貴女、あの方に瓜二つの顔をしているわ。」「あの方?」「女御様、その事は・・」女御の言葉に反応した傍仕えの老女が突然鋭く声を張り上げ、女御を諫めた。「まぁごめんなさい、わたくしったらつい・・あぁそうだわ、七日後に弘徽殿女御が開く雪見の宴があるの。その宴は弘徽殿、麗景殿、桐壺と梅壺、雷壺からそれぞれ舞姫を選ばなければならないのだけれど、凛、貴女雪見の宴で舞いなさい。」「女御様、それは・・」「女御様直々のお願いですよ、有り難くお受けしなさい。」「恐悦至極にございます、女御様。有り難く雪見の宴で見事な舞を舞わせていただきます。」「これから舞の稽古に励んで、あの女の鼻を明かしておやりなさい。」藤壺女御はそう言ってリチャードに微笑むと、鈴を転がすような声で笑った。 かつて宮仕えをしていたかの中宮の女房が、自ら著した随筆に、“げにすさまじきものは宮仕え”という一文があったが、正にその言葉通りだとリチャードが思ったのは、入内初日の夜だった。 新入りの癖に藤壺女御から目を掛けられた事が気に入らない古参の女房たちによる新入りいじめと称した洗礼をリチャードは受け、彼女達からは自分の道具類や針箱を隠されたり、箏の弦を切られたりといった地味な嫌がらせをされた。(義姉上様が言っていた通りだったな・・女の嫉妬は恐ろしい。) リチャードは溜息を吐きながら、舞の稽古を終えて中庭から自分の局へと戻ろうとした時、藤壺へと繋がる扉が全て錠を掛けられて閉じられている事に気づいた。(くそっ、やられた!) リチャードは舌打ちしながら、閉ざされた扉に背を向けて中庭へと戻った。骨まで凍えるような寒さに晒され、リチャードは思わず両腕で己の身体を抱き締めた。 上に少し厚手の唐衣を纏っているとはいえ、冬の夜に戸外で一晩明かすのは厳しい。 リチャードは白い息を吐きながら、悴んだ手を擦り合わせた。その時、何処からか龍笛の澄んだ音色が聞こえて来た。(何だ?) リチャードが池の方へと目を向けると、そこには薄衣を頭に被った水干姿の少年の姿があった。 このような時間に、男子禁制の後宮で何故少年が居るのか―そう思いながらリチャードが少年を見つめていると、彼は血のような紅い瞳でリチャードの姿を捉えた。「漸く見つけたぞ、我が一族の姫・・そして我が妻よ。」 少年から瞬く間に大人の男へと姿を変えた鬼は、そう言うとリチャードの黒髪を一筋手に取り、それに優しく口づけた。「お前は何者だ?一体俺の何を知っている?」「その様子だと、お前は真の姿を知らないのだな・・」鬼は口端を歪めて笑うと、リチャードの顎を掴み上げ、その形の良い唇を塞いだ。「目覚めよ、古の世からこの国を統べてきた貴き方の血をひく美しき姫よ・・」にほんブログ村
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。草木も眠る丑三つ時、宮中の七殿五舎のひとつ、襲芳舎(雷壺)に仕える女房の一人は、何者かの気配を感じて目を開けると、そこには約六尺一寸(約185センチ)ほどの巨大な人影が蠢いていた。「ひぃ・・」恐怖の余り悲鳴すら上げられずにいる女房の上に覆い被さったその人影は、間髪入れずに彼女の頸動脈に食らいついた。「不味い・・不純な人間の血は糞そのものだ。」そう言って先程喰らいついた女の血を不味そうに口から地面に吐き出すと、口元を袖口で乱暴に拭い、鮮やかな金色の髪を揺らしながら漆黒の闇の中へと消えた。―姫よ・・我が一族の姫よ・・ 何処からか、誰かが自分を呼ぶ声がする。―古の世から日の本を統べてきた貴きお方の血をひく者よ・・目覚めよ・・(俺を呼ぶのは誰だ?) 闇の中から馬の嘶きと、雷鳴のように轟く蹄の音が聞こえた。 そして女達の悲鳴と、男達の怒号が聞こえる中、紅蓮の炎が建物を呑み込み、その中で自分に向かって手を伸ばす女が、自分の名をか細い声で呼んでいた。(俺は、この女を知っている。) 女へと向かってリチャードが手を伸ばそうとした時、リチャードは目を覚ました。(何だったんだ、あの夢は?) リチャードがそう思いながら顔を洗っていると、そこへケイツビーが部屋に入って来た。「リチャード様、お館様がお呼びです。」「父上が?」「はい。」「わかった、直ぐに行く。」 身支度を終えたリチャードが父の居る母屋の寝殿へと向かうと、そこには両親と二人の兄達の他に、見知らぬ男の姿があった。「リチャード、こちらの方は陰陽頭の土御門雅人殿だ。そなたの陰陽寮入寮について丁度話し合っていたところだ。雅人殿、こちらがわたしの末息子のリチャードだ。」「初めまして雅人様、リチャードと申します。」「君の事はお父上から聞いているよ。何でも、天賦の才を持っているとか。」「いいえ、そのような事はありません。」「最近陰陽寮は人手不足でね。是非君のような優秀で即戦力となれる人材を探している所だったんだ。リチャード、これから宜しく頼む。」「こちらこそ、宜しくお願い致します、雅人様。」 こうして、リチャードは晴れて正式に陰陽寮に入寮することになった。 陰陽寮に入寮したリチャードは、たちまちその美しさと天賦の才能が注目され、周囲から一目置かれた存在となった。―あれが、ヨーク家の・・―何だか女みたいな顔をしているな、本当に男か? 艶やかな黒髪で隠れた左の銀の瞳の美しさと、整ったリチャードの顔立ち、そして武芸や舞で鍛えたしなやかでありながら何処か婀娜っぽさを感じさせる華奢な身体は、その手の者達の注目も集めた。 衆道―所謂男色は、女色を禁じられている僧侶や呪術師達、そしてそれを嗜みとする公卿や武士達にとっては珍しくもなかった。 だがリチャードは出仕する度に自分宛に送られてくる恋文の多さに少しうんざりしていた。「どれもこれも、反吐が出るようなものばかりだ。男から恋文を貰って俺が嬉しいと思うのか?」 リチャードはそう言って溜息を吐きながら、自分宛の恋文をまた一通、焚き火の中へと投げ入れた。「リチャード、父上が呼んでいるぞ。」「父上が?」「あぁ、最近後宮で鬼騒ぎが起きているらしい。何でもその鬼は夜な夜な、女のここを喰らって血肉を啜るんだと。」 次兄・ジョージはそう言うと、自分の首を指した。「お呼びでしょうか、父上?」「ジョージから話は聞いているな?最近、後宮で鬼騒ぎが起きており、狙われているのはお前と同じ年位の若い女房だという。」「そうですか・・」リチャードは父の話を聞きながら、何だか嫌な予感がした。「そこでだリチャード、雅人様直々の指令で、お前には後宮に潜入して貰う。」「俺が、後宮にですか?父上、後宮は確か男子禁制の筈では?」「そうだ。お前は何も心配せず、この者達に任せておけばいい。」そう言って父は、部屋にエドワードの娘・ベスと、ウォリックの娘達、アンとイザベラを招き入れた。「リチャード様、お肌がきめ細かくてスベスベでいらっしゃるわ!」「御髪も艶やかでお美しいわ・・」 ベス、アンとイザベラのネヴィル姉妹に髪や肌をいじられ、色とりどりの衣を着せられた後、リチャードは漸く拷問のような身支度を終えた。「おお、これは何とも美しい。何処をどう見ても女人にしか見えぬぞ!」「ええ、兄上!」「父上、俺は本当にこの姿で後宮に潜入するのですか?」「そうだ。心配するな、後宮にはベスとアン達も一緒だ。ベス、リチャードの事を宜しく頼むぞ。」「はい、お祖父様!」「まぁ、何やら楽しいお話をされているようね。是非ともわたくしにもお聞かせ願いたいものですわ、お義父様。」 そう言って衣擦れの音を立てながら寝殿に入って来たのは、長兄・エドワードの北の方である、エリザベスだった。「あら、どちらの美しい姫君様かと思ったら、リチャード様ではないの。」エリザベスはリチャードの女装を見ると、口端を歪めて笑った。にほんブログ村
2020年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 サワサワと草木が揺れる音が闇の中で聞こえて来た。 リチャードはゆっくりと夢の世界から抜け出し、母屋から時折聞こえる管弦の音に耳を澄ませた。 そこでは今頃、プランタジネット家の当主であるヨーク公とその妻である北の方・セシリーと、リチャードの二人の兄達、エドワードとジョージが親族達と友人達を囲んで楽しく酒を酌み交わしている頃だろう。だが、その宴にリチャードは出席をすることは愚か、その存在すらセシリーに許されていないのだった。 それは、リチャードが金髪碧眼の両親や兄達とは異なる容姿を持ち、両性具有として生まれたからだ。 その上、リチャードは妖や鬼など、“人ならざるもの”が見える力を持っていた。 セシリーはそんなリチャードを憎み、リチャードの存在を世間から隠した。 しかし、そんな妻とは対照的に、父のヨーク公はリチャードを若君として育て、二人の上の息子達同様楽器や和歌、漢詩の手習いや武芸の稽古などをつけさせた。 二人の兄達よりも楽器や和歌、武芸の腕に秀でたリチャードは、いつしかその華奢な容姿と女の様に整った顔立ち、そして目の色が違う左右の瞳ゆえに、“月読の君”と呼ばれるようになった。 リチャードは生まれ持った見鬼の才を活かす為、元服をした後陰陽寮に入ることになっていた。 だが、その計画はセシリーによって潰された。「お前に宮仕えなど無理よ。お前は男としてではなく、これからは女として生きなさい。」「母上、わたしは・・」「お前のような鬼の子は、光の下で生きてはならないの。わたくしの言う通りに為さい!」 セシリーから一方的に女として生きるよう言われたリチャードだったが、リチャードは大人しく彼女に従わなかった。 父であるヨーク公は、リチャードの意思を尊重しリチャードの陰陽寮入りを後押しした。「お前は己の生きたい道を行きなさい。お前は誰よりも素晴らしい才能を持っている。」「はい、父上。」 元服を迎え、成人したリチャードは両親と兄達が暮らす母屋に隣接する別邸で暮らすことになった。 母屋に居ればセシリーから顔を合わせる度に嫌味を言われることになるし、母親に憎まれながら生活するのはリチャードにとって耐えられない事だった。 使用人が沢山居る母屋とは違い、別邸には使用人の数が少なく、その上皆リチャードを怖がって近寄ろうとしなかったので、リチャードは己の身の回りの世話などを式神達に任せ、それ以外はいつも独りで漢詩や和歌を詠んだり、楽器を奏でたりと自由きままな生活を送っていた。「リチャード様、お呼びでしょうか?」「ケイツビー、最近都で起きている鬼騒ぎをこれから調べるぞ。」「今からでございますか?危険です、リチャード様!」「鬼騒ぎが起きるのはいつも満月の夜だ。俺のような闇の眷属が居れば、同胞達が寄って来るだろうよ。」「リチャード様・・」自嘲めいた言葉と共に口元を歪めて笑った主の姿が、何処か悲しそうにケイツビーは見えた。 普段は纏わない女の旅装である壺装束を纏い、その上から顔を隠す為被衣を被ったリチャードは、何処をどう見ても夜道に迷って彷徨う貴族の姫君にしか見えなかった。 満月の夜ごとに、鬼は貴族の姫君を襲い、その血肉を喰らい尽くす―市井の人々の噂の真偽を陰陽師として確かめたいリチャードは、敢えて己が囮となり、その身を危険に晒したのであった。 ヒタリ、ヒタリと、何処からともなく自分の後を追う足音が微かに聞こえ、リチャードは隠し持っていた太刀の鞘を抜き、路地裏に回り込んで敵を待ち伏せた。 やがて月の光が異形の影を照らし出し、その血のような両眼がリチャードの姿を捉えた時、その首はリチャードによって刎ねられていた。「鬼切りの太刀というのは本当だったな。まぁ使い方次第によっては最強の武器になる。」「リチャード様、ご無事ですか?」「ああ。鬼は始末したし、邸に戻るぞ。」 血に濡れた被衣を乱暴に脱ぎ捨てたリチャードがケイツビーを従わせて夜道を歩いていると、そこへ一人の男が現れた。 月の光を全て集めたかのような、輝く金色の髪に、澄み切った湖面のような美しい蒼い瞳を持った男と、リチャードは目が合った。「君は、誰?」「お前こそ、何者だ?このような場所で何をしている?」「人を、探しているんだ。」「人を?」「昔、ここで会ったんだ・・黒髪の、左右の目の色が違う、可愛い子に・・」 そう言って、男は急に気を失った。「おい、しっかりしろ!」リチャードは慌てて男を抱き留めたが、自分よりも体格差のある彼の身体を支える事が出来なかった。 慌ててケイツビーが男の身体を支え、地面へと尻餅をついたリチャードを助け起こした。「お怪我はありませんか、リチャード様?」「ああ。それよりもこいつを邸まで運ぶぞ。」「はい。」 別邸へと戻ったリチャードは、全身についた魔物の血と泥を洗い流す為、湯浴みをした。 胸を覆う晒しを取り、白い薄衣だけを纏ったリチャードの身体には、女の象徴である乳房と、男の象徴である陰茎があった。 男としての機能も、女としての機能もあるリチャードは、どちらの性別でもない己の身体を呪っていた。“お前のような鬼の子は、光の下で生きてはならないの。” 時折脳裏に甦る、呪詛の言葉。(俺は太陽の光など望まない、月の光だけで充分だ。) 温かい湯の中に浸かると、リチャードは静かに目を閉じた。にほんブログ村
2020年07月18日
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ハンサムな遊び人にして裕福な伯爵家の次男・マキシムと、事情を抱えながらアルバニアからやって来たアレシア。上巻ではマキシムのプレイボーイ振りに少しうんざりしてしまいましたが、上巻の終盤から下巻のラストまではマキシムがアレシアを救おうとする奮闘ぶりに思わず応援してしまい、ハッピーエンドを迎えてほっと本を閉じた後胸を撫でおろしました。マキシムは次男だから、本来は伯爵家の財産や爵位、領地を継げない身分なのですが、兄が事故死した為、急遽爵位を継ぐ事になり・・アレシアとの結婚はこれから前途多難そうですが、二人が幸せになれるよう願っています。
2020年07月18日
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司法を舞台に、人間の業と欲を描いた作品で、その中で第二話の「罪を押す」が印象的でした。
2020年07月18日
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立川談志師匠との出会い、弟子になった怒涛の日々を綴った自伝的小説。談志さんの、最後の言葉にぐっときました。
2020年07月18日
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シリーズものですが、一話完結がたなのでこの話だけでも楽しめます。新選組とタイムトラベラーの香里達が送る穏やかな日々のシーンを読んでいると、彼らの最後を思うと切なくなりました。
2020年07月18日
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前シリーズ未読なので話の流れがわからないのですが、京と吉原でこれから大きな動きがありそうな気がしますね。
2020年07月18日
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ブルックリンの空き家に不法居住している四人の若者たちの物語。 何だかそれぞれ生きづらさを抱える彼らにエールを送りたくなりました。
2020年07月18日
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※BGMと共にお楽しみください。土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。「土方様、この度は兄を助けて頂き、ありがとうございました。」「礼なんて要らねぇ。それよりもあいり、お前これからどうするんだ?」「うちは宿に戻ります。」「そうか。夜道を女子一人で歩かせる訳にはいかねぇから、宿まで送ってやるよ。」」「おおきに。」 歳三があいりを宿まで送っている頃、桂は真紀を診察した町医者から信じられない言葉を聞かされた。「それは、確かなのですか?」「はい。まだ母体の状態が不安定なので、くれぐれも無理をさせないようにしてください。」「わかりました・・」 町医者が去った後、桂は真紀が寝ている部屋へと向かった。「真紀、起きているか?」「はい・・」 真紀は少し疲れた様子で布団からゆっくりと起き上がった。「俺は、どこか悪いのですか?」「真紀、落ち着いて聞いてくれ・・」 桂が真紀に妊娠を告げると、彼は突然涙を流した。「どうした、真紀?」「本当に、俺が・・」 真紀はそう言うと、そっとまだ膨らんでいない下腹に触れた。 「産むか、産まないかはお前が決める事だ。」「わかりました・・暫く時間を下さい。」「・・そうか。わたしは、出来る事なら産んで欲しい。」桂はそう言うと、真紀を抱き締めた。「俺に、“女”になれとおっしゃるのですか、桂さん?」「そうではない・・」「では、俺はこの子を諦めても良いのですね?」「真紀・・」「今まで俺があの廓の中でどんな思いで暮らしていたのか、わからないでしょう。あの時、俺が廓に火をつけていなかったら・・」「真紀、落ち着け。」「俺は、廓でただ死を待つだけの女を沢山この目で見てきました。俺は、彼女達のようにはなりたくありません!」「わかった。真紀、落ち着いてくれ。お前は少し疲れているんだ。」桂がそう言って真紀を抱き締めると、彼は小刻みに震えた。「今はゆっくりと休むと良い・・」「はい・・」 真紀の震えが治まった後、桂はそっと彼を布団に寝かせた。「桂さん、おるかえ!?」「大きな声を出さないでくれ。真紀が隣の部屋で寝ているんだ。」「ほうかえ。じゃぁ、ちぃと何処かで一杯飲みながら話そうかのぅ。」「・・そうだな。」 「ま、真紀が妊娠!?それは、本当かえ!?」「わたしが今まで君に嘘を吐いた事があるかい?」「まっこと、めでたい事ぜよ!赤飯を炊かないかんのう!」「そんなに手放しで喜ぶ事が出来るのならいいのだが・・」桂はそう言うと、猪口から酒を一口飲んだ。「真紀は、わたしと出会う前に廓で暮らしていた。廓での暮らしは酷かったらしい・・真紀は左利きで三味線の撥を左手で持っていたというだけで、女将に左腕に火箸を押し当てられたんだ。」「惨いのぅ・・」「真紀は、廓に火をつけて逃げ出した。そうする事でしか生きる事が出来なかったんだ。」「ほうか・・」「真紀の母親は、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。母親の愛と温もりを知らない真紀はこれからどうするのかがわからないんだろうな・・」「何じゃぁ、わしにはとんとわからんが、母親ちゅうもんは、すぐになれるもんじゃないぜよ。まぁ、わしらには一生わからん事じゃき、桂さんは真紀の事を見守ってやればええがじゃ。」「・・君と話せて良かったよ。」桂はそう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。「送って下さって、おおきに。」「いや、俺も少し歩きたかっただけだ。それじゃぁ、俺はもう行くぜ。」「お気をつけて。」 宿の前であいりと別れた歳三は、朝日に包まれながら屯所への道を歩いた。数歩歩いたところで、彼は背後から殺気を感じて振り向くと、そこには誰も居なかった。(気の所為か・・) 歳三は安堵の溜息を吐いた後、再び歩き出そうとしたが、その時彼の前に一人の男が立ちはだかった。 「・・やっと見つけたぞ、土方歳三。」「誰だ、てめぇ。」 総髪姿の男は、今にも漲らんばかりの殺気を真紅の瞳に宿らせながら、次の言葉を継いだ。「お前は・・あの方を、“先生”を裏切ったのだ!今まであの方から受けてきた恩を、お前は全て仇で返したのだ!」「話がわからねぇ・・俺は“先生”を裏切ってなんかいねぇ・・」「問答無用!」 総髪姿の男はそう叫ぶと、歳三に斬りかかって来た。 男の殺気を感じたところで兼定の鯉口へと手を伸ばしていた歳三は素早く抜刀し、男の攻撃を受け止めた。「てめぇは何者だ?」「今から死ぬ奴になど、名乗りは不要!」(こいつ、強ぇ・・) 歳三は男と刃を交わしながら、はじめて死への恐怖を感じた。「貰ったぁ!」にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「ありゃ、どうしたんだい?」衣擦れの音を立てながら髭切が菊の部屋に入ると、そこには見知らぬ男に今にも殴りかかろうとしている弟の姿があった。「髭切、いいところに来てくれたわ!」菊はそう言うと、髭切の手を掴んで彼を石山の前に押し出した。「貴方が、髭切太夫ですか?」「そうだけど、僕に何か用?」「騙されてはならんぞ兄者!こいつはその面妖な機械で兄者の命を奪おうとしているのだ!」「誤解です、わたしはこのカメラで髭切太夫の姿を撮りたいだけなのです!」「嘘を吐け!」「ふぅん、何だか面白そうだね。」髭切はそう言うと、石山が大事そうに抱えているカメラを見た。「これで、人の姿が撮れるのかい?」「はい。少々お時間が掛かりますが、魂を抜かれることはありませんので、ご安心ください。」「そうだ、折角だからお前も一緒に撮ろうよ、肘丸。」「俺は膝丸だ、兄者!」膝丸は自分の名を憶えてくれない髭切に対して少し苛立ちながら、彼と共に写真撮影をすることになった。「暫く動かないでください。」髭切の部屋で彼と共に写真撮影に臨んだ膝丸は、石山が箱型のカメラを自分達に向けていることに気づき、思わず顔が緊張で強張ってしまった。「大丈夫だよ、僕がついているから。」「兄者・・」「はい、撮りますよ~!」石山がシャッターを押したとき、そこに写っていたものは泣き顔の膝丸とそれを宥める髭切太夫の姿だった。「兄者、これを渡しに来た。」「おお、綺麗だね。これを僕にくれるのかい?」「兄者の髪に似合うと思って買ったのだ。気に入ってくれてよかった。」膝丸から紅い櫛を贈られ、髭切は鏡台の前で早速それを髪に挿してみた。「どう、似合う?」「ああ、似合うぞ兄者!」「有難う、大切にするよ。それよりも今日はここに泊まっていくのかい?」「いいのか?兄者に迷惑が掛かるのではないか?」「そんな事ないよ。それに、兄弟で遠慮し合うこともないだろう?」「兄者~!」髭切の言葉に感動した膝丸は、彼の胸に顔を埋めて泣くと、そのまま眠ってしまった。「あら、今日は弟が来てたのかい。」次郎太夫が酒瓶を片手に髭切の部屋に入ると、彼の膝の上に膝丸が頭を預けて眠っていた。「遊びに来ていたのだけれど、いつの間にか眠ってしまってねぇ。本当に僕の弟は可愛いねぇ。」「その櫛、似合っているじゃないか。誰から貰ったんだい?」「弟からさ。この子はこの世で一番大事な存在なんだ。名前は良く忘れてしまうけれどね。」「そうかい、そうかい。さてと、あたしは自分の部屋で飲み直してくるかねぇ!」次郎太夫がそう言いながら髭切の部屋から出て行こうとした時、一瞬次郎太夫は髭切と目が合った。「次郎姐さん、この子は僕のものだから、あげないよ?」「わかっているさ、そんな事!」「そう・・ならいいけど。」そう言った髭切の瞳が、真紅に染まるのを次郎太夫は見た。「それじゃぁ、お休み~!」にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。道場の帰り、膝丸は一軒の小間物屋の前で何度も行ったり来たりしていた。「お客様、うちに何か用どすか?」 店主からそう声を掛けられ、膝丸は紅い漆塗りの美しい櫛を指した。「この櫛は幾らだ?」「この櫛なら、二両します。」「頂こう。」 膝丸は懐から財布を取り出し、櫛の代金を払うと店主からそれを受け取って店から出て行った。(兄者の髪にきっと映えることだろう。)膝丸は買ったばかりの櫛を握り締めながら、その櫛を髪に挿している髭切の姿を思い浮かべた。「膝丸、こんな所でどうしたんだ?」急に背後から肩を叩かれ、膝丸は慌てて懐に櫛をしまった。彼が振り向くと、そこには道場仲間の氷室が立っていた。「別に。お前こそ、俺に何か用か?」「いや、さっき島原の方に変な機械を持った奴がうろついていたから、それをお前に知らせようと思って。」「変な機械だと?そいつはどんな奴だ?」「羽織袴姿の奴だ。」「有難う。」氷室に礼を言った膝丸は、島原へと向かった。 同じ頃、鈴振楼に“変な機械”を持った羽織袴姿の男・石山がやって来た。「はぁ、ふぉとがら?聞いたことがないようなものどすなぁ。」「正式にはフォトグラフィーといって、このカメラで皆さんを撮影するだけです。」「こんな面妖な機械でうちらを撮るやなんて・・噂では魂が抜かれてしまうって聞いてますけど・・」「そんな噂は全くの出鱈目(でたらめ)です。」石山はそう言って菊に向かって微笑むと、菊は笑顔を浮かべて石山を中へと招き入れた。「髭切太夫はこちらにいらっしゃいますか?」「髭切なら自分の部屋におりますが、何やあの子にご用どすか?」「今を時めく島原の太夫を是非このカメラで撮りたいと思いましてね。」「わかりました。あの子を呼んで来ますさかい、うちの部屋で暫くお待ちください。」 菊が石山を自分の部屋へと通し、髭切の部屋へと向かおうとした時、表の方が何やら騒がしい事に気づいた。「兄者、兄者はおらんか~!」「まぁお武家様、こんな日の高いうちから何のご用どすか?」菊がそう言って廓の中に入って来た若者に笑みを浮かべると、彼はこの廓に変な機械を持った男が入って来なかったかと聞いて来た。「ああ、そのお方ならうちの部屋にいらっしゃいますよ。何や、髭切を撮りたいとか言うて・・」「何だと!その男、やはり兄者の命を狙って・・」「お武家様?」「女将、部屋へ案内しろ。」膝丸の尋常ではない様子に気づいた菊は、自分の部屋へと彼を案内するしかなかった。「女将さん、髭切太夫はまだ・・」「兄者の命を狙う不届き者め、ここで俺が成敗してくれる!」 膝丸は勢いよく部屋の襖を開け放ち、恐怖と驚きで腰を抜かした石山に向かって飛び掛かった。「何かの誤解です、わたしは何も・・」「その面妖な機械で、兄者の命を奪うつもりだろう!?」「お武家様、落ち着いてくださいませ!」 菊が慌てて石山に殴りかかろうとしている膝丸を止めようとした時、廊下からサラサラという衣擦れの音が聞こえてきた。にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「ご、ごめん。あたしったら、変な事を言っちゃったね。」「次郎姐さんは悪くないよ。ちょっと嫌な事を思い出しちゃって、つい声を荒げてしまったんだ。」 そう言った髭切の瞳は、真紅から金へと戻っていた。「それにしてもあんたも良く働くよねぇ。昨夜だって幾つかお座敷を掛け持ちして、その後は大黒屋様のお座敷に行ったんだろう?身体が幾つあっても足りないんじゃないかい?」「まぁね。昨夜は長年生き別れて来た弟がやって来て、色々と忙しかったし。」「へぇ、あんたに弟が居るなんて話、初耳だよ。あたしにも、少し年が離れた兄貴が居るんだよ。兄貴の名前が太郎で、あたしが次郎。まぁ呼びやすいし覚えやすいよね。」 次郎太夫はそう言うと、髭切の髪を梳き終わった。「そうかぁ。弟の名前をいつも忘れてしまうのだけれど、あの子は僕にとって大切な弟には変わりはないんだ。幼い頃に別れたきりだから、久しぶりに会えたのが嬉しくて・・」「これからはいつでも会えるじゃないの。髭切太夫の話を聞いたら、あたしも兄貴に会いたくなったなぁ。」次郎太夫はそう言うと、鬱陶しげに髪を掻き上げた。 今日も、島原に夜が訪れた。「髭切太夫や。」「天女のような美しさや。」「なぁ、知ってるか?太夫は武家の生まれらしいけど、家の為にここへ売られて来たんやて。」 左右に禿を従わせ、太夫道中をする髭切太夫の耳に、自然と見物人達の声が聞こえて来た。やはり噂というものは広まるのが早い―髭切はそう思いながら、フッと笑った。「姐さん?」右側に立っていた禿が怪訝そうな顔で髭切を見つめたので、彼は何でもないと言って再び歩き続けた。 今を時めく髭切太夫の華やかな太夫道中を、小烏は恨めしそうな目で物陰から見ていた。髭切と同じ容姿を持ちながらも、彼からその存在を否定され、拒絶された自分。『僕に弟は一人だけだ。お前なんか、僕の弟じゃない!』あの時髭切から放たれた冷たい拒絶の言葉と視線を、未だに小烏は憶えている。髭切に死よりも辛い思いを味あわせてやりたいという復讐心がいつしか小烏の中で芽生え始めたのは、彼から拒絶された頃からだった。 そして、髭切が島原の太夫として生きている事を知り、少しでも彼に近づこうと、小烏は祇園で舞妓となった。髭切と似た舞妓が祇園に居る、という噂は、小烏の目論み通り、この島原界隈でも流れている。後は、彼が自分の存在に気づけばいいだけだ。その時が、彼に―髭切に復讐できる機会だ。(焦ることはない、少しずつ進めていこう。) 小烏は華やかな太夫道中から背を向け、元来た道を戻った。「小烏、遅かったやないの。」「すいまへん、姐さん。」 小烏は姉芸妓にそう言って微笑むと、降り出した雪の中を彼女と共に歩き出した。にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 膝丸が道場へと向かうと、彼と島原へ行った仲間達が駆け寄って来た。「膝丸、聞いたぞ。お前髭切太夫と閨を共にしたんだってな!」「ど、何処からそのような話が出たんだ!?」「今更とぼけたって無駄だぜ?奥の座敷で髭切太夫にしがみついて離れなかったんだってな?」「あ、あれは・・」「後で話、聞かせろよ。」 完全に仲間達に誤解されたまま、膝丸はその日の稽古を終えて帰宅した。道場から出ようとした時、土砂降りの雨が降っていることに気づいた膝丸は舌打ちしながら雨の中を走り出した。「そこの方、どうぞ。」目の前に突き出された紅い傘に戸惑いながら、膝丸はその傘を差し出した町娘の顔を見た。彼女は、今朝助けた町娘だった。「まさか、こんな所で再会するとはな。」「家が近くにありますので・・わたくしの方も、貴方と再び会えるなんて思ってもみませんでした。」 雨宿りの為に近くの甘味処に入った膝丸は、兄に似た町娘・小烏(こがらす)と団子を食べながら再会したことを彼女と互いに喜び合った。「家が近くにあると言ったが、何処にあるのだ?」「祇園です。わたくしは“鈴屋”という屋形に籍を置いている舞妓なのです。」「舞妓か・・そうか。京言葉を話さない舞妓は珍しいな?」「生まれが江戸なので、余り上手く話せないのです。あの、わたくしの顔がそんなに珍しいですか?」 じっと自分を見つめる膝丸に気づいた小烏がそう彼に尋ねると、彼は突然破願してこう言った。「済まん、俺には君によく似た兄者が居てな。君の顔を見て、兄者を思い出してしまったのだ。」「お兄様、ですか?」「ああ。幼い頃離れ離れになっていたが、今は島原で太夫として暮らしている。昨夜兄者と会ったが、元気そうで良かった。」「そう・・なのですか。」膝丸から彼の兄の話を聞いた小烏の胸が、チクリと嫉妬で痛んだ。「今日は会えて良かった。傘を有難う。」「いいえ、ではお気をつけてお帰り下さいませ。」紅い傘を差した膝丸の姿が徐々に小さくなってゆくのを、小烏は涙を堪えながら見ていた。「雨、か・・鬱陶しくて嫌だな。」「天下の髭切太夫がそんな顔をすることもあるんだねぇ。何か嫌な思い出でもあるのかい?」「まぁね・・」 自分の髪を櫛で梳いている次郎太夫の方を見た髭切は、そう言って笑った。「そういえば、あんたによく似た舞妓が居るって噂を最近聞いたことがあるね。」「僕とよく似た舞妓?」「何でも、名前を小烏っていうんだってさ。可愛い娘に烏なんて、酷い名前をつける親が居るものだね。」次郎太夫がそう言って髭切の方を見ると、彼は険しい表情を浮かべて何かを呟いていた。 その横顔は、いつも飄々としていて何処か儚げな太夫としての顔ではなく、嫉妬に狂う鬼の顔だった。「髭切、どうしたの?」「あ、ごめん。ちょっと、昔の事を思い出しちゃってね。」 そう言った髭切の瞳が、真紅に染まっている事に次郎太夫は気づいた。にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 朝を迎え、布団から出た膝丸は軽く身支度を済ませると、布団の中で寝ている兄を起こさぬようそっと部屋から出た。「お武家様、もうお帰りですか?」 膝丸が廊下を歩いていると背後から急に声を掛けられ、彼が振り向くと、そこには髭切付きの禿(かむろ)が立っていた。「ああ、兄者を起こしたくないのでこれで失礼する。」「お気をつけてお帰り下さい。」 膝丸が禿に背を向けて廓から出ると、彼女はパタパタと足音を立てながら髭切の元へと向かった。 朝を迎えた島原は、夜とは違い人気がなく静まり返っていた。 冬の寒さに少し身を震わせながら、膝丸は髭切の事を想いながら帰宅した。「義父上、義母上、只今戻りました。」膝丸が自宅の中に入ると、奥から女中が何やら慌てふためいた様子でやって来た。「どうした、何かあったのか?」「膝丸様、大変です!奥様が・・」 女中から義母が喀血した事を知り、膝丸が義母の部屋へと向かうと、襖の向こうから彼女が苦しそうに咳込む声が聞こえた。「義母上、おかげんは・・」「開けてはなりませんよ!」 義母の様子を見ようと膝丸が襖を開けようとした時、中から義母の鋭い声が聞こえて来た。「膝丸、わたくしの事には構わないで!」「ですが・・」「母の言う事が聞けぬのですか!」「申し訳ありませんでした、義母上。では俺はこれで失礼いたします。」震える声で義母にそう言った膝丸はそのまま彼女の部屋の前から辞すと、道場へと向かった。その途中、膝丸は柄の悪い男達に絡まれている町娘を見かけた。「貴様ら、何をしている。」「くそ、逃げろ!」膝丸に睨みつけられた男達は、町娘から手を離して蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。「大丈夫か?」「へぇ、おおきに。」膝丸は町娘の顔を見て驚いた。彼女は、髭切と瓜二つの顔をしていたのである。「そなた、名を何と申す?」「小烏(こがらす)と申します。助けて頂いておおきに。」 髭切に似た町娘は、そう言って膝丸に礼をするとそのまま何処かへ消えてしまった。(あの娘、兄者に似ていた・・他人の空似とはよく言ったものだな。)にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 荒い呼吸を何度か繰り返し、己の内側で猛り狂う激しい負の感情を必死で抑え込んだ髭切は、俯いていた顔を上げて自室へと戻った。 髭切が襖を開けると、布団には膝丸が幼子のように安らかな寝息を立てながら眠っていた。(僕が居ない間、お前はどんな思いで生きて来たんだろう?) 座敷で自分と再会した時の弟の喜びようを想像すると、彼は自分の事を必死で探していたに違いない。自分が廓に居ると知った時、膝丸はどんな顔をして大門をくぐったのだろうかと想像するだけでも、髭切の頬は自然と弛んでしまった。「兄者?」暫く髭切が膝丸の手を握りながら彼の寝顔を眺めていると、膝丸は低く呻いた後、ゆっくりと糖蜜色の瞳を開いて髭切を見た。「ここは何処だ?」「僕の部屋だよ。あの後、お前は泣き疲れて眠ってしまったから、座敷からここまで運ぶのに苦労したよ。」「済まなかった兄者、座敷での事といい、俺は兄者に迷惑を掛けてばかりだ!」「いいんだよ、弟を甘やかすのは兄である僕の特権なんだから。」髭切はクスクス笑いながら膝丸の頭を撫でた。「兄者が廓に売られた事は知っていたが、まさか島原で会えるとは思わなかった。」「僕も、こんな場所でお前と再会できるなんて思わなかったよ。真面目なお前がこんな所に一人で好んで来る訳がないし、仲間を連れてやって来たのもうなずけるよ。」「兄者、俺が居ない間、兄者はここで何をしていたんだ?」「話せば長くなるよ。それよりも僕ももう疲れたから一緒に寝よう。」「あ、兄者と俺が一緒に寝るなど、そんな恐れ多いことが出来るか!」「遠慮しなくてもいいじゃない、久しぶりに会えたんだから一緒に寝よう、膝丸。」「兄者・・」一緒に寝ようという兄の言葉に最初は戸惑っていた膝丸だったが、隣に兄が居る安心感からか、再び彼は安らかな寝息を立てながら眠り始めた。 時折自分の髪を梳く弟の手を握りながら、髭切はこの廓に初めて来た日の事を思い出していた。 女衒に手を引かれ、島原の大門をくぐり、裏口からこの廓の中に入った髭切を待ち受けていたものは、怒りと屈辱の日々だった。 菊は金髪金眼の髭切を一目見た瞬間から気に入り、舞や音曲などを彼に直に教え込んだ。家は傾いたが、名家の御曹司として幼い頃から礼儀作法などを両親から叩き込まれながら育った髭切は、女将のしごきに耐え、次第に廓での生活に慣れていった。 しかし、客に抱かれる事だけは未だに慣れない。 それは髭切に苦痛しか与えなかった。 膝丸を起こさぬようそっと寝床から脱け出し、髭切は鏡台の前に座った。 引き出しから一振りの懐剣を取り出すと、その鞘を抜いた。白銀の刀身が姿を現し、それが月光に照らされて鈍色に光った。まだこの懐剣であの女を殺すべきではない。あの女が苦しむ姿を見た後で、とどめを刺してやる―そう思いながら、髭切は鈍色に光る刀身を鞘に収めた。「兄者?」「ごめんね、起こしちゃったね。」髭切は弟に笑みを浮かべると、彼の隣に滑り込んだ。「お休み、弟よ。」「お休み、兄者。」 一組の布団の中で、髭切と膝丸は互いの手を握り合って眠った。(可愛い僕の弟・・これからはずっと一緒だよ。)にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「ありゃ、眠ってしまったねぇ。」 髭切はそう言って、自分の膝の上に頭を預けている弟を見た。 長い間生き別れていた兄と再会を果たし、涙を流したまま自分にしがみついて離れようとしなかった弟は、どうやら泣き疲れてしまい、そのまま眠ってしまったらしい。「世話の焼ける弟を持って災難じゃの。」「そんな事ないよ、この子は僕の可愛い弟だからね。」すぅすぅと寝息を立てている弟の頭を撫でながら、髭切は大黒屋に向かって笑みを浮かべた。「小さい頃は泣き虫で、僕の姿が見えないと泣きじゃくりながら家中を捜しまわっていたよ。」「兄弟仲が良くていいのう。わしにも弟が居るが、おまん達のようには仲が良くない。」「まぁ、毎日同じ屋根の下で暮らしていると、色々と相手の悪い面を見てしまうものだから、些細な事を喧嘩するのは仕方がないでしょうね。僕達は小さい頃からいつも一緒でしたから、お互いの良い面も悪い面も知り尽くしていて、喧嘩なんてしなかったなぁ。」「そうか。それよりもお前は名家の出だと噂があるが、それは本当だったか。」「ええ。名家といっても、名ばかりのもので、今は傾いた家を僕が支えているようなものです。」 髭切の言葉に、大黒屋は何も言わずに猪口に注がれた酒を飲んだ。 廓に売られてくるのは大抵が百姓の娘だが、髭切のような武家出身の者も少なくはない。「そういえば、おまんがここへ来た時の事をまだ聞いていなかったな。」「昔の事は、余り思い出さないようにしているのですよ。」そう言った髭切の顔には、何処か哀愁が漂っていた。「う~、兄者・・」「はいはい、僕はここに居るよ。」 大黒屋に手伝って貰い、眠っている膝丸を自室へと運んだ髭切は、布団の中で寝返りを打っている弟の頭を再度撫でると、彼に微笑んだ。「太夫、女将さんが呼んでますえ。」「解った、すぐ行くよ。」 膝丸を起こさぬよう自室から出た髭切が女将の部屋へと向かうと、そこには煙管を咥えて不機嫌そうな様子で顔を顰めている女将・菊の姿があった。「女将さん、僕にご用とは何でしょうか?」「髭切、あんた最近客の相手をしてへんそうやな?」「ええ、少し体調が優れなくて・・」「大黒屋様から聞いたのやけれど、あんたの弟があんたの事を迎えに来たってなぁ?あんたが変な気を起こしてここから逃げようとか考えてへんやろうかと思うて、ここへ呼んだのや。」「そんな事、ある訳ないでしょう。僕は女将さんに、一生かけても返しきれない恩を頂いたのですから。」「そうか。もう帰っていいで。」 菊は髭切の言葉を聞いて安心したのか、髭切にそっぽを向いた。「では、失礼いたします。」 菊の部屋から出た髭切は、誰も居ない廊下を暫く歩いた後、拳で壁を殴った。「僕がいつまでもお前の言いなりになると思うなよ、鬼婆め。いつかお前を僕の手で屠(ほふ)ってやる。」 そう呟いた髭切の瞳は、血のような紅に染まっていた。にほんブログ村
2020年07月18日
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「薄桜鬼」「刀剣乱舞」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。(ここが、島原か・・) 道場の仲間達と島原へと繰り出した膝丸は、初めて足を踏み入れる島原の賑やかさに圧倒されていた。「おい、何を突っ立っているんだよ、膝丸!」「さっさと行こうぜ!」「ああ、わかった・・」暫く大門の前で呆けていた膝丸だったが、仲間達の声を聞いて我に返ると、髭切太夫が居る女郎屋「鈴振楼(すずふりろう)」へと向かった。「いらっしゃいませ。お腰の物を御預かり致します。」 膝丸達が鈴振楼の中へと入ると、奥から楼主と思しき白髪の男が彼らを出迎えた。「其方に聞きたいことがある。」「なんでございましょうか、お武家様?」「髭切太夫は何処に居る?」「ああ、髭切でしたら奥の座敷で大黒屋様の接待をしております。」「大黒屋だと?最近異国との貿易で儲けているという薩摩の商人か?」「へぇ、そうどす。お武家様は髭切と一体どのような関係で・・」「髭切の居る座敷へと案内しろ。」膝丸はそう言って男を睨みつけると、鈴振楼の楼主・弥助は恐怖に顔を引き攣らせながら膝丸を奥座敷へと案内した。「何だあいつ、おっかない顔をしていたな。」「ああ・・まるで鬼のようだったぞ。」 膝丸の全身から発せられる殺気に気づいた仲間達は、そんな事をひそひそと囁き合いながら慌てて彼の後を追った。「そこの廊下を曲がったら、奥座敷です。」「楼主、先程は済まなかった。これは礼として受け取ってくれ。」「おおきに。」弥助は膝丸から小判を受け取り、それを懐にしまうとそそくさと彼に背を向けて元来た道を戻っていった。(あそこに、兄者が・・) 膝丸が奥座敷の前に立つと、中から賑やかな笑い声が聞こえて来た。彼は深呼吸した後、勢いよく襖を開けた。「兄者、迎えに来たぞ!」 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に、大黒屋は不快感を露わにした顔を膝丸に向けた。「何じゃ、随分とうるさい奴が来たのう。」「貴様が大黒屋か。兄者は何処に居る?」「お前の兄なぞここには居らんわ、去ね!」「兄者と会うまでここを動かんぞ!」大黒屋と膝丸が睨み合っていると、廊下の方から衣擦れの音が聞こえた。「ありゃ、こっちだったか。」頭上から振って来た声を聞いた膝丸が背後を振り向くと、そこには黄金色の髪を簪や櫛で美しく飾り、華やかな衣を纏っている兄の姿があった。「兄者~!」膝丸が髭切に抱きつくと、彼はきょとんとした顔をしていた。「髭切、そん男はおまんの知り合いか?」「へぇ、これはうちの弟の・・」「膝丸だ、兄者!」涙で潤んだ瞳で膝丸が髭切を睨むと、髭切は口元を袖口で覆ってクスリと笑った。「久しぶりだね、膝丸。」「兄者ぁ~!」 長い間生き別れていた兄との再会を果たした膝丸は感極まって涙を流し、髭切にしがみついたまま離れようとしなかった。にほんブログ村
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